• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A23L
管理番号 1074616
審判番号 審判1998-35356  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-01-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-07-30 
確定日 2003-04-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第2616821号発明「無洗米の加工方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2616821号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯及び本件発明
1-1 手続の経緯
本件特許第2616821号に係る出願は、平成1年6月6日に特許出願され、平成9年3月11日にその特許の設定登録がなされ、その後、平成10年7月30日付けで請求人 株式会社 東洋精米機製作所より特許無効審判が請求され、平成12年7月21日に口頭審理及び証拠調べ(証人尋問)を行い、その後、平成14年6月27日付けで無効理由通知がなされたものである。

1-2 本件特許に係る発明
本件特許発明は、特許された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「精白直後の、精米によって米粒温度が上昇し、米粒内の水分が外部へ向けて発散状態にある精白米を15℃以下の温度に調整した水中で3分以内の短時間にて洗浄し、洗浄された精白米を直ちに水切りした後、該精白米の水分含有率を14〜16%の所定値に調質することを特徴とした無洗米の加工方法。」(以下、「本件発明」という。)

2.当事者の主張
2-1 請求人 株式会社 東洋精米機製作所の主張
請求人は、審判請求書において、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであると主張し、その理由として次の無効理由1ないし4を挙げている。
(1)無効理由1
本件発明は、自然法則に反するものであり、特許法第2条に規定する発明とはいえず、また、本件発明は、発明として未完成であるから、特許法第29条第1項柱書にいう「産業上利用することができる発明」に該当しない。
(2)無効理由2
本件明細書についてされた補正は要旨を変更するものであり、本件特許出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなされる結果、その出願前に公開された甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)無効理由3
本件発明は、その出願の日前に出願され、その出願後に公開された甲第4号証の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
(4)無効理由4
本件発明は、その出願前に頒布された甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

そして、上記主張を立証する証拠方法として、下記甲第1号証〜甲第6号証を提出すると共に、雑賀慶二を証人とする証人尋問を申請している。
さらに、請求人は、平成12年7月21日付け口頭審理陳述要領書と共に
甲第7号証〜甲第10号証を提出している。

甲第1号証の1:試験分析等成績書の写し(受付番号第1-456号、平成 9年8月8日;和歌山県工業技術センター)
甲第1号証の2:試験分析等成績書の写し(受付番号第1-457号、平成 9年8月8日;和歌山県工業技術センター)
甲第1号証の3:試験分析等成績書の写し(第1-457号 試験法につい ての補足説明、和歌山県工業技術センター)
甲第2号証:特開平3-10646号公報
甲第3号証:特開平1-308779号公報
甲第4号証:特開平2-242647号公報
甲第5号証:トーヨーの洗い米(無洗米)の説明書、平成1年3月20日、
株式会社東洋精米機製作所
甲第6号証:雑賀慶二の手帳の写し
甲第7号証:特公平7-83835号公報
甲第8号証:平成9年審判第13659号の審決謄本
甲第9号証:「精米直後と放熱後の精白米の吸水度試験」の写し(作成者 川上裕司)
甲第10号証:平成9年異議第74509号の特許異議決定謄本

2-2 被請求人 株式会社 佐竹製作所の主張
被請求人は、平成12年2月15日付け答弁書を提出して、請求人の主張する無効理由1ないし4に対して、次のとおり反論している。
(1)無効理由1について
甲第1号証の1〜3は、本件発明が自然法則に反するものであるとか、未完成な発明であるとかの根拠とはならない。本件発明は、明細書記載の実施形態を採用して、明細書記載の作用効果を発揮することができる。本件発明は、請求人が主張するように、自然法則に反するとか、発明が未完成であるとかいうものではなく、特許法第29条第1項柱書にいう発明である。
(2)無効理由2について
原明細書をみて、洗浄後直ちに多孔壁水切り筒に投入された精白米は、直ちに水切りされると理解するのが作業の流れからして自然のことである。本件特許明細書に要旨の変更はない。すると、本件発明の出願日は現実の平成1年6月6日であるが、甲第2〜4号証は、本件発明の出願後に頒布されたものであるから、請求人の主張に根拠はない。
(3)無効理由3について
本件発明の場合、水切り後、水分含有率を調質する調質工程が必要である。すなわち、調質工程を有することは迂回的で無意味なことではない。本件発明と甲第4号証の発明は構成に実質的な差異があり、決して同一ではない。
(4)無効理由4について
本件発明と甲第5号証に記載の洗い米の製造方法が異なる技術的思想のものであることは明らかであり、甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が本件発明を容易に発明することはできない。

3.当審の通知した無効理由の概要
当審の合議体は、平成14年6月27日付けで、「本件発明は、刊行物1(特開昭52-43664公報)、刊行物2(特公昭54ー13382号公報)及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」との無効理由を通知した。
これに対して、被請求人から何ら応答がなかった。

4.当審の判断
先ず、当審の合議体が平成14年6月27日付けで通知した無効理由について検討する。

4-1 引用刊行物1及び2に記載の発明
上記無効理由に引用した刊行物1(特開昭52-43664公報)には、以下の(a)〜(h)に示す事項が記載されている。
(a)「玄米に対する歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米を多孔壁除糠精白筒精白室により更に精白して精白度を進行させる過程において、その白米中に水または塩水その他水溶液を添加し直ちに精米を行なうと同時に前記多孔壁部を通して急速に除糠除水を行ない前記精白室から排出することを特徴とする混水精米法。」(1頁左下欄特許請求の範囲)
(b)「本発明は精米法の改良に係るもので、従来の歩留94%以下の高精白度精白米の縦溝に鮮明に露出する残留糊粉層の完全除去と光沢のある美麗美味の白米を得ることを目的として開発されたものである。」(1頁左下欄17行〜右下欄1行)
(c)「本発明は94%以下の歩留率になつた高白度白米に対し、なるべく最終仕上歩留率に近い過程において混水し、通常米量に対し0.1〜3%の範囲で適量の加水を行ない白米粒の表面だけを湿潤して軟化し直ちに精白作用により精米すると糠を発生して含水糠となるので糠と水が同時に多孔壁部を通して精白室外に排除され、澱粉質の多い糠なので白米粒面に糠の附着が少なく除糠作用が容易となり、添加水分が米粒内質に吸収浸透されないように米粒内質を保護するとともに、…………」(1頁右下欄18行〜2頁左上欄8行)
(d)「本発明は添加水分を成るべく短時間に精白に利用し迅速に精白室外に糠と共に排除することを原則とするので、精白転子その他の通風作用を利用して、発生糠と添加水分の精白室外排除を促進して、米粒内質の水分変化を防止する効果が得られる。」(2頁左上欄12行〜17行)
(e)「本発明は米粒総量に対する水分添加率こそ0.1〜3%であるが、せいぜい20秒内外の短時間処理なので、米粒面は水でベタ付き換言すれば米粒表面の細胞に対しては100%に近い水分添加と見てよいのである。要するに、調湿とは逆に飽くまで内質に水分が及ばないようにし、表面だけを湿潤するのが立て前であって、表面皮層だけの軟質化を目的とするのである。これによつて米粒表面に固着している糊粉層も難なく剥離され米粒全面が均一な高白度の白米となり粒面が高密度の光沢平滑面に仕上がるのである。」(2頁右上欄6行〜17行)
(f)「従来は歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化するのが常識なので、白米に混水して精米するなどは夢想だにしなかつたものである。本発明は全く奇想天外ともいうべき処理法である。」(2頁左下欄18行〜右下欄1行)
(g)「前述したように本発明に用いる添加水分率については0.1〜3%の実施例を挙げたが、米質によつても限外の添加水分率があり得ることは云うまでもない。」(2頁右下欄17行〜20行)
(h)「本発明は上述のように従来至難とされた糊粉層の完全除去を容易にしたことは勿論、超高白度の能率的な精白をも可能となし、白米粒面の美麗化と超光沢化に併せて米粒本質の硬度如何に関係なく精白能率を著しく向上させる等の諸点に特に顕著な効果がある。」(3頁右下欄7行〜12行)

同じく引用した刊行物2(特公昭54ー13382号公報)には、「混水の米粒接触時間が長いと米粒内質に奥深く浸入し精白完了後において空中に曝すと著しく亀裂を生じ砕米になる危険が伴うので米粒と水液の接触時間は超短時間であることが必須要件であり、……………………………要するに、混水仕上精米において、米粒の亀裂を防止できる効果は白米粒が水に接する時間と水分率(水量/米量)の2要件によって定まるものである。」(2欄10行〜21行)、及び「例えば玄米に対する歩留93%以下の白米中に0.5〜1.5%位の範囲で混水を施し……………白米表面の薄層を軟質化し、しかも白米は吸水性に富むから水液が白米粒に接触する時間、米流の濡れる時間は糊粉層の剥脱可能な軟質化の条件において、短い程亀裂に対しては安全率が大である。」(2欄27行〜35行)と記載されている。

さらに、精白米を水中で洗浄し、洗浄された精白米を水切りした後、乾燥することにより、洗米を必要としない洗い米(無洗米)を製造することは、本件特許の出願時に当業者において周知であったと認める。(必要なら、特開昭57ー141257号、特開昭61ー115858号、特公昭51ー22063号、実公昭46ー34708号、特開昭63ー181959号公報、実開昭61ー121946号のマイクロフィルム等参照。)

4-2 対比・判断
本件発明と上記周知の洗い米(無洗米)の加工方法を対比すると、両者は、精白米を水中で洗浄し、洗浄された精白米を水切りした後、乾燥することを特徴とする無洗米の加工方法の点で一致する。
しかしながら、本件発明は、(ア)「精白直後の、精米によって米粒温度が上昇し、米粒内の水分が外部へ向けて発散状態にある精白米」を洗浄する点、(イ)15℃以下の温度に調整した水中で3分以内の短時間に洗浄し、直ちに水切りする点、(ウ)精白米の水分含有率を14〜16%の所定値に調質する点で、そうでない上記周知の無洗米の加工方法と相違する。
上記相違点について検討する。
相違点(ア)について
無洗米の製造において、精米機と洗米機を連結して、精米と洗浄を連続的に行えば効率が良いことは当業者なら容易に予想できることであり、精白(精米)直後の穀温が上昇している精白米を放冷することなく直ちに洗浄することは当業者が容易に想到し得ることである。
ところで、本件明細書には、「米粒内の水分が発散状態にあるときは、水分が米粒内層まで急速に浸透することがなく、したがって、水中亀裂を生じることなく洗浄を行い得る。」(特許公報3欄19行〜21行)と記載されているが、かかる記載は、例えば特公平7-83835号公報第3欄31行〜33行の「精米によって温度が上昇した白米は、細胞組織が膨張して緩み、水分を吸収しやすい状態となる」との記載と明らかに矛盾する。
また、本件明細書には、精米機から吐出した穀温が上昇している精白米が、放冷後の通常の穀温の精白米に較べて米粒内層へ水分が浸透し難いことを客観的に裏付ける試験データ等の記載は何もない。
これらの点を踏まえると、本件発明において、洗浄に供する精白米を「精白直後の、精米によって米粒温度が上昇し、米粒内の水分が外部へ向けて発散状態にある」ものに限定したことにより格別の効果が奏されると認めることはできず、洗浄に供する精白米を上記の如く限定した点に格別の創意の存在を認めることはできない。

相違点(イ)について
本件発明は、15℃以下の温度に調整した水中で3分以内の短時間に洗浄し、直ちに水切りすることにより、亀裂のない無洗米を得るようにしたものである。
亀裂のない白米の製造に関し、刊行物1には、歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に、米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して、精米(精白)を行うと同時に除糠除水を行う混水精米において、添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い、添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして、米肌に亀裂がない白米を製造することが記載され、刊行物2には、玄米に対する歩留93%以下の白米中に0.5〜1.5%位の範囲で混水を施し、白米表面の薄層を軟質化して混水仕上精米を行うとき、白米は吸水性に富むから水液が白米粒に接触する時間、すなわち米粒の濡れる時間は、糊粉層の剥離可能な軟質化の条件において、短い程亀裂に対しては安全率が大であること、混水の米粒接触時間が長いと米粒内質に奥深く侵入し精白完了後において空中に曝すと著しく亀裂を生じ砕米になる危険が伴うので米粒と水液の接触時間は超短時間であることが必須要件であることが記載されている。
また、米粒と水との接触を通して水分が米粒内部に浸透するとき、水温の低い水は水温の高い水よりも米粒内部への浸透に時間がかかることは、本件特許の出願時当業者において周知であったと認められる。(必要なら、例えば特開昭64ー86846号公報参照)
これらの事項が本件特許の出願前当業者において公知あるいは周知であったことからすれば、精白米を洗浄し水切り(除水)して無洗米を製造するとき、低い温度に調整した水を用い、かつ米粒と接触する水が米粒内部に奥深く浸透するに至らない短時間内に精白米の洗浄、水切り(除水)を完了すれば、亀裂のない無洗米が得られることは、当業者であれば容易に想到し得ることであり、その際使用する水の温度を「15℃以下」、洗浄時間を「3分以内」に設定することも当業者が適宜なし得ることである。

相違点(ウ)について
除糠のために濡らした白米を除水して、米粒の含水率を16%を超えない範囲の所定値に調整することが、本件特許の出願時当業者において周知であった(必要なら、例えば、特開昭57ー141257号、特公昭51ー22063号、特公昭58ー897号、特公昭59ー13895号公報、実開昭61-121946号のマイクロフイルム等参照)ことを考えると、精白米の水分含有率を14〜16%の所定値に調質することは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本件発明の効果を検討しても、先に記載したとおり、精白米を洗浄、水切り(除水)して無洗米を製造する場合、15℃以下の温度に調整した水を用い、かつ米粒と接触する水が米粒内部に奥深く浸透するに至らない3分以内の短時間内に精白米の洗浄、水切り(除水)を完了すれば、亀裂のない無洗米が得られることは、刊行物1、2及び上記周知事項に基づいて当業者なら容易に予測できることであるから、本件発明の「亀裂を有さない無洗米が得られる」という効果は、当業者が容易に予測できる効果である。

以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1、刊行物2及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、無効審判請求において請求人が主張する上記無効理由1ないし4を検討するまでもなく、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1及び2に記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-02-07 
結審通知日 2003-02-13 
審決日 2003-02-28 
出願番号 特願平1-144660
審決分類 P 1 112・ 121- Z (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植野 浩志  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 徳廣 正道
種村 慈樹
登録日 1997-03-11 
登録番号 特許第2616821号(P2616821)
発明の名称 無洗米の加工方法  
代理人 杉山 秀雄  
代理人 柳野 隆生  
代理人 魚住 高博  
代理人 竹本 松司  
代理人 湯田 浩一  
代理人 塩野入 章夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ