• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C09K
審判 全部申し立て 発明同一  C09K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1074720
異議申立番号 異議2001-70513  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-14 
確定日 2003-01-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3077585号「液晶配向剤」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3077585号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3077585号の請求項1に係る発明は、平成8年3月25日に出願され(国内優先権主張 平成7年3月28日)、平成12年6月16日にその設定登録がなされ、その後、日産化学工業株式会社 及び チッソ株式会社より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年8月7日に訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正の適否について
2.1 訂正の内容
平成13年8月7日付けの訂正請求書による訂正事項は、下記のとおりである。
a.特許請求の範囲の請求項1を、下記のように訂正する。
「【請求項1】 表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体とが含有されてなり、
前記第1の重合体および第2の重合体は、いずれも、テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸およびこれを脱水閉環した構造を有する重合体から選ばれる少なくとも1種よりなり、
第1の重合体は、表面自由エネルギーが42dyn/cm以上の薄膜を与える重合体であり、第2の重合体は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以下の薄膜を与える重合体であり、
第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.01〜5重量部であり、
表面自由エネルギーが40dyn/cm以上、58dyn/cm以下の薄膜が形成されることを特徴とする液晶配向剤。」

b.明細書段落【0005】の記載を、「【課題を解決するための手段】 本発明の液晶配向剤は、表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体とが含有されてなり、
前記第1の重合体および第2の重合体は、いずれも、テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸およびこれを脱水閉環した構造を有する重合体から選ばれる少なくとも1種よりなり、
第1の重合体は、表面自由エネルギーが42dyn/cm以上の薄膜を与える重合体であり、第2の重合体は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以下の薄膜を与える重合体であり、
第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.01〜5重量部であり、
表面自由エネルギーが40dyn/cm以上、58dyn/cm以下の薄膜が形成されることを特徴とする。」と訂正する。

c.明細書段落【0006】の記載を、「【発明の実施の形態】 以下、本発明について、具体的に説明する。 本発明に係る液晶配向剤は、表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体との両者が含有された溶液であって、薄膜を形成させたときに、表面自由エネルギーが40dyn/cm以上、58dyn/cm以下である薄膜を形成するものである。ここに、「表面自由エネルギーが高い(または低い)薄膜を与える重合体」とは、当該重合体の溶液を基板の表面に塗布して乾燥することによって薄膜を形成したときに、当該薄膜が高い(または低い)表面自由エネルギーを有する重合体をいう。」と訂正する。

d.明細書段落【0017】の記載を、「芳香族環に結合された2個のアミノ基(-NH2 )と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン化合物; 1,1-メタキシリレンジアミン、1,2-エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02,7 ]ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などの脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物を挙げることができる。」と訂正する。

e.明細書段落【0018】および【0019】の記載を削除する。

f.明細書段落【0020】、【0021】、【0022】、【0023】、【0024】および【0025】の記載における「式(14)」を「式(13)」と、「式(15)」を「式(14)」と、それぞれ訂正する。

g.明細書段落【0047】の記載を、「<液晶配向剤> 本発明の液晶配向剤は、重合体Aおよび/または重合体Bよりなる第1の重合体と、重合体Cおよび/または重合体Dよりなる第2の重合体とが有機溶剤中に溶解されて構成される。 第1の重合体は、表面自由エネルギーが高い薄膜を与えるものであるが、具体的には、42dyn/cm以上の表面自由エネルギーを有する薄膜を与える重合体である。 第2の重合体は、第1の重合体に比較して、表面自由エネルギーが低い薄膜を与えるものであるが、具体的には、40dyn/cm以下の表面自由エネルギーを有する薄膜を与える重合体である。」と訂正する。

h.明細書段落【0048】の記載を、「表面自由エネルギーが異なる薄膜を与える2種の重合体であっても、表面自由エネルギーがより高い薄膜の当該表面自由エネルギーが42dyn/cm未満となるような重合体の組合せを用いる場合には、得られる液晶配向剤は、発泡しやすいものとなり、膜厚の均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。 一方、表面自由エネルギーが異なる薄膜を与える2種の重合体であっても、表面自由エネルギーがより低い薄膜の当該表面自由エネルギーが40dyn/cmを超えるような重合体の組合せを用いる場合には、例えば印刷法によって均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。」と訂正する。

i.明細書段落【0049】の記載を、「以上のような第1の重合体および第2の重合体を含有してなる本発明の液晶配向剤は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以上58dyn/cm以下の薄膜を与えるものとされる。 液晶配向剤が、より低い表面自由エネルギーの薄膜を与えるものであるときは、発泡しやすいものとなり、膜厚の均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。 一方、液晶配向剤が、より高い表面自由エネルギーの薄膜を与えるものであるときは、例えば印刷法によって均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。」と訂正する。

j.明細書段落【0066】の記載を、「本発明の好適な実施態様を掲げると次のとおりである。第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.1〜5重量部であることを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。」と訂正する。

k.明細書段落【0080】の記載における「テトラカルボン酸二無水物をとして」を、「テトラカルボン酸二無水物として」と訂正する。

2.2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)上記訂正事項a.

(1-1)請求項1において、「第1の重合体は、表面自由エネルギーが42dyn/cm以上の薄膜を与える重合体であり、第2の重合体は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以下の薄膜を与える重合体であり、」を加入する点。

上記訂正は、請求項1に係る発明の「第1の重合体」を、「表面自由エネルギーが42dyn/cm以上の薄膜を与える重合体」に、同「第2の重合体」を、「表面自由エネルギーが40dyn/cm以下の薄膜を与える重合体」に、それぞれ限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当し、特許明細書の段落【0047】等に記載されている事項であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも該当しない。

(1-2)請求項1において、「38dyn/cmを超え、60dyn/cm以下」を、「40dyn/cm以上、58dyn/cm以下」と訂正する点。

上記訂正は、請求項1に係る発明の「液晶配向剤として形成される薄膜の表面自由エネルギー」を、より狭い範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当し、特許明細書の段落【0049】等に記載されている事項であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも該当しない。

(1-3)請求項1において、「第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.01〜5重量部であり、」を加入する点。

上記訂正は、請求項1に係る発明の「第1の重合体に対する第2の重合体の配合割合」を、上記特定の範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当し、特許明細書の段落【0050】等に記載されている事項であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも該当しない。

(1-4)請求項1において、「ジアミン化合物」を、「芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物」と訂正する点。

上記訂正は、請求項1に係る発明の「ジアミン化合物」の範囲を、上記特定の範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当し、特許明細書の段落【0016】〜【0031】等に記載されている事項であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも該当しない。

(2)上記訂正事項b〜g、i、jは、上記aの訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも該当しない。

(3)上記訂正事項h及びkは、誤記の訂正を目的としたものに該当し、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものには該当しない。

2.3 結論
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第第2項及び同条第3項で準用する特許法第126条第2項及び同条第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
3.1 特許異議申立人 日産化学工業株式会社 の申立て
特許異議申立人 日産化学工業株式会社は、証拠として甲第1号証(特開平8-220541号公報)、甲第2号証(山田智久の「実験成績証明書」)、甲第3号証(特開平8-43831号公報)、甲第4号証(特開平5-216044号公報、以下、「刊行物1」という。)、甲第5号証(保坂和義の「実験成績証明書」)、甲第6号証(特開昭64-4720号公報、以下、「刊行物2」という。)、甲第7号証(特開昭63-178213号公報、以下、「刊行物3」という。)、甲第8号証(「’94液晶ディスプレイ周辺材料・ケミカルスの市場」(1994年6月20日 株式会社シーエムシー発行)第190頁〜第195頁、以下、「刊行物4」という。)を提出し、以下のように主張している。

(1)本件の訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証の記載に徴し、先願明細書A(甲第1号証参照)に記載の発明と同一であるか、又は、先願明細書B(甲第3号証参照)に記載の発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。

(2)本件の訂正前の請求項1に係る発明は、甲第5号証の記載に徴し、刊行物1に記載の発明と同一であるか、又は、刊行物1〜4の記載から容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反して特許されたものである。

(3)本件特許明細書は、その記載が不備であるから、本件出願は、特許法第36条第4項及び第6項の規定に違反して特許されたものである。

3.2 特許異議申立人 チッソ株式会社の申立て
特許異議申立人 チッソ株式会社は、証拠として甲第1号証(特開昭64-66620号公報、以下、「刊行物5」という。)、甲第2号証(特開平2-223917号公報、以下、「刊行物6」という。)、甲第3号証(特開平4-232921号公報、以下、「刊行物7」という。)、甲第4号証(特開平5-119322号公報、以下、「刊行物8」という。)、甲第5号証(特開平5-216044号公報:前記「刊行物1」)、甲第6号証(特開平7-36048号公報、以下、「刊行物9」という。)、甲第7号証(チッソ石油化学株式会社機能材料研究所 谷岡 聡氏作成「実験報告書」)、甲第8号証(特開平8-43831号公報:日産化学工業株式会社の甲第3号証に同じ。)、甲第9号証(日産化学工業株式会社発行の商品カタログ「液晶配向膜材料サンエバー一覧表」、以下、「刊行物10」という。)、甲第10号証(特開昭63-178213号公報:前記「刊行物3」)を提出し、以下のように主張している。

(1)本件の訂正前の請求項1に係る発明は、甲第7号証の記載に徴し、先願明細書B(甲第8号証参照)に記載の発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものである。

(2)本件の訂正前の請求項1に係る発明は、甲第7号証の記載に徴し、刊行物5〜8、1、9に記載の各発明と同一であるか、又は、刊行物5〜8、1、9、10、3の記載から容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反して特許されたものである。

(3)本件特許明細書は、その記載が不備であるから、本件出願は、特許法第36条第4項及び第6項の規定に違反して特許されたものである。

3.3 本件発明
本件の訂正後の請求項1に係る発明は、訂正された特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(以下、「本件発明」という。)

「【請求項1】 表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体とが含有されてなり、
前記第1の重合体および第2の重合体は、いずれも、テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸およびこれを脱水閉環した構造を有する重合体から選ばれる少なくとも1種よりなり、
第1の重合体は、表面自由エネルギーが42dyn/cm以上の薄膜を与える重合体であり、第2の重合体は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以下の薄膜を与える重合体であり、
第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.01〜5重量部であり、
表面自由エネルギーが40dyn/cm以上、58dyn/cm以下の薄膜が形成されることを特徴とする液晶配向剤。」

3.4 先願明細書並びに刊行物に記載の発明
3.4.1 先願明細書A(特開平8-220541号公報参照)
先願明細書Aには、一般式[I]のポリイミド前駆体(ポリアミック酸)、およびこれを脱水閉環した構造を有する一般式[II]の溶剤可溶性ポリイミド樹脂を含有してなり、前記一般式[II]の溶剤可溶性ポリイミド樹脂が全ポリマー重量に対して1〜80重量部(式[I]の重合体100重量部に対する割合に換算すると、約1〜400重量部)である液晶配向処理剤の発明について記載され、該発明の目的・課題は、電圧保持率、傾斜配向角、電荷蓄積特性などの膜特性、或いは基板への密着性や印刷性に優れた液晶配向処理剤を提供することであること、が記載されている。

3.4.2 先願明細書B(特開平8-43831号公報参照)
先願明細書Bには、樹脂被膜の表面張力(即ち、表面自由エネルギー)が2dyne/cm 以上異なる2種類の樹脂(重合体)を含有することを特徴とする液晶配向剤の発明について記載され、上記2種類の樹脂(重合体)は、ともにポリアミド酸(ポリアミック酸)、或いは、これを脱水閉環した構造を有するポリイミドであること、及び 該発明の目的・課題は、安定した液晶配向性、プレチルト角を示し、かつ良好な電気光学特性を示す液晶配向膜を提供することであること、が記載されている。

3.4.3 刊行物1(特開平5-216044号公報)
刊行物1には、加熱処理後に一般式(1)のポリアミド酸(ポリアミック酸)及び/又は部分イミド化ポリアミド酸(部分イミド化ポリアミック酸)と、加熱処理後に一般式(2)の構造となるシリコーンポリアミド酸(シリコーンポリアミック酸)及び/又は部分イミド化シリコーンポリアミド酸(部分イミド化シリコーンポリアミック酸)と、溶剤とからなる液晶表示用配向剤について記載され、該液晶表示用配向剤は、使用時に200℃程度の比較的低温で硬化し、密着性に優れること、が記載されている。

3.4.4 刊行物2(特開昭64-4720号公報)
刊行物2には、可溶性ポリイミドとポリアミック酸からなる混合膜からなる液晶配向膜について記載され、該配向膜を有する液晶表示素子は、光透過率変化を著しく小さくでき、かつ、駆動時の漏れ電流が小さいこと、が記載されている。

3.4.5 刊行物3(特開昭63-178213号公報)
刊行物3には、35dyn/cmを超える表面自由エネルギーを有するポリイミド系ポリマーからなる液晶配項剤について記載され、40dyn/cm前後の高エネルギー表面を形成する配向膜は、高コントラストが得られ、ネマチック液晶の配向にも適していること、が記載されている。

3.4.6 刊行物4(「’94液晶ディスプレイ周辺材料・ケミカルスの市場」(1994年6月20日 株式会社シーエムシー発行)第190頁〜第195頁)
刊行物4には、市販の液晶配向剤は、表面自由エネルギーが35〜52dyn/cmのものがあること、が記載されている。

3.4.7 刊行物5(特開昭64-66620号公報)
刊行物5には、第1のポリアミド酸(ポリアミック酸)溶液と第2のポリアミド酸(ポリアミック酸)溶液を混合して基板に塗布して閉環してなるポリイミド配向膜について記載され、第1のポリアミド酸(ポリアミック酸)溶液は、式(I)のテトラカルボン酸二無水物と式(II)のジアミンから得られたものであり、第2のポリアミド酸(ポリアミック酸)溶液は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られたものであること、該配向剤は接着性、配向性がともに良いこと、が記載されている。

3.4.8 刊行物6(特開平2-223917号公報)
刊行物6には、請求項1記載の構造式のポリアミド酸(ポリアミック酸)と、液晶の初期配向が基板に対して低角度であるポリイミド配向膜の前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)を含有する溶液を基板に塗布、焼成してなる配向膜について記載され、該配向膜は液晶の種類、ネジレの角度等に合わせ配向剤を用意する必要がなく、全てに対応できるという効果を有すること、が記載されている。

3.4.9 刊行物7(特開平4-232921号公報)
刊行物7には、基板に2種以上のポリイミドを複合化(配合)した配向膜を有する液晶素子について記載され、該ポリイミド配向膜は通常のジアミンとテトラカルボン酸無水物とを重縮合反応させることによって合成されるポリアミド酸(ポリアミック酸)を加熱閉環することによって得られること、コントラストが高く、特にマルチプレクシング駆動時の表示コントラストが非常に大きく高品位の表示が得られ、残像現象が生じないという効果が得られること、が記載されている。

3.4.10 刊行物8(特開平5-119322号公報)
刊行物8には、骨格が芳香族のみからなる酸無水物と、骨格がほとんど芳香族からなるジアミンとを重合させたポリアミック酸と、骨格が脂環族を含む酸無水物と、骨格がほとんど芳香族からなるジアミンとを重合させたポリアミック酸とを混在させた溶液を塗布、熱反応させてなる液晶配向膜について記載され、該配向膜はラビング処理時に、削り屑が僅少であり、シミの出現等がない旨の効果が得られること、が記載されている。

3.4.11 刊行物9(特開平7-36048号公報)
刊行物9には、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させて得られる重合体及び/またはそのイミド化重合体と、テトラカルボン酸二無水物と、一般式(I)のオルガノシロキサン含有ジアミン化合物とを反応させて得られる重合体とを含有する液晶配向膜について記載され、該配向膜は基板との密着性に優れること、が記載されている。

3.4.12 刊行物10(「液晶配向膜材料サンエバー一覧表」(日産化学工業株式会社発行))
刊行物10には、市販の液晶配向剤は、表面自由エネルギーが35〜52dyn/cmのものがあること、が記載されている。

3.5 対比・判断
3.5.1 特許法第29条の2の違反について
本件発明と先願明細書A記載の発明(以下、「先願発明A」という。)とを対比すると、両者は、「テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させて得られるポリアミック酸およびこれを脱水閉環した構造を有する重合体から選ばれる2種の重合体を含有する液晶配向剤」に係る点で一致し、先願発明Aの「式[I]のポリイミド前駆体」が本件発明の「第1の重合体」に、同「式[II]の溶剤可溶性ポリイミド樹脂」が本件発明の「第2の重合体」にそれぞれ相当するとした場合、本件発明の第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合(0.01〜5重量部)は、先願発明Aで規定する範囲(約1〜400重量部)と一致する部分を包含しているが、先願発明Aの実施例中で実際に使用している割合は、4:1(100:25)又は1:4(100:400)だけに限られ、100:0.01〜5(重量部)という極めて小さい比率で含有させる点については、先願明細書Aに具体的に何も記載していない。

また、本件発明と先願明細書B記載の発明(以下、「先願発明B」という。)とを対比すると、両者は、「2種の表面自由エネルギーが互いに異なる樹脂(ポリアミック酸またはポリイミド)を含有する液晶配向剤」に係る点で共通するけれども、先願発明Bにおいて、表面自由エネルギーの高い樹脂(重合体)に対する表面自由エネルギーの低い樹脂(重合体)の割合は、実施例中で実際に使用している70:30(100:43)だけに限られ、100:0.01〜5(重量部)という極めて小さい割合で含有させる点については、先願明細書Bに具体的に何も記載していない。

一方本件発明は、「表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体とが含有されてなり、第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.01〜5重量部である」点により、膜厚均一性が高く、液晶配向性が良好で、電気的特性に優れた液晶配向膜を形成できる、という特許明細書記載の格別な効果が奏されるものと認められる(本件特許明細書 実施例1〜18、比較例1〜6、【表1】、【表2】、【発明の効果】)。
したがって、本件発明が先願明細書A又はBに記載された発明であるとすることができない。

3.5.2 特許法第29条第1項及び第2項の違反について

以下、本件発明と刊行物1〜10記載の発明とを対比する。
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、2種類のポリアミック酸重合体を組み合わせてなる液晶配向剤の点で共通するが、本件発明では第1の重合体及び第2の重合体を得るためのジアミン化合物として「芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物」を用いているのに対して、刊行物1記載の発明では、「ジアミノオルガノシロキサン」(同刊行物【0016】)を用いている点、で明確に相違している。

本件発明と刊行物2に記載の発明とを対比すると、両者は、2種類の重合体(ポリイミドとポリアミック酸)を組み合わせてなる液晶配向剤の点で共通するが、本件発明では第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合を0.01〜5重量部と規定しているのに対して、刊行物2記載の発明では、一方の重合体成分である「可溶性ポリイミド」100重量部に対して、他方の「ポリアミック酸」の割合は20から250重量部である点(刊行物2の【請求項2】)で、明確に相違している。

本件発明と刊行物3に記載の発明とを対比すると、刊行物3には、35dyn/cmを超える表面自由エネルギーを有するポリイミド系ポリマーからなる液晶配向剤について記載され、40dyn/cm前後の高エネルギー表面を形成する配向剤は高コントラストが得られ、ネマチック液晶の配向にも適している旨、を教示するのみであり、特定の表面自由エネルギーを有する2種の重合体(ポリアミック酸又はその脱水閉環重合体)を、特定の割合で含有してなる液晶配向剤については何も触れるところがない。

刊行物4には、市販の液晶配向剤は、表面自由エネルギーが35〜52dyn/cmのものがある旨、を教示するのみである。

本件発明と刊行物5記載の発明とを対比すると、両者は、2種類のポリアミック酸重合体を含有してなる液晶配向剤の点で共通するが、本件発明では第1の重合体及び第2の重合体を得るためのジアミン化合物として「芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物」を用いているのに対して、刊行物5記載の発明では、「ジアミノオルガノシロキサン」を用いている点(同刊行物【請求項1】の式(II))で、明確に相違している。

本件発明と刊行物6に記載の発明とを対比すると、両者は、2種類のポリアミック酸重合体を組み合わせてなる液晶配向剤の点で共通するが、本件発明では第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合を0.01〜5重量部と規定しているのに対して、刊行物6記載の発明では、実際に実施例で使用している割合は、4:1、3:1、1:1、1:3、1:4だけに限られている点(同刊行物の実施例1、2)で、明確に相違している。

本件発明と刊行物7に記載の発明とを対比すると、両者は、2種類のポリイミド重合体を組み合わせてなる液晶配向剤の点で共通するが、本件発明では第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合を0.01〜5重量部と規定しているのに対して、刊行物7記載の発明では、実際に実施例で使用している割合は、1:1或いは4:1だけに限られている点(同刊行物の実施例1〜3)で、明確に相違している。

本件発明と刊行物8に記載の発明とを対比すると、両者は、2種類のポリアミック酸重合体を組み合わせてなる液晶配向剤の点で共通するが、本件発明では第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合を0.01〜5重量部と規定しているのに対して、刊行物8記載の発明では、実際に実施例で使用している割合は、2:8だけに限られている点(同刊行物の実施例1、2)で、明確に相違している。

本件発明と刊行物9記載の発明とを対比すると、両者は、2種類のポリアミック酸重合体を組み合わせてなる液晶配向剤の点で共通するが、本件発明では第1の重合体及び第2の重合体を得るためのジアミン化合物として「芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物」を用いているのに対して、刊行物9記載の発明では、「ジアミノオルガノシロキサン」を用いている点(同刊行物【請求項1】の式(I))で、明確に相違している。

刊行物10には、市販の液晶配向剤は、表面自由エネルギーが35〜52dyn/cmのものがある旨、を教示するのみである。

このように、刊行物1〜10には、本件発明の構成である、「第1の重合体および第2の重合体は、いずれも、テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸およびこれを脱水閉環した構造を有する重合体から選ばれる少なくとも1種よりなり」且つ「第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.01〜5重量部であること」について、記載しておらず、示唆していない。
また、本件発明の目的・課題は、膜厚の均一性の高い薄膜を形成できて良好な液晶配向性を有すると共に、電気的特性に優れた液晶配向膜を形成することのできる液晶配向剤を提供すること、であるが(本件特許明細書【発明が解決しようとする課題】)、刊行物1〜10は、この点について何も触れるところがない。
一方本件発明は、上記構成により、膜厚均一性が高く、液晶配向性が良好で、電気的特性に優れた液晶配向膜を形成できる、という特許明細書記載の格別な効果が奏されるものと認められる(本件特許明細書 実施例1〜18、比較例1〜6、【表1】、【表2】、【発明の効果】)。

したがって、本件発明が、刊行物1、5〜8、9に記載された発明であるとすることができず、また、刊行物2〜4から、刊行物1、3、4から、刊行物1〜4から、或いは、刊行物5〜8、1、9、10、3から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。

3.5.3 特許法第36条の違反について
(1)特許異議申立人日産化学工業株式会社の特許法第36条違反の理由は、本件特許明細書の実施例で効果が示されている重合体成分の割合は、第1の重合体10.0gに対して第2の重合体が0.001〜0.5gである場合だけに限られており、したがって、本件の訂正前の請求項1の記載は効果不明のものを含むから、明細書の記載が不備である、というものである。

(2)特許異議申立人チッソ株式会社の特許法第36条違反の理由は、
(2-1)同申立人提出の実験報告書(甲第7号証の表1)によれば、同申立人提出の甲第5号証(刊行物1)の実施例1、2の配向剤 並びに 同申立人提出の甲第3号証(刊行物7)の実施例2の配向剤は、何れも所定の効果を奏しないことが明らかであり、効果のない配向剤を包含する本件の訂正前の請求項1の記載は、発明の構成として必要かつ十分なものではなく、記載不備である、

(2-2)本件明細書の記載において、実施例1の結果は、比較例(表2)のものに比して格段に良好になったとされているが、このような結果は重合体の配合比からみて、到底考え難いものであり、本件訂正前の明細書の記載が不備である、というものである。

(3)そこで検討すると、本件特許明細書は、上記訂正(前掲2.1参照)により、【請求項1】及び【発明の詳細な説明】において、第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合を「0.01〜5重量部」と限定し、第1の重合体および第2の重合体の反応原料であるジアミン化合物の範囲を「芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物」と限定した。したがって、当該訂正後の明細書からみて、上記(1)及び(2-1)に係る記載不備は、もはや存在しない。
また、上記(2-2)の主張は、具体的な根拠を伴わない主張であるから、そのままでは首肯することができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の訂正後の請求項1に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件の訂正後の請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶配向剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体とが含有されてなり、
前記第1の重合体および第2の重合体は、いずれも、テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸およびこれを脱水閉環した構造を有する重合体から選ばれる少なくとも1種よりなり、
第1の重合体は、表面自由エネルギーが42dyn/cm以上の薄膜を与える重合体であり、第2の重合体は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以下の薄膜を与える重合体であり、
第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.01〜5重量部であり、
表面自由エネルギーが40dyn/cm以上、58dyn/cm以下の薄膜が形成されることを特徴とする液晶配向剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示素子の液晶配向膜を形成するために用いる液晶配向剤に関し、さらに詳しくは、印刷法などによって膜厚の均一性の高い薄膜を形成することができて良好な液晶配向性を有する液晶配向膜を形成することができ、しかも優れた電気的特性を有する液晶配向剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、液晶表示素子としては、透明導電膜が設けられている基板の当該表面に液晶配向膜を形成して液晶表示素子用基板とし、その2枚を対向配置してその間隙内に、例えば正の誘電異方性を有するネマチック型液晶の層を形成してサンドイッチ構造のセルとし、当該液晶分子の長軸が一方の基板から他方の基板に向かって連続的に90度捻れるようにした、いわゆるTN(Twisted Nematic)型液晶セルを有するTN型液晶表示素子が知られている。
このTN型液晶表示素子などの液晶表示素子における液晶分子の配向は、通常、ラビング処理により液晶分子に対する配向能が付与された液晶配向膜により実現される。そして、液晶表示素子を構成する液晶配向膜の材料としては、従来より、ポリアミック酸またはポリアミック酸を脱水閉環したポリイミドが知られており、これは、耐熱性、液晶との親和性、機械的強度などに優れているため多くの液晶表示素子に使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来知られているポリアミック酸またはポリアミック酸を脱水閉環したポリイミドの溶液よりなる液晶配向剤は、これを例えば印刷法などにより液晶表示素子用の基板に適用した場合に、膜厚の均一性の高い薄膜を形成することが困難であって、例えば100Å以上もの相当に大きな膜厚ムラを有する状態で薄膜が形成されるため、液晶表示素子において良好な表示特性および電気的特性が得られる液晶配向膜を形成することができない、という問題点がある。
また、膜厚の均一性の高い薄膜を形成するために、液晶配向剤に低分子量の界面活性剤を添加することが試みられているが、このような液晶配向剤から得られる液晶配向膜を用いると、液晶表示素子を構成する液晶材料に液晶配向膜中の界面活性剤が溶出するために液晶表示素子の電気的特性が悪化する、という問題点がある。
【0004】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものであって、その目的は、膜厚の均一性の高い薄膜を形成することができて良好な液晶配向性を有すると共に、電気的特性に優れた液晶表示素子が得られる液晶配向膜を形成することのできる液晶配向剤を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の液晶配向剤は、表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体とが含有されてなり、
前記第1の重合体および第2の重合体は、いずれも、テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸およびこれを脱水閉環した構造を有する重合体から選ばれる少なくとも1種よりなり、
第1の重合体は、表面自由エネルギーが42dyn/cm以上の薄膜を与える重合体であり、第2の重合体は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以下の薄膜を与える重合体であり、
第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.01〜5重量部であり、表面自由エネルギーが40dyn/cm以上、58dyn/cm以下の薄膜が形成されることを特徴とする。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、具体的に説明する。
本発明に係る液晶配向剤は、表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体との両者が含有された溶液であって、薄膜を形成させたときに、表面自由エネルギーが40dyn/cm以上、58dyn/cm以下である薄膜を形成するものである。ここに、「表面自由エネルギーが高い(または低い)薄膜を与える重合体」とは、当該重合体の溶液を基板の表面に塗布して乾燥することによって薄膜を形成したときに、当該薄膜が高い(または低い)表面自由エネルギーを有する重合体をいう。
【0007】
本発明の液晶配向剤の第1成分である第1の重合体は、表面自由エネルギーが高い薄膜を与える重合体であり、具体的には、テトラカルボン酸二無水物(以下「化合物(I)」ともいう。)とジアミン化合物(以下「化合物(II)」ともいう。)とを反応させて得られるポリアミック酸(以下「重合体A」ともいう。)およびこの重合体Aを脱水閉環した構造を有する重合体(以下「重合体B」ともいう。)から選ばれる少なくとも1種の重合体である。
また、当該液晶配向剤の第2成分である第2の重合体は、表面自由エネルギーが第1の重合体より低い薄膜を与える重合体であり、具体的には、第1の重合体と同様に、化合物(I)と化合物(II)とを反応させて得られるポリアミック酸(以下「重合体C」ともいう。)およびこの重合体Cを脱水閉環した構造を有する重合体(以下「重合体D」ともいう。)から選ばれる少なくとも1種の重合体である。
【0008】
従って、第1の重合体と第2の重合体は、物質としては同様の系に属するものであるが、化合物(I)および化合物(II)の少なくとも一方または両方として用いられる具体的な化合物の種類が選択されることにより、相対的に、形成される薄膜の表面自由エネルギーの大きさが異なるものとなるような2種の重合体である。
【0009】
<化合物(I)>
化合物(I)のテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、テトラシクロ[6.2.1.1.02.7]ドデカ-4,5,9,10-テトラカルボン酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボルナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジクロロ-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボルナン-2-酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-エチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-7-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-7-エチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-エチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオンなどの脂肪族または環状脂肪族テトラカルボン酸二無水物;
【0010】
ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール-ビス(アンヒドロトリメリテート)、プロピレングリコール-ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,4-ブタンジオール-ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,6-ヘキサンジオール-ビス(アンヒドロトリメリテート)、1,8-オクタンジオール-ビス(アンヒドロトリメリテート)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-ビス(アンヒドロトリメリテート)、3,6-ビス(アンヒドロトリメリテート)コレスタン、下記式(1)〜(8)で表される化合物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物;下記式(9)〜(12)で表されるステロイド骨格を有するテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。
これらのテトラカルボン酸二無水物は、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
これらのうち、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、テトラシクロ[6.2.1.1.02.7]ドデカ-4,5,9,10-テトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオン、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、エチレングリコール-ビス(アンヒドロトリメリテート)、3,6-ビス(アンヒドロトリメリテート)コレスタンおよび1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物は、これらを用いて得られる液晶配向剤によって形成される液晶配向膜が長期間にわたって良好な液晶配向性を有するものとなるので好ましい。
【0015】
さらに、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、テトラシクロ[6.2.1.1.02.7]ドデカ-4,5,9,10-テトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]-フラン-1,3-ジオン、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオンおよび3,6-ビス(アンヒドロトリメリテート)コレスタンは、これらを用いて得られる液晶配向剤が長期間にわたって変質することがなく、優れた保存安定性が得られる点で特に好ましい。
【0016】
<化合物(II)>
化合物(II)のジアミン化合物の具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,5-ジアミノナフタレン、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)-10-ヒドロアントラセン、2,7-ジアミノフルオレン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2’,5,5’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジクロロ-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-(p-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、4,4’-ビス[(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル、ビス(4-アミノフェノキシ)-2,2’-ジメチルプロパン、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンゾアニリド、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンゾアニリドなどの芳香族ジアミン化合物;
【0017】
芳香族環に結合された2個のアミノ基(-NH2)と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン化合物;
1,1-メタキシリレンジアミン、1,2-エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02.7]ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などの脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物を挙げることができる。
【0018】
そして、芳香族環に結合された2個のアミノ基(-NH2)と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン化合物の好ましいものとしては、下記式(13)および式(14)で示される化合物を挙げることができる。
【0019】
【化4】

【0020】
〔式中、R2はベンゼン環を有する3価の有機基、R3は-O-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-から選択される有機基、R4はステロイド基を示す。〕
この式(13)で示されるジアミン化合物の具体例としては、3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル(その構造式は下記に化合物A01として示されている。)などを挙げることができる。
【0021】
【化5】

【0022】
〔式中、R2はベンゼン環を有する3価の有機基、R3は-O-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=O)NH-、-NHC(=O)-から選択される有機基、R5は炭素数1〜20の直鎖および/または分岐の炭化水素基を示す。〕
この式(14)で示されるジアミン化合物の具体例としては、3,5-ジアミノ安息香酸n-ドデシルなどを挙げることができる。
【0023】
更に、式(13)または式(14)で示される化合物を含め、上記のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン化合物の好ましい具体例としては、下記に化合物A01〜化合物A13として示されるものを挙げることができる。
【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
【化9】

【0028】
これらのジアミン化合物は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらのジアミン化合物は、市販品をそのまま使用しても、市販品を再還元してから使用してもよい。
【0029】
これらの中では、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノフルオレン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(p-フェニレンジイソブロピリデン)ビスアニリン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、4,4’-ビス[(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、並びに化合物A01、化合物A06(アミノ基の各々が芳香環のパラ位に結合したもの)、化合物A08(bが1または2であるパラ置換体のもの)、3,5-ジアミノ安息香酸n-ドデシルおよび化合物A13(トリフルオロメチル基が芳香環のパラ位に結合したもの)は、これらを用いて得られる液晶配向剤によって形成される液晶配向膜が長期間にわたって良好な液晶配向性を有するものとなることから、好ましい。
特に、p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、化合物A01、化合物A06、化合物A08、3,5-ジアミノ安息香酸n-ドデシル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリンおよび化合物A13(トリフルオロメチル基が芳香環のパラ位に結合したもの)がとりわけ好ましい。
【0030】
<化合物(I)と化合物(II)の使用割合>
重合体Aおよび重合体Cを得るための合成反応に供される化合物(I)と化合物(II)との使用割合は、ジアミン化合物に含まれるアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物に含まれる酸無水物基が0.2〜2当量となる割合であることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜1.4当量となる割合である。テトラカルボン酸二無水物に含まれる酸無水物基の割合が0.2当量未満の場合および2当量を超える場合には、いずれも、生成する重合体Aまたは重合体Cは分子量が十分に大きいものとならないため、得られる液晶配向剤は塗布性が劣ったものとなる。
【0031】
<重合体Aおよび重合体Cの合成>
本発明の液晶配向剤を構成する重合体Aおよび重合体Cは、その各々のいずれもが、化合物(I)と化合物(II)との反応により合成されるものである。この反応は、有機溶媒中において、通常0〜150℃、好ましくは0〜100℃の温度条件下で行われる。反応温度が0℃以下であると反応原料化合物の溶媒に対する溶解性が劣り、一方、150℃を超えると、得られる重合体は分子量の低いものとなる。
【0032】
重合体Aまたは重合体Cの合成に用いられる有機溶媒としては、反応原料であるテトラカルボン酸二無水物およびジアミン化合物、並びに反応で生成する重合体Aまたは重合体Cを溶解し得るものであれば特に制限はない。具体的には、例えばγ-ブチロラクトン,N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホトリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどの非プロトン系極性溶媒;m-クレゾール、キシレノール、フェノール、ハロゲン化フェノ-ルなどのフェノール系溶媒を挙げることができる。
【0033】
上記の有機溶媒の使用量(a)は、反応原料であるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との総量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して0.1〜30重量%になるような割合であることが好ましい。
【0034】
上記の有機溶媒には、生成する重合体Aまたは重合体Cに対して貧溶媒であるアルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、炭化水素類などを、生成する重合体Aまたは重合体Cが析出しない範囲で添加することができる。
【0035】
かかる貧溶媒の具体例としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、ジエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、2-ヒドロキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、エトキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸エチル、2-ヒドロキシ-3-メチルブタン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,4-ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールメチルフェニルエーテル、エチレングリコールエチルフェニルエーテル、ジエチレングリコールメチルフェニルエーテル、ジエチレングリコールエチルフェニルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール、3-エチル-3-メトキシブタノール、2-メチル-2-メトキシブタノール、2-エチル-2-メトキシブタノール、3-メチル-3-エトキシブタノール、3-エチル-3-エトキシブタノール、2-メチル-2-メトキシブタノール、2-エチル-2-エトキシブタノールなどを挙げることができる。
【0036】
以上の合成反応によって、重合体Aまたは重合体Cが溶解された状態の溶液が得られる。従って、この重合体の溶液を大量の貧溶媒中に注いで析出物を得、この析出物を減圧下乾燥することにより、目的とする重合体Aまたは重合体Cが得られる。
重合体Aまたは重合体Cは、これを適宜の有機溶媒に溶解させた上で貧溶媒により析出する工程を1回または数回行うことにより、精製することができる。
【0037】
<重合体Bおよび重合体D>
本発明の液晶配向剤を構成する重合体Bおよび重合体Dは、それぞれ、下記方法(1)〜(3)により調製することができ、通常、ポリイミドまたはポリイソイミドである。
【0038】
方法(1):重合体Aまたは重合体Cを加熱して脱水閉環(以下「イミド化」ともいう)する方法。
この方法における反応温度は、通常、60〜250℃、好ましくは100〜170℃である。温度が60℃未満ではイミド化が十分に進行せず、温度が200℃を超えると、得られる重合体Bまたは重合体Dは分子量の小さいものとなることがある。
【0039】
方法(2):重合体Aまたは重合体Cを有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤およびイミド化触媒を添加し、必要に応じて加熱する方法。
この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。この脱水剤の使用量は、重合体Aまたは重合体Cの繰り返し単位1モルに対して1.6〜20モルとするのが好ましい。また、イミド化触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができるが、これらに限定されるものではない。イミド化触媒の使用割合は、使用する脱水剤1モルに対して0.5〜10モルとするのが好ましい。
なお、イミド化に用いられる有機溶媒としては、重合体Aまたは重合体Cの合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。そして、このイミド化の温度は、通常0〜180℃、好ましくは60〜150℃とされる。
【0040】
方法(3):化合物(I)とジイソシアネート化合物とを混合し、必要に応じて加熱することによって縮合させる方法。
この方法に使用されるジイソシアネート化合物の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート化合物;シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート化合物;ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルスルホン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルスルフィドー4,4’-ジイソシアネート、1,2-ジフェニルエタン-p,p’-ジイソシアネート、2,2-ジフェニルプロパン-p,p’-ジイソシアネート、2,2-ジフェニル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-p,p’-ジイソシアネート、2,2-ジフェニルブタン-p,p’-ジイソシアネート、ジフェニルジクロロメタン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルフルオロメタン-4,4’-ジイソシアネート、ベンゾフェノン-4,4’-ジイソシアネート、N-フェニル安息香酸アミド-4,4’-ジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート化合物を挙げることができ、これらは、単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なお、この方法には特に触媒は必要とされず、反応温度は、通常50〜200℃、好ましくは100〜160℃である。
上記方法(1)〜(3)により得られる重合体Bまたは重合体Dの溶液に対し、重合体Aまたは重合体Cの精製方法と同様の操作を施すことにより、重合体Bまたは重合体Dを精製することができる。
【0041】
<末端修飾型の重合体>
本発明の液晶配向剤を構成する重合体A、重合体B、重合体Cおよび重合体Dは、各々、末端修飾型の重合体であってもよい。この末端修飾型の重合体は、分子量が調節されたものとなることから、さらに良好な塗布特性を有する液晶配向剤が得られる。
末端修飾型の重合体は、重合体Aまたは重合体Cの合成反応において、酸無水物やモノアミン化合物およびモノイソシアネート化合物を反応系に添加することにより得ることができる。
【0042】
末端修飾用の酸無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n-デシルサクシニック酸無水物、n-ドデシルサクシニック酸無水物、n-テトラデシルサクシニック酸無水物、n-ヘキサデシルサクシニック酸無水物などを挙げることができる。
また、末端修飾用のモノアミン化合物としては、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、n-ドデシルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ペンタデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-ヘプタデシルアミン、n-オクタデシルアミン、n-エイコシルアミンなどを挙げることができる。
また、末端修飾用のモノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを挙げることができる。
【0043】
<重合体の対数粘度>
本発明で用いられる重合体A、重合体B、重合体Cおよび重合体Dは、その対数粘度η1nの値が、好ましくは0.05〜10dl/g、さらに好ましくは0.05〜5dl/gのものである。
ここに、各重合体の対数粘度η1nの値は、N-メチル-2-ピロリドンを溶媒として用い、重合体の濃度が0.5g/100ミリリットルである溶液について30℃で粘度の測定を行い、下記数式によって求められるものである。
【0044】
【数1】

【0045】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、重合体Aおよび/または重合体Bよりなる第1の重合体と、重合体Cおよび/または重合体Dよりなる第2の重合体とが有機溶剤中に溶解されて構成される。
第1の重合体は、表面自由エネルギーが高い薄膜を与えるものであるが、具体的には、42dyn/cm以上の表面自由エネルギーを有する薄膜を与える重合体である。
第2の重合体は、第1の重合体に比較して、表面自由エネルギーが低い薄膜を与えるものであるが、具体的には、40dyn/cm以下の表面自由エネルギーを有する薄膜を与える重合体である。
【0046】
表面自由エネルギーが異なる薄膜を与える2種の重合体であっても、表面自由エネルギーがより高い薄膜の当該表面自由エネルギーが42dyn/cm未満となるような重合体の組合せを用いる場合には、得られる液晶配向剤は、発泡しやすいものとなり、膜厚の均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。
一方、表面自由エネルギーが異なる薄膜を与える2種の重合体であっても、表面自由エネルギーがより低い薄膜の当該表面自由エネルギーが40dyn/cmを超えるような重合体の組合せを用いる場合には、例えば印刷法によって均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。
【0047】
以上のような第1の重合体および第2の重合体を含有してなる本発明の液晶配向剤は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以上58dyn/cm以下の薄膜を与えるものとされる。
液晶配向剤が、より低い表面自由エネルギーの薄膜を与えるものであるときは、発泡しやすいものとなり、膜厚の均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。
一方、液晶配向剤が、より高い表面自由エネルギーの薄膜を与えるものであるときは、例えば印刷法によって均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。
【0048】
本発明の液晶配向剤において、第1の重合体100重量部に対する第2の重合体の使用量は、例えば0.01〜5重量部とされる。この第2の重合体の使用量が0.01重量部未満であると、形成される薄膜は膜厚の均一性が不十分なものとなり、一方、5重量部を越えると、当該液晶配向剤を適用するための印刷機などにおいて液晶配向剤が発泡しやすくなるため、この場合にも膜厚の均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。
そして、第1の重合体に対する第2の重合体の割合を調整することにより、ある程度の範囲で、当該液晶配向剤が形成する薄膜の表面自由エネルギーの大きさを調整することができる。
【0049】
第1の重合体および第2の重合体を溶解させる有機溶剤としては、重合体Aまたは重合体Cの合成反応に用いられるものとして例示した、非プロトン系極性溶剤、フェノール系溶剤などを挙げることができる。また、重合体Aまたは重合体Cの合成の反応において併用することができるものとして例示した貧溶剤も適宜選択して併用することができる。
本発明の液晶配向剤における濃度は、第1の重合体および第2の重合体による固形分濃度で0.1〜20重量%であることが好ましい。
【0050】
本発明の液晶配向剤は、第1の重合体と第2の重合体とを含有するものであるが、それ自体の特性またはこれより形成される液晶配向膜の特性を向上させるために種々の添加剤を含有させることができる。
このような添加剤としては、例えば液晶表示素子を構成する基板の表面に対する液晶配向膜の接着性を向上させる目的から、官能性シラン含有化合物を含有させることができる。
【0051】
このような官能性シラン含有化合物としては、例えば3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-エトキシカルボニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N-トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10-トリメトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、10-トリエトキシシリル-1,4,7-トリアザデカン、9-トリメトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、9-トリエトキシシリル-3,6-ジアザノニルアセテート、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ベンジル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリメトキシシランおよびN-ビス(オキシエチレン)-3-アミノプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。さらに、特開昭63-291922号公報に記載されているテトラカルボン酸二無水物とアミノ基含有シラン化合物との反応物などが含有されていてもよい。
【0052】
また、液晶配向膜を形成する際のラビング時の剥離特性を向上させるために、エポキシ化合物を添加することができる。
このエポキシ化合物としては、例えばビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、環状脂肪族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、グリシジルエステル系エポキシ化合物、グリシジルアミン系エポキシ化合物、複素環式エポキシ化合物などが挙げられる。
ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、例えばエピコート1001、同1002、同1003、同1004、同1007、同1009、同1010、同828(油化シェルエポキシ(株)製);ビスフェノールF型エポキシ化合物の市販品としては、例えばエピコート807(油化シェルエポキシ(株)製);フェノールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては、例えばエピコート152、同154(油化シェルエポキシ(株)製)、EPPN-201、同202(日本化薬(株)製);クレゾールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては、例えばEOCN-102S、同103S、同104S、同1020、同1025、同1027、(日本化薬(株)製);エピコート180S75(油化シェルエポキシ(株)製);環状脂肪族エポキシ化合物の市販品としては、例えばCY-175、同177、同179(CIBA-GEIGY社製)、ERL-4234、同4299、同4221、同4206(U.C.C.社製)、エポライト4000(共栄社化学(株)製)、エポリードGT403(ダイセル化学工業(株)製);脂肪族エポキシ化合物の市販品としては、例えばエポライト40E、同400E,同1600(共栄社化学(株)製);グリシジルエステル系エポキシ化合物の市販品としては、例えばショーダイン508(昭和電工(株)製)、アラルダイトCY-182、同192、同184(CIBA-GEIGY社製)、エピクロン200、同400(大日本インキ(株)製)、エピコート871、同872(油化シェルエポキシ(株)製)、ED-5661、同5662(セラニーズコーティング(株)製);グリシジルアミン系エポキシ化合物としては、例えばテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-パラ-アミノフェノール、トリグリシジル-メタ-アミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン;複素環式エポキシ化合物の市販品としては、例えばアラルダイトPT810(CIBA-GEIGY社製)、エピコートRXE-15(油化シェルエポキシ(株)製)、EPITEC(日産化学(株)製)などが挙げられる。
【0053】
その他のエポキシ化合物としては、例えばアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、α-エチルアクリル酸グリシジル、α-n-プロピルアクリル酸グリシジル、α-n-ブチルアクリル酸グリシジル、アクリル酸-3,4-エポキシブチル、メタクリル酸-3,4-エポキシブチル、アクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、メタクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、α-エチルアクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、N-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルベンジル]アクリルアミド、N-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルフェニルプロピル]アクリルアミドなどのエポキシ基含有ラジカル重合性化合物の(共)重合体を挙げることができる。
これらは単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
また、上記エポキシ化合物の効果を高める助触媒を添加しても良い。
該助触媒としては、例えばピロ-ル、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、インドール、インダゾール、ベンズイミダゾール、イソシアヌル酸などを挙げることができる。これらの中でも、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、4-メチル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチル-1-(2’-シアノエチル)イミダゾール、2-エチル-4-メチル-1-[2’-(3”,5”-ジアミノトリアジニル)エチル]イミダゾール、ベンズイミダゾールなどのイミダゾール誘導体が好適である。これらの助触媒は、単独でまたは2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0055】
<液晶表示素子の製造>
本発明の液晶配向剤によれば、例えば次のような方法により、液晶配向膜が形成され、さらに液晶表示素子が作製される。
【0056】
(1)透明導電膜が設けられている液晶表示素子用の基板の一面に当該液晶配向剤を塗布し、塗布面を加熱することにより、液晶配向膜の材料である薄膜を形成する。
ここに、基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートなどのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。
【0057】
基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO2)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム一酸化スズ(In2O3-SnO2)からなるITO膜などを用いることができ、これらの透明導電膜のパターニングには、フォトエッチング法や予めマスクを用いる方法などが用いられる。液晶配向剤の塗布方法としては、印刷法のほか、ロールコーター法、スピンナー法、カーテンコート法などの方法を用いることができる。
【0058】
液晶配向剤の塗布に際しては、基板表面および透明導電膜に対する接着性をさらに良好にするために、基板の一面および透明導電膜上に、官能性シラン含有化合物、官能性チタン化合物などを予め塗布することもできる。また、塗布面の乾燥または加熱温度は80〜200℃とされ、好ましくは120〜200℃とされる。なお、形成される薄膜の乾燥膜厚は、通常0.001〜1μmであり、好ましくは0.005〜0.5μmである。
【0059】
(2)形成された薄膜に配向処理が施される。この配向処理は、例えばナイロン、レーヨン、コットンなどからなる布を巻き付けたロールで薄膜の表面を一定方向に擦過するラビング処理法、紫外線などの放射線を照射する方法、一軸延伸法、ラングミュア・ブロジェット法などで薄膜を得る方法などにより行われる。この配向処理により、当該薄膜に液晶分子に対する配向能が付与されて液晶配向膜が形成される。
また、本発明の液晶配向剤により形成された薄膜または液晶配向膜には、例えば特開平6-222366号公報または特開平6-281937号公報に示されているような、紫外線を照射することによってプレチルト角を変化させるような処理、あるいは特開平5-107544号公報に示されているような、液晶配向膜上にレジストを部分的に塗布して液晶配向膜のラビング方向を部分的に変えるような処理を行うことによって、液晶表示素子の視覚特性を改善することが可能である。
【0060】
(3)上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚作製し、それぞれの液晶配向膜におけるラビング方向が直交、平行または逆平行となるように、2枚の基板を、間隙(セルギャップ)を介して対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面およびシール剤により区画されたセルギャップ内に液晶を注入充填し、注入孔を封止して液晶セルを構成する。そして、液晶セルの外表面、すなわち液晶セルを構成するそれぞれの基板の他面側に、偏光板をその偏光方向が当該基板の一面に形成された液晶配向膜のラビング方向と一致または直交するように貼り合わせることにより、液晶表示素子が得られる。
ここに、シール剤としては、例えば硬化剤およびスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂などを用いることができる。
【0061】
液晶材料としては、ネマティック型液晶およびスメクティック型液晶を挙げることができ、その中でもネマティック型液晶が好ましく、例えばシッフベース系液晶、アゾキシ系液晶、ビフェニル系液晶、フェニルシクロヘキサン系液晶、エステル系液晶、ターフェニル系液晶、ビフェニルシクロヘキサン系液晶、ピリミジン系液晶、ジオキサン系液晶、ビシクロオクタン系液晶、キュバン系液晶などを用いることができる。さらに、p-デシロキシベンジリデン-p-アミノ-2-メチルブチルシンナメートなどの強誘電性液晶も使用することができる。
【0062】
また、これらの液晶に、例えばコレステリルクロライド、コレステリルノナエート、コレステリルカーボネートなどのコレステリック型液晶や商品名「C-15」「CB-15」(メルク社製)として販売されているようなカイラル剤などを添加して使用することもできる。
液晶セルの外表面に貼り合わされる偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながら、ヨウ素を吸収させたH膜と称される偏光膜を酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板またはH膜そのものからなる偏光板を挙げることができる。
【0063】
本発明の配向膜形成剤は、TN型液晶表示素子用の液晶配向膜のみならず、STN(Super Twisted Nematic)型液晶セルを有するSTN型液晶表示素子用の液晶配向膜を形成するためにも特に好適に用いることができる。
また、本発明の液晶配向剤により形成される液晶配向膜を備えた液晶表示素子は、基板間に注入充填される液晶材料の種類を選択することにより、SH(Super Homeotropic)型液晶表示素子、強誘電性液晶表示素子または反強誘電性液晶表示素子などとしても好適に使用することができる。
さらに、本発明の液晶配向剤により形成される液晶配向膜を備えた液晶表示素子は、液晶の配向性および信頼性に優れ、種々の装置に有効に使用することができ、例えば卓上計算機、腕時計、置時計、計数表示板、ワードプロセッサ、パーソナルコンピュータ、液晶テレビなどの表示装置として好適に用いられる。
【0064】
本発明の好適な実施態様を掲げると次のとおりである。
第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.1〜5重量部であることを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。
【0065】
【実施例】
以下、本発明の実施例をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
また、実施例および比較例に係る液晶配向剤により形成される薄膜の膜厚の状態および表面自由エネルギーの大きさ、並びに当該液晶配向剤によって形成される液晶配向膜を備える液晶表示素子の液晶配向性および電圧保持率についての測定方法または評価方法は、以下のとおりである。
【0066】
〔薄膜の膜厚の均一性〕
触針式膜厚計を用いて、薄膜の平均膜厚の値並びに、最大膜厚の値と最小膜厚の値との差(これを「最大較差」という。)を測定した。
〔液晶配向性〕
電圧をオン・オフさせた時の液晶セル中における異常ドメインの有無を偏光顕微鏡で観察し、異常ドメインのない場合を「良好」と、ある場合を「不良」と判定した。
【0067】
〔電圧保持率〕
60℃の恒温槽中に液晶表示素子を1カ月間放置し、放置後の液晶表示素子の電圧保持率を「VHR-1」(東陽テクニカ社製)を用い、フレーム周期16.7msecの電圧保持率を測定した。
【0068】
〔表面自由エネルギー〕
文献「JOURNAL OF APPLIED POLYMER SCIENCE VOL.13,PP.1741-1747(1969)」に記載されている、D.K.OWENSらの方法に従い、薄膜上における純水の接触角およびヨウ化メチレンの接触角から、次のようにして求めた。
【0069】
固体の表面に液体が接触している系において、当該液体の表面自由エネルギー(表面張力ともいわれる。)と、固体の表面自由エネルギーと、接触角との関係は、下記式(1)で表わされる。
【数2】
(1+cosθ)×γL=2(γSd×γLd)1/2+2(γSp×γLp)1/2
…(1)
【0070】
ここで、γL; 液体の表面自由エネルギー
γLd; 液体の表面自由エネルギーの分散成分
γLp; 液体の表面自由エネルギーの極性成分
γSd; 固体の表面自由エネルギーの分散成分
γSp; 固体の表面自由エネルギーの極性成分
θ ;接触角
【0071】
而して、20℃において、純水については、γL=72.8、γLd=21.8およびγLp=51.0(単位はdyn/cm)であり、ヨウ化メチレンについては、γL=50.8、γLd=49.5およびγLp=1.3である。
これらの値を式(1)に代入すると、純水の場合には下記式(2)が、ヨウ化メチレンの場合には式(3)が得られる。ここで、θ1およびθ2は、それぞれ純水およびヨウ化メチレンの接触角である。
【0072】
【数3】
(1+cosθ1)×72.8=2(γSd×21.8)1/2+2(γSp×51.0)1/2
…(2)
(1+cosθ2)×50.8=2(γSd×49.5)1/2+2(γSp×1.3)1/2
…(3)
【0073】
従って、式(2)および式(3)に、接触角の測定値を代入し、この連立方程式からγSdおよびγSpを求め、さらに下記式(4)により薄膜の表面自由エネルギーγSを求めた。
【数4】
γS=γSd+γSp …(4)
【0074】
なお、接触角は、接触角測定装置「CA-A型」(協和界面科学(株)製)を用いて、水またはヨウ化メチレンを薄膜上に4マイクロリットル滴下し、1分間経過後の接触角を測定することにより求めた。
【0075】
〔合成例1〕
2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物44.8gおよびp-フェニレンジアミン21.6gをN-メチル-2-ピロリドン988gに溶解させ、室温で6時間反応させた。得られた反応生成溶液を大過剰のメチルアルコール中に注いで反応生成物を沈澱させた。その後、沈殿物を分離してメチルアルコールで洗浄し、減圧下において40℃で15時間乾燥させることにより、対数粘度1.44dl/gの重合体(A-1)60.2gを得た。
この重合体(A-1)1gをN-メチル-2-ピロリドン19gに溶解し、この溶液をガラス基板の表面に設けられたITOよりなる透明導電膜上に印刷法によって塗布し、180℃で1時間乾燥させることにより、薄膜を形成した。この薄膜の表面自由エネルギーは58dyn/cmであった。
【0076】
〔合成例2〕
合成例1で得られた重合体(A-1)30.0gをγ-ブチロラクトン570gに溶解し、この溶液にピリジン21.6gと無水酢酸16.74gを添加し、120℃で3時間反応させてイミド化を行った。
次いで、合成例1と同様にして、反応生成物の沈澱、分離、洗浄および乾燥を行うことにより、対数粘度1.35dl/gの重合体(B-1)24.0gを得た。この重合体(B-1)による薄膜の表面自由エネルギーは57dyn/cmであった。
【0077】
〔合成例3〕
合成例1において、ジアミン化合物として、p-フェニレンジアミン10.8gと2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン33.4gとを用いたこと以外は合成例1と同様にして重合体(A-2)を得、さらにこの重合体(A-2)に対して合成例2と同様にしてイミド化を行うことにより、対数粘度1.06dl/gの重合体(B-2)22.2gを得た。この重合体(B-2)による薄膜の表面自由エネルギーは45dyn/cmであった。
【0078】
〔合成例4〕
合成例3において、テトラカルボン酸二無水物として、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物39.2gを用いたこと以外は合成例3と同様にして、対数粘度1.16dl/gの重合体(A-3)79.5gを得た。この重合体(A-3)による薄膜の表面自由エネルギーは42dyn/cmであった。
【0079】
〔合成例5〕
合成例1において、ジアミン化合物として、p-フェニレンジアミン20.5gと3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル5.2gとを用いたこと以外は合成例1と同様にして重合体(A-4)を得、さらにこの重合体(A-4)に対して合成例2と同様にしてイミド化を行うことにより、対数粘度1.22dl/gの重合体(B-4)22.2gを得た。この重合体(B-4)による薄膜の表面自由エネルギーは46dyn/cmであった。
【0080】
〔合成例6〕
合成例1において、ジアミン化合物として、p-フェニレンジアミン19.7gと3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル10.4gとを用いたこと以外は合成例1と同様にして重合体(A-5)を得、さらにこの重合体(A-5)に対して合成例2と同様にしてイミド化を行うことにより、対数粘度1.02dl/gの重合体(B-5)22.4gを得た。この重合体(B-5)による薄膜の表面自由エネルギーは42dyn/cmであった。
【0081】
〔合成例7〕
合成例5において、テトラカルボン酸二無水物として、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン60.0gを用いたこと以外は合成例5と同様にして重合体(A-6)を得、さらにこの重合体(A-6)に対して合成例2と同様にしてイミド化を行うことにより、対数粘度1.06dl/gの重合体(B-6)22.2gを得た。この重合体(B-6)による薄膜の表面自由エネルギーは42dyn/cmであった。
【0082】
〔合成例8〕
合成例1において、ジアミン化合物として、p-フェニレンジアミン19.7gと3,5-ジアミノ安息香酸-n-ドデシル6.5gとを用いたこと以外は合成例1と同様にして重合体(A-7)を得、さらにこの重合体(A-7)に対して合成例2と同様にしてイミド化を行うことにより、対数粘度1.01dl/gの重合体(B-7)24.4gを得た。この重合体(B-7)による薄膜の表面自由エネルギーは44dyn/cmであった。
【0083】
〔合成例9〕
合成例1において、ジアミン化合物として、p-フェニレンジアミン17.3gと3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル20.8gを用いたこと以外は合成例1と同様にして対数粘度0.98dl/gの重合体(C-1)79.9gを得た。この重合体(C-1)による薄膜の表面自由エネルギーは39dyn/cmであった。
【0084】
〔合成例10〕
合成例9で得られた重合体(C-1)に対して、合成例2と同様にしてイミド化を行うことにより、対数粘度0.97dl/gの重合体(D-1)23.2gを得た。この重合体(D-1)による薄膜の表面自由エネルギーは38dyn/cmであった。
【0085】
〔合成例11〕
合成例9において、テトラカルボン酸二無水物として、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物39.2gを用いたこと以外は合成例9と同様にして対数粘度1.02dl/gの重合体(C-2)74.5gを得た。この重合体(C-2)による薄膜の表面自由エネルギーは37dyn/cmであった。
【0086】
〔合成例12〕
合成例9において、テトラカルボン酸二無水物として、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン60.0gを用いたこと以外は合成例9と同様にして重合体(C-3)を得、さらにこの重合体(C-3)に対して合成例2と同様にしてイミド化を行うことにより、対数粘度0.89dl/gの重合体(D-3)23.2gを得た。この重合体(D-3)による薄膜の表面自由エネルギーは36dyn/cmであった。
【0087】
〔合成例13〕
合成例1において、ジアミン化合物として、p-フェニレンジアミン17.3gと化合物A05として示されるジアミン化合物(アミノ基の各々が芳香環のパラ位に結合したもの)25.7gとを用いたこと以外は合成例1と同様にして重合体(C-4)を得、さらにこの重合体(C-4)に対して合成例2と同様にしてイミド化を行うことにより、対数粘度0.79dl/gの重合体(D-4)24.2gを得た。この重合体(D-4)による薄膜の表面自由エネルギーは33dyn/cmであった。
【0088】
〔合成例14〕
合成例1において、テトラカルボン酸二無水物として、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物88.8gと2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン66.8gを用いたこと以外は合成例1と同様にして対数粘度1.26dl/gの重合体(C-5)140.3gを得た。この重合体(C-5)による薄膜の表面自由エネルギーは37dyn/cmであった。
【0089】
〔合成例15〕
合成例1において、ジアミン化合物として、4,4’-ジアミノベンズアニリド45.5gを用いたこと以外は合成例1と同様にして対数粘度1,22dl/gの重合体(A-8)86.2gを得た。この重合体(A-8)による薄膜の表面自由エネルギーは60.5dyn/cmであった。
【0090】
〔合成例16〕
合成例1において、ジアミン化合物として、p-フェニレンジアミン18.1gと3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル14.5gとを用いたこと以外は合成例1と同様にして重合体(X)を得、さらにこの重合体(X)に対して合成例2と同様にしてイミド化を行うことにより、対数粘度0.99dl/gの重合体(Y)23.2gを得た。この重合体(Y)による薄膜の表面自由エネルギーは41dyn/cmであった。
【0091】
〔合成例17〕
合成例1において、テトラカルボン酸二無水物として、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン62.9gを用い、ジアミン化合物として、4,4’-ジアミノフェニルメタン39.7gを用いたこと以外は合成例1と同様にして重合体(A-9)を得、さらにこの重合体(A-9)に対して、イミド化温度を80℃としたこと以外は合成例2と同様にしてイミド化を行うことにより、対数粘度0.87dl/gの重合体(B-9)23.5gを得た。この重合体(B-9)による薄膜の表面自由エネルギーは54dyn/cmであった。
【0092】
〔合成例18〕
合成例1において、テトラカルボン酸二無水物として、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物44.8gを用いたこと以外は合成例1と同様にして、対数粘度0.96dl/gの重合体(A-10)59.6gを得た。この重合体(A-10)による薄膜の表面自由エネルギーは57dyn/cmであった。
【0093】
〔合成例19〕
合成例9において、3,5-ジアミノ安息香酸コレステリルに代えて、化合物A12(トリフルオロメチル基が芳香環のパラ位に結合したもの)16.9gを用いたこと以外は合成例9と同様にして、対数粘度0.98dl/gの重合体(C-6)75.4gを得た。この重合体(C-6)による薄膜の表面自由エネルギーは37dyn/cmであった。
【0094】
<実施例1>
(1)液晶配向剤の調製:
合成例1で得られた重合体(A-1)10.0gおよび合成例9で得られた重合体(C-1)0.1gをN-メチル-2-ピロリドンに溶解させて固形分濃度4重量%の溶液とし、この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過し、液晶配向剤を調製した。
【0095】
(2)薄膜の形成:
この液晶配向剤を、ガラス基板の一面に設けられたITO膜からなる透明導電膜上に印刷装置を用いて塗布し、180℃で1時間乾燥することにより、薄膜を形成した。この薄膜の膜厚の状態は、平均膜厚が500Å、最大較差が15Åであった。また、この薄膜の表面自由エネルギーは56dyn/cmであった。
【0096】
(3)液晶配向膜の形成:
形成された薄膜の表面に対し、レーヨン製の布を巻き付けたロ-ルを有するラビングマシーンを用いてラビング処理を行うことにより、液晶分子の配向能を当該薄膜に付与して液晶配向膜を形成した。
ここに、ラビング処理条件は、ロ-ルの回転数500rpm、ステージの移動速度1cm/秒、毛足押し込み長さ0.4mmであった。
【0097】
(4)液晶表示素子の作製:
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚作製し、それぞれの基板の外縁部に、直径17μmの酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂をスクリーン印刷法によって塗布した後、それぞれの液晶配向膜におけるラビング方向が直交状態となるように2枚の基板を間隙を介して対向配置し、外縁部同士を当接させて圧着して接着剤を硬化させた。次いで、基板の表面および外縁部の接着剤により区画されたセルギャップ内に、ネマティック型液晶「MLC-2001」(メルク・ジャパン社製)を注入充填し、次いで、注入孔をエポキシ系接着剤で封止して液晶セルを構成した。次いで、液晶セルの外表面、すなわち、液晶セルを構成するそれぞれの基板の他面に、偏光方向が当該基板の一面に形成された液晶配向膜のラビング方向と一致するように偏光板を貼り合わせることにより、液晶表示素子を作製した。
【0098】
(5)液晶表示素子の評価:
以上のようにして作製された液晶表示素子について、液晶配向性を調べたところ、電圧をオン・オフさせた時に液晶セル中に異常ドメインは認められず、優れた配向性を有するものであることが認められた。
また、この液晶表示素子を60℃の恒温槽中に1カ月間放置し、放置後の液晶表示素子の電圧保持率を測定したところ、98.3%と高い値を示した。
【0099】
<実施例2〜実施例18>
表1に示す処方に従って、合成例2〜14および合成例17〜19により得られた重合体A、重合体B、重合体Cおよび重合体Dの各々を用い、実施例1と同様にして液晶配向剤を調製した。次いで、このようにして得られた液晶配向剤の各々を用い、実施例1と同様にして液晶表示素子を作製した。
得られた液晶配向剤の各々について、薄膜の膜厚の状態および表面自由エネルギーの大きさを調べ、また液晶表示素子の各々について、液晶配向性および電圧保持率について評価した。結果を実施例1と共に表1に示す。
【0100】
なお、表1および表2において、第1の重合体および第2の重合体の各欄の上段における括弧内の数字は、当該重合体のみによる薄膜の表面自由エネルギーの値を示し(単位:dyn/cm)、下段における数字は当該重合体の使用量(単位:g)を示す。
また、比較例3および比較例6に係る第1の重合体および第2の重合体の欄において括弧書きされている物質は、本発明の第1の重合体および第2の重合体に該当するものではない。
【0101】
〔比較例1〕
合成例1により得られた重合体(A-1)10gのみをN-メチル-2-ピロリドンに溶解させて固形分濃度4重量%の溶液を調製したこと以外は実施例1と同様にして、比較用の液晶配向剤を調製した。
この液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶表示素子を作製して、同様の評価を行った。結果を表2に示す。この液晶配向剤による液晶表示素子では、液晶配向膜の膜厚の不均一性によると考えられる表示ムラが発生した。
【0102】
〔比較例2〕
合成例9で得られた重合体(C-1)10.0gのみをN-メチル-2-ピロリドンに溶解させて固形分濃度4重量%の溶液を調製したこと以外は実施例1と同様にして、比較用の液晶配向剤を調製した。
この液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶表示素子を作製して、同様の評価を行った。結果を表2に示す。この液晶配向剤による液晶表示素子では、印刷時の液晶配向剤の発泡に基づくと認められる膜厚のムラおよびこれによる表示ムラが発生した。
【0103】
〔比較例3〕
合成例16で得られた重合体(Y)10.0gのみをN-メチル-2-ピロリドンに溶解させて固形分濃度4重量%の溶液を調製したこと以外は実施例1と同様にして、比較用の液晶配向剤を調製した。
この液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶表示素子を作製して、同様の評価を行った。結果を表2に示す。この液晶配向剤による液晶表示素子では、液晶配向膜の膜厚の不均一性によると考えられる表示ムラが発生した。
【0104】
〔比較例4〕
合成例9で得られた重合体(C-1)10.0gと、合成例13で得られた重合体(D-4)0.7gとを、N-メチル-2-ピロリドンに溶解させて固形分濃度4重量%の溶液を調製したこと以外は実施例1と同様にして、比較用の液晶配向剤を調製した。
この液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶表示素子を作製して、同様の評価を行った。結果を表2に示す。この液晶配向剤による液晶表示素子では、液晶配向膜の膜厚の不均一性によると考えられる表示ムラが発生した。
【0105】
〔比較例5〕
合成例15で得られた重合体(A-8)10.0gと、合成例12で得られた重合体(D-3)0.05gとを、N-メチル-2-ピロリドンに溶解させて固形分濃度4重量%の溶液を調製したこと以外は実施例1と同様にして、比較用の液晶配向剤を調製した。
この液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶表示素子を作製して、同様の評価を行った。結果を表2に示す。この液晶配向剤による液晶表示素子では、液晶配向膜の膜厚の不均一性によると考えられる表示ムラが発生した。
【0106】
〔比較例6〕
合成例1で得られた重合体(A-1)10.0gおよび界面活性剤「メガファックF-120」(大日本インキ化学社製)0.1gをN-メチル-2-ピロリドンに溶解させて固形分濃度4重量%の溶液を調製したこと以外は実施例1と同様にして、比較用の液晶配向剤を調製した。
この液晶配向剤を用いて実施例1と同様にして液晶表示素子を作製して、同様の評価を行った。結果を表2に示す。この液晶配向剤による液晶表示素子では、液晶配向膜の膜厚は均一であったが、液晶表示素子の電圧保持率が劣るものであった。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
【発明の効果】
本発明によれば、膜厚の均一性の高い薄膜を形成することができて良好な液晶配向性を有すると共に、電気的特性に優れた液晶表示素子が得られる液晶配向膜を形成することのできる液晶配向剤を提供することができる。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
▲1▼ 訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載
「表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体とが含有されてなり、
前記第1の重合体および第2の重合体は、いずれも、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸およびこれを脱水閉環した構造を有する重合体から選ばれる少なくとも1種よりなり、
表面自由エネルギーが38dyn/cmを超え、60dyn/cm以下の薄膜が形成されることを特徴とする液晶配向剤。」
を、
「表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体とが含有されてなり、
前記第1の重合体および第2の重合体は、いずれも、テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物を反応させて得られるポリアミック酸およびこれを脱水閉環した構造を有する重合体から選ばれる少なくとも1種よりなり、
第1の重合体は、表面自由エネルギーが42dyn/cm以上の薄膜を与える重合体であり、第2の重合体は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以下の薄膜を与える重合体であり、
第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.01〜5重量部であり、
表面自由エネルギーが40dyn/cm以上、58dyn/cm以下の薄膜が形成されることを特徴とする液晶配向剤。」
と訂正する。
▲2▼ 訂正事項b
明細書の段落番号0005の記載を、
「【課題を解決するための手段】
本発明の液晶配向剤は、表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体とが含有されてなり、
前記第1の重合体および第2の重合体は、いずれも、テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミン化合物および脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物から選ばれたジアミノオルガノシロキサン以外のジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミック酸およびこれを脱水閉環した構造を有する重合体から選ばれる少なくとも1種よりなり、
第1の重合体は、表面自由エネルギーが42dyn/cm以上の薄膜を与える重合体であり、第2の重合体は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以下の薄膜を与える重合体であり、
第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.01〜5重量部であり、表面自由エネルギーが40dyn/cm以上、58dyn/cm以下の薄膜が形成されることを特徴とする。」
と訂正する。
▲3▼ 訂正事項c
明細書の段落番号0006の記載を、
「【発明の実施の形態】
以下、本発明について、具体的に説明する。
本発明に係る液晶配向剤は、表面自由エネルギーが高い薄膜を与える第1の重合体と、この第1の重合体より表面自由エネルギーが低い薄膜を与える第2の重合体との両者が含有された溶液であって、薄膜を形成させたときに、表面自由エネルギーが40dyn/cm以上、58dyn/cm以下である薄膜を形成するものである。ここに、「表面自由エネルギーが高い(または低い)薄膜を与える重合体」とは、当該重合体の溶液を基板の表面に塗布して乾燥することによって薄膜を形成したときに、当該薄膜が高い(または低い)表面自由エネルギーを有する重合体をいう。」
と訂正する。
▲4▼ 訂正事項d
明細書の段落番号0017の記載を、
「 芳香族環に結合された2個のアミノ基(-NH2)と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン化合物;
1,1-メタキシリレンジアミン、1,2-エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6.2.1.02.7]ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)などの脂肪族または環状脂肪族ジアミン化合物を挙げることができる。」
と訂正する。
▲5▼ 訂正事項e
明細書の段落番号0018および0019の記載を削除する。
▲6▼ 訂正事項f
明細書の段落番号0020、0021、0022、0023、0024および0025の記載における「式(14)」を「式(13)」と、「式(15)」を「式(14)」と、それぞれ訂正する。
▲7▼ 訂正事項g
明細書の段落番号0047の記載を
「<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、重合体Aおよび/または重合体Bよりなる第1の重合体と、重合体Cおよび/または重合体Dよりなる第2の重合体とが有機溶剤中に溶解されて構成される。
第1の重合体は、表面自由エネルギーが高い薄膜を与えるものであるが、具体的には、42dyn/cm以上の表面自由エネルギーを有する薄膜を与える重合体である。
第2の重合体は、第1の重合体に比較して、表面自由エネルギーが低い薄膜を与えるものであるが、具体的には、40dyn/cm以下の表面自由エネルギーを有する薄膜を与える重合体である。」
と訂正する。
▲8▼ 訂正事項h
明細書の段落番号0048の記載を
「 表面自由エネルギーが異なる薄膜を与える2種の重合体であっても、表面自由エネルギーがより高い薄膜の当該表面自由エネルギーが42dyn/cm未満となるような重合体の組合せを用いる場合には、得られる液晶配向剤は、発泡しやすいものとなり、膜厚の均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。
一方、表面自由エネルギーが異なる薄膜を与える2種の重合体であっても、表面自由エネルギーがより低い薄膜の当該表面自由エネルギーが40dyn/cmを超えるような重合体の組合せを用いる場合には、例えば印刷法によって均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。」
と訂正する。
▲9▼ 訂正事項i
明細書の段落番号0049の記載を
「 以上のような第1の重合体および第2の重合体を含有してなる本発明の液晶配向剤は、表面自由エネルギーが40dyn/cm以上58dyn/cm以下の薄膜を与えるものとされる。
液晶配向剤が、より低い表面自由エネルギーの薄膜を与えるものであるときは、発泡しやすいものとなり、膜厚の均一性の高い薄膜を形成することが困難となるおそれがある。
一方、液晶配向剤が、より高い表面自由エネルギーの薄膜を与えるものであるときは、例えば印刷法によって均一性の高い薄膜を形成することが 困難となるおそれがある。」
と訂正する。
▲10▼ 訂正事項j
明細書の段落番号0066の記載を
「 本発明の好適な実施態様を掲げると次のとおりである。
第1の重合体の100重量部に対する第2の重合体の割合が0.1〜5重量部であることを特徴とする請求項1に記載の液晶配向剤。」
と訂正する。
▲11▼ 訂正事項k
明細書の段落番号0080の記載における「テトラカルボン酸二無水物をとして」を、「テトラカルボン酸二無水物として」と訂正する。
異議決定日 2003-01-07 
出願番号 特願平8-68301
審決分類 P 1 651・ 534- YA (C09K)
P 1 651・ 113- YA (C09K)
P 1 651・ 121- YA (C09K)
P 1 651・ 161- YA (C09K)
P 1 651・ 531- YA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 右田 昌士  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 吉田 禎治
町田 光信
登録日 2000-06-16 
登録番号 特許第3077585号(P3077585)
権利者 ジェイエスアール株式会社
発明の名称 液晶配向剤  
代理人 高木 千嘉  
代理人 大井 正彦  
代理人 大井 正彦  
代理人 西川 裕子  
代理人 西村 公佑  
代理人 小島 隆司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ