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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C23C
管理番号 1073336
異議申立番号 異議2001-72728  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-11-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-10-03 
確定日 2003-02-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第3153097号「潤滑性、化成処理性、接着剤適合性、溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3153097号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3153097号の請求項1に係る発明についての出願は、平成7年4月28日に特許出願され、平成13年1月26日に特許の設定登録がなされ、その後、川崎製鉄株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成14年12月16日に意見書が提出されたものである。

II.特許異議申立について
1.特許異議申立理由の概要
特許異議申立人川崎製鉄株式会社は、証拠として下記甲第1号証〜甲第4号証を提出して、請求項1に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、又本件特許明細書には記載不備があって、請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1に係る発明の特許を取り消すべき旨主張している。

甲第1号証:特開平3-249182号公報(以下、「刊行物1」という)
甲第2号証:特開平4-21751号公報(以下、「刊行物2」という)
甲第3号証:特開平3-20477号公報(以下、「刊行物3」という)
甲第4号証:X線分析の進歩26、X線工業分析第30集、日本分析化学会・X線分析研究懇談会編、1995年3月31日、株式会社アグネ技術センター発行、第159〜168頁(以下、「刊行物4」という)

2.本件発明
本件特許第3153097号の請求項1に係る発明は、明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 めっき層表面にZnO系酸化物を生成し、その上層に部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物を、Mn量として0.1〜100mg/m2及びP量として1〜100mg/m2生成せしめたことを特徴とする潤滑性、化成処理性、接着剤適合性、溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板。」

3.刊行物1〜4の記載事項
(1)刊行物1:特開平3-249182号公報
(1a)「【請求項1】亜鉛系めっき鋼板表面にMn酸化物を5〜500mg/m2(Mnとして)、リン酸1000mg/m2以下(Pとして)及びその他酸化物からなるMn系酸化物皮膜を被覆したプレス成形性、化成処理性に優れた亜鉛系めっき鋼板。」(請求項1)
(1b)〔従来の技術〕欄には、「亜鉛めっき鋼板のプレス性を向上させる方法として、・・・めっき鋼板表面に電解クロメート処理を施しCr2O3の酸化物皮膜を生成せしめる方法や、・・・鉄亜鉛合金めっきを施す方法等の亜鉛系めっき鋼板上に硬い皮膜を形成し、・・・プレスの潤滑性の向上をはかることが開示されている。又・・・めっき鋼板の表面に有機潤滑皮膜や潤滑油等の有機物を塗布、または被覆しプレス性を向上させることが開示されている。」(第1頁左下欄第15〜右下欄8行)、
〔発明が解決しようとする課題〕欄には、「電解クロメート処理鋼板の場合は、化成処理工程で化成処理皮膜が形成せず、また潤滑油や潤滑皮膜などを塗布した鋼板の場合は、洗浄工程で油が落ちるので十分な潤滑性能を発揮しない。・・・鉄-亜鉛合金フラッシュめっきを施したものは電解クロメート処理に比較して鋼板のコストが高くなる等の問題点がある。
本発明はかかる現状に鑑みて、低コストで、化成処理が可能で、脱脂等の工程に負荷をかけずに製造し得るプレス成形性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供することを目的とする。」(第1頁右下欄第9〜第2頁左上欄8行)
(1c)「Mn系酸化物皮膜の構造は明確ではないが、Mn-O結合及びP-O結合からなるネットワ一クが主体で、部分的に-OH、CO3基等が、さらにはめっきから供給される金属が置換したアモルファス状の巨大分子構造であろうと推定している。」(第2頁右下欄第19〜第3頁左上欄3行)
(1d)実施例の酸化物皮膜生成条件として、「過マンガン酸カリウム:50g/l、リン酸:10g/l、硫酸3g/l、炭酸亜鉛:5g/lの溶液30℃で被処理鋼板を陰極として、Pt電極を陽極にし7A/dm2 で1.5秒電解を行った後、水洗、乾燥し、又、過マンガン酸カリウム、リン酸、硫酸、炭酸亜鉛の濃度及び溶液の温度、浸漬時間を調整して生成した。」(第3頁左下欄第5〜14行)
(1e)実施例1〜5、10〜15には、酸化物皮膜におけるMn量が7〜54mg/m2(Mn量)であり、P量が4〜70mg/m2(P量)である亜鉛系めっき鋼板(第3頁右下欄第1表)、が記載されている。

(2)刊行物2:特開平4-21751号公報
(2a)「【請求項1】めっき層中にAlを0.05〜5.0重量%含有する溶融亜鉛系めっき鋼板を製造する際に、めっき鋼板の表面を、Zn金属に対して酸化力のある酸化剤を濃度0.1〜10重量%含有しかつpHが11以上で液温が40℃以上のアルカリ溶液に接触させることを特徴とするスポット溶接性、化成性及びプレス加工時の摺動性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。」(請求項1)
(2b)実施例には溶接条件として、「加圧力:250kgf、初期加圧時間:40Hz、通電時間:12Hz、保持時間:5Hz、溶接電流:11kA、チップ先端径:5.0φ、電極材質:Cu-Cr合金、連続打点数:4√tのナゲット径を確保できる打点数、t=板厚」(第3頁右下欄第13〜第4頁左上欄2行)、連続打点性として、Zn金属の酸化物被膜を持つ本発明例が連続打点数>6000点で溶接性に優れていること(第4頁第1表)、が記載されている。

(3)刊行物3:特開平3-20477号公報
「【請求項1】鋼板の少なくとも片面に亜鉛系めっきを施した亜鉛系めっき鋼板の該めっき表面を、pHが0〜4でかつ過マンガン酸カリを0.1〜10重量%含有する水溶液に接触させることを特徴とするスポット抵抗溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法。」(請求項1)、が記載されている。

(4)刊行物4:X線分析の進歩26
(4a)「物体の表面層をX線回折法で測定する場合、・・・・層厚が薄い場合、通常に使用されているθ-2θ法では、表面層に対して入射するX線角度θが大きいので・・・、表面の基質層からの回折線、散乱線等の発生がおこる.」、「これを解決する方法として、・・・薄膜X線回折法(視斜角入射X線回折法)による表面薄層の高感度分析法が発展してきた。しかし、測定諸条件等が既に確立されているθ-2θ法とは異なり未確定な部分が多く存在し、測定諸条件等は実験的要素が極めて大きい.」(第160頁、緒言 第1〜10行)
(4b)応用例として、Al基板にTiとNをイオンコーテイングしたものを入射角αを変化させて薄膜法で測定した場合、基板材の回折線と表面層の回折線が重なって認められ、αのある角度範囲以外ではTiNの回折線は基板材の回折線に埋もれてしまうこと(第166頁図8参照)、が記載されている。

III.当審の判断
1.特許法第29条第2項違反について
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、従来の亜鉛系めっき鋼板にMn-Pの非結晶質無機系酸化物を生成すると、プレス性、化成処理性は向上するが、自動車、家電等で溶接の省略あるいは補強に使用されている接着剤の接着強度を低下させる等の課題があり、これを解決するため潤滑性、化成処理性、接着剤適合性に優れた亜鉛系めっき鋼板を提供することを目的とし、めっき層表面にZnO系酸化物を生成し、その上層に部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物を、Mn量として0.1〜100mg/m2及びP量として1〜100mg/m2生成せしめた亜鉛系めっき鋼板であることを特徴とするものである(本件明細書【0002】、【0003】参照)。
これに対して、刊行物1には、プレス成形性、化成処理性に優れた亜鉛系めっき鋼板として、めっき鋼板表面にMn酸化物を5〜500mg/m2(Mnとして)、リン酸1000mg/m2以下(Pとして)及びその他酸化物からなるMn系酸化物皮膜を被覆したこと(上記摘記事項(1a))、Mn系酸化物皮膜の構造として、明確ではないが、Mn-O結合及びP-O結合からなるネットワ一クが主体で、部分的に-OH基等が、さらにはめっきから供給される金属が置換したアモルファス状の巨大分子構造であろうこと(上記摘記事項(1c))、更に、実施例には、酸化物皮膜におけるMn量が7〜54mg/m2、P量が4〜70mg/m2であること(上記摘記事項(1e))、が記載されている。
しかしながら、本件発明が主目的とする接着剤適合性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供すると言う技術課題、及びめっき層表面にZnO系酸化物を生成し、その上層に部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物を生成せしめたことについては記載されていない。
次に、刊行物2には、スポット溶接性、化成性及びプレス加工時の摺動性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法として、めっき鋼板の表面に特定条件でのアルカリ溶液を接触させ、Zn系酸化物被膜を生成すること、刊行物3には、スポット溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法として、めっき面をpHが0〜4でかつ過マンガン酸カリを0.1〜10重量%含有する水溶液に接触させ、Zn系酸化物被膜を生成することは記載されている。しかしながら、両者とも本件発明が主目的とする接着剤適合性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供すると言う技術課題、及びめっき層表面にZnO系酸化物を生成し、その上層に部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物を、Mn量として0.1〜100mg/m2及びP量として1〜100mg/m2生成せしめることについては記載されていない。
以上のとおり、刊行物1〜3のいずれにも、本件発明の接着剤適合性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供すると言う技術課題についての記載はなく、又ZnO系酸化物表面上に、部分的に結晶化した特定の酸化物被膜を生成せしめることを何ら示唆していない以上、本件発明を当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明は、上記した構成により明細書に記載された、亜鉛系めっき鋼板の潤滑性、化成処理性を向上するとともに、接着剤適合性も向上することができ亜鉛系めっき鋼板の適用範囲を拡大することができ、また、化成処理液の汚染がなく、プレス-接着-化成処理の一連の工程において生産性向上のみならず、化成処理液の劣化もなく、しかも排水処理の低減によるコスト軽減ができ、更に溶接性をも向上することができる等優れた効果が得られるという、刊行物1〜3の記載からは予測することができない格別な効果を奏しているものである。
よって、本件発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは云えない。

2.特許法第36条違反について
特許異議申立人は、(1)本件発明での「部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明では、どのような化合物がどのような状態で部分的に結晶化しているのか全く説明されておらず、また、結晶化状態と非結晶化状態との区別がどのように定義されるのかも記載がなく、更に薄膜X線回折法での測定条件の記載がなく、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、又特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されておらず、(2)本件発明での「部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物」について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、薄膜X線回折法によると記載されているが、その測定条件についての記載がなく、刊行物4の記載を参酌すると部分的に結晶した酸化物の測定ができず、又実施例の結果を示す表1には結果の記載しかなく、本件発明の「部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物」についての技術的意義が不明であって、本件発明を当業者が容易に実施することができる程度にその発明の構成、及び効果が記載されておらず、したがって、本件発明の特許は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張する。

そこで、上記主張(1)(2)について検討する。
主張(1)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物」について、まず「Mn-Zn-OH-P系酸化物」について、段落【0011】〜【0014】に具体的に記載され、次に、段落【0015】に、「次にMn-Zn-OH-P系酸化物としては、X線回析によりMn、P系酸化物が結晶として認められる程度に存在していればよく、例えば薄膜X線回析でCuターゲットで2θ=5〜40°にピークとして認められ、ピーク位置は処理条件によって異なる、Zn、OHは酸化物生成時には存在するが分析は不可能である。通常、前記にようにして形成されるMn-Zn-OH-P系酸化物は、構造は明確ではないがアモルファス状の皮膜であると推定されている。しかしながら、接着性は必ずしも十分ではなく、その改善が好ましい。アモルファス皮膜の接着性不良の原因は、・・・接着剥離のクラックの伝播がP界面層を走るためと考えられる。本発明は、接着剤剥離時のクラックの層内伝播を抑制するため、Mn-Zn-OH-P系酸化物を部分的に結晶化し、接着性の向上を図ったものであり、・・・このMn酸化物(酸化物または水酸化物)皮膜の部分的存在は、現状の分析では困難であるが、本反応の原理により部分的に結晶することで、その存在が推定できる。」と記載され、その生成方法として段落【0016】に、「このように部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物の生成方法としては、例えば過マンガン酸カリウム約100g/l以上溶解限、硫酸1g/l以下、リン酸カリウム100g/l以上溶解限、リン酸50g/lそれぞれ高濃度の水溶液中へ浸漬、散布等の接触または電流密度20〜60A/dm2 で電解生成することができる。」と記載され、更に、実施例が比較例と共に生成方法、部分的に結晶化した無機酸化物のMn、P量、結晶化の有無、性能結果を含め具体的に記載されている。
これらの記載によれば、本件発明の「部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物」は、従来のアモルファス状の皮膜とは異なり、X線回析によりMn-Zn-OH-P系酸化物が部分的に結晶化したものとして認められるもので、その生成方法、接着剤適合性も向上することが図れるという技術的意義についても記載されている。
そして、該部分的に結晶化した酸化物が、どのような化合物がどのような状態なのか、また、部分的な結晶化した状態の定義については明確には記載されていないが、明細書の記載特にその生成方法から酸化物の成分は理解でき、又従来のアモルファス状の皮膜とは回析結果により区別されることは、当業者であるならば認識できることで、このことは、特許権者が提出した特許異議意見書の参考資料1、2(通常、当業者が行う電子線回折法、及びEDSの分析結果)によっても裏付けられている。
そうすると、本件発明の「部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物」は、従来のアモルファス状の皮膜とは明確に区別でき、特許請求の範囲に記載された「部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物」自体は明確に発明の詳細な説明に記載されたものであって、上記特許異議申立人が主張する記載不備があるとまでは云えない。

主張(2)について
本件発明での「部分的に結晶化したMn-Zn-OH-P系酸化物」についての技術的意義、その生成方法については上記「主張(1)について」で述べたとおり具体的に記載されており、本件明細書にX線回折法、薄膜X線回折法によるその測定条件についての記載がなくても、当業者であるならば部分的に結晶化した酸化物とアモルファスの酸化物との区別は通常なし得るものである。
そうすると、本件明細書には、本件発明を当業者が容易に実施することができる程度にその発明の構成、及び効果が記載されていると云え、上記特許異議申立人が主張する記載不備があるとまでは云えない。
よって、特許異議申立人の上記主張(1)(2)は採用することはできない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-01-31 
出願番号 特願平7-106116
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C23C)
P 1 651・ 534- Y (C23C)
P 1 651・ 531- Y (C23C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 池田 正人
市川 裕司
登録日 2001-01-26 
登録番号 特許第3153097号(P3153097)
権利者 新日本製鐵株式会社
発明の名称 潤滑性、化成処理性、接着剤適合性、溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板  
代理人 山本 文夫  
代理人 綿貫 達雄  
代理人 名嶋 明郎  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三和 晴子  

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