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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D06F
管理番号 1071490
審判番号 審判1997-18327  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-11-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1997-10-30 
確定日 2003-01-08 
事件の表示 平成 1年特許願第100158号「ドライクリーニング装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 2年11月15日出願公開、特開平 2-279199]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成元年4月21日の出願であって、原審における平成9年4月15日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、平成9年8月18日付けで拒絶査定され、平成9年10月30日に審判が請求されたものである。本願発明は、当審における平成11年6月21日付け拒絶理由通知に対して平成11年8月27日付けで提出された手続補正書により補正された本願明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものであると認められる。(なお、該特許請求の範囲は、当審における平成10年12月15日付け拒絶理由通知に対して平成11年3月2日付けで提出された手続補正書により補正されたものである。)
「衣料を収納し内部で処理する処理槽、溶剤を収納するタンク、同タンクから前記処理槽へ溶剤を供給する装置、前記処理槽から使用済の溶剤を導き、前記収納タンクへ戻す溶剤回収装置等から構成されるパークロルエチレン溶剤使用のドライクリーニング装置において、前記処理槽に供給される溶剤温度を0〜10℃に調整し得る手段を具備すると共に、フロン113と同等の洗浄能力を有し、これに基づきデリケート衣料を洗浄することを特徴とするドライクリーニング装置。」
第2 引用例に記載された事項
これに対して、当審における平成11年6月21日付け拒絶理由通知で引用した実願昭54-8933号(実開昭55-110194号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、ドライクリーニング機について図面とともに次の記載がある。
(ア)「ワッシャーと、フィルター装置と、溶剤回収装置と、溶剤タンクおよび汚染溶剤タンクとを備え、前記溶剤タンク中の溶剤を前記フィルター装置を介して前記ワッシャーに供給する流路を配設すると共に、前記汚染溶剤タンク中の汚染溶剤を前記溶剤回収装置を介して前記ワッシャーまたは溶剤タンクに供給する流路を配設したドライクリーニング機において、前記溶剤流路および前記汚染溶剤回収流路中に冷却手段をそれぞれ設け、この冷却手段により溶剤を所定の温度までに冷却できるように構成したことを特徴とするドライクリーニング機。」(実用新案登録請求の範囲)
(イ)「ドライクリーニングは、例えばパークロールエチレン(・・・)等の溶剤を使用して品物を洗濯するものであるが、溶剤の特性上溶剤の温度が上昇すると、品物の脱色,逆汚染,縮み,型くずれなどを引き起すことがあるので、溶剤の温度を十分に管理する必要がある。」(明細書1頁20行ないし2頁5行)
(ウ)「この実施例における本考案のドライクリーニング機は、ワッシャーAと、熱風乾燥装置Bと、フィルター装置Cと、溶剤回収装置Dと、溶剤タンクE、汚染溶剤タンクFおよび後処理加工液タンクGとを備える。」(同2頁18行ないし3頁2行)
(エ)「なお、上述の溶剤の温度は、使用する溶剤および洗濯する品物によって多少異なるが、例えばパークロールエチレンの場合は種々の実験の結果約15℃〜28℃の範囲が最も好ましいと言う結論が得られた。」(同12頁1行ないし5行)
第3 本願発明と引用例1記載の発明との一致点・相違点の認定
本願発明と引用例1記載の上記発明とを対比すると、引用例1記載の発明の、「ワッシャーA」、「溶剤タンクE」、「溶剤回収装置D」、「ドライクリーニング機」は、それぞれ本願発明の、「処理槽」、「溶剤を収納するタンク」、「溶剤回収装置」、「ドライクリーニング装置」に相当するものであり、引用例1記載の発明の、「ユニットクーラー43、ミキシングタンク42、第1冷却パイプ44等」は、冷却手段を構成するものであり、そして共に、溶剤としてパークロルエチレン溶剤を使用しているものである。
そうすると、本願発明と引用例1記載の発明とは、
「衣料を収納し内部で処理する処理槽、溶剤を収納するタンク、同タンクから前記処理槽へ溶剤を供給する装置、前記処理槽から使用済みの溶剤を導き、前記収納タンクへ戻す溶剤回収装置等から構成されるパークロルエチレン溶剤使用のドライクリーニング装置において、前記処理槽に供給される溶剤温度を調整し得る手段を具備する衣料を洗浄するドライクリーニング装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)本願発明は、処理槽に供給される溶剤温度を0〜10℃に調整し得る手段を具備すると共に、フロン113と同等の清浄能力を有し、デリケート衣料を洗浄するものであるのに対し、引用例1記載の発明は、処理槽に供給される溶剤温度を調整する冷却手段を具備し溶剤の温度管理をするものであるが、溶剤温度を0〜10℃に調整し得ると共に、フロン113と同等の洗浄能力を有してデリケート衣料を洗浄するか否か明らかでない点。
第4 相違点についての検討
まず、本願発明の、「フロン113と同等の洗浄能力を有する」について検討すると、本願明細書の記載の全趣旨によれば、「パークロルエチレン溶剤の温度を0〜10℃に調整する」ことによる効果を意味するものと認められる。次に、「デリケート衣料を洗浄する」とは、「フロン113と同等の洗浄能力を有する」との記載を勘案すると、洗浄対象物がフロン113の洗浄能力に適するようなデリケートな衣料を洗浄することを意味するものであると解される。
前記拒絶理由通知で引用例1と共に引用した特開昭55-14033号公報(以下、「引用例2」という。)は、ドライクリーニングにおける皮革類衣料の洗滌方法およびその装置の発明に関するものであって、同公報には、「上述の実験条件の下での洗滌率を洗滌温度との関係においてみると、洗滌温度が高くなるにしたがって洗滌率は向上している。又脱色度を溶剤温度との関係においてみると、洗滌温度が高くなるにしたがって脱色度は向上している。すなわち、洗滌温度が高い程洗滌力は向上するが、脱色し易いという結果になる。」(2頁上右欄5ないし11行)、「そしてこの洗滌時においては洗い機(1)内の溶剤を循環回路(5a),(5b)に循環させるものであり、循環ポンプ(6)によって洗い機(1)内の溶剤を排出側循環回路(5a)に設けた冷却器(7)に移行させ、同冷却器(7)で溶剤を約17℃に冷却させたのち、これをさらにフィルター器(4)に移行させる。」(2頁下右欄4ないし9行)と記載され、パークロルエチレンを使用してのドライクリーニング装置において、パークロルエチレン温度を5〜30℃に変化させて洗滌率と脱色度の変化を求めた実験結果が第1図に図示されている。この実験結果によれば、パークロルエチレン温度が15℃以下であっても洗滌が可能であること(溶剤温度5℃で洗滌率40%の場合が示されている。)、その温度が低い程、洗滌率は落ちるものの衣料の脱色は起こり難いことが示されている。また、第1図によれば、パークロルエチレン溶剤温度5℃において、洗滌率約35ないし40%、脱色度約70ないし150(ppm)程度となっている。また、溶液温度5ないし20℃の範囲では、脱色度の変化が少ないことが示されているから、第1図が図示する結果は、パークロルエチレン温度を5度以下にまで下げても洗浄可能ではないかとの示唆を当業者に与えるものである。
そうすると、本願発明の上記相違点に係る構成のうち、処理槽に供給される溶剤温度を0〜10℃に調整し得る手段を具備することは、当業者であれば引用例2記載の発明に基づいて容易に想到できたものというべきである。
そして、引用例1及び引用例2記載の各発明は、共に、パークロルエチレンを溶剤として用い、かつこの溶剤を冷却する手段を具備したドライクリーニング装置において共通するから、これらの発明を組み合わせることに格別の困難性はない。
作用効果についても格別のものを認めることができない。
なお、審判請求人は、平成11年8月27日付けの意見書において、引用例2は、革製品の脱色防止を重点としたもので、第1図の洗浄率は食塩汚れでの評価結果であること、これに対し本願発明の第7図は油溶性汚れの洗浄率であり、両者は組成が異なるものであると主張する。
しかし、本願の特許請求の範囲には、「フロン113と同等の洗浄能力を有し」とは記載されてはいても、その対象とする汚れの種類が油溶性であるか水溶性であるかについては何ら限定がないから、本願発明の第7図は油溶性汚れの洗浄率であるとの審判請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。また、前記拒絶理由通知で同じく引用した特開昭61-22891号公報には、溶剤としてパークロルエチレンが使用されることが記載され(3頁上左欄末行)、また、「個々の溶剤には温調の最適温度範囲があり、それに応じて温度設定すべきことは言うまでもない。」(同頁上左欄1ないし3行)と記載されている。そうすると、デリケート衣料を洗浄するために最適温度範囲を検討することは当業者であれば当然のことであることは明らかであって、その際に、引用例2第1図のデータが溶剤としてパークロルエチレンを使用し、被洗浄物として皮革類衣料品を用いた実験結果である以上、引用例2第1図のデータは、当業者に対し前記の示唆を与えるものであると認められる。審判請求人の上記主張はこの点においても採用することができない。
第5 結論
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1及び2に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-10-28 
結審通知日 2002-11-08 
審決日 2002-11-21 
出願番号 特願平1-100158
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塩澤 克利金丸 治之  
特許庁審判長 橋本 康重
特許庁審判官 原 慧
櫻井 康平
発明の名称 ドライクリーニング装置  
代理人 大場 充  
代理人 唐木 貴男  
代理人 古部 次郎  

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