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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特29条の2  B32B
管理番号 1070463
異議申立番号 異議2001-73032  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-02-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-11-07 
確定日 2003-01-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第3163908号「ポリオレフィン樹脂被覆鋼材」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3163908号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.経緯
特許出願 平成6年8月11日
特許設定登録 平成13年3月2日
特許異議の申立て 申立人川崎製鉄株式会社(請求項1ないし 2に係る特許に対して)平成13年11月7日

2.請求項1ないし2に係る発明
本件請求項1ないし2に係る発明(以下、本件発明1ないし2という)は明細書の記載からみてその特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される下記のとおりのものと認められる。
【請求項1】鋼材表面に、クロメート処理層、プライマー層、変性ポリオレフィン接着樹脂層、ポリオレフィン樹脂被覆層を順次積層させた樹脂被覆鋼材であって、クロメート被膜中のCr3+/全Crが0.51〜0.95であることを特徴とするポリオレフィン樹脂被覆鋼材。
【請求項2】請求項1記載のクロメート皮膜中に、さらにシリカを全クロムに対する重量比で0.5〜2.5含有させたことを特徴とするポリオレフィン樹脂被覆鋼材。

3.特許異議申立の概要
特許異議申立人川崎製鉄株式会社(以下、申立人という)は、甲第1号証(特願平5-337578号の願書に添付した明細書及び図面に代わる特開平7-195612号公報、以下、先願明細書という)、甲第2号証(特公平3-66393号公報)を提出して、
1)請求項1ないし2に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるから、請求項1ないし2に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、
2)請求項1ないし2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、又は、この発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定、又は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべき旨、主張している。

4.甲各号証の記載
先願明細書には、
1-1「【請求項1】鋼材の表面に、比表面積lnm2あたり2〜4個の水酸基をもつ気相シリカを全クロム量に対して重量比で2.0〜7.0倍含み、かつ全クロム量のうち3価のクロムの重量比が0.1〜0.7になるように部分還元したクロメート処理剤によるクロメート層を、全クロム量で50〜1000mg/m2有し、その上層に、エポキシドを1.0〜6.0mol/kg含むプライマー層を10μm以上有し、さらにその上層に、有機樹脂層を有することを特徴とする耐陰極剥離性に優れた重防食被覆鋼材。
【請求項4】前記有機樹脂層が、変性ポリオレフィン樹脂およびその上層のポリオレフィン樹脂、……より形成される請求項1ないし3のいずれかに記載の耐陰極剥離性に優れた重防食被覆鋼材。」(特許請求の範囲請求項1及び4)、

1-2「鋼材表面の酸化作用及び塗布後の加熱によって、6価のクロムが一部還元されて、クロムに結合した水酸基同士の脱水縮合反応が進行し、耐アルカリ溶解性に優れたクロメート被膜を生成することができる。」(段落【0023】4-7行)、

1-3「クロメート処理剤の焼付温度は、鋼材表面温度で60〜300℃程度が適切である。」(段落【0024】1-2行)が記載されるとともに、

1-4 段落【0035】、【0037】及び【0048】の表2には、実施例として、発明例1のクロメート処理液の全クロム量に対する3価のクロムの重量比が0.4のクロメート処理剤を80℃で加熱焼付し、アミン・エポキシ樹脂のプライマー層を120℃で加熱焼付し、その上層として変性ポリエチレン、および、ポリエチレンを圧着して重防食被覆鋼板を作成して、陰極剥離試験した評価結果が示されている。

甲第2号証には、
2-1「鋼管の外表面の内側から順に、無水クロム酸の水溶液中に該水溶液中の全クロムに対するPO43-の重量比が0.5〜2.0の範囲になるようにリン酸を混合した混合水溶液を、酵素でデンプンを加水分解して得られ、かつ平均分子量が50000〜250000の範囲のデキストリンで、該水溶液中の全クロムに対する6価クロムの重量比が0.35〜0.65の範囲になるように部分還元し、かつ、シリカ微粒子を該混合水溶液中の全クロムに対するSiO2の重量比が0.5〜2.5の範囲になるように添加した混合物を加熱焼付けして得られるクロメート処理剤層に有機樹脂系被覆を積層することを特徴とする耐高温陰極剥離性の優れた有機樹脂系被覆鋼管の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)、

2-2「クロメート処理剤を塗布すると管表面の酸化作用および塗布後の管加熱によって6価のクロムは還元され、シリカ系微粒子表面とリン酸との間の脱水縮合反応、該脱水縮合物のリン酸基とクロムイオン及びクロムイオンが配位したデキストリンあるいは部分ケン化ポリ酢酸ビニルとの間の脱水縮合反応が促進され、熱水に難溶性でかつ耐アルカリ性の優れたクロメート被膜が生成する。クロメート処理剤の焼付け温度は鋼管表面温度で120〜300℃が適切である。」(5頁10欄27-36行)、

2-3「本発明でいう有機樹脂系被覆とは、エポキシ樹脂、……変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、変性エチレン・プロピレン共重合体……等の有機樹脂を主成分とする粉体塗料、……溶剤型塗料及び液状の無溶剤型塗料を塗布して硬化させた被覆である。」(6頁11欄6-15行)が記載されている。

5.対比・判断
5-1)申立理由1:特許法第29条の2の規定違反について
5-1)-1 本件発明1について
先願明細書には、1-1及び1-4の記載からみて、鋼材の表面に、比表面積lnm2あたり2〜4個の水酸基をもつ気相シリカを全クロム量に対して重量比で2.0〜7.0倍含み、かつ全クロム量のうち3価のクロムの重量比が0.1〜0.7になるように部分還元したクロメート処理剤によるクロメート層を、全クロム量で50〜1000mg/m2有し、その上層に、エポキシドを1.0〜6.0mol/kg含むプライマー層を10μm以上有し、さらにその上層に、変性ポリオレフィン樹脂およびその上層のポリオレフィン樹脂層を有する耐陰極剥離性に優れた重防食被覆鋼材の発明(以下、先願発明という)が記載されていると認められ、本件発明1と先願発明とを対比すると、先願発明の変性ポリオレフィン樹脂は本件発明1の変性ポリオレフィン接着樹脂層に相当すると認められるから、
両者は、鋼材表面に、クロメート処理層、プライマー層、変性ポリオレフィン接着樹脂層、ポリオレフィン樹脂被覆層を順次積層させたポリオレフィン樹脂被覆鋼材の発明である点で共通し、
本件発明1がクロメート被膜中のCr3+/全Crを0.51〜0.95と特定しているのに対し、先願発明はクロメート処理剤中のCr3+/全Crを0.1〜0.7と特定している点で相違していると認められる。
相違点について検討する。
上記のとおり、本件発明はクロメート被膜中の、すなわち、被膜形成後の該被膜中のCr3+/全Crを特定し、先願発明はクロメート処理剤中の、すなわち、クロメート被膜形成前の処理剤中のCr3+/全Crを特定するものであって、三価クロムと六価クロムとの比率が特定される対象を異にするものである。
この値が相互に異なることは、上記1-2の記載、及び、本件特許明細書段落【0020】の「クロメート被膜は約110℃以上の温度でCr6+からCr3+への還元反応が急激に進行する。そのため、クロメート処理剤塗布後110〜350℃で焼き付けることで皮膜中のCr3+の量を増加させることができる。」という記載からみて明らかである。
そして、先願発明において、クロメート処理剤中の三価クロムの比率に対して、この処理剤を用いて層形成した後のクロメート被膜中の三価クロムの比率が増加する可能性が大きいことは推定できるものの、クロメート処理剤中のCr3+/全Crが0.1〜0.7の範囲に含まれるもので、形成後のクロメート被膜中のCr3+/全Crが0.51〜0.95に含まれると判断するに足る根拠は、先願明細書にはないので、先願発明のクロメート被膜中のCr3+/全Crが0.51〜0.95に含まれるものであるとは認定することができない。
したがって、本件発明1に係る特許が特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

5-1)-2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を技術的にさらに特定したものであるから、本件発明1についての判断と同じ理由により、本件発明2に係る特許が特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

5-2)申立理由2:特許法第29条第1項第3号の規定及び特許法第29条第2項の規定違反について
5-2)-1 本件発明1について
甲第2号証には、鋼管の外表面の内側から順に、無水クロム酸の水溶液中に該水溶液中の全クロムに対するPO43-の重量比が0.5〜2.0の範囲になるようにリン酸を混合した混合水溶液を、酵素でデンプンを加水分解して得られ、かつ平均分子量が50000〜250000の範囲のデキストリンで、該混合水溶液中の全クロムに対する6価クロムの重量比が0.35〜0.65の範囲になるように部分還元し、かつ、シリカ微粒子を該混合水溶液中の全クロムに対するSiO2の重量比が0.5〜2.5の範囲になるように添加した混合物を加熱焼付けして得られるクロメート処理剤層に有機樹脂系被覆を積層した耐高温陰極剥離性の優れた有機樹脂系被覆鋼管の発明(2-1参照。以下、甲2発明という)が記載されていると認められる。
本件発明1と、甲2発明とを対比すると、後者のCr3+/全Cr量は0.35〜0.65の範囲になると認められから、
両者は、
鋼材表面に、クロメート処理層と有機樹脂系被覆とを積層させた樹脂被覆鋼材である有機樹脂被覆鋼材の発明である点で共通するが、
(1)本件発明1は、被膜形成後のクロメート被膜中のCr3+/全Cr量を0.51〜0.95と特定しているのに対し、
甲2発明は、クロメート処理剤中のCr3+/全Cr量を0.35〜0.65と特定している点、
(2)本件発明1が、有機樹脂被覆鋼材の積層構造として、鋼材表面に、クロメート処理層、プライマー層、変性ポリオレフィン接着樹脂層、ポリオレフィン樹脂被覆層を順次積層させた樹脂被覆鋼材であるのに対し、甲2発明は、鋼材表面に、クロメート処理層及び有機樹脂被覆層を順次積層させた有機樹脂被覆鋼材である点で相違していると認められる。
相違点(1)について検討する。
甲2発明のクロメート処理剤は、リン酸、デキストリンを必須の成分とした上で、クロメート処理剤におけるCr3+/全Crを特定しているから、この処理剤を用いて被膜を形成した後のクロメート被膜中のCr3+/全Crが0.51〜0.95に含まれるものであるとは認定できないものである。
甲第2号証には、無水クロム酸、重量比0.5〜2.0のリン酸、分子量50000〜250000のデキストリン、重量比0.5〜2.5のシリカ微粒子の混合水溶液からなるクロメート処理剤におけるCr3+/全Crを0.35〜0.65に調節することが記載されているだけで、形成後のクロメート皮膜中のCr3+/全Crを、本件発明1のように、特定の範囲に調節することについては記載も示唆もされていないと認められる。
そして、本件発明1は被膜形成後のクロメート被膜中のCr3+/全Crを0.51〜0.95に特定したことにより、特許明細書に記載された、従来にない高温耐水性、高温耐陰極剥離性に優れたポリオレフィン樹脂被覆鋼材を得ることができるという効果を奏するものと認められる。
したがって、相違点(2)について判断するまでもなく、本件発明1は甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

5-2)-2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を技術的にさらに特定したものであるから、本件発明1についての判断と同じ理由により、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。
よって、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。

6.むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-12-10 
出願番号 特願平6-189257
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 16- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 須藤 康洋
石井 克彦
登録日 2001-03-02 
登録番号 特許第3163908号(P3163908)
権利者 住友金属工業株式会社
発明の名称 ポリオレフィン樹脂被覆鋼材  
代理人 三和 晴子  
代理人 渡辺 望稔  

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