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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09B 審判 全部申し立て 発明同一 C09B |
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管理番号 | 1067569 |
異議申立番号 | 異議2002-70919 |
総通号数 | 36 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-09-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-04-08 |
確定日 | 2002-10-21 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3217009号「分散染料組成物およびそれを用いる疎水性繊維材料の染色法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3217009号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.本件発明 特許第3217009号(平成9年3月17日出願、平成13年8月3日設定登録。)の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)はその特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】式(1) 【化1】 (式(1)中、X1は塩素原子または臭素原子を表し、R1、R2はそれぞれ独立に水素原子、直鎖アルキル基を表す。ここでアルキル基とは炭素数が1個乃至4個のものを表すものとする。)で示される染料および式(2) 【化2】 (式(2)中、X2は塩素原子または臭素原子を表し、Yはアルコキシ基を表し、R3、R4はそれぞれ独立に水素原子、直鎖アルキル基を表す。ここでアルキル基とは炭素数が1個乃至4個のものを表すものとする。)で示される染料の混合物40〜90重量%と式(3) 【化3】 で示される染料10〜60重量%を配合してなる分散染料組成物 【請求項2】請求項1に記載の分散染料組成物を用いることを特徴とする疎水性繊維材料の染色法」 2.特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人紀和化学工業株式会社はその出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第1〜3号証を提出し、本件発明1及び2は甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条第1項の規定に違反し特許されたものであり、また、本件発明1及び2は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し特許されたものであり、本件発明1及び2についての特許は取り消されるべきものである旨、主張している。 3.甲号各証及びその記載内容 (a)甲第1号証(特開平7-229073号公報) (a-イ)甲第1号証には、「本発明は下記一般式〔I〕 【化2】 (式中、Xは塩素原子又は臭素原子を表わし、Rはメチル基又はエチル基を表わす。)で示される分散染料を70重量%以上含有する青色成分を配合してなる配合黒色染料を用いることを特徴とする疎水性繊維の黒色染色法を要旨とするものである。」(段落番号【0006】〜【0008】)、 (a-ロ)「本発明は一般式〔I〕で示される分散染料を70重量%以上、好ましくは80重量%以上含有する青色成分を配合してなる配合黒色染料を用いることを特徴とするものであるが、青色成分中に他の青色染料が30重量%より少ない、好ましくは20重量%より少ない割合で含まれていてもよい。他の青色染料としては、例えば下記式(1)〜(5)で示される染料が用いられる。 ・・・ ・・・」(段落番号【0009】〜【0010】)、 (a-ハ)「これらの中では式(1)及び(2)の染料が好ましく、特に式(2)の染料が青色配合成分として好ましい。青色成分と共に配合されて配合黒色染料を構成する他の染料としては種々の橙色系や赤色系の分散染料があるが、具体例としては、下記式(6)〜(13)で示されるモノアゾ橙色分散染料や、下記式(14)〜(17)で示されるモノアゾ赤色分散染料が挙げられる。 ・・・ ・・・」(段落番号【0011】〜【0013】)、 (a-ニ)「これらの中では式(11)及び(13)で示される橙色染料が配合成分として好ましい。本発明で使用される配合黒色染料の青色成分の配合割合は50〜70重量%、橙色成分及び/又は赤色成分の配合割合は50〜30重量%である。青色成分の配合割合に係りなく、青色成分中、式(I)で示される染料の含有量が70重量%以上、好ましくは80重量%以上であれば疎水性繊維を演色性のない黒色に染色することができる。」(段落番号【0014】)、 (a-ホ)「本発明によれば、ポリエステル繊維をはじめとする疎水性繊維を演色性のない黒色に染色することができる。又、本発明で用いる染料は染色性が良好であり、各種堅牢度にも優れた黒色染色を施こすことができる。」(段落番号【0024】)と記載されている。 (b)甲第2号証(特公昭62-6592号公報) (b-イ)甲第2号証には、「本発明によって、それぞれ次式: 〔上記式中、Wは塩素原子又は臭素原子であり、R、R1 、Y及びZはそれぞれC1〜4 -アルキル基である〕で示される少なくとも1種類の染料を含有し、混合物中の式Aと式Bの染料の比が80:20重量部〜20:80重量部である、2種以上の分散モノアゾ染料混合物が提供される。」(第2頁第4欄43行〜第3頁5欄16行)、 (b-ロ)「先に定義した染料混合物が2成分からなる場合これらの成分は95:5重量部〜5:95重量部・・・の量比で混合物中に存在することができる。」(第3頁第5欄23〜26行)、 (b-ハ)「本発明によるすぐれた染料混合物は、次式(II): を有する2種類の染料からなり、・・・特に、WがBrでありかつX1 がHである式(II)の染料、及びWがBrでありかつX1 がメトキシである式(II)の染料がそれぞれ約3:1重量部の量比で存在する式(II)の染料からなる混合物がすぐれている。」(第3頁第5欄30行〜第6欄17行)、 (b-ニ)「本発明による染料混合物は芳香族ポリエステル繊維材料に濃紺色の色相を生ぜしめ、これは染料混合物の任意の単独成分を該材料に施すことによって達成される結果よりもすぐれており、極めて良好な染着生及び高い着色力を有する。」(第4頁第7欄35〜39行) (b-ホ)「先に定義した分散モノアゾ染料混合物を使用することによって最小限に留められ、その結果混紡のセルロース成分汚染は最小になる。」(第4頁第8欄27〜30行)と記載されている。 (c)甲第3号証(特開昭60-26060号公報) (c-イ)甲第3号証には、「1 式(I) で示される染料10〜30重量%、 式(II) で示される染料40〜60重量%、式(III)で示される染料、及び/または式(IV)で示される染料をその合計で20〜50重量%、 式(III) 式(IV) を配合してなることを特徴とする水不溶性黒色分散染料組成物。 2 ・・・を配合した水不溶性黒色分散染料組成物を使用することを特徴とするポリエステル系繊維の染色または捺染方法。」(特許請求の範囲第1、2項)、 (c-ロ)「3 式(I)・・・で示される染料30〜50重量%、式(II)・・・で示される染料0〜30重量%、式(III)で示される染料、及び/または式(IV)で示される染料をその合計で30〜60重量%、・・・を配合してなることを特徴とする水不溶性ネービ色分散染料組成物。 4 ・・・を配合した水不溶性ネービ色分散染料組成物を使用することを特徴とするポリエステル系繊維の染色または捺染方法。」(特許請求の範囲第3、4項)、 (c-ハ)「特に吸尽性向上について・・・前記構造式(I)〜(IV)で示されるそれぞれの染料を特定組成化に配合した染料を使用すれば極めてバランスのとれた堅牢度を有し、しかも吸尽性の高い黒色またはネービ色の染料組成物を得られることを見い出し本発明に到達した。・・・ポリエステル系繊維を染色・・・すれば・・・堅牢度のバランスが良い染色物が得られるものである。」(第3頁左下欄14行〜同頁右下欄7行)と記載されている。 4.対比・判断 (1)特許法第29条第1項について a.本件発明1について 甲第1号証には、式[I]で示される青色成分分散染料70重量%以上と他の青色成分30重量%以下とからなる青色成分として50〜70重量%、橙色成分及び/又は赤色成分として50〜30重量%配合してなる疎水性繊維用配合黒色染料が記載されており(上記記載(a-ロ)、(a-ニ)参照)、式[I]及び他の青色成分として列挙されている式(2)で示される染料(上記記載(a-ロ)参照)はそれぞれ本件発明1の式(2)及び式(1)で示される染料に包含され、甲第1号証の橙色成分として列挙されている式(12)で示される染料(上記記載(a-ハ)参照)は本件発明1の式(3)で示される染料に相当し、また、青色成分の染料と橙色成分及び/又は赤色成分との配合量は本件発明1と重複するものであるから、本件発明1の式(1)で示される染料及び式(2)で示される染料の混合物40〜90重量%と式(3)で示される染料10〜60重量%を配合した分散染料組成物は甲第1号証に記載の疎水性繊維用配合黒色染料の範囲内に、一応、包含されるものである。 しかし、i)甲第1号証には、式[I]で示される染料と式(2)で示される染料の混合物の青色成分に式(12)で示される染料を選択し橙色成分のみを配合した分散染料組成物、即ち、本件発明1の分散染料組成物は、具体的には記載されていないこと、 ii)その効果を検討すると甲第1号証の発明が光源の種類により色相が変化しない、つまり演色性のない黒色に疎水性繊維を染色する目的で、配合黒色染料に式[I]で示される分散染料を70重量%以上含有する青色成分を配合する(上記記載(a-ホ)参照)のに対し、本件発明1は3種類の特定染料を組合せることにより、通常のポリエステル繊維、甲第1号証だけでなく、極細ポリエステル繊維や混紡品についても色調の深み、染料吸尽率、汚染性、各種堅牢度(耐光堅牢度、昇華堅牢度等)に優れた黒色染色物を与えるもの(本件特許明細書段落番号【0013】参照)であって、甲第1号証 には、甲第1号証に記載される成分から適宜選択をし、甲第1号証に記載さた効果を奏する組成物が記載されている、とするのが自然であるから、甲第1号証に記載された効果とは大きく異なる効果を奏する、例えば本件発明1の組成物までもが甲第1号証に記載されているとすることはできないこと、 を考慮すると、甲第1号証には、上記したような本件発明1に特有の作用効果を奏する分散染料組成物までもが、記載されているとすることはできない。 したがって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。 b.本件発明2について 本件発明2は本件発明1を引用しており、本件発明1の分散染料組成物を用いる染色方法に関する発明であるから、上記と同様の理由により甲第1号証に記載された発明ではない。 (2)特許法第29条第2項について a.本件発明1について 甲第1号証に記載の発明は上記(1)a.に記載のとおりである。 甲第2号証には芳香族ポリエステル繊維材料及び芳香族ポリエステル/セルロース混紡を濃紺色に極めて良好な染着生及び高い着色力をもって染色し、混紡のセルロース成分汚染を最小限に留めることを目的として、式Aと式Bで示される染料の比が95:5重量部〜5:95重量部である分散モノアゾ染料混合物が記載され、式A及び式Bで示される染料はそれぞれ本件発明1の式(1)及び(2)で示される染料に包含され、また、特にすぐれた染料混合物として示されている、WがBrでありかつX1 がHである式(II)の染料、及びWがBrでありかつX1 がメトキシである式(II)の染料がそれぞれ約3:1重量部の量比で存在する混合物は、本件発明1の式(5)で示される染料(X1がBrでありR1及びR2がC2H5である式(1)で示される染料に相当する)と式(7)で示される染料(X2がBr、YがOCH3でありR3及びR4がC2H5である式(1)で示される染料に相当する)の混合物からなる本件発明1の青色成分である染料の混合物に相当する。(上記記載(b-イ)〜(b-ホ)参照) してみると、甲第2号証には本件発明1の式(1)で示される染料と式(2)で示される染料との混合物からなる青色成分である染料の混合物が記載されている。 また、甲第3号証には、吸尽性向上にすぐれる極めてバランスのとれた堅牢度を有する染料を得る目的で式(I)で示される染料10〜30重量%、式(II)で示される染料40〜60重量%、式(III)で示される染料及び/または式(IV)で示される染料をその合計で20〜50重量%、を配合してなる水不溶性黒色分散染料組成物が記載され、式(I)で示される染料は本件発明1の式(1)で示される染料に包含され、式(II)で示される染料は本件発明1の式(3)で示される染料に相当し、式(III)及び式(IV)で示される染料は本件発明1の式(2)で示される染料と置換アミノ基の部分において相違する。(上記記載(c-イ)〜(c-ハ)参照) してみると、甲第3号証には本件発明1の式(1)で示される染料と式(3)で示される染料と式(2)に示される染料の置換アミノ基の部分が相違する染料との配合黒色染料組成物が記載されている。 そこで、本件発明1の染料組成物と甲第1〜3号証に記載の染料組成物 を対比すると 本件発明1は特に極細ポリエステル繊維や混紡品についても色調の深み、染料吸尽率、汚染性に優れた黒色染色物を与える目的で3種類の特定染料を組合せるものであるのに対し、甲第1号証は演色性のない黒色に疎水性繊維を染色するために式[I]で示される分散染料を70重量%以上含有する青色成分を配合するものであり、甲第2号証は濃紺色に極めて良好な染着生及び高い着色力をもって染色し、混紡のセルロース成分汚染が最小限に留めることを目的として、式Aと式Bで示される染料を組合わせるものであり、また、甲第3号証は吸尽性向上にすぐれる極めてバランスのとれた堅牢度有する染料を得る目的で式(I)〜(IV)で示されるそれぞれの染料を特定組成比に配合した染料組成物とするものであるので、甲第1〜3号証には本件のような技術課題を解決することについては記載がなく、甲第1〜3号証には、単に本件発明1の配合染料組成物の各成分又は青色成分の混合染料等がそれぞれ示されているにすぎない。 異議申立人の主張のように、甲第1号証の式[I]で示される染料と式(2)で示される染料の混合物の青色成分又は甲第2号証の式Aと式Bで示される染料との混合物からなる青色成分に、甲第1号証若しくは甲第3号証に記載により配合黒色染料における青色成分と組合わせることが知られている本件発明1の式(3)で示される染料を組合わせれば本件発明1の染料組成物が得られ、また、甲第3号証の配合黒色染料組成物中の式(III)及び式(IV)で示される染料に代えて甲第1号証に記載の青色成分の一つである本件発明の式(2)で示される染料を用いれば本件発明1の染料組成物が得られるものであるけれど、それはあくまでもポリエステル繊維を単に黒色に染色するという技術課題を解決する場合に留まるものであって、本件の技術課題の解決のために3種類の特定の染料の組合わせを選択する動機を示唆するものではない。 そして、本件発明1は3種類の特定の染料を組み合わせることにより、通常のポリエステル繊維だけでなく、極細ポリエステル繊維や混紡品についても色調の深み、染料吸尽率、汚染性、各種堅牢度(耐光堅牢度、昇華堅牢度等)に優れた黒色染色物を与えることができるという、甲第1〜3号証から予測できない効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とは認められない。 b.本件発明2について 本件発明2は本件発明1を引用しており、本件発明1の分散染料組成物を用いる染色方法に関する発明であるから、上記と同様の理由により、本件発明2もまた、上記甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易になし得た発明とは認められない。 なお、異議申立人は、平成14年8月7日付けで、参考資料(特願平8-260141号(平成8年9月10日出願、特開平9-151333号公報))を添付した上申書を提出し、本件発明1は先願明細書に記載された発明である参考資料の請求項5に記載の発明(以後「先願発明」という。)と同一であるから特許法第29条の2により特許を受けることができないものである旨、主張しているので以下検討する。 先願明細書には、高温で苛酷な条件でもポリエステル繊維等を均一に染色することのできる特定な結晶変態を有する青色系モノアゾ染料を含む染料混合物として、X線回折図(CuKα)により特徴づけられる結晶変態(以後、「α型結晶変態」という。)を有する下記構造式[I]で示される水不溶性モノアゾ染料1重量部に対し、下記構造式[II]で示される染料0.5〜1.0重量部を混合したネービー色染料混合物1重量部に対し、下記一般式[III]で示される染料0.6〜1.0重量部を混合した黒色染料混合物 (式中、X1及びX2は同一でも相互に異なっていてもよく、水素原子、塩素原子又は臭素原子を表す。) が記載され(特許請求の範囲の請求項5、明細書段落番号【0001】参照)、先願発明の式[I]及び式[II]で示される染料は本件発明1の式(1)及び式(2)で示される染料に一応包含され、式[III]は本件発明1の式(3)を包含するものであるが、先願明細書に記載の式[I]で示される水不溶性モノアゾ染料は合成後に特定の条件下で処理することによりα型結晶変態にするものである(段落番号【0012】参照)のに対し、本件発明1の式(1)で示される染料はそのような特定の処理を施して結晶変態変化をさせたものではないので、両者の該モノアゾ染料はその結晶変態において相違し、また、先願発明の式[III]で示される染料として本件発明1の式(3)で示される染料及びそれを含有する黒色染料組成物については具体的に記載されているものでもなく、先願発明の課題は本件の技術課題と異なっている。 してみると、先願明細書には本件発明1の黒色染料組成物が開示されているものとは認めらず、先願発明と本件発明1が同一であるとはいえず、異議申立人のこの点の主張は採用することができない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1及び2について特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-09-27 |
出願番号 | 特願平9-82406 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C09B)
P 1 651・ 161- Y (C09B) P 1 651・ 113- Y (C09B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 唐木 以知良、星野 紹英 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
西川 和子 井上 彌一 |
登録日 | 2001-08-03 |
登録番号 | 特許第3217009号(P3217009) |
権利者 | 日本化薬株式会社 |
発明の名称 | 分散染料組成物およびそれを用いる疎水性繊維材料の染色法 |
代理人 | 鮫島 武信 |