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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1070379 |
異議申立番号 | 異議2001-70951 |
総通号数 | 38 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2003-02-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-03-26 |
確定日 | 2002-10-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3091494号「接着性組成物とその製造方法」の請求項1ないし8、13に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3091494号の請求項1ないし7、12に係る特許を取り消す。 |
理由 |
[1]手続きの経緯 本件特許第3091494号は、平成8年8月1日(優先権主張、平成7年8月1日、日本)に出願された特願平9-507477号の出願に係り、平成12年7月21日にその設定登録がなされた後、石丸光男から特許異議の申立てがなされ、それに基づく再度の特許取消の理由通知に対し、平成14年4月9日付けで、先の訂正請求を取り下げた上で、改めて訂正請求がなされたものである。 [2]本件訂正前の特許に対する特許異議申立人の主張の概要 訂正前の本件特許に対し、特許異議申立人石丸光男は、本件の優先権主張日前頒布された刊行物を提示し、その記載事項を根拠に、本件請求項1〜8及び13に係る発明は特許法第29条第1項第3号若しくは同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それら発明についての特許は取り消されるべきである旨、主張している。 [3]本件訂正請求 [3-1]訂正事項 本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正事項を個別に列挙すれば以下のとおりである。 (イ)訂正事項a-1 請求項1を削除し、請求項2以下の項番号を各1繰り上げる。 (ロ)訂正事項a-2 新たな請求項1,7,8において、「室温硬化性樹脂の重量基準で、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンを0.5〜10重量%、充填材を10〜200重量%、可塑剤を0.1〜100重量%含有する」を「室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる」に訂正する。 (ハ)訂正事項a-3 明細書2頁5〜7行(本件特許公報4欄20〜22行)の「室温硬化性樹脂と、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンと、充填材と、必要に応じて可塑剤を含有する。」を「室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる接着性組成物である。」に訂正する。 (ニ)訂正事項a-4 明細書6頁4行(同公報7欄18行)の「させることができる。」を「させる。」に訂正する。 (ホ)訂正事項a-5 明細書6頁14行(同公報7欄31行)の「することが好ましい。」を「する。」に訂正する。 (ヘ)訂正事項a-6 明細書7頁11〜12行(同公報8欄14行)の「任意の順序で混練することにより製造することも」を「混練することにより製造することが」に訂正する。 (ト)訂正事項b-1 新請求項7,8における「シーリング材としての使用」、「コーティング材としての使用」を、それぞれ「軽量シーリング材としての使用」、「軽量コーティング材としての使用」に訂正する。 (チ)訂正事項c-1 明細書5頁15〜16行(同公報6欄43行)の「室温硬化性樹脂基準で、0.5〜10重量%」を「室温硬化性樹脂100重量部基準で、0.5〜10重量部」に訂正する(決定注:訂正請求書の(3)訂正の要旨で指摘する事項は本件訂正前明細書及び全文訂正明細書の記載と一致していないが、その部分は後者を採用。)。 (リ)訂正事項c-2 明細書6頁3〜4行(同公報7欄17行)の「硬化性樹脂基準で10〜200重量%」を「硬化性樹脂100重量部基準で10〜200重量部」に訂正する(決定注:訂正請求書の(3)訂正の要旨で指摘する事項は全文訂正明細書の記載と一致していないが、その部分は後者を採用。)。 (ヌ)訂正事項c-3 明細書6頁13〜14行(同公報7欄30行)の「硬化性樹脂基準で、0.1〜100重量%」を「硬化性樹脂100重量部基準で、0.1〜100重量部」に訂正する。 (ル)訂正事項d-1 明細書4頁8〜9行(同公報5欄50行〜6欄1行)の「テトルエトキシシラン、テトラピロポキシシラン」を「テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン」に訂正する。 (ヲ)訂正事項d-2 明細書6頁1行(同公報7欄14行)の「マルモトマイクロスフェアー」を「マツモトマイクロスフェアー」に訂正する。 [3-2]訂正適否の検討 (イ)訂正事項a-1は、単に請求項1を削除し、また、これに伴い各請求項番号の整理をするだけの訂正であるから、特許請求の範囲の減縮及びこれによって生ずる明りょうでない記載の釈明をするものであり、当然に訂正前の明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。 (ロ)訂正事項a-2は、新たな請求項1,7,8において、各成分の量的規定を明確にすると共に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンを充填材と可塑剤が配合された組成物に混合することを規定するものであるが、前者については、訂正前の明細書に重量%として記載されていた量が樹脂100重量部に対する重量部であったことを明りょうにするものであり、後者については、訂正前の明細書に、「湿潤剤で濡らされたマイクロバルーンは、接着性組成物が調製される最終段階でこれに加えることが好ましい。接着性組成物を調製する初期段階での添加は、混練によってマイクロバルーンが破砕される可能性が増大するからである。」(本件特許公報8欄18〜22行)と記載され、可塑剤で湿潤させることなく組成物を製造する例(C-7)も記載されていることから、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で明りょうでない記載の釈明をし、また特許請求の範囲の減縮をするものである。 (ハ)訂正事項a-3〜a-6は、上記特許請求の範囲の訂正に対応させて発明の詳細な説明の記載をこれに整合させるものであるから、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で明りょうでない記載の釈明をするものである。 (ニ)訂正事項b-1は、新請求項7,8において、「軽量」なる語を付すものであるが、本件が軽量化を意図するものであることは訂正前の明細書に明記されている事項であるから(本件特許公報3欄32行)、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮をするものである。 (ホ)訂正事項c-1〜c-3は、発明の詳細な説明において、訂正事項a-2と同様、量的規定の明確化をするものであるから、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で明りょうでない記載の釈明をするものである。 (ヘ)訂正事項d-1〜d-2は、それ自体明白な誤記の訂正をするものである。 (ト)そして、これら訂正により特許請求の範囲が実質的に拡張若しくは変更されるものとも認められない。 また、本件特許異議申立ての対象とされていない請求項8(訂正前の請求項9)については、特許請求の範囲を減縮する訂正がなされているが、後記するように、これが特許出願の際独立して特許を受けることができない発明と認めることはできない。 したがつて、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項ただし書第1〜3号に掲げる事項を目的とし、同第3項で準用する同法第126条第2〜4項の規定に適合するものである。 [4]本件発明 訂正後の本件発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「1.室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる接着性組成物。 2.前記室温硬化性樹脂が、重量平均分子量500〜5,000のポリオールよりなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー、シリコーンゴム、重量平均分子量2000〜20,000の変成シリコーンゴム、重量平均分子量3000〜75,000の多硫化ゴムからなる群から選ばれる請求項1記載の接着性組成物。 3.無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンの平均粒径が5〜200ミクロンの範囲にあり、真比重が0.05〜0.5g/cm3の範囲にある請求項1記載の接着性組成物。 4.プラスチックマイクロバルーンの表面を被覆する無機微粉末が、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化ケイ素、タルク、クレー及びカーボンブラックからなる群から選ばれる請求項1記載の接着性組成物。 5.無機微粉末で表面を被覆されているプラスチックマイクロバルーンが、塩化ビニリデン単独重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル二元共重合体、アクリロニトリル-メタクリロニトリル二元共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル-ジビニルベンゼン三元共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体で形成されている請求項1記載の接着性組成物。 6.前記の充填材が、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の接着性組成物。 7.室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる接着性組成物の軽量シーリング材としての使用。 8.室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる、接着性組成物の軽量コーティング材としての使用。 9.室温硬化性樹脂と、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンと、充填材と、可塑剤を混練して接着性組成物を製造するに際し、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンを予め湿潤剤と親密に混合しておき、この混合物を、室温硬化性樹脂と充填材と可塑剤との混練物に混合する接着性組成物の製造方法。 10.可塑剤、流動パラフィン、シリコーンオイル、メチルフェニルポリシロキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の湿潤剤を、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン1重量部当たり、0.1〜7重量部の範囲で使用する請求項9記載の接着性組成物の製造方法。 11.請求項9または10記載の製造方法で得られる接着性組成物。 12.前記接着性組成物が、適度のチクソトロピー性を有する請求項1記載の接着性組成物。」 [5]本件特許異議申立てについて [5-1]引用例の記載事項 平成14年1月28日(起案日)付けで通知された取消理由に引用された、本件の優先権主張日(平成7年8月1日)前頒布された刊行物である特開平3-273084号公報(以下「引用例1」という。)には、 「(1)乾式パネルの接合部において、変性シリコーン系パテ材を用いることを特徴とする防水・シール方法。 (2)・・・・・・ (3)前記変性シリコーン系パテ材が、中空状充填材を含むことを特徴とする請求項(1)又は(2)記載の防水・シール方法。」(特許請求の範囲)についての発明が記載され、「本発明は、乾式パネルの接合部における、変性シリコーン系パテ材を用いた防水・シール方法に関する。」(1頁左下欄、産業上の利用分野)、「本発明者らは鋭意研究の結果、(A)変性シリコーン樹脂、(B)硬化促進剤、また、必要に応じて(C)その他配合剤、特に (D)中空状充填材からなる変性シリコーン系パテ材を用いた場合、シーリングと段差修正の両方を一度に行うことができ、しかも従来の方法の欠点を総て解決しうることを見い出し、本発明を完成するに至った。」(2頁左上欄14行〜右上欄1行)、「上記組成に対して、さらに(C)その他の配合剤として充填材、可塑剤、・・・等を必要に応じてそれぞれ添加することができる。 充填剤の例としては、フュームドシリカ、沈降性シリカ、・・・炭酸カルシウム、・・・酸化チタン、・・・をあげることができる。特に(D)中空状充填材である、ガラス、シリカ・・・等の無機質の中空状充填材、・・・塩化ビニリデンーアクリロニトリル系樹脂等のプラスチックス中空状充填材、表面がタルク、酸化チタン、炭酸カルシウム等でコーティングされたプラスチック中空状充填材等々を用いた場合、パテ材の仕上げ性、作業性(ヘラ切れ性)において有効である。 つぎに、これらの配合比率は、(A)変性シリコーン樹脂100重量部に対して、(B)硬化促進剤を0.1〜10重量部程度配合するのが望ましく、さらに(C)その他の配合剤として、充填材、可塑剤・・・等を必要に応じて添加することができる。特に(D)中空状充填材を0.1〜200重量部、好ましくは、1〜50重量部程度配合するのが望ましい。」(2頁左下欄3行〜右下欄15行)、「上記のごとく、本発明の組成における変性シリコーン系パテ材を乾式パネルの接合部に用いた場合、変性シリコーン系のため無機質下地との密着性が良く、」(3頁右上欄14〜17行)と記載され、 <実施例>では、「分子末端にメチルジメトキシシリル基を有するポリプロピレンオキシド系の変性シリコーン樹脂「カネカMSポリマー(鐘淵化学工業株式会社製)」と、硬化促進剤としての有機錫化合物及びラウリルアミンと、接着付与剤としてのシランカップリング剤及び充填材としての炭酸カルシウムと、ガラス及びプラスチックの中空状充填材を、表-1に示した配合により、・・・・混合して変性シリコーン系パテ材をそれぞれ作製し、以下の実施例に用いた。」(3頁左下欄16行〜右下欄5行)と記載され、その実施例2として、 (A)カネカMSポリマー 100 (B)オクチル酸第一錫 3 ラウリルアミン 3 (C)炭酸カルシウム 50 (D)塩化ビニリデン-アクリロニトリル樹脂中空状充填材 2 (ただし、数値は重量部を示す。)の組成が具体的に示されている。 同じく、平成14年1月28日付けで通知された取消理由に引用された、本件の優先権主張日前頒布された刊行物である、日本接着協会誌19巻6号、日本接着協会、昭和58年6月1日発行、32〜39頁(以下「引用例2」という。)には、「新しい弾性シーリング材-変成シリコーン-」と題して記載され、「変成シリコーン系シーリング材用のベースポリマーである変成シリコーンは,オルガノシロキサンをもつ各種の有機ポリマーが考えられるが,現在市場に供給され使用されているのは1種類だけである。我々が開発した,ポリプロピレンオキシド主鎖の末端にメチルジメトキシシリル官能基を有するテレケリック液状ポリマー(商品名「カネカMSポリマーR(決定注:RはOの中に記載されている。)」,鐘淵化学工業(株))である。この液状ポリマーは,水分及び触媒により末端のケイ素原子上のメトキシ基が加水分解をうけてシラノール基が生成し,続いてシラノール縮合反応が起きシロキサン結合が生成する事によって,分子鎖延長反応及び架橋反応が進みゴム弾性体となる。」(32頁左欄)と記載され、「MSポリマーの一般性状」として、 「外観 淡黄色透明液状 ・・・・・・・・・ 粘度 130±50ポイズ(23℃) ・・・・・・・・・・ 平均分子量 約7,500 」 と記載され(33頁表1)、その2成分系の配合組成の例として、 「基材 カネカMSポリマー 100 可塑剤 40〜70 CaCO3,TiO2 etc 90〜130 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 硬化剤 スズ(II)脂肪酸塩 2〜4 ・・・・・・・・・・・・・・ 可塑剤 5〜10 TiO2,CaCO3 10〜20 」 が記載されている(表2、ただし、数値は配合比としての重量部を示す。)。 同じく、平成14年1月28日付けで通知された取消理由に引用された、本件の優先権主張日前頒布された刊行物である、平成4年9月9日付け日経産業新聞(以下「引用例3」という。)には、「繊維用薬剤のトップメーカー、松本油脂製薬は繊維強化プラスチック(FRP)製品を最大20%軽量化できる中空微小球を開発した。熱可塑性ポリマーの表面を炭酸カルシウムなどの不活性無機粉体でコーティングをし、これまで不可能とされていたFRPにも混入できるようにした。・・・商品名は「マツモトマイクロスフェアーMFLシリーズ」で、熱を加えると膨らむプラスチックのマイクロカプセルを利用した。ポリアクリロニトリルを主成分とし、直径20ミクロン(1ミクロンは千分の1ミリ)から百ミクロンの高分子中空微小球体が表面が炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンなどの不活性無機粉体で覆われている。・・・従来の軽量化剤は比重が0.2-0.4のガラスを素材にしたものと、0.020-0.025のプラスチックを素材にしたものが中心。今回開発したコーティングタイプは、比重が0.05-0.20とガラスとプラスチックの中間になる。これまでのプラスチックの中空微小球は軽過ぎて、そのまま使用すると空気中に飛散してしまうため、・・・の前処理が必要だった。・・・同社が開発した商品は不活性無機粉体を表面にコーティングして比重を重くすることで、FRPへの直接混入を可能にした。」と記載されている。 [5-2]対比・検討 本件特許異議の申立ての対象とされている訂正後の請求項1〜7、12(訂正前の請求項2〜8、13、なお、訂正前の請求項1は訂正により削除されている。)に係る発明(以下、順次「本件第1発明」、「本件第2発明」、・・・「本件第7発明」及び「本件第12発明」という。)について、その特許の取消理由の有無を、以下順次検討することとする。 (1)本件第1発明について 引用例1には、(A)変性シリコーン樹脂、(B)硬化促進剤、(C)その他の配合剤、そして(D)中空状充填材からなる変性シリコーン系パテ材に関する発明が記載され、中空状充填材として、表面が炭酸カルシウム等でコーティングされたプラスチック中空状充填材が用いられること、その配合量は、変性シリコーン樹脂100重量部に対し、0.1〜200重量部、好ましくは、1〜50重量部であること、充填材、可塑剤等が必要に応じ適宜配合されること、そのパテ材は下地との密着性が良いこと、が、いずれも記載され、ここで変性シリコーン樹脂として実際に使用されている「カネカMSポリマー」は室温硬化性樹脂として知られているものであり、該コーティングされたプラスチック中空状充填材の添加量は本件第1発明におけるそれと重複・一致するものであるから、引用例1には、室温硬化性樹脂100重量部に対して、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部が配合されている接着性の組成物が記載されていると認められ、この点で本件第1発明と一致する発明が記載されていると認められ、本件第1発明では、室温硬化性樹脂100重量部に対し、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部配合すること、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンを充填材、可塑剤を含有する組成物に混合することが記載されていない点で相違しているものと認められる。 よってこの点について検討するに、可塑剤、添加剤は必要に応じて適宜添加されるものであることは引用例1に記載されているところであり、その添加の目的を達成するための好適な量を設定することは当業者にとって格別困難なこととは認められず、しかも引用例2には、引用例1に記載されている発明と同じく、カネカMSポリマーを基体ポリマーとする弾性シーリング材についての発明が記載されているが、カネカMSポリマー100重量部に対して、可塑剤を45〜80重量部(基材部分に40〜70重量部、硬化剤部分に5〜10重量部配合するとしており、これを合算すると45〜80重量部となる。)、充填材(二酸化チタン、炭酸カルシウム等)を100〜150重量部(基材部分に90〜130重量部、硬化剤部分に10〜20重量部配合するとしており、これを合算すると100〜150重量部となる。)程度配合されることが記載されているのであるから、なおさらのこと、本件第1発明で規定する程度の量の設定に格別の困難性を認めることはできない。 また、プラスチックマイクロバルーンは中空状であることから混練時破壊され易いことは当然に予想されることであり、そうである以上、その混練に際しては、極力破壊力が作用しないよう、充填材等の混練の後に混合させることは、当業者にとって格別の創意を要することとは認められず、適宜容易になしうることといわざるを得ない。 したがって、以上の点からみて、本件第1発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づき当業者であれば容易に発明をすることができたものと認めざるを得ない。 (2)本件第2発明について、 本件第2発明は、本件第1発明において、室温硬化性樹脂を限定したものであるが、このうち、重量平均分子量2000〜20,000の変成シリコーンゴムについてみると、本件発明でその実施例として用いられているものが引用例1に記載の発明でも使用されているカネカMSポリマーであることから、この点は実質上引用例1に記載されていたものと解するのが相当と認められるが、仮に重量平均分子量の点で一致していないとしても、重量平均分子量は、粘度に関係する事項であり、作業性等の観点から、その好ましい粘度のものを使用することは当業者にとって当然になされることであるから、いずれにしても本件第2発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めざるを得ない。 (3)本件第3発明について 本件第3発明は、本件第1発明において、無機微粉末で表面被覆されたマイクロバルーンの平均粒径が5〜200ミクロンの範囲にあること、真比重が0.05〜0.5g/cm3の範囲にあることを規定するものであるが、これらは、刊行物3に具体的に記載されている数値と重複するものである。 したがって、本件第3発明は引用例1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めざるを得ない。 (4)本件第4発明について 本件第4発明は、本件第1発明において、プラスチックマイクロバルーンの表面を被覆する無機微粉末を炭酸カルシウム等の特定のものに限定するものであるが、炭酸カルシウムがプラスチックマイクロバルーンの表面を被覆するものとして使用されることは引用例1に明記されている事項であるから、本件第4発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めざるを得ない。 (5)本件第5発明について 本件第5発明は、本件第1発明において、プラスチックマイクロバルーン自体を限定するものであるが、その1つである塩化ビニリデンーアクリロニトリル系樹脂は引用例1に記載されているものであるから、本件第5発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めざるを得ない。 (6)本件第6発明について 本件第6発明は、本件第1発明において、充填材を炭酸カルシウム等の特定のものに限定するものであるが、炭酸カルシウムが充填材として使用されることは引用例1に明記されている事項であるから、本件第6発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めざるを得ない。 (7)本件第7発明について 本件第7発明は、本件第1発明を引用してはいないものの、実質的には、本件第1発明の接着性組成物を軽量シーリング材として使用するものであるが、引用例1には、当該パテ材を用いて、防水・シールすることが記載されているのであるから、本件第7発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めざるを得ない。 なお、「軽量」は、引用例3にも記載されているとおり、プラスチックマイクロバルーンを使用することにより必然的に得られる事項である。 (8)本件第12発明について 本件第12発明は、本件第1発明の組成物が適度のチキソトロピー性を有することを規定するものであるが、この点については、本件明細書において、「本発明で使用する上記のマイクロバルーンは、表面が無機微粉末で被覆されているため、室温硬化性樹脂との馴染み易く、実質的なバルーン破壊を伴わずに均一混合が可能であり、適度のチキソトロピー性が得られることから、本発明の接着性組成物の調製時並びに施工時の作業性が向上する。」(本件特許掲載公報6欄45〜50行、なお、「適度のチキソトロピー性」なる語はこの1箇所にのみ記載されている。)と記載されていることからしても、本件第1発明の組成としたことにより、いわば必然的に得られるものの性質を単に確認したにすぎないものと解する他はないから、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者か容易に発明をすることができたものと認めざるを得ない。 [6]本件第8発明の独立特許要件について 本件第8発明は、軽量コーティング材に関する発明であるが、引用例1、2には、そこに記載されているシーリング材をコーティング材として使用することに関しての格別の記載はなされていない。 したがって、本件第8発明の独立特許要件を否定することはできない。 [7]むすび 以上のとおり、訂正後の本件請求項1〜7、12に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第1項第2号の規定に該当し、取り消されるべきである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 接着性組成物とその製造方法 (57)【特許請求の範囲】 1. 室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる接着性組成物。 2. 前記室温硬化性樹脂が、重量平均分子量500〜5,000のポリオールよりなる末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー、シリコーンゴム、重量平均分子量2000〜20,000の変成シリコーンゴム、重量平均分子量3000〜75,000の多硫化ゴムからなる群から選ばれる請求項1記載の接着性組成物。 3. 無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンの平均粒径が5〜200ミクロンの範囲にあり、真比重が0.05〜0.5g/cm3の範囲にある請求項1記載の接着性組成物。 4. プラスチックマイクロバルーンの表面を被覆する無機微粉末が、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化ケイ素、タルク、クレー及びカーボンブラックからなる群から選ばれる請求項1記載の接着性組成物。 5. 無機微粉末で表面を被覆されているプラスチックマイクロバルーンが、塩化ビニリデン単独重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル二元共重合体、アクリロニトリル-メタクリロニトリル二元共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル-ジビニルベンゼン三元共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体で形成されている請求項1記載の接着性組成物。 6. 前記の充填材が、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の接着性組成物。 7. 室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる接着性組成物の軽量シーリング材としての使用。 8. 室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる、接着性組成物の軽量コーティング材としての使用。 9. 室温硬化性樹脂と、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンと、充填材と、可塑剤を混練して接着性組成物を製造するに際し、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンを予め湿潤剤と親密に混合しておき、この混合物を、室温硬化性樹脂と充填材と可塑剤との混練物に混合する接着性組成物の製造方法。 10. 可塑剤、流動パラフィン、シリコーンオイル、メチルフェニルポリシロキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンからなる群から選ばれる少なくとも1種の湿潤剤を、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン1重量部当たり、0.1〜7重量部の範囲で使用する請求項9記載の接着性組成物の製造方法。 11. 請求項9または10記載の製造方法で得られる接着性組成物。 12. 前記接着性組成物が、適度のチクソトロピー性を有する請求項1記載の接着性組成物。 【発明の詳細な説明】 [技術分野] 本発明は、軽量シーリング材、軽量コーティング材等として使用可能な接着性組成物とその製造方法に関するものであって、さらに詳しくは、常温硬化性樹脂成分と、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンとを含有する接着剤組成物とその製造方法に係る。 [背景技術] 室温硬化性の樹脂は、接着材、シーリング材、コーティング材などに、古くから広く使用されており、近年においては、この樹脂に微小な中空充填材を配合し、軽量化という本来の役割に加えて、断熱、防音、吸熱等の役割を果たす樹脂組成物が開発されている。 例えば、特開平4-8788号公報には、液状のシリコーン樹脂にプラスチックマイクロバルーンを配合した組成物を、パッキング材として使用する技術が記載されている。また、特開平4-173867号公報には、シリコーン樹脂(ジオルガノポリシロキサン重合体)に、硼珪酸塩からなるマイクロバルーンと、フェノール樹脂からなるマイクロバルーンを配合した組成物を、断熱材として使用する技術が記載されている。そしてまた、特開平7-113073号公報には、室温硬化性樹脂に微小なプラスチックバルーン及び/又はシリカバルーンを配合した艶消しシーリング材組成物が記載されている。 しかしながら、上に紹介した従来のマイクロバルーン含有樹脂組成物は、特にプラスチックマイクロバルーン含有樹脂組成物は、樹脂成分にマイクロバルーンを直接分散させている関係で、均一分散が難しく、攪拌を充分に行って均一分散を図った場合には、マイクロバルーンが破壊されてしまう不都合があった。 また、従来のプラスチックマイクロバルーン含有樹脂組成物は、施工に際しての作業性が悪いばかりでなく、その硬化物の物性にバラツキが生ずる欠点があるが、これは樹脂成分にマイクロバルーンが均一に分散していないためであると推察される。 [発明の開示] 本発明は、接着剤としてはもちろん、シーリング材、コーティング材、パッキング材として使用可能な接着性組成とその製造方法を提供するものである。 本発明に係る接着性組成物は、室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる接着性組成物である。この接着性組成物は、基本的には、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンの表面を湿潤剤で濡らし、次いでこれを室温硬化性樹脂、可塑剤及び充填材と均一に混合することで調製される。 本発明において、室温硬化性樹脂とは、文字通り、室温で硬化する樹脂を指し、これには湿気硬化性樹脂が包含される。本発明の室温硬化性樹脂としては、末端基がイソシアネートであるウレタンプレポリマー、シリコーン、変性シリコーン、ポリサルファイドゴムがいずれも使用可能である。 末端基がイソシアネートであるウレタンプレポリマー(以下これをイソシアネートプレポリマーと呼ぶ)は、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることによって製造することができる。ここで、ポリオールとは、炭化水素が有する複数個の水素を、水酸基で置換した構造を持ったポリヒドロキシル化合物の総称であって、このものは、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキサイドの1種又は2種以上を、2個以上の活性水素を有する化合物に付加重合させた生成物である。2個以上の活性水素を有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアミン類;エタノールアミン、プロパノールアミン等のアルカノールアミン類;レゾルシン、ビスフェノール等の多価フェノール類が使用可能である。 イソシアネートプレポリマーの調製に使用されるポリオールの具体例を示すと、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコール等のポリエーテル系ポリオール;ポリブタンジエンポリオール、ポリイソプレングリコール等のポリオレフィン系ポリオール;アジペート系ポリオール;ラクトン系ポリオール;ひまし油等のポリエステル系ポリオールを挙げることができる。これらの各ポリオールは、単独で使用することができ、また、2種以上併用することもできるが、何れの場合でも、各ポリオールの重量平均分子量は、100〜10,000、好ましくは、500〜5,000程度であることが望ましい。 一方、イソシアネートプレポリマーの調製に使用されるポリイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルエタン-4,4-ジイソシアネート(MDI)及びこれらの変性品、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)等が使用可能であって、これらの各ポリイソシアネートは単独で使用することができるほか、2種以上を併用することもできる。 ポリオールとポリイソシアネートーを反応させる際の両者の量比は、ポリイソシアネートのイソシアネート基1個当たり、ポリオールの水酸基1個以下(未満)とするが、0.95〜0.75個とするのが好ましい。反応温度及び反応圧には、通常のウレタンゴム製造時のそれが採用でき、反応温度10〜100℃程度で常圧下に、ポリオールとポリイソシアネートーを反応させることより、本発明で使用可能な常温硬化性樹脂の一つであるイソシアネートプレポリマーを製造することができる。このイソシアネートプレポリマーは湿気硬化性である。 本発明で使用可能な室温硬化性樹脂の他の一つはシリコーンであって、この室温硬化性シリコーンは、一液型のものと二液型のものとに大別される。一液型のシリコーンは、反応性シラノール基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンに、潜在性硬化剤が予め配合されており、潜在性硬化剤としては、メチルトリスメチルエチルケトオキシムシラン、メチルトリスアセトキシシラン、メチルトリスメトキシシラン、メチルトリスシクロヘキシルアミノシラン、メチルトリスイソプロペノキシシラン等がいずれも使用可能である。 二液型のシリコーンは、硬化剤の不存在下では硬化しない上記の反応性シラノール基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンを、硬化剤の混合によって硬化させるタイプの室温硬化性樹脂で、硬化剤としては、環状アミノキシシロキサン、直鎖状アミノキシシロキサン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等がいずれも使用可能である。 尚、二液型のシリコーンを本発明の室温硬化性樹脂に使用する場合には、本発明の接着性組成物中には反応性シラノール基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンを配合しておくのが通例であって、当該組成物を室温硬化させる際に、これに硬化剤を混合する。 本発明で使用可能な室温硬化性樹脂の別の一つは、末端に反応性シリル基を導入したポリエーテルを主成分とする変性シリコーンであって、このものは硬化触媒の存在下で、空気中の水分又は接着性組成物に混入している水分の作用を受けて室温硬化する。変性シリコーンも一液型、二液型のいずれもが使用可能であり、硬化触媒としては、有機錫(organotin)のような有機金属化合物やアミンのような塩基性化合物等が使用できる。本発明で使用する変性シリコーンゴムは、その重量平均分子量が、2,000〜20,000程度である。 本発明で使用可能な室温硬化性樹脂のさらに別の一つは、多硫化ゴムであって、このものは硬化剤の作用を受けて室温硬化する。硬化剤としては、金属の酸化物又は過酸化物が使用できるほか、有機又は無機酸化剤が一般にできる。本発明で使用する多硫化ゴムは、その重量平均分子量が、3,000〜7,500程度である。 本発明の接着性組成物は、上記した室温硬化性樹脂に加えて、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンを含有する。このマイクロバルーンは、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン、スチレン系共重合体、ポリメタクリレート、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン-アクリロニトリル二元共重合体、アクリロニトリル-メタクリロニトリル二共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル-ジビニルベンゼン三元共重合体等のいずれかで形成されるプラスチックマイクロバルーンの表面の一部又は全部を、無機微粉末で被覆したものである。無機微粉末としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化ケイ素、タルク、クレー、カーボンブラックから選ばれる1種又は2種以上が使用可能である。 本発明で使用するところの、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンは、粒径が5〜200μm、好ましくは30〜50μmの範囲にあり、真比重が0.05〜0.5g/cm3、好ましくは0.10〜0.30g/cm3の範囲にある。そして、このものの配合量は、接着性組成物に配合される室温硬化性樹脂100重量部基準で、0.5〜10重量部の範囲で選ばれる。 本発明で使用する上記のマイクロバルーンは、表面が無機微粉末で被覆されているため、室温硬化性樹脂との馴染み易く、実質的なバルーン破壊を伴わずに均一混合が可能であり、適度のチクソトロピー性が得られることから、本発明の接着性組成物の調製時並びに施工時の作業性が向上する。 ちなみに、室温硬化性樹脂として、末端基がイソシアネートであるウレタンプレポリマーを使用する場合は、脂肪酸エステルで表面処理されている炭酸カルシウム粉末にて、表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンを使用することにより、本発明の接着性組成物の貯蔵安定性を一段と改善することができる。また、室温硬化性樹脂として、多硫化ゴムを使用する場合は、高級脂肪酸で表面処理されている炭酸カルシウム粉末にて、表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンを使用することにより、接着剤組成物により一層のチクソトロピー性を付与することができる。 念のため付言すれば、本発明で使用可能な上記したマイクロバルーンは、日本の松本油脂製薬株式会社から、「マツモトマイクロスフェアー」なる名称を冠して幾つか市場に提供されている。 本発明の接着剤組成物は、これに配合されている室温硬化性樹脂100重量部基準で10〜200重量部の範囲の充填材を含有させる。この充填材は、本発明の接着性組成物が硬化した際、その硬化物に所望の性状を持たせるために添加される。本発明で使用できる充填材としては、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン等を挙げることができ、特に炭酸カルシウムが好ましい。室温硬化性樹脂として、末端基がイソシアネートであるウレタンプレポリマーを使用する場合は、脂肪酸エステルで表面処理されている炭酸カルシウムを充填材に使用した場合は、本発明の接着性組成物の貯蔵安定性が向上する。 本発明で使用する充填材は、その平均粒径を0.04〜7μmの範囲で任意に選択することができる。 本発明の接着性組成物はまた、これに配合されている室温硬化性樹脂100重量部基準で、0.1〜100重量部の可塑剤を含有する。二液型シリコーンゴムを室温硬化性樹脂に使用する場合は、可塑剤を殆ど必要としない。可塑剤としては、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジラウリルフタレート(DLP)、ブチルベンジルフタレート(BBP)等のフタル酸エステル類;アジピン酸ジオクチル、こはく酸イソデシル、セバシン酸ジブチル等の脂肪族二塩基酸エステル類;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル等のグリコールエステル類;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル等の脂肪族エステル類;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、リン酸オクチルジフェニル等のリン酸エステル類:二塩基酸と二価アルコールとのポリエステル類等の1種もしくは2種以上が使用可能である。 本発明の接着性組成物には、さらに任意成分として、酸化防止剤、顔料、分散剤等を配合することができる。酸化防止剤としては、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等のフェノール誘導体;ジフェニルアミン、フェニレンジアミン等の芳香族アミン;亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸エステル等が使用可能である。 顔料としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ等の金属酸化物;リトポン;鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム等の硫化物、塩化物、硫酸塩等が使用できるほか、アゾ顔料や銅フタロシアニン顔料などの有機顔料も使用可能である。 分散剤としては、ヘキサメタリン酸ナトリウム、縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム、界面活性剤等が使用可能である。 進んで、本発明に係る接着性組成物の製造方法について説明する。本発明の接着性組成物は、室温硬化性樹脂と、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルールと、充填剤と、可塑剤と、必要に応じて任意成分とを混練することにより製造することができるが、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンについては、他の成分との混合に先出ち、その表面を湿潤剤で濡らしておくことが肝要である。そして、湿潤剤で濡らされたマイクロバルーンは、接着性組成物が調製される最終段階でこれに加えることが好ましい。接着性組成物を調製する初期段階での添加は、混練によってマイクロバルーンが破砕される可能性が増大するからである。 この湿潤剤には、上記した可塑剤が使用できるほか、流動パラフィン、シリコーンオイル、メチルフェニルポリシロキサン等の潤滑流体;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤が使用可能である。湿潤剤の使用量は、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンに対する重量比で、0.1〜7の範囲で選ばれる。使用量が少なすぎると、マイクロバルーンに伴われて空気が接着性組成物中に混入する恐れがある。 [実施例] 以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。 室温硬化性ウレタンプレポリマーの調製 数平均分子量3,000のポリオキシプロピレングリコール500g、数平均分子量3,000のポリオキシプロピレントリオール2,000g、キシレンジイソシアネート250gを三つ口フラスコに入れ、80℃以下の温度で反応させ、末端NCO基含有量が1.5%のウレタンプレポリマーを調製した。 実施例1 上記のウレタンプレポリマー100重量部と、脂肪酸エステルで表面処理した炭酸カルシウム100重量部と、可塑剤(DOP)100重量部をプラネタリーミキサー(容積5リットル)で1時間混練し、混練物を得た。一方、酸化チタン粉末で表面被覆された平均粒径20μ、真比重0.21のプラスチックマイクロバルーン(以下、バルーンAと記す)1重量部に湿潤剤(DOP)7重量部を混合して得たスラリーを調製し、これを上記の混練物に加えて上記のミキサーで5分間混練して接着剤組成物を得た。 実施例2 バルーンAの使用量を5重量部に、湿潤剤の使用量を15重量部にそれぞれ増量した以外は実施例1と同様にして接着性組成物を得た。 実施例3 重質炭酸カルシウム粉末で表面被覆された平均粒径20μ、真比重0.18のプラスチックマイクロバルーン(以下、バルーンBと記す)1重量部を、湿潤剤(DOP)1重量部で湿らせた混合物を、実施例1のスラリーに代えて使用した以外は実施例1と同様にして接着性組成物を得た。 実施例4 バルーンB5重量部を、湿潤剤(DOP)2重量部で湿らせた混合物を、実施例1のスラリーに代えて使用した以外は実施例1と同様にして接着性組成物を得た。 比較例1 バルーンAを使用しないこと以外は、実施例1と同様にして接着性組成物を得た。 比較例2 表面被覆されていない平均粒径80〜90μ、真比重0.02のプラスチックマイクロバルーン(以下、裸のバルーンと記す)1重量部を、湿潤剤(DOP)1重量部で湿らせた混合物を、実施例1のスラリーに代えて使用した以外は実施例1と同様にして接着性組成物を得た。ただし、実施例1と相違して5分間の混練では目的の組成物を得ることができなかったので、混練時間を30分間延長した。 比較例3 平均粒径35〜45μ、真比重0.40のガラスバルーン(以下、バルーンXと記す)1重量部を、湿潤剤(DOP)1重量部で湿らせた混合物を、実施例1のスラリーに代えて使用した以外は実施例1と同様にして接着性組成物を得た。 この組成物をコンクリート面にヘラ塗りしたところ、実施例1〜4で得た接着性組成物に比較して、ざら付きを感じて作業し難かった。 実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた各接着性組成物について、それぞれの引張特性、比重及び潰れたバルーンのパーセンテージを、下記の方法で測定した。 (1)引張特性JIS A5758(建築用シーリング材試験)に準拠して、モルタル製の被着体で、各実施例及び比較例で得た接着性組成物から得られた供試体を挟み、30±2℃で14日間養生した後、約50mm/minの速度で被着体を引っ張り、伸びが50%の時の引張応力M50(N/cm2)と、引張強度Tmax(N/cm2)およびその時の伸びEB(%)並びにを計測した。 (2)比重JIS K7312に準拠して測定した。 (3)潰れたバルーンの測定 未硬化状態の接着性組成物の比重を測定し、組成物の配合量から計算される理論比重と実測比重とから、混練によって破壊されたバルーンの割合(%)を計算した。 結果を表1に示す。 実施例5 室温硬化性樹脂として変性シリコーンを使用し、先に記載した実施例に倣って幾つかのシーリング材組成物を調製し、上と同様にして各シーリング材組成物の物性評価を行った。各組成物の調製に使用した成分の使用量(重量部)と共に、物性評価結果を表2に示す。 尚、組成物E-5及びE-6は、予めマイクロバルーンを可塑剤の一部で湿潤させて組成物に混練し、組成物C-5〜C-7は、可塑剤で湿潤させることなく組成物に混練した。 実施例6 室温硬化性樹脂として変性シリコーンを使用し、先に記載した実施例に倣って幾つかのシーリング材組成物を調製し、上と同様にして各シーリング材組成物の物性評価を行った。各組成物の調製に使用した成分の使用量(重量部)と共に、物性評価結果を表3に示す。 尚、組成物E-7は、予めマイクロバルーンを可塑剤の一部で湿潤させて組成物に混練し、組成物C-9は、可塑剤で湿潤させることなく組成物に混練した。 実施例7 室温硬化性樹脂としてシリコーンを使用し、先に記載した実施例に倣って幾つかのシーリング材組成物を調製し、上と同様にして各シーリング材組成物の物性評価を行った。各組成物の調製に使用した成分の使用量(重量部)と共に、物性評価結果を表4に示す。 尚、組成物E-8及びE-9は、予めマイクロバルーンを可塑剤の一部で湿潤させて組成物に混練し、組成物C-11及びC-12は、可塑剤で湿潤させることなく組成物に混練した。 実施例8 室温硬化性樹脂として多硫化ゴムを使用し、先に記載した実施例に倣って幾つかのシーリング材組成物を調製し、上と同様にして各シーリング材組成物の物性評価を行った。各組成物の調製に使用した成分の使用量(重量部)と共に、物性評価結果を表5に示す。 尚、組成物E-10は、予めマイクロバルーンを可塑剤の一部で湿潤させて組成物に混練した。組成物C-14は、可塑剤で湿潤させることなく組成物に混練した。 |
訂正の要旨 |
訂正の要旨 本件訂正請求は、本件明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、 (イ)請求項1を削除し、請求項2以下の項番号を各1繰り上げ、 (ロ)新たな請求項1,7,8において、「室温硬化性樹脂の重量基準で、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンを0.5〜10重量%、充填材を10〜200重量%、可塑剤を0.1〜100重量%含有する」を「室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる」に訂正し、 (ハ)特許請求の範囲の減縮を目的として、新請求項7,8における「シーリング材としての使用」、「コーティング材としての使用」を「軽量シーリング材としての使用」、「軽量コーティング材としての使用」に訂正し、明りょうて゛ない記載の釈明を目的として、 (ニ)明細書2頁5〜7行(本件特許公報4欄20〜22行)の「室温硬化性樹脂と、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーンと、充填材と、必要に応じて可塑剤を含有する。」を「室温硬化性樹脂100重量部に対して、充填材を10〜200重量部、可塑剤を0.1〜100重量部含有する組成物に、無機微粉末で表面被覆されたプラスチックマイクロバルーン0.5〜10重量部を混合してなる接着性組成物である。」に訂正し、 (ホ)明細書6頁4行(同公報7欄18行)の「させることができる。」を「させる。」に訂正し、 (ヘ)明細書6頁14行(同公報7欄31行)の「することが好ましい。」を「する。」に訂正し、 (ト)明細書7頁11〜12行(同公報8欄14行)の「任意の順序で混練することにより製造することも」を「混練することにより製造することが」に訂正し、 (チ)明細書5頁15〜16行(同公報6欄43行)の「室温硬化性樹脂基準で0.5〜10重量%」を「室温硬化性樹脂100重量部基準で、0.5〜10重量部」に訂正し、 (リ)明細書6頁3〜4行(同公報7欄17行)の硬化性樹脂基準で10〜200重量%」を「硬化性樹脂100重量部基準で、10〜200重量部」に訂正し、 (ヌ)明細書6頁13〜14行(同公報7欄30行)の「硬化性樹脂基準で、0.1〜100重量%」を「硬化性樹脂100重量部基準で、0.1〜100重量部」に訂正し、以下、誤記の訂正を目的として、 (ル)明細書4頁8〜9行(同公報5欄50行〜6欄1行)の「テトルエトキシシラン、テトラピロポキシシラン」を「テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン」に訂正し、 (ヲ)明細書6頁1行(同公報7欄14行)の「マルモトマイクロスフェアー」を「マツモトマイクロスフェアー」に訂正する、ものである。 |
異議決定日 | 2002-09-09 |
出願番号 | 特願平9-507477 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
ZA
(C08L)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 原田 隆興 |
特許庁審判長 |
柿 崎 良 男 |
特許庁審判官 |
中 島 次 一 佐 野 整 博 |
登録日 | 2000-07-21 |
登録番号 | 特許第3091494号(P3091494) |
権利者 | 横浜ゴム株式会社 |
発明の名称 | 接着性組成物とその製造方法 |
代理人 | 渡辺 望稔 |
代理人 | 三和 晴子 |
代理人 | 渡辺 望稔 |
代理人 | 三和 晴子 |