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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1071901 |
異議申立番号 | 異議2002-70255 |
総通号数 | 39 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1990-12-14 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-02-01 |
確定日 | 2003-02-10 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3196029号「微細孔膜の作成法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3196029号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1]手続の経緯 本件特許第3196029号発明は、平成2年4月26日(優先権主張 平成1年4月28日 オランダ(NL)国)に特許出願され平成13年6月8日にその特許の設定登録がなされ、その後、三菱レイヨン株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、特許異議意見書が提出されたものである。 [2]特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人三菱レイヨン株式会社は、甲第1号証(特開昭61-238834号公報)、甲第2号証(特開昭63-141611号公報)及び甲第3号証(特開昭54-78375号公報)を提出し、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、また、本件請求項の記載は、発明の必須の構成要件を欠いているから、特許法第36条第4項の要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、特許を取り消すべきものであると主張している。 [3]本件発明 本件請求項1及び2に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。 『【請求項1】出発物質としての疎水性ポリマと親水性ポリマを先ず好適な1以上の種類の混合溶剤に溶解させ、次にこの溶解したポリマを凝固浴で凝固させて微細孔膜を作成する微細孔膜の作成法において、凝固浴から得られる少なくとも多少の親水性を示す膜を取り出し、酸化剤、加水分解剤により膜を処理することにより膜基材から親水性ポリマの少なくとも一部を抽出し最終的に疎水性膜を作成することを特徴とする微細孔膜の作成法。 【請求項2】酸化剤、加水分解剤として次亜塩素酸塩ナトリウム溶液を使用してなる請求項1記載の微細孔膜の作成法。』 [4]甲第1〜3号証の記載事項 甲第1号証には、次のことが記載されている。 (a)『膜の両表面に平均孔径が500Å以上の細孔を有し、主たる膜素材がポリスルホン系樹脂(当審注、疎水性ポリマの一種)であってかつ全量の3〜30重量%の親水性高分子を含有し、透水性が1000ml/m2・hr・mmHg以上であることを特徴とするポリスルホン系樹脂多孔膜。』(特許請求の範囲) (b)『本発明のポリスルホン系樹脂多孔膜を製造するために用いる製膜原液は、基本的にはポリスルホン系樹脂(I)、親水性高分子(II)、溶媒(III)および添加剤(IV)からなる4成分系で構成される。』(第3頁左上欄第6〜10行) (c)『製膜操作は、公知技術を用いれば良い。平膜については、該製膜原液を平坦な基板上に流展し、その後凝固液中に浸漬する。・・・・・ かかる方法で得たポリスルホン系樹脂多孔膜は、膜中の水溶性成分について余分な量は除去し、必要量残存させる必要がある。』(第4頁左下欄第3〜19行) (d)『低分子量の水溶性成分についてはただ水洗するだけで余分な量は除去されるが、分子量の高い水溶性成分については、特別に、エタノール、メタノール・水等の水溶性成分の良溶媒で抽出操作をする必要がある。』(第4頁右下欄第4〜8行) (e)『余分な水溶性高分子を除去した膜は、極くわずかではあるが、水溶性高分子を溶出する。このことは、メディカル用途、食品工業用途においては望ましくない。不溶化のための架橋反応としては、ビニル系の水溶性高分子ではγ線照射が有効である。特にポリビニルピロリドンの場合は、加熱することでも架橋をさせることができる。特に熱処理する方法が好ましい。』(第4頁右下欄下から第6行〜第5頁左上欄第3行) 甲第2号証には、次のことが記載されている。 (a)『ポリスルホンとポリビニルピロリドン(当審注、親水性ポリマの一種)を溶媒に溶解した溶液を支持体上に流延し、凝固浴に浸漬する工程よりなるポリスルホン系微孔性膜の製造方法において、得られた微孔性膜を多価アルコールで洗浄後、水洗し、更にポリエチレングリコールの0.01〜5%水溶液に浸漬処理することを特徴とするポリスルホン系微孔性膜の製造方法。』(特許請求の範囲) (b)『剥離した微孔性膜9は、第1水洗槽11で水洗し次に、多価アルコール洗浄処理槽12において多価アルコールによりポリビニルピロリドンの大部分(以下、PVPとも称す)を洗い出した後、第2水洗槽13を通り、多価アルコールも洗い出す、しかる後親水化槽14においてポリエチレングリコールの0.01〜5%水溶液に浸漬し親水化処理をして乾燥機15を経て巻取機16に巻取られる。』(第3頁右上欄下から第5行〜同頁左下欄第4行) 甲第3号証には、次のことが記載されている。 (a)『1.電解槽の隔膜として用いるのに適当な有機重合体材料の多孔質隔膜を製造する方法において、粒状デキストリンを含有する有機重合体状材料のシートを形成し、該シートからデキストリンを抜出すことを特徴とする、多孔質隔膜の製造法。 2.有機重合体状材料がフッ素含有重合体状材料である特許請求の範囲第1項記載の方法。 3.フッ素含有重合体状材料がポリテトラフルオロエチレンである特許請求の範囲第2項記載の方法。』(特許請求の範囲1〜3) (b)『前記のシートを苛性アルカリの溶液又はアルカリ金属次亜塩素酸塩の溶液と接触させることによりデキストリンを前記のシートから抜出す特許請求の範囲第1項〜第11項の何れかに記載の方法。』(特許請求の範囲12) (c)『前記のシートは例えば有機重合体状材料の水性スラリー又は分散物からの粒状の有機重合体状材料と適当な粒度の粒状デキストリンとの混合物から形成することができ、例えば該混合物をローラーの間でカレンダー(圧延)加工する方法により形成し得る。』(第3頁左下欄下から第6〜最終行) [5]特許異議申し立てに対する判断 〈特許法第29条第2項の規定に違反しているという理由に対して〉 本件請求項1に係る発明(以後、「本件発明1」という。)と甲第1号証或いは甲第2号証に記載された発明とを対比すると、それらは、疎水性ポリマと親水性ポリマとの両者を溶媒に溶解し、該溶解したポリマを凝固浴で凝固させて多少の親水性を示す膜を取り出し、該親水性の膜基材中の親水性ポリマの一部を抽出処理する点で一致する。 しかしながら、本件発明1が該膜の抽出処理を「酸化剤、加水分解剤」により行うのに対し、甲第1号証に記載された発明は、「水、或いは、水溶性成分の良溶媒」(摘示事項d)により行う、甲第2号証に記載された発明は、「多価アルコール」(摘示事項a)により行う点で相違する。 特許異議申立人は、この相違点について、次のように主張している。 『甲第3号証には、疎水性ポリマ(ポリテトラフルオロエチレン等)と親水性ポリマ(デキストリン)を含有するシートを成形した後、アルカリ金属次亜塩素酸塩(酸化剤、加水分解剤の一種)の溶液と接触させることにより、デキストリンをシートから抜出すこと(摘示事項b)が記載されているのであるから、甲第1号証或いは甲第2号証に記載された発明において、親水性の膜の処理(親水性ポリマの抽出)を甲第3号証に記載されたアルカリ金属次亜塩素酸塩の溶液で行うことは当業者が容易にできることである。』 一方、特許権者は、甲第1号証は審査官により引用された文献2であり、甲第2号証は審査官により引用された文献1(特開昭63-141610号公報)と実質的に同一の技術内容が記載されたものであり、甲第3号証は審査官により引用された文献4(特開昭63-20339号公報)に記載された技術内容以上の技術内容を示すものではない。本件発明は、「凝固浴から親水性を示す膜を取り出し、酸化剤、加水分解剤により膜を処理すること」を特徴とし、所期の効果を果たすものであるので、甲第1〜3号証により取り消されるものではないと主張している。 この相違点について検討する。 甲第3号証に記載された発明は、有機重合体(疎水性ポリマ)と粒状デキストリンからなるシートを原料とするものであって、該有機重合体と粒状デキストリンとを溶剤に溶解してシートを生成するものではない。 そして、甲第1或いは2号証に記載された「ポリスルホンと親水性高分子との組み合わせ」と甲第3号証に記載された「有機重合体とデキストリンとの組み合わせ」とが一致している証拠はない。 本件発明1は、親水性の膜を酸化剤、加水分解剤により処理することにより、膜中の親水性ポリマの除去、抽出を有効に実現したものである(特許公報第4欄第9〜11行参照)。 甲第3号証に記載された発明が、次亜塩酸ナトリウム溶液で膜(シート)を処理しているとはいえ、この処理を膜の組成が異なる甲第1或いは2号証に記載された発明に適応できない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できず、本件発明1は甲第1〜3証に記載された発明に基づいて容易にできたものとすることができない。 本件請求項2に係る発明は、請求項1を引用して、さらに技術的に限定する発明であるので、本件発明1に対する理由と同一の理由で、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて容易にできたものとすることができない。 〈特許法第36条第4項の規定を満たしていないという理由に対して〉 特許異議申立人は、本件明細書の詳細な詳細な説明には、「次亜塩素酸塩ナトリウム溶液により膜処理後でも、依然として十分な親水性ポリマが残され膜に対して親水性を与え、水に対し湿潤出来ることは理解されよう。」(特許公報第4欄第25〜28行)と記載され、さらに、「本発明の膜の水湿潤性即ち親水性は膜を次亜塩素酸塩ナトリウム溶液で処理した後高温で処理することによって消滅する。」(特許公報第2頁右欄第29〜33行)と記載されていることから、次亜塩素酸塩ナトリウム溶液で処理しただけでは疎水性の膜を得ることができないことを示している。しかしながら、請求項1は「抽出し最終的に疎水性膜を作成する」と記載されているだけであるから、疎水膜を実現するための具体的な構成(熱処理工程)を欠いていることになると主張している。 しかしながら、本件明細書を検討すると、従来技術としてではあるが、「親水性ポリマの架橋現象は好適な熱処理により生じさせることが好ましいが他の化学的方法によっても発生させ得る。」(特許公報第2欄最終行〜第3欄第2行参照)と記載されており、親水性ポリマが残存し疎水性が得られていない場合には架橋化処理をすることが必要なことを示している。 したがって、熱処理することのみが本件発明の必須構成要件であるものとは認められない。 すなわち、請求項1は、膜が最終的に疎水性であればよいことを示しており、酸化剤、加水分解剤により膜を処理するだけで疎水性が得られたならそのままでよく、親水性ポリマが残存し疎水性が得られていないなら、さらに疎水化処理をすればよいことを示しているのである。 したがって、現請求項1には、方法の発明として充分に技術的手段を記載されているものと認められ、特許異議申立人のこの理由によっても、本件特許を取り消すことができない。 なお、付記すると、甲第1号証には「γ線照射」によって、水溶性高分子が架橋反応し、不溶性になることが記載されている(摘示事項e)。 [6]むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申し立ての理由によっては、本件請求項1及び2に係る発明についての特許を取り消すことができない。 また、他に本件請求項1及び2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-01-22 |
出願番号 | 特願平2-111580 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08J)
P 1 651・ 534- Y (C08J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 石井 淑久 |
特許庁審判長 |
三浦 均 |
特許庁審判官 |
中島 次一 石井 あき子 |
登録日 | 2001-06-08 |
登録番号 | 特許第3196029号(P3196029) |
権利者 | エツクス―フロウ ベー.フアー |
発明の名称 | 微細孔膜の作成法 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 高山 敏夫 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 村社 厚夫 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 高橋 詔男 |
復代理人 | 松本 昭幸 |
代理人 | 小川 信夫 |