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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない G10K
管理番号 1072532
審判番号 訂正2002-39159  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-01-14 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-07-22 
確定日 2003-02-07 
事件の表示 特許第2953115号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
出願日 平成3年6月28日
(特願平3-158247号)
登録 平成11年7月16日
(特許第2953115号)
無効審判請求 平成12年3月8日
(無効2001-35098号)
(東京高裁出訴、平成14年(行ケ)第1号)
無効審判請求 平成12年3月28日
(無効2001-35103号)
(東京高裁出訴、平成14年(行ケ)第2号)
訂正審判請求 平成14年2月22日
(訂正2002-39053号)
訂正拒絶理由 平成14年4月12日
結審通知 平成14年6月28日
訂正審判取下 平成14年7月9日
本件訂正審判請求 平成14年7月22日
(訂正2002-39159号)
上申書 平成14年8月30日(ヤマハ株式会社)
上申書 平成14年8月30日(株式会社第一興商)
上申書 平成14年9月9日(株式会社第一興商)
訂正拒絶理由 平成14年9月10日
意見書 平成14年11月6日

第2 本件訂正発明
本件訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲(請求項の数1)に記載された発明(以下「本件訂正発明」という。)は、次に掲げるとおりのものである。なお、下線が訂正部分。
「電子音楽再生装置の運用方法であって、
電子音楽再生装置は、記憶手段(4)、ハードディスク(5)、入力手段(1)、再生手段(6、11)、制御手段(2)を備え、
記憶手段(4)は、差し換え可能であり、予め複数の演奏データが記憶された書き込み不可能な記憶手段であって、
ハードディスク(5)は、通信で配信された演奏データが、順次追加されて記憶手段(4)が差し換えられるまで記憶される書き込み可能な記憶手段であって、制御手段(2)の動作プログラムを記憶するプログラムメモリ(3)を収納し、 入力手段(1)は、演奏データの指定が可能であり、
再生手段(6、11 )は、演奏データの再生を行い、
制御手段(2)は、入力手段(1)で指定された演奏データを記憶手段(4)、又は、ハードディスク(5)から読み出して再生手段(6、11)に再生させ、
運用方法は、もとの記憶手段(4)に記憶された演奏データと、ハードディスク(5)に順次追加されて記憶された演奏データとを記憶する新たな記憶手段(4)に差し換えると共に、前記プログラムメモリ(3)を収納したまま、ハードディスク(5)から、順次追加されて記憶された演奏データを消去する電子音楽再生装置の運用方法」
なお、上記「順次追加されて記憶された演奏データを消去する」について、訂正明細書の特許請求の範囲では「順次記憶されて記憶された演奏データを消去する」と記載されているが「順次記憶」は「順次追加」の誤りであるから、上記のように認定した。

第3 刊行物
訂正拒絶理由には、次に掲げる刊行物1ないし6が引用されている。
刊行物1:特開平2-220551号公報(上記無効2001-35103号で採用された甲第1号証と同じ)
刊行物2:社団法人情報科学技術協会発行「情報の科学と技術」Vol.41,No.6、P.505〜P.511、1991年6月1日(上記無効2001-35103号で採用された甲第2号証と同じ)
刊行物3:社団法人情報処理学会発行「情報処理学会研究報告」Vol.90,No.59、情報システム30-4、1990年7月17日(上記無効2001-35103号で採用された甲第4号証と同じ)
刊行物4:特開平2-216690号公報(上記無効2001-35098号で採用された甲第4号証と同じ)
刊行物5:特開平3-137864号公報(上申書(株式会社 第一興商)で提出された資料2)
刊行物6:特開平1-201746号公報

1 刊行物1に記載の事項
カラオケシステムに関して、次に掲げる(1)ないし(4)の事項が記載されている。
(1) 従来のカラオケ装置は、予めカラオケ曲を収録した市販の録音テープやビデオディスク等をテープデッキやビデオプレーヤ等で再生し、このカラオケ曲に合わせて歌われる声を演奏と共にスピーカから出力するようにしていたものである。(中略)
しかしながら上記テープやビデオディスクはせいぜい前者で8曲、後者で20曲程度しか収録できないため、過去に発表されたカラオケ曲を網羅しようとすれば膨大な量の巻数となり、また新曲が発表されると次々テープやディスクを買い足さなければならない。(1頁右下欄12行ないし2頁左上欄3行)

(2) カラオケ曲をMIDI(Musical Instrument Digital Interface)規格に基づいてコード化された楽曲情報と、文字表示される歌詞情報と、識別コード等の検索情報とからなるカラオケデータとして蓄積したROMと、CPUに公衆回線を介して接続され、上記ROMに記憶された以外のカラオケデータをデータベース化したホストコンピュータと、このコンピュータのカラオケデータをダウンロードするRAMと、上記CPUに制御されて上記ROM及びRAMを検索するメモリ検索装置と、任意の検索条件をCPUに入力する入力装置と、上記CPUで処理された歌詞情報を文字表示するディスプレイと、上記CPUで処理された楽曲情報を再生するシーケンサ、電子楽器、アンプ及びスピーカ等からなる再生装置とによって構成したものである。(2頁右上欄5行ないし同頁左下欄1行)

(3) キーボード8でリクエスト曲の検索条件、例えば予め全カラオケ曲に付された記号からなる識別コードを入力すれば、CPU5がメモリ検索装置4をコントロールしてROM1を検索し、その中から上記識別コードを見つけた場合(YES)は、この識別コードの付されたカラオケデータ全体を取り出してCPU5で処理する。その内、歌詞情報についてはディスプレイ9に文字で表示する。他方、楽曲情報はMIDI信号としてプログラムされた通りにシーケンサ11によってシンセサイザ12に出力し、ここでアナログ信号に変換された後、アンプ13に出力して増幅し、更にスピーカ14を通してカラオケ曲として再生される。
ところで上記CPU5に入力された識別コードがROM1にない場合(NO)は、RAM2を検索し、ここで上記識別コードを見つけた場合(YES)は、上述した動作で文字情報及び楽曲情報をそれぞれ表示・再生する。
また上記識別コードがROM及びRAM双方のメモリにないと判断した場合は、CPU5が直ちに公衆回線7を通じてホスト・コンピュータのデータベースを検索して上記識別コードの付されたカラオケデータをCPU5に伝送する。この伝送されたカラオケデータは、RAM2に書き込まれてセーブされる一方、上述した動作で歌詞がディスプレイ9に表示され、また曲がスピーカ14より再生される。この場合、既にRAM2に容量限度である30曲が登録されていて空きエリアがない時は、予めリクエスト回数が少なく且つ登録日の古い曲を削除しておいて記憶容量に余裕を持たせておく。(3頁右上欄14行ないし同頁右下欄5行)

(4) リクエストが予想される殆どのカラオケ曲の情報をデジタル符号化して記憶容量の大きなROMに蓄積させ、随時再生可能としたものである(中略)
また新曲或いはリクエスト頻度が著しく低く、ROMに収録されなかった曲については、ホストコンピュータのデータベースから随時公衆回線を通じて伝送・再生し、同時にRAMに蓄積するようにしたので、本システムで全てのカラオケ曲を網羅できる(4頁左上欄6行ないし19行)

2 刊行物2に記載の事項
新しい媒体による目録検索に関して、次に掲げる事項(1)(2)が記載されている。
(1) 2.1 タイムリーなデータの更新-ハードディスクの併用
このシステムで問題となったのは、CD-ROMの一度書き込めば、その後は更新できないというデメリットをいかに克服するかであった。その対策としてわれわれは、40MBのハードディスクを併用することとした。つまり、CD-ROMプレス後に新しい目録データを追加する場合は、このハードディスクに書き込み、検索プログラムによりCD-ROMと同様にアクセスできる仕様とした。
運用としては、CD-ROMを年1回プレスし、その後の追加データは月1回フロッピーディスクで納品してもらい、このフロッピーディスクからハードディスクに移す形とした。開架室には年間で約7000冊の新着図書が搬入されるが、ハードディスクには計算上約15000件記憶させることが可能である。そして、一年間の増加分と前年度のCD-ROM盤のデータをマージして、新年度のCD-ROM盤を作成することとした。
実際の検索においては、利用者は第一画面でCD-ROM上のファイルをみるか(「CD」キー)、ハードディスク上のファイルをみるか(「新着」キー)、それとも両方のファイル(「総合」キー)を検索対象とするかを選択できるようにしているので、目的に応じた利用が可能である。(507頁左欄8行ないし32行)

(2) 検索プログラムはC言語を用いている。当初はフロッピーベースでプログラムのロードをおこなっていたが、システムが安定してからは、より一層アクセス速度を向上させるため、RAMディスクにロードして運用している。(507頁左欄36行ないし40行)

3 刊行物3に記載の事項
書店の情報システムに関して、次に掲げる事項が記載されている。
「CD-ROMに収録されていない新刊書籍データをVAMセンターから受信してCD-ROMパソコンのハードディスク上に蓄積し、新刊書籍データの検索を行う。
「新刊データ」は週間単位で受け取り、最大8週間分のデータを保持する。CD-ROMが月1回更新されることによって予想される空白新刊情報の日数は約6〜7週間であるので、8週間を越える場合は旧いデータ順に削除していく。
CD-ROMによる「書籍データ検索」と「新刊データ検索」は別メニューとし、業務メニューを選択する。データの管理はアプリケーションが行うため、書店が直接ファイル操作をする必要はない。」(3頁右欄24行ないし32行)

4 刊行物4に記載の事項
カラオケシステムに関して、次に掲げる事項が記載されている。
「カラオケ情報をCD-ROM等の光ディスクを利用してデータベース化したカラオケシステム」(1頁右下欄5行ないし7行)

5 刊行物5に記載の事項
カラオケ装置における電源の安全機構に関して、次に掲げる事項が記載されている。
「楽曲情報及び歌詞情報を二進符号化してデジタル情報とし、これをコンピュータのデータベースとして希望するカラオケ音楽のデータを取り出し、読み書き可能なハードディスクや光ディスク及びRAMなどの記憶装置に多数収容してここから再生処理を行うようにした」(1頁右下欄14行ないし19行)

6 刊行物6に記載の事項
記憶領域設定制御方式に関して、次に掲げる事項(1)(2)が記載されている。
(1) データベースをハードディスク装置3に登録してデータべースを使用する場合以外は、ハードディスクにデータベース用データ領域を設けず、ハードディスクの全ての記憶領域を文書領域として文書の保存に使用することができ、使用されない無駄な領域をなくしてハードディスクを有効に活用することができる。(3頁右上欄2行ないし8行)
(2) データベースプログラムはハードディスクの専用領域に登録され、第2図ではこの領域の図示は省略してある。(3頁左上欄12行ないし14行)

第4 本件訂正発明と刊行物1の発明との対比検討
1 刊行物1の発明
本件訂正発明との関連において、刊行物1の記載事項(1)(2)からみて、刊行物1には、次に掲げる発明(以下「刊行物1の発明」という。)が記載されている。
「カラオケシステムは、ROM、RAM、入力装置、再生装置、CPUを備え、
ROMは、予め複数のカラオケデータが記憶された書き込み不可能な記憶手段であって、
RAMは、ROMに記憶された以外のホストコンピュータから公衆回線を介してダウンロードされたカラオケデータが記憶される書き込み可能な記憶手段であって、
入力装置は、カラオケデータの指定が可能であり、
再生装置は、カラオケデータの再生を行い、
CPUは、入力装置で指定されたカラオケデータを少なくともROM、又は、RAMから読み出して再生装置に再生させるカラオケシステム」

また、刊行物1の特許請求の範囲に係る発明を検討すると、この発明は、ROM(Read Only Memory)として半導体ROMを使用し、RAM(RandomAccess Memory)として半導体RAMを使用することによって、機械的構成を排除したカラオケシステムといえる。この発明によると、従来のカラオケシステムにおいて、機械的に構成されたROMとしてCD-ROMと機械的に構成されたRAMとしてハードディスクがあることが推定でき、このことは、従来のカラオケシステムにおいて、CD-ROMを使用するもの(刊行物4を参照)とハードディスクを使用するもの(刊行物5を参照)があることからも理解できる。

2 刊行物1の発明と本件訂正発明との対比
刊行物1の発明と本件訂正発明とは、次に掲げる(1)(2)(5)(6)の事項が一応対応し、(3)(4)の事項が相当する。
(1) 刊行物1の発明における「ROM」は、読みとり専用の書き込み不可能な記憶手段であって、過去に発表されたカラオケ曲をカラオケデータとして予め蓄積しているから(刊行物1の(1)(2)を参照)、「差し換え可能である」かは別として、本件訂正発明における予め複数の演奏データが記憶された書き込み不可能なCD-ROMとしての「記憶手段(4)」に一応対応する。

(2) 刊行物1の発明における「RAM」は、書き込み可能な記憶手段であって、ROMに記憶された以外のカラオケ(演奏)データが、ホストコンピュータから公衆回線を介してダウンロードされて記憶されているから(刊行物1の(2)を参照)、「演奏データが、順次追加されて記憶手段(4)が差し換えられるまで記憶」して「制御手段(2)の動作プログラムを記憶するプログラムメモリ(3)を収納」するかどうかは別として、本件訂正発明における通信で配信された演奏データが記憶される書き込み可能な記憶媒体である「ハードディスク(5)」に一応対応する。

(3) 刊行物1の発明における「入力装置」は、任意の検索条件をCPUに入力するから(刊行物1の(2)を参照)、本件訂正発明における演奏データの指定が可能である「入力手段(1)」に相当する。

(4) 刊行物1の発明における「再生装置」は、CPUで処理された楽曲情報を再生するシーケンサ、電子楽器、アンプ及びスピーカ等からなるから(刊行物1の(2)を参照)、本件訂正発明における演奏データの再生を行う「再生手段(6、11 )」に相当する。

(5) 刊行物1の発明における「CPU」は、入力装置から入力された検索条件でメモリ検索装置にROM次にRAMを検索制御させ、楽曲情報が再生装置で再生されるから(刊行物1の(2)を参照)、ホストコンピュータへリクエストするかどうかは別として、本件訂正発明における入力手段(1)で指定された演奏データを記憶手段(4)、又は、記憶媒体(5)から読み出して再生手段(6、11)に再生させる「制御手段(2)」に一応相当する。

(6) 刊行物1の発明の「カラオケシステム」は、RAMに空きエリアがない時は、曲を削除して記憶容量に余裕を持たせるという運用をするから(刊行物1の(3)を参照)、この運用は、本件訂正発明のように「もとの記憶手段(4)に記憶された演奏データと、ハードディスク(5)に順次追加されて記憶された演奏データとを記憶する新たな記憶手段(4)に差し換えると共に、プログラムメモリ(3)を収納したまま、ハードディスク(5)から、順次追加されて記憶された演奏データを消去する」運用ではないが、本件訂正発明の「電子音楽再生装置の運用方法」に一応対応する。

3 刊行物1の発明と本件訂正発明との一致点・相違点
上記対比から、刊行物1の発明と本件訂正発明とは、
「電子音楽再生装置の運用方法であって、
電子音楽再生装置は、記憶手段、記憶媒体、入力手段、再生手段、制御手段を備え、
記憶手段は、予め複数の演奏データが記憶された書き込み不可能な記憶手段であって、
記憶媒体は、通信で配信された演奏データが記憶される書き込み可能な記憶手段であって、
入力手段は、演奏データの指定が可能であり、
再生手段は、演奏データの再生を行い、
制御手段は、入力手段で指定された演奏データを記憶手段、又は、記憶媒体から読み出して再生手段に再生させ、
運用方法は、記憶媒体に記憶された演奏データを消去する電子音楽再生装置の運用方法」で一致し、次に掲げる(1)ないし(4)の点で相違する。

(1) 上記「記憶手段」が、本件訂正発明においては、具体的には「CD-ROM」であって「差し換え可能である」のに対して、刊行物1の発明においては、「ROM」であって、差し換え可能であるか記載されていない点

(2) 上記「記憶媒体」は、本件訂正発明においては「ハードディスク」であって「演奏データが、順次追加されて記憶手段(4)が差し換えられるまで記憶」し「制御手段(2)の動作プログラムを記憶するプログラムメモリ(3)を収納」するのに対して、刊行物1の発明においては、「RAM」であって、演奏データが順次追加されるものの、差し換えられるまで順次追加記憶すること、動作プログラムを格納することは記載されていない点

(3) 上記「制御手段」が、本件訂正発明においては「記憶手段(4)、又は、ハードディスク(5)から演奏データを読み出す」のに対して、刊行物1には「ホストコンピュータからも演奏データを読み出す」と記載されている点

(4) 上記「運用方法」が、本件訂正発明においては「もとの記憶手段(4)に記憶された演奏データと、ハードディスク(5)に順次追加されて記憶された演奏データとを記憶する記憶手段(4)に差し換えると共に、プログラムメモリ(3)を収納したまま、ハードディスク(5)から、記憶手段(4)に記憶された演奏データを消去する」のに対して、刊行物1の発明においては、RAMに記憶された演奏データのなかで、リクエスト回数が少なく且つ登録日の古い演奏データを削除することは記載されているが、RAMに記憶された演奏データと古いROMに記憶された演奏データとを併せて新しいROMを作成し、古いROMを新しいROMに差し換えると共に、動作プログラムを収納したままRAMに記憶された演奏データを消去することは記載されていない点

4 相違点についての検討
(1) 上記相違点(1)についての検討
カラオケシステムにおいてCD-ROMが利用されていたこと(刊行物4を参照)からみて、刊行物1の発明における「ROM」を「CD-ROM」とすることは、当業者であれば、適宜なし得ることである。
また、刊行物1の発明において、過去に発表されたカラオケ曲が収納されている過去に作成された「ROM(CD-ROM)」を、現在までの新曲が含まれて新しく作成された「ROM(CD-ROM)」に取り換える、すなわち、差し換えることは、カラオケシステムを運用するに当たって、最新のカラオケデータを提供する必要があることからみて、普通に採用されることである。
したがって、「記憶手段」を「CD-ROM」とし「差し換え可能である」とすることは、当業者であれば、適宜なし得ることである。

(2) 上記相違点(2)についての検討
従来のカラオケシステムにおいて、演奏データをRAMやハードディスクに収容することが知られているから(刊行物5を参照)、刊行物1の発明におけるRAMをハードディスクとすることは、当業者であれば、適宜なし得ることである。
また、上記相違点(1)で検討したように、従来のカラオケシステムはCD-ROMを備えていたが、このCD-ROMだけでは新曲の発表に対しての対応が困難であったので、これを改善するために、刊行物1の発明は、新曲の発表に対応するために、RAM(ハードディスク)を利用するもので、このRAM(ハードディスク)には、新曲が順次蓄積されたホストコンピュータから公衆回線を介して新曲のカラオケデータがダウンロードされるから、新曲の発表に対応して順次新曲のカラオケデータをダウンロードして、このRAM(ハードディスク)に順次追加して記憶させることは、当業者であれば、適宜なし得ることである。
なお、刊行物1には、リクエストによって新曲がホストコンピュータからRAM(ハードディスク)にダウンロードされると記載され、このRAM(ハードディスク)には、リクエストされた新曲のみが記憶され、リクエストされない新曲は記憶されないが、ホストコンピュータには新曲が順次蓄積され、また、刊行物2,3に記載されているように、新しいデータは月毎又は週毎に追加されるから、新曲をリクエストによって1曲毎ダウンロードすることに代えて、現在までホストコンピュータに順次蓄積された新曲を一括してダウンロードすること、すなわち、周期的(月毎)に新曲を一括してダウンロードすることは、刊行物1、特に刊行物1の(2)の記載に接したカラオケシステムの当業者であれば、適宜なし得ることである。
さらに、刊行物1には、カラオケシステムを動作させる動作プログラムについては明記されていないが、刊行物1に記載のCPUは、第2図に示されているフローチャートを実行するから、何らかの記憶手段に記憶されている動作プログラムによって動作させられているものであり、また、ハードディスクにプログラムを格納することは、例えば、刊行物6に記載されてるから、カラオケシステムのRAMをハードディスクとするに当たって、このハードディスクにプログラムを格納することは、当業者であれば、適宜なし得ることである。
なお、従来のカラオケシステムにおいては、カラオケ(演奏)データを蓄積するものをデータベースと称している。したがって、刊行物6に記載のデータベースプログラムは、システム全体を動作させるプログラムの一部ではあるが、データベースを検索するに当たって、CPUを動作させるプログラムであることには変わりがない。また、ハードディスクの一般的な機能をみると、ハードディスクにはプログラムとデータとが記憶されていることは、ごく普通のことである。
以上のとおり、「記憶媒体」を「ハードディスク」とし「順次追加される演奏データを記憶」し「制御手段(2)の動作プログラムを記憶するプログラムメモリ(3)を収納」させることは、当業者であれば、適宜なし得ることである。
なお、RAM(ハードディスク)への記憶をROM(CD-ROM)が差し換えられるまでとすることは、以下相違点(4)で検討する。

(3) 上記相違点(3)についての検討
刊行物1の発明におけるCPUは、カラオケデータを、少なくともROM、又は、RAMから読み出すが、ROM、又は、RAMから読み出せない場合に、具体的には、ホストコンピュータからカラオケデータをダウンロードして読み出すものである。一方、本件訂正発明において、CD-ROM、又は、ハードディスクから演奏データが読み出せない場合に、具体的には、ホストコンピュータからカラオケデータをダウンロードして読み出すようなことはしていないが、刊行物1に記載のようにホストコンピュータからカラオケデータを読み出してカラオケデータを全て網羅するか、本件訂正発明の具体例のように、最新の一定期間(1ヶ月)を除いて、カラオケデータをほぼ網羅するかは、カラオケ(演奏)データの網羅を完全とするかしないかの選択事項であって、カラオケシステムを運用するに当たって、カラオケシステムの当業者であれば、適宜選択できることである。
なお、刊行物1のRAMには、具体的には、ホストコンピュータへのリクエストがあって、カラオケデータがRAMに記憶されるが、リクエストされたカラオケデータがRAMの容量限度に記憶された場合には、RAMが容量限度であるためリクエストしてもカラオケデータがRAMに記憶できないから、ホストコンピュータへのリクエストをしないようにすることは、カラオケシステムを運用するに当たって、カラオケシステムの当業者であれば、適宜なし得ることである。

(4) 上記相違点(4)についての検討
従来のカラオケシステムは、予めカラオケ曲を収録した市販の録音テープやビデオディスク等をテープデッキやビデオプレーヤ等で再生していた。(刊行物1の(1)を参照)そこで、過去に発表されたカラオケデータを従来のようにROMに蓄積し、このROMに記憶された以外のカラオケデータをホストコンピュータから公衆回線を介してダウンロードしてRAMに記憶させている。(刊行物1の(2)を参照)
一方、刊行物2には、新しい媒体による目録検索に係るものではあるが、タイムリーなデータの更新-ハードディスクの併用について、ハードディスクに順次追加されたデータとCD-ROM盤のデータをマージして、新しいCD-ROM盤を作成して、差し換えること、検索においては、利用者は新しいCD-ROM上のファイルとハードディスク上のファイルの両方のファイルを検索対象とすることが記載されている。(刊行物2を参照)
また、刊行物3には、書店の情報システムに係るものではあるが、CD-ROM上のデータとハードディスク上の順次追加されたデータを検索すること、CD-ROMで更新されたデータはハードディスク上のデータから削除することが記載されている。(刊行物3を参照)
以上、従来技術を総合すると、ROM(CD-ROM)とRAM(ハードディスク)を取り扱う従来のカラオケシステムの当業者であれば、刊行物1の発明において、ROM(CD-ROM)に蓄積されたカラオケデータとRAM(ハードディスク)に記憶されたカラオケデータとを、刊行物2に記載されているようにマージすることによって、過去に作成されたROM(CD-ROM)を新たに作成されたROM(CD-ROM)に差し換えることは、当業者であれば、必要に応じて、適宜なし得ることである。
そして、RAM(ハードディスク)に記憶されているマージされたカラオケデータ(ROM(CD-ROM)に移動されたカラオケデータ)を削除することは、一般的に、データの重複記憶を避けるために、当然のことである。なお、データの重複記憶を完全に避けてはいないが、更新(追加)されたデータ(移動されたデータ)はハードディスクから結果的に削除されることは、刊行物3に記載されている。また、RAM(ハードディスク)に記憶されているマージ(移動)されないもの(プログラム)については、消去(移動)されないことは自明なことである。
したがって、「運用方法」を「もとの記憶手段(4)に記憶された演奏データと、ハードディスク(5)に順次追加されて記憶された演奏データとを記憶する新たな記憶手段(4)に差し換えると共に、プログラムメモリ(3)を収納したまま、ハードディスク(5)から、新たな記憶手段(4)に記憶された演奏データを消去する」とすることは、当業者であれば、適宜なし得ることである。
また、上記検討したように、RAM(ハードディスク)に順次追加記憶された演奏データは、ROM(CD-ROM)が差し換えられると消去されるから、RAM(ハードディスク)への演奏データの順次追加記憶はROM(CD-ROM)が差し換えられるまでとなるのは明らかである。したがって、上記相違点(2)に関しての「RAM(ハードディスク)」に「演奏データが、順次追加されて記憶手段(4)が差し換えられるまで記憶」させることも、当業者であれば、適宜なし得ることである。

第5 意見書における請求人の主張についての検討
請求人は、訂正拒絶理由に対して、次に掲げる1ないし4の点を挙げて、本件訂正は認められるべきであると主張しているので、これらについて検討する。
1 刊行物1ないし6を組み合わせることの困難性について
(1) 請求人は、刊行物1,4,5は、カラオケ装置に関する発明であるが、刊行物2,3は、図書検索システムに関する発明であり、刊行物6は、文書作成装置に関する発明であり、本発明の属する技術分野以外の発明を3つも加える必要があるという事実そのものが、本来、本発明の進歩性を証明するものであると、認識するのが正当な考え方である旨の主張をしている。
(2) また、刊行物1に記載されたカラオケ装置は、ホストコンピュータをもデータベースとするオンデマンドタイプの通信カラオケ装置であり、カラオケ装置の開発の歴史を考慮すると、本件特許発明が非オンデマンドタイプの通信カラオケ装置であるのと、大きく相違している旨の主張をしているので、これらについて検討する。

上記(1)について検討する。
本件訂正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記第4で検討した。
刊行物1には、上記第3の1の(2)で指摘したように、次に掲げるカラオケ装置が記載されている。
「カラオケ曲をカラオケデータとして蓄積したROMと、CPUに公衆回線を介して接続され、上記ROMに記憶された以外のカラオケデータをデータベース化したホストコンピュータと、このコンピュータのカラオケデータをダウンロードするRAMと、上記CPUに制御されて上記ROM及びRAMを検索するメモリ検索装置と、任意の検索条件をCPUに入力する入力装置と、上記CPUで処理された歌詞情報を文字表示するディスプレイと、上記CPUで処理された楽曲情報を再生するシーケンサ、電子楽器、アンプ及びスピーカからなる再生装置とによって構成したカラオケ装置」
このカラオケ装置に接した当業者であれば、ROMは広辞苑によるとRead Only Memoryの頭文字をとった略称で、読み取り専用メモリであるから、ROMをCD-ROMとし、また、RAMは広辞苑によるとRandom Access Memoryの頭文字をとった略称で、読み取りと書込ができるメモリであるから、RAMをハードディスクとし、新曲をホストコンピュータからハードディスクへダウンロードすること、すなわち、古い曲をCD-ROMに蓄積し、新曲をハードディスクに蓄積することは、直ちに想起されることである。
そして、ハードディスクには新曲が次々に蓄積され、いずれは一杯となることも自明であるから、このハードディスクに記憶された新曲を記憶容量の大きいCD-ROMに移し換えること、すなわち、古い曲と新曲とをマージすることは、ROM、RAM及びCPUを動作させるプログラムを使用するコンピュータ技術を必要とするカラオケ装置の当業者であれば、容易に想起されることである。
その際に、移し換えられた新曲をハードディスクから消去することは当然で、一般にハードディスクに記憶されているプログラムまでも消去しないことも自明な事項である。
以上のとおり、カラオケ装置の当業者においては、コンピュータ技術を必要とするから、データ(曲)をマージするコンピュータ技術をカラオケ装置に適用することは、適宜なし得るところ、この技術については、刊行物2,3に記載され、また、一般にハードディスクにはデータと共にプログラムが記憶されていることは、コンピュータ技術において自明であるところ、これについては、刊行物6に記載されている。
したがって、刊行物1に記載のカラオケ装置に接したカラオケ装置の当業者であれば、コンピュータ技術を適用して、本件訂正発明をすることができたといえるから、刊行物2,3,6の技術分野がカラオケ装置の分野でないから、適用することに困難性があり、進歩性を認めるべきである旨の請求人の主張は、採用できない。

上記(2)について検討する。
カラオケ装置には種々のタイプがあるところ、以下に示す第1ないし3のタイプが知られている。
第1のタイプ:刊行物1に記載された、上記第3の1の(1)で指摘した従来のカラオケ装置であって、録音テープやビデオディスクにカラオケデータを蓄積させ、録音テープやビデオディスクをデータベースとした蓄積型カラオケ装置
第2のタイプ:通信カラオケが登場し、ホストコンピュータをデータベースとするから、録音テープやビデオディスクを備えないオンデマンド(ユーザのリクエストのみ)による非蓄積型通信カラオケ装置
第3のタイプ:刊行物1に記載された、上記第3の1の(2)で指摘したROMとしてのCD-ROMとRAMとしてのハードディスクとをデータベースとした蓄積型通信カラオケ装置(なお、RAMとしてのハードディスクには新曲が通信でダウンロードされる。)

刊行物1の発明は、第3のタイプの蓄積型通信カラオケ装置といえるものであって、新曲のダウンロードが、この発明の一実施例では、ユーザのリクエストによるものであり、本件訂正発明においては、その発明の一実施例では、月毎である点で異なるが、両発明において、新曲のダウンロードが、通信で配信されることには変わりがない。
したがって、刊行物1の発明の一実施例がオンデマンドタイプであり、本件訂正発明の発明の一実施例が非オンデマンドタイプであるとしても、刊行物1の発明と本件訂正発明とは、新曲がホストコンピュータから通信でダウンロードされることに変わりはなく、両発明は蓄積型通信カラオケ装置に係るものとして共通しているから、これに反する請求人の主張は採用できない。

2 本件訂正発明と刊行物1ないし6の発明との相違について
(1) 本件訂正発明は、カラオケ装置の運用方法であって、その技術的特徴は、演奏データを消去する点にあり、プログラムメモリ以外の全てのハードディスク記憶領域を確保できるという特有、かつ顕著な効果を奏する旨の主張をしている。
(2) また、この消去する点については、刊行物1ないし6には記載されていない旨の主張をしているので、これらについて検討する。

上記(1)について検討する。
演奏データを消去する点については、上記1の(1)で検討したように、コンピュータ技術を必要とするカラオケ装置の当業者であれば、カラオケ装置を運用するに当たって、カラオケ装置を動作させるプログラムをハードディスクに残し、演奏データをマージし、マージされた演奏データを消去することは、適宜なし得ることである。
したがって、消去する点に特有、かつ顕著な効果は認められない。
なお、ハードディスクの記憶領域をプログラム領域とデータベース領域として確保することについては、刊行物6に記載されている。

上記(2)について検討する。
本件訂正発明のようにマージされた演奏データを消去する点については、刊行物1ないし6には明記されていないが、上記第4の4の(4)で相違点(4)について検討したように、コンピュータ技術を必要とするカラオケ装置の当業者であれば、適宜なし得ることである。
したがって、本件訂正発明のようにマージされた演奏データを消去する点が、刊行物1ないし6には記載されていないからといって、この点に困難性があるとはいえない。

3 訂正拒絶理由での相違点(1)ないし(4)の判断の誤りについて
(1) 刊行物1のRAM2は、ユーザーのリクエストに応じて記憶内容は常に変動するもので、データベースを構成することはできない。また、刊行物6は、そのデータベース用のプログラムは、演奏データの再生をも実行する本件訂正発明の「動作プログラム」とは相違し、データ消去時にも保持されるものでない旨の主張をしている。
(2) また、刊行物1に記載されたデータベースは、ホストコンピュータとROM1とから構成され、新曲はホストコンピュータに追加されることから、ROM1を新曲の追加のために差し換える必要はない旨の主張をしている。
(3) さらに、刊行物1のRAM2の構成・機能を誤って認定したことを前提に、刊行物2及び刊行物3を組み合わせており、しかも刊行物3に記載されたデータベースの構成及びデータ削除は、本件訂正発明と根本的に相違している旨の主張をしているので、これらについて検討する。

上記(1)について検討する。
データベースに関しては、上記1の(2)について検討したように、刊行物1の発明は、第3のタイプのカラオケ装置に係るものであって、このタイプのカラオケ装置において、データベースはCD-ROMとハードディスクとから構成されていることは明らかである。
なお、新曲の配信については、種々の配信の仕方が考えられるところ、刊行物1の発明の一実施例ではユーザのリクエストによるが、他に、カラオケ装置のリクエスト、又は、ホストコンピュータの指示などが考えられる。
したがって、刊行物1のRAMはデータベースを構成するものであるから、これに反する請求人の主張は採用できない。
また、刊行物6は、ハードディスクをデータベースとして使用し、そのハードディスクにプログラムとデータとを記憶させることについて引用したものであって、演奏データの再生を実行し、そのデータ消去をも行うもので引用したものではないから、請求人の主張は、当を得ていない。

上記(2)について検討する。
データベースに関しては、上記検討したように、刊行物1の発明においては、ROMとRAMとから構成され、ホストコンピュータには新曲が順次蓄積されるから、この順次蓄積された新曲を、順次RAMに追加するのか、まとめて追加するのかは、運用方法として二者択一である。
したがって、RAMが一杯となったときにROMに移し換えること、すなわち、ROMを差し換えることは、適宜なし得ることであるから、請求人の主張は採用できない。

上記(3)について検討する。
請求人は、刊行物1の発明におけるRAMはデータベースではないとの根拠に基づいて、刊行物2及び刊行物3を組み合わせることができないと主張しているが、刊行物1の発明におけるRAMはデータベースといえるから、本件訂正発明と根本的に相違していない。

4 また、請求人は、上記3について、さらに詳細に、次に掲げる(1)ないし(5)の点を挙げて、本件訂正は認められるべきであると主張しているので、これらについて検討する。
(1) 相違点(1)ないし(4)の判断の誤りについて
本件訂正発明の本来の技術的特徴について、正確に進歩性が判断されていない。本件訂正発明のように通信で演奏データの配信を受けるハードディスクをCD-ROMと共にデータベースとして使用する構成は、少なくともカラオケ分野では公知ではなく、新規な構成である。本件訂正発明は、配信により逐次更新されるデータベースの演奏データを再生する動作プログラムを迅速にバージョンアップすることができるようにした旨の主張ををしているので、これについて検討する。

刊行物1には、上記第3の1の(2)で指摘したように、要するに、次に掲げるカラオケ装置が記載されているといえる。
「ROMと、ホストコンピュータと、RAMと、CPUに制御されてROM及びRAMを検索するメモリ検索装置と、入力装置と、ディスプレイと、再生装置とによって構成したカラオケ装置」
このカラオケ装置はCPUによってROM及びカラオケデータの配信を受けるRAMが検索されるから、このROM及びRAMはカラオケ装置のデータベースといえる。
したがって、通信で演奏データの配信を受けるハードディスクをCD-ROMと共にデータベースとして使用する構成は、新規な構成であるとしても、刊行物1の発明におけるROM及びRAMをCD-ROM及びハードディスクとすることは、設計的な事項といえるから、刊行物1の発明と本件訂正発明とはその技術的特徴が共通している。
なお、動作プログラムを迅速にバージョンアップすることについては、本件特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載に基づかない主張である。

(2) 相違点(1)の判断の誤りについて
刊行物1の「ROM」は、新曲が逐次追加される「ホストコンピュータ」と共にデータベースを構成するものであり、新曲の追加などでデータベースを更新するために刊行物1の「ROM」を差し換える必要は全くない。その根拠として、刊行物4の「CD-ROM」も、新曲は「ホスト・コンピュータ」のデータベースに追加して記録されることから、刊行物1の「ROM」と同様に、差し換える必要は全くない旨の主張ををしているので、これについて検討する。

刊行物4には、CD-ROMをデータベースとした蓄積型通信カラオケ装置が記載され、また、全ての曲(新曲やリクエストの少ない曲)を網羅するために、補助的なデータベースとして、ホストコンピュータを利用することが記載されている。
刊行物1の発明も、ROM及びRAMをデータベースとし、補助的なデータベースとして、ホストコンピュータを利用するものであるから、RAMが一杯になったときのカラオケ装置のデータベースの運用として、ROMを差し換える必要がある。
なお、本件訂正発明においても、CD-ROM及びハードディスクをデータベースとし、補助的なデータベースとして、ホストコンピュータを利用するものであるから、ホストコンピュータを補助的なデータベースとして利用する点において、刊行物1の発明と共通している。

(3) 相違点(2)の判断の誤りについて
ア 刊行物5の「ハードディスク」はデータベースと言えるものではなく、むしろ一時記憶用のバッファである。また、刊行物1の「RAM」は、ユーザーがホストコンピュータにリクエストした曲を一時的に記憶するものであり、その内容はリクエスト次第で変動することから、到底データベースを構成できるものではない。したがって、データベースを更新する点で全く異なるものである旨の主張をしているので、これについて検討する。

刊行物5は、カラオケ装置において、ハードディスクが用いられていることを引用したものであって、データベースとして引用したものではない。また、刊行物1のROM及びRAMがデータベースを構成することは、これまで検討してきた。したがって、一般にデータベースは更新されるものであるから、刊行物1のデータベースを更新することは、当然のことであるから、データベースを更新する点に関して、刊行物1の発明と本件訂正発明との差異はない。

イ 刊行物6の「データベースプログラム」が何を実行するものかは明確でないが、少なくとも「データベースからのデータを再生させる動作」については、刊行物6には記載も示唆もされていない。また、本件訂正発明の「動作プログラム」は、バージョンアップという通信カラオケ装置特有の事情に対応する旨の主張ををしているので、これについて検討する。

刊行物6は、ハードディスクをデータベースとして使用し、そのハードディスクにプログラムとデータとを記憶させることについて引用したものであって、このプログラムによって、データを検索し、表示させることは自明なことであるから、このデータが仮に演奏データであった場合には、この演奏データが再生されることは、ごく自然なことである。
なお、動作プログラムをバージョンアップすることについては、本件特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載に基づかない主張である。

(4) 相違点(3)の判断の誤りについて
「ROM」の交換自体が不要な刊行物1を引用することは、誤っている旨の主張をしているので、これについて検討する。

ROMは前にも検討したように、広辞苑によるとRead Only Memoryの頭文字をとった略称で、読み取り専用メモリであるから、このROMにはCD-ROMが含まれ、一般にCD-ROMは交換可能であり、また、刊行物1の発明は、ROM及びRAMをデータベースとするものであって、一般にデータベースは更新されるものであるから、データベースの更新に当たって、刊行物1のROMを交換することは自明な事項といえる。
したがって、刊行物1を引用することは、誤っているとの請求人の主張は、刊行物1を十分に検討しない主張であって、採用できない。

(5) 相違点(4)の判断の誤りについて
ア 刊行物1のカラオケシステム全体としては、ユーザーがリクエストできる演奏データのデータベースの内容には何ら影響がないので、新曲を追加するためにROM1を差し換える必要は全くない。また、刊行物1のRAM2は、ユーザーがホストコンピュータにリクエストした曲を記憶することから、その内容はユーザーのリクエスト毎に変動し、記憶する30曲の内容はユーザーのリクエスト内容に応じてカラオケ端末毎に異なる。上記のとおり、刊行物1の発明は、ROM1の差し換えの必要性がないこと、RAM2の記憶内容のマージではデータベースが確保できないことから、刊行物2に記載されたCD-ROMの差し換え技術は刊行物1に適用することができない旨の主張をしているので、これについて検討する。

請求人は、刊行物1には、「ユーザがリクエストするカラオケシステム」が記載されていることを前提とした主張であって、刊行物1の発明は、これまでも検討してきたように、要するに、「ROMと、ホストコンピュータと、RAMと、CPUに制御されてROM及びRAMを検索するメモリ検索装置と、入力装置と、ディスプレイと、再生装置とによって構成したカラオケ装置」であるから、このカラオケ装置を運用するに当たって、請求人が主張するように、これから発表される新曲全てをユーザのリクエストによってのみホストコンピュータからダウンロードすると決めると、RAMの内容がカラオケ端末毎に異なるが、この場合でもダウンロードされるRAMが一杯になったときには、ROMの差し換えが必要である。
しかし、他の運用として、ホストコンピュータには新曲が記憶されているから、この新曲のダウンロードを、新曲の発表の都度1曲づつ、又は、月毎に定期的に一括して行うと決めると、RAMの内容がカラオケ端末毎で共通となるが、ダウンロードされるRAMが一杯になったときには、刊行物2に記載されたCD-ROMの差し換え技術を考慮して、刊行物1の発明に適用することは、さほど困難とは認められない。
したがって、刊行物2に記載されたCD-ROMの差し換え技術は刊行物1に適用することができないとの請求人の主張は、採用できない。

イ 刊行物3は、2つの別個のデ一タベースを更新する技術を開示するのみで、1つのデータベースの更新を確実に行うために「差し換えと共に、消去する」という本件訂正発明の運用方法については全く記載も示唆もしていない旨の主張ををしているので、これについて検討する。

刊行物3のハードディスクには新刊データが蓄積され、新刊データ以外の書籍データはCD-ROMに蓄積されているから、請求人は、2つの別個のデ一タベースとしているが、新刊データと書籍データとは出版物データとして共通するもので、これは1つの出版物データベースである。
本件訂正発明においても、ハードディスクには新曲データが蓄積され、新曲データ以外の古い曲のデータはCD-ROMに蓄積されているから、2つの別個のデ一タベースといえるし、新曲データと古い曲のデータとはカラオケデータとして共通するもので、これは1つのカラオケデータベースともいえる。
したがって、請求人が主張するように、刊行物3は、2つの別個のデ一タベースであるとの主張には、理由がない。

ウ 刊行物1、刊行物3、刊行物6、いずれの刊行物の記載技術も、データまたはプログラムの削除はデータのマージと関係して行われておらず、特に刊行物3においては、マージされないものでも、8週間を超える旧いデータは削除される旨の主張をしているので、これについて検討する。

刊行物1は必要性の少ないデータの削除、刊行物3は重複するデータの削除、刊行物6はハードディスクをデータベースとして利用しない場合に、そのデータとプログラムの削除が記載されているのであって、マージとの関係で引用したものではない。また、刊行物3は重複するデータを削除することを引用したものである。
したがって、請求人が主張するように、刊行物1、刊行物3、刊行物6には、マージすることについては記載されていないが、刊行物1の発明に基づいて、マージすることは、コンピュータ技術を必要とするカラオケ分野の当業者であれば、コンピュータ技術であるマージを刊行物1の発明に適用することは、刊行物2にも記載されているように困難性がない。

第6 むすび
以上、本件訂正発明は、刊行物1の発明に基いて、刊行物2ないし6に記載された事項を適用することによって、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件訂正発明は、特許法第126条第4項で規定する、特許出願の際独立して特許を受けることができるもの、という規定に違反するので、本件訂正は認められない。
 
審理終結日 2002-11-29 
結審通知日 2002-12-04 
審決日 2002-12-20 
出願番号 特願平3-158247
審決分類 P 1 41・ 121- Z (G10K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南 義明  
特許庁審判長 杉山 務
特許庁審判官 谷川 洋
小林 秀美
小松 正
藤内 光武
登録日 1999-07-16 
登録番号 特許第2953115号(P2953115)
発明の名称 電子音楽再生装置の運用方法  
代理人 大塚 文昭  
代理人 相良 由里子  
代理人 中村 稔  
代理人 岡戸 昭佳  
代理人 佐尾 重久  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 長澤 俊一郎  
代理人 富澤 孝  
代理人 山中 郁生  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 宍戸 嘉一  

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