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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C25D
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C25D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C25D
管理番号 1068866
異議申立番号 異議2001-70026  
総通号数 37 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2003-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-01-09 
確定日 2002-09-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3060537号「リン酸塩化成処理方法」の請求項1ないし16に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3060537号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3060537号(以下「本件特許」という。)は、平成5年4月30日(優先権主張 平成4年4月30日 日本)に国際出願したものであって、平成12年4月28日に、請求項1〜16に係る発明について特許権の設定登録がなされた後、平成13年1月19日に特許異議申立人 福島一郎より、その請求項1〜16に係る特許について特許異議の申立がなされ、その後、平成13年7月6日付けで審判官合議体より特許取消理由の通知がなされ、平成13年9月24日付けで特許権者より訂正請求書及び特許異議意見書の提出がなされ、平成14年6月12日付で審判官合議体より訂正拒絶理由の通知がなされ、平成14年8月23日付けで特許権者より手続補正書が提出されたものである。

II.補正及び訂正の適否について
上記平成14年8月23日付け手続補正書による補正は、先の訂正請求書に添付された明細書中の軽微な瑕疵を補正するものであって、訂正請求書の要旨を変更するものとは認められず、そして、当該補正された訂正請求書による訂正は、以下のとおりである。
(II-1)訂正の内容
訂正事項a(特許請求の範囲の訂正)
(a-1)「【請求項1】少なくともリン酸イオン・・・ことを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」を、
「【請求項1】少なくともリン酸イオン、窒素を含むオキソ酸イオンおよび化成皮膜形成金属イオンを含むリン酸塩化成処理液に、導電性を有する金属材料を接触させて前記金属材料表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記リン酸塩化成処理浴は、化成処理浴の有する酸化還元電位が250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲にある不可避成分以外の固型分を含有しない浴であり、前記リン酸塩化成処理浴中にて、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-2)【請求項6】に係る記載を削除する。
(a-3)「【請求項7】前記金属材料は・・・請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項6】前記金属材料は、銅、アルミニウム、鉄の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-4)「【請求項8】リン酸イオン・・・・ことを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」 を、「【請求項7】リン酸イオン、硝酸イオン、化成皮膜形成金属イオンおよび酸化剤を含むリン酸塩化成処理浴に鉄鋼、銅、アルミ材の少なくとも一つを接触させ、被膜形成反応を生じさせることによって、該金属表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、 前記化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とするとともに、前記リン酸塩化成処理浴全体が、前記リン酸塩化成処理浴の液体としてのエネルギー状態を熱力学的に安定にする安定化手段によって、エネルギー状態を安定に維持させることにより、不可避成分以外の固型分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴とし、前記リン酸塩化成処理浴中において、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-5)「【請求項9】前記リン酸塩化成処理浴は・・・・請求項8記載のリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項8】前記リン酸塩化成処理浴は、前記リン酸塩化成処理浴を有する浴槽中より、前記リン酸塩化成処理浴の一部を取り出し、前記リン酸塩化成処理浴の液体としてのエネルギー状態を熱力学的に安定にする安定化手段によって、エネルギー状態を安定にした後、再び前記浴槽に戻すことを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-6)「【請求項10】前記安定化手段は・・・・請求項8記載のリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項9】前記安定化手段は、前記リン酸塩化成処理浴が液体のみの状態を維持しつつ、かつ前記液体が有する内部エネルギーを熱力学的に安定化させることを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-7)「【請求項11】前記電解処理は・・・請求項8記載のリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項10】前記電解処理は、電流を印加する方法であることを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-8)【特許請求の範囲】の【請求項12】に係る記載を削除する。
(a-9)「【請求項13】リン酸イオン・・・・ことを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」を、
「【請求項11】リン酸イオン,硝酸イオン,化成被膜形成金属イオンおよび酸化剤を含む40℃以下に維持されたリン酸塩化成処理浴に鉄鋼・銅・アルミを接触させ、前記リン酸塩化成処理浴と前記鉄鋼材料間に被膜形成反応を生じさせることによって、鉄鋼・銅・アルミ表面にリン酸塩化成処理被膜を形成する方法において、
前記化成処理浴の有する酸化還元電位が250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲にあり、前記リン酸塩化成処理浴の一部を取り出し、該取り出したリン酸塩化成処理浴を再び戻すという循環経路を設けるとともに、前記循環経路中には、SiO2、Al2O3を基本構成化合物としてもつ無機物よりなるフィルターを設けて、不可避成分以外の固形分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴中において、前記金属材料を電解処理することを特微とするリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-10)「【請求項14】前記電解処理は・・・請求項13記載のリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項12】前記電解処理は、電流を印加する方法であることを特徴とする請求項11記載のリン酸塩化成処理方法。」 と訂正する。
(a-11)【請求項15】に係る記載を削除する。
(a-12)「【請求項16】リン酸イオン・・・ことを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」を、
「【請求項13】リン酸イオン、硝酸イオン、化成皮膜形成金属イオンおよび酸化剤を含むリン酸塩化成処理浴に鉄鋼、銅、アルミ材の少なくとも一つを接触させ、被膜形成反応を生じさせることによって、該金属表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とするとともに、前記リン酸塩化成処理浴中のリン酸塩化成処理(皮膜形成)反応を、前記金属表面のみで相転移を伴う前記金属表面の固相-液相間電気化学(酸化-還元)反応と前記リン酸塩化成処理浴中で相転移を伴わない液相-液相問の電気化学反応のみとし、不可避成分以外の固型分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴中とし、前記リン酸塩化成処理浴中にて前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。

訂正事項b(特許請求の範囲以外の訂正)
(b-1)明細書第20頁第24行〜第21頁第4行(特許明細書の第9頁左欄下から第9行〜同頁右欄第1行)の「なお、本発明にかかる化成皮膜処理中の・・・・であることが好ましい。」を
「なお、本発明にかかる化成皮膜処理浴中のリン酸イオンは、概ね4g/l(グラム/リットル)以上、皮膜形成金属イオンは、概ね1.5g/l以上、硝酸イオンは、概ね3g/l以上必要であることが好ましい。逆に、リン酸イオンの上限は、概ね150g/l程度、皮膜形成金属イオンの上限は、概ね40g/l程度、硝酸イオンの上限は、概ね150g/l程度であることが好ましい。また、最も好ましいイオン濃度は、リン酸イオンでは概ね5〜80g/l程度、皮膜形成金属イオンでは概ね2〜30g/l程度、硝酸イオンでは概ね10〜60g/l程度であることが好ましい。」と訂正する。

(II-2)訂正の目的、範囲、及び実質上の拡張又は変更について
訂正事項(a-1)、(a-2)、(a-4)、(a-8)、(a-9)、(a-11)及び(a-12)は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、訂正事項(a-3)、(a-5)〜(a-7)、(a-10)及び(b-1)は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、これらの訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内の訂正と認められ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものとは認められない。
したがって、本訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定により、なお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、及び第2項の規定に適合するので、本訂正を認める。

III.本件発明
訂正後の請求項1〜13に係る発明(以下、「訂正発明1」〜「訂正発明13」という。)は、上記補正後の訂正明細書(以下、単に「明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1〜13に記載されたとおりの、次のものと認める。
「【請求項1】少なくともリン酸イオン、窒素を含むオキソ酸イオンおよび化成皮膜形成金属イオンを含むリン酸塩化成処理液に、導電性を有する金属材料を接触させて前記金属材料表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記リン酸塩化成処理浴は、化成処理浴の有する酸化還元電位が250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲にある不可避成分以外の固型分を含有しない浴であり、前記リン酸塩化成処理浴中にて、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。
【請求項2】前記金属材料を陽極として電解処理をすることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項3】前記金属材料を陰極として、被膜形成金属を陽極として電解処理をすることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項4】最初に、前記金属材料を陽極として電解処理し、その後前記金属材料を陰極として電解処理をすることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項5】前記電解処理は、電流を印加する方法であることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項6】前記金属材料は、銅、アルミニウム、鉄の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項7】リン酸イオン、硝酸イオン、化成皮膜形成金属イオンおよび酸化剤を含むリン酸塩化成処理浴に鉄鋼、銅、アルミ材の少なくとも一つを接触させ、被膜形成反応を生じさせることによって、該金属表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とするとともに、前記リン酸塩化成処理浴全体が、前記リン酸塩化成処理浴の液体としてのエネルギー状態を熱力学的に安定にする安定化手段によって、エネルギー状態を安定に維持させることにより、不可避成分以外の固型分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴とし、前記リン酸塩化成処理浴中において、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。
【請求項8】前記リン酸塩化成処理浴は、前記リン酸塩化成処理浴を有する浴槽中より、前記リン酸塩化成処理浴の一部を取り出し、前記リン酸塩化成処理浴の液体としてのエネルギー状態を熱力学的に安定にする安定化手段によって、エネルギー状態を安定にした後、再び前記浴槽に戻すことを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項9】前記安定化手段は、前記リン酸塩化成処理浴が液体のみの状態を維持しつつ、かつ前記液体が有する内部エネルギーを熱力学的に安定化させることを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項10】前記電解処理は、電流を印加する方法であることを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項11】リン酸イオン,硝酸イオン,化成被膜形成金属イオンおよび酸化剤を含む40℃以下に維持されたリン酸塩化成処理浴に鉄鋼・銅・アルミを接触させ、前記リン酸塩化成処理浴と前記鉄鋼材料間に被膜形成反応を生じさせることによって、鉄鋼・銅・アルミ表面にリン酸塩化成処理被膜を形成する方法において、
前記化成処理浴の有する酸化還元電位が250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲にあり、前記リン酸塩化成処理浴の一部を取り出し、該取り出したリン酸塩化成処理浴を再び戻すという循環経路を設けるとともに、前記循環経路中には、SiO2、Al2O3を基本構成化合物としてもつ無機物よりなるフィルタを設けて、不可避成分以外の固形分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴中において、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。
【請求項12】前記電解処理は、電流を印加する方法であることを特徴とする請求項11記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項13】リン酸イオン、硝酸イオン、化成皮膜形成金属イオンおよび酸化剤を含むリン酸塩化成処理浴に鉄鋼、銅、アルミ材の少なくとも一つを接触させ、被膜形成反応を生じさせることによって、該金属表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とするとともに、前記リン酸塩化成処理浴中のリン酸塩化成処理(皮膜形成)反応を、前記金属表面のみで相転移を伴う前記金属表面の固相?液相間電気化学(酸化?還元)反応と前記リン酸塩化成処理浴中で相転移を伴わない液相?液相間の電気化学反応のみとし、不可避成分以外の固型分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴中とし、前記リン酸塩化成処理浴中にて前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」

IV.特許異議申立について
(IV-1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人 福島一郎は、本件の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物として、甲第1号証(特開平2-153098号公報;平成2年6月12日公開)、甲第2号証(特公昭55-23916号公報;昭和55年6月25日公告)、甲第3号証(特開平4-36498号公報;平成4年2月6日公開)、及び、甲第4号証(特開平1-198488号公報;平成1年8月10日公開)を提示して、特許権設定登録時の本件請求項1〜16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり(理由1;発明の新規性)、あるいは、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので(理由2;発明の進歩性)、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、また同上請求項8〜16に係る特許は、明細書の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満足しない特許出願に対してなされたものであるので(理由3;明細書等の記載要件)、これら請求項1〜16に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。

(IV-2)証拠の記載事実
甲第1号証(特開平2-153098号公報)
(1-1)「1.リン酸イオンと他の活性なアニオンと皮膜形成金属イオンからなるリン酸塩化成処理液に金属を浸漬して陰極電解処理することにより皮膜を形成する方法であって、前記化成処理液中のリン酸イオン(P)と全アニオン(An)の重量比率 P/Anを0.6〜0.08とし、低温処理することを特徴とするリン酸塩化成処理法。
2.前記第1項の処理をして電解皮膜を形成した後、該皮膜を酸性水溶液で処理することにより電解皮膜上層部をエッチングすることを特徴とするリン酸塩化成処理法。
3.活性なアニオンが硝酸イオン又は硝酸イオンと塩素酸イオンとの組合せからなる前記第1項記載のリン酸塩化成処理法。
4.皮膜形成金属イオンが、亜鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニッケル、スズ、鉄のイオンの少なくとも1種を含む前記第1項記載のリン酸塩化成処理法。」(特許請求の範囲)
(1-2)「本発明はリン酸塩電解化成処理法に関するものであり、低温リン酸塩化成処理液を用い陰極電解処理することにより強固な塗膜密着性、耐食性にすぐれた皮膜を安定して形成する方法に関するものである。」(第1頁右下欄第16〜20行)
(1-3)「本発明は、この問題を解決すべく研究した結果、低温化成処理液中の硝酸イオンのような活性のアニオン成分の比率を大にすることにより、低温でも素材の溶解エッチングを十分に大にし、しかもリン酸イオンの比率を小にしたことによる皮膜形成の不安定さを単に浸漬するだけでなく、浸漬した後陰極電解することにより、皮膜形成金属イオンを強制的に電解の力で電析させると共に、その助けを借りてリン酸塩皮膜を容易に安定して形成し、次いで形成された皮膜を酸性水溶液で処理して、その皮膜の上層部をエッチングして、塗膜との密着性および耐食性に優れたリン酸塩皮膜をより安易に安定して確実に形成することに成功したものであり、ここに提示する。」(第2頁左下欄第8行〜右下欄第1行)
(1-4)「電解を中止すると、始めの状態に戻り化成処理液は安定して水溶化しており、スラッジは生じない。」(第2頁右下欄第19行〜第3頁左上欄第1行)
(1-5)「金属は、通常の鋼材、電気亜鉛又は亜鉛合金めっき鋼板、溶融亜鉛又は亜鉛合金めっき鋼板等が一般的であるが、アルミニウム材等にも適用できる。」(第3頁左上欄10〜14行)
(1-6)「活性なアニオンは硝酸イオン、塩素酸イオンが適当であるが、塩素酸イオンは硝酸イオンよりも活性(不安定)であるため、硝酸イオンを併用して用いることが適切である。この他リン酸イオンよりも活性なオキソ酸イオンも使用することができる。」(第3頁左上欄第14〜19行)
(1-7)「PHは0.5〜4.5が適当である。・・・好しいPHの範囲は2〜4である。」(第3頁右上欄第15〜20行)
(1-8)「低温処理温度は、大体5〜50℃、好しくは10〜35℃が適当である。」(第3頁左下欄第4〜5行)
(1-9)「本発明は金属を低温化成処理液に浸漬して陰極電解処理して皮膜を形成するため、亜硝酸(酸化剤)イオンを使用する必要がなく、管理は更に容易になり、スラッジの生成も著しく改善される。」(第3頁左下欄第10〜13行)
(1-10)「陰極電解処理は陰極電解処理又はこれに他の電解が一部加ったものでも良い。電流密度は0.05〜5A/dm2 好しくは、0.1〜3A/dm2 が普通であり」(第3頁右下欄第17〜20行)
(1-11)「実施例 脱脂、水洗して清浄にした鋼板を別表のPH3.2に調節したリン酸亜鉛化成処理液(A)に浸漬し、次いで、20℃、電流密度0.5A/dm21分間陰極電解処理した後水洗する。」(第4頁左上欄第14〜18行)

甲第2号証(特開昭55-23916号公報)
(2-1)「1 低炭素鋼帯、亜鉛メッキ鋼帯および亜鉛合金メッキ鋼帯等の鋼帯に伸び率0.1〜3%の調質圧延を行ない直ちに該鋼帯を陽極にし、0.5〜50A/dm2の電流密度でリン酸塩処理浴中で電解することを特徴とするリン酸塩処理方法。」(特許請求の範囲)

甲第3号証(特開平4-36498号公報)
(3-1)「亜鉛イオン 3〜20g/l、りん酸イオン 3〜20g/l、及び硝酸イオン 3〜40g/lを必須成分として含有し、りん酸イオンに対する亜鉛イオンの重量比が0.7〜1.4で、りん酸イオンに対する硝酸イオンの重量比が0.7〜2.6であって、錯化剤を含有していない電解浴で炭素鋼線材を陰極電解して該線材の表面に短時間でりん酸塩化皮膜を形成させることを特徴とする炭素鋼線材の表面処理方法。」(特許請求の範囲)
(3-2)「本発明は.炭素鋼線材の表面にインラインで密着性に優れかつ均一で緻密なりん酸塩化皮膜を高速で化成させるために適用され、特に炭素鋼線材をインラインで伸線加工を行う場合の潤滑処理として好適であり、低合金鋼に対しても効果的に適用できる新規な表面処理方法に関する。」(第1頁左下欄第15〜20行)
(3-3)「電解化成は、表1に示す浴液を55℃に保ち電解時間は10秒、電流密度は7A/dm2で電解浴中に被加工線材を陰極として、極間距離を10cmとし炭素板を陽極として2ヵ所に置き処理した。」(第4頁左上欄第15〜18行)

甲第4号証(特開平1-198488号公報)
(4-1)「1.浴容器からリン酸塩処理溶液の一部を分割し、独立した装置中で分割した溶液に酸化剤を加え、溶液中に含まれている鉄をリン酸鉄として沈殿させ、リン酸鉄スラッジを除いた溶液を、浴パラメーターを所望の数値に調整しつつ溶容器に回収する方法・・・」(特許請求の範囲)
(4-2)「ドイツ公開特許第3345498号では、鉄または鋼表面にリン酸塩被覆を作る方法において、リン酸塩処理浴でのスラッジの形成に対し、浴容器からリン酸塩処理溶液の一部を分割して取り出し、独立した装置中でリン酸鉄を沈殿させるためそこへ酸化剤を加え、その後、溶液をロ過してリン酸鉄スラッジを除去し、浴容器へ回収するという予防措置をとることを提案している。」(第3頁左下欄第18行〜右下欄第5行)
(4-3)「従来技術で知られているNO2・・・のような「強」促進剤を酸化剤として使用」(第5頁左上欄第11〜13行)

(IV-3)対比・判断
a.理由1(発明の新規性)及び理由2(発明の進歩性)について
(1)訂正発明1について
訂正発明1と、甲第1号証に記載されたものとを対比すると、甲第1号証には、リン酸イオンと他の活性なアニオンと皮膜形成金属イオンからなるリン酸塩化成処理液に金属を浸漬して陰極電解処理することにより皮膜を形成するリン酸塩化成処理法(摘記1-1)に係る発明が記載され、併せて、上記の活性なアニオンとしては、硝酸イオンが挙げられること(摘記1-1)が記載されており、これは、訂正発明1における上記「窒素を含むオキソ酸イオン」に該当する。してみれば、訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明と、
「少なくともリン酸イオン、窒素を含むオキソ酸イオンおよび化成皮膜形成金属イオンを含むリン酸塩化成処理液に、導電性を有する金属材料を接触させて前記金属材料表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、前記リン酸塩化成処理浴中にて、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法」の点で一致し、そして、
(イ)訂正発明1では、前記リン酸塩化成処理浴について、「化成処理浴の有する酸化還元電位が250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲にある」と規定されているのに対して、甲第1号証には当該酸化還元電位に係る記載が見あたらない点、及び、
(ロ)訂正発明1では、前記のリン酸塩苛性処理浴について、「不可避成分以外の固型分を含有しない」浴であると規定されているのに対して、甲第1号証の記載においては、当該「不可避成分以外の固型分」の含・不含の点について明らかでない点、
の各点において、訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明と相違していると認められる。

そこで、これら相違点(イ)及び(ロ)について、以下検討する。
相違点(イ)について
上記の酸化還元電位ついて、本件明細書には、鉄鋼材料の処理する場合について可溶性の金属イオン、特にFe2+が多ければ、酸化還元電位は低くなり、逆に、可溶性の金属イオン、特にFe2+が少なければ、酸化還元電位は高くなること(明細書第18頁第7〜11行;特許公報第17欄第3〜9行参照。)が記載され、また、化成処理浴の管理について、酸化還元電位の変動に対応し、主剤(リン酸、硝酸、亜鉛等を含む酸性の薬品)を投入するのが望ましく、より確実な化成処理浴の管理のために、化成処理浴の他の電気化学パラメータである水素イオン濃度(PH)、電気電導度(EC)と併用して使用することが好ましいこと(明細書第19頁第16〜20行;特許公報第18欄第2〜8行参照。)が記載されており、リン酸塩化成処理浴の酸化還元電位の値が、Fe2+等の可溶性の金属イオンの含有量の影響を受け、そして、その管理は、上記主剤の投入、並びに水素イオン濃度(PH)及び電気伝導度(EC)との併用により行うことが開示されている。
一方、特許異議申立人は、甲第1号証記載のリン酸塩化成処理液の組成及びPHが本件明細書記載のリン酸塩化成処理液の組成及びPHの範囲内にあるから、甲第1号証に記載のリン酸塩化成処理液の酸化還元電位は、訂正発明1と同じ250〜650mVの範囲内にあると主張している。しかし、リン酸塩化成処理浴の酸化還元電位は、上記のとおり、Fe2+等の可溶性の金属イオンの含有量の影響を受けるものであり、しかも、上記主剤(即ち、「リン酸、硝酸、亜鉛等を含む酸性の薬品」)の投入及び水素イオン濃度(PH)のみならず、電気伝導度(EC)によっても管理されるものであることからすると、甲第1号証に、訂正発明1と重複する浴組成及びPHの範囲が記載されているからと言って、これが直ちに、250〜650mVの酸化還元電位を意味すると言うことはできない。
そして、甲第2号証には、鋼帯を陽極にしてリン酸塩処理浴中で電解するリン酸塩処理方法(摘記2-1)が記載され、甲第3号証には、亜鉛イオン、りん酸イオン、及び硝酸イオンを含有する電解浴で炭素鋼線材を陰極電解して該線材の表面にりん酸塩化皮膜を形成させる炭素鋼線材の表面処理方法(摘記3-1)が記載され、また、甲第4号証には、浴容器からリン酸塩処理溶液の一部を分割し、独立した装置中で分割した溶液に酸化剤を加え、溶液中に含まれている鉄をリン酸鉄として沈殿させ、リン酸鉄スラッジを除いた溶液を、浴パラメーターを所望の数値に調整しつつ溶容器に回収する方法(摘記4-1)
が記載されているが、いずれも、上記相違点(イ)の酸化還元電位に係る記載は、見あたらない。
そして、訂正発明1は、当該相違点(イ)に係る構成要件を含む上記認定のとおりの構成を有することにより、導電性を有する金属材料の表面に対して厚膜のリン酸塩化成被膜を施すことができ(明細書第4頁第10〜12行;特許公報第4欄第48行〜第5欄第2行参照。)、また、処理浴中にスラッジを含まない状態を維持することができる(明細書第14頁第15〜17行;同公報第13欄第14〜17行参照。)という効果を奏したものと認められる。
してみれば、上記相違点(ロ)について改めて検討するまでもなく、訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明とも、また、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明ともいうことができない。

(2)訂正発明2〜6について
訂正発明2〜6は、請求項1を引用して、訂正発明1をさらに限定した発明であるから、上記の「(1)訂正発明1について」で説示したと同様、訂正発明2〜6は、甲第1号証に記載された発明とも、また、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明ともいうことができない。

(3)訂正発明7について
訂正発明7は、特定のリン酸塩化成処理方法の発明であるところ、訂正発明1における相違点(イ)と同様、化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とすることを、その構成要件とするものであるので、上記の「(1)訂正発明1について」で説示したと同様、訂正発明7は、甲第1号証に記載された発明とも、また、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明ともいうことができない。

(4)訂正発明8〜10について
訂正発明8〜10は、請求項7を引用して、訂正発明7をさらに限定した発明であるから、上記の「(3)訂正発明7について」で説示したと同様、訂正発明8〜10は、甲第1号証に記載された発明とも、また、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明ともいうことができない。

(5)訂正発明11について
訂正発明11は、特定のリン酸塩化成処理方法の発明であるところ、訂正発明1における相違点(イ)と同様、化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とすることを、その構成要件とするものであるので、上記の「(1)訂正発明1について」で説示したと同様、訂正発明11は、甲第1号証に記載された発明とも、また、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明ともいうことができない。

(6)訂正発明12について
訂正発明12は、請求項11を引用して、訂正発明11をさらに限定した発明であるから、上記の「(5)訂正発明11について」で説示したと同様、訂正発明12は、甲第1号証に記載された発明とも、また、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明ともいうことができない。

(7)訂正発明13について
訂正発明13は、特定のリン酸塩化成処理方法の発明であるところ、訂正発明1における相違点(イ)と同様、化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とすることを、その構成要件とするものであるので、上記の「(1)訂正発明1について」で説示したと同様、訂正発明13は、甲第1号証に記載された発明とも、また、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができた発明ともいうことができない。

b.理由3(明細書等の記載要件)について
特許異議申立人は、「酸化剤」を構成要件として含む特許権設定登録時の請求項8〜16に係る発明について、特許明細書の発明の詳細な説明には「酸化剤」についての説明がない、として、明細書の記載不備を主張している。
そこで、この点について検討すると、本件明細書には、化成処理浴に含まれる成分として亜硝酸(HNO2)(明細書第11頁第12行;特許公報第10欄第36行参照。)ないし「促進剤」(明細書及び特許公報に記載の各実施例)が説明されており、そして、これら亜硝酸ないし促進剤は、本技術分野における酸化剤として周知のものである(要すれば、甲第1号証摘記1-9、甲第4号証摘記4-3を参照。)。してみれば、発明の詳細な説明には、実質的に酸化剤を含有する場合についての説明がなされており、したがって、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。

V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人 福島一郎の主張する理由及び提示した証拠によっては、訂正発明1〜13に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものということはできない。
また、他に訂正発明1〜13に係る特許について、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めることはできない。
以上のとおりであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
リン酸塩化成処理方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくともリン酸イオン、窒素を含むオキソ酸イオンおよび化成皮膜形成金属イオンを含むリン酸塩化成処理液に、導電性を有する金属材料を接触させて前記金属材料表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記リン酸塩化成処理浴は、化成処理浴の有する酸化還元電位が250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲にある不可避成分以外の固形分を含有しない浴であり、前記リン酸塩化成処理浴中にて、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。
【請求項2】 前記金属材料を陽極として電解処理をすることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項3】 前記金属材料を陰極として、被膜形成金属を陽極として電解処理をすることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項4】 最初に、前記金属材料を陽極として電解処理し、その後前記金属材料を陰極として電解処理をすることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項5】 前記電解処理は、電流を印加する方法であることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項6】 前記金属材料は、銅、アルミニウム、鉄の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項7】 リン酸イオン、硝酸イオン、化成皮膜形成金属イオンおよび酸化剤を含むリン酸塩化成処理浴に鉄鋼、銅、アルミ材の少なくとも一つを接触させ、被膜形成反応を生じさせることによって、該金属表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とするとともに、前記リン酸塩化成処理浴全体が、前記リン酸塩化成処理浴の液体としてのエネルギー状態を熱力学的に安定にする安定化手段によって、エネルギー状態を安定に維持させることにより、不可避成分以外の固形分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴とし、前記リン酸塩化成処理浴中において、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。
【請求項8】 前記リン酸塩化成処理浴は、前記リン酸塩化成処理浴を有する浴槽中より、前記リン酸塩化成処理浴の一部を取り出し、前記リン酸塩化成処理浴の液体としてのエネルギー状態を熱力学的に安定にする安定化手段によって、エネルギー状態を安定にした後、再び前記浴槽に戻すことを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項9】 前記安定化手段は、前記リン酸塩化成処理浴が液体のみの状態を維持しつつ、かつ前記液体が有する内部エネルギーを熱力学的に安定化させることを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項10】 前記電解処理は、電流を印加する方法であることを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項11】 リン酸イオン,硝酸イオン,化成被膜形成金属イオンおよび酸化剤を含む40℃以下に維持されたリン酸塩化成処理浴に鉄鋼・銅・アルミを接触させ、前記リン酸塩化成処理浴と前記鉄鋼材料間に被膜形成反応を生じさせることによって、鉄鋼・銅・アルミ表面にリン酸塩化成処理被膜を形成する方法において、
前記化成処理浴の有する酸化還元電位が250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲にあり、前記リン酸塩化成処理浴の一部を取り出し、該取り出したリン酸塩化成処理浴を再び戻すという循環経路を設けるとともに、前記循環経路中には、SiO2、Al2O3を基本構成化合物としてもつ無機物よりなるフィルタを設けて、不可避成分以外の固形分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴中において、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。
【請求項12】 前記電解処理は、電流を印加する方法であることを特徴とする請求項11記載のリン酸塩化成処理方法。
【請求項13】 リン酸イオン、硝酸イオン、化成皮膜形成金属イオンおよび酸化剤を含むリン酸塩化成処理浴に鉄鋼、銅、アルミ材の少なくとも一つを接触させ、被膜形成反応を生じさせることによって、該金属表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とするとともに、前記リン酸塩化成処理浴中のリン酸塩化成処理(皮膜形成)反応を、前記金属表面のみで相転移を伴う前記金属表面の固相-液相間電気化学(酸化-還元)反応と前記リン酸塩化成処理浴中で相転移を伴わない液相-液相間の電気化学反応のみとし、不可避成分以外の固型分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴中とし、前記リン酸塩化成処理浴中にて前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は金属材料表面にリン酸塩化成皮膜を形成するリン酸塩化成処理方法、さらに詳しくは、導電性を有する金属材料表面に化成皮膜を形成する処理方法に関するものである。
背景技術
従来より、リン酸塩化成処理方法は、塗装の下地処理や冷鍛加工前の前処理等様々な分野において、使用されてきている。
例えば、特開昭60-208479号公報では、鉄、鋼、亜鉛及び/又はアルミニウムの表面に、酸性リン酸塩化成処理を行う方法が開示されている。
また、特開昭64-68481号は鋼および/または亜鉛めっき鋼、あるいはアルミニウムと鋼および/または亜鉛めっき鋼とからなる金属に対して、リン酸塩化成処理する方法について開示している。
また、特開平2-190478号公報はアルミニウム材表面にリン酸塩皮膜を形成する方法としてFe3+イオンを含む化成処理浴を開示している。
また、特開平4-120294号公報では、ステンレススチ-ルの表面に塗装下地処理として、リン酸塩化成処理被膜を形成する際に、リン酸塩化成処理浴中にて、ステンレススチ-ルにPRパルス電流を印加して電解を行うことによって被膜を形成していることが開示されている。
しかしながら従来のリン酸塩化成処理方法においては、特開昭60-208479号公報、特願昭64-68481号および特開平2-190478号公報等の如く、従来より鉄以外の被処理材にリン酸塩化成被膜を形成する方法は、数多く知られていたが、被処理材の種類によって、個々にリン酸塩化成処理浴の成分および処理時の条件を変えなくてはいけないという問題が生じていた。また、そのようなリン酸塩化成処理浴の成分および条件は、非常に厳しいものであり、到底実用的とはいえなかった。
また、特開平4-120294号公報の如く、リン酸塩化成処理浴中にて被処理材に電解をかけることによって、鉄鋼以外の被処理材であるステンレススチールの如く被処理材においてもリン酸塩化成処理被膜を形成することが可能であることは知られていたが、このような被膜はいまだ塗装の下地の如く、非常に薄い膜厚の形成に限られていた。
本発明は、上記問題を鑑みることによって得られた発明であり、どのような導電性を有する金属材料の表面に対しても、十分な膜厚を有するリン酸塩化成被膜を施すことのできるリン酸塩化成処理方法を提供するものである。
発明の開示
そこで、本発明者らは、なぜ従来のリン酸塩化成処理方法において、鉄以外の処理において、上述するような複雑な条件が必要であったのか、さらには、十分な膜厚を得ることのできる処理方法ができなかったのか鋭意研究することによって、その原因をつきとめ、さらにはその原因を解決する手段を見いだした。
即ち、従来においては、リン酸塩化成処理方法において、被処理材を鉄鋼材として用いた方法を、そのままその他の被処理材に適応しているのにすぎないため、鉄鋼以外の被処理材の処理条件が非常に厳しいものになったり、または、鉄鋼材料との複合材料としかリン酸塩化成処理被膜を形成することができなかったのであると思われる。
そこで、本発明においては、まずリン酸塩化成処理被膜形成の過程を、リン酸塩化成処理反応を下記の2つの面から詳細に検討した。
それは、リン酸塩化成処理被膜の形成の化学反応は電気化学反応として把握できることから、第1の化学反応面からの解析を行った。
また、第2に相転移現象としての解析を行った。これはリン酸塩化成処理反応を可溶性成分(液体)が化学反応して皮膜(固体)になる現象を指すものである。
なお、上記のいづれの検討(解析)においても、熱力学の第1法則及び第2法則が重要な役割を果たすことを合わせて述べておく。
以下詳細な検討結果を述べる。
最初に化学反応面からの解析を行う。
リン酸塩化成処理とは、金属材料と薬液との化学反応を利用して金属材料素地上に皮膜を形成させる、いわゆる化成皮膜処理方法の一種である。そして、化成処理液として鉄,マンガン、ニッケル、カルシウムあるいは亜鉛等の皮膜形成金属イオンを含むリン酸塩水溶液を使用している。
リン酸塩化成処理方法は、鉄鋼材料に対するエッチング反応工程と、皮膜を形成する皮膜形成反応工程とからなるとみることができる。そして、それらは、電気化学反応でありカソード反応としての硝酸イオン等の還元反応、例えば、
【化1】
NO3-+3H++2e→HNO2+H2O
【化2】
HNO2+H++e→NO+H2O
と、アノード反応としての金属の溶解(エッチング)反応(化3)と皮膜形成反応(化4)である反応、
【化3】
Fe→Fe2++2e+ΔH (発熱反応)
【化4】
3(Zn2+,Fe2+)+2H2PO4-→
(Zn,Fe)3(PO4)2+4H+ (吸熱反応)
とからなる。
そして上記化1から化4までの反応以外に化成処理浴のバランス保持反応として、
【化5】
H3PO4 H2PO4-+H+
【化6】
4OH-→O2+2H2O+4e
【化7】
NO3-+3H++2e HNO2+H2O
等がある。
通常の無電解の鉄鋼材料の化成処理反応では化3の反応が主反応として働き、化3による反応で溶液内へ放出される内部エネルギー(ΔH)を利用して化1,化2及び化4の反応が金属材料(固体)表面で起こり、皮膜形成が行われると考えられる。従って、反応系(すなわち化成処理浴)に熱等の他のエネルギーが加えられないならば、化成皮膜形成は化1,2に代表される硝酸等の窒素含有オキソ酸イオンの還元反応と、化3、4に代表される鉄の溶解及びリン酸イオンの酸化からなる酸化反応にて行われる。
このように、従来の無電解で、他のエネルギーを供給しない化成皮膜形成は、金属材料の溶解に伴って発生したエネルギー(ΔH)のみを利用し行われ、溶解に伴って発生したエネルギー(ΔH)以上には化成皮膜は形成されない。
それに対して、金属材料としてアルミニウム、銅等の被鉄金属を用いた場合の溶解反応は次のようになる。
【化8】
M→Mn++ne
しかしながら、例えばアルミニウムを鉄鋼材に用いるリン酸塩化成処理浴に浸漬させたとしても、アルミニウムの表面に不導体が形成されており、アルミニウムはリン酸塩化成処理浴中において溶解することはなく、化8の反応が進まないことになる。そのため、アルミニウム表面の溶解によって生じるはずのエネルギーが発生しない。
従来では、金属材料としてアルミニウムを使用する場合、化8の溶解反応を促進するために化学処理浴中にフッ素イオン(F-)を導入するのが好ましいとされていた。
また、同様に金属材料として銅(Cu)を使用する場合には化成処理浴中にフッ素イオン以外のハロゲンイオン、例えば塩素イオン(CI-)を導入するのが良いとされてきていた。
しかしながら、上述の如く、金属材料を溶解させたとしても、これら被処理材に対しては、良好なリン酸塩化成処理被膜を形成することはできなかった。
その理由として、従来の無電解法やスラッジを有する処理浴における電解法を採用する場合には、前述の如く、一般的な鉄鋼以外の金属素材(ステンレススチール、銅等)には、上述の化1〜化8のリン酸塩化成処理反応系全体を対象として、その反応系全体を有効に進めるエネルギー利用の技術的思想がなかった。故に、反応系全体を制御する具体的な処置も実施されていなかったためである。
即ち、例えば、アルミ材の場合における、鉄鋼の化3に代わる溶解反応は、
【化9】
Al→Al3++3e
であるが、
このような場合には、以下の如く理由にて、被膜形成のための十分なエネルギー供給ができなくなることを見いだしたのである。
▲1▼この化9は、F-を添加しない場合は非常に遅く、化9によって、発生するエネルギーもまた非常に少なく、従って全体の反応系が成立しなくなる。
▲2▼F-を添加した場合には化9は充分に早く進むが、その結果生じるAl3+とF-との錯体(AlF4-)が形成され、この錯体が溶液中で安定となり、化4に代わるAlを含んだ被膜形成反応ができなくなる。
以上の如く、リン酸塩化成処理被膜の形成の化学反応を電気化学反応とみなすことにより、従来の如く、単純に、第3成分を添加することによって、化8の反応を促進させたのみでは、鉄鋼以外の金属材料または導電材料にリン酸塩化成処理被膜を形成することはできないことを見いだしたのである。
次に、我々は次にリン酸塩化成処理反応の相転移現象面からの解析を行った。
即ち、本発明者は、リン酸塩化成処理反応は基本的に浴中の可溶性成分イオン(液体)が化学反応により皮膜(固体)になる、「液相-固相」反応であるとし、そのことは、相転移現象として、把握することができると考えた。
しかしながら、従来においては、リン酸塩化成処理反応をこのように、相転移現象の一種ととらえることができなかった。
なぜなら、従来の処理浴においては、化成処理反応が十分に制御されていないため、リン酸塩化成処理浴中には、被処理材表面以外においても、複数の化学反応が浴中にて同時に起きている。このように、同時に複数の反応が生じている場合、浴中においては、一種類の「液相-固相」反応のみではなく、複数の「液相-固相」反応および複数の「液相-液相」反応が生じている。その結果、処理浴にはスラッジが含まれることになる。そのため、それら反応間のエネルギー授受は複雑になってしまい、故に、金属表面の皮膜形成を、相転移現象としてとらえることは、不可能となるのである。
即ち、相転移現象の熱力学的な解析は例えば水の如く、単一成分系では、容易に理解されるところであるが、一旦、リン酸塩化成処理浴中における反応の如く、複雑な化学反応を伴う複成分系では、非常に理解しにくくなってしまう。
そこで、本発明者は、このリン酸塩化成処理浴中の反応を物理現象的に単純化させることによって、浴中の反応を相転移現象としてみなすことができることを見いだした。即ち、リン酸塩化成処理浴中の反応を溶液内成分(液体)から皮膜(固体)を形成するという反応のみとするように、浴の状態を液体のみの状態に制御する。そして、リン酸塩化成処理浴中の化学反応を単一相(液体)での反応とし、その結果、皮膜(固体)を生じるということから、リン酸塩化成処理反応を相転移現象と見なすのである。そして、それを具体的に利用することにより、従来とは基本的に異なるより有効な化成皮膜形成手段を見いだすことができるのではないかと考えたのである。
以下に、相転移現象とみなすことによる具体的な解析内容を説明する。
そもそも、リン酸塩化成処理は被処理物である金属材料(固体)と皮膜形成成分を含んだ溶液(液体)とを接触させ行うものである。そのため、化成処理に関連する反応は
▲1▼金属材料(固相)と溶液(液相)との反応(固相-液相反応)
▲2▼溶液内成分相互の反応(液相-液相反応)
に大別される。
そして、熱力学的検討からは、相転移現象(液体→固体)は液相-液相間の作用(反応)よりも固相-液相間の作用(反応)により方がより容易に起こることが認められている。これは、例えば空気中の水分の凝析は、同一相(気相-気相)よりも固体の表面(固相-気相)にて容易に行われ、この一例として、我々が露(つゆ)・霜(しも)を見ることからも容易に理解できるものと思われる。
即ち、溶液中の「液相-液相」反応にて固体を析出するのは、被処理物表面の「固相-液相」反応よりも大きなエネルギーを反応系に付加する場合に限られるのである。
故に上記の事から、発明者は、リン酸塩化成処理浴中の反応を相転移反応とみなすことによって、化成処理反応系に付加するエネルギーを液相-液相間では反応(相転移)しない範囲内とし、固相-液相間にて反応(相転移)する範囲に制御することにより、化成処理反応は「固相-液相」間での相転移現象(皮膜形成)に限定し行うことができるという事実をはじめて見いだしたのである。
また、相転移現象の見地から従来の方法(処理浴を加温する方法)を検討してみると、従来では、被処理材にリン酸塩化成処理被膜を形成しようとして処理浴にエネルギーを与えた場合、浴は化学反応面で、十分に制御されていないため、被処理材表面以外でも、過剰のエネルギーによる反応(相転移)が起こり、浴中にスラッジが形成される。その結果、複数の固相-液相間の相転移作用が処理浴中で生じることになる。そのため、外部からのエネルギー供給がリン酸塩化成処理被膜の膜厚を制御するには到底およばず、単に、より多くのスラッジ生成を促進することとなり、被処理材表面への良好なリン酸塩化成処理被膜の形成は困難となってしまうのである。
以上のように、リン酸塩化成処理浴中の反応を2つの面から、即ち、化学反応面および相転移現象面からの解析によって、なぜ従来の方法では、鉄鋼以外の金属材料および導電材料に対して、良好な、十分に膜厚の制御されたリン酸塩化成処理被膜ができないかをはじめて理解することができた。
さらに、本発明は、上述の解析から、さらにどのようにすれば、導電材料である金属材料に対して、十分に膜厚の制御されたリン酸塩化成処理被膜を形成することができるかを見いだしたのである。
このような背景から、本発明者はリン酸塩化成処理反応は本来電気化学反応系であり、その考えに基づいた反応の制御を考えるべきであると判断した。
即ち、少なくともリン酸イオン、窒素を含むオキソ酸イオンおよび化成皮膜形成金属イオンを含むリン酸塩化成処理液に、導電性を有する金属材料を接触させて前記金属材料表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記リン酸塩化成処理浴は、不可避成分以外の固型分を含有しない浴で処理すとともに、前記リン酸塩化成処理浴中にて、前記金属材料を電解処理するリン酸塩化成処理方法という全く新しい方法を見いだすことができたのである。
その具体的な工夫として、▲1▼化成処理浴からの固型分(スラッジ)の除去及び▲2▼外部電源の反応への利用を行った。
ここで、リン酸塩化成処理浴が不可避成分以外の固型分を含有しないことは、浴中にエネルギー的に不安定なスラッジがない状態を意味し、即ち、浴が反応に関与する反応活性なにごりのない状態を意味するものである。
本発明の電解処理による反応は、この前記外部電源からの電気エネルギー供給によって、化1〜化8の反応を促進させるものであり、その点で従来の電気めっきおよび陽極酸化とは大きく異なるものである。
本発明の外部電源からのエネルギー供給に伴う反応の1つである陽極処理は、被処理材の溶解反応(化3及び化8)がその溶液中の熱力学的条件では、自然に進まない場合又は進行が充分でない場合に、電気エネルギーを印加することにより溶解反応を促進し、その事により化1〜8の全反応系を皮膜形成できるように進めるものである。陽極処理は、被処理材の溶解反応を促進するものであるから、生成する化成皮膜の密着性を確保するのに有効である。
本発明の外部電源からのエネルギー供給に伴う反応のもう1つの方法である陰極処理は、溶液相の成分イオンに作用し、それを陰極に析出させることにより形成する化成皮膜の厚みを確保するものである。故に、陰極処理のみでは、被処理材金属の溶解反応は起こらないため、陰極処理は陽極処理の後に行うのが好ましい。陰極処理では陽極に亜鉛等の皮膜形成金属材料を用い、それを溶解させ、溶液相内のリン酸イオン及び硝酸イオン等と反応させ陰極(被処理材)表面に皮膜を形成する。
故に、陰極に接続する被処理材が導電性材料であるならば、陽極及び溶液相に所定の金属材料及びリン酸等関連する化学成分を含む薬品を用いて、陰極処理を行うことにより、希望する被処理金属材料にリン酸塩化成皮膜を形成することが可能である。そして、陽極処理後に陰極処理を行うことが好ましく、これにより、密着性にすぐれたリン酸塩化成皮膜を一般の鉄鋼以外の材料であるステンレス鋼、磁性材料、アルミ、銅等に形成することができる。
ここで、陽極処理は、皮膜形成可能な素材については素材の溶解反応を確実に行うことで、皮膜形成を促進することに有効である。そして、陽極処理のみの適用は、皮膜の密着性を増すが、膜厚を大きくしないことから鉄鋼材料の塗装下地処理等に有効である。そして、さらに、陽極処理と陰極処理を組合せる(陽極処理→陰極処理)ことにより、本発明の技術は、あらゆる金属材料に素材との密着性を確保したリン酸塩化成皮膜を、充分に厚く形成することを可能とする。
例えば、リン酸塩皮膜の厚膜化による無機絶縁膜としての用途,磁性材料への絶縁膜の用途、アルミ材の防錆用,塗装下地,接着,塑性加工用潤滑下地等の用途,ステンレス鋼の冷鍛加工潤滑下地,塗装下地の用途等が挙げられる。
本発明は、化成処理浴をスラッジを含有しない可溶性の成分(H3PO4、NO3-,HNO2,Zn2+等の金属イオン等)のみに限定した上で、その処理浴中に被処理物と電極を入れその間に外部電源を接続し、被処理物(ワーク)と電極間に電流を印加する。
そして、処理浴中にスラッジを生じさせないように、リン酸塩化成処理浴を制御するのである。
ここで、リン酸塩化成処理浴を制御するとは、例えば以下の方法がある。
すなわち、化成処理浴へのエネルギー付加の制御(温度制御,循環ポンプ回転数制御による液体への圧力制御、処理浴を反応している状態と反応していない状態とを交互に交代させることによる溶液内エネルギー状態の安定化等)及び濾過等の手段を採用することにより、化成処理浴中にスラッジを生成させない状態を形成、維持することによって、処理浴中の相転移現象を被処理金属表面の被膜形成のみに限定し、リン酸塩化成処理を行うのが好ましい。
そして、本発明においては、リン酸塩化成処理浴槽に、濾過循環ポンプ及び濾過機を設置するのが好ましい。
この濾過循環ポンプ及び濾過機設置の第1目的は、反応活性な溶液の溶液相内の熱力学的エネルギー状態を安定化させることである。処理浴はそれが常に反応する場所に留まるならば、(「反応しない場所」「反応する場所」の交互の循環がないならば)化成処理反応の進行に伴い溶液相内の熱力学的エネルギーは蓄積されてくる。その結果、処理浴溶液相の液体としての安定性が失われ、溶液相内に固体(スラッジ)を生成するようになる。濾過循環ポンプ及び濾過機はそのような溶液の液体としての熱力学的安定性が失われるのを防ぐために設置するものである。それ故、濾過機はそれ自体が一定容積を有し、単に濾過という機能のみならず処理浴が反応していない状態を一定時間以上保持することにより、反応系全体の溶液相の熱力学的安定性に寄与するものである。
処理浴を「反応しない場所」と「反応する場所」に交互に循環させ、溶液相の熱力学的安定性を確保するということはリン酸塩化成処理浴の全反応系(化1〜化8)について、考慮すべきであるが、その代表として、リン酸の平衡状態について以下説明する。
リン酸塩化成処理浴は、リン酸を多く含むPH2〜4程度の溶液である。リン酸はPH2〜4では溶液中で、化5の平衡状態にある。
そして、化成処理(皮膜形成)反応に伴い化5は右に進むことになる。なぜなら、皮膜形成はH3PO4→H2PO4-→PO43-と脱水素したリン酸イオンとZn2+等の金属イオンが結合し、Zn3(PO4)2となるものであるからである。もし溶液が処理槽内のみに留まり、循環しないならば、その溶液の成分は(化5)が右に移行した状態に変化して行く。その結果、溶液槽の化成処理反応系(化1〜化7)は、スラッジを生成し易い状態となる。
一方、処理浴を循環させれば、溶液中のリン酸イオンは処理相から離れた場所では、平衡状態を元に戻す方向((化5)を左へ移行する方向)に作用し、溶液内の熱力学的エネルギー状態を安定化させる方向となる。
故に、溶液相へのスラッジ析出は抑制されるのである。
なお、濾過循環ポンプはその回転数を制御し運転することが好ましい。循環ポンプを高回転にて作動させることは溶液相に高圧力を付加することである。その結果、溶液相内のエネルギーが高まり溶液相は液体としての状態を維持できなくなり、ついには固体(スラッジ)を析出する。しかし、回転数が遅いと大きな容量のポンプを設置する必要があり、コスト高になる。故に、循環ポンプは通常のうず巻きポンプの場合、インバータ等を用いポンプ回転数を適切に制御し、溶液相への圧力を抑え、循環量を確保するようにするのが好ましい。
濾過循環ポンプ及び濾過機設置の第2の目的は、処理浴中に生成してしまったスラッジを除去することである。生成してしまったスラッジ、特にエネルギー的に不安定なスラッジを放置しておくと、処理浴は容易にスラッジを生成し易くなる。故に生成してしまったスラッジは速やかに除去することが好ましい。
また、化成処理反応システムの温度調整は、緩やかに行うことが好ましい。
本発明での化成処理浴の温度は約20〜35℃の範囲である。その温度範囲は概ね通常の室内温度とされる範囲であり、通常の水溶液の温度である。しかし、冬季には所定温度にするために加熱は必要である。ここで重要なのは、本発明では加熱を反応の促進に利用しているのではないことである。すなわち、その20〜35℃という化成処理反応系に係わる温度範囲は化成処理反応を制御するために必要な条件なのであり、熱エネルギーを化成処理反応に直接利用しているのではない。現在の40℃以上に加熱したリン酸塩化成処理浴の加熱方法は化成処理浴中にスチーム等を熱源とする熱交換器を入れ、化成処理浴を直接的に加熱している。その方法では熱交換器の近くでは非常な高温となるため、その付近にて、熱による化成処理浴成分の分解が促進されスラッジが生成される。その点において、その加熱の意味は、あきらかに異なるのである。
本発明の方法では、スラッジ生成の抑制を第1に考えている。故に、化成処理浴に直接熱源を投入することは好ましくはない。そして、化成処理浴はできるだけ緩やかに、又間接的に温められるべきである。具体的には電解化成処理反応システムの処理浴循環サイクルに熱交換器を設置し、循環ポンプが作動している時に温めるという方法が好ましい。また、処理槽全体を30〜40℃程度の水で囲い温めるという方法も好ましい。
本発明の方法では、化成処理浴の水素イオン濃度(PH)、酸化還元電位(ORP),電気電導度(EC),温度等を計測し、その変動に対応して薬品を注入することで、化成処理浴の各成分イオンを常に所定の濃度範囲に維持するのが好ましい。また、PH,ORP,EC,温度のセンサーの設置場所は処理槽と離れて設置するのが好ましい。本発明では処理槽では外部電源を用いた電解反応が起きている。故に処理槽内には電流が流れており、その事がセンサーに影響を与え正確な値を表示できないからである。
以上の浴の制御によって、リン酸塩化成処理浴内には、全くスラッジが堆積しないことがもっとも好ましいが、もし、反応活性物質が、化成処理浴中で不可避成分の固型分として、エネルギー的に安定な状態にまで反応を行った後、処理浴の底部等に堆積した状態であっても、浴自信がにごりのない状態であればよい。それは、それらの安定に堆積した、エネルギー的に安定なスラッジは、実際に反応が行われる溶液中のイオン成分には、ほとんど影響を及ぼすことがないからである。
なぜなら、本発明の場合、処理浴に電流を印加しているため、処理浴は電界(電場)の中にあり、これは即ち常時電気的なエネルギーが印加され、満たされている状況にあるので、その中に生成した固型分はエネルギー的に安定になるまで固型化が進み、中途半端な状態に留まり処理浴中を浮遊することはない。すなわち処理浴中の各成分はエネルギー的に安定な固型分(スラッジ及び皮膜)または、溶液としてエネルギー的に安定な溶液中の可溶成分のいずれかとなり、たとえスラッジが生成したとしても、そのスラッジは安定なものとなり槽の底部に留まることとなる。
そのため、本発明における透明浴の処理浴に対する電解法では、処理浴は、常時安定的に、不安定な(エネルギー的に中途半端な)スラッジを含まない状態を維持することが可能とすることができる。
続いて本発明の特徴である電解方法についてさらに詳細に説明する。
本発明の電解は直流電解であることが好ましい。
その電解は被処理物(ワーク)を接続する場所(電極)により下記に区分される。
▲1▼陽極電解・・・ワークを陽極とし電解する
▲2▼陰極電解・・・ワークを陰極とし電解する
▲3▼陽極電解+陰極電解
また、無電解にて皮膜を形成させる方法に上記のいづれかの電解方法を組合せてもよい。
さて、本発明での電解化成処理システムの方式について、図1〜図4に基づいて述べる。
本発明では図1乃至図4の電解方式が考えられる。
ここで、各図において、電解化成処理システムは、処理槽1、循環ポンプ2、濾過機3、センサー4、電源5、電極6、被処理物7、温調制御システム8から構成されている。電解反応系は、1つ以上から成っており、2つ以上の場合には主電解(反応)系Aと副電解(反応)系Bに分けて設置される。そして副電解(反応)系Bは同一槽内の場合もあれば、別の槽となる場合もある。
図1は通常の電解処理システムである。この場合、電極と被処理物が入れ替わる場合もある。
図2は主電解系A及び副電解系Bから構成される。そして、図2は陰極処理を行う電解処理システムである。
その構成は主電解系Aには電圧・電流を印加するが、副電解系には電圧,電流は直接には印加しないものである。副電解系Bでは被処理物7から電極10、電極11等へは電線を経由して外部回路から直接的に電流が流れないようになっている。
主電解系Aで印加した電流は、溶液中で、被処理物7及び副電解系の対極した電極10、11へ流れる。そして、副電解系Bの対極(電極10及び11)に流れた電流は、再び溶液中を経て、被処理物7に至る。また、副電解系Bの対極に流れた電流のある部分は、ダイオードDを経由して被処理物7に至る。主電解系Aは化成皮膜形成に直接的に関与する電解反応に作用するのに対し、副電解系Bはその主反応を良好に進めるよう作用するものである。
その理由は以下である。図2に結線した電解システムでは、電解処理(電流印加)時の処理浴内電位は主電解系Aの陽極>副電解系Bの対極>被処理物7となる。そして、主電解系Aの操作により、主電解系Aの金属イオンだけでなく、副電解系Bの金属イオンも主電解系Aに連動させて被処理物表面に析出させることが可能となる。
主電解系Aは、亜鉛等リン酸塩被膜をつくる主たる金属を、陽極側の電極6とし、また被処理物7を陰極として構成される。副電解系Bは処理浴中に鉄及びニッケル等リン酸塩化成被膜の副成分として構成する金属材料を浸漬させこれを電極として構成される。その結果、主電解系Aの作用により、処理浴中に鉄及びニッケルも溶解し、その溶解したイオンは被処理物表面に亜鉛とともにリン酸塩として析出し、皮膜となる。
また、鉄,ニッケル等の金属材料を図2のように接続せず、単に浴に浸漬した場合には、鉄は電解系の中に、浸漬・放置された状態となり、その結果、鉄の溶解・析出量が多くなり、皮膜が粗雑化し、その性能が劣化する。すなわち、その場合には、鉄の溶解・析出は図2の場合に比較して、亜鉛の溶解・析出に連動することが少なくなる。
リン酸塩皮膜形成において、鉄イオンが重要な役割を行うという事はよく知られた事であるが、その量が多すぎても不都合である。
図2の如く、結線することにより、主電解系(Zn電極-被処理物間)Aに印加された電流は、同じ処理浴中で電極10、電極11にも印加されるが、その電流は処理浴に放出される部分と、鉄、ニッケルから外部結線を経由して、被処理物7に電流が流れる部分とから構成されるようになる。このことによって、化成処理浴中での電解による鉄の溶解は鉄電極から浴に直接電流が流れる場合に比較し、抑制されることになる。その結果形成する化成皮膜は鉄成分を制御したものとなり、緻密なものとなる。
なお副電解系Bの電極10、11には鉄,ニッケルを併用して用いる場合もあり、また単独で用いてもよいし、また、他の金属を用いてもよい。また、図2のダイオードDの向きを逆にしてもよい。
図3は主電解系Aと副電解系Bを別の槽で行うものである。
この場合には、主電解槽13で連続的に被処理物(鉄)7を0.5V以下の電圧で、陽極処理した場合、反応系には過剰の第1鉄イオン(Fe2+)が溶解するが、陽極処理電圧が低い時、溶解したFe2+は第2鉄イオン(Fe3+)までは、酸化されない。その結果、処理浴の電気化還元電位(ORP)は低下するようになる。処理浴のORPを560mV以上に制御しようとすると、後で詳細に説明するようにFe2+→Fe3+とすることが必要である。
図3の副電解槽14はそのような目的で設置するのである。すなわち、主電解槽13での電解反応により反応系に溶出した過剰のFe2+は副電解槽14でより大きな電圧、電流での電解により、Fe2+→Fe3+とされ、処理浴のORPは560mV以上の所定の範囲に制御できるようになる。
図4は、主電解系Aを複数設置するものである。陽極は亜鉛を用いた電極7およびその他金属(鉄等)を用いた電極15とし、被処理物6を陰極として接続する。そして、複数の金属を同時に電解処理し、化成・皮膜を形成するものである。
次いで、電流,電圧の印加方法について説明する。電源5による浴への電流、電圧の印加方法は、下記の方法が上げられる。
図5(a)〜(d)にその概要を示す。
(a)定電流電解・・・一定電流を印加する方法である(パルス電解も含む)
(b)定電圧電解・・・一定電圧を印加する方法である(パルス電解も含む)
(c)電流走査電解・・・所定の時間後に所定の電流となるよう、ファンクションジェネレータ等を用いて印加電流を制御(走査)し印加する電解方法。n回繰返すこともある。
(d)電圧走査電解・・・所定の時間後に、所定の電圧となるようファンクションジェネレータ等を用いて印加電圧を制御(走査)し、印加する電解方法。n回繰返すこともある。
(a),(b),(c),(d)の電解方法は、陽極及び陰極にて行うことが可能であり、実際には表1に示す8通りの方法が可能である。
実用的には、その8通りの方法の1つを単独で用いてもよいし、その8通りの中から複数の方法を組合せて一連の工程としてもよい。
また、無電解の方法と、上記の電解方法を組合せて使用してもよい。
なお、本発明の電解処理は、無電解浴の場合よりもスラッジ生成が生じにくい。それは、浴に電気エネルギーが供給されることになるので、浴全体の電気化学的なエネルギーレベルが上昇し、個々の成分イオンの安定性を増すことができたためである。すなわち、透明な電解浴では、溶液相へ電子(e)が供給されることが、溶液相の各種イオンの存在の安定化に寄与する。従って、透明なこの電解浴は各種イオンが安定であるため、溶液は熱力学的にもまた安定である。そのため、被膜形成等の相転移(この場合には「液-固」反応に相当)を起こすためには、透明な無電解浴に比較し大きな電気化学的エネルギーを必要とする。そのため、本発明の電解処理は、無電解浴の場合よりも溶液として安定でありスラッジ生成が生じにくい。
電解処理時に印加する電圧,電流は0.1V〜10V,10mA/dm2〜4A/dm2程度が好ましい。そして、好ましい電解は多くの電流を、できるだけ低い電圧にて確保し行うことである。
本発明のリン酸塩化成処理浴の酸化還元電位(AgCl電極電位で表示)は250〜650mVであるのが望ましい。そして、本発明の250〜650mVは水素標準電極電位では460〜860mVであることが好ましい。
鉄鋼材料に限定して処理する場合、化成処理浴の酸化還元電位は、処理浴中に種々ある平衡系の全体を反映するのであるが、Fe2+イオンに関連しては、化4を反映している。すなわち、可溶性の金属イオン、特にFe2+が多ければ、酸化還元電位は低くなり、逆に、可溶性の金属イオン、特にFe2+が少なければ、酸化還元電位は高くなる。そして、無電解で加熱等のエネルギー供給がない場合には酸化還元電位560mv以上とはならない。何故ならば、本発明のAgCl電極電位は水素標準電極電位マイナス約210mVであり、ORP560mv(AgCl電極電位)は、水素標準電極電位にて、770mVを示し、その電位は、
【化10】
Fe2+ Fe3++e +0.77V
の平衡を反映するからである。
すなわち、ORP560mV以上とするためには、鉄素材から溶解した第1鉄イオン(Fe2+)を更に、酸化することが必要である。しかしながら、無電解浴で加熱エネルギーを直接被膜形成に利用しない場合には、処理浴に供給されるエネルギーは、鉄の溶解(化3)に伴うエネルギーのみである。そして、そのエネルギーのみでは、(化10)の平衡を右側へ進めることができないからである。
しかし、本発明では電解処理により電気エネルギーが供給されるため、鉄は、化3及び化10により溶解、酸化され、処理浴はFe2+及びFe3+を含むことになり、ORPは560mV以上であってもよい。そして、皮膜形成(化4)の反応も進み、化成皮膜形成が行われる。ORP560mV以上の浴ではFe3+が安定に存在することから形成する化成処理被膜はFe2+とともに、Fe3+の形の鉄も含んだリン酸塩化成被膜と考えられる。
また、250mV以下では可溶性金属イオンが多くなり、その結果、処理浴中で安易にスラッジが生成するため、化成処理浴の透明度維持は困難となる。そのため、強固な化成皮膜の形成はできない。
鉄鋼以外の金属材料を処理する場合でも、化成処理浴の酸化還元電位は概ね250〜650mVの範囲である。なぜならば酸化還元電位は処理浴中の化1,2,4,8の酸化還元のバランスを反映したものであるが、化3を化8に置換し、一般化しても、化1,2,4の酸化-還元のバランスは大きく変動しないためである。
なお、本発明にかかる化成皮膜処理浴中のリン酸イオンは、概ね4g/l(グラム/リットル)以上、皮膜形成金属イオンは、概ね1.5g/l以上、硝酸イオンは、概ね3g/l以上必要であることが好ましい。逆に、リン酸イオンの上限は、概ね150g/l程度、皮膜形成金属イオンの上限は、概ね40g/l程度、硝酸イオンの上限は、概ね150g/l程度であることが好ましい。また、最も好ましいイオン濃度は、リン酸イオンでは概ね5〜80g/l程度、皮膜形成金属イオンでは概ね2〜30g/l程度、硝酸イオンでは概ね10〜60g/l程度であることが好ましい。
化成処理浴の管理は酸化還元電位の制御が基本である。故に、酸化還元電位の変動に対応し、主剤(リン酸、硝酸、亜鉛等を含む酸性の薬品)を投入するのが望ましいが、より確実な化成処理浴の管理のために、化成処理浴の他の電気化学パラメータである水素イオン濃度(PH)、電気電導度(EC)と併用して使用することが好ましい。
水素イオン濃度(PH)は2.5〜4.0程度の範囲内に有することが好ましい。
PHを上昇させるには、苛性ソーダ等の処理浴をアルカリ側へ移行させる薬品を、注入し対応する。逆にPHを低下させるには、リン酸,硝酸,亜鉛等を含む酸性の薬品である主剤を、注入することで対処する。
電気電導度は、化成処理浴の種類により、その適切な範囲は変わる。硝酸イオン等活性なイオンを多く含む浴では高めに設定するが、硝酸イオン等が少なくリン酸イオンの多い浴では低めに設定することが好ましい。一般に電導度設定値下限にて、主剤を添加し、化成処理浴の電導度を一定範囲に管理することが好ましい。なお、電気電導度は、化成処理浴のイオンの構造によっても変動し、溶液中のイオンの構造化が進む程同じ成分組成であっても電導度は低下する。前記したことを考慮し、化成処理浴の電導度は10〜200ms・cm-1程度に管理するのが好ましい。
本発明では、どのような導電性を有する金属材料の表面に対しても、十分な膜厚を有するリン酸塩化成被膜を施すことのできるリン酸塩化成処理方法を提供することができる。
図面の簡単な説明
図1はリン酸塩化成処理電解処理構成システム図、図2はリン酸塩化成処理電解処理構成システム図、図3はリン酸塩化成処理電解処理システム図、図4はリン酸塩化成処理電解処理構成システム図、図5(a)、(b)、(c)、(d)は電流電圧印加状態を示す特性図、図6は実施例1の方法で得られたリン酸塩皮膜の結晶構造のSEM写真図、図7は実施例1の方法で得られたリン酸皮膜の蛍光分析線図、図8は実施例1の方法で得られたリン酸皮膜のX線回析チャート図、図9は実施例2の方法で得られたリン酸塩皮膜の結晶構造のSEM写真図、図10は実施例2の方法で得られたリン酸皮膜の蛍光X線分析線図、図11は実施例2の方法で得られたリン酸皮膜のX線回析チャート図、図12は実施例3の方法で得られたリン酸塩皮膜の結晶構造のSEM写真図、図13は実施例3の方法で得られたリン酸皮膜の蛍光X線分析線図、図14は実施例3の方法で得られたリン酸皮膜のX線回析チャート図、図15は実施例4の方法で得られたリン酸塩皮膜の結晶構造のSEM写真図、図16は実施例4の方法で得られたリン酸皮膜の蛍光X線分析線図、図17は実施例4の方法で得られたリン酸皮膜の蛍光X回析チャート図、図18は実施例5の方法で得られたリン酸塩皮膜の結構構造のSEM写真図、図19は実施例5の方法で得られたリン酸塩皮膜のX線解析チャート図、図20は実施例6の方法で得られたリン酸塩皮膜の結構構造のSEM写真図、図21は実施例6の方法で得られたリン酸塩皮膜のX線解析チャート図、図22は比較例の方法で得られたリン酸塩皮膜の結晶構造のSEM写真図、図23は実施例7で使用した部品の概要図、図24は実施例8の方法で得られたリン酸塩皮膜の結晶構造のSEM写真図、図25は実施例8の方法で得られたリン酸塩皮膜のX線解析チャート図、図26は実施例9の方法で得られたリン酸塩皮膜の結晶構造のSEM写真図、図27は実施例9の方法で得られたリン酸塩皮膜のX線解析チャート図、図28は実施例10の方法で得られたリン酸塩皮膜の結晶構造のSEM写真図、図29は実施例10の方法で得られたリン酸塩皮膜のX線解析チャート図、図30は実施例11に用いたセグメントの概略図、図31は実施例11のコアを示す概略図、図32は実施例11のコアからなるバルブを示す断面図、図33は従来のコアを示す概略図、図34は従来のコアよりなるバルブを示す断面図、図35は実施例11の特性を示す特性図、図36は実施例12を説明する説明図、図37は実施例12の特性を示す特性図、図38(a)、(b)は実施例13を示すコアの正面図および側面図、図39は実施例13のコアの一部拡大図、図40は従来のコアの一部拡大図、図41は実施例14の電流、電圧特性を示す特性図である。
発明を実施するための最良の形態
本発明の実施例1〜6及び8〜10では、被処理剤として縦,横,厚さそれぞれ(A)15cm,7cm,1mmの板状のテストピース又は(B)7.5cm,3.5cm,1mmのテストピースを使用し、対極には縦,横,厚さそれぞれ20cm,5cm,1〜2mmの板状のものを使用した。
また、実施例7は自動車エアコンディショナー用コンプレッサーのクラッチ部品を用いた。
実施例11は自動車用燃料噴射ポンプを制御するためのソレノイド用ステータコアを形成する磁性材料(ILSS)部品(コアセグメント)を用いた。
実施例12は、実施例11で使用したソレノイドコアセグメントを塑性加工する前の長さ500mm,巾28mm,厚さ2mmの磁性材(ILSS)を用いた。
実施例13は自動車用オルタネータのステータコアを用いた。処理に使用した処理浴の量はいづれも約20リットルである。
各実施例のテントピースは、脱脂→水洗→水洗→酸洗い(1〜2%HNO3常温1〜2分)→水洗→水洗→表面調整(日本パーカライジング社製 PL-ZT0.1〜0.2%)→リン酸塩化成処理→水洗→水洗で、各工程のタクト時間はリン酸塩化成処理を除き、各2分で行った。リン酸塩化成処理は各実施例及び比較例にて処理時間は異なる。なお、脱脂後の水洗は、水洗終了後、新鮮な工業用水をスプレー散布することで、確実な水洗が行えるようにした。
また、実施例5,6,実施例7〜13及び比較例では酸洗い及びその後の水洗を行っていない。
なお、実施例および比較例の概要をまとめて表2及び表3に示した。
また、実施例に表わすORP(酸化還元電位)は全てAgCl電極電位である。そして、AgCl電極電位を水素標準電極電位に置き替える場合は、約210mVプラスする。
また、各実施例によって得られたリン酸塩化成処理被膜のSEM写真である、図6、図9、図12、図15、図18、図20、図22、図24、図26及び図28は、1000倍の拡大写真である。
(実施例1)
被処理剤として鉄鋼材(SPCC)を使用した。リン酸塩化成処理は、まず第1ステップとして無電解の化成処理を2分行った。
使用したリン酸塩化成処理浴は、Zn2+を3.0g/l,H3PO4を8g/l,NO3-を32g/l,Ni2+を0.8g/,F-を0.1g/lのものである。処理浴のPH,ORPおよび温度は、3.20,400〜500mVおよび30℃であり、全酸度,遊離酸度および促進剤濃度は16pt,0〜0.12ptおよび6ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であり、化成処理浴はスラッジを含まないものであった。
ついで、被処理材を陰極,亜鉛板を陽極として、電解処理を行った。使用したリン酸塩化成処理浴は、Zn2+を3.0g/l,H3PO4を16g/l,NO3-を17g/l,Ni2+を2.4g/l,F-を0.1g/l,Mn2+を4.0g/lのものである。処理浴のPH,ORPおよび温度は、3.20,400〜500mVおよび28℃であり、全酸度,遊離酸度および促進剤濃度は16pt,0〜0,0.01ptおよび6ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であった。
電解処理は、電圧0.5〜1.5V,電流0.2A/dm2,時間40分の条件で行った。電解方法(電解処理システムおよび電流電圧印加方法)は表2に示す。以下の実施例も電解方法の内容は表2及び表3に示す。
この処理により、膜厚27μm,JISK6911による絶縁破壊電圧250V以上のリン酸塩化成皮膜が得られた。なお、膜厚はケット科学(製)電磁式厚膜計LE-300で測定した値である。以下、鉄鋼材料の膜厚は全て実施例1と同じ方法により測定している。得られたリン酸塩化成皮膜のSEM写真および蛍光X線分析線図を図6および図7に示す。又、X線回析図を図8に示す。尚、図8中、○印は、Zn3(PO4)2・4H2OおよびZn3(PO4)のピークを示す。
実施例1で得られた皮膜はニッケル,マンガン,亜鉛を含む厚膜の耐電圧に優れた皮膜と言える。
(実施例2)
被処理材としてアルミニウム板(Al100)を使用し、対極に鉄鋼板を使用した。リン酸塩化成処理浴として、実施例1の電解処理で使用した処理浴と同じZn2+を3.0g/l,H3PO4を16g/l,NO3-を17g/l,Ni2+を2.4g/l,F-を0.1g/l,Mn2+を4.0g/lのリン酸塩化成処理浴を使用した。処理浴のPH,ORPおよび温度は、3.00〜3.40,560〜570mVおよび25〜30℃であり、全酸度,遊離酸度および促進剤濃度は18pt,0.1ptおよび6ptであった。さらにまた、処理浴の透視度は30cm以上であり、処理浴はスラッジを含まないものであった。
電解処理は、まず、被処理材であるアルミニウム板を陽極とし鉄鋼板を陰極として、電圧1〜3V,電流0.3〜0.6A/dm2,0.5〜1分間処理し、続いて同じ処理浴を用い、被処理材であるアルミニウム板を陰極,鉄鋼板を陽極として、電圧1〜3V,電流0.3〜0.6A/dm2で5分間処理した。
この処理により、被膜重量6.12g/dm2のリン酸塩皮膜をアルミニウム板表面に形成した。
得られたリン酸塩化成皮膜のSEM写真および蛍光X線分析図を図9および図10に示す。また、被膜のX線回析図を図11に示す。尚、図11中の○印は、図8と同様、Zn3(PO4)2・4H2OおよびZn3(PO4)のピークを示し、また、△印は、Alのピークを示す。
実施例2で得られた被膜は、マンガン,ニッケル,亜鉛を含むリン酸塩化成皮膜であると言える。
(実施例3)
被処理材としてステンレススチール板(SUS304)を使用し、対極に鉄鋼板を使用した。リン酸塩化成処理浴として、実施例2と同じZn2+を3.0g/l,H3PO4を16g/l,NO3-を17g/l,Ni2+を2.4g/l,F-を0.1g/l,Mn2+を4.0g/lのものを使用した。処理浴のPH,ORPおよび温度は3.00〜3.40,560〜570mVおよび25〜30℃であり、全酸度,遊離酸度および促進剤濃度は18pt,0.1ptおよび6ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であり、処理浴はスラッジを含まないものであった。
電解処理は、まず、被処理材であるステンレス鋼を陽極とし鉄鋼板を陰極として、電圧1〜3V,電流0.3〜0.6A/dm2,時間1分間で処理し、続いて同じ処理浴を用い、被処理材であるステンレススチール板を陰極として、電圧1〜3V,電流0.3〜0.6A/dm2で10分間処理した。
この処理により、ステンレススチール板表面に被膜重量13.27g/dm2のリン酸塩化成皮膜が得られた。
得られたリン酸塩化成被膜のSEM写真および蛍光X線分析図を図12および図13に示す。また、皮膜のX線回析図を図14に示す。尚、図14中の○印は、図8と同様、Zn3(PO4)2・4H2OおよびZn3(PO4)のピークを示す。
実施例3で得られた皮膜は亜鉛を含むリン酸塩化成皮膜である。
(実施例4)
被処理材として無酸素銅(Cl020)の銅板を使用し、対極に鉄鋼板を使用した。リン酸塩化成処理浴として、実施例2と同じZn2+を3.0g/,H3PO4を16g/l,NO3-を17g/l,Ni2+を2.4g/l,F-を0.1g/l,Mn2+を4.0g/lのものを使用した。処理浴のPH,ORPおよび温度は3.00〜3.40,560〜570mVおよび25〜30℃であり、全酸度,遊離酸度および促進剤濃度は18pt,0.1ptおよび6ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であり、処理浴はスラッジを含まないものであった。
電解処理は、まず、被処理材である銅板を陽極とし、電圧1〜3V,電流0.3〜0.6A/dm2,時間30秒間で処理し、続いて同じ処理浴を用い、被処理材である銅板を陰極として、電圧1〜3V,電流0.3〜0.6A/dm2で10分間処理した。
この処理により、銅板上に皮膜重量6.67g/m2のリン酸塩化成皮膜が得られた。
得られたリン酸塩化成被膜のSEM写真および蛍光X線分析図を図15および図16に示す。また、被膜のX線回析図を図17に示す。尚、図17中の○印は、図8と同様、Zn3(PO4)2・4H2OおよびZn3(PO4)のピークを示す。実施例4で得られた皮膜はマンガン,亜鉛を含むリン酸塩化成皮膜と言える。
(実施例5)
被処理材として鉄鋼板(SPCC)を使用し、対極に鉄鋼板を使用した。リン酸塩化成処理浴として、Zn2+を4.0g/l,H3PO4を12g/l,NO3-を40g/l,Ni2+を6g/l,F-を0.2g/l,Mn2+を5g/lのものを使用した。処理浴のPH,0RPおよび温度は2.70.300〜400mVおよび22℃であり、全酸度および促進剤濃度は15.8pt,1.6ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であり、処理浴はスラッジを含まないものであった。
電解処理は、まず、被処理材である鉄鋼板を陽極とし、電圧2.5〜3.5V,電流0.5〜1.0A/dm2で30秒通電しその後10秒通電を切った状態を保持するという処理を12回繰り返し、全体で約8分間処理した。その後、被処理材の陰極処理は行わなかった。
この処理により、膜厚2〜3μmの緻密なリン酸塩化成被膜が得られた。得られたリン酸塩化成被膜のSEM写真およびX線回析チャートを図18および図19に示す。
実施例5で得られた被膜は緻密なリン酸塩皮膜である。
(実施例6)
被処理材として鉄鋼板(SPCC)を使用し、対極にも同じ鉄鋼板を使用した。リン酸塩化成処理浴として、実施例5と同じZn2+を4.0g/l,H3PO4を12g/l,NO3-を40g/l,Ni2+を6g/l,F-を0.2g/l,Mn2+を5g/lのものを使用した。処理浴のPH,ORPおよび温度は2.70.300〜400mVおよび23℃であり、全酸度,促進剤濃度は16pt,1.6ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であり、処理浴はスラッジを含まないものであった。
電解処理は、まず、被処理材である鉄鋼板を陽極とし、電圧1.5〜2.5V,電流0.5A/dm2で30秒通電しその後10秒通電を切った状態を保持するという処理を12回繰り返し、全体で約8分間処理した。続いて同じ処理浴を用い、被処理材である鉄鋼板を陰極として、電圧1.5〜2.5V,電流0.5A/dm2で30秒通電しその後10秒通電を切った状態で処理を12回繰り返し、全体で約8分間処理した。
この処理により、膜厚7μm,JISK6911による絶縁破壊電圧250V以上のリン酸塩皮膜が得られた。
得られたリン酸塩化成被膜のSEM写真およびX線回析チャートを図20および図21に示す。
実施例6で得られた皮膜は、絶縁性を有するリン酸塩化成被膜である。
(比較例)
電解処理を実施しなかった例を比較例として示す。
被処理材として鉄鋼板(SPCC)を使用した。リン酸塩化成処理浴として、Zn2+を3.2g/l,H3PO4を8g/l,NO3-を32g/l,Ni2+を0.8g/l,F-を0.2g/lのものを使用した。処理浴のPH,ORPおよび温度は3.20,510〜540mVおよび28℃であり、全酸度,遊離酸度および促進剤濃度は16pt,0〜0.1ptおよび6ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であり、処理浴はスラッジを含まないものであった。
被処理材をこの処理浴に8分浸漬して処理した。
この処理により、膜厚1μm,JISK6911による絶縁破壊電圧50Vのリン酸塩化成被膜が得られた。
得られたリン酸塩化成皮膜のSEM写真を図22に示す。
比較例で得られたリン酸塩化成被膜は無電解法で一般的に得られるものであり、浸漬時間を長くしても皮膜の膜厚増加及び耐電圧の向上は期待できないものと言える。
(実施例7)
被処理材として、図23に示す如く、自動車エアコンディショナーのコンプレッサークラッチに用いる鉄鋼部品を使用し、対極にも同じ鉄鋼板を使用した。
この鉄鋼部品は、直径96mm、厚さ27mmの略中空形状をなす。
リン酸塩化成処理浴として、Zn2+を4.2g/l,H3PO4を8g/l,NO3-を24.1g/l,Ni2+を2.6g/l,F-を0.1g/lのものを使用した。処理浴のPH,ORPおよび温度は2.93,580〜590mVおよび27℃であり、全酸度,促進剤濃度は20pt,6.0ptであった。また処理浴の透視度は30cm以上であり、スラッジを含有しなかった。
電解処理は図3の方法で、被処理部品を陽極とし、鉄板を陰極として主電解系に電圧0.3V〜1.0V,電流0.01A〜0.14A/処理材で図5(a)の方法で2分行った。
副電解系Bは処理浴のORPが約560mVに低下した時、図5(c)の方法にて電流走査電解を行い、処理浴中に溶解したFe2+を浴中から除去し、ORPを高めるために行った。この後、カオチン電着塗装(日本ペイント製,パワートップU56)を行い、190℃にて約25分焼付を行った。塗装した被処理材は24Hr以上放置した後、平面部20と外周部21にカッターナイフにて素地に達するまでの傷を入れた後、55℃の5%食塩水に240Hr浸漬する塩水浸漬試験を行った。240Hr経過した被処理材を水で洗浄し、約2Hr空中に放置した後、粘着テープをカッターナイフで傷つけた塗膜面に貼り、強く剥がした。テープにて剥離した塗膜の巾を測定したところ、平面部20および外周面21とも5mm以下であった。
無電解処理で同様な浴(但し、ORP値は560mV以下となる)を用い、2分間浸漬し化成処理及び同じ塗装を行ったものについて、同じ塗膜の評価試験を行ったところ平面部20は5mm以下であるか、外周面21は8〜12mm程度の塗膜の剥離を生じた。
上記の評価から、本発明の方法は、外周部21において、塗装後の耐食性良好であると言える。外周面21は本部品をプレス加工にて形成する時、その変形が大きい部分であり、従来の無電解の方法では、化成処理が困難とされている。そのため、無電解化成処理では塗装耐食性が劣るのであるが、実施例7では陽極電解を行うことで、従来素材の溶解が困難とされていた部分についても、素材の溶解を行い化成処理を可能とし、塗装耐食性を向上させた。
また同じ処理浴,同じ電解処理システムにて同じ部品を用い電解化成処理方法のみ図5(c)の方法に変更し、電流OA→0.01Aを30秒で立上げ、その電流を30秒間保持した後、60秒かけて0.01A→0Aとする方法で2分間電解処理をした。その後塗装し、上記と同様な塩水浸漬試験を行った。その結果、平面部20、外周面21両面とも、テープ剥離巾は5mm以下であり、塗装耐食性は無電解のものより良好であった。
上記実施例7においては、副電解系を用いることによって、素材の溶解を行ったが、陽極処理条件(電流、電圧組成等)によって、不要となる場合もある。
(実施例8)
被処理材として鉄鋼板(SPCC)を使用し、対極に陽極処理では鉄を、陰極処理では副電解系で鉄を主電解系で亜鉛を用いた。
リン酸塩化成処理浴としてZn2+を7.6g/l,H3PO4を28.3g/l,NO3-を27.1g/l,Ni2+を1.44g/l,F-を0.1g/lのものを用いた。処理浴のPH,ORP,温度はそれぞれ3.03,573mV,27℃であり、全酸度,遊離酸度及び促進剤濃度はそれぞれ38.4pt,1.6ptおよび5.0ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であり、処理浴はスラッジを含まないものであった。
電解処理は、最初に被処理材を陽極とし、図1の如く、鉄を陰極とし、図5(a)の定電流電解を電流0.05A/dm2(電圧0.13V)となるよう1分間行う。続いて同じ処理浴を用い、被処理材を陰極として、亜鉛を陽極とする主電解系を形成する。
また、被処理物と鉄電極の間を配線するが、その配線は鉄電極から被処理物への方向へのみ電流が流れるよう配線する。その被処理物と鉄との経路は副電解系とする。
図2の主電解系Aの陰極処理は、電流走査電解で行い、主電解系Aの電極間に0A/dm2→1.5A/dm2とするのに5分間かけて序々に印加してゆくことを行った。その時の最大印加電圧は4.5Vであった。そして、その同じ操作を6サイクル繰り返し、合計30分の陰極処理を行った。
この処理により、鉄鋼板表面に15〜30μmの膜厚のリン酸塩化成皮膜を形成した。(膜厚はケット科学(株)製,電磁式膜厚計LE-300で測定した値である。)この皮膜の耐絶縁性を東亜電波(株)製超絶縁計SM-8210で計測した。なお、計測は超絶縁計の棒状のプローブ(正極,負極)を軽く表面に接触し行った。その結果、鋼板の平面部,エッヂ部とも直流500V以上の耐絶縁性を有した。
得られたリン酸塩化成皮膜のSEM写真及びX線回析チャートを図24及び図25に示す。尚、図25の○印は、図8と同様、Zn3(PO4)2・4H2OおよびZn3(PO4)のピークを示す。
(実施例9)
被処理材として鉄鋼板(SPCC)を使用し、対極に陽極処理では鉄を、陰極処理では主電解系では亜鉛を、副電解系Bでは鉄とニッケルを用いた。
リン酸塩化成処理浴としてZn2+を7.0g/l,H3PO4を45.0g/l,NO3-を26.0g/l,Ni2+を1.4g/l,F-を0.1g/lのものを用いた。処理浴のPH,ORP,温度はそれぞれ3.02,565mV,24.5℃であり、全酸度,遊離酸度及び促進剤濃度はそれぞれ51.8pt,2.4ptおよび5.6ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であり、処理浴はスラッジを含まないものであった。
電解処理は、最初に図1の装置において、被処理材を陽極とし、鉄を陰極とし、図5(a)の定電流電解を電流0.05A/dm2(電圧0.3V)となるよう1分間行う。
続いて同じ処理浴を用い、図2の装置を用いる。即ち、被処理材7を陰極として、亜鉛を陽極とする主電解系Aを形成する。また、被処理物7と鉄及びニッケルである電極10、11の間を配線するが、その配線は鉄及びニッケル電極から被処理物の方向へのみ電流が流れるよう配線する。その被処理物7と電極10、11との経路は副電解系Bとする。
そして、主電解系Aの陰極処理は、電流走査電解で行い、主電解系Aの電極間に0A/dm2→2.0A/dm2とするのに5分間かけて序々に印加していくことを行った。その時の最大印加電圧は4.9Vであった。そして、その同じ操作を6サイクル行い、合計30分の陰極処理を行った。
この処理により、鉄鋼板表面に15〜30μmの膜厚のリン酸塩化成皮膜を形成した。(膜厚はチット科学(株)製,電磁式膜厚計LE-300で測定した値である。)この皮膜の耐絶縁性を東亜電波(株)製超絶縁計SM-8210で計測した。
なお、計測は超絶縁計のプローブ(正極,負極)を軽く表面に接触し行った。
その結果鋼板の平面部,エッヂ部とも直流500V以上の耐絶縁性を有した。
得られたリン酸塩化成皮膜のSEM写真及びX線回析チャートを図26及び図27に示す。尚、図26中の○印は、図8と同様、Zn3(PO4)2・4H2OおよびZn3(PO4)のピークを示す。
(実施例10)
被処理材として鉄鋼板(SPCC)を使用し、対極に陽極処理では鉄を、陰極処理では亜鉛を用いた。
そして、鉄の電極板は電源から結線を外し、浴中に浸漬した状態で設置した。リン酸塩化成処理浴として,Zn2+を7.0g/l,H3PO4を45.0g/l,NO3-を26.0g/l,Ni2+を1.4g/l,F-を0.1g/lのものを用いた。処理浴のPH,ORP,温度はそれぞれ3.02,569mV,27.5℃であり、全酸度,遊離酸度及び促進剤濃度はそれぞれ51.8pt,2.4ptおよび5.6ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であり、処理浴はスラッジを含まないものであった。
電解処理は、最初に、図1示す装置の如く、被処理材を陽極とし、鉄を陰極とし、図5(a)の定電流電解を電流0.05A/dm2(電圧0.8V)となるよう1分間行う。
続いて同じ処理浴を用い、被処理材7を陰極として、亜鉛を陽極とする電解系を形成する。その時、鉄鋼板をよくつ中に浸漬した。鉄鋼板が処理浴中に浸漬されていると、その鉄鋼板は電解反応系の中に存在することとなる。すなわち、鉄鋼板から鉄が容易に溶解し、その溶解したFe2+は化成皮膜として被処理物表面に付着する。このため、化成皮膜の膜厚は実施例8,9に比較し大巾に増える。主電解系Aの陰極処理は、電流走査電解で行い、主電解系Aの電極間に0A/dm2→2.0A/dm2とするのに5分間かけて序々に印加してゆくことを行った。その時の最大印加電圧は5.8Vであった。そして、その同じ操作を6サイクル行い、合計30分の陰極処理を行った。
この処理により、鉄鋼板表面に50〜60μmの膜厚のリン酸塩化成皮膜を形成した。(膜厚はチット科学(株)製,電磁式膜厚計LE-300で測定した値である。)この皮膜の耐絶縁性を東亜電波(株)製超絶縁計SM-8210で計測した。なお、計測は超絶縁計のプローブ(正極,負極)を軽く表面に接触し行った。その結果、鋼板の平面部は、直流500V以上の耐絶縁性を有した。しかし、エッヂ部は耐圧250V程度であった。また、皮膜の下地への密着性も、前記実施例8及び9より劣っていた。これらの事から化成処理浴中のFeイオンを制御する事が厚膜タイプの絶縁性化成皮膜を形成するために必要であると言える。
得られたリン酸塩化成皮膜のSEM写真及びX線回析チャートを図28及び図29に示す。尚、図29中の○印は、図8と同様、Zn3(PO4)2・4H2OおよびZn3(PO4)のピークを示す。
(実施例11)
被処理材として:図30に示す、磁性材(1LSS,Sil%含有)である自動車の燃料噴射ポンプに用いるソレノイド用ステータコア用セグメント30を用いた。
対極に陽極処理では鉄を、陰極処理では鉄と亜鉛を用いた。リン酸塩化成処理浴として、Zn2+を12g/l,Ni2+を1.6g/l含むリン酸塩化成処理浴を用いた。(他に、NO3-,H3PO4-,F-を用いているが、測定していない。)処理浴のPH,ORP,温度はそれぞれ2.96〜3.02,577〜581mV,26〜28℃であり、全酸度,促進剤濃度はそれぞれ40pt,3.0ptであった。(遊離酸度は計測していない。)また、処理浴は透視度30cm以上であり、スラッジを含まないものであった。
化成処理は、図30のセグメント30を200個、アクリル樹脂製の小型バレルに入れ、バレル内で電解処理をする方法で行った。
処理は合計4バレル行い、計800ヶの部品を処理した。バレルは2RPMにて回転させ、浴の流動を容易とするように側面に5m/mの穴を多数あけている。
電解処理は、最初に被処理材を陽極とし、鉄を陰極として、図1の接続システムで図5(a)の定電流電解を行った。
その時の電流は0.06A/バレルであり、電圧は1.2Vから3.5Vの間であった。なお1バレル当たりの表面積は6.2dm2に相当する。陽極処理は5分行い、その後2.5分電源をOFFとした。
陰極処理は鉄と亜鉛を陽極とし、被処理物の入ったバレルを陰極として、図4の電解システムを形成し、図5(c)の電流走査電解法にて行った。
その時の鉄電極は0A(アンペア)/バレル→0.06A〜0.1A/バレルが90秒で順次印加するようにし、亜鉛電極は0A/バレル→0.5〜1.0A/バレルが同く90秒で順次印加するようにし、その同じ操作を15サイクル行った。
この処理により、セグメント30の表面である磁性材料表面に3〜10μmの化成皮膜を形成した。(膜厚はケット科学製電磁膜厚計で計測した。)
この皮膜の耐絶縁性を東亜電波(株)製超絶縁計で計測した。計測方法は実施例8〜10と同じ方法で行った。その結果、平面部において100V(DC)以上の耐絶縁性を得た。
図30の本実施例11で用いたソレノイドステータコア用セグメント30を積層し、図31のステータコア31を作成した。
そして、図32に示す如く、そのステータコア31に巻線加工及び組付加工を行い自動車燃料(軽油)噴射ポンプの注入量を制御するバルブ32を作成した。
なお、従来のソレノイドステータコア用セグメント35及びそれを用いたステータコア36を図33に示す。
従来のセグメント35は既に絶縁処理を実施しているF型のセグメント(材質G09)である。
従来の磁性材の絶縁処理は素材を塑性加工(変形)できないため、従来のステータコア36は打抜いた板材を積層した形となっている。そのステータコア36を用いて、図34に示す如く、燃料噴射ポンプバルブ37を作成した。
この時、図32の実施例11に関連するバルブ32と図34の従来のバルブ37の大きさ(寸法)は同じである。
各バルブ32、34の性能の比較を図35に示す。
駆動電流(A)に対する静的吸引力にて評価した結果、バルブ32(図35中の実線)は、バルブ37(図35中の破線)に比較し、同一体格であってもソレノイドの吸引(作動)能力に優れていることを確認することができた。
(実施例12)
被処理材として、実施例11で使用したソレノイドコアセグメント30を塑性加工する前の、長さ500mm,巾28mm,厚さ2mmの磁性材(ILSS)を用いた。
対極に鉄を用い、陽極処理次いで陰極処理を行った。リン酸塩化成処理浴としてZn2+を6g/l,Ni2+を6g/l含む浴を用いた。処理浴のPHは3.03,ORPは576mV,温度は25〜30℃であり、全酸度は44pt,促進剤濃度は5.2ptであった。(遊離酸度は計測していない。)また、処理浴の透視度は30cm以上であり、スラッジを含まないものであった。
電解化成処理は、最初に被処理剤を陽極とし、鉄を陰極とし図1の電解システムで、図5(a)の定電流電解を1分行った。その時の電流は、0.4A/被処理剤であり、電圧は2.4Vであった。
陰極処理は、同じ浴で被処理物を陰極とし、鉄を陽極として陽極処理と同じ電解システムの電流印加方法にて3分行った。その時の電流は0.4A/被処理剤であり、電圧は2.4Vであった。皮膜を形成した被処理剤は水洗→乾燥後、ステリン酸ナトリウム5%の80℃溶液に10分間浸漬し、その表面にステアリン酸亜鉛の金属セッケン膜を得た。
この被処理材を図36のように、中心部の板厚を薄くする方向で圧延加工を行った。
圧延加工は200トンのプレスにて1回当り60トン及び70トンの荷重をかけ、1回当り10mmずつ移動させ、計6回の圧延加工にて到達する薄み板厚(t1)を測定したものである。
図37にその結果を示す。
図37の(A)は本発明の化成皮膜処理を行ったものである。圧延の比較例として化成皮膜を形成せず、加工油(杉村化学(製),D200-A)のみを用いた場合を図34の(B)に示した。
図37から、磁性材の圧延加工には本発明の化成皮膜を用いた方が従来の加工油のみの場合より優れていることが分かった。
(実施例13)
被処理材として、図38に示す自動車用オルタネータのステータコア40を用いた。
このコア40は、1枚の板厚が0.5mmのセグヘメント41を複数枚積層したものである。
このコア40の処理時において、リン酸塩化成処理浴は、Zn2+5g/l,H2PO-425g/l,Ni0.8g/l,NO3-16g/l,F-0.1g/lの組成のものを用いた。
処理浴のPHは3.30、ORPは540〜550mV,温度は28℃であり、全酸度は35pt,遊離酸度は0.2pt,促進剤濃度は4〜6ptであった。また、処理浴の透視度は30cm以上であり、処理浴はスラッジを含まないものであった。
電解処理は、最初に被処理剤を陽極とし、鉄を陰極とし、図1、図-5(a)の定電流電解を電流0.4A/被処理物(電圧1.8V)となるよう5分間行う。続いて同じ処理浴を用い、被処理材を陰極として、亜鉛及び鉄を陽極とする主電解系を形成する。
そして、図4の装置の如く、電解処理システムを形成し、陰極処理を行う。陰極処理は、電流走査電解で行い、亜鉛電解系の電極間に0A→1.25A/被処理物とするのに40秒かけて序々に印加してゆくことを行った。また、鉄電解系の電極間に0A→0.4A/被処理物とするのに40秒かけて、序々に印加した。そして、亜鉛と鉄の電解は同時に行った。そして、その同じ操作を20〜30サイクル行い、合計13〜20分の陰極処理を行った。
この処理により、被処理物表面に20〜25μmの膜厚のリン酸塩化成皮膜を形成した。(膜厚はチット科学(株)製,電磁式膜厚計LE-300で測定した値である。)この皮膜の耐絶縁性を東亜電波(株)製超絶縁計SM-8219で計測した。なお、計測は超絶縁計のプローブ(正極,負極)を軽く表面に接触し行った。その結果、被処理物表面は直流500V以上の耐絶縁性を有した。
この被処理物は、続いて日本ペイント(株)パワーTOR,U-600Eにて、有機皮膜の膜厚が40〜50μmとなるようにカオチン電着塗装した。焼付は180℃×30分保持にて行った。
このようにして、50〜70μmの厚さの絶縁処理総を有するオルタネータステータコア40を得た。
この実施例13に関するステータコア40を用いて、スロット部44に機械巻線を行った。
巻線42は全自動で線径1.4mmの巻線を12本/スロット当り巻きつけるものである。
巻線42の加工後のスロット部44内の状況を図39に示す。
巻線42の加工後、ウェッジ43を設けることによって、巻線42の脱落を防止した。
その後、巻線部42とステータコア40本体とのアース(絶縁の破れ)を検査するためAC600Vを印加するか、本処理品は耐圧600V(AC)以上を有する機械巻線加工に耐えるものであった。
なお、実施例13の化成処理でない、従来の無電解化成処理を行いに、実施例13と同様のカオチン電着塗装を行ったものは、上記の機械巻線加工にて絶縁総が破壊されAC600Vを維持できないものであった。そのことから、本発明の無機絶縁膜はオルタネータ絶縁処理に有効であると言える。
さらに、従来のオルタネータステータコア45の絶縁処理は、図40に示す如く、コア45と巻線46との間に、ぺーパーインシュレータ(有機絶縁紙)47を用い、その後、ウェッジ48にて、巻線46を封止している。しかしながら、ぺーパーインシュレータの膜厚は200μmあり、その分、コア40の小型化が妨げられてしまう。そして、ぺーパーインシュレータは200μm以下では機械巻線加工で破れてしまうという問題が生じる。
故に、実施例13の絶縁処理は膜厚50〜70μmと従来方法より薄くすることができ、絶縁効果も十分である。
そのため、コア40の如く、絶縁の必要な箇所に本発明のリン酸塩化成処理方法を採用することによって、従来の絶縁部材を廃止することが可能となり、様々な用途への使用が可能となる。
最後に、本発明の透明な処理浴においての電解化成処理法と従来の無電解化成処理法との電気化学的な相違を表4にまとめる。
上記表4の如く、電解処理法(透明浴)ではORP560mV以上の場合と、560mV以下の場合がある。
ORP560mV以上の処理浴を確保するには、ORP560mV以上では処理浴が常磁性イオン(Fe3+)を含んでいることから、循環経路について下記留意が必要である。
即ち、循環経路への磁場の影響を及ぼさないことである。磁場が処理浴に作用すると、それは常磁性成分(Fe3+)に作用し、その結果Fe3+は各処理浴中に溶解して存在できなくなり、各処理浴はFe3+を含有しなくなる。そのため必然的にORPは560mV以下となる。
ORP560mV以上の浴はFe3+を含むことから、従来の無電解浴(Fe3+を含まない浴)と比較し、電解質的傾向が強い。そして、その性質が、アルミ,ステンレス等表面に不働体皮膜を有した金属材料への化成皮膜形成を容易としているものと考えられる。すなわち、電解質的傾向が強いため、電解処理にて表面の不働体皮膜に作用し、溶解,皮膜形成を行うことができると考えられる。また、560mV以下の浴から形成される皮膜は、Fe3+を含まない皮膜であり、従来の無電解化成皮膜と同じ性質である。ただし、本発明の方法ではその膜厚を制御することが可能である。
また、以下に本発明の構成する電解処理に関する要点を説明する。本発明の電解についての要点は、
▲1▼「主電解系」と「副電解系」とに電解反応系を分離し、被膜形成に関与するFe分を制御すること
▲2▼電流走査電解を行うこと
であり、その理由をさらにもう一度以下に述べる。
▲1▼の理由
電解反応に関与するFeイオンの制御が必要であり、「副電解系」がその役割を行う。特に、陰極処理では、被処理物を陰極とするため、Feイオンをどのように溶解し被処理物表面に析出させるかが重要である。そして、Feを電極材料として使用する場合、Fe電極に対する、電流、電圧の印加方法を具体的にどのようにするかが重要である。副電解系は主に、鉄イオンの溶解、析出を制御し、主電解系と組み合わせて良好な被膜を形成するために有効である。
▲2▼の理由
これは、被膜を厚くするために必要な条件である。
ここで、電流走査電解の一実施例を実施例14として、図41に示す。
図41は、図2の装置において、図5(c)の電流印加をした場合の被処理材7と電極6との間の「主電解系」の電圧変化I(電極6から被処理材7への方向を正とする)および被処理材7と電極10、11との間の「副電解系」の電圧変化II(被処理材7から電極10、11方向を正とする)を示す。
ここで、図41は300秒かけて、図5(c)の如く、外部電源から主電解系に印加する電流を0A→4.0A/cm2に順次印加している。
図41の如く、このような条件の場合には、300秒の電流の印加の最初の90〜100秒の間は、電流が外部から印加されているにもかかわらず、電圧変化Iは、負の電圧を示し、電圧変化IIはほぼゼロの値を示す。
このことは、電流が印加されていない場合、もしくは電流が印加されてもそれが微少の場合には、化成処理浴中の電極の電位は、
被処理物≒副電解系の対極(Fe・Ni)>主電解系の対極(Zn)
であることを示す。
すなわち、化成処理浴はそれ自体電解浴であるので、その中で浸漬した電極(材料)相互間に電位差を生じる。そして、電流を印加していない時の電位差を反映した浴の状態が化成処理浴として最も安定な状態であると言える。
図41の電圧変化Iがマイナス電位を示している期間は、外部電源から電流を入力しているにもかからず、主電電解系Aの陽極(Zn)と陰極(被処理物)間に電流は流れない。しかし、その電流は溶液内成分に作用していると見做すことができる。そして、そのような溶液内成分への作用は緻密な皮膜形成に非常に重要である。図41の電圧変化Iは、そのような経過を経て、主電解系に電流が流れ皮膜が形成されることを示している。
そして、電圧変化Iに電流が流れると同時に、図41の電圧変化IIの電圧はマイナスとなるが、それは主電解系の図2の電極6の陽極からの電流が、副電解系Bの図2の電極10,11の対極に作用していることを示す。
すなわち、図2の電極6の陽極から流れた電流は図2のの電極11,12を経由し、ダイオードDを経て、被処理物に流れるためにマイナスの電位を示すものである。このように電圧変化IとIIは連動している。
そのことは、主電解系AのZnの電解が、副電解系BのFe,Ni等の電解を制御していることを示している。そして、それらの繰り返しによって皮膜を形成するのである。
以上より、図2の装置において、図5(c)に示す如く、主電解系にて陰極処理電流走査電解を施すことによって、常に浴がエネルギー的に安定した状態に戻り、その状態から出発し、皮膜形成ができるとともに、副電解系Bの電極10,11の溶解を主電解系Aの電極6の電解で制御できることによって、電極10、11の過剰の溶解を制御することができる。そのため、被処理材に形成される皮膜を、緻密な皮膜とすることが可能となるのである。
電解方法の比較として、図5(a)の定電流電解と比較すれば、それは、明確である。
図5(a)の方法では、電流は直ちに所定の設定電圧となる。そして、電解反応は、行われるが、それは、電気めっき等の良導体被膜形成のそれと同じであり、あきらかに図5(c)の方法とは異なっている。図5(a)の方法では、電解に伴うエネルギー状態は、常に図41の電圧変化Iの最大電圧を示す状態となる。故に、溶液は、常に強い電流が印加された状態となっている。そして、電流が被処理物の常に決まった場所に多く流れることになり(例えばエッジ部)、その結果、そのような場所の密着性が悪化する。
本発明の、電流走査電解は、被膜形成において、溶液内成分の反応に関連して、溶液を電解しない初期状態から常に出発するという電解被膜形成反応を繰り返し、行うことで、定電流電解とは大きく異なっている。そして、そのような工夫が被膜の密着性にも大きく関与するのである。
産業上の利用可能性
以上のように、本発明にかかるリン酸塩化成処理方法は、ステータ等の金属材料を冷鍛処理する前の前処理として用いられるリン酸塩化成処理方法である。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(II-1)訂正の内容
訂正事項a(特許請求の範囲の訂正)
(a-1)「【請求項1】少なくともリン酸イオン・・・ことを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」を、
「【請求項1】少なくともリン酸イオン、窒素を含むオキソ酸イオンおよび化成皮膜形成金属イオンを含むリン酸塩化成処理液に、導電性を有する金属材料を接触させて前記金属材料表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記リン酸塩化成処理浴は、化成処理浴の有する酸化還元電位が250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲にある不可避成分以外の固型分を含有しない浴であり、前記リン酸塩化成処理浴中にて、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-2)【請求項6】に係る記載を削除する。
(a-3)「【請求項7】前記金属材料は・・・請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項6】前記金属材料は、銅、アルミニウム、鉄の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載のリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-4)「【請求項8】リン酸イオン・・・・ことを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項7】リン酸イオン、硝酸イオン、化成皮膜形成金属イオンおよび酸化剤を含むリン酸塩化成処理浴に鉄鋼、銅、アルミ材の少なくとも一つを接触させ、被膜形成反応を生じさせることによって、該金属表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、 前記化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とするとともに、前記リン酸塩化成処理浴全体が、前記リン酸塩化成処理浴の液体としてのエネルギー状態を熱力学的に安定にする安定化手段によって、エネルギー状態を安定に維持させることにより、不可避成分以外の固型分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴とし、前記リン酸塩化成処理浴中において、前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-5)「【請求項9】前記リン酸塩化成処理浴は・・・・請求項8記載のリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項8】前記リン酸塩化成処理浴は、前記リン酸塩化成処理浴を有する浴槽中より、前記リン酸塩化成処理浴の一部を取り出し、前記リン酸塩化成処理浴の液体としてのエネルギー状態を熱力学的に安定にする安定化手段によって、エネルギー状態を安定にした後、再び前記浴槽に戻すことを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-6)「【請求項10】前記安定化手段は・・・・請求項8記載のリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項9】前記安定化手段は、前記リン酸塩化成処理浴が液体のみの状態を維持しつつ、かつ前記液体が有する内部エネルギーを熱力学的に安定化させることを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-7)「【請求項11】前記電解処理は・・・請求項8記載のリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項10】前記電解処理は、電流を印加する方法であることを特徴とする請求項7記載のリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-8)【特許請求の範囲】の【請求項12】に係る記載を削除する。
(a-9)「【請求項13】リン酸イオン・・・・ことを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」を、
「【請求項11】リン酸イオン,硝酸イオン,化成被膜形成金属イオンおよび酸化剤を含む40℃以下に維持されたリン酸塩化成処理浴に鉄鋼・銅・アルミを接触させ、前記リン酸塩化成処理浴と前記鉄鋼材料間に被膜形成反応を生じさせることによって、鉄鋼・銅・アルミ表面にリン酸塩化成処理被膜を形成する方法において、
前記化成処理浴の有する酸化還元電位が250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲にあり、前記リン酸塩化成処理浴の一部を取り出し、該取り出したリン酸塩化成処理浴を再び戻すという循環経路を設けるとともに、前記循環経路中には、SiO2、Al2O3を基本構成化合物としてもつ無機物よりなるフィルターを設けて、不可避成分以外の固形分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴中において、前記金属材料を電解処理することを特微とするリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-10)「【請求項14】前記電解処理は・・・請求項13記載のリン酸塩化成処理方法。」を、「【請求項12】前記電解処理は、電流を印加する方法であることを特徴とする請求項11記載のリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
(a-11)【請求項15】に係る記載を削除する。
(a-12)「【請求項16】リン酸イオン・・・ことを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」を、
「【請求項13】リン酸イオン、硝酸イオン、化成皮膜形成金属イオンおよび酸化剤を含むリン酸塩化成処理浴に鉄鋼、銅、アルミ材の少なくとも一つを接触させ、被膜形成反応を生じさせることによって、該金属表面にリン酸塩化成皮膜を形成する方法であって、
前記化成処理浴の酸化還元電位を250〜650mV(銀-塩化銀電極電位)の範囲とするとともに、前記リン酸塩化成処理浴中のリン酸塩化成処理(皮膜形成)反応を、前記金属表面のみで相転移を伴う前記金属表面の固相-液相間電気化学(酸化-還元)反応と前記リン酸塩化成処理浴中で相転移を伴わない液相-液相問の電気化学反応のみとし、不可避成分以外の固型分を含有しない前記リン酸塩化成処理浴中とし、前記リン酸塩化成処理浴中にて前記金属材料を電解処理することを特徴とするリン酸塩化成処理方法。」と訂正する。
訂正事項b(特許請求の範囲以外の訂正)
(b-1)明細書第20頁第24行〜第21頁第4行(特許明細書の第9頁左欄下から第9行〜同頁右欄第1行)の「なお、本発明にかかる化成皮膜処理中の・・・・であることが好ましい。」を
「なお、本発明にかかる化成皮膜処理浴中のリン酸イオンは、概ね4g/l(グラム/リットル)以上、皮膜形成金属イオンは、概ね1.5g/l以上、硝酸イオンは、概ね3g/l以上必要であることが好ましい。逆に、リン酸イオンの上限は、概ね150g/l程度、皮膜形成金属イオンの上限は、概ね40g/l程度、硝酸イオンの上限は、概ね150g/l程度であることが好ましい。また、最も好ましいイオン濃度は、リン酸イオンでは概ね5〜80g/l程度、皮膜形成金属イオンでは概ね2〜30g/l程度、硝酸イオンでは概ね10〜60g/l程度であることが好ましい。」と訂正する。
異議決定日 2002-09-02 
出願番号 特願平5-518742
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C25D)
P 1 651・ 531- YA (C25D)
P 1 651・ 121- YA (C25D)
P 1 651・ 534- YA (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 有田 恭子  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 大橋 賢一
池田 正人
登録日 2000-04-28 
登録番号 特許第3060537号(P3060537)
権利者 株式会社デンソー
発明の名称 リン酸塩化成処理方法  
代理人 加藤 大登  
代理人 矢作 和行  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 矢作 和行  
代理人 加藤 大登  

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