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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B43K
管理番号 1072611
審判番号 不服2000-16588  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-05-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-10-18 
確定日 2003-02-14 
事件の表示 平成 4年特許願第283096号「筆記具」拒絶査定に対する審判事件[平成 6年 5月10日出願公開、特開平 6-127187]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成4年10月21日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成12年11月1日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】筆記時に掴む本体部内にインクを直接充填するとともに毛細管現象により筆記チップに透湿せしめたインクを筆記用紙面に転写する様にした筆記具に於いて、前記本体部は、インクを充填するインナーパイプの外側に略全長に亘りアウターパイプを設けて、このアウターパイプとインナーパイプとの間に熱遮断空間を確保形成すると共に、アウターパイプの筆記チップ側先端部における周方向数箇所には熱遮断空間に連通する外部流通孔を設けたことを特徴とする筆記具。」(以下、「本願発明」という。)
2.引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特公昭37-10223号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されている。
イ「本発明はインキの補給操作を簡便にし使用に際し随時インキの排出を容易にしたスポイド吸引式の万年筆に係るもの」(第1頁左欄第7〜9行)、
ロ「図面に於て1は先端にペンを取着けた軸筒でその後端に通孔2を設けて軸筒1内を外気と連通させ、軸筒1内にインキ溜筒3を設けて」(第1頁左欄第19〜21行)、
ハ「インキの補給に際してはクリップ7を透溝6に沿って...インキ溜筒3内にインキを吸入する。」(第1頁右欄第9〜15行)、
ニ「更に軸筒の後端に通孔を穿設して軸筒内を外部に連通させたので使用時に於ける軸筒の把持或は携帯時に於て体温等により軸筒内の空気が膨張するとこれが該通孔から逸出するため...使用時に於て過剰のインキが滲出し...を防止した等の効果を有する。」(第1頁右欄第22〜27行)。
これらの記載及び図面第1、2図によれば、引用刊行物には、以下の発明が記載されているものと認められる。
「筆記時に掴む軸筒1内にインキ溜筒3を設ける、先端にペンを取着けた万年筆に於て、インクを吸入するインキ溜筒3の外側に略全長に亘り軸筒1を設けて、この軸筒1とインキ溜筒3との間に空間を確保形成すると共に、軸筒1の後端に外部に連通する通孔を穿設した万年筆。」(以下、「引用刊行物記載の発明」という。)
3.対比
本願発明と引用刊行物記載の発明とを対比すると、
引用刊行物記載の発明における「万年筆」は、インクを筆記用紙面に転写する筆記具であるから、本願発明における「インクを筆記用紙面に転写する筆記具」に、
引用刊行物記載の発明における「軸筒1」は筆記時に掴む本体である点で本願発明における本体部2に、インクを充填するインナーパイプの外側に略全長に亘り設けられた点でアウターパイプ2bに、
引用刊行物記載の発明における「インキ溜筒3」はインクを直接充填するものである点で、本願発明における「インナーパイプ2a」に、
引用刊行物記載の発明における「軸筒1とインキ溜筒3との間の空間」は、インキに直接体温等が伝わらず、熱遮断空間として機能することが明らかであるから、本願発明における「アウターパイプとインナーパイプとの間に形成された熱遮断空間」に、
引用刊行物記載の発明における「通孔2」は軸筒1とインキ溜筒3との間の空間の空気と外部の空気とを流通させる通気孔として機能する点で、本願発明における「外部流通孔」にそれぞれ、相当する。
また、本願発明において、本体部2に設けられたインナーパイプに充填されたインクを、本体部内にインクを直接充填すると云っているが、引用刊行物の前記摘記の記載イ、ハによると、引用刊行物記載の発明の軸筒1内に設けられたインキ溜筒3(前記摘記事項イ、ハ参照)に充填されたインクも本体部内に直接充填するといえる。
そうすると、本願発明と引用刊行物記載の発明とは、以下の点で一致ならびに相違する。
一致点:「筆記時に掴む本体部内にインクを直接充填するとともにインクを筆記用紙面に転写する様にした筆記具に於いて、前記本体部は、インクを充填するインナーパイプの外側に略全長に亘りアウターパイプを設けて、このアウターパイプとインナーパイプとの間に熱遮断空間を確保形成すると共に、アウターパイプには熱遮断空間に連通する外部流通孔を設けた筆記具。」
相違点(1):本願発明が毛細管現象により筆記チップに透湿せしめたインクを筆記用紙面に転写する様にしたのに対し、引用刊行物記載の発明はインキを滲出させて筆写するとしか記載されていない点。
相違点(2):本願発明における外部流通孔がアウターパイプの筆記チップ側先端部における周方向数箇所に設けられているのに対し引用刊行物記載の発明では通孔2が軸筒1の後端に設けられている点。
4.当審の判断
上記相違点(1)、(2)について検討する。
・相違点(1)について
本体部内にインクを直接充填した筆記具において、毛細管現象により筆記チップに透湿せしめたインクを筆記用紙面に転写する様にしたものは、従来から周知である(実開平4-83682号公報、特開平4-85094号公報、実開平2-3884号公報)から、引用刊行物記載の発明において、筆記部分を上記周知の毛細管現象により筆記チップに透湿せしめたインクを筆記用紙面に転写する様にしたものにすることは、当業者が容易に考え付くことである。そして、筆記部分を上記構成にしたことにより格別な作用効果が生じたとは認められない。
したがって、上記相違点(1)に係る本願発明の構成は、上記周知のものに基いて当業者が容易に想到し得るものである。
・相違点(2)について
本体部内にインクを直接充填した筆記具において、外部流通孔を筆記チップ側先端部における周方向に設けることも、従来から周知である(実願昭63-43442号(実開平1-146993号)のマイクロフィルムの空間3に連通している空気孔10参照、実願昭60-49133号(実開昭61-164785号)のマイクロフィルム第1図空気孔(2)参照)から、引用刊行物記載の発明において、本願発明のアウターパイプに相当する軸筒1の後端に設けられている外部流通孔をその筆記チップ側先端部における周方向設けることは当業者が容易になし得ることであり、流通孔を幾つ設けるかは適宜選択すべき事項にすぎない。そしてそのように構成したことによる効果も当業者が事前に予測可能の範囲内のものである。したがって、上記相違点(2)に係る本願発明の構成は、上記周知技術に基いて当業者が容易に想到し得るものである。
なお、請求人は「本願における熱遮断空間が本体部の略全長にわたり設けられているのに対し引用例におけるインキ溜筒3及び蛇腹式伸縮嚢4周りの空間が第2図に示されるように軸筒1の後部側に設けられている点で相違する」と主張しているが、本願発明における熱遮断空間も引用刊行物記載の発明の空間もインク貯留部(インナーパイプ、インキ溜筒)を全て覆って、直接外気に触れないようになっており、両者に何ら差異が認められず、この点の主張は採用できない。また、熱遮断空間の長さや外部流通孔の設置箇所及び設置数による陳列ケースに立てられた状態、把持する使用者の指先の位置等に対する明細書に何ら記載されていない作用効果を主張しているが、認められない。
5.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、上記刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-11-21 
結審通知日 2002-11-26 
審決日 2002-12-11 
出願番号 特願平4-283096
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B43K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三輪 学  
特許庁審判長 中村 和夫
特許庁審判官 白樫 泰子
藤井 靖子
発明の名称 筆記具  
代理人 長南 満輝男  
代理人 細井 貞行  
代理人 石渡 英房  

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