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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 G06F 審判 全部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件 G06F |
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管理番号 | 1067644 |
異議申立番号 | 異議1999-70249 |
総通号数 | 36 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1990-03-08 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-01-25 |
確定日 | 2002-08-05 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第2779813号「コンピューター」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2779813号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 |
理由 |
I.手続きの経緯 昭和63年 9月 6日 特許出願 平成10年 5月15日 特許権の設定の登録 平成11年 1月25日 特許異議の申立て(2件) 平成11年 4月27日 取消理由通知 平成11年 7月13日 訂正の請求及び意見書提出 平成11年 8月 9日 訂正拒絶理由通知 平成11年10月19日 手続補正及び意見書提出 II.訂正の請求について 1.訂正請求書の補正 平成11年10月19日付け手続補正は、訂正請求書の訂正事項a)において訂正した特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載 「1 実行中の処理を中断し、その後、中断した時点から再開可能なコンピューターであって、 コンピューターの電源に対するオフ要求を検出する退避処理開始検出手段と、 該退避処理開始検出手段が前記電源のオフ要求を検出したとき、前記コンピューターの処理を中断し、該コンピューターの処理の続行に必要なシステム状態として、少なくともメインメモリの内容、CPUのステータスおよび電源がオフされた場合には状態が保持されない入出力部の設定並びに退避を制御するための付加情報を、バッテリによるバックアッブを要しない不揮発性の外部記憶装置に出力するシステム状態退避手段と、 前記システム状態退避手段によるシステム状態の外部記憶装置への出力が終了した後に、前記メインメモリ,前記CPUおよび前記入出力部を含むコンピュー夕内部の前記電源をオフする退避後処理手段と、 電源がオンされたとき、前記電源のオフ時に実行されていた処理を継続可能かを判断する回復処理開始手段と、 該回復処理開始手段により回復処理が可能と判断された時には、前記外部記憶装置に記憶されたシステム状態を、前記CPUにより読み出すと共に、少なくとも前記メインメモリおよび前記入出力部の状態を、該読み出したシステム状態を用いて回復するシステム状態回復手段と、 前記システム状態回復手段によりシステムの状態が回復された後に、前記CPUの内部状態を、前記中断された状態に戻すと共に、前記CPUによるプログラムの制御を、前記中断時に最後に実行された命令の直後に渡し、前記処理を継続する回復後処理手段と からなること特徴としたコンピューター。」を、 「1 実行中の処理を中断し、その後、中断した時点から再開可能なコンピューターであって、 コンピューターの電源に対するオフ要求を検出する退避処理開始検出手段と、 該退避処理開始検出手段が前記電源のオフ要求を検出したとき、前記コンピューターの処理を中断し、該コンピューターの処理の続行に必要なシステム状態として、少なくともメインメモリの内容、CPUのステータスおよび電源がオフされた場合には状態が保持されない入出力部の設定を、バッテリによるバックアッブを要しない不揮発性の外部記憶装置において該外部記憶装置のフォーマットの際に予め確保した領域に出力するシステム状態退避手段と、 前記システム状態退避手段によるシステム状態の外部記憶装置への出力が終了した後に、前記メインメモリ,前記CPUおよび前記入出力部を含むコンピュー夕内部の前記電源をオフする退避後処理手段と、 電源がオンされたとき、前記電源のオフ時に実行されていた処理を継続可能かを判断する回復処理開始手段と、 該回復処理開始手段により回復処理が可能と判断された時には、前記外部記憶装置に記憶されたシステム状態を、前記CPUにより読み出すと共に、少なくとも前記メインメモリおよび前記入出力部の状態を、該読み出したシステム状態を用いて回復するシステム状態回復手段と、 前記システム状態回復手段によりシステムの状態が回復された後に、前記CPUの内部状態を、前記中断された状態に戻すと共に、前記CPUによるプログラムの制御を、前記中断時に最後に実行された命令の直後に渡し、前記処理を継続する回復後処理手段と からなること特徴としたコンピューター。」と補正することを含むものである。 しかし、上記補正により、「システム状態待避手段」が出力する「コンピューターの処理の続行に必要なシステム状態」に含まれていた「退避を制御するための付加情報」が削除される結果、訂正後の特許請求の範囲を基準にして、特許請求の範囲を拡張することになる。 したがって、平成11年10月19日付け手続補正は、訂正請求書の要旨を変更するものであり、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定を満たさないので、採用できない。 (なお、取消理由通知で引用した特開昭62-169218号公報に記載されたRAM35も、予め定められた領域に中断時の情報を記憶するものであり、しかも、外部記憶装置に予め領域を割り当てる場合、フォーマット時に領域を確保することは当然のことであるから、仮に、上記内容で再訂正したとしても、上記補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができないものである。) 2.訂正の内容 特許権者が求めている訂正は、次のとおりである。 (1)特許請求の範囲の訂正 特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載を以下の通り訂正する。 「1 実行中の処理を中断し、その後、中断した時点から再開可能なコンピューターであって、 コンピューターの電源に対するオフ要求を検出する退避処理開始検出手段と、 該退避処理開始検出手段が前記電源のオフ要求を検出したとき、前記コンピューターの処理を中断し、該コンピューターの処理の続行に必要なシステム状態として、少なくともメインメモリの内容、CPUのステータスおよび電源がオフされた場合には状態が保持されない入出力部の設定並びに退避を制御するための付加情報を、バッテリによるバックアッブを要しない不揮発性の外部記憶装置に出力するシステム状態退避手段と、 前記システム状態退避手段によるシステム状態の外部記憶装置への出力が終了した後に、前記メインメモリ,前記CPUおよび前記入出力部を含むコンピュー夕内部の前記電源をオフする退避後処理手段と、 電源がオンされたとき、前記電源のオフ時に実行されていた処理を継続可能かを判断する回復処理開始手段と、 該回復処理開始手段により回復処理が可能と判断された時には、前記外部記憶装置に記憶されたシステム状態を、前記CPUにより読み出すと共に、少なくとも前記メインメモリおよび前記入出力部の状態を、該読み出したシステム状態を用いて回復するシステム状態回復手段と、 前記システム状態回復手段によりシステムの状態が回復された後に、前記CPUの内部状態を、前記中断された状態に戻すと共に、前記CPUによるプログラムの制御を、前記中断時に最後に実行された命令の直後に渡し、前記処理を継続する回復後処理手段と からなること特徴としたコンピューター。」 (2)発明の詳細な説明の訂正 特許明細書の第4頁第24行目の「であって、」から第6頁第10行目の「場合には、」までの記載を、以下の通り訂正する。 「であって、 コンピューターの電源に対するオフ要求を検出する退避処理開始検出手段11と、 該退避処理開始検出手段11が前記電源のオフ要求を検出したとき、前記コンピューターの処理を中断し、該コンピューターの処理の続行に必要なシステム状態として、少なくともメインメモリの内容、CPUのステータスおよび電源がオフされた場合には状態が保持されない入出力部の設定並びに退避を制御するための付加情報を、バッテリによるバックアップを要しない不揮発性の外部記憶装置に出力するシステム状態退避手段12と、 前記システム状態退避手段12によるシステム状態の外部記憶装置への出力が終了した後に、前記メインメモリ,前記CPUおよび前記入出力部を含むコンピュータ内部の前記電源をオフする退避後処理手段13と、 電源がオンされたとき、前記電源のオフ時に実行されていた処理を継続可能かを判断する回復処理開始手段14と、 該回復処理開始手段14により回復処理が可能と判断された時には、前記外部記憶装置に記憶されたシステム状態を、前記CPUにより読み出すと共に、少なくとも前記メインメモリおよび前記入出力部の状態を、該読み出したシステム状態を用いて回復するシステム状態回復手段15と、 前記システム状態回復手段15によりシステムの状態が回復された後に、前記CPUの内部状態を、前記中断された状態に戻すと共に、前記CPUによるプログラムの制御を、前記中断時に最後に実行された命令の直後に渡し、前記処理を継続する回復後処理手段16と からなることを要旨としている。 このコンピューターは、停電などをきっかけとして動作するものではなく、コンピューターの電源に対するオフ要求(例えば、ソフト的に電源を落とす構成において電源オフのスイッチの操作、ソフトウエアによる電源オフの要求、バッテリ駆動タイプの鳩合におけるパッテリ電圧の低下など)を退避処理開始検出手段11により検出し、この検出がなされた時には、システム状態退避手段12により、コンピューターの処理を中断し、コンピューターの処理の続行に必要なシステム状態として、少なくともメインメモリの内容、CPUのステータスおよび電源がオフされた場合には状態が保持されない入出力部の設定並びに退避を制御するための付加情報を、パッテリによるバックアップを要しない不揮発性の外部記憶装置に出力する。不揮発性の外部記憶装置とは、例えばハードディスクやフレキシブルディスク、あるいは磁気テープなどである。この外部記憶装置は、バッテリによるバックアップを要しないから、バッテリの消尽により内容が失われると言うことはない。こうしてシステム状態が外部記憶装置に出力されると、退避後処理手段13が、メインメモリ,CPUおよび入出力部を含むコンピュータ内部の電源をオフする。この結果、コンピューターの電源は落ち、装置は停止する。 当然コンピュータ内部のメインメモリの内容や入出力部の状態などは失われる。 次に、コンピュータの電源をオンにすると、回復処理開始手段が、電源オフ時に実行されていた処理を継続可能か否かを判断し、継続可能と判断された場合には、システム状態回復手段15は、CPUにより、先に外部記憶装置に出力され記憶されたシステムの状態を読み出し、少なくともメインメモリおよび入出力部の状態を、読み出したシステム状態を用いて回復する。ここでシステムの状態とは、例えば主記憶のすべてまたは使用中だった範囲のデータのすべて、I/O装置の状態のうち電源がオフされた場合には状態が保持されない設定、V-RAMの内容などがある。これらのシステムの状態を回復した後、回復後処理手段16は、CPUの内部状態を中断された状態に戻すと共に、CPUによるプログラムの制御を、中断時に最後に実行された命令の直後に渡し、中断時に実行されていた処理を継続する。この結果、コンピュー夕ーは、メインメモリやCPUのステータスはもとより、入出力部の設定も含めて、中断時の状態に戻すことができ、電源のオフ要求に応じて停止した時点から処理を再開する。しかも、処理の停止中には、主記憶などを保存しておく電力も必要がなく、長期間に亘って処理を中断しておいても、所望のタイミングで、処理を再開することができる。 なお、このコンピューターにおけるシステム状態退避手段、退避後処理手段、回復処理開始手段、システム状態回復手段、回復後処理手段を、CPUにより実現することが可能である。このCPUは、コンピューターのメインCPUと同じCPUでも良いし、メインCPUとは異なるCPUにより実行する構成することできる。また、CPUを用いてこれらの手段を構成する場合には、」 3.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 上記訂正(1)は、特許明細書第12頁第19行目から第26行目および第13頁第8行目ないし第19行目の記載に基づくものであって、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 また、上記訂正(2)は、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 4.独立特許要件の判断 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された「退避を制御するための付加情報」に関して特許明細書には、「前記ハードディスク72内にある前記システム状態記憶領域73は、前記メインメモリー74、CPUステータス75、I/Oステータス76、及び退避を制御及び完全に行うための付加的な情報を記憶するだけの容量が論理的なフォーマットを行う際に予約されており、〜」と記載されているだけであり、上記付加情報が、どのようなものであり、どこに保持されるものであるかが不明瞭である。 したがって、特許請求の範囲には、請求項1に係る発明の構成に欠くことができない事項が記載されているものとは認められないとともに、発明の詳細な説明には、請求項1に係る発明を当業者が容易に実施することができる程度に発明の構成が記載されているものとは認められない。 また、請求項1を引用する発明である請求項2-5に係る発明についても、同様である。 よって、訂正明細書の請求項1-5に係る発明は、特許法第36条第3-5項の規定により独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第4項の規定に適合しない。 よって、上記訂正を認めない。 III.特許異議の申立てについて 1.本件発明 本件特許第2779813号の請求項1-5に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1-5に記載される次の事項により特定されるとおりのものと認める。 「1 実行中の処理を中断し、その後、中断した時点から再開可能なコンピューターであって、 コンピューターの電源に対するオフ要求を検出する退避処理開始検出手段と、 該退避処理開始検出手段が前記電源のオフ要求を検出したとき、前記コンピューターの処理を中断し、該コンピューターの処理の続行に必要なシステム状態として、少なくともメインメモリの内容、CPUのステータスおよび入出力部の設定をバッテリによるバックアッブを要しない不揮発性の外部記憶装置に出力するシステム状態退避手段と、 前記システム状態退避手段によるシステム状態の外部記憶装置への出力が終了した後に、前記メインメモリ、前記CPUおよび前記入出力部を含むコンピュー夕内部の前記電源をオフする退避後処理手段と、 電源がオンされたとき、前記電源のオフ時に実行されていた処理を継続可能かを判断する回復処理開始手段と、 該回復処理開始手段により回復処理が可能と判断された時には、前記外部記憶装置に記憶されたシステム状態を、前記CPUにより読み出すと共に、少なくとも前記メインメモリおよび前記入出力部の状態を、該読み出したシステム状態を用いて回復するシステム状態回復手段と、 前記システム状態回復手段によりシステムの状態が回復された後に、前記CPUの内部状態を、前記中断された状態に戻すと共に、前記CPUによるプログラムの制御を、前記中断時に最後に実行された命令の直後に渡し、前記処理を継続する回復後処理手段と からなること特徴としたコンピューター。 2 請求項1記載のコンピューターであって、前記退避処理開始検出手段は、 使用者により操作可能なスイッチの操作状態が所定の状態となったとき、前記CPUに対して割り込み信号を出力する割込信号出力手段と、 該割込信号を受け取った前記CPUは、該割込信号をもってコンピューターの電源に対するオフ要求と判断する判断手段と からなるコンピューター。 3 請求項1記載のコンピューターであって、 使用者により操作可能なスイッチを設けると共に、 前記退避処理開始検出手段は、 少なくとも文字が入力可能なキーを備えたキーボードと、 該キーボードの操作状態を判定するキー判定手段と、 該キー判定手段による処理において、前記スイッチの操作状態を判断するスイッチ判断手段と、 該スイッチの操作状態が所定の状態となったと判断されたとき、コンピューターの電源に対するオフ要求と判断する判断手段と を備えたコンピューター。 4 請求項1記載のコンピューターであって、 少なくとも文字が入力可能なキーを備えたキーボードを備え、 前記退避処理開始検出手段は、 前記キーボードからの入力を受け付けるキー入力手段と、 該キー入力手段により受け付けられキーボードからの入力が所定の入力であるとき、コンピューターの電源に対するオフ要求と判断する判断手段と を備えたコンピューター。 5 請求項1記載のコンピューターであって、 装置全体に電源、を供給するパッテリを備え、更に、 前記退避処理開始検出手段は、 前記バッテリによる電源電圧を検出する電源電圧検出手段と、 該検出された電源電圧が所定値以下となったとき、コンピューターの電源に対するオフ要求と判断する判断手段と を備えたコンピューター。」 2.特許法第29条第2項違反について (1)刊行物の記載 当審が取消理由において引用した刊行物1である特開昭62-169218号公報は、「情報処理システムのアプリケーション中断再開装置」に関する発明が記載されたもので、その第2頁右下欄第11-19行には、発明の目的として、 「本発明の別の目的は、電源オフ前にソフトウェア・アプリケーションが実行されていたのと厳密に同じ点からソフトウエア・アプリケーションを再開するための装置および方法を提供することにある。 本発明のさらに別の目的は、電源オフ動作中に、コンピュータ・システム内の全てのメモリおよび入出力装置の状態を保管するための装置および方法を提供することにある。」と、記載され、 第3頁左下欄第4行-右下欄第4行には、システム全体の構成として、 「電源42から線45を介してシステムRAM15、実時間クロック21、表示RAM34および表示フォント/中断RAM35にも電力が連続的に供給される。電源42のオン/オフ・スイッチの操作によって、電源42と電源制御装置43を接続する線49の動作が制御される。オン/オフ・スイッチを押すと、線49は電源制御装置43に、線48を介して電源42に電源使用可能信号を送らせる。このようにして、線47を介してCPU11、割込み制御装置12、クロック制御装置31、DMA制御装置13、表示制御装置14および表示装置25に電力が供給される。電源制御装置43または、割込み制御装置12にマスク不能割込み(NMI)信号を供給する。また、線47を介して〜キーボード28、ディスケット制御装置19、ディスケット駆動機構26と27、モデム22〜にも電力が供給されることに留意すべきである。」と、記載され、 第4頁左上欄第6行-第5頁右上欄第8行には、中断時の動作として、 「操作に当って、電源オン/オフ・スイッチを押すと、ほぼ2秒の時間内に中断NMIが発生して、システムの現状態を保管する動作が開始される。〜電源スイッチ41を押した後最初に実行される操作は、CPU11の全てのレジスタの内容を保管することである。〜 ステップ87で、RAM15内のシステム・プロフィル域が読み取られる。〜再開モードが設定されているか否か、すなわち、システムが中断された実行点から再開するか否かについて判定が行われる。答えが否定の場合、「強制」再開が設定されているか否かについて第2の判定が行われる。これはブロック89で行われる。〜本明細書に開示する好ましい実施例では、電力はバッテリーからシステムに供給される。すなわち、電源42はバッテリーである。このようにすると、アプリケーション・プログラムの実行中にバッテリのレベルが低くなった場合に、復元できないデータを失うことなく、システムの状態を保管するすることができる。〜判断ブロック88または判断ブロック89のどちらかに対する答が肯定の場合は、ステップ91に示すように、RAM35内の特別保管域が活動化される。」(第4頁左上欄第6行-左下欄第11行)、「CPU11内のスタック・セグメント・レジスタおよびスタック・ポインタ・レジスタの内容〜表示制御装置14の状態およびシステム・タイマ18の状態〜割込み制御装置12およびDMA制御装置13の両方のレジスタの内容〜電源自己オン試験(POST)を行うために使用する全ての割込みベクトル〜POSTが使用するRAM15内の主記憶域の状態〜キーボード制御装置17のレジスタの状態が保管される。 〜伝送すべき情報を含むレジスタの内容が、電源切断時またはシステム中断時に保管される。〜最後に、ステップ111および112で、システム中断フラグがセットされ、それ以降の実行は停止され、システムは、中断動作が開始された後、2秒の時間が経過するのを待つ。それ以降の動作は、システム再開動作が開始されるまで停止される。」(第4頁右下欄第10行-第5頁右上欄第8行)と、記載され、 第5頁右上欄第16行-第6頁右下欄第11行には、再開時の動作として、 「オペレータがオン/オフ・スイッチ41を押して、〜システムに再び電力が供給される。」(第5頁右上欄第16-18行)、「中断フラグがセットされているか否かについて判定が行われる。」(第5頁右下欄第5-6行)、「中断されたアプリケーション・プログラムを前の実行点から再開すべき場合、〜RAM35内の中断保管域がアクセスされて、再開プロセスが続行する。〜表示制御装置14のレジスタ、およびシステム・タイマ18がその以前の状態に復元される。〜割込み制御装置12が復元され、〜システム構成情報が、電源オフの間に生じた変更に基づいて更新される。最後に、キーボード制御装置17のレジスタが復元される。 続いて、〜モデム22およびRS232通信インターフェース23の通信セットアップが復元される。次に、CPU11のスタック・セグメント・レジスタおよびスタック・ポインタ・レジスタが復元され、」(第5頁右下欄第20行-第6頁右上欄第9行)、「CPU11内の全てのレジスタがスタックから復元され、ビデオ・データを表示装置25上に表示させる信号が表示制御装置14に供給される。最後に中断割込みからの復帰が実行され、中断されたアプリケーション・プログラムが以前の実行点から再開される。」(第6頁右下欄第6-11行)と、記載され、 第7頁右上欄第9行-左下欄第14行には、電源オフ時の電源制御に関して、 「コンピュータ・システムをオフにするため、電源スイッチ41を再び押し、線49上の電源スイッチ信号上にもう1個のパルスを載せる。システムはまたソフトウェアの要求によっても電源オフすることができ、それにより、線74上のソフトウェア電源オフ信号を低論理状態に変えて、リセット信号をフリップ・フロップ62に供給する。フリップ・フロップは次に状態を変更し、それにより、線70上の信号を低論理状態から高論理状態に変える。その結果、〜分配カウンタ61が2秒までカウントし、〜フリップ・フロップ65に低論理信号をクロックさせる。この低論理信号が電源を使用禁止にする。 〜線70上の信号が低論理状態から高論理状態に変わると、〜線75を高論理状態に変えて、中断シーケンスの開始をソフトウェアに合図する。」と、記載されている。 これらの記載を総合的に判断すると、刊行物1には、 《実行中の処理を中断し、その後、中断した時点から再開可能なコンピュータ・システムであって、 バッテリ電源42と、 電源制御装置43と、 電力が連続的に供給されるシステムRAM15、および表示フォント/中断RAM35と、 を備え、 電源制御装置43が、バッテリ電源42のオン/オフ・スイッチのオフ操作またはソフトウェア電源オフ信号を検出して、割込み制御装置12に中断NMI信号を供給すると、実行中の処理を中断してシステムの現状態を保管する動作が開始され、 システムの現状態として、CPU11内のスタック・セグメント・レジスタおよびスタック・ポインタ・レジスタの内容、表示制御装置14の状態およびシステム・タイマ18の状態、割込み制御装置12およびDMA制御装置13の両方のレジスタの内容、電源自己オン試験(POST)を行うために使用する全ての割込みベクトル、POSTが使用するRAM15内の主記憶域の状態、キーボード制御装置17のレジスタの状態、及び伝送すべき情報を含むレジスタの内容を、表示フォント/中断RAM35に保管させ、 保管処理に必要な時間経過後、CPU11、キーボード28、ディスケット制御装置19等への電源をオフし、 再び電源がオンされたとき、中断フラグがセットされているか否かについて判定し、 中断フラグがセットされているときには、表示フォント/中断RAM35に記憶されたシステム状態を、前記CPUにより読み出すと共に、表示制御装置14のレジスタ、システム・タイマ18、割込み制御装置12、キーボード制御装置17のレジスタ、及びモデム22およびRS232通信インターフェース23の通信セットアップを該読み出したシステム状態を用いて回復し、 次いで、CPU11のスタック・セグメント・レジスタおよびスタック・ポインタ・レジスタ、CPU11内の全てのレジスタが復元され、最後に中断割込みからの復帰が実行され、中断されたアプリケーション・プログラムが以前の実行点から再開される コンピュータ・システム。》(以下、引用発明という。) が記載されている。 また、取消理由において引用した刊行物2である特開昭62-208151号公報、及び刊行物3である特開昭57-25023号公報には、それぞれ次のような記載がある。 特開昭62-208151号公報は、「バックアップ機能を有する情報処理装置」に関する発明が記載されたものであって、その第1頁左下欄の特許請求の範囲には、 「中央処理装置(CPU)とメモリと外部記憶制御回路と前記外部記憶制御回路により制御される外部記憶装置と前記CPUで管理制御可能な電源と〜を有し、前記電源がオフされたり電圧異常を検出した〜時に前記メモリの内容と前記CPUのレジスタ群の内容を前記外部記憶装置に退避してバックアップし、前記電源を再投入すると前記外部記憶装置より前記データを前記メモリと前記レジスタ群に再設定し、継続処理ができることを特徴とした情報処理装置。」と、記載され、 第2頁右上欄第5-10行には、 「メモリにCMOSタイプのスタティックRAMやバックアップ電池を使用しないで、〜継続処理を可能としたバックアップ機能を有した情報処理装置を提供することを目的としている。」と、記載されている。 特開昭57-25023号公報は、「電子機器の電源スイッチ機構の改良」に関する発明が記載されたものであって、その第1頁左下欄の特許請求の範囲第1項には、 「データ入力やファンクションキーからなる一般キーを複数個用いて、電源のON-OFFを行うことを特徴とする電子機器。」と、記載されている。 更に、本件発明と同一の技術分野の発明が記載された特開昭60-225924号公報、特開昭63-25713号公報、及び特開昭61-262952号公報には、それぞれ次のような記載がある。 特開昭60-225924号公報(以下、参考文献1という。)の第2頁左上欄第15行-右上欄第9行には、 「パワーSW5がオンになるとサブCPU8の入出力ポートのうちの1つの値がオンとなる。〜又、202は、サブCPU8の入出力ポートからの出力をデコードしてキースキャンのための信号を出力するデコーダーである。」と記載されている。 特開昭63-25713号公報(以下、参考文献2という。)は、「情報処理装置における電源切断の制御をプログラム制御で行う方式」に関する発明が記載されたもので、その第1頁左下欄の特許請求の範囲には、 「電源スイッチのオン/オフ状態を記憶する電源スイッチ状態記憶手段と、 前記電源スイッチのオフと同時に押下されることにより電源の切断を可能とするファンクションキーの押下状態を記憶するファンクションキー状態記憶手段と、〜これら記憶手段の状態を監視して電源の切断を判定する電源制御部と、 を有することを特徴とする電源切断制御方式。」と、記載されている。 特開昭61-262952号公報(以下、参考文献3という。)の第1頁左下欄の特許請求の範囲には、 「電池により駆動される記憶手段と、 前記電池の電圧の低下を検知する手段と、 該手段による電圧低下検出時に、システム動作不可となる以前に、前記記憶手段に格納されているデータを、前記電池の有無に拘らずに記憶状態を保持する媒体に転送して格納する手段と、 前記電池を交換して前記記憶手段が動作可能状態となったときに前記媒体から前記記憶手段に再びデータを格納する手段とを具えたことを特徴とするメモリ装置。」と、記載されている。 (2)対比・判断 ▲1▼請求項1に係る発明について 本件請求項1に係る発明と上記引用発明とを対比すると、 引用発明における「中断NMI信号」は、電源オフ要求を検出したときに退避処理を開始させるものであり、 引用発明における「CPU11内のスタック・セグメント・レジスタおよびスタック・ポインタ・レジスタの内容、表示制御装置14の状態およびシステム・タイマ18の状態、割込み制御装置12およびDMA制御装置13の両方のレジスタの内容、電源自己オン試験(POST)を行うために使用する全ての割込みベクトル、POSTが使用するRAM15内の主記憶域の状態、キーボード制御装置17のレジスタの状態、及び伝送すべき情報を含むレジスタの内容」は、コンピュータの処理に必要なCPUのステータスおよび入出力部の設定であり、 引用発明において「中断フラグがセットされているか否かについて判定」することは、電源のオフ時に実行されていた処理を継続可能かを判断することであり、 引用発明において「中断されたアプリケーション・プログラムが以前の実行点から再開」することは、CPUによるプログラムの制御を、中断時に最後に実行された命令の直後に渡し、処理を継続することであるから、 両者は、 《実行中の処理を中断し、その後、中断した時点から再開可能なコンピューターであって、 コンピューターの電源に対するオフ要求を検出する退避処理開始検出手段と、 該退避処理開始検出手段が前記電源のオフ要求を検出したとき、前記コンピューターの処理を中断し、該コンピューターの処理の続行に必要なシステム状態として、少なくともCPUのステータスおよび入出力部の設定を、記憶装置に出力するシステム状態退避手段と 前記システム状態退避手段によるシステム状態の記憶装置への出力が終了した後に、前記CPUおよび前記入出力部の前記電源をオフする退避後処理手段と、 電源がオンされたとき、前記電源のオフ時に実行されていた処理を継続可能かを判断する回復処理開始手段と、 該回復処理開始手段により回復処理が可能と判断された時には、前記記憶装置に記憶されたシステム状態を、前記CPUにより読み出すと共に、少なくとも前記入出力部の状態を、該読み出したシステム状態を用いて回復するシステム状態回復手段と、 前記システム状態回復手段によりシステムの状態が回復された後に、前記CPUの内部状態を、前記中断された状態に戻すと共に、前記CPUによるプログラムの制御を、前記中断時に最後に実行された命令の直後に渡し、前記処理を継続する回復後処理手段と からなるコンピューター。》 である点で一致し、 次のa及びbの点で差異がある。 a.電源オフ時のシステム状態を保持するに際して、 本件請求項1に係る発明が、少なくともメインメモリの内容、CPUのステータスおよび入出力部の設定を、バッテリによるバックアップを要しない不揮発性の外部記憶装置に退避するのに対して、 引用発明は、メインメモリ、表示RAMおよびフォント/中断RAMに電源を供給したままとするとともに、CPUの内部状態および入出力部の状態をフォント/中断RAMに退避するものである点 b.システム状態退避後の処理として、 本件請求項1に係る発明が、メインメモリ、CPUおよび入出力部を含むコンピュータ内部の電源をオフするのに対して、 引用発明発明は、CPUおよび入出力部を含むコンピュータ内部の電源をオフし、メインメモリ、表示RAMおよびフォント/中断RAMには、電源を供給したままとする点 上記a及びbの差異について検討する。 取消理由において引用した刊行物2には、情報処理装置を電源オフ後再投入する時に、バックアップ電池を使用せずに継続処理可能とするため、電源オフ時のメモリの内容及びCPUのレジスタの内容を、外部記憶装置(バッテリによるバックアップを要しない不揮発性の記憶装置であることは、明細書全体及び図面の記載から明らかである。)に待避し、その後電源をオフにする(メモリの電源も含むことは図面の記載から明らかである。)情報処理装置が記載から、メインメモリを含むシステムの状態をバッテリによるバックアップを要しない不揮発性の外部記憶装置に退避し、待避後メインメモリ、CPUおよび入出力部を含むコンピュータ内部の電源をオフすることは、当業者が容易になしえたことである。 したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである ▲2▼請求項2に係る発明について 本件請求項2に係る発明は、請求項1を引用するものであって、 「前記退避処理開始検出手段は、 使用者により操作可能なスイッチの操作状態が所定の状態となったとき、前記CPUに対して割り込み信号を出力する割込信号出力手段と、 該割込信号を受け取った前記CPUは、該割込信号をもってコンピューターの電源に対するオフ要求と判断する判断手段とからなる」点を、更に追加したものである。 しかし、上記引用発明における「中断NMI信号」は、割込み信号であるから、請求項1に係る発明において述べた理由と同じ理由で、本件請求項2に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである ▲3▼請求項3に係る発明について 本件請求項3に係る発明は、請求項1を引用するものであって、 「使用者により操作可能なスイッチを設けると共に、 前記退避処理開始検出手段は、 少なくとも文字が入力可能なキーを備えたキーボードと、 該キーボードの操作状態を判定するキー判定手段と、 該キー判定手段による処理において、前記スイッチの操作状態を判断するスイッチ判断手段と、 該スイッチの操作状態が所定の状態となったと判断されたとき、コンピューターの電源に対するオフ要求と判断する判断手段と を備え」る点を、更に追加したものである。 しかし、電源スイッチの操作状態及びキーボードの操作状態を判定する手段を有する情報処理装置は、上記参考文献1、2に示されるように周知であり、また、判定をどのようなタイミングで行うかは、入力情報の種類、システムにおける重要度等に応じて適宜選択できる設計的事項であるから、本件請求項3に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 ▲4▼請求項4に係る発明について 本件請求項4に係る発明は、請求項1を引用するものであって、 「少なくとも文字が入力可能なキーを備えたキーボードを備え、 前記退避処理開始検出手段は、 前記キーボードからの入力を受け付けるキー入力手段と、 該キー入力手段により受け付けられキーボードからの入力が所定の入力であるとき、コンピューターの電源に対するオフ要求と判断する判断手段と を備え」る点を、更に追加したものである。 しかし、キーボードからの複数のキー入力データを用いて、電源のオン-オフを行うことは、取消理由において引用した刊行物3に示されるように周知技術であるから、キーボードから入力が所定の入力であるとき、コンピューターの電源に対するオフ要求と判断することは、当業者が容易になしえたことである。 したがって、本件請求項4に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 ▲5▼請求項5に係る発明について 本件請求項5に係る発明は、請求項1を引用するものであって、 「装置全体に電源、を供給するパッテリを備え、更に、 前記退避処理開始検出手段は、 前記バッテリによる電源電圧を検出する電源電圧検出手段と、 該検出された電源電圧が所定値以下となったとき、コンピューターの電源に対するオフ要求と判断する判断手段と を備え」る点を、更に追加したものである。 しかし、取消理由において引用した刊行物2に記載された発明は、電源オフの時だけでなく、電圧異常を検出した時にも、メモリの内容とCPUのレジスタ群の内容を外部記憶装置に退避するものであり、しかも、電池の電圧低下を検出したときデータ待避を行うこと自体は上記参考文献3に示されるように周知技術であるから、電源電圧が所定電圧以下になったとき、コンピューターの電源に対するオフ要求と判断して待避処理を開始することは、当業者が容易になしえたことである。 したがって、本件請求項5に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 以上述べたように、本件の請求項1-5に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件の請求項1-5に係る特許は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、取り消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 1999-11-15 |
出願番号 | 特願昭63-222743 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZB
(G06F)
P 1 651・ 856- ZB (G06F) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 圓道 浩史 |
特許庁審判長 |
森田 信一 |
特許庁審判官 |
鈴野 幹夫 高松 猛 |
登録日 | 1998-05-15 |
登録番号 | 特許第2779813号(P2779813) |
権利者 | セイコーエプソン株式会社 |
発明の名称 | コンピューター |