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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G03G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
管理番号 1066065
異議申立番号 異議2001-71438  
総通号数 35 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-11-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-05-14 
確定日 2002-10-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第3108847号「二成分系現像剤及び画像形成方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3108847号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3108847号に係る特許発明は、平成6年4月28日の出願であって、平成12年9月14日に設定登録がなされ、その後、藤井功也より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年11月26日に意見書を提出すると共に訂正請求がなされ、これに対して訂正拒絶理由通知がなされたところ、その指定期間内の平成14年7月8日に意見書と共に手続補正書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2.1 平成14年7月8日付の手続補正書の適否について
(1)補正の内容
特許権者は、訂正請求書の第5頁第12行、第6頁第15行、第8頁第4行、および訂正請求書に添付した訂正明細書の第1頁第16行、第2頁第19行、第7頁第3行に記載の訂正事項に係る式中の「|VPPMax/2|」を「|VPPMax|」と補正することを求めている。
(2)補正の適否の判断
前記式中の「|VPPMax/2|」は、特許請求の範囲に記載された画像域の最大電荷強度F(V/μm)を定義するために用いられているものであって、「|VPPMax/2|」と「|VPPMax|」とは明らかに異なる値を示すものである。そして、「|VPPMax/2|」を「|VPPMax|」と補正することは、前記画像域の最大電荷強度F(V/μm)を、「F=(|VPPMax/2|+|VDC-VL|)/G」から「F=(|VPPMax/2|-|VL|)/G」に訂正することを、「F=(|VPPMax|-|VL|)/G」に訂正することに変更するものとなり、これによって得られるFの値は異なるものとなることは明らかであるから、前記補正は訂正事項を変更するものである。
よって、前記補正は、訂正請求書の要旨の変更に該当するものであるから、特許法第131条第2項の規定により認めることはできない。

2.2 訂正事項
特許権者は、訂正請求書を提出し、特許明細書を添付した訂正明細書のとおり、即ち以下のとおり訂正することを求めている。
(1)訂正事項a
「 【請求項1】 静電荷潜像を有する潜像担持体と対向して設置された現像剤担持体表面に、二成分系現像剤を供給し、該現像剤を該現像剤担持体表面に担持し、該潜像担持体が有する静電荷潜像を、現像部において該現像剤で現像して顕画像を形成する際に、現像部で交流成分と直流成分を有している交互電界を形成し、
静電荷潜像の電位VL(V)、VL(V)と同極性の交互電界の直流成分VDC(V)、VDC(V)に対して静電荷潜像の電位VL(V)とは反対に位置する最大電界付与点の電位VPPMax(V),及び現像剤担持体表面と静電荷潜像担持体表面との最近接間隙G(μm)によって形成される画像域の最大電荷強度F(V/μm)が、
【数1】 1≦F≦10
ただし、F=(|VPPMax/2|+|VDC-VL|)/G
200≦G≦700
1000≦VPPMax≦3000
を満たし、交互電界の周波数ν(kHz)が、
3≦ν
である条件で静電荷潜像を現像する画像形成方法に用いる二成分系現像剤において、
(1)少なくとも着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、
(2)該トナーの重量平均粒径が3.5〜7.5μmであり、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%より多く含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下含有されており、
(3)摩擦帯電量の絶対値が15乃至50mC/kgである摩擦帯電特性を有し、艀トナーの重量平均粒径をA(μm)としたとき、交互電界の周波数ν(kHz)との積が
15≦A×ν≦50
を満たすことを特徴とする二成分系現像剤。
【請求項2】 静電荷潜像を有する潜像担持体と対向して設置された現像剤担持体表面に、二成分系現像剤を供給し、該現像剤を該現像剤担持体表面に担持し、該潜像担持体が有する静電荷潜像を、現像部において該現像剤で現像して顕画像を形成する際に、現像部で交流成分と直流成分を有している交互電界を形成し、静電荷潜像の電位VL(V)、VL(V)と同極性の交互電界の直流成分VDC(V)、VDC(V)に対して静電荷潜像の電位VL(V)とは反対に位置する最大電界付与点の電位VPPMax(V),及び現像剤担持体表面と静電荷潜像担持体表面との最近接間隙G(μm)によって形成される画像域の最大電荷強度F(V/μm)が、
【数2】 1≦F≦10
ただし、F=(|VPPMax/2|+|VDC-VL|)/G
200≦G≦700
1000≦VPPMax≦3000
を満たし、交互電界の周波数ν(kHz)が、
3≦ν
である条件で静電荷潜像を現像する画像形成方法において、
該二成分系現像剤が、
(1)少なくとも着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、
(2)該トナーの重量平均粒径が3.5〜7.5μmであり、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%より多く含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下含有されており、
(3)摩擦帯電量の絶対値が15乃至50mC/kgである摩擦帯電特性を有し、(4)トナーの重量平均粒径をA(μm)としたとき、交互電界の周波数ν(kHz)との積が
15≦A×ν≦50
を満たす二成分系現像剤であることを特徴とする画像形成方法。」

「 【請求項1】 静電荷潜像を有する潜像担持体と対向して設置された現像剤担持体表面に、二成分系現像剤を供給し、該現像剤を該現像剤担持体表面に担持し、該潜像担持体が有する静電荷潜像を、現像部において該現像剤で現像して顕画像を形成する際に、現像部で交流成分と直流成分を有している交互電界を形成し、
静電荷潜像の電位VL(V)、VL(V)と同極性の交互電界の直流成分VDC(V)、VDC(V)に対して静電荷潜像の電位VL(V)とは反対に位置する最大電界付与点の電位VPPMax(V),及び現像剤担持体表面と静電荷潜像担持体表面との最近接間隙G(μm)によって形成される画像域の最大電荷強度F(V/μm)が、
【数1】 2.1≦F≦5.4
ただし、F=(|VPPMax/2|-|VL|)/G
=(|VPP/2+VDC|-|VL|)/G
〔式中、VPPは、交互電界のピーク対ピーク値を示す〕
200≦G≦700
1000≦VPPMax≦3000
を満たし、交互電界の周波数ν(kHz)が、
3.2≦ν≦8.0
である条件で静電荷潜像を現像する画像形成方法に用いる二成分系現像剤において、
(1)少なくとも着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、
(2)該トナーの重量平均粒径が3.5〜7.5μmであり、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%より多く含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下含有されており、
(3)摩擦帯電量の絶対値が15乃至50mC/kgである摩擦帯電特性を有し、艀トナーの重量平均粒径をA(μm)としたとき、交互電界の周波数ν(kHz)との積が
15≦A×ν≦50
を満たすことを特徴とする二成分系現像剤。
【請求項2】 静電荷潜像を有する潜像担持体と対向して設置された現像剤担持体表面に、二成分系現像剤を供給し、該現像剤を該現像剤担持体表面に担持し、該潜像担持体が有する静電荷潜像を、現像部において該現像剤で現像して顕画像を形成する際に、現像部で交流成分と直流成分を有している交互電界を形成し、静電荷潜像の電位VL(V)、VL(V)と同極性の交互電界の直流成分VDC(V)、VDC(V)に対して静電荷潜像の電位VL(V)とは反対に位置する最大電界付与点の電位VPPMax(V),及び現像剤担持体表面と静電荷潜像担持体表面との最近接間隙G(μm)によって形成される画像域の最大電荷強度F(V/μm)が、
【数2】 2.1≦F≦5.4
ただし、F=(|VPPMax/2|+|VDC-VL|)/G
=(|VPP/2+VDC|-|VL|)/G
〔式中、VPPは、交互電界のピーク対ピーク値を示す〕
200≦G≦700
1000≦VPPMax≦3000
を満たし、交互電界の周波数ν(kHz)が、
3.2≦ν≦8.0
である条件で静電荷潜像を現像する画像形成方法において、
該二成分系現像剤が、
(1)少なくとも着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、
(2)該トナーの重量平均粒径が3.5〜7.5μmであり、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%より多く含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下含有されており、
(3)摩擦帯電量の絶対値が15乃至50mC/kgである摩擦帯電特性を有し、(4)トナーの重量平均粒径をA(μm)としたとき、交互電界の周波数ν(kHz)との積が
15≦A×ν≦50
を満たす二成分系現像剤であることを特徴とする画像形成方法。」
と訂正する。

(2)訂正事項b
特許明細書の段落【0019】の
「【数3】 1≦F≦10
ただし、F=(|VPPMax/2|+|VDC-VL|)/G
200≦G≦700
1000≦VPPMax≦3000
を満たし、交互電界の周波数ν(kHz)が、
3≦ν
である条件で静電荷潜像を現像する画像形成方法において、
該二成分系現像剤が、
(1)少なくとも着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、
(2)該トナーの重量平均粒径が3.5〜7.5μmであり、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%より多く含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下含有されており、
(3)摩擦帯電量の絶対値が15乃至50mC/kgである摩擦帯電特性を有し、(4)トナーの重量平均粒径をA(μm)としたとき、交互電界の周波数ν(kHz)との積が
15≦A×ν≦50
を満たすことを特徴とする二成分系現像剤に関する。」

「【数3】 2.1≦F≦5.4
ただし、F=(|VPPMax/2|-|VL|)/G
=(|VPP/2+VDC|-|VL|)/G
〔式中、VPPは、交互電界のピーク対ピーク値を示す〕
200≦G≦700
1000≦VPPMax≦3000
を満たし、交互電界の周波数ν(kHz)が、
3.2≦ν≦8.0
である条件で静電荷潜像を現像する画像形成方法において、
該二成分系現像剤が、
(1)少なくとも着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、
(2)該トナーの重量平均粒径が3.5〜7.5μmであり、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%より多く含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下含有されており、
(3)摩擦帯電量の絶対値が15乃至50mC/kgである摩擦帯電特性を有し、(4)トナーの重量平均粒径をA(μm)としたとき、交互電界の周波数ν(kHz)との積が
15≦A×ν≦50
を満たすことを特徴とする二成分系現像剤に関する。」
と訂正する。

(3)訂正事項c
特許明細書の段落【0065】に記載中の「周波数νを2.3kHz」の記載を「周波数νを3.2kHz」と訂正する。

2.3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aについて、
訂正事項aは、特許請求の範囲の記載中の(ア)「1≦F≦10」を「2.1≦F≦5.4」に訂正し、(イ)「3≦ν」を「3.2≦ν≦8.0」に訂正し、(ウ)「F=(|VPPMax/2|+|VDC-VL|)/G」を「F=(|VPPMax/2|-|VL|)/G=(|VPP/2+VDC|-|VL|)/G 〔式中、VPPは、交互電界のピーク対ピーク値を示す〕」と訂正しようとするものである。
そこで、まず、前記(ウ)の訂正について検討すると、
本件発明では、画像域の最大電荷強度F(V/μm)という概念を「F=(|VPPMax/2|+|VDC-VL|)/G」で定義したものであるが、この定義の技術的意味が明細書に説明されているわけではなく、その理論的な根拠は不明である。ところが、この定義によって、Fの値を求めることは可能であって、そのF値が1≦F≦10の範囲にある場合に良好な結果が得られることを実験的に求めたものとして、本件発明の構成を把握し、実施することに特段の支障を生じるものではない。
また、訂正明細書に記載のFの定義式「F=(|VPPMax/2|-|VL|)/G」についても、その理論的な根拠は不明であって、その技術的意義も不明である。
よって、前記(ウ)の訂正が明りょうでない記載の釈明に該当するとは言えない。
ところで、実施例に示されたF値と前記Fの定義式によって求めたF値とが相違するが、実施例の条件で前記定義式に基づいて求め直したF値についても本件発明の1≦F≦10の範囲を満たしており、前記Fの定義式が誤記であるいう根拠にはならない。
以上のことから、特許明細書に記載のFの定義式を、訂正明細書に記載のFの定義式に訂正する前記(ウ)の訂正は、明りょうでない記載の釈明に該当するものではなく、誤記の訂正に該当するとする根拠も認められず、また、特許請求の範囲の減縮に該当するものでもない。

次に、(ア)の訂正について検討すると、
「1≦F≦10」を「2.1≦F≦5.4」に訂正することは、表現上はFの数値範囲をより狭く限定するものであるから、一見特許請求の範囲の減縮に相当するものに見えるものの、訂正前の「1≦F≦10」におけるFを決定する定義式と訂正後の「2.1≦F≦5.4」におけるFを決定する定義式とが前記(ウ)のとおり異なるものとなっていることから、訂正前後のFの意味する内容が異なるため、前記(ア)の訂正が特許請求の範囲の減縮に相当するものということはできない。また、「1≦F≦10」の記載自体は明りょうであって、前記(ア)の訂正が誤記の訂正および明りょうでない記載の釈明に該当するものとも言えない。

したがって、前記訂正事項aの(ア)および(ウ)の訂正内容は、特許法第120条の4第2項の規定のいずれにも適合しないので、他の訂正内容については検討するまでもなく、前記(ア)および(ウ)の訂正内容を含む当該訂正請求は認められない。

3.特許異議の申立について
3.1 申立の理由の概要
申立人藤井功也は、本件特許発明に対して、証拠として甲第1号証(特開平5-61271号公報)、甲第2号証(特開平2-222966号公報)、甲第3号証(特開平6-11885号公報)、甲第4号証(特開平5-119592号公報)および甲第5号証(特開昭60-140361号公報)を提出し、概略以下のとおり主張している。
理由(1) 本件請求項1及び2に係る特許発明は、甲第1号証および甲第3号証に記載の発明に基づいて、または甲第2号証および甲第3号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、請求項1及び2に係る特許は同法第113条第2号により取り消されるべきものである。
理由(2) 本件特許明細書の記載は、請求項1および2に係る発明を容易に実施できる程度に記載されたものではなく、特許法第36条第4項および第6項に規定する要件を満たしていないから、請求項1及び2に係る特許は同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

3.2 本件発明
上述のとおり、訂正は認められないから、本件請求項1および2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、あわせて「本件発明」という。)は、特許明細書の請求項1および2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 静電荷潜像を有する潜像担持体と対向して設置された現像剤担持体表面に、二成分系現像剤を供給し、該現像剤を該現像剤担持体表面に担持し、該潜像担持体が有する静電荷潜像を、現像部において該現像剤で現像して顕画像を形成する際に、現像部で交流成分と直流成分を有している交互電界を形成し、
静電荷潜像の電位VL(V)、VL(V)と同極性の交互電界の直流成分VDC(V)、VDC(V)に対して静電荷潜像の電位VL(V)とは反対に位置する最大電界付与点の電位VPPMax(V),及び現像剤担持体表面と静電荷潜像担持体表面との最近接間隙G(μm)によって形成される画像域の最大電荷強度F(V/μm)が、
【数1】 1≦F≦10
ただし、F=(|VPPMax/2|+|VDC-VL|)/G
200≦G≦700
1000≦VPPMax≦3000
を満たし、交互電界の周波数ν(kHz)が、
3≦ν
である条件で静電荷潜像を現像する画像形成方法に用いる二成分系現像剤において、
(1)少なくとも着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、
(2)該トナーの重量平均粒径が3.5〜7.5μmであり、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%より多く含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下含有されており、
(3)摩擦帯電量の絶対値が15乃至50mC/kgである摩擦帯電特性を有し、艀トナーの重量平均粒径をA(μm)としたとき、交互電界の周波数ν(kHz)との積が
15≦A×ν≦50
を満たすことを特徴とする二成分系現像剤。
【請求項2】 静電荷潜像を有する潜像担持体と対向して設置された現像剤担持体表面に、二成分系現像剤を供給し、該現像剤を該現像剤担持体表面に担持し、該潜像担持体が有する静電荷潜像を、現像部において該現像剤で現像して顕画像を形成する際に、現像部で交流成分と直流成分を有している交互電界を形成し、静電荷潜像の電位VL(V)、VL(V)と同極性の交互電界の直流成分VDC(V)、VDC(V)に対して静電荷潜像の電位VL(V)とは反対に位置する最大電界付与点の電位VPPMax(V),及び現像剤担持体表面と静電荷潜像担持体表面との最近接間隙G(μm)によって形成される画像域の最大電荷強度F(V/μm)が、
【数2】 1≦F≦10
ただし、F=(|VPPMax/2|+|VDC-VL|)/G
200≦G≦700
1000≦VPPMax≦3000
を満たし、交互電界の周波数ν(kHz)が、
3≦ν
である条件で静電荷潜像を現像する画像形成方法において、
該二成分系現像剤が、
(1)少なくとも着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、
(2)該トナーの重量平均粒径が3.5〜7.5μmであり、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%より多く含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下含有されており、
(3)摩擦帯電量の絶対値が15乃至50mC/kgである摩擦帯電特性を有し、(4)トナーの重量平均粒径をA(μm)としたとき、交互電界の周波数ν(kHz)との積が
15≦A×ν≦50
を満たす二成分系現像剤であることを特徴とする画像形成方法。」

3.3 甲号各証の記載事項
申立人の提出した甲号各証には、それぞれ以下の事項が記載されている。

(1)甲第1号証:特開平5-61271号
第2頁第1欄第2〜17行(特許請求の範囲)、第2頁第2欄第21〜38行(発明が解決しようとする課題)、第3頁第4欄第9〜31行、第3頁第4欄第32〜45行、第3頁第4欄第50行〜第4頁第5欄第5行、第4頁第5欄第13〜23行、第4頁第5欄第24〜38行、第4頁第6欄第9〜18行、および図1〜4等が記載されており、
これらの記載から、甲第1号証には「静電潜像が表面に形成された静電潜像保持体1と対向して設置された現像剤担持体6表面に、二成分現像剤を供給し、該現像剤を該現像剤担持体6表面に担持し、該静電潜像保持体1が有する静電潜像を、現像装置2において該現像剤で現像して顕画像を形成する際に、現像剤担持体6には直流電源9および交流電源10から現像バイアス電圧として直流重畳交流電圧が印加されており、この印加電圧は直流成分を負電圧とし、静電潜像保持体1の明部帯電電圧である-200Vに対して現像電位コントラスト(直流成分電圧と静電潜像保持体の全面露光電位との差)が300V程度となるようにしている。また、前記印加電圧の交流成分は振幅値がピークツーピーク値で1.5KVであり、望ましい周波数が4000〜8000(Hz)である、現像方法」が記載されており、また、「このような現像方式に用いられる前記二成分系現像剤は、平均粒径が6〜8μmの小粒径のトナーとフェライトキャリアを含有するものであること、および静電潜像保持体1と現像剤担持体6との間隙は0.5mmに設定されていること」が記載されているものと認められる。

(2)甲第2号証:特開平2-222966号
第2頁左下欄第2行〜右下欄第13行(特許請求の範囲(8))、第12頁左下欄第9〜13行、および第2A図、第2B図等が記載されており、
これらの記載から、甲第2号証には「静電荷潜像を有する潜像担持体と対向して設置された現像剤担持部材表面に、着色樹脂粉末(トナー)、流動性向上剤及び磁性粒子を少なくとも含有する二成分系現像剤を供給し、該現像剤を該現像剤担持部材表面に担持し、該潜像担持体が有する静電荷潜像を、現像部において該現像剤で現像して顕画像を形成する画像形成方法において、該着色樹脂粉末(トナー)は、体積平均粒径4〜10μmを有し、体積分布において、16.0μm以上の粒子の含有率は1.0%以下であり、5.04μm以下の微粉が個数平均分布で35%以下であり、現像部で交流成分と直流成分を有している交互電界を形成し、静電荷潜像の電位VL(V)、VL(V)と同極性の交互電界の直流成分VDC(V)、VDC(V)に対して静電荷潜像の電位VL(V)とは反対に位置する最大電界付与点の電位VPPMax(V),及び現像剤担持部材表面と静電荷潜像担持体表面との最近接間隙G(μm)によって形成される画像域の最大電荷強度F(V/μm)が、1.5≦F≦3.5 ただし、F=(|VPPMax/2|+|VDC-VL|)/G を満たし、交互電界の周波数ν(KHz)は、0.8≦ν≦3.0であり、かつ、上記現像部において現像剤担持部材と静電像担持体の相対速度比が1.2≦σ≦2.5である条件で静電荷潜像を現像することを特徴とする画像形成方法」が記載されているものと認められる。

(3)甲第3号証:特開平6-11885号
第2頁第1欄第2〜14行(請求項1)、第4頁第5欄第1〜23行、第8頁第14欄第8〜20行、第8頁第14欄第32行〜第9頁第28行(表1)、第12頁第22欄第5行〜第13頁第28行(表3,4)、第13頁第23欄第32〜44行等が記載されており、
これらに記載から、甲第3号証には実施例1として「着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、該トナーのうち、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%以上である48.0%含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上である26.6%含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下である13.9%含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下である1.3%含有されており、摩擦帯電量の絶対値が-46μC/g(mC/kg)である摩擦帯電特性を有し、交流周波数2.2kHzの交流電界の印加の下での現像に用いられる二成分系現像剤」が記載されているものと認められる。また、実施例6にも同様の粒径分布を有し2.2kHzの交流電界の印加の下で現像に用いられる二成分現像剤が示されている。

(4)甲第4号証:特開平5-119592号
第2頁第2欄第9〜26行、第3頁第3欄第1〜13行、第3頁第3欄第37行〜第4欄第14行、および図6等が記載されている。
これらの記載から、小粒径(6〜11μm)トナーを含有する2成分現像剤を用い、現像部の現像剤担持体と感光体とのギャップがある領域において現像器に交流周波数を採用する際、粒径12μm以上の大トナー粒径では重量による慣性力が大きいため高周波電界での追従性が悪化するが、粒径6〜11μmの小粒径トナーを有する2成分現像剤の場合には、周波数3k〜16kHzでピーク間電圧1kV〜2.2kVの交流バイアス電圧を印加すると、画像濃度を高めるとともに、かぶりの発生しない粒状性の良い高品質の画像が得られる旨の技術的事項が記載されているものと認められる。

(5)甲第5号証:特開昭60-140361号
第1頁左下欄第5行〜右下欄第15行(特許請求の範囲)、第2頁右上欄第20行〜右下欄第2行、第2頁右下欄第7〜12行、第3頁左上欄第18行〜左下欄第18行、第6頁右下欄第9〜17行、第7頁左下欄第8行〜右下欄第11行等が記載されている。
これらの記載から、スリーブ(2)と、これに表面間隙が数10〜2000μmの範囲にあるように設定された像担持体(1)を用いた非接触現像において、印加するバイアス電圧として、かぶりの発生を防止するための、非画像部電位と略等しいかそれよりも高い50〜600Vの電圧の直流電圧と、磁気ブラシに振動を与えて現像効果を向上するための、100Hz〜10kHz、好ましくは1〜5kHzの周波数の交流電圧との重畳電圧を用いた現像方法は、地肌かぶり及び飛散がないような小粒径トナーを用いるのに適する旨の技術的事項が記載されているものと認められる。

(6)甲第6号証:特開平4-296766号
第2頁第1欄第1〜9行(特許請求の範囲)、第2頁第1欄第43行〜第2欄第12行、第2頁第2欄第42行〜第3頁第3欄第3行、第3頁第3欄第50行〜第4欄第10行、第3頁第4欄第11〜23行、第3頁第4欄第34〜50行等が記載されている。
これらの記載から、帯電後の表面電位(即ち反転現像における地肌部電位Vd)がマイナス800Vで、レーザビーム(L)照射による像露光領域の表面電位(像露光領域におけるVl)がマイナス100Vの感光体ドラム(1)に対向する現像スリーブ(14)に約マイナス600Vの現像バイアス電圧を印加して、Vl-Vd=500Vの電位差によってトナーを静電潜像に供給吸着させて現像を行う現像方法に、小粒径トナーを用いた場合の帯電制御剤の分散が不均一となり、トナーの帯電特性が不良となって、地汚れやトナー飛散を発生しやすくなり、また転写されにくいので、感光体上に残留する量が多く、これを現像装置によって回収すると、回収したトナーがキャリヤを覆ってしまうため新しいトナーを補給してもこのトナーがキャリヤの表面に直に接触することができなくなり、トナーが充分に帯電することができなくなり、地汚れ、トナー飛散を発生するという欠点を改善するため、体積平均粒径が1μmから10μmで、且つ体積平均粒径と個数平均粒径の比が、1.00以上、1.20以下で重合法によって製造されたトナーを用いる旨の技術的事項が記載されているものと認められる。

3.4 対比・判断
(1)特許法第29条違反について
ア.請求項1に係る発明について
申立人は、本件発明は甲第3号証に記載の現像剤を甲第1号証または甲第2号証に記載の画像形成方法に適用することによって当業者が容易に発明できたものである旨主張している。
そこで、まず、本件発明と甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明とをそれぞれ対比する。

(A)本件発明1と甲第1号証に記載のものとを対比すると、
本件発明1で用いられている現像剤は「(1)少なくとも着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、(2)該トナーの重量平均粒径が3.5〜7.5μmであり、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%より多く含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下含有されており、(3)摩擦帯電量の絶対値が15乃至50mC/kgである摩擦帯電特性を有し、艀トナーの重量平均粒径をA(μm)としたとき、交互電界の周波数ν(kHz)との積が 15≦A×ν≦50 を満たす二成分系現像剤」であるのに対し、甲第1号証のものは、平均粒径が6〜8μmの小粒径のトナーとフェライトキャリアを含有する二成分系現像剤であって、粒径の分布については明記されていない。
よって、甲第1号証には、本件発明1における二成分現像剤に相当するものは記載されていない。

(B)本件発明1と甲第2号証に記載のものとを対比すると、
それぞれで用いられている現像剤の構成が本件発明1では、「(1)少なくとも着色剤含有樹脂粒子と外添剤を含有するトナーを有し、(2)該トナーの重量平均粒径が3.5〜7.5μmであり、5.04μm以下の粒径を有するトナーが35個数%より多く含有され、4μm以下の粒径を有するトナーが15個数%以上含有され、8μm以上の粒径を有するトナーが30体積%以下含有され、10.08μm以上の粒径を有するトナーが6体積%以下含有されており、(3)摩擦帯電量の絶対値が15乃至50mC/kgである摩擦帯電特性を有し、艀トナーの重量平均粒径をA(μm)としたとき、交互電界の周波数ν(kHz)との積が 15≦A×ν≦50 を満たす二成分系現像剤」であるのに対し、甲第2号証のものは、着色樹脂粉末(トナー)は、体積平均粒径4〜10μmを有し、体積分布において、16.0μm以上の粒子の含有率は1.0%以下であり、5.04μm以下の微粉が個数平均分布で35%以下である二成分現像剤である。
よって、本件発明1の現像剤が5.04μm以下の粒径のトナー35個数%より多く含有しているのに対し、甲第2号証では、5.04μm以下の粒径のトナーの含有量が35個数%以下である点で、本件発明1の現像剤と甲第2号証の現像剤とは異なるものである。

(C) 本件発明1と甲第3号証に記載のものとを対比すると、
甲第3号証の実施例1または6に記載された二成分現像剤は含有されるトナーの重量平均粒径については明記されていないが、微小トナーの個数平均%および大粒径トナーの体積%については本件発明1のトナーと同様の分布を有するものと認められる。
ここで、実施例1または6に記載のトナーの重量平均粒径Aを、前記実施例1または6と類似の粒径分布を有すると思われる実施例4、5のトナーと同様の粒径分布を有するものと想定して、6.3μmまたは6.5μm程度のものとすると、実施例1または6共に現像バイアスの交流周波数νは2.2kHzであるから、A×νの値は13.8または14.3となって、本件発明1のトナーのA×νの値が15〜50であるものとは異なるものとなる。
ところで、画像がトナーの粒径分布と現像バイアスの直流成分電圧および交流周波数等の現像条件との相互の影響を受けることは甲第1号証、甲第4号証ないし甲第6号証にも記載されているように技術常識であるから、本件発明1はカブリのない、細線再現性の良い、画像濃度が高い等の良好な画像を得るために、トナーの粒径分布と現像バイアスの直流バイアス電圧および交流周波数等の現像条件との最適な組合せを求めたものとして把握できる。
してみると、前述の甲第3号証のものは交流周波数が2.2kHzで、本件発明1は3.0kHz以上の範囲でそれぞれ良好な結果が得られるものとして構成されているものであって、甲第3号証において本件発明1の交流周波数3.0kHz以上の範囲での使用を示唆する記載もない。それ故、両者は異なる現像条件にそれぞれ対応するように構成された異なる現像剤として把握される。

以上のことから、甲第1号証ないし甲第3号証のいずれにも本件請求項1に記載された構成を有する現像剤は示されていない。
そして、本件発明1は前記構成の現像剤と請求項1に記載の現像条件およびその他の構成と相俟って、明細書記載の効果を奏するものである。
それ故、本件発明1が甲第1号証ないし甲第3号証から容易に発明できたものと認めることはできない。

イ.請求項2に係る発明について
請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)は、請求項1に記載の現像剤と請求項1に記載の現像条件とを用いた画像形成方法に係るものであるから、実質的には請求項1と同じ技術内容を表現を違えたものに相当する。
よって、本件発明2についても、請求項1に係る発明について述べたと同様の理由によって、甲第1号証ないし甲第3号証から容易に発明できたものと認めることはできない。

(2)特許法第36条違反について
ア.申立人の主張
申立人は、特許明細書は、記載不備があり、本件発明を容易に実施できる程度に記載されたものではない旨主張しており、記載不備の理由として以下の点を挙げている。
(イ)|VDC-VL|は、その技術的妥当性、必然性は全く示されてなく、かつ非現実的なものである。
(ロ)|VPPMax/2|は、その妥当性、必然性は具体的には全く示されてなく、「|VPPMax/2|+|VDC-VL|」の点からみても、「画像域の最大電荷強度F(V/μm)」の妥当性、必然性は示されていない。
(ハ)F値は、明細書中の実施例に記載された値と、実際に計算した値とが異なる。
(ニ)A×νの値は、実施例2では2.3(KHz)とされているが、表2中の値から計算すれば3.2(KHz)となっている。
(ホ)A×νが15〜50という数字の妥当性や必然性、その意義については不明である。

イ.当審の判断
(イ)および(ロ)については、請求項1に記載された交互電界の最大振幅電圧をVPP(V)とすると、VPPMaxはその定義された内容から、VDC+VPP/2で表せるものとして理解される。してみると、上記のVDC、VL、VPPMaxはいずれも与えられた現像条件から把握できるものである。よって、それらから導かれる|VDC-VL|、|VPPMax/2|、および|VPPMax/2|-|VDC-VL|についても与えられた条件から求めることができる。
そして、前記各式を用いて定義されるFの値が1≦F≦10であって、かつ、他の構成条件を満たすときに良好な結果が得られるものとして把握できる。
してみると、定義式によって定義されるFの値が意味する技術内容が理論的には明りょうでないとしても、その値は明確に求められるものであり、構成は明確に把握できるものであるから、前記各式の技術的な意義が理論的に明りょうでないと言う理由で容易に実施できないということはできない。
(ハ)および(ニ)については、誤記であるとしても、明細書の記載から正しい値を求めることは可能であるから、前記誤記があることを理由として容易に実施することができないとまでは言えない。
(ホ)のA×νについては、良好な画像の再現性に関してトナーの粒径と現像バイアスの交流周波数とが影響することは技術常識であって、請求項1に記載の他の現像条件の下でのトナーの粒径と交流周波数の組合せの最適な範囲としてA×νを15〜50の範囲とすることを経験的に求めたものとして把握することができるから、前記数値範囲について格別の記載不備があるとはいえない。

3.5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠によっては本件請求項1および2に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1および2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1および2に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、
結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-09-27 
出願番号 特願平6-111897
審決分類 P 1 651・ 121- YB (G03G)
P 1 651・ 531- YB (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 木村 史郎  
特許庁審判長 石川 昇治
特許庁審判官 小林 紀史
水垣 親房
登録日 2000-09-14 
登録番号 特許第3108847号(P3108847)
権利者 キヤノン株式会社
発明の名称 二成分系現像剤及び画像形成方法  
代理人 渡邉 敬介  
代理人 豊田 善雄  
代理人 山口 芳広  

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