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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1073362
異議申立番号 異議2001-71631  
総通号数 40 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-04-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-06-08 
確定日 2003-02-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第3115954号「部分ケン化ポリビニルアルコールの製造方法」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3115954号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3115954号は、平成4年9月14日に出願された特願平4-271185号の出願に係り、平成12年9月29日にその設定登録がなされたものである。

[2]本件発明
本件発明は、設定登録時の明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により構成される次のとおりのもの(以下、それぞれ「本件第1発明」及び「本件第2発明」という。)と認める。
「【請求項1】メタノール/水混合溶媒中のポリ酢酸ビニルの濃度が10〜50重量%及び水分濃度が2〜8重量%であるケン化系に、ポリ酢酸ビニルの酢酸基に対してNa当量が5〜10meq に相当する水酸化ナトリウムを添加してケン化を行なうことにより、ケン化度40〜60モル%及びケン化度に関するブロック・キャラクターが 0.470〜0.600 である部分ケン化ポリビニルアルコールを製造する方法。
【請求項2】 前記水酸化ナトリウムは、水分を除いた状態でのNa濃度が、1.5重量%以下の液としてケン化系に添加する請求項1に記載の方法。」

[3]特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人日本合成化学工業株式会社は、下記甲第1号証〜甲第4号証を提示し、本件発明は、甲第2号証を参酌すれば、甲第1号証に記載された発明であり、或いは甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号或いは同条第2項の規定に違反して特許されたものであり、その特許は取り消されるべきである旨、主張している。


甲第1号証:特開昭54-90385号公報
甲第2号証:日本合成化学工業株式会社中央研究所、ゴーセノール研究室、 皆川正昭、原幸嗣作成の実験報告書
甲第3号証:長野浩一外2名共著「ポバール」株式会社高分子刊行会、昭和 56年4月1日改訂新版発行、246〜249頁
甲第4号証:日本化学会誌、1989年第1号、111〜120頁

[4]特許異議申立てについての判断
[4-1]甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「一次及び二次沈殿防止剤の存在下で、かつラジカルを形成するモノマー溶性開始剤によって、場合によっては最大で30モル%の共重合性モノマーと共に、塩化ビニルを懸濁重合させることによって塩化ビニル重合体を製造させる方法において、一次沈殿防止剤をモノマー100重量部に対して0.005〜0.5重量部存在させ、かつ二次沈殿防止剤として重合度が少なくとも250、加溶媒分解度が40〜70モル%そして加水分解度分布がせまいポリビニルアルコールをモノマー100重量部に対して0.005〜0.5重量部存在させて、上記重合を行なうことを特徴とする塩化ビニル重合体の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)の発明が記載され、「水溶性沈殿防止剤、好適には加溶媒分解度が70モル%以上のポリビニルアルコールと一緒に加溶媒分解度が70モル%以下のポリビニルアルコールを存在させて、塩化ビニルの懸濁重合を行なうと、塩化ビニル重合体の特性が好影響を受けることが見出されている。」(4頁左上欄20行〜右上欄5行)、「今回、一次及び二次沈殿防止剤の存在下で、かつラジカルを形成するモノマー溶性開始剤によって、場合によっては最大で30モル%の共重合性モノマーと共に、塩化ビニルを懸濁重合させることによって塩化ビニル重合体を製造する方法において、一次沈殿防止剤をモノマー100重量部に対して0.005〜0.5重量部存在させ、かつ二次沈殿防止剤として重合度が少なくとも250、加溶媒分解度が40〜70モル%そして加水分解度分布がせまいポリビニルアルコールをモノマー100重量部に対して0.005〜0.5重量部存在させて、上記重合を行うことを特徴とする本発明方法を用いれば、多孔度がすぐれ、BET表面積が大きく、かつ粒度分布がせまく、しかも加工したさいに形成するフィッシュアイが少なく、その上可塑剤吸収性がすぐれている塩化ビニル重合体が得られることを見出した。」(4頁右上欄14行〜左下欄10行)、「一方、別な方法で製造した加溶媒分解度が40〜70モル%で、かつ加溶媒分解度分布がせまいポリビニルアルコールを使用することも可能である。好適には、C1-C4アルコール95〜70重量%と、水5〜30重量%とからなる溶剤混合物中で酢酸ポリビニルを加溶媒分解して得たポリビニルアルコールを使用する。」(4頁右下欄末行〜5頁左上欄7行)と記載されている。
[4-2]対比・検討
甲第1号証には、塩化ビニル重合体の製造方法として、一次沈殿防止剤としての水溶性ポリビニルアルコール及び二次沈殿防止剤としての加溶媒分解度が40〜70モル%で加水分解度分布が狭いポリビニルアルコールを特定量存在させて行う方法が記載され、特に該加水分解度分布が狭いポリビニルアルコールを用いることにより塩化ビニル共重合体の粒度分布を狭くすることができたことが記載されている。
そして、その二次沈殿防止剤としてのポリビニルアルコールの製造法として、C1-C4アルコール95〜70重量%と、水5〜30重量%とからなる溶剤混合物中で酢酸ポリビニルアルコールを加溶媒分解して得たポリビニルアルコールが使用されること、加溶媒分解を実施するアルコールは、メタノールが好ましいこと、またアルカリの量は、酢酸ポリビニルに対して0.1〜2重量%、好ましくは0.5〜1重量%であることがそれぞれ記載されているが、本件第1発明で規定するブロックキャラクターとしていかなる数値のものが得られるかということに関しての記載は見出せない。
特許異議申立人は、実験報告書(甲第2号証)を提出し、甲第1号証の実施例8を追試したところ、本件第1発明で規定するブロックキャラクター値を有するものが得られ、ケン化触媒の種類、添加量をその発明の詳細な説明の欄に開示される範囲内で変更してもその値はほとんど変わらなかったと主張する。
しかし、甲第1号証の実施例8では、水が20重量部使用されたとしているのに対し、甲第2号証の実験報告書では、10重量部使用したとされており、水の量は、ケン化反応に大きく影響するものであるから、この点の相違を無視することはできず、また同報告書における水酸化カリウムと等量の酢酸を添加する旨の記載は、単に甲第1号証の該当部分を転記したものとみられ、これらから、甲第2号証は実験報告書としては甚だ正確さに欠けるものといわざるを得ず、その記載をもって、本件第1発明が甲第1号証に記載されていたとの認定をすることはできない。
特許異議申立人は、審尋に対する回答書において、この部分を訂正する旨の主張しているが、実験報告書の作成者でもない特許異議申立人が何を根拠にそのような主張をなし得るのか理解に苦しむところである。
以上のとおりであるから、甲第2号証の実験報告書によっても本件第1発明は甲第1号証に記載されていたと認めることはできず、また、その他甲第1号証には、本件第1発明を示唆する記載を見出すことはできない。
なお、甲第3号証には、ポリ酢酸ビニルのケン化における酢酸基の連鎖分布について、甲第4号証には、ポリ(ビニルアルコール-酢酸ビニル)の微細構造について、それぞれ記載されているが、本件第1発明で採用されている具体的ケン化方法についての格別の示唆を与える記載は見出せない。
一方本件第1発明は、上記した構成の採用により、特定ケン化度、特定ブロックキャラクター値を有するポリビニルアルコールを安定的に製造する方法を提供したものと認められ、この点に一定の効果を認めることができる。
したがって、甲第2号証〜甲第4号証を参酌したとしても、本件第1発明が甲第1号証に記載された発明とも、或いはこの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。
また、本件第2発明は、本件第1発明において、水酸化ナトリウムの添加法を限定したものであるから、本件第1発明と同様、甲第2号証〜甲第4号証を参酌したとしても、甲第1号証に記載された発明とも、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。

[5]むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の提示した証拠によっては、本件請求項1〜2に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-02-04 
出願番号 特願平4-271185
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08F)
P 1 651・ 121- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 邦彦  
特許庁審判長 柿 崎 良 男
特許庁審判官 中 島 次 一
石井 あき子
登録日 2000-09-29 
登録番号 特許第3115954号(P3115954)
権利者 信越化学工業株式会社
発明の名称 部分ケン化ポリビニルアルコールの製造方法  
代理人 岩見谷 周志  

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