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審決分類 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:533  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1070389
異議申立番号 異議2001-73550  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-08-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-27 
確定日 2002-10-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3186763号「α―トコフェロールホスフェートまたはその誘導体を、化粧品組成物、皮膚化学的組成物または薬理学的組成物の調製に使用する使用方法、および、調製された組成物」の請求項1〜54に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3186763号の請求項1〜24に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3186763号の請求項1〜54に係る発明は、1991年1月30日(パリ条約による優先権主張 1990年1月31日 フランス)を国際出願日として出願(特願平3-503773号)され、平成13年5月11日に特許権の設定登録がされた。その後、特許異議申立人・森 敏生、同・穂積 忠、同・山川 勲により、特許異議の申し立てがなされた。平成14年4月10日付け(発送日:平成14年4月19日)で特許取消理由が通知され、適法に延長された指定期間内である平成14年7月30日(後日取り下げ)及び平成14年9月24日に訂正請求がなされた。

2.訂正請求について
(1)訂正の内容
(イ)訂正事項イ
特許請求の範囲請求項1〜請求項30を削除する。
(ロ)訂正事項ロ
特許請求の範囲の
「【請求項31】 一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数である
で表わされるα-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルの、またはこれらの塩の有効量からなり、任意に、薬理学的に許容される付形剤に混合された、アレルギー発現、または、炎症発現の防止または治療用の、または、フリーラジカルの有害性防止または治療用の、薬理学的組成物。」

「【請求項1】 一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数である
で表わされるα-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルの、またはこれらの塩の有効量からなり、任意に、薬理学的に許容される付形剤に混合された、アレルギー発現の防止または治療用の薬理学的組成物。」
と訂正する。
(ハ)訂正事項ハ
特許請求の範囲請求項32〜53を、それぞれ、請求項2〜23と訂正する。
(ニ)訂正事項ニ
特許請求の範囲の
「【請求項54】 前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.05および0.5重量%の間である、請求項53に記載の組成物。」

「【請求項24】 前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.05および0.5重量%の間である、請求項23に記載の方法。」
と訂正する。
(ホ)訂正事項ホ
発明の詳細な説明、実施例2、「A.抗アレルギ活性」中(本件特許公報第8頁第16欄第26行)の
「皮膚状での」

「皮膚上での」
と訂正する。
(ヘ)訂正事項ヘ
発明の詳細な説明、実施例2、「b)結果」中(本件特許公報第9頁第18欄第17行)の
「彪1」

「表1」
と訂正する。
(ト)訂正事項ト
発明の詳細な説明、実施例2、「b)結果」中(本件特許公報第9頁第18欄第29行)の
「あkra8」

「から8」
と訂正する。

(2)訂正の可否について
(イ)訂正事項イ
訂正事項イは、特許査定時の請求項1〜30を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での訂正である。
(ロ)訂正事項ロ
訂正事項ロは、請求項31の「薬理学的組成物」の用途を、「アレルギー発現、または、炎症発現の防止または治療用の、または、フリーラジカルの有害性防止または治療用」から「アレルギー発現の防止または治療用」に限定し、訂正事項イに伴い、項番号を繰り上げるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での訂正である。
(ハ)訂正事項ハ
訂正事項ハは、訂正事項イ及び訂正事項ロにより、項番号を繰り上げるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での訂正である。
(ニ)訂正事項ニ
訂正事項ニは、被引用請求項(訂正前では請求項53)は「方法」に係る発明が記載されているところ、引用請求項に記載の発明のカテゴリーを合わせるものであり、また項番号を繰り上げるものであるから、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での訂正である。
(ホ)訂正事項ホ〜ト
訂正事項ホ〜トは、発明の詳細な説明中の誤記の訂正を目的としたものであることは明らかであって、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内での訂正である。

そして、上記訂正事項イ〜トは、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(3)むすび
したがって、本件訂正は、特許法第120条の4第2項並びに同条第3項で準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、訂正を認める。

3.特許異議申立についての判断
(1)異議申立の理由の概要
特許異議申立人・森 敏生は、証拠として甲第1号証〜甲第3号証を、同・穂積 忠は、証拠として甲第1号証〜甲第5号証、参考資料1〜5を、同・山形 勲は、証拠として甲第1号証〜甲第20号証を、それぞれ提出して、特許第3186763号の請求項1〜54に係る発明は、特許法第29条第1項第3号及び同第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同第113条第1項第2号に該当し、また、同第36条第4項及び第6項の規定に違反してされたものであるから、同第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである旨をそれぞれ主張する。
なお、上記特許法第36条第6項は、本件特許に適用すべき平成2年改正の特許法からすると、特許法第36条第5項をいうものと認める。

(2)本件発明
上記2.に示したように、本件訂正は認められるから、訂正後の本件特許の請求項1〜24に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜24に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】 一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数である
で表わされるα-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルの、またはこれらの塩の有効量からなり、任意に、薬理学的に許容される付形剤に混合された、アレルギー発現の防止または治療用の薬理学的組成物。
【請求項2】 前記薬理学的組成物が、皮膚科学組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】 前記α-トコフェロールホスフェートが、dlまたはd体であり、R1およびR2の炭素数1-4のアルキル基が、メチル基またはエチル基であり、前記アレルギー発現が皮膚アレルギーである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】 前記化学式(I)の化合物を、水または水溶性媒体に拡散することにより得られた、小リポソームタイプ小胞の形態の、前記化学式(I)の化合物を有効量含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】 前記化学式(I)の化合物が、その塩であり、水溶性媒体が緩衝溶液である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】 前記小胞の大きさが、約6.10‐2および2μmの間である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】 前記水溶性媒体が、生理学的活性剤を含有し、この活性剤は、前記小胞に分散された後、少なくとも部分的にカプセル化される、請求項4ないし6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】 前記生理学的活性剤は、抗アレルギー物質、または抗炎症物質である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】 前記抗アレルギー物質が、スカテラリア(Scutellaria)の抽出物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】 前記抗アレルギー物質が、スカテラリアバイカレンシスジョルギ(Scutellaria Baicalensis Georgi) の根の抽出物である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】 前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.001および10重量%の間である、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】 前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.01および1重量%の間である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】 前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.05および0.5重量%の間である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】 前記化学式(I)の化合物は、dl-α-トコフェロールホスフェートである、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】 前記化学式(I)の化合物の塩が、一ナトリウム塩および二ナトリウム塩である、請求項1ないし14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】 薬理学的組成物に、一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数である
で表わされるα-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルの、またはこれらの塩の量の有効量を、混合することからなる、薬理学的組成物のアレルギー性または刺激性減少方法。
【請求項17】 前記薬理学的組成物が皮膚科学的組成物である、請求項16記載の方法。
【請求項18】 化粧品組成物に、一般式


ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数である
で表わされるα-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルの、またはこれらの塩の量の有効量を、混合することからなる、化粧品組成物のアレルギー性または刺激性減少方法。
【請求項19】 前記α-トコフエロールホスフェートが、dlまたはd体であり、R1およびR2の炭素数1-4のアルキル基が、メチル基またはエチル基である、請求項16ないし18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】 前記化学式(I)の化合物は、dl-α-トコフェロールホスフェートである、請求項16ないし19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】 前記化学式(I)の化合物の塩は、一ナトリウム塩および二ナトリウム塩である、請求項16ないし20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】 前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.001および10重量%のある、請求項16ないし21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】 前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.01および1重量%の間である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】 前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.05および0.5重量%の間である、請求項53に記載の方法。」

(3)刊行物に記載された発明
(3)-1
特許異議申立人・森 敏生が甲第1号証〜甲第3号証として提出した刊行物には、それぞれ以下の事項が記載されている。
(イ)甲第1号証 特開昭59-44375号公報
(a)「α-トコフェロールリン酸エステルが薬学的に許容される水溶性塩として溶解・・・を特徴とするα-トコフェロールリン酸エステルの安定な水溶液。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「α-トコフェロールリン酸エステルの安定な水溶液」の具体的な処方例として、注射剤、点眼剤、化粧水、ドリンク剤、シロップ剤。(第4頁右上欄第2行〜第5頁左上欄第14行)
(ロ)甲第2号証 Toxic. In Vitro, Vol.3, No.2, pp103-109 (1989) <甲第3号証は甲第2号証の和訳>
(a)「・・・フリーラジカルは、ヒト線維芽細胞培養に濃度依存的な細胞毒性を引き起こす。・・・このモデルを用いて、非水溶性フラボノイド、シリビン及び著名な抗酸化剤であるBHT(ブチルヒドロキシトルエン)の抑制作用について検討した。これらの物質はフリーラジカル処理前及び同時に適用された。BHT・・・シリビンは・・・抑制を認めた。」(第103頁「Abstract部」。なお、訳は甲第3号証による。)

(3)-2
特許異議申立人・穂積 忠が甲第1号証〜甲第6号証として提出した刊行物には、それぞれ以下の事項が記載されている。
(イ)甲第1号証 特開昭59-44375号公報
(a)「α-トコフェロールリン酸エステルが薬学的に許容される水溶性塩として溶解・・・を特徴とするα-トコフェロールリン酸エステルの安定な水溶液。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「α-トコフェロールリン酸エステルの安定な水溶液」の具体的な処方例として、注射剤、点眼剤、化粧水、ドリンク剤、シロップ剤。(第4頁右上欄第2行〜第5頁左上欄第14行)
(ロ)甲第2号証 Photochemistry and Photobiology, Vol.24, pp.41-48 (1976)
(a)「・・・一重項酸素を低減させ得る化合物及びフリーラジカルのスカベンジャーが、リポソームを膜崩壊から保護し得ることが示された。」(第41頁左欄第11行〜第14行。なお、訳は当該特許異議申立書添付の「抄訳」による。以下同じ。)
(b)「システアミン及びα-トコフェロールによる0.5mMクロロプロマジンsensitizedマーカ放出に対する紫外線被照射リポソーム保護効果」(第45頁図4、説明文。)
(c)「リポソームからの0.5mMクロロプロマジンsensitizedマーカ放出抑止(保護)効果。リポソームが1:300に希釈され、保護剤濃度が下記のようになるようにして、システアミンHCLまたはα-トコフェロールホスフェート二ナトリウム塩をFig.4のように、EPR観測直前に添付した。」(第45頁表1、説明文。)
(ハ)甲第3号証 「化学」増刊第98号「人工細胞へのアプローチ」(1983年2月20日発行、化学同人)、第15頁〜第19頁
(a)「天然のリン脂質を水中に分散させると細胞膜同様の二分子膜ベシクル(リポソーム)が形成されることが見いだされ、これにより、リポソームを用いた細胞膜モデル研究が活発に開始された。」(第16頁第14行〜第16行)
(ニ)甲第4号証 特開昭61-30594号公報
(a)「式・・・で示される化合物を有効成分としてなることを特徴とする抗アレルギー剤。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「・・・ある種のトコフェリルグリコシドが・・・抗アレルギー剤として有用であることを見出し、本発明を完成するにいたった。」(第2頁左上欄第6行〜第12行)
(ホ)甲第5号証 特公平1-27044号公報
(a)「式・・・で表される化合物またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤。」(特許請求の範囲第1項。なお、一般式で表される化合物は、トコフェロールウリジンリン酸ジエステル;アスコルビン酸トコフェロールリン酸ジエステルである。)
(ヘ)甲第6号証 特開昭61-161219号公報
(a)「コガネバナ(Scutellaria baicalensis GEORGI)及びこの近縁種の乾燥粉末及び/又はこのコガネバナ(Scutellaria baicalensis GEORGI)から抽出された抽出物を必須成分としてなるアトピー性皮膚炎症用化粧料組成物。」(特許請求の範囲第1項)

(3)-3
特許異議申立人・山川 勲が甲第1号証〜甲第20号証として提出した刊行物には、それぞれ以下の事項が記載されている。(なお甲第20号証は、本件特許公報である。)
(イ)甲第1号証 免疫(1984年11月26日発行(1985年11月15日第2刷)、化学同人)、第4頁〜第9頁
(a)「生体は免疫機能によって非自己成分を排除するが、この機構は一つではなく、抗体による体液性免疫・・・と感作リンパ球・・・と呼ばれる免疫系の細胞による細胞性免疫・・・の二つがある。」(第4頁第2行〜第5行)
(b)免疫反応による障害反応に、「即時型反応」の一種として細胞障害反応「型」があり、その疾患として「溶血性貧血」が挙げられること。(第8頁、表1-2)
(ロ)甲第2号証 岩波 生物学辞典(1980年10月20日発行、岩波書店)、第1226頁、
(a)「溶血(反応)・・・一般には、赤血球膜が破れたり、多数の穴が生じたり、極度に伸張することによって、赤血球からヘモグロビンが流出する反応をいう。・・・」(第1226頁左欄「溶血(反応)の項目)
(ハ)甲第3号証 フリーラジカルの臨床 VOL.2(1987年7月31日発行(1991年2月8日第2刷)、日本医学館)、第149頁〜第159頁
(b)「ビタミンE欠乏ラットの赤血球を用いると、・・・・連鎖開始ラジカルの量に比例して、溶血を認めた。」(第150頁左欄下から第9行〜下から第6行)
(c)「赤血球膜に(ビタミン)Eが存在すると、その濃度に応じての期間は、溶血および酸素消費が抑えられる。」(第151頁図4、説明文)
(ニ)甲第4号証 ビタミン、Vol.45、NO.5、第247頁〜第252頁、1972
(a)「(ビタミンE)phosphoacetateエステルは・・・投与後24時間では抗溶血力はほとんど示さず、投与量いかんにかかわらず投与後72〜96時間で最も高い抗溶血力を示し、それ以後はしだいに活性が低下したが、その活性持続は長かった。」(第249頁右欄下から第9行〜下から第4行)
(ホ)甲第5号証 絵とき免疫学入門(昭和60年6月30日発行(昭和61年7月10日第2刷)、オーム社)、第8頁〜第9頁、第52頁〜第53頁、
(a)「Tリンパ球はプラズマ細胞に分化せず、抗体も産生しないが、組織に付着したり、細胞に入り込んだ外来物質を認識する重要な役目をもつ。」(第9頁第5行〜第7行)
(b)「タイプIVの過敏症または遅延型過敏症は、細胞を媒介とする免疫反応による症状を起こす。・・・タイプIVの免疫反応には複合体も抗体も関与せず、純粋にTリンパ球による反応である。もう一つの違いは、抗原に接触してから反応までの時間で、タイプIVでは約2日もかかる・・・」(第52頁下から第4行〜第53頁第2行)
(ヘ)甲第6号証 抗炎症の薬理(昭和51年4月10日発行、朝倉書店)、第48頁、第101頁
(a)「・・・抗原抗体反応との関連でその役割の研究が進められてきたcyclic AMPも、最近では炎症反応へのかかわりあいを示唆する成績が多くみられるようになってきた。」(第48頁第12行〜第14行)
(b)「赤血球溶血抑制作用の検討がin vitroでの抗炎症薬の有効なスクリーニング法になるとした。」(第101頁下から第6行〜下から第5行)
(ト)甲第7号証 Biochimica et Biophysica Acta, 522, pp477-490, 1978<甲第8号証は甲第7号証の和訳>
(a)「・・・cAMPフォスホジエステラーゼ活性・・・の上昇は、既知の活性化剤であるα-トコフェリルホスフェートやトリプシンの様な酵素に対する感度が低下することにより起きる。」(第477頁「Summary」。なお、訳は甲第8号証による。以下、同じ。)
(b)「cAMPフォスホジエステラーゼは、ビタミンE誘導体であるα-トコフェリルホスフェートによって活性が上昇した。」(第478頁「Introduction」)
(チ)甲第9号証 特開昭62-145019号公報
(a)「式・・・で表される化合物またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする抗炎症剤。」(特許請求の範囲第1項。なお、一般式で表される化合物は、トコフェロールウリジンリン酸ジエステル;アスコルビン酸トコフェロールリン酸ジエステル。)
(リ)甲第10号証 炎症・アレルギーと治療薬(昭和49年5月5日発行(昭和50年11月20日第2刷)、南江堂)、第174頁〜第179頁
(a)「非ステロイド剤の細胞ないし細胞膜安定化作用は、赤血球膜についてよく研究されている・・・。なお、赤血球膜とリゾゾーム膜とに多くの共通した性質がある。・・・非ステロイド剤の赤血球膜安定化作用は、イヌ赤血球の熱溶血について詳しく研究されているが、ヒトの赤血球に対しても同様である。」(第177頁第11行〜第17行)
(ヌ)甲第11号証 ビタミン学[I](1980年5月6日発行、東京化学同人)、第177頁〜第183頁、第224頁〜第226頁、第232頁〜第234頁
(a)「・・・トコフェロールがフリーラジカル補集剤(scavenger)としての役割を演じ、ビタミンE欠乏ではフリーラジカルの連鎖反応によって、脂肪の過酸化物を生じ、・・・」(第177頁右欄下から第2行〜第178頁左欄第2行)
(b)「・・・不飽和脂肪酸を多く含んだ油脂食のときは血漿ビタミンE値の低下が著しく、それと鏡像的に、赤血球の酸化的溶血率の亢進が進行した。」(第180頁左欄第1行〜第3行)
(c)「・・・ビタミンE欠乏症状のあるものは、その欠乏症状を予防するのに、合成抗酸化でも可能なものが多い。これは明らかにビタミンEの生理作用がその抗酸化作用に関連していることを物語っている。一般に抗酸化の作用部位は生体膜のリン脂質の不飽和脂肪酸の酸化防止であると考えられている。」(第180頁右欄下から第4行〜第181頁左欄第3行)
(d)「膜のリン脂質の分子とビタミンEの分子との物理的な結合が膜の酸化を防止していると考える説がある。」(第183頁第16行〜第18行)
(e)「ビタミンE欠乏時の血小板のTBA反応・・・によるMDA・・・は上昇しており、脂質の過酸化反応が、血小板中に亢進している・・・。」(第233頁左欄第7行〜第10行)
(f)「・・・抗酸化作用のないトコフェロールキノンも、ビタミンEと同じように血小板凝集を阻止することができるので、血小板膜の安定性増加がビタミンEの血小板凝集阻止作用であるとする考え方があり、・・・」(第233頁左欄下から第2行〜右欄第3行)
(ル)甲第12号証 特開昭54-54978号公報
(a)「6-ヒドロキシクロマン誘導体とリンのオキソ酸系化合物とのエステル化物の少なくとも1種以上からなる酸化防止剤。」(特許請求の範囲第1項)
(ヲ)甲第13号証 Photochemistry and Photobiology, Vol.24, pp41-48, 1976<甲第14号証は甲第13号証の和訳>
(a)「・・・リポソームを(光毒性物質である)フェノサイアジン・トランキライザーの存在下、長波長紫外線を照射した。・・・(膜への)障害の過程は酸素に依存し、システアミンもしくはα-トコフェロールを光照射前に添加することにより、一時的に抑制される。」(第41頁「Abstract」。なお、訳は甲第14号証による。以下、同じ。)
(b)「この試験系は一重項酸素の抑制能やフリーラジカルのスカベンジ能を持つ化合物がリポソーム膜の損傷防止能を持つことを示してきた。」(第41頁「INTRODUCTION」)
(ワ)甲第15号証 フリーラジカルの臨床 VOL.1(1987年2月26日発行(1989年5月6日第2刷)、日本医学館)、第31頁〜第41頁
(a)「心臓が虚血に陥った場合、その持続が短時間であれば、灌流再開とともに心機能は回復する。・・・虚血による障害から心筋を回復させるためには、灌流再開が不可欠であり、したがって、再灌流によって起こる心筋傷害の防止は、虚血心の治療にすこぶる重要な課題である。」(第31頁左欄下から第3行〜右欄第12行)
(b)「・・・虚血-再灌流傷害で活性酸素がkey mediatorとして重要な役割を演じていることには、もはや疑問の余地はない。」(第35頁右欄末行〜第36頁左欄第3行)
(カ)甲第16号証 Vestn Akad Med Nauk SSSR, NO.12, pp63-70, 1989の英文要約<甲第17号証は甲第16号証の和訳>
(a)「ラットの摘出心臓はフォスホクレアチン(10mM)が、Krebs-Henzeleit溶液における虚血(25min.)と再灌流や・・・心臓麻痺による防御的効果を示すのに用いられる。・・・トコフェリルホスフェート(0.1μM)の適用は虚血状態の短縮には影響を与えなかったが、再灌流時の拡張期血圧を回復し、心臓機能のパラメーターの維持を向上させた。トコフェリルホスフェートの効果はフォスホクレアチンと併用すると向上した。この結果は、抗酸化剤が再灌流による心臓への障害を抑え、予防的に作用するのに対し・・・」(「Abstract」)
(ヨ)甲第18号証 特開昭59-44375号公報
(a)「α-トコフェロールリン酸エステルが薬学的に許容される水溶性塩として溶解・・・を特徴とするα-トコフェロールリン酸エステルの安定な水溶液。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「α-トコフェロールリン酸エステルの安定な水溶液」の具体的な処方例として、注射剤、点眼剤、化粧水、ドリンク剤、シロップ剤。(第4頁右上欄第2行〜第5頁左上欄第14行)
(タ)甲第19号証 リポソ一ム(1988年9月15日発行、南江堂)、第24頁〜第45頁、第68頁〜第73頁、第258頁〜第261頁、第302頁〜第303頁、第308頁〜第311頁
(a)「このような特色はいずれもリポソームをマイクロカプセルとして使用するとき、臨床的にみて非常に有利な点である。」(第258頁下から第9行〜下から第8行)

(4)対比・判断
(イ)特許法第29条第1項第3号
本件特許請求の範囲請求項1に記載の発明(以下、「本件第1発明」とする)は、一般式(I)で示される特定のトコフェロールホスフェート類からなるアレルギー発現の防止又は治療用の薬理学的組成物に係るものである。また、同請求項16に記載の発明(以下、「本件第2発明」とする)は、薬理学的組成物に一般式(I)で示される特定のトコフェロールホスフェート類を混合してなる、薬理学的組成物のアレルギー性または刺激性減少方法に係るものであり、同請求項18に記載の発明(以下、「本件第3発明」とする)は、化粧品組成物に一般式(I)で示される特定のトコフェロールホスフェート類を混合してなる、化粧品組成物のアレルギー性または刺激性減少方法に係るものである。
特許異議申立人・森 敏生の提出した甲第1号証〜甲第3号証、同・穂積 忠の提出した甲第1号証〜甲第6号証、同・山川 勲の提出した甲第1号証〜甲第19号証(甲第20号証は本件公報である)には、一般式(I)で示される特定のトコフェロールホスフェート類をアレルギー発現の防止又は治療に使用すること、;当該トコフェロールホスフェートを薬理学的組成物あるいは化粧品組成物のアレルギー性、刺激性の減少に使用するについては、記載も示唆もされていない。したがって、本件第1発明、本件第2発明及び本件第3発明は、上記甲各号証に記載された発明であるとすることはできない。
本件特許請求の範囲請求項2〜請求項15に係る発明は、本件第1発明に更に特定事項を付加することにより本件第1発明を限定したものであり、同請求項17に係る発明は、本件第2発明に更に特定事項を付加することにより本件第2発明を限定したものであり、同請求項19〜請求項24に係る発明は、本件第3発明に更に特定事項を付加することにより本件第3発明を限定したものである。したがって、上記と同様な理由により、上記甲各号証に記載された発明であるとすることはできない。
(ロ)特許法第29条第2項について
特許異議申立人・穂積 忠の提出した甲第4号証には、ある種のトコフェリルグリコシド(糖部位は、グルコース、ガラクトース、セロビオース、マンノース、マルトース、ラクトース)に抗アレルギー作用があることが示されている(上記(3)-2(二)参照)。しかしながら、上記甲各号証には、当該技術分野において、トコフェリルグリコシドとトコフェロールホスフェートとが同等なものであること、あるいはトコフェリルグリコシドに替えトコフェロールホスフェートを使用することができることが記載も示唆もされていないし、斯かる事項が当該技術分野において自明なことであるとも認めることができない。したがって、当該甲号証の記載から当業者が容易に本件第1発明、本件第2発明及び本件第3発明を容易に発明できたものと認めることはできない。
本件特許請求の範囲請求項2〜請求項15に係る発明は、本件第1発明に更に特定事項を付加することにより本件第1発明を限定したものであり、同請求項17に係る発明は、本件第2発明に更に特定事項を付加することにより本件第2発明を限定したものであり、同請求項19〜請求項24に係る発明は、本件第3発明に更に特定事項を付加することにより本件第3発明を限定したものである。したがって、上記と同様な理由により、上記甲各号証に記載された発明から本件第1発明、本件第2発明及び本件第3発明を容易に発明できたものとすることはできない。
(ハ)特許法第36条について
一般式(I)で記載される化合物がアレルギー発現の防止、治療に使用でき、アレルギー性、または刺激性の防止に有効であることは、本件特許明細書の実施例2の記載などにおいて具体的に示されており、本件の発明の詳細な説明の記載が不適法なものとすることはできない。なお、実施例2において具体的に使用されている化合物は、特許請求の範囲に記載の一般式(I)におけるR1及びR2が、それぞれ水素の場合の化合物のみであるが、R1及びR2が一般式に規定されるそれ以外の場合には、それらの化合物の加水分解によりR1及びR2が水素の場合と同様の効果を奏するものと認められる。
また、本件特許請求の範囲の記載に関しても不適法なものとすることができない。
そうしてみると、本件明細書の記載が特許法第36条の各項に規定の要件を満たしていないとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記特許異議申立の各理由及び各証拠によっては、本件特許の請求項1〜請求項24に係る発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1〜請求項24に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
α-トコフェロールホスフェートまたはその誘導体を、化粧品組成物、皮膚化学的組成物または薬理学的組成物の調製に使用する使用方法、および、調製された組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数である
で表わされるα-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルの、またはこれらの塩の有効量からなり、任意に、薬理学的に許容される付形剤に混合された、アレルギー発現の防止または治療用の薬理学的組成物。
【請求項2】前記薬理学的組成物が、皮膚科学組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】前記α-トコフェロールホスフェートが、dlまたはd体であり、R1およびR2の炭素数1-4のアルキル基が、メチル基またはエチル基であり、前記アレルギー発現が皮膚アレルギーである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】前記化学式(I)の化合物を、水または水溶性媒体に拡散することにより得られた、小リポソームタイプ小胞の形態の、前記化学式(I)の化合物を有効量含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】前記化学式(I)の化合物が、その塩であり、水溶性媒体が緩衝溶液である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】前記小胞の大きさが、約6.10-2および2μmの間である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】前記水溶性媒体が、生理学的活性剤を含有し、この活性剤は、前記小胞に分散された後、少なくとも部分的にカプセル化される、請求項4ないし6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】前記生理学的活性剤は、抗アレルギー物質、または抗炎症物質である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】前記抗アレルギー物質が、スカテラリア(Scutellaria)の抽出物である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】前記抗アレルギー物質が、スカテラリアバイカレンシスジョルギ(Scutellaria Baicalensis Georgi)の根の抽出物である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.001および10重量%の間である、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.01および1重量%の間である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.05および0.5重量%の間である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】前記化学式(I)の化合物は、dl-α-トコフェロールホスフェートである、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】前記化学式(I)の化合物の塩が、一ナトリウム塩および二ナトリウム塩である、請求項1ないし14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】薬理学的組成物に、一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数である
で表わされるα-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルの、またはこれらの塩の量の有効量を、混合することからなる、薬理学的組成物のアレルギー性または刺激性減少方法。
【請求項17】前記薬理学的組成物が皮膚科学的組成物である、請求項16記載の方法。
【請求項18】化粧品組成物に、一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数である
で表わされるα-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルの、またはこれらの塩の量の有効量を、混合することからなる、化粧品組成物のアレルギー性または刺激性減少方法。
【請求項19】前記α-トコフェロールホスフェートが、dlまたはd体であり、R1およびR2の炭素数1-4のアルキル基が、メチル基またはエチル基である、請求項16ないし18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】前記化学式(I)の化合物は、dl-α-トコフェロールホスフェートである、請求項16ないし19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】前記化学式(I)の化合物の塩は、一ナトリウム塩および二ナトリウム塩である、請求項16ないし20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.001および10重量%のある、請求項16ないし21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.01および1重量%の間である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.05および0.5重量%の間である、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
本発明は、一般に、α-トコフェロールホスフェート、またはそのエステル、またはこれらの化合物の塩を、抗アレルギーまたは抗炎症活性を有する、または、フリーラジカルの有害性を防止または治療するための、薬理学的組成物、化粧品組成物、または皮膚科学的組成物の調製に使用する方法に関する。さらに本発明は、前記化合物が含有された、抗アレルギーまたは抗炎症活性を有する、または、フリーラジカルの有害性を防止または治療するための、薬理学的組成物、化粧品組成物、または皮膚科学的組成物に関する。
ビタミンEは、特に、α-トコフェロールの一般名を有していることが知られている(メルクインデックス、10刷、参照番号9832、1437ページ参照)。
α-トコフェロールは、通常、β-トロフェロールおよびγ-トコフェロールなどの他の化合物とともに、天然に多くの植物に存在している。
また、α-トコフェロールは、dlおよびd体の双方の形態で存在することも知られている。
α-トコフェロールは、本質的には、ビタミンE欠乏制御用、または、栄養補給因子として、特に、筋肉退化制御用として使用される。
さらに、抗酸化剤としても使用されるが、非常に特異的な投与量で使用されるものである。
α-トコフェロールエステルもまた開示されており、特に、コハク酸エステル、ニコチン酸エステル、または酢酸エステルが開示されている(メルクインデックス、10刷、参照番号9832、1437ページ参照)、α-トコフェロールアセテートの合成は、また、米国特許第2723278号に開示されており、他のエステルの合成は、文献:J.Amer.Chem.Soc.(1943)65、918-924に開示されている。
dl-α-トコフェロールホスフェートもまた知られており(文献:P.KARRER et al.、Helv.Chim.Acta(1940)23、1137-8参照)、その筋肉代謝における作用(J.Biol.Chem.1942、146、309-321ページ参照)も知られている。他の文献は、脳組織における抗酸化剤としての生物学的役割を開示している(文献:Biol.Antioxidents Trans.、1st Conf.、1946、61-62ページ)。フィブリンの重合における作用を通した抗凝集作用もまた開示されている(文献:Can.J.Biochem.and Physiol.1959、37、501-505ページ)。B.スブチリス(B.subtilis)およびS.オーレウス(S.aureus)における試験管内抗微生物作用もまた、開示されている(文献:Naturwissenschaften 1960、47、17ページ)。
このほか、独国特許出願A-3416209は、炎症工程の治療および防止用の、ビタミンEを含有するクリームの使用を開示している。これに対して、ベルケンコッフら(Berkenkopf and Lutsky)は、ビタミンEをラットに注射することにより、慢性局在化炎症を引き起こすことを開示している(文献:Agents Actions 1979、9、(4)350-357)。
このように、炎症におけるビタミンEの作用は、論争をよんでいる。
ここで、全体的に驚くべきことにおよび予想されないことに、一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、例えば特に、メチル基またはエチル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基、例えば特に、メチル基またはエチル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数である
で表わされるα-トコフェロールホスフェート、特にそのdlまたはd体、またはこれらのエステルが、またはこれらの塩が、皮膚アレルギーまたは喘息性気管支炎などのアレルギー発現、または、炎症発現を防止または治療するための、または、フリーラジカルの有害性を防止または治療するための、薬理学的組成物、皮膚科学的組成物、または化粧品組成物の調製に使用可能である。
したがって、本発明の目的は、特に局部または一般投与において、フリーラジカルの有害性に対する、防止または治療活性、特に皮膚アレルギーまたは喘息性気管支炎などの防止または治療のための良好な抗アレルギー活性、または、良好を抗炎症活性を有する活性物質を提供することにおける、新しい技術的問題点を解決することであり、この活性物質は、薬理学的組成物、皮膚科学的組成物、または化粧品組成物を調製するための、貴重な活性成分からなるものである。
本発明は、この新しい技術的問題点を、産業スケールで使用可能な、特に単純な解決法により、解決するものである。
したがって、本発明の第1の特徴によれば、一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、例えば特に、メチル基またはエチル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基、例えば特に、メチル基またはエチル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数である
で表わされるα-トコフェロールホスフェート、特にそのdlまたはd体、またはこれらのエステルが、またはこれらの塩が、皮膚アレルギーまたは喘息性気管支炎などのアレルギー発現、または、炎症発現、または、フリーラジカルの有害性を防止または治療するための、薬理学的組成物、皮膚科学的組成物、または化粧品組成物の調製に使用される。
したがって、本発明により使用された生成物は、α-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルであり、これらの生成物は、薬理学的、皮膚科学的、または化粧品学的に許容可能な塩の形態をとることが可能である。たとえば、アルカリ金属塩、特にナトリウム塩(一ナトリウム塩または二ナトリウム塩)、またはアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩、またはアンモニウム塩または1級、2級または3級アミンの塩、例えば特に、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミンまたはトリエタノールアミンなどのアミン塩の形態をとることが可能である。
化学式(I)において、アルキル基は、直鎖または分岐鎖を有することが可能である。
炭素数1-4のアルキル基としては、たとえば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルまたはブチル、が挙げられ、好ましくは、メチルまたはエチルである。
α-トコフェリル基は、以下に表わされる基であり、

ここで、R2がオキシエチレン鎖であるとき、nは、一般には1以上であり、例えば、2と50の間、好ましくは2と25の間であり、特に、2または5に等しい。
本発明による他の優位な実施例においては、上記化学式Iの化合物、好ましくは塩として、前記化合物または前記塩を、水または緩衝溶液などの水溶性媒体に、特にメカニカルスターラにより分散され、加圧下、たとえば、ホモジナイザーまたは超音波により均一にされて得られた、小リポソームタイプ小胞の形態で使用される。
好ましくは、これらの小胞の大きさは、エネルギーおよび所要時間などの均一化パラメータを変換することにより、約6.10-2および2μmの間の値に調整される。
前記実施例の優位な変形例においては、上記水溶性媒体が、生理学的活性剤を含有し、この活性剤は、上記小胞に分散された後、少なくとも部分的にカプセル化される。
好ましくは、上記活性剤は、スカテラリア(Scutellaria)の抽出物、たとえば、仏国特許出願第A-2628317に記載されたスカテラリアバイカレンシスジョルギ(Scutellaria Baicalensis Georgi)の根の抽出物などの抗アレルギー物質、または抗炎症物質である。
本発明による使用法の優位な実施例においては、上記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.001および10重量%の間、好ましくは0.01および1重量%の間、特に好ましくは0.05および0.5重量%の間である。
好ましい実施例においては、上記化学式(I)の化合物は、dl-α-トコフェロールホスフェートである。好ましい塩は、一ナトリウム塩および二ナトリウム塩である。
本発明で使用される化合物は、一般に、商業的に入手可能であり、特に、たとえば、文献:Chem Pharm.Bull.(1971)19、(4)、687-696;Khim.-Pharm.Zh.(1983)17(7)、840-844;Khim.-Pharm.Zh.(1985)19(1)、75-77、または米国特許2457932号または日本特許第79-54978号に記載された方法にしたがって調製可能である。
第2の特徴によれば、本発明は、活性成分して、少なくとも一つの上記化学式(I)の化学式またはその塩からなる化粧品組成物または皮膚科学的組成物を提供するものである。
優位な実施例においては、化粧品組成物または皮膚科学的組成物は、活性成分として、少なくとも一つの上記化学式(I)の化合物が、好ましくは塩として、水または緩衝溶液などの水溶性媒体に、特にメカニカルスターラにより拡散され、加圧下、たとえば、ホモジナイザーまたは超音波により均一にされて得られた、小リボソームタイプ小胞の形態のものからなる。
好ましくは、これらの小胞の大きさは、エネルギーおよび所望時間などの均一化パラメータを変換することにより、約6.10-2および2μmの間の値に調整される。
前記実施例の優位な変形例においては、上記水溶性媒体が、生理学的活性剤を含有し、この活性剤は、上記小胞に分散された後、少なくとも部分的にカプセル化される。
好ましくは、上記活性剤は、スカテラリア(Scutellaria)の抽出物、たとえば、仏国特許出願第A-2628317に記載されたスカテラリアバイカレンシスジョルギ(Scutellaria Baicalensis Georgi)の根の抽出物などの抗アレルギー物質、または抗炎症物質である。
他の優位な実施例においては、前記化粧品組成物または皮膚科学的組成物は、皮膚アレルギーまたは喘息性気管支炎などのアレルギー発現、または、炎症発現を防止または治療するために、または、フリーラジカルの有害性を防止または治療するために調製される。
これらの化粧品組成物または皮膚科学的組成物における活性成分の濃度は、上記と同様である。
本発明による組成物は、化粧品学的、皮膚科学的、または薬理学的に許容される形態に、製剤化可能である。特にこれらは、防止および治療性皮膚アレルギークリーム、鎮静性抗アレルギークリーム、鎮静性抗アレルギーオイル、防止または治療性抗アレルギーローション、鎮静性皮膚刺激用アルコール性アフターシェーブローション、ハイポアレルギークリーム、またはコロイド抗喘息溶液の形態に、または、酸素を用いる集中ケアー技術の結果として形成された、過酸化基の毒性を制御する溶液の形態に、製剤化可能である。
本発明による組成物はまた、メイクアップファンデーション、口紅、マスカラおよび色素パウダーなどのメイクアップ組成物として、製剤化可能である。
本発明の第3の特徴によれば、化粧品組成物、皮膚科学的組成物、または薬理学的組成物のアレルギー性または刺激性を減少させる方法を提供するものであり、前記組成物に、少なくとも一つの上記化学式(I)の化合物または少なくとも一つの塩が、有効量、混合されることからなる。
好ましい実施例においては、上記化学式(I)の化合物は、dl-α-トコフェロールホスフェートである。好ましい塩は、一ナトリウム塩および二ナトリウム塩である。
より優位には、化学式(I)またはその塩の濃度は、上記と同様である。
第4の特徴によれば、本発明は、さらに、皮膚アレルギーなどのアレルギー発現、または、炎症発現を防止または治療するための、または、フリーラジカルの有害性を防止または治療するための、皮膚化学的組成物、または化粧品組成物の製造方法に関し、これは、上記化学式(I)の化合物またはその塩を、皮膚科学的または化粧品的に許容可能な付形剤、展色剤、またはキャリアに混合することからなる。
第5の特徴によれば、本発明は、喘息性気管支炎などのアレルギー発現、または、炎症発現を防止または治療するための、または、フリーラジカルの有害性を防止または治療するための薬理学的組成物の製造方法に関し、これは、上記化学式(I)の化合物またはその塩を、薬理学的に許容可能な付形剤、展色剤、またはキャリアに混合することからなる。
上記化学式(I)の化合物またはその塩を、薬理学的組成物、皮膚科学的組成物または化粧品組成物に混合することは、製剤のタイプに応じて、当業者に使用される異なった方法により、効果的に行なうことが可能である。
この製造方法を実施する優位な方法は、組成物が水相からなる場合、上記化学式(I)の化合物がまず、好ましくは塩として、水または水相に拡分散され、小さい小胞が形成され、得られた分散物が次いで組成物の他の成分と混合されることからなる。
第6の特徴によれば、本発明は、皮膚アレルギーまたは喘息性気管支炎などのアレルギー発現、または、炎症発現を防止または治療する、または、フリーラジカルの有害性を防止または治療する方法を提供し、これは、上記化学式(I)の化合物またはその塩を、薬理的、皮膚科学的または化粧品学的に許容可能な付形剤、展色剤、またはキャリアに混合することからなる。
本発明を、いくつかの実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
特記しないかぎり、実施例におけるパーセントは、重量%である。
実施例 1
a)dl-α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩の懸濁液の調製
カプラー(P.KAPRER(Helv.chim.Acta(1940)23,1137-8))により記載された方法により与えられた粉末のdl-α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩0.8gをひょう量した。
この粉末は、攪拌された92.6gの2度蒸留した水の中に添加され、約2時間攪拌された。
そして、混合物は、150Wで10分間、澄んだ懸濁液となるまで超音波により均一化された。これは、トコフェロールフォスフェート二ナトリウム塩のリポゾームタイプの液胞の製造するためである。
大きな体積で行う場合は、圧力下で乳化機(ホモジェナイザー)を用いることが好ましい。例えば、約500barの圧力で、マントン-ガウリン(商品名)型のホモジェナイザーを用いることも可能である。
pHは、攪拌下、0.5NHCl約3mlを添加して実質的に7より低くされる。そして、0.1NのHClの添加により6.5に調整される。このpHにおいて、トコフェロールフォスフェートは、二ナトリウム塩の形態である。
α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩の液胞の得られたサイズは、例えば、マルベルン(MALVERN)のオウトサイザー(Autosizer)の手段により決定される。この例において測定された平均粒径は100nmのオーダーであった。
分散溶液の体積の変更により、もしくは最初に添加される化合物の量の変更により、種々の希釈度となる点に注意する必要がある。これは、活性元素の種々の濃度を調製する容易な方法を示すものである。
記載された実施例は、実質的に均一な粒径のリポゾーム型の液胞を形成する約0.8gのdl-α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩を含む約100g の懸濁液を与えるものである。
b)α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩のゲル化された合成物の調製
上述した例により得られた均一化された懸濁液は、例えば、ビニル系のポリマー、特に商品名カーボポル(Carbopol)940として販売されるものの一つのようなゲルと攪拌してゲル化される。
それ自身良く知られた方法において、このゲルは、例えば防腐剤の存在において水99g内に、1gのカーボポル(Carbopol)940(商品名)を分散させることにより得られる。そして、膨潤の後、例えばトリエタノールアミンで、pH7.5に中和される。
α-トコフェロールフォスフェートの濃度が約0.4%であるゲル化された合成物を得るために、このゲル100gは、上述した実施例により得られた均一化された懸濁液100g内に添加される。種々のα-トコフェロールフォスフェートの濃度を有するゲル化された合成物は、上述した方法により得られる。
実施例 2
本発明による合成物の抗アレルギー活性および抗フリーラジカル活性の説明
A.抗アレルギ活性
この研究の目的は、DNFB(2,4-ジニトロ-1-フルオロベンゼン)で感作されたの後の皮膚上での抗アレルギー効果を説明することである。
a)実験計画
実質的に同じ重量でアレルギの検出される信号の無い64匹の雌のBalB/Cマウスが、8匹づつ8グループに分けられた。
No.1グループは、DNFBのみ受ける。
No.2グループは、アイソトニック溶液とDNFBの刺激の無い投与のみを受ける。
No.3からNo.8のグループは、DNFBで感作された後、試験用の生成物を受ける。試験用の生成物は以下のように受けられる。
No.3グループ:本発明によるdl-α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩のゲル(TP.Na)
No.4グループ:dl-α-トコフェロールのゲル(α-toco)
No.5グループ:dl-α-トコフェロール酢酸のゲル(Ac-toco)
No.6グループ:ポリエトキシレート化されたd-α-トコフェロールコハク酸(Vit.E TPGS)
No.7:α-tocoおよびAc-tocoのゲル化された賦形剤(T1)
No.8グループ:TP.NaおよびVit.E.TPGSのゲル化された賦形剤(T2)
処置は、以下のようにより精密になされた。
1)試験生成物の調製
各物質の濃度は、試験生成物がトコフェロールに関して等モルであるように決定される。
a)本発明のdl-α-トコフェノールフォスフェート一ナトリウム塩(Tp.Na)
0.128%を有するゲル実施例1に示すようにして調製される。
b)dl-α-トコフェロール(α-toco)0.1%を有するゲル
α-toco0.1gを純エタノール49.9g中に溶解する。溶液は室温にて攪拌され、そして50gのカルボポル(Carbopol)940(商品名)ゲルと混合される。
c)dl-α-トコフェロール酢酸(Ac-toco)
Ac-toco0.109gを純エタノール49.891g中に溶解する。そして、溶液をカルボポル940(商品名)ゲル50gと混合する。
d)Vit.E TPGS(ポリエチレングリコール1000 d-α-トコフェロールコハク酸)
Vit.E TPGS 0.357gを、2回蒸留された水の49.643g中に溶解する。溶液を、溶解が完了するまで70℃で攪拌しつつ加熱する。溶液を室温に戻るまで放置する(溶液は透明の状態で残る。)。そして、50gのカルボポル940(商品名)を添加する。
e)α-tocoおよびAc-tocoのゲル化された賦形剤(T1)
この賦形剤は、純エタノールとカルボポル940(商品名)との50/50混合物である。
f)Tp.NaおよびVit.E TPGSのゲル化された賦形剤
この賦形剤は2回蒸留された水とカルボポル940(商品名)ゲルとの50/50の混合物である。
2)DNFBとの感作
D-0の日に、グループ1およびグループ3から8までが、足(paw)への注射により、フロイントアジュバント(Freund’s adjuvant)で2倍に希釈された。純エタノール中のDNFBの1%溶液の55μlの感作するための投与を受ける。
グループ2は、同じ条件の下で、アイソトニック溶液を受ける。
3)生成物の処方
D-1からD-7まで、グループ3から8までは、右耳の内側に置かれた試験用生成物100μlの一日当りの処方を受ける。そして、注射器により耳の両側に慎重に広げられる。
D-7の日には、この処方が以下に記載されるDNFBの最初の投与の後、1時間30分かかる。
4)DNFBの最初の投与
D-7の日に、グループ1から8までは、右耳の両側上に、純エタノール中のDNFB0.1%溶液の100μlの非刺激性の最初の投与を受ける。
5)抗アレルギ効果の開発
DNFBの最初の処方の後24時間、動物は犠牲となり、右耳は慎重に取り去られ重量が測定される。
b)結果
結果は、以下の表1に示される。
この表は、各グループの右耳の平均重量(M)、Mの標準偏差(e)、およびDNFBの活性に対する防御の比率(P)を含むものである。
防御の比率Pは以下の式を用いて計算される。

ここで、M1はグループ1(DNFB)の平均重量を示し、M2はグループ2(アイソトニック溶液)の平均重量を示し、そしてMPはグループ3から8の平均重量を示すものである。結果の比較は、t検定の平均により統計的に評価される。
(S1):グループ3から8までとグループ1(DNFB-陽性対照)との間
(S2):グループ3から8までとグループ2(アイソトニック溶液-陰性対照)との間

表1からわかるように、DNFBの活性を原因とする浮腫は、本発明による生成物(TP.Na)により顕著に減少する。これに対し、このモデルにおける比較例、特に、dl-α-トコフェロールおよびdl-α-トコフェロール酢酸は、影響しないか、もしくはDNFBを原因とする反応を増加させる。
したがって、本発明による化合物の抗アレルギー活性は、特に高く、驚異的であり、これは特にトコフェロールの陰性の活性の点で顕著である。
トピカルな、皮膚に対する化粧用の、もしくは薬学的な合成物、特に皮膚科学的な合成物の種々の例が以下に示されている。
B.抗フリーラジカル活性の研究
この研究は、M.S.ノエル-ハドソン等により記載された(M.S.NOEL-HUDSON,c.De BELILOVSKI,N.PETIT,A.LINDENBAUM,J.WEPIERRE in TOXIC,invitro,1989,3,(2),103-109.)実験計画にしたがって実行された。
実験は、人間のケラチン生成細胞の培養上で行われる。本発明の試験生成物の貯蔵液は、dl-α-トコフェロールフォスフェート二ナトリウム塩の0.1%水溶液である。この溶液は、以下の濃度のdl-α-トコフェロールフォスフェートを得るために、エタノールアミン、フォスフォエタノールアミン、コルチゾン(cortisone)、インシュリン、およびカルシウム(0.1mM)を追加されたMCDB153培養媒体(イルビン(Irvine)商品名)内に異なる希釈剤で用いられる。
濃度は、10-3%、5・10-4%、10-4%および5・10-5%である。
試験用の希釈剤は、接種のすぐ後、48時間溶媒の細胞と接触する。
そして、培養の媒体は放棄され、そして細胞はフォスフェートバッファーで、洗浄される。そして、フリーラジカル発生物であるハイポキサンチン/キサンチンオキシターゼシステム(HX-XO)が、2時間30分間適用される。フォスフェートバッファーでさらに洗浄した後、細胞毒は、ニュートラルレッド法(neutral red method)と称される方法(ボウンフレウンドおよびプエルナー(Borenfreund and Puerner,1985)で決定される。
表IIに示される値は、問題の培養内の細胞の全数に関連する生きている細胞の比率として表現された細胞の生存力を示す。

細胞の生存力の割合は、前もって生成物が添加されていない培養の生存力の割合は、HX-XOシステムで前もって処理され、本発明による生成物と接触された培養において大きく改良されていることがわかる。
これは、ハイポキサンチン/キサンチンオキシターゼシステムによるそれらの生成物のようなフリーラジカルの細胞毒活性に対して、本発明による生成物の活性の防止防御活性をとても明確に示すものである。
ビタミンEを含む薬学的もしくは化粧品処方の実施例
実施例 3
予防および治療用皮膚アレルギクリーム
組成:
A-セラ ベリーナ(cera bellina) 5.00g
シリーコーン 200 1.50g
スクアラン(squalane) 5.00g
ミグルヨール(myglyol)812 5.00g
ナイロン 12 SP 500 3.00g
BHT 0.05g
B-純水 49.56g
EDTA 0.10g
プロピレングリコール 4.00g
カルボポル(商品名)1342 0.45g
トリエタノールアミン 0.54g
dl-α-トコフェロール一ナトリウム塩0.4%分散物pH6.6
25.00g
C-ゲルマベン(germaben)II(商品名) 0.80g
製造手順:
混合物Aは、均一な化合物を得るために攪拌しつつ加熱される。混合物Bは、蒸留水49.56g中にEDTAおよびプロピレングリコールを含む水溶液中にカルボポル(商品名)1342を分散させることにより調製される。次いで、実施例1により獲られるdl-α-トコフェロールフォスフェートの0.4%分散物(ゲル化されていない。)を添加する。
そして、混合物Bは、75℃まで加熱さえr、攪拌しつつこの温度に保持され、その間に混合物Aが添加される。得られた混合物を45℃まで冷却するために放置し、そして、ゲルマベン(germabene)II(商品名)が添加され、攪拌しつつ室温まで冷却するために放置される。
これによりクリームが得られる。
実施例 4
鎮静抗アレルギクリーム
組成:
A-ダイズ レシチン 2.00g
コスビオール(cosbiol)(商品名) 8.50g
B-純水 58.85g
EDTA 0.10g
グリセロール 4.00g
カルボポル940(商品名) 0.35g
トリエタノールアミン 0.40g
ゲルマベンII(商品名) 0.80g
C-dl-α-トコフェロール一ナトリウム塩0.4%分散物pH6.6
25.00g
製造手順:
コスビオル(Cosbiol)(商品名)およびレシチンは、これらが完全に溶解するまで攪拌されつつ加熱される。そして溶液は、室温にまるまで冷却するために放4置される。混合物Bは、水+EDTA+グリセロール混合物内にカルボポル940(商品名)を分散することにより得られる。全体はガルマベンII(商品名)が添加された後、トリエタノールアミンで中和される。
そして、混合物Aは、攪拌しつつ混合物B中に投入さる。得られた混合物は、均一化され、実施例1により得られる拡散物が、その後添加される。混合物は、アレルギの皮膚の反応を鎮静するため、朝夕にその部分に適用することができるクリームをえるために、再度均一化される。
実施例 5
アレルギ鎮静オイル
α-トコフェロールフォスフェート二ナトリウム塩の粉末0.1gが、トリオクチルシトレート(trioctyl citrate)99.9g中に、マグネティックスティーラで攪拌しつつ8時間70℃で溶解される。
得られたオイル状の溶液が、実施例4のクリームのように、部分的に用いられる。
実施例 6
アルコール性アフターシェーブローション
組成:
α-トコフェロールフォスフェート二ナトリウム塩 0.2g
エタノール 40g
プロピレングリコール 0.5g
パントセノール(pantothenol) 0.1g
香水性賦形剤 qsp 100g
調製:
トコフェロールフォスフェート二ナトリウム塩が、純アルコールに溶解され、そして、他の構成物が分離した溶液を得るために水に溶解される。得られた二つの溶液は、混合され、全体が超音波手段を用いて均一化される。
このローションは、通常「ヒリヒリした痛み」に関係するヒゲ剃りによる炎症を鎮静化することが可能である。
実施例 7
予防および治療用抗アレルギローション
組成:
α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩4%分散物25.00g
エタノール 10.00g
プロピレングリコール 5.00g
水性賦形剤 qsp 100.00g
α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩4%分散物は、この分散物が、α-トコフェロールフォスフェートのより高い濃度を有する点を除いて、実施例1により調製される。上記組成の構成物は互いに混合され、超音波手段により均一化される。
実施例 8
抗喘息コロイド溶液
組成:
α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩4%分散物12.50g
緩衝剤で処理された水性賦形剤+保存剤qsp 100.00g
α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩4%分散物は、実施例1により調製される。超音波により均一化された後、コロイド溶液は、緩衝剤で処理された賦形剤内に含まれて得られる。
この溶液は、気管の上側にスプレーすることにより用いられる。特に喘息性のせきを鎮静化するためである。
実施例 9
集中医療技術のためのコロイド溶液
組成:
α-トコフェロールフォスフェート一ナトリウム塩4%分散物 7.50g
緩衝剤で処理された水性賦形剤+保存剤qsp 100.00g
この組成物は、上述した実施例と同様にして調製される。
酸素を用いた集中医療技術の結果として生じる過酸化物ラジカルの毒性を制御するために用いることができる。この場合、混合ガスが投与されると同時に気管内への滴注により投与される。
実施例 10
抗アレルギー性メイクアップファンデーション
組成:
dl-α-トコフェロールフォスフェート二ナトリウム塩 0.5g
メイクアップファンデーションのエマルジョン 99.5g
この組成物は、エマルジョンの水相内の水に予め分散されたトコフェロールフォスフェート二ナトリウム塩により調整される。エマルジョンは、通常の方法にて製造される。
このメークアップファンデーションは、生原料もしくは皮膚に接触するとアレルギー誘発性の物質となる物質のためのアレルギーの発現の危険を最小にする。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.訂正事項イ
特許請求の範囲の減縮を目的に、特許請求の範囲請求項1〜請求項30を削除する。
2.訂正事項ロ
特許請求の範囲の
「【請求項31】 一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数であるで表わされるα-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルの、またはこれらの塩の有効量からなり、任意に、薬理学的に許容される付形剤に混合された、アレルギー発現、または、炎症発現の防止または治療用の、または、フリーラジカルの有害性防止または治療用の、薬理学的組成物。」
を、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的に
「【請求項1】 一般式

ここで、R1は、水素原子、炭素数1-4のアルキル基、またはα-トコフェリル基であり;および
R2は、水素原子、または炭素数1-4のアルキル基であり、または、R2Oは、以下の式で表わされるオキシエチレン鎖であり、

ここで、R3およびR4は、独立に、水素原子またはメチル基であり、nは、1以上の整数であるで表わされるα-トコフェロールホスフェート、またはこれらのエステルの、またはこれらの塩の有効量からなり、任意に、薬理学的に許容される付形剤に混合された、アレルギー発現の防止または治療用の薬理学的組成物。」
と訂正する。
3.訂正事項ハ
特許請求の範囲請求項32〜53を、明瞭でない記載の釈明を目的に、それぞれ、請求項2〜23と訂正する。
4.訂正事項ニ
特許請求の範囲の
「【請求項54】 前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.05および0.5重量%の間である、請求項53に記載の組成物。」
を、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的に、
「【請求項24】 前記化学式(I)の化合物またはその塩の濃度は、組成物の全重量を基にして、0.05および0.5重量%の間である、請求項23に記載の方法。」
と訂正する。
5.訂正事項ホ
発明の詳細な説明、実施例2、「A.抗アレルギ活性」中(本件特許公報第8頁第16欄第26行)の
「皮膚状での」
を、誤記の訂正を目的に、
「皮膚上での」
と訂正する。
6.訂正事項ヘ
発明の詳細な説明、実施例2、「b)結果」中(本件特許公報第9頁第18欄第17行)の
「彪1」
を、誤記の訂正を目的に、
「表1」
と訂正する。
7.訂正事項ト
発明の詳細な説明、実施例2、「b)結果」中(本件特許公報第9頁第18欄第29行)の
「あkra8」
を、誤記の訂正を目的に、
「から8」
と訂正する。
異議決定日 2002-10-10 
出願番号 特願平3-503773
審決分類 P 1 651・ 113- YA (A61K)
P 1 651・ 121- YA (A61K)
P 1 651・ 532- YA (A61K)
P 1 651・ 533- YA (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 瀬下 浩一  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 守安 智
深津 弘
登録日 2001-05-11 
登録番号 特許第3186763号(P3186763)
権利者 エルブィエムアー リシェルシェ
発明の名称 α―トコフェロールホスフェートまたはその誘導体を、化粧品組成物、皮膚化学的組成物または薬理学的組成物の調製に使用する使用方法、および、調製された組成物  
代理人 渡邊 隆  
代理人 渡邊 隆  
代理人 成瀬 重雄  
代理人 成瀬 重雄  
代理人 志賀 正武  
代理人 志賀 正武  

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