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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1071890
異議申立番号 異議2001-70381  
総通号数 39 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-04-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-05 
確定日 2002-10-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第3074227号「床下調湿剤及び床下調湿剤の製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3074227号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3074227号の請求項1乃至4に係る発明は、平成4年9月24日に特許出願され、平成12年6月2日にその特許の設定登録がなされ、その後、その特許について、山浦智生並びに合田之則より特許異議の申立てがなされ、平成13年7月12日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年9月25日に訂正請求がされ、さらに平成14年1月21日付けで訂正拒絶理由通知がなされたところ、その指定期間内に何らの応答もなされなかったものである。
2.訂正の適否についての判断
特許権者は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを求めており、その具体的内容として、特許請求の範囲の記載を特許請求の範囲の減縮を目的として、
「【請求項1】鉄筋の埋った水蒸気養生気泡コンクリート(以下ALCと略す)成形体を粉砕した粒度3mm超〜4.5mmのサイズのALC粉体であって、家屋の床下調湿に供するものであることを特徴とする床下調湿剤。」
と訂正することを含む訂正を求めている。
これに対して、当審では、前記記載中において、「水蒸気養生気泡コンクリート(以下ALCと略す)成形体を粉砕した粒度3mm超〜4.5mmのサイズのALC粉体」と記載された技術的事項に関しては、訂正前の特許明細書には、ALCを破砕すること、及び、0.5〜4.5φmmに選別した粒度の粉体は記載されているが、「粒度3mm超〜4.5mmのサイズのALC粉体」が「0.5〜3mmの粒度のALC粉体」と区別された技術内容をもったものとして床下調湿剤に関する具体的な技術的事項を導き出すことができるとは云えないから、訂正前の特許明細書に記載されてない事項である旨の訂正拒絶理由を平成14年1月21日付けで通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたところ、特許権者においては何らの応答もなされなかった。そして、前記訂正拒絶理由は妥当なものと認められる。
よって、前記訂正事項以外の他の訂正事項を検討するまでもなく、この訂正は前記訂正拒絶理由通知に記載した理由によって、認めることはできない。
3.特許異議の申立てについての判断
3.1 本件発明
上記2.で述べたとおり訂正が認められないから、本件の請求項1乃至4に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至4の記載からみて、次のとおりのものと認める。
【請求項1】水蒸気養生気泡コンクリート(以下ALCと略す)を破砕したALC粉体であって、家屋の床下調湿に供することを特徴とする床下調湿剤。(以下「本件発明1」という。)
【請求項2】請求項1において、前記破砕したALC粉体は粒度を略0.5〜4.5φmmに選別してあることを特徴とする床下調湿剤。(以下「本件発明2」という。)
【請求項3】ALCを粉砕する工程、破砕したALC内から鉄筋を分離する工程、鉄筋を除去したALC粉体の粒度を所要の粒径に選別する工程とを含んでいることを特徴とする床下調湿剤の製造方法。(以下「本件発明3」という。)
【請求項4】請求項3において、前記鉄筋を除去したALC粉体の粒度を所要の粒径に選別する工程は、該ALC粉体の粒度を略0.5〜4.5φmmに選別する工程であることを特徴とする床下調湿剤の製造方法。(以下「本件発明4」という。)
3.2 引用刊行物に記載された発明
当審が通知した取消理由において引用した刊行物4、6〜9にはそれぞれ以下の事項が記載されている。
(1)刊行物4:特開平4-122459号公報(山浦智生の異議申立ての甲第1号証)
(a)「(1)組合わされた適宜の鉄筋外周部に発泡コンクリートを注型加工してなる発泡コンクリート体を、破砕分離する装置に於いて、適宜の駆動手段にて低速回転するとともに外周部適所に複数の突起を有する引き込み用ローラと、該引き込み用ローラと略平行に相対向して配設せられた案内ローラとにより発泡コンクリート体を挟圧せしめてひび割れを生じせしめる挟圧工程を構成すると共に、前記挟圧工程を通過した発泡コンクリート体を進行方向に対して適宜の角度だけ可変させて鉄筋を屈曲せしめるための、外周適所に複数の突起を有する破砕ローラによって発泡コンクリートを鉄筋より分離させる分離工程とよりなることを特徴とする発泡コンクリート体の破砕装置。
(2)組合わされた適宜の鉄筋外周部に発泡コンクリートを注型加工してなる発泡コンクリート体を、破砕分離する装置に於いて、適宜の駆動手段にて低速回転するとともに外周部適所に複数の突起を有する引き込み用ローラと、該引き込み用ローラと略平行に相対向して配設せられた案内ローラとにより発泡コンクリート体を挟圧せしめてひび割れを生じせしめる挟圧工程を構成すると共に、前記挟圧工程を通過した発泡コンクリート体を進行方向に対して適宜の角度だけ可変させて鉄筋を屈曲せしめるための、外周適所に複数の突起を有する破砕ローラによって発泡コンクリートを鉄筋より分離させる分離工程とより構成せられる特許請求の範囲第1項に記載の発泡コンクリート体の破砕工程を複数段通過せしめた後、適宜の選別工程を経て粒度別に袋詰めする袋詰工程を有することを特徴とする発泡コンクリート体の破砕装置。」(特許請求の範囲)
(b)「「作用」 したがって、製造工程にて不良品となった発泡コンクリート体や建物を取り壊した際に回収した発泡コンクリート体を挟圧工程を通してひび割れさせ、次いで分離工程を通して鉄筋を屈曲せしめて鉄筋から発泡コンクリートを分離せしめて下方に落下させ、鉄筋は屑鉄として再利用し、発泡コンクリートは土壌改良剤や礫耕栽培の培地として利用したり、ペットの尿などを吸着させたり、建物を建築する際に地面に敷き詰めて床下を乾燥状態として白ありの発生を防止したりすることができるものとなり、簡単迅速に鉄筋と発泡コンクリートを分離できるものとなる。」(第2頁右下欄11行〜第3頁左上欄3行)
(c)「本発明は、以上述べた構成としたので、挟圧工程を通してひび割れさせ、次いで分離工程を通して鉄筋を屈曲せしめて鉄筋から発泡コンクリートを分離せしめて下方に落下させ、鉄筋は屑鉄として再利用し、カルシウム質よりなるアルカリ性の発泡コンクリートは土壌改良剤や礫耕栽培の培地として利用できるものとすることができるものとなり、発明者が行った実験によれば、1段の破砕工程にて鉄筋から95パーセント発泡コンクリートを分離でき、分離した発泡コンクリートは微粉末とならず、よって飛散する事がなく、20mm以下の各種の大きさに破砕して袋詰して販売に供せられるものとなり、簡単迅速に鉄筋と発泡コンクリートを分離でき、しかも再利用できると言った極めて有効な発泡コンクリート体の破砕装置を提供できるものとなる。」(第4頁左上欄7行〜同頁右上欄2行)
(2)刊行物6:「コンクリート工学論文集」Vol.1、No.1、(社)日本コンクリート工学協会、1990年1月25日発行、第155〜164頁(山浦智生の異議申立ての甲第3号証)
図ー5には、ALC(かさ密度486kg/m3)の水気吸着等温線が示され、第159頁左欄27〜30行に「(1)水蒸気吸着 相対圧P/P5で平衡した吸着水の体積Vmを重量含水率に換算し、x軸に相対圧、y軸に重量含水率をとって図ー5に示す」と記載され、同頁右欄11〜13行に「また図ー5にも示される様に、吸着と脱着とでは平衡含水率が異なる現象、いわゆるヒステリシスが生じる。」と記載される。
(3)刊行物7:「わかりやすいセメントとコンクリートの知識」山田順治・有泉昌共編、鹿島出版会、1989年5月20日発行、第224〜240頁(山浦智生の異議申立ての甲第2号証)
(a)「これらセメントコンクリート製品の養生に関しては、表9-1に示すように、その大部分に常圧の蒸気養生方法(以下蒸気養生とよぶ)が用いられ、その一部に高温高圧の飽和蒸気による養生方法(以下オートクレープ養生とよぶ)が用いられていることがわかる。」(第225頁10〜13行)
(b)表9-1日本工業規格のセメントコンクリート製品とその養生に関する規定にはA5416としてオートクレープ養生した軽量気泡コンクリート製品が揚げられている。
(4)刊行物8:「日本建築学会論文報告書 第302号」昭和56年4月発行、第37〜46頁(山浦智生の異議申立ての甲第4号証)
Fig.5には、28℃でのALCの吸着等温線が示され、第41頁左欄32〜33行に「Fig.5に気泡コンクリートの平衡含湿率の実測値を示す。」と記載される。
(5)刊行物9:「鹿島建設技術研究所年報 第35号」昭和62年6月15日発行、第225〜230頁(合田之則の異議申立ての甲第3号証)
第226頁のTable1 湿度調節材料には、建材として用いるものとして窯業系多孔質材料、その例として珪酸カルシウム板、ALCが掲げられている。
3.3 対比・判断
(1)本件発明1について
刊行物4には、上記記載(a)〜(b)から「発泡コンクリート体を20mm以下の各種大きさに破砕して得られたものであって、建物の地面に敷き詰めて床下を乾燥状態にする発泡コンクリート破砕物。」の発明(以下「引用発明1-1」という。)が記載されている。そこで、引用発明1-1と本件発明1とを対比すると、「粉体」が普通「多数の小さな固体粒子の集合体」(三省堂「新辞林」)を意味するものであるから、引用発明1-1の「20mm以下の各種大きさに粉砕して得られたもの」は本件発明1の「粉砕した粉体」であると云え、又乾燥が調湿の一形態であることが自明であることから、引用発明1-1の「床下を乾燥状態にする」ことは、本件発明1の「床下調湿」に相当するものと云えるので、両者は、「気泡コンクリートを破砕した粉体であって、家屋の床下調湿に供することを特徴とする床下剤」で一致し、以下の点で相違する。
相違点:本件発明1は水蒸気養生気泡コンクリート(以下、「ALC」という。)で床下調湿するのに対し、引用発明1-1では発泡コンクリートで床下調湿(乾燥)している点。
そこで、この相違点について検討する。
本件発明1のALCと引用発明1-1の発泡コンクリートとは、気泡コンクリートという点では一致するものであるが、養生の限定の点に相違があるものと云える。しかしながら、引用発明1-1の発泡コンクリートは、本件発明1の水蒸気養生気泡コンクリートを含むものであり、しかも、前記刊行物6,7の記載からみて、ALCは当分野では極めて周知のものであると云え、さらに、前記刊行物8,9の記載からみて、ALC、気泡コンクリートに吸放湿性、即ち調湿性があることはよく知られていると云えることから、引用発明1-1の「発泡コンクリートで床下調湿(乾燥)」を「ALCで床下調湿」にすることに格別困難を伴うものでなく、当業者であれば容易に為し得るものと云える。
(2)本件発明2について
刊行物4には、前記したとおりの引用発明1-1が記載されている。そこで、引用発明1-1と本件発明2とを対比すると、「粉体」及び「床下調湿」について前記3.3(1)で記載したとおりであるので、両者は、「気泡コンクリートを破砕した粉体であって、家屋の床下調湿に供することを特徴とする床下剤」で一致し、以下の点で相違する。
相違点(イ):本件発明2は水蒸気養生気泡コンクリート(以下、「ALC」という。)で床下調湿するのに対し、引用発明1-1では発泡コンクリートで床下調湿(乾燥)している点。
相違点(ロ):本件発明2は粉体の粒度を略0.5〜4.5φmmに選別しているのに対し、引用発明1-1では20mm以下の粉体としている点。
そこで、これら相違点について検討する。
(i)相違点(イ)については、本件発明1における相違点と同じであり、前記3.3(1)で記載したとおりの理由により、当業者が容易に為し得るものと云える。
(ii)相違点(ロ)について
本件発明2の粉体の粒度は、引用発明1-1の粒度に包含されるものであり、吸放湿性能が表面積が大きくなれば向上することは自明のことであるから、そうした吸放湿性を勘案して引用発明1-1の粒度の範囲内から粒度の小さい範囲に限定することは当業者が容易に想到し得るものであり、その範囲を本件発明2の粒度範囲に選別することは設計的事項にすぎないとものであると云える。
(3)本件発明3について
刊行物4には、上記記載(a)〜(c)から「発泡コンクリート体を挟圧工程を通してひび割れさせ、次いで分離工程を通して鉄筋を分離せしめて、破砕工程、適宜の選別工程を経て、20mm以下の各種大きさの床下乾燥剤の製造方法。」の発明(以下「引用発明1-2」という。)が記載されている。そこで、引用発明1-2と本件発明3とを対比すると、乾燥が調湿の一形態であることが自明であることから、引用発明1-2の「床下乾燥」は、本件発明3の「床下調湿」に相当するものと云えるので、両者は、「気泡コンクリートを粉砕する工程、破砕した気泡コンクリート内から鉄筋を分離する工程、鉄筋を除去した気泡コンクリート粉体の粒度を所要の粒径に選別する工程とを含んでいることを特徴とする床下調湿剤の製造方法。」で一致し、以下の点で相違する。
相違点:本件発明3はALCで床下調湿するのに対し、引用発明1-2では発泡コンクリートで床下調湿(乾燥)している点。
そこで、これら相違点について検討する。この相違点については、本件発明1における相違点と同じであり、前記3.3(1)で記載したとおりの理由により、当業者が容易に為し得るものと云える。
(4)本件発明4について
刊行物4には、前記したとおりの引用発明1-2が記載されている。そこで、引用発明1-2と本件発明4とを対比すると、「床下調湿」については前記3.3(3)で記載したとおりであるので、両者は、「気泡コンクリートを粉砕する工程、破砕した気泡コンクリート内から鉄筋を分離する工程、鉄筋を除去した気泡コンクリート粉体の粒度を所要の粒径に選別する工程とを含んでいることを特徴とする床下調湿剤の製造方法。」で一致し、以下の点で相違する。
相違点(イ):本件発明4はALCで床下調湿するのに対し、引用発明1-2では発泡コンクリートで床下調湿(乾燥)している点。
相違点(ロ):本件発明4は粉体の粒度を略0.5〜4.5φmmに選別しているのに対し、引用発明1-2では20mm以下の粉体としている点。
そこで、これら相違点について検討する。
これら相違点(イ)(ロ)については、本件発明2における相違点と同じであり、前記3.3(2)で記載したとおりの理由により、当業者であれば容易に推考し得るものである。
3.4むすび
以上のとおり、本件請求項1〜4に係る発明は、刊行物4、6〜9に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1〜4に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-08-30 
出願番号 特願平4-296275
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (B01J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 豊永 茂弘  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 西村 和美
野田 直人
登録日 2000-06-02 
登録番号 特許第3074227号(P3074227)
権利者 有限会社マルコウ産業
発明の名称 床下調湿剤及び床下調湿剤の製造方法  
代理人 吉田 和夫  

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