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審決分類 審判 判定 利用 属さない(申立て不成立) B21B
管理番号 1070552
判定請求番号 判定2001-60129  
総通号数 38 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1982-08-24 
種別 判定 
判定請求日 2001-11-16 
確定日 2002-12-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第1446013号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「熱間圧延材接続方法」は、特許第1446013号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 I.請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、別紙イ号図面及び説明書に示す熱間圧延材接続方法は、特許第1446013号発明(以下、「本件特許発明」という)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。


II.本件特許発明
本件特許発明は、その明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、構成要件毎にA〜Eの符号を付して示せば、次のとおりである。
「A.搬送テーブルによって搬送されている先行圧延材と後続圧延材とを接 合機によって接合する熱間圧延材接続方法であって、
B.搬送テーブルを形成する各テーブルローラーは、接合機通過時に、圧 延材搬送位置から接合機に干渉することのない位置に退避し、
C.接合機通過後に、接合機に干渉することのない位置から圧延材搬送位 置に復帰する
D.熱間圧延材接続方法。」


III.イ号方法
請求人が提出した平成13年11月16日付判定請求書第17頁の「(2)イ号図面」及び平成14年6月28日付上申書第2〜5頁「(1)イ号方法の特定について」の記載、さらに、被請求人が提出した平成14年6月3日付上申書第2〜4頁「第1 イ号方法の記載に対する意見」の記載によれば、イ号方法は、
「a’板素材を複数接合して連続熱間圧延する方法において、先行圧延板素 材の後端切断面と、後行圧延板素材の先端切断面とを、連続熱間圧延 機の入側で走行接合装置により走行接合するに際して、走行接合装置 の走行路に配置のローラーテーブルの各ローラーを、圧延板素材パス ラインから下降退避・上昇復帰可能に設置し、
b’走行接合装置の前進走行通過時に干渉する各ローラーを、圧延板素材 パスラインから順次下降退避させ、
c’これを前進通過後も維持させてこの下降退避の各ローラー上に、後行 圧延板素材の垂れループを形成させながら走行して、
d’先行圧延板素材の後端切断面と、後行圧延板素材の先端切断面とを、 突き合わせた後、これらを接合することを特徴とする複数板素材の連 続熱間圧延方法であって、かつ、
e’該走行接合装置として装置内に、先行圧延板素材の後端部クランプ装 置と、後行圧延板素材の先端部クランプ装置を、各々首振り可能にす ると共に、圧延板素材の供給方向および反供給方向に、各々単独走行 可能に設置し、かつ後行圧延板素材の先端部クランプ装置の入側方向 の圧延板素材パスラインに、テーブルロールとその上方に押さえロー ルを設置した走行接合装置を用いるものであって、接合方式がレーザ ー接合である方法。」であるところ、
本件特許発明との対比の都合上、上記イ号方法を、本件特許発明の構成に即し、構成要件毎に符号a〜fを付して書き改めると次のとおりとなる。
「a 走行接合装置の走行路に配置のローラーテーブルによって搬送されて いる先行圧延板素材の後端切断面と後行圧延板素材の先端切断面とを 連続熱間圧延機の入側で走行接合装置により走行接合する、板素材を 複数接合して連続熱間圧延する方法であって、
b 走行接合装置の前進走行通過時に干渉する、走行接合装置の走行路に 配置のローラーテーブルの各ローラーは、圧延板素材パスラインから 順次下降退避し、
c 該走行接合装置の前進走行通過後も該ローラーは下降退避を維持し、 この下降退避の該各ローラー上に、後行圧延板素材が垂れループを形 成させながら走行して、先行圧延板素材の後端切断面と、後行圧延板 素材の先端切断面とを突き合わせた後、これらを接合し、
d 該各ローラーは走行接合装置が後退する場合、走行接合装置の後退通 過後に、走行接合装置に干渉することのない位置から圧延板素材パス ライン位置に復帰し、
e 該走行接合装置として装置内に、先行圧延板素材の後端部クランプ装 置と、後行圧延板素材の先端部クランプ装置を、各々首振り可能にす ると共に、圧延板素材の供給方向および反供給方向に、各々単独走行 可能に設置し、かつ後行圧延板素材の先端部クランプ装置の入側方向 の圧延板素材パスラインに、テーブルロールとその上方に押さえロー ルを設置した走行接合装置を用いるものであって、接合方式がレーザ ー接合である
f 連続熱間圧延方法。」

そして、イ号方法を上記の如く書き改める点について当事者間に争いはないので、上記構成要件a〜fからなる連続熱間圧延方法を、以下、「イ号方法」という。


IV.当審の判断
[1]本件特許発明とイ号方法との対比
本件特許発明とイ号方法を対比すると、イ号方法の構成aは本件特許発明の構成Aを充足し、イ号方法の構成bは本件特許発明の構成Bを充足し、イ号方法の構成fは本件特許発明の構成Dを充足するものと認められるから、イ号方法は、本件特許発明の構成要件A.B.Dを充足するといえる。
そして、この点については、当事者間に争いはない(判定請求書の6頁12行〜8頁4行、9頁20〜25行及び判定事件答弁書14頁23行〜15頁3行、19頁19〜22行参照)。
しかしながら、イ号方法が、本件特許発明の構成Cを充足するか否かは、直ちに明らかであるとはいえないので、この点について、以下に検討する。

[2]本件明細書及び図面の記載事項
本件特許発明の構成Cに関する本件明細書及び図面(甲第6号証参照。以下、「本件明細書及び図面」を、単に、「本件明細書」という。)の記載は次のとおりである。

(1)本件明細書には、従来技術の問題点及び本件特許発明の課題について、
摘示6-1;
「このような従来の熱間圧延ラインにおいては、圧延材が一本ずつ粗圧延および仕上げ圧延される非連続圧延によって圧延されることから、以下のような問題点がある。即ち、各圧延材をそれぞれ粗圧延機群2、および仕上げ圧延機群3の上下ロールに円滑に噛み込ませる必要があり、各圧延材の先端部形状および板厚等を調整する必要がある。また、各圧延材の先端部および後端部は温度が低下することから製品材質が不均一となる。また、先行する圧延材と後続する圧延材との間に、圧延作業が営まれることのない空間が存在することになり、設備の有効利用度が低く、生産能率も悪いという問題点がある。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、熱間圧延ラインにおいて連続圧延を可能とする熱間圧延材接続方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、搬送テーブルによって搬送されている先行圧延材と後続圧延材とを接合機によって接合する熱間圧延材接続方法であって、搬送テーブルを形成する各テーブルローラーは、接合機通過時に、圧延材搬送位置から接合機に干渉することのない位置に退避し、接合機通過後に、接合機に干渉することのない位置から圧延材搬送位置に復帰するようにしたものである。」(甲第6号証1欄20行〜2欄18行)と記載され、
(2)本件特許発明の実施例及び実施例による作用、効果について、
摘示6-2;
「以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。第2図は、本発明に係る熱間圧延材接続方法が適用される熱間圧延設備の一例を示す説明図である。・・・圧延材としてのスラブは、・・・粗圧延機11において粗圧延され、シートバーとなる。シートバーは搬送テーブル12を形成する多数のテーブルローラー13に支持された状態で搬送され、仕上圧延機14に送り込まれる。・・・さらに粗圧延機11と仕上圧延機14との間には、レール15に架設されて、搬送テーブル12による圧延材搬送方向に移動可能な、フラッシュ溶接機等の接合機16が配設されている。接合機16は、搬送テーブル12の圧延材搬送速度に同期して移動しつつ、その出側クランプ17によって先行圧延材31の後端部をクランプすると共に、入側クランプ18によって後続圧延材32の先端部をクランプし、先行圧延材31の後端部と後続圧延材32の先端部とを接合し、連続化された圧延材を仕上圧延機14において連続圧延可能としている。・・・なお、テーブルローラー13は、カップリング26を介して電動機27に連結され、圧延材搬送位置において、圧延材を所定の搬送速度で搬送可能となっている。」(同2欄19行〜3欄39行)、
摘示6-3;
「次に、上記実施例の作用について説明する。粗圧延機11側に停留されている接合機16は、先行圧延材31が粗圧延機11から送り出される時点で、レール15に沿って、仕上圧延機14側に向けての移動を開始する。接合機16の移動速度が先行圧延材31の移動速度に同期化する時点で、出側クランプ17が先行圧延材31の後端部をクランプする。また、先行圧延材31が粗圧延機11から送り出された直後に、後続圧延材32が粗圧延機11に送り込まれ、粗圧延された状態で送り出される。粗圧延機から送り出された後続圧延材32は、加速されて先行圧延材に次第に接近し、後続圧延材32の先端部が先行圧延材31の後端部に当接する状態に到達すると、接合機16は入側クランプ18によって後続圧延材32の先端部をクランプし、先行圧延材31の後端部と後続圧延材32の先端部とを突き合わせ状態で接合する。更に接合機16は、先行圧延材31と後続圧延材32とを接合した後、接合部のバリ取りを行なった後、仕上圧延機14側に到達する。」(同3欄40行〜4欄16行)、
摘示6-4;
「上記先行圧延材31と後続圧延材32の接合機16による接合時に、搬送テーブル12を形成している各テーブルローラー13に対応する昇降シリンダ装置24は、・・・接合機16の接近の検知により作動し、テーブルローラー13を圧延材搬送位置から接合機16の出側クランプ17、入側クランプ18等が干渉することのない位置に退避すべく、昇降テーブル23をフレーム21のガイド22に沿って下降させる。このようにして接合機16の通過時に圧延材搬送位置から退避した各テーブルローラー13は、接合機16の通過後に、接合機16に干渉することのない位置から圧延材搬送位置に復帰し、再び圧延材を搬送する。」(同4欄17〜31行)、
摘示6-5;
「上記実施例によれば、先行圧延材31と後続圧延材32とを接合する接合機16は、搬送テーブル12の各テーブルローラー13に干渉することなく、先行圧延材31および後続圧延材32と同期移動し、先行圧延材31と後続圧延材32とを接合することにより、圧延材を仕上圧延機14において連続的に圧延することが可能となる。従って、圧延材を一本ずつ断続的に圧延する場合に比して、圧延材のロールへの噛み込み時に生ずる衝撃の発生頻度を減少可能となり、衝撃に起因するロールの損傷事故の発生を防止することができると共に、圧延状態を安定化し、板厚制御、形状制御を高速度で行なうことが可能となる。また、圧延材を一本ずつ断続圧延する場合に於ける各圧延材間の空間の発生が排除され、設備の生産能力を1.5倍程度に向上することができると共に、電動機、補機等のアイドル運転が減少し、電力原単位を向上することが可能となる。更に、仕上圧延機14における圧延材の張力制御を安定的に行なえることから、熱間圧延における張力圧延が可能となり、薄物圧延を良好に行なうことが可能となる。」(同4欄37〜5欄14行)と記載され、
(3)本件特許発明による効果について、
摘示6-6;
「以上のように、本発明は、搬送テーブルによって搬送されている先行圧延材と後続圧延材とを接合機によって接合する熱間圧延材接続方法であって、搬送テーブルを形成する各テーブルローラーは、接合機通過時に、圧延材搬送位置から接合機に干渉することのない位置に退避し、接合機通過後に、接合機に干渉することのない位置から圧延材搬送位置に復帰するようにしたので、熱間圧延ラインにおいて連続圧延が可能となるという効果を有する。」(甲第6号証6欄6〜15行)と記載され、
(4)さらに、前記摘示6-2に関連して、本件の図面第2図(以下、単に「本件第2図」という。)には、
摘示6-7;
「粗圧延機11から送り出された後続圧延材(シートバー)の先端部は接合機16の入側クランプ18で保持され、また、仕上圧延機に送り込まれている先行圧延材の後端部は接合機16の出側クランプ17で保持され、接合機16の入側クランプ18で保持された後続圧延材の先端部の上流側に位置する(粗圧延機11側の)後続圧延材は、接合機16の入側クランプ18と、粗圧延機11との間に示される二つのテーブルローラー13で支持され、一方、接合機16の出側クランプ17で保持された先行圧延材の後端部の下流側(仕上圧延機14側の)先行圧延材は、多数のテーブルローラー13で支持されていること」が図示されている。

[3]本件特許発明の構成Cについて
1.本件特許発明でいう「テーブルローラー」
本件特許発明の実施例及び実施例の作用に関する前記摘示6-2〜6-4によれば、本件特許発明の実施例として、本件明細書には、「搬送テーブルをテーブルローラーで形成」(摘示6-2、6-4)すること、「粗圧延機において粗圧延されたシートバー(「圧延材」に相当。)は搬送テーブルを形成するテーブルローラーに支持された状態で搬送され、仕上圧延機に送り込まれ、テーブルローラーは、圧延材搬送位置において、圧延材を搬送」(摘示6-2)すること、そして、先行圧延材と後続圧延材の接合は、「先行圧延材が粗圧延機から送り出された後、後続圧延材が粗圧延機で粗圧延され、粗圧延機から送り出された後続圧延材は、加速されて先行圧延材に次第に接近し、後続圧延材の先端部が先行圧延材の後端部に当接する状態に到達すると、接合機は入側クランプによって後続圧延材の先端部をクランプし、先行圧延材の後端部と後続圧延材の先端部とを突き合わせ状態で接合し、連続化された圧延材を仕上圧延機において連続圧延可能とする」(摘示6-2、6-3)こと、一方、接合時には、「搬送テーブルを形成するテーブルローラーを圧延材搬送位置から接合機等が干渉することのない位置に退避すべく下降させ、接合機の通過時に圧延材搬送位置から退避したテーブルローラーを、接合機の通過後に、接合機等が干渉することのない位置から圧延材搬送位置に復帰させ、再び圧延材を搬送する」(摘示6-4)こと、が記載されていることが認められる。
そうすると、本件特許発明の実施例として記載された搬送テーブルを形成するテーブルローラーは、「粗圧延機から送り出された圧延材を、圧延材搬送位置において支持・搬送し、そして、先行圧延材と後続圧延材の接合に際しては、接合機の通過時に圧延材搬送位置から接合機等が干渉することのない位置に下降退避し、接合機の通過後に、圧延材搬送位置に復帰し、再び圧延材を搬送する」という動作を行うものであるといえる。

2.本件特許発明でいう「圧延材搬送位置」
まず、本件特許発明でいう「圧延材搬送位置」とは如何なる位置であるかを検討するに、本件明細書中には、「圧延材搬送位置」について特段の定義があるわけではない。
しかしながら、圧延材の搬送とテーブルローラーの動作に関する「粗圧延機から送り出された圧延材は、搬送テーブルを形成する多数のテーブルローラーに支持された状態で、圧延材搬送位置において搬送され、仕上圧延機に送り込まれる・・・テーブルローラー13は、カップリング26を介して電動機27に連結され、圧延材搬送位置において、圧延材を所定の搬送速度で搬送」(摘示6-2)、「接合機の接近により、テーブルローラーを圧延材搬送位置から退避・・・接合機の通過時に圧延材搬送位置から退避」(摘示6-4)という本件明細書の記載、さらに、本件第2図には、「後続圧延材の先端部及び先行圧延材の後端部が、接合機16の入側クランプ18及び出側クランプ17でそれぞれ保持されている状態(なお、この場合、接合機16の位置に対応するテーブルローラー13は、接合機16に干渉することのない位置に下降退避していることが認められる。)において、接合機16と粗圧延機11との間の後続圧延材は二つのテーブルローラー13(以下、「粗圧延機側テーブルローラー」という。)で支持され、一方、接合機16と仕上圧延機14との間の先行圧延材は、多数のテーブルローラー13(以下、「仕上圧延機側テーブルローラー」という。)で支持されている」(摘示6-6)ことが示されていることからみて、本件特許発明でいう「圧延材搬送位置」とは、圧延材を支持・搬送する多数のテーブルローラーが形成する(仮想)面の位置、即ち、本件第2図で言えば、退避していない状態のテーブルローラー13が形成する(仮想)面の位置、つまり、粗圧延機側テーブルローラーで支持されている後続圧延材の位置であると同時に、仕上圧延機側テーブルローラーで支持されている先行圧延材の位置、であるといえる。

3.本件特許発明でいう「接合機通過後」
次に、本件特許発明では、接合機通過後の如何なる時期に搬送テーブルを形成する各テーブルローラーが圧延材搬送位置に復帰するのかを、本件明細書の記載に基づいて検討する。
本件第2図によれば、後続圧延材の先端部及び先行圧延材の後端部は、接合機16の入側クランプ18及び出側クランプ17でそれぞれ保持されているが、摘示6-2によれば、「接合機は、出側クランプによって先行圧延材の後端部をクランプすると共に、入側クランプによって後続圧延材の先端部をクランプし、先行圧延材の後端部と後続圧延材の先端部とを接合し」、また、摘示6-3によれば、「接合機の出側クランプが先行圧延材の後端部をクランプし、後続圧延材の先端部が先行圧延材の後端部に当接する状態に到達すると、接合機は入側クランプによって後続圧延材の先端部をクランプし、先行圧延材の後端部と後続圧延材の先端部とを突き合わせ状態で接合する」のであるから、後続圧延材の先端部、先行圧延材の後端部及び接合機のクランプの位置関係が本件第2図に示される実線の状態となるのは、正に、先行圧延材と後続圧延材との接合が開始されようとしている時点であるといえる。
そして、接合が開始されようとしている時点とは、表現を変えれば、接合機から上流側(粗圧延機側)に位置する後続圧延材を支持・搬送するテーブルローラーの領域を接合機が既に通過した後ということに他ならないから、本件第2図には、接合機通過後の後続圧延材が、少なくとも圧延材搬送位置にて支持・搬送されていることが明示されているといえる。ただ、本件第2図においては、後続圧延材は、粗圧延機側テーブルローラー及び接合機の入側クランプ18のみにより圧延材搬送位置に保たれているが、本件第2図の二点鎖線(あるいは白抜き矢印)で示されているように、接合機が次第に仕上圧延機側へ移動した場合には、入側クランプ18と粗圧延機側テーブルローラーとの距離(間隔)が広がるから、仮に、粗圧延機側テーブルローラーと接合機の入側クランプ18のみで後続圧延材を支持・搬送するのであれば、粗圧延機側テーブルローラーと接合機の入側クランプ18間では、後続圧延材の材質、剛性等による差はあるにしても、主として後続圧延材の自重により、圧延材搬送位置から下側方向に撓みを生じることは明らかであり、その結果として、後続圧延材は、圧延材搬送位置にて支持・搬送されないこととなる。
なお、これは、本件第2図に示される先行圧延材が、多数のテーブルローラーからなる仕上圧延機側テーブルローラーで支持・搬送されていることからも明らかである。つまり、仮に、後続圧延材を、粗圧延機側テーブルローラーと接合機の入側クランプ18で支持しただけで、後続圧延材を圧延材搬送位置にて支持・搬送し得るのであるとすれば、先行圧延材についても同様のこと(即ち、先行圧延材の支持・搬送は、少数(例えば、粗圧延機側テーブルローラーのように二つ)のテーブルローラーと接合機の出側クランプ17のみで可能であって、多数のテーブルローラーからなる仕上圧延機側テーブルローラーは必要とされない)がいえるはずであるにも拘わらず、本件第2図にも示されるとおり、先行圧延材は多数のテーブルローラーからなる仕上圧延機側テーブルローラーで支持・搬送されており、少数のテーブルローラーと接合機の出側クランプ17のみで支持・搬送されているのではない。
そうすると、本件第2図において、例えば、接合機が白抜き矢印方向へ移動し、図中二点鎖線で示される仕上圧延機側の位置に到達した段階、即ち、接合機が通過した時点、において、(接合機の通過時に)退避したテーブルローラーが接合機の通過直後に圧延材搬送位置に復帰しないとすれば、後続圧延材を支持・搬送する手段は、粗圧延機側テーブルローラーと接合機の入側クランプ18のみであって、この様な場合には、接合機通過領域の後続圧延材に補助的な何らかの支持・搬送手段がない限り、後続圧延材を圧延搬送位置で支持・搬送することはできないのであり、一方、本件明細書には、本件特許発明における後続圧延材の支持・搬送手段としてはテーブルローラーを用いるとされているのみであって、他の補助的な支持・搬送手段は存在せず、また、他の支持・搬送手段の使用についての示唆があるわけではない。
そうであれば、本件特許発明において、接合機通過時のテーブルローラーの退避により支持・搬送手段がなくなった後続圧延材を、圧延材搬送位置から外れることなく支持・搬送するためには、退避したとはいえテーブルローラーは圧延材搬送位置に復帰し得るものなのであるから、接合機通過直後に、圧延材搬送位置に復帰させ、後続圧延材を支持・搬送すればこれが可能であることは当業者が容易に理解するところであり、一方、他には後続圧延材を圧延材搬送位置にて支持・搬送する手段が存在しないのであるから、圧延材搬送位置へとテーブルローラーが復帰する時期を「接合機通過直後」とすることは、テーブルローラーの復帰時期の設定として、また、テーブルローラーが本来有する機能の利用という点からみて、至極当然かつ合理的なテーブルローラーの動作であるといえる。
したがって、本件明細書の記載内容からみれば、本件特許発明でいう「接合機通過後」とは、技術的には「接合機通過直後」を意味するものと解するのが相当であって、請求人の主張(後記[4]主張1、主張2参照)するごとき「接合機の通過後から次の接合サイクルの開始までの期間」を意味するものであるとはいえない。

以上のとおり、本件特許発明におけるテーブルローラーが圧延材搬送位置へ復帰する時期である「接合機通過後」は、正に、「接合機通過直後」の意味であって、「接合機が後退する場合の接合機の後退通過後」ではないから、イ号方法の構成dは、本件特許発明の構成Cを充足するとはいえない。
よって、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

[4]請求人の主張について
1.「イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属する」旨の請求人の主張の具体的な内容は、大略、次のとおりである。

(1)イ号方法の構成dと本件特許発明の構成Cについて
主張1;
本件特許発明の構成Cは、「接合機通過後に、接合機に干渉することのない位置から圧延材搬送位置に復帰する」とのみ規定し、接合機通過後を具体的には特定してないが、本件特許発明を実施するに当たっては、復帰の時点を接合機の通過直後にしなければならない格別の技術的理由はなく、接合機が次の後続圧延材を接合すべく粗圧延機のところに戻るまで、つまり、次の接合サイクルの開始まで、に各テーブルローラーが圧延材搬送位置に復帰してさえいればよいのであるから、本件特許発明における「接合機通過後」は、接合機の通過後から次の接合サイクルの開始までの期間を排除するものではない。
なお、本件明細書には、「接合機16の通過時に圧延材搬送位置から退避した各テーブルローラー13は、接合機16の通過後に、接合機16に干渉することのない位置から圧延材搬送位置に復帰し、再び圧延材を搬送する」(甲第6号証4欄27〜31行)とも記載されており、この記載からすれば、前記復帰の時点は接合機の通過直後と解されるが、これは本件特許発明を実施するための一実施例として説明されているものであって、本件特許発明の技術的範囲をこれに限定する理由にはならない。(判定請求書8頁17行〜9頁19行参照)

主張2;
本件特許発明では、退避したテーブルローラーが復帰していない限り後続圧延材が接合機に向かって前進するにつれ下方に垂れ下がり、後続材先端が接合機に追いついた時点で、接合機の入側クランプの位置に正しく到達できないことになると被請求人は主張するが、本件明細書には、テーブルローラーを速やかに復帰させる構成に限定する記載も示唆もないのであるから、接合機が殆ど移動を行わないうちに、後続圧延材のクランプを終える場合が含まれ得ることは明らかであるし(甲第18号証)、かかる場合には後続圧延材が垂れ下がるような問題が生じない。また、仮に、接合機に向かって前進するにつれて後続圧延材が下方向に垂れるとしても、エプロンやガイド等、当業者にとって自明であった技術を接合機に適宜採用すれば足りるだけのことである(甲第19号証)。さらに、クランプは上下に開いた状態で圧延材を受け入れるため、クランプの下側を十分に下げておくというような当業者が適宜行うクランプ位置の調整だけで足り、本件特許発明が、これら自明な技術の採用を排除するものではない。以上より、本件特許発明においては、退避したテーブルローラーが、接合機の移動に応じ速やかに復帰しているのでなければ後続圧延材が接合機に向かって前進するにつれ下方に垂れ下がるとは必ずしも言えないし、仮に後続圧延材の垂れ下がりにより接合機の入側クランプの位置に正しく到達できないという問題が生じたとしても、当業者に出願当時自明であった技術を採用することにより対応し得るのであるから、本件明細書において、テーブルローラーの復帰が接合機の通過直後に行われなければならない旨限定する記載がない以上、本件特許発明における「接合機通過後」は、接合機の通過直後から次の接合サイクルの開始までの期間を排除するものではない。(平成14年5月16日付陳述要領書19頁6行〜21頁19行参照)

主張3;
板材の熱間圧延においては、後行圧延材のパスライン位置を変更することによって、先行圧延材と接合する方法は当業者において技術常識であるから、イ号方法は、連続熱間圧延による熱延鋼板の製造工程中に、当業者において公知の技術を採用したに過ぎないものであり(平成14年5月16日付口頭審理陳述要領書25頁下から9行〜26頁5行参照)、また、テーブルローラーによって、圧延材は常に直線的に搬送されなくてはならないという被請求人の主張点は、本件特許出願日前の技術常識であるとは言えない。(平成14年5月16日付口頭審理陳述要領書13頁下から4行〜14頁11行、平成14年6月28日付上申書11頁5〜13行参照)

(2)利用発明について
主張4;
イ号方法は、本件特許発明の方法に、別の構成を付加したものであって、その方法は本件特許発明の構成要件をすべて充足し、本件特許発明の技術的思想をそっくり利用した上で、そこに別の構成要素を付け加えたというにすぎず(しかも、その附加により所期の効果を達成し難いものであることは甲第7号証の記載から明らかである)、本件特許発明の利用発明に当たる。(判定請求書14頁下から6行〜15頁3行参照)

2.請求人の主張1〜4に対する判断
そこで、請求人の上記主張1〜4の当否について、請求人の提出した証拠とともに、以下に検討する。

(1)主張1について
請求人が主張するように、仮に、本件特許発明でいう「接合機通過後」が、次の接合サイクルの開始までに各テーブルローラーが圧延材搬送位置に復帰してさえいればよいというもの、即ち、例えば、イ号方法の構成dにおける「接合機『後退通過後』にテーブルローラーが圧延材搬送位置に復帰という動作を行うもの、であるとすれば、本件特許発明では、接合機が後退通過するまでは、テーブルローラーにより圧延材の支持・搬送が実際上行われないことになる。
ところで、本件特許発明の課題、効果に関する本件明細書の摘示(6-1)、(6-6)によれば、「本発明は、・・・熱間圧延ラインにおいて連続圧延を可能とする熱間圧延材接続方法を提供することを目的」とし、その目的を達成するために、「本発明は、搬送テーブルによって搬送されている先行圧延材と後続圧延材とを接合機で接合する熱間圧延材接続方法であって、搬送テーブルを形成する各テーブルローラーは、・・・接合機通過後に、接合機に干渉することのない位置から圧延材搬送位置に復帰するようにした」ものであって、それによって、「熱間圧延ラインにおいて連続圧延が可能となる」という効果が奏されるものであるから、本件特許発明は、その目的を達成し且つ所定の効果を得るために、少なくとも、搬送テーブルを形成するテーブルローラーによって先行圧延材と後続圧延材とをその圧延材搬送位置にて支持・搬送することを必須構成とするものであるところ、圧延材搬送位置にて圧延材の支持・搬送が行われないという支持・搬送形態は、本件特許発明におけるそれとは相異なる圧延材の支持・搬送形態であって、この様な圧延材の支持・搬送形態が、本件特許発明の課題(目的)及び効果にそぐわない支持・搬送形態であることは明らかである。
そうすると、本件特許発明の実施例ばかりでなく、本件特許発明における課題、効果を考慮したとしても、圧延材はテーブルローラーによって圧延材搬送位置で搬送されるのであり、先行圧延材と後続圧延材の接合に際してのテーブルローラーの退避は、正に一時的な退避であって、接合機通過時以外は、予定された圧延材搬送位置での圧延材の支持・搬送形態に戻ると解するのが相当であるから、接合機通過直後に、(接合機より上流側にある)圧延材は、圧延材搬送位置に復帰したテーブルローラーにより圧延材搬送位置で搬送されるといわざるを得ない。
さらに、本件明細書の記載内容全体からみても、本件特許発明において、接合機後退通過まで、敢えて、テーブルローラーの復帰を待つべきであるとする技術的な理由、あるいは、復帰を待たなければならないとする技術的な必然性があるわけでもない。
よって、本件明細書に記載される本件特許発明の課題、効果を参酌しても、本件特許発明でいう「接合機通過後」、即ち、各テーブルローラーが圧延材搬送位置へ復帰する時期とは、「接合機の通過直後」のことであって、「接合機の後退通過後」にテーブルローラーが復帰するという時期をも含む「次の接合サイクルの開始までの時点」であるとは到底認められない。
したがって、「本件特許発明における「接合機通過後」は、接合機の通過直後から次の接合サイクルの開始までの期間を排除するものではない。」旨の請求人の主張には理由がない。

(2)主張2について
請求人の提出した甲第18号証によれば、先行圧延材後端への後続圧延材先端の追いつきにおける接合機の走行距離は、特定の条件下では、0.25m〜0.5m程度となり、後続圧延材をクランプするまでに接合機が殆ど移動しない場合があるとされているが、接合機が殆ど移動しないとは、言い換えれば、接合機がそもそも通過しないのであるから、「搬送テーブルを形成する各テーブルローラーは、接合機通過時に、圧延材搬送位置から接合機に干渉することのない位置に退避し、」或いは「接合機通過後に、接合機に干渉することのない位置から圧延材搬送位置に復帰する」という本件特許発明の構成B、構成Cに相応するテーブルローラーの動作は行われないということに等しい。
そうであれば、接合機が殆ど移動しないもの(甲第18号証)においては、後続圧延材の垂れ下がりが生じないという事実があったとしても、少なくとも、テーブルローラーの退避、復帰が行われる程度には接合機が移動する本件特許発明において、後続圧延材の垂れ下がりが生じないとはいえない。
また、請求人の提出した甲第19号証によれば、テーブルローラーの復帰が接合機の通過直後に行われない場合であっても、エプロンやガイド等によって、あるいは、クランプ位置の調整によって、後続圧延材の垂れ下がりにより発生する問題が解消されるとされていることは認められる。
しかしながら、本件明細書には、テーブルローラーの復帰の時期による後続圧延材の垂れ下がりが発生することの認識、或いは、その場合の対応策等についての開示があるわけではなく、しかも、本件特許発明の課題・効果からみても、本件特許発明は、圧延材をテーブルローラーにより圧延材搬送位置にて搬送することを前提とした熱間圧延材接続方法であるところ、エプロン、ガイド、あるいは、クランプ位置の調整等は、後続圧延材の垂れ下がりの問題を解消するための手段、言い換えれば、圧延材搬送位置にて圧延材を搬送し得ない場合に圧延材の搬送を修正・調整する補助手段、であるから、これらの補助手段を用いることによって、圧延材搬送位置にて圧延材を搬送することができたとしても、この様な圧延材の搬送形態は、そもそも、本件特許発明で前提としている「圧延材をテーブルローラーにより圧延材搬送位置にて搬送する」という搬送形態と相異なるものであることは明らかである。
したがって、「仮に、後続圧延材の垂れ下がりにより接合機の入側クランプ位置に正しく到達できないという問題が生じたとしても、自明な技術を採用することにより対応し得る」という請求人の主張は、いわば、本件特許発明においては、テーブルローラーの自然かつ合理的な復帰時期の設定を敢えて行わず、その代わりに、前記補助手段を設けて圧延材の搬送を修正・調整するという主張といえるから、かかる主張には、何らの技術的必然性、合理性も認められないと言わざるを得ない。
よって、請求人の主張2は採用し得ない。

(3)主張3について
まず、請求人の提出した甲第16、17、20〜23号証の記載内容を検討するに、いずれも、熱間圧延における圧延材の接続について記載されており、先・後行圧延材を共に搬送ローラーテーブルのパスライン上方へ上下クランプ板、ループローラ等により持ち上げ、パスライン上方で接合すること(甲第16号証1頁左下欄6〜右下欄3行参照)、ルーパーロールを上昇させて先行シートバーのルーピングを行い、溶接機で先行シートバーのテールエンドを保持し後行シートバーのリーデングエンドと突き合わせて溶接すること(甲第17号証2頁右上欄11行〜左下欄12行参照)、先行走間接続機と後行走間接続機の対向側に夫々走行圧延材を上昇挟持する上下クランプ板を設け、少なくとも下クランプ板を昇降自在に、且つパスライン外へ退避させる手段を設けること(甲第20号証1頁左下欄6〜12行参照)、帯板をデイレイテーブルのパスラインより高い位置に持上げ用ガイドにより持上げて先行帯板の終端と後行の帯板の先端とをクランプして接合すること(甲第21号証1頁左下欄6〜12行参照)、プレス機の上流側の昇降ローラが上昇して後行圧延板の先端部が上部カッターユニットの位置に導かれプレス機でジグソ形状に切断され、すでに打ち抜かれた先行圧延板の後端部を後行圧延版の先端部に嵌め合わせ、搬送速度に相応させて昇降ローラ及び下部カッターユニットを所定の搬送レベルまで下降させ通常の圧延姿勢に戻すこと(甲第22号証2頁【0020】、【0021】参照)、熱間仕上げ圧延群の入側にて、先行鋼片の後端部とこれに引き続く後行鋼片の先端部を突き合わせて接合する設備列において熱間仕上げ圧延機機群の上流の少なくとも一か所にルーパーを備えること(甲第23号証2頁【特許請求の範囲の請求項1】参照)が、それぞれ記載されていることが認められる。
しかしながら、これらに記載の技術は、いずれも、熱間圧延における圧延材の接続にあたり、圧延材の搬送経路を搬送途中でその圧延材搬送位置から外すものであって、しかも、圧延材の搬送経路を圧延材搬送位置から外す際には、上下クランプ板、ルーパーロール、ループローラ、持上げ用ガイド、昇降ローラ、ルーパー等の圧延材の搬送経路を変更するための特別の手段を用いるものであり、本件特許発明でいう「圧延材をテーブルローラーにより圧延材搬送位置にて搬送する」という搬送の形態とは相容れない搬送形態の技術である。即ち、本件特許発明においては、圧延材を圧延材搬送位置から外れた搬送経路で搬送するとしているわけではなく、また、そのための特別の手段を設けるとされているわけでもなく、圧延材は、テーブルローラーによって圧延材搬送位置にて支持・搬送されるのであるから、甲第16、17、20〜23号証に記載のものが公知技術であったにしても、かかる公知技術を本件特許発明の搬送手段として採用し得るとは到底認められない。
したがって、「後行圧延材のパスライン位置を変更することによって、先行圧延材と接合する方法は当業者において技術常識であるから、イ号方法は、連続熱間圧延による熱延鋼板の製造工程中に、当業者において公知の技術を採用したに過ぎない」という請求人の主張は認められない。
次に、請求人の提出した甲第25〜27号証の記載内容を検討するに、ホットランテーブルのローラーの損傷を軽減するために仕上圧延機と巻取機間のホットランテーブルに昇降自在なリフトローラーを設けること(甲第25号証1頁左下欄5〜7行、右下欄8〜9行参照)、ストリップのネッキング現象を防止するために、最終仕上圧延機により圧延されたストリップを巻取るべく該圧延機から巻取機へ搬送するランアウトテーブルにおいて、搬送路途中でストリップにループを形成せしめるルーピングテーブルを介在させること(甲第26号証1頁左下欄5〜11行、2頁左上欄12〜19行参照)、ストリップが、最終圧延機出口側とダウンコイラ間のランアウトテーブル上を走行する間に、該ストリップにループ形成手段により局部的なループ状部を形成させ該ストリップにネッキング現象が発生するのを防止すること(甲第27号証1頁左下欄5〜15行参照)が、それぞれ記載されていることが認められる。
そして、これらに記載の技術からみれば、熱間圧延された圧延材が、テーブルローラーによって常に直線的に搬送されると限らないことは認められるにしても、これら甲第25〜27号証記載の技術は、圧延材の搬送経路を変更することにより熱間圧延後の圧延材が搬送されるホットランテーブルのローラーの損傷を軽減あるいはネッキング現象発生防止を図るものであって、しかも、圧延材の搬送経路を変更するためのに、リフトローラー、ルーピングテーブル、ループ形成手段という特別の手段を用いてその経路を変更するものである。
そうすると、甲第25〜27号証に記載されるような圧延材を直線的に搬送せず、その圧延材搬送位置から外れた経路で搬送する技術は、ある特定の技術的課題の解決を意図して行われるのであって、しかも、圧延材搬送位置から外れた経路で搬送するためには、特別の手段を必要とすることが理解される。
ところで、本件特許発明においては、本件明細書の記載内容全体からみても、圧延材を圧延材搬送位置から外れた搬送経路で搬送すべき技術課題があるとは認められず、しかも、圧延材搬送位置から外れた搬送経路で搬送するための特別の手段を設けるとされているわけでもないから、本件特許発明においては、圧延材は、テーブルローラーによって圧延材搬送位置から外れることなしに支持・搬送されるのである。
そうすると、テーブルローラーによって、圧延材は必ずしも常に直線的に搬送されるとは限らないという請求人の主張が事実であったとしても、この事実によって、本件特許発明においては、テーブルローラーによって圧延材が圧延材搬送位置にて直線的に搬送される必要はないとすることはできない。 よって、請求人の主張3は採用しない。

(4)主張4について
イ号方法における構成dは、本件特許発明における構成Cを充足するものではないことは既に述べたとおりであるから、「イ号方法は、本件特許発明の構成要件をすべて充足し、本件特許発明の技術的思想をそっくり利用した上で、そこに別の構成要素を付け加えたものである」とはいえない。
したがって、イ号方法が、本件特許発明の利用発明に当たるという請求人の主張4は採用しない。

なお、請求人は、甲第7号証(特開平10-277605号公報)の記載からみれば、イ号方法においては所定の作用効果が奏されない旨の主張もするが、甲第7号証の【0007】、【0009】、【0010】には、「・・・特願平7-142453号(注;イ号方法に係る発明についてなされた出願)により提案している。この方法(即ち、イ号方法)によると、垂れループの存在により、後行被圧延材先端の切断面位置を修正するに際し、クランプ装置の回動が自在となり、かつ先行被圧延材の圧延速度変動にも十分対応可能となるが、後行被圧延材のループが大きくなると、後行被圧延材の先端が入側クランプ装置に入らなくなったり、クランプできても所定の目標位置から外れて、突合せ接合で接合不良のおそれが生じたり、走行接合装置から抜け落ちるおそれも生じる。
これらループの大きさおよび形状は、後行被圧延材の板厚、温度等により変動するが、後行被圧延材の先端が走行接合装置のその押えローラー上方に乗り上げるおそれも生じる。これら問題の対策としては、走行接合装置を長くして、入側クランプ装置より入側における支持ローラーの範囲を広げればよい。しかし、走行接合装置を長尺化するには、可動搬送ローラーの設置範囲を拡大することが必要で、設備的に高価なものとなり、さらには既設の熱間圧延設備には適用できなくなる。」旨記載されている。
そして、上記甲第7号証の記載によれば、イ号方法においては、後行被圧延材のループの大きさ等により、クランプに際し問題が生じる場合もあるとされているが、特定の場合に問題点が生じるということによって、イ号方法が本来実施不可能な方法であるというわけではなく、さらに、この様な問題点が生じた場合にも、走行接合装置の長尺化等により技術的には対処し得るものであることが明示されているばかりか、イ号方法においては、垂れループの存在により、後行被圧延材先端の切断面位置修正に際し、クランプ装置の回動が自在となり、かつ先行被圧延材の圧延速度変動にも十分対応可能であるとされているのであるから、イ号方法において所定の作用効果が奏されることは明らかである。
したがって、甲第7号証の記載をもって、イ号方法においては所定の作用効果が奏されないとする請求人の主張は失当といわざるをえない。

3.まとめ
前記「2(1)〜2(4)」のとおり、請求人の主張1〜4は、何れも採用できない。


V.むすび
以上のとおりであるから、イ号方法は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲 別紙
イ号図面

 
判定日 2002-12-10 
出願番号 特願昭56-21216
審決分類 P 1 2・ 2- ZB (B21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 孔一  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 池田 正人
市川 裕司
登録日 1988-06-30 
登録番号 特許第1446013号(P1446013)
発明の名称 熱間圧延材接続方法  
代理人 増井 和夫  
代理人 落合 憲一郎  
代理人 久保田 穣  
代理人 小栗 久典  
代理人 亀松 宏  
代理人 竹田 稔  
代理人 橋口 尚幸  

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