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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02B
管理番号 1074737
異議申立番号 異議2001-70936  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-01-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-19 
確定日 2003-02-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3099523号「カラーフィルター用感放射線性組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3099523号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3099523号に係る手続きの経緯の概要は、以下のとおりである。
平成4年6月24日 特許出願
平成12年8月18日 特許の設定登録
平成12年10月16日 特許掲載公報の発行
平成13年3月19日 斉藤秀和より特許異議の申立て
平成13年4月16日 田嶋順治より特許異議の申立て
平成13年4月9日 田中英博より特許異議の申立て
平成13年4月13日 チッソ株式会社より特許異議の申立て
平成13年4月16日 株式会社コーエンより特許異議の申立て
平成13年4月16日 村松雄一より特許異議の申立て
平成13年7月25日付 取消理由通知
平成13年10月9日 意見書及び訂正請求書の提出
平成13年10月15日 各申立人への審尋
平成13年11月26日 チッソ株式会社より回答書提出
平成14年3月18日付 訂正拒絶理由通知及び取消理由通知
平成14年5月27日 意見書及び訂正請求書の提出
平成14年5月27日 平成13年10月9日付訂正請求書の取下げ

2.訂正の適否に対する判断
2-1.訂正事項
訂正を請求する事項は、次のとおりである。
訂正事項a:
特許請求の範囲の請求項1にある「[D]有機溶剤に溶解または分散されてなり、」と「前記バインダーポリマー[B]の」の間に、「前記バインダーポリマー[B]が、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体から選ばれる少なくとも1種であり、」を挿入する。
訂正事項b:
特許請求の範囲の請求項1にある「重量平均分子量が、10,000〜500,000であり」と「前記有機溶剤[D]が」の間に、「、前記バインダーポリマー[B]を形成するに際し、前記メタクリル酸が、前記バインダーポリマー[B]を形成するモノマー合計100重量%に対して、20重量%〜40重量%の量で用いられ、」を挿入する。

2-2.新規事項の有無、訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aは、特許明細書の段落【0020】の記載に基づき、バインダーポリマーを特定の3元共重合体に限定するものであるから、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内の訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)訂正事項bは、特許明細書の段落【0019】の記載に基づき、バインダーポリマーを形成するに際して、メタクリル酸モノマーの量を限定するものであるから、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内の訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
3-1.特許異議申立の理由の概要
(1)特許異議申立人斉藤秀和(以下、「申立人1」という。)は、下記の甲第1号証を提出して、訂正前の本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開平2-804号公報(以下、「刊行物1」という。)

(2)特許異議申立人田嶋順治(以下、「申立人2」という。)は、下記の甲第1号証及び甲第2号証を提出して、訂正前の本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開昭61-256303号公報(以下、「刊行物2」という 。)
甲第2号証:追試報告書

(3)特許異議申立人田中英博(以下、「申立人3」という。)は、下記の甲第1号証ないし甲第3号証を提出して、訂正前の本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であり、また、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開平4-115203号公報(以下、「刊行物3」という。)
甲第2号証:特開平2-804号公報(上記「刊行物1」と同一。)
甲第3号証:特開平4-153657号公報(以下、「刊行物4」という。)

(4)特許異議申立人チッソ株式会社(以下、「申立人4」という。)は、下記の甲第1号証ないし甲第6号証を提出して、訂正前の本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であり、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、取り消されるべきものであり、さらに、特許法第36条第4項に規定により特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものである旨主張するとともに、平成13年11月26日付回答書において、下記の参考試料1ないし3を提出している。
甲第1号証:特開平2-804号公報(上記「刊行物1」と同一。)
甲第2号証:特開平2-199403号公報(以下、「刊行物5」という。)甲第3号証:チッソ株式会社横浜研究所 佐藤弘幸作成の「(メタ)アクリ ル酸エステル共重合体の分子量に関する実験報告書」
甲第4号証:「溶剤ポケットブック」昭和42年11月25日発行、(株) オーム社、第489〜491頁、第499頁(以下、「刊行物 6」という。)
甲第5号証:「東京化成工業株式会社製品安全データシート、製品コードP 1171」1995年8月2日作成
甲第6号証:チッソ株式会社横浜研究所 佐藤弘幸作成の「カラーフィルタ ー用感放射性組成物に関する実験報告書」
参考資料1:特開平3-284651号公報(以下、「刊行物7」という。)
参考資料2:特開平4-42523号公報(以下、「刊行物8」という。)
参考資料3:特開平4-153657号公報(上記「刊行物4」と同一。)

(5)特許異議申立人株式会社コーエン(以下、「申立人5」という。)は、下記の甲第1号証ないし甲第5号証を提出して、訂正前の本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明であり、また、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開昭63-298304号公報(以下、「刊行物9」とい う。)
甲第2号証:特開平2-804号公報(上記「刊行物1」と同一。)
甲第3号証:特開平2-258081号公報(以下、「刊行物10」という 。)
甲第4号証:特開平4-37856号公報(以下、「刊行物11」という。)
甲第5号証:浅原照三ら編「溶剤ハンドブック」、株式会社講談社、1976年 3月20日発行、第772〜774頁、第793頁及び第832 〜834頁(以下、「刊行物12」という。)

(6)特許異議申立人松村雄一(以下、「申立人6」という。)は、下記の甲第1号証及び参考文献1,2を提出して、訂正前の本件の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることできないものであるから取り消されるべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開平2-203347号公報(以下、「刊行物13」という 。)
参考文献1:COLOUR INDEX VOLUME5(1982年) 第5217〜5218頁、第5243頁 、第ix頁及び第xi頁
参考文献2:化学大辞典 第8巻、共立出版株式会社、昭和59年3月15 日 縮刷版第28刷発行、第224頁

3-2.本件発明
上記のごとく、訂正は認められるので、本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】[A]顔料、
[B]バインダーポリマーおよび
[C]感放射線化合物が、
[D]有機溶剤に溶解または分散されてなり、
前記バインダーポリマー[B]が、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体から選ばれる少なくとも1種であり、
前記バインダーポリマー[B]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;THFをキャリヤーとする)で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量が、10,000〜500,000であり、
前記バインダーポリマー[B]を形成するに際し、前記メタクリル酸が、前記バインダーポリマー[B]を形成するモノマー合計100重量%に対して、20重量%〜40重量%の量で用いられ、
前記有機溶剤[D]が、常圧における沸点が100〜200℃であり、20℃における蒸気圧が0.05〜10mmHgであるエステル類、エーテル類またはケトン類の少なくとも1種を、50重量%以上の量で含んでなる溶剤であることを特徴とするカラーフィルター用感放射線性組成物。」

3-3.対比・判断
3-3-1.第29条第1項第3号(新規性)違反について
上記刊行物1乃至13の中で、カラーフィルター用感放射線性組成物におけるバインダーポリマーについて記載があるのは、刊行物1〜5、刊行物9、10及び刊行物13であるので、以下、順に検討する。

刊行物1(特開平2-804号公報)には、カラーフィルタ用感光性組成物に使用されるバインダーについて、「バインダーは、モノマーに対して相溶性のある線状有機高分子重合体で、有機溶剤に可溶で、弱アルカリ水溶液で現像できるものが好ましい。このような線状有機高分子重合体としては、・・・特にこれらのなかでベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸共重合体やベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸/および他のモノマーとの多元共重合体が好適である。」(特に第5頁右上欄第8〜12行)と記載され、実施例では、平均分子量20,000の「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」を用いたことが記載されているが、他のモノマーとして、スチレン又はポリスチレンマクロモノマーを用いた3元系共重合体についてまでは記載も示唆もない。

刊行物2(特開昭61-256303号公報)には、カラーフィルターの製造に用いられる感光性樹脂における有機重合結合剤について、「有機重合結合剤としては、上記モノマー化合物及び光重合開始剤との相溶性の点からビニル系高分子物質が良好であるビニル系高分子物質としては、たとえば、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸、ポリマタクリル酸メチル、ポリビニルエーテル、ポリビニルアセタール及びこれらの共重合物等の種々のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。」(第4頁右下欄末行〜第5頁左上欄第9行)と記載され、実施例1では、「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」(第7頁第1表参照)を用いたことが記載されているが、3元系共重合体を用いること、及びモノマーとしてスチレン又はポリスチレンマクロモノマーを用いること、のいずれについても記載も示唆もない。

刊行物3(特開平4-115203号公報)には、カラーフィルターの製造に用いられる感光性樹脂におけるバインダーについて、「バインダーとしては、付加重合性不飽和モノマーと相溶性のある、線状有機高分子で、有機溶剤に可溶であり、弱アルカリ水溶液に可溶であるか少なくとも膨潤するものが好ましい。このような線状有機高分子としては、・・・特に好ましくは米国特許第4139391号明細書に記載のベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸の共重合体やベンジル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸と他のモノマーとの多元共重合体を挙げることができる。」(特に第7頁左下欄第7〜11行)と記載され、実施例1では、「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」(第10頁右下欄第1表参照)を用いたこと、及び実施例7では、平均分子量20,000の「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」を用いたことが記載されているが、他のモノマーとして、スチレン又はポリスチレンマクロモノマーを用いた3元系共重合体についてまでは記載も示唆もない。

刊行物4(特開平4-153657号公報)には、カラーフィルター形成用の光重合性組成物の(A)成分として、一般式[I](式及び式中の説明の記載を省略する)の構造を有するアルカリ可溶性化合物を用いること、及び「(A)成分は、例えばスチレンと無水マレイン酸を1〜3:3〜1のモル比で共重合させ、炭素数1〜10のアルキル基あるいはシクロアルキル基を有したアルコール類と公知の方法で部分エステル化を行うことで得ることができる。」(第2頁左下欄下から第6〜2行)ことが記載されているが、スチレンと無水マレイン酸との共重合体以外の共重合体については、記載も示唆もない。

刊行物5(特開平2-199403号公報)には、カラーフィルター形成用の光硬化性の着色組成物において、モノマーとして、(a)(メタ)クリル酸、(b)シクロヘキシル(メタ)アクリレート及び(c)(メタ)アクリレートからなるアクリル樹脂を用いることが記載されているが、モノマーとしてスチレン又はポリスチレンマクロモノマーを用いることについては記載も示唆もない。

刊行物9(特開昭63-298304号公報)には、透過型液晶表示装置のカラー表示層に使用されるネガ型感光性組成物について、「バインダーは、モノマーに対して相溶性のある線状有機高分子重合体で、有機溶剤に可溶で、弱アルカリ水溶液で現像できるものが好ましい。このような線状有機高分子重合体としては、・・・特にこれらのなかでベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸共重合体やベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸/および他のモノマーとの多元共重合体が好適である。」(特に第5頁右上欄第8〜12行)と記載され、実施例では、平均分子量20,000の「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」を用いたことが記載されているが、他のモノマーとして、スチレン又はポリスチレンマクロモノマーを用いた3元系共重合体についてまでは記載も示唆もない。

刊行物10(特開平2-258081号公報)には、カラーフィルタ用光重合性感光性組成物に使用されるバインダーについて、「バインダーは、モノマーに対して相溶性のある線状有機高分子重合体で、有機溶剤に可溶で、弱アルカリ水溶液で現像できるものが好ましい。このような線状有機高分子重合体としては、・・・特にこれらのなかでベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸共重合体やベンジル(メタ)アクリレート/(メタ)アクリル酸/および他のモノマーとの多元共重合体が好適である。」(特に第7頁右上欄第14〜18行)と記載され、実施例では、平均分子量20,000の「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」を用いたことが記載されているが、他のモノマーとして、スチレン又はポリスチレンマクロモノマーを用いた3元系共重合体についてまでは記載も示唆もない。

刊行物13(特開平2-203347号公報)には、
(a)「溶剤と、該溶剤に可溶なポリマー及び感光性モノマーと、該溶剤に不溶なフラロシアニン系顔料と該溶剤に可溶な分散剤を少なくとも含有する着色画像形成用感光性組成物において、該分散剤が該フタロシアニン骨格を有することを特徴とする着色画像形成用感光性組成物。」(特許請求の範囲)に関し、
(b)その目的について、「本発明の目的は、上記欠点を解消せしめ、透明性が高く、かつ塗布性の優れた着色画像形成用感光性組成物を提供することである。」(第2頁左上欄下から第3〜末行)と、
(c)該着色画像形成用感光性組成物の用途について、「液晶表示装置、液晶テレビまたはCCDやイメージセンサー等固体撮像素子のカラー化に利用することもできる。また、オーバーヘッドプロジェクターを点灯しながら書き込む場合に使うことができる一定のホームをカラーパターで形成する場合などにも利用できる。」(第5頁右上欄下から第3行〜左下欄第1行)と記載され、
(d)ポリマーについて、
(d1)「本発明によるポリマーはアルカリ水性媒体中で溶性であるか又は少なくとも膨潤しうるポリマーが好ましく、この為に測鎖に水溶性の原子団を有するポリマーである。即ち(A)アクリル酸又はメタクリル酸から導かれた繰り返し単位及び(B)ベンジルアクリレート、ベンジルメタアクリレート、フエネチルアクリレート、フエネチルメタアクリレート、3-フエニルプロピルアクリレート又は3-フエニルプロピルメタアクリレートから導かれた繰り返し単位を有する光重合性化合物であり、さらに所望によって、(C)他のビニル化合物から導かれる繰り返し単位を有することもできる。」(第2頁右下欄下から第2行〜第3頁左上欄第12行)
(d2)「(B)として挙げたもののうちで好ましいものは、ベンジルアクリレート及びベンジルメタアクリレートから導かれた繰り返し単位である。」(第3頁左上欄第12〜14行)
(d3)「前述の共重合化合物においては、(A)の繰り返し単位が全繰り返し単位に対して平均の数量比で15%から40%まで、好ましくは25%から35%までの範囲で含有されるものである。」(第3頁左上欄第15〜18行)
(d4)「(C)の他のビニル化合物の例としては、スチレン又は置換されたスチレン例えばビニルトルエン、・・・。これらのうちではスチレンが好ましい。」(第3頁左上欄下から第2行〜右上欄第11行)
と記載され、
(e)実施例として、
「感光性樹脂層塗布液
下記の組成物を・・・撹拌することにより、顔料を粗分散した。
組成物
・ベンジルアクリレート-メタアクル酸共重合体(繰り返し単位の比70:30,平均分子量Σw=20,000)のメチルセロソルブアセテート溶液(濃度、33重量%) 95g
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 83g
・シクロヘキサノン 35g
・MONASTRAL GREEN(ICI JAPN Ltd製) 41g
・Pigment Yellow TRG(山陽色素株式会社製) 6g
・SPILON BLUE 2BNH(保土ヶ谷化学工業株式会社製) 1g
この粗分散物を、・・・分散した。得られた分散物中の・・・顔料は・・・微分散されていた。
次にこの緑色顔料分散物を用い次のようにして感光性樹脂層用塗布液を得た。即ち下記の組成物を調液する。
・緑色顔料分散物 55g
・ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(感光性モノマー) 7.5g
・・・
(光重合開始剤) 0.36g
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 22g」(第5頁右下欄第3行〜第7頁右上欄第2行)
と記載されている。
しかしながら、これらの摘記事項から明らかなように、刊行物13に具体的に記載された着色画像形成用感光性組成物におけるポリマーは、実施例における「ベンジルメタアクリレート」と「メタアクリル酸」との2元系重合体だけであって、(A)成分としてメタクリル酸、(B)成分としてベンジルメタクリレート又はメチルメタクリレート、(C)成分としてスチレン又はポリスチレンマクロモノマーを用いた3元系共重合体については直接記載するものではないうえ、着色画像形成用感光性組成物を用いて「カラーフィルター」を製造した旨の直接的な記載もない。

以上のとおり、刊行物1ないし5、刊行物9、10及び刊行物13のいずれにも、本件発明の構成要件である、「バインダーポリマーが、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体から選ばれる少なくとも1種である」点については記載がないから、本件発明が、これらの刊行物に記載された発明であるとすることはできない。
よって、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するものではない。

3-3-2.第29条第2項(進歩性)違反について
(1)本件発明の特徴及び効果
本件発明は、顔料[A]と、感放射線化合物[C]と、特定のメタクリレート、スチレン又はポリスチレンマクロモノマー、及びメタクリル酸とから得られる特定範囲の重量平均分子量を有する3元系共重合体であるバインダーポリマー[B]とが、特定の有機溶剤[D]に溶解または分散されてなるカラーフィルタ用感放射線性組成物であって、本件発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物によれば、基板にムラなく均一に塗布することができ、ストリエーションを発生することなく塗膜を形成することができるうえ、本件発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物から形成される乾燥塗膜は、均一な膜厚を有するとともに、塗膜表面の平滑性を有するものである。
そして、特に、本件明細書段落【0059】〜【0060】の「次いで、該乾燥塗膜をフォトマスクを通して高圧水銀ランプによって400mj/cm2の紫外線に露光した後、0.05%炭酸ナトリウム水溶液に浸漬して現像し、100μm×100μmの赤色画素を得た。形成された色画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性が高いことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものであった。」及び段落【0073】〜【0074】及び【0077】〜【0078】の「次いで実施例1と同様にして該乾燥塗膜を露光した後現像し、100μm×100μmの青色画素を得た。形成された色画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性が高いことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものであった。」の記載から明らかなように、露光・現像後の塗膜表面の平滑性に優れたカラーフィルタが得られるという、作用・効果を有するものである。

(2)各刊行物記載の発明との対比・判断
これに対し、前述のとおり、刊行物1ないし5、刊行物9及び刊行物10には、カラーフィルタ用感光性樹脂におけるバインダーポリマーとして、スチレンをモノマー成分とする3元系共重合体を用いる点については記載も示唆もない。
また、刊行物6ないし8、刊行物11及び12のいずれにも、カラーフィルタ用の感光性樹脂組成物におけるバインダーポリマーについては記載されていない。
すなわち、刊行物6には、溶剤としての「メチルセロソルブアセテート」及び「エチルセロソルブ」が記載されているにすぎず、刊行物7には、塗料用、インキ用、洗浄用電子工業用に使用するに好適な溶剤組成物に関する発明が記載されているにすぎず、刊行物8には、レジスト洗浄除去用溶剤に関する発明が記載されているにすぎず、刊行物12にも、溶剤としての「2-メトキシエタノール」、「2-メトキシエチルアセタート」及び「2-エトキシエチルアセタート」が記載されているにすぎない。刊行物11には、カラー印刷における色校正用のカラープルーフに用いる着色画像形成材料に関する発明が記載されているが、カラーフィルタに関する記載がないばかりでなく、本件発明で特定する3元共重合体に関する記載もない。
よって、以下、本件発明と刊行物13に記載された発明とを対比し、相違点についてその容易想到性について検討する。
本件明細書の段落【0042】の「これらのうちでも好ましい有機溶剤の具体例としては、乳酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。」の記載から明らかなように、刊行物13の実施例で用いられている「メチルセロソルブアセテート」及び「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」は、本件発明で好ましい有機溶剤としているものであるので、刊行物13の実施例で使用されている「メチルセロソルブアセテート」及び「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」の量を換算すると、全有機溶剤に対して、約88重量%となる。(必要ならば、申立人6が提出した異議申立書第6頁第1行〜下から第7行を参照されたい)
また、刊行物13には、重量平均分子量の測定方法については記載はないものの、実施例で用いられた共重合体の平均分子量Σw=20,000であることが記載されており、「Σw」は重量平均分子量を示すものであるから、刊行物13記載の共重合体も、本件発明で特定する「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;THFをキャリヤーとする)で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量10,000〜500,000」の範囲内に包含されるものと認められる。
さらに刊行物13記載のベンジルメタクリレート-メタアクリル酸共重合体の繰り返し単位の比が70:30と記載されており、ベンジルメタクリレートの分子量を約176、メタクリル酸の分子量を約86として換算すると、該共重合体を構成するモノマー合計100重量%に対して、メタクリル酸の量は、約17重量%と計算される。
よって、両者は
「[A]顔料、
[B]バインダーポリマーおよび
[C]感放射線化合物が、
[D]有機溶剤に溶解または分散されてなり、
前記バインダーポリマー[B]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;THFをキャリヤーとする)で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量が、10,000〜500,000であり、
前記有機溶剤[D]が、常圧における沸点が100〜200℃であり、20℃における蒸気圧が0.05〜10mmHgであるエステル類、エーテル類またはケトン類の少なくとも1種を、50重量%以上の量で含んでなる溶剤であることを特徴とするカラーフィルター用感放射線性組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点:
前記バインダーポリマー[B]について、本件発明では、「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体から選ばれる少なくとも1種」であって、且つ該「メタクリル酸」が、モノマー合計100重量%に対して「20重量%〜40重量%」の量で用いられているとしているのに対し、刊行物13記載の発明では、「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」であって、そのメタクリル酸は、該ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体を形成するモノマー合計100重量%に対して約17重量%の量で用いられている点。

(3)相違点についての判断
そこで、該相違点について検討する。
本件発明は、前項(1)に記載したとおり、基板にムラなく均一に塗布することができ、ストリエーションを発生することなく塗膜を形成することができるうえ、特に、露光・現像後の塗膜表面の平滑性に優れたカラーフィルタが得られるという作用・効果を有するものである。そして、平成14年5月27日付意見書に記載された本件発明と刊行物13記載の発明との比較実験からも明らかなように、「露光・現像後の塗膜表面の平滑性に優れたカラーフィルタが得られる」という作用効果については、刊行物13に記載された2元系共重合体を用いたのでは得られないものである。
これに対し、刊行物13には、「透明性が高く、かつ塗布性の優れた着色画像形成用感光性組成物」が記載され、該組成物におけるポリマーは、アルカリ水性媒体中で可溶であるか又は少なくとも膨潤しうるものであって、「(A)アクリル酸又はメタクリル酸から選ばれる繰り返し単位、及び(B)ベンジルアクリレート、ベンジルメタアクリレート、フエネチルアクリレート、フエネチルメタアクリレート、3-フエニルプロピルアクリレート又は3-フエニルプロピルメタアクリレートから導かれた繰り返し単位、所望によって(C)他のビニル化合物から導かれる繰り返し単位を含有する光重合性化合物」であることが記載され、さらに、(B)成分の好ましい繰り返し単位として、「ベンジルアクリレート及びベンジルメタアクリレート」が記載され、任意成分である(C)成分の好ましい例として、「スチレン」が記載されている。
しかしながら、刊行物13記載の発明では、実施例として、2元系共重合体である「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」についてしか記載がなく、また、刊行物13記載の発明における「スチレン」は、必須成分ではなく任意成分であるうえ、刊行物13には、2元系共重合体よりも、(C)成分としてスチレンを用いた3元系共重合体が好ましいことを示唆する記載もない。
そして、上記刊行物1〜3、9及び10に記載されているように、従来カラーフィルタ用感光性組成物におけるバインダーポリマーとしては、「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」が好ましく用いられていたことを考慮すれば、刊行物13の実施例に記載された「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」に代えて、本件発明で特定する「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体から選ばれる少なくとも1種」を用いるという動機が見いだせない。
さらに、本件発明では3元系共重合体における「メタクリル酸」の量を特定しているが、前述のとおり、該実施例記載の共重合における「メタクリル酸」の量は、本件発明で特定する範囲に包含されないものである。また、刊行物13には、「前述の共重合化合物においては、(A)の繰り返し単位が全繰り返し単位に対して平均の数量比で15%から40%まで、好ましくは25%から35%までの範囲で含有されるものである。」(摘記事項(d3)参照)と記載されており、該記載を前記と同様にして重量%に換算すると、実施例記載の「ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体」におけるメタクリル酸の量は、「約8から25重量%まで、好ましくは約14から15重量%までの範囲で含有される」と計算される。
よって、該刊行物13記載の発明から、バインダーポリマーを形成するメタクリル酸の量を「20〜40重量%」にするという本件発明の構成を導き出すことは、当業者といえども容易ではない。
そして、刊行物13には、単に着色画像の透明性及び塗布性については記載されているだけで、カラーフィルタとしての具体的な記載がなく、本件発明は、刊行物13に記載された発明からでは予期し得ない作用効果、特に「露光・現像後の塗膜表面の平滑性に優れたカラーフィルタが得られる」という作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明が、刊行物1ないし13に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

3-3-3.36条違反について
申立人4は、訂正前の請求項1に記載された発明を構成する、顔料、バインダーポリマー、感放射線化合物及び有機溶剤が、すべてカラーフィルタ用感光性組成物の構成成分として公知のものであり、何ら新規なものではないと主張するだけで、具体的な明細書の記載不備については、指摘していない。また、同申立人は、訂正請求に対する回答書の中では、明細書の記載不備については、何等主張していない。
よって、本件明細書の記載が不備であるという申立人4の主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおり、本件発明については、各特許異議申立ての理由及び証拠によっては、特許を受けることができないものであるとすることはできず、また、他に特許を受けることができない理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
カラーフィルター用感放射線性組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕顔料、
〔B〕バインダーポリマーおよび
〔C〕感放射線化合物が、
〔D〕有機溶剤に溶解または分散されてなり、
前記バインダーポリマー〔B〕が、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体から選ばれる少なくとも1種であり、
前記バインダーポリマー〔B〕のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;THFをキャリヤーとする)で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量が、10,000〜500,000であり、
前記バインダーポリマー〔B〕を形成するに際し、前記メタクリル酸が、前記バインダーポリマー〔B〕を形成するモノマー合計100重量%に対して、20重量%〜40重量%の量で用いられ、
前記有機溶剤〔D〕が、常圧における沸点が100〜200℃であり、20℃における蒸気圧が0.05〜10mmHgであるエステル類、エーテル類またはケトン類の少なくとも1種を、50重量%以上の量で含んでなる溶剤であることを特徴とするカラーフィルター用感放射線性組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、カラー液晶表示装置や撮像管素子などに用いられるカラーフィルターを形成するためのカラーフィルター用感放射線性組成物に関し、より詳しくは、平滑性に優れた塗膜表面を有して、透明感に優れたカラーフィルターを優れた歩留まりで製造しうるカラーフィルター用感放射線性組成物に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする問題点】
従来、感放射線性組成物を用いてカラーフィルターを製造するには、ナトリウムイオンの溶出を防止するため表面にSiO2膜などが形成されたガラス基板上に、遮光層を所望パターン形状に形成して、さらにその上に感放射線性組成物をスピンコーターにより塗布して塗膜を形成して、この塗膜を加熱(プレベーク)して乾燥した後、乾燥された塗膜(以下乾燥塗膜ということがある)を露光・現像することにより各色の画素を得ている。
【0003】
このようにして基板上に形成された乾燥塗膜は、中心部の膜厚と周縁部の膜厚との膜厚差が0.2μm以上あったり、ストリエーション(すじあと)が生じることがあり、均一な膜厚を有する乾燥塗膜を得ることが困難であった。さらにこの乾燥塗膜表面には、約300〜500Å(オングストローム)の微細な凹凸が形成されることがあり、得られる乾燥塗膜は表面平滑性に劣ることがあった。もしスピンコーターによって形成される塗膜に膜厚差があったり、乾燥塗膜表面に微細な凹凸が形成されていると、該乾燥塗膜を現像して得られるカラーフィルタは透明感に劣るようになってしまう。
【0004】
このため基板表面上にカラーフィルターを形成するに際して、均一な膜厚を有するとともに極めて平滑性に優れた表面を有する乾燥塗膜を形成しうるカラーフィルター用感放射線性組成物の出現が望まれている。
【0005】
【問題点を解決するための手段】
本発明者は、上記のような従来技術に鑑みて研究した結果、顔料、バインダーポリマー、感放射線化合物が、特定の有機溶剤に溶解または分散されてなるカラーフィルター用感放射線性組成物を基板表面上にスピンコータによって塗布し、次いで乾燥して得られる乾燥塗膜は、中心部と周縁部との膜厚差が小さく、しかも表面平滑性に優れていることを見出して本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物は、
[A]顔料、
[B]バインダーポリマーおよび
[C]感放射線化合物が、
[D]有機溶剤に溶解または分散されてなり、
前記バインダーポリマー〔B〕のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;THFをキャリヤーとする)で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量が、10,000〜500,000であり、
前記有機溶剤[D]が、
常圧における沸点(以下、単に「沸点」という)が100〜200℃であり、20℃における蒸気圧(以下、単に「蒸気圧」という)が0.05〜10.0mmHgであるエステル類、エーテル類またはケトン類の少なくとも1種を、50重量%以上の量で含んでなる溶剤であることを特徴としている。
【0007】
このカラーフィルター用感放射線性組成物は、必要に応じて[E]添加剤を含有していてもよい。
【0008】
【発明の具体的説明】
以下本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物について具体的に説明する。
【0009】
本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物は、
[A]顔料、
[B]バインダーポリマー、および
[C]感放射線化合物が、
特定の[D]有機溶剤に、溶解または分散されてなる。
【0010】
以下にこのような各成分について詳細を説明する。
[A]顔料
本発明では、顔料[A]として、有機顔料または無機顔料が用いられる。
【0011】
このような有機顔料としては、水または有機溶剤に不溶性の染料または顔料が挙げられ、具体的には、カラーインデックスCI(The Society of Dyers and Colourists 出版)でピグメント(Pigment)に分類されている化合物が挙げられる。
【0012】
また無機顔料としては、金属酸化物、金属錯塩などの金属化合物が挙げられ、具体的には、鉄、コバルト、アルミニウム、カドニウム、鉛、銅、チタン、マグネシウム、クロム、亜鉛、アンチモンなどの金属酸化物または複合酸化物が挙げられる。
【0013】
このような顔料[A]としては、より具体的には、下記のようなカラーインデックスCI番号の化合物が挙げられる。

【0014】
本発明では、顔料[A]は、通常バインダーポリマー[B]100重量部に対して、10〜1000重量部、好ましくは20〜500重量部の量で用いられる。
【0015】
[B]バインダーポリマー
本発明では、バインダーポリマー[B]として、酸モノマー[B-1]と、この酸モノマーと共重合可能なコモノマー[B-2]との共重合体が好ましく用いられる。
【0016】
このようなバインダーポリマー[B]を形成する際に用いられる酸モノマー[B-1]としては、分子中に少なくとも1個以上のカルボン酸を有する(例えば、不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸等の)不飽和カルボン酸、または分子中に少なくとも1個以上のスルホン酸を有する不飽和スルホン酸が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、具体的に、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
【0017】
不飽和スルホン酸としては、具体的にイソプレンスルホン酸、スチレンスルホン酸などが挙げられる。
これらは、単独であるいは組み合わせて用いられる。
【0018】
またコモノマー[B-2]としては、具体的に、
スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの不飽和カルボン酸アルキルエステル、
アミノエチルアクリレートなどの不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル、
グリシジル(メタ)アクリレートなどの不飽和カルボン酸グリシジルエステル、
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル、
(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、
1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、イソプレンなどの脂肪族共役ジエン、
それぞれ末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリシリコーンなどのマクロモノマーなどが挙げられる。
【0019】
これらは、単独であるいは組み合わせて用いられる。
バインダーポリマー[B]を形成するに際しては、上記のような酸モノマー[B-1]は、モノマー合計100重量%に対して、好ましくは15重量%〜50重量%の量で、より好ましくは20重量%〜40重量%の量で用いられる。
【0020】
このようなバインダーポリマー[B]としては、具体的には、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体などが挙げられる。
【0021】
このような酸モノマー[B-1]から誘導される構成単位を含有するバインダーポリマー[B]は、アルカリ溶解性を示す。
特に上記のような量で酸モノマー[B-1]を用いて得られるバインダーポリマー[B]は、アルカリ現像液への溶解性に優れて未溶解物を発生しにくく、非画素部基板上に地汚れや膜残りなどを発生しにくい。またこのバインダーポリマー[B]は、アルカリ現像液中に過剰に溶解してしまうことがなく、基板との密着性に優れて基板から脱落しにくい色画素を形成することができる。
【0022】
本発明で用いられるバインダーポリマー[B]は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;THFをキャリヤーとする)で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量が、好ましくは10,000〜500,000であり、より好ましくは20,000〜300,000である。
【0023】
このような分子量を有するバインダーポリマー[B]は、現像時に色画素周辺にスカム(浮きカス)を発生しにくく、シャープなパターンエッジを有する画素を形成しうるとともに、非画素部基板上に未溶解物が残存しにくく、地汚れや膜残りなどを発生しにくい。さらにこのようなバインダーポリマー[B]を用いると、最適条件下で現像しうる現像時間が長くなり、いわゆる現像時間のマージンが大きくなる。
【0024】
[C]感放射線化合物
本発明で用いられる感放射線化合物[C]は、放射線を照射されると、カルベン、ナイトレンなどのラジカル(活性分子片)を生じて反応し、バインダーポリマーに三次元架橋構造を形成させる化合物である。通常、下記のような2種類の反応系によって三次元架橋構造が形成される。
【0025】
(i)感放射線化合物に放射線を照射することによって遊離される、カルベン、ナイトレンなどのラジカルが、バインダーポリマーなどに作用して二重結合の連鎖反応を誘起させ、三次元架橋構造を形成するもの、
(ii)感放射線化合物などの分子に放射線を照射することによって遊離されたカルベン、ナイトレンなどのラジカルが、バインダーポリマー中のC-C結合またはC-H結合に挿入反応して結合し、三次元架橋構造を形成するもの。
【0026】
前記バインダーポリマー[B]は、(i)の反応系により三次元架橋反応する際に絡め込まれるか、あるいは(ii)の反応系により感放射線化合物[C]と反応して架橋構造を形成して、不溶化される。
【0027】
なお本発明で「放射線」という語は、紫外線、電子線、X線などを含む概念で用いられる。
このような感放射線化合物[C]としては、具体的には、光重合開始剤、光重合性モノマー、光重合性オリゴマー、光架橋剤などが挙げられる。
【0028】
上記のような光重合開始剤としては、たとえば、
ジアセチル、ベンゾインなどのカルボニウム化合物、
アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾニウム、アジド化合物などのアゾ化合物またはアジド化合物、
メルカプタンジスルフィドなどの有機硫黄化合物、
エーテルパーオキサイド、カルボン酸パーオキサイドなどの過酸化物が挙げられる。
【0029】
より具体的には、
2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、
1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、
4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、
1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、
2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、
2-メチル(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノ-1-プロパン-1-オン、
2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、
ベンゾフェノン、
4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、
4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、
2,4-ジエチルチオキサントン、
3,3-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、
4-アジドベンズアルデヒド、
4-アジドアセトフェノン、
4-アジドベンザルアセトフェノン、
アジドピレン、
4-ジアゾジフェニルアミン、
4-ジアゾ-4’-メトキシ-ジフェニルアミン、
4-ジアゾ-3-メトキシ-ジフェニルアミン、
ベンジル(別称:ジベンゾイル)、
ベンゾインチノイソブチルエーテル、
N-フェニル-チオアクリドン、
トリフェニルピリリウムパークロレ-トなどが挙げられる。
【0030】
これらの中で、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オンが好ましい。
【0031】
光重合性モノマーまたは光重合性オリゴマーとしては、
トリメチロールプロパントリアクリレート、
ペンタエリスリトールトリアクリレート、
トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、
ペンタエリスリトールテトラアクリレート、
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの多官能アクリレート、
およびこれらのオリゴマーが挙げられる。
【0032】
これらの中で、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートが好ましい。
【0033】
光架橋剤としては、具体的に、
ジアジドカルコン
2,6-ビス(4’-アジドベンザル)シクロヘキサノン、
2,6-ビス(4’-アジドベンザル)-4-メチルシクロヘキサノン、
1,3-ビス(4’-アジドベンザル)-2-プロパノン、
1,3-ビス(4’-アジドシンナミリデン)-2-プロパノン、
4,4’-ジアジドスチルベン、
重クロム酸アンチモンなどが挙げられる。
【0034】
本発明では、感放射線性化合物として上記のような光重合開始剤、光重合性モノマー、光重合性オリゴマーまたは光架橋剤は単独であるいは組み合わせて用いることができるが、特に光重合開始剤と、光重合性モノマーまたは光重合性オリゴマーとを併用することが好ましい。
【0035】
このような感放射線化合物[C]は、バインダーポリマー[B]100重量部に対して、通常5〜500重量部、好ましくは20〜200重量部の量で用いられる。
【0036】
なお光重合開始剤と、光重合性モノマーまたは光重合性オリゴマーとを併用する場合には、通常、光重合性モノマーまたは光重合性オリゴマー100重量部に対して、光重合開始剤が0.01〜200重量部、好ましくは1〜120重量部の量で用いられることが望ましい。
【0037】
本発明で用いられる感放射線化合物[C]は、さらに上記のような光重合開始剤、光重合性モノマーまたは光重合性オリゴマー、光架橋剤または増感剤として機能し得る官能基を主鎖または側鎖中に有する高分子化合物を含有していてもよい。
【0038】
このような高分子化合物としては、具体的に、
4-アジドベンズアルデヒドとポリビニルアルコールとの縮合物、
4-アジドベンズアルデヒドとフェノールノボラック樹脂の縮合物、
4-アクリロイルフェニルシンナモイルエステルの重合物または共重合物、
1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエンなどが挙げられる。
【0039】
[D]有機溶剤
本発明で用いられる有機溶剤[D]は、沸点が100〜200℃であり、蒸気圧が0.05〜10.0mmgであるエステル類、エーテル類またはケトン類の少なくとも1種を、50重量%以上の量で含有している必要がある。
【0040】
このようなエステル類、エーテル類またはケトン類としては、具体的には、下記のような化合物が挙げられる。
酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチルなどの飽和脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類、
乳酸メチル、乳酸エチルなどの乳酸エステル類、
オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチルなどのオキシ酢酸アルキルエステル類、
メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチルなどのアルコキシ酢酸アルキルエステル類、
3-オキシプロピオン酸メチル、3-オキシプロピオン酸エチルなどの3-オキシプロピオン酸アルキルエステル類、
3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチルなどの3-アルコキシプロピオン酸アルキルエステル類、
2-オキシプロピオン酸メチル、2-オキシプロピオン酸エチル、2-オキシプロピオン酸プロピルなどの2-オキシプロピオン酸アルキルエステル類、
2-メトキシプロピオン酸メチル、2-メトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシプロピオン酸プロピル、2-エトキシプロピオン酸メチル、2-エトキシプロピオン酸エチルなどの2-アルコキシプロピオン酸アルキルエステル類、
2-オキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-オキシ-2-メチルプロピオン酸エチルなどの2-オキシ-2-メチルプロピオン酸アルキルエステル類、
2-メトキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-エトキシ-2-メチルプロピオン酸エチルなどの2-アルコキシ-2-メチルプロピオン酸アルキル類などのモノオキシモノカルボン酸アルキルエステル類、
ピルビン酸エチルなどのケトン酸エステル類、
メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチルセロソルブアセテートなどのセロソルブアセテート類、
ジクロルエチルエーテル、n-ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルフェニルエーテルなどのエーテル類、
メチルエチルカルビトール、ジエチルカルビトール、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのカルビトール類、
シクロヘキサノン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチル-n-アミルケトン、2-ヘプタノンなどのケトン類。
【0041】
これらは、単独であるいは組み合わせて用いられる。
本発明で、有機溶剤[D]に含有されるエステル類、エーテル類またはケトン類は、上記のように沸点が100〜200℃であるが、これらのうちでも沸点が130〜190℃であることがより好ましい。
【0042】
また上記のようなエステル類、エーテル類またはケトン類は、蒸気圧が0.05〜10.0mmHgであるが、0.1〜5.0mmHgであることがより好ましい。
これらのうちでも好ましい有機溶剤の具体例としては、乳酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。
【0043】
本発明で用いられる有機溶剤[D]は、上記のようなエステル類、エーテル類またはケトン類の少なくとも1種を、有機溶剤中に、50重量%以上、好ましくは70重量%の量で含有している。
【0044】
本発明で用いられる有機溶剤[D]に含有される上記エステル類、エーテル類またはケトン類以外の溶媒は、前記顔料[A]、バインダーポリマー[B]および感放射線化合物[C]を溶解または分散させうる溶媒であればよく、特に限定されない。
【0045】
なお有機溶剤[D]が沸点が200℃を超える溶媒を50重量%を超える量で含有していると、塗布形成された塗膜をプレベークする際に、有機溶剤[D]は充分に蒸発せずに乾燥塗膜内に残存し、乾燥塗膜表面が粘着性となってスティッキングを発生することがあり、乾燥塗膜の耐熱性が低下することがある。また乾燥塗膜中に有機溶剤[D]が多量に残存していると、この乾燥塗膜は現像中にガラス基板特に表面にSiO2膜を有するガラス基板から剥離してしまうことがある。
【0046】
一方有機溶剤[D]が沸点が100℃未満である溶媒を50重量%を超える量で含有していると、感放射線性組成物をムラなく均一に塗布することが困難になり、したがって表面平滑性に優れた乾燥塗膜は得られにくくなる。
【0047】
本発明では、このような有機溶剤[D]は、通常バインダーポリマー[B]100重量部に対して100〜10000重量部、好ましくは500〜5000重量部の量で用いられる。
【0048】
本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物は、必要に応じて添加物[E]を含有していてもよい。この添加剤[E]としては、具体的に、充填剤、他の高分子化合物、界面活性剤、密着促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凝集防止剤、他の増感剤などが挙げられる。
【0049】
より具体的には、
ガラス、アルミナなどの充填剤、
ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリフロロアルキルアクリレートなどの他の高分子化合物、
ノニオン系、カチオン系、アニオン系などの界面活性剤、
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどの密着促進剤、
2,2-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,6-ジ-t-ブチルフェノールなどの酸化防止剤、
2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、アルコキシベンゾフェノンなどの紫外線吸収剤、
ポリアクリル酸ナトリウムなどの凝集防止剤、
ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ニトロピレンなどの波長200〜490nmの光を吸収する有機色素系増感剤が挙げられる。
【0050】
本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物を形成する上記のような成分[A]、[B]、[C]および[E]は、有機溶剤[D]に溶解または分散されている。
【0051】
上記のような本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物を用いると、プレベーク工程において有機溶剤が充分に蒸発して、得られる乾燥塗膜中に有機溶剤が多量に残存することがない。したがって乾燥塗膜表面は粘着性になるようなことがなく、スティッキングを生じたりすることがない。また乾燥塗膜中に有機溶剤が多量に残存していないため、乾燥塗膜は現像中に基板から剥離したりすることがなく、耐熱性が低下したりすることがない。
【0052】
特に上記のように特定の有機溶剤を含有する本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物を用いると、スピンコーターによってガラス基板上にムラなく均一に塗布することができる。したがって本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物を用いると、均一な膜厚を有し、かつ平滑性に優れた表面を有する乾燥塗膜をストリエーションを発生することなく形成することができ、また得られた乾燥塗膜は、基板との密着性に優れている。
【0053】
このような乾燥塗膜をアルカリ現像すると、透明感に優れたカラーフィルターが得られる。
上記のように本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物を用いると、透明感に優れたカラーフィルターを優れた歩留りで製造することができる。
【0054】
なお本発明では、カラーフィルター用感放射線性組成物を用いて画素を形成する際に、現像液としては、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機アルカリ、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の有機アルカリなどのアルカリ性溶液を用いることが好ましい。
【0055】
【実施例】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0056】
【実施例1】
表面にナトリウムイオンの溶出を防止するSiO2膜が形成されたソーダガラス基板表面上に、所望されるパターン形状の遮光層を形成し、さらに表1に示すカラーフィルター用感放射線性組成物1をスピンコーターにより所望厚さ(1.5μm)に塗布した後、得られた塗膜を80℃で10分間プレベークして乾燥塗膜を得た。
【0057】
【表1】

【0058】
得られた乾燥塗膜を触針式膜厚測定装置(TENCOR社製、alpha-step 100)で測定した結果、膜厚は1.45〜1.50μmであり、膜厚面内ばらつき範囲(膜圧差)が0.05μm以下であり、膜表面あらさ(凹凸)が約100Åであった。この乾燥塗膜は透明感に優れていた。またストリエーションの発生もなかった。
【0059】
次いで、該乾燥塗膜をフォトマスクを通して高圧水銀ランプによって400mj/cm2の紫外線に露光した後、0.05%炭酸ナトリウム水溶液に浸漬して現像し、100μm×100μmの赤色画素を得た。
【0060】
形成された色画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性が高いことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものであった。
【0061】
【比較例1】
実施例1において、有機溶剤としてジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃、蒸気圧0.13mmHg)を含む感放射線性組成物2を用いた以外は、実施例1と同様にして乾燥塗膜を得た。
【0062】
【表2】

【0063】
得られた乾燥塗膜を実施例1と同様にして測定した結果、膜厚は1.42〜1.60μmであり、膜厚面内ばらつき範囲が0.18μmであり、膜表面あらさ(凹凸)が約500Åであった。この乾燥塗膜は透明感がなかった。
【0064】
また実施例1と同様にして露光して現像し、100μm×100μmの赤色画素を得た。
形成された色画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性はあまり高くないことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものではなかった。
【0065】
【比較例2】
実施例1において、有機溶剤としてメチルエチルケトン(沸点79.6℃、蒸気圧71.2mmHg)を含むカラーフィルター用感放射線性組成物3を用いた以外は、実施例1と同様にして乾燥塗膜を得た。
【0066】
【表3】

【0067】
得られた乾燥塗膜を実施例1と同様にして測定した結果、膜厚は1.26〜1.61μmであり、膜厚面内ばらつき範囲が0.35μmであり、膜表面あらさ(凹凸)が約600Åであった。
【0068】
乾燥塗膜は、透明感がなかった。またストリエーションも発生した。
また実施例1と同様にして露光して現像し、100μm×100μmの赤色画素を得た。
【0069】
形成された色画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性はあまり高くないことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものではなかった。
【0070】
【実施例2】
実施例1において、有機溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点140℃、蒸気圧3.5mmHg)を含む感放射線性組成物4を用いた以外は、実施例1と同様にして乾燥塗膜を得た。
【0071】
【表4】

【0072】
得られた乾燥塗膜を実施例1と同様にして測定した結果、膜厚は1.50〜1.59μmであり、膜厚面内ばらつき範囲が0.09μm以下であり、膜表面あらさ(凹凸)が約200Åであった。
【0073】
この乾燥塗膜は、透明感に優れており、ストリエーションの発生もなかった。
次いで実施例1と同様にして該乾燥塗膜を露光した後現像し、100μm×100μmの青色画素を得た。
【0074】
形成された色画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性が高いことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものであった。
【0075】
【実施例3】
実施例1において、カラーフィルター用感放射線性組成物1に代えてカラーフィルター用感放射線性組成物5に代えた以外は実施例1と同様にして乾燥塗膜を得た。
【0076】
【表5】

【0077】
得られた乾燥塗膜を実施例1と同様にして測定した結果、膜厚は1.50〜1.59μmであり、膜厚面内ばらつき範囲が0.09μm以下であり、膜表面あらさ(凹凸)が約200Åであった。
【0078】
この乾燥塗膜は、透明感に優れており、ストリエーションの発生もなかった。
次いで、実施例1と同様にして露光した後、現像して100μm×100μmの赤色画素を形成した。
【0079】
形成された色画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性が高いことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものであった。
【0080】
【比較例3】
実施例1において、カラーフィルター用感放射線性組成物1に代えて表6に示すカラーフィルター用感放射線性組成物6を用いた以外は、実施例1と同様にして乾燥塗膜を得た。
【0081】
【表6】

【0082】
得られた乾燥塗膜を実施例1と同様にして得られた塗膜は、80℃、10分間のプレベークで十分に乾燥できず、タック(塗膜表面のベタつき)が認められた。そこで、プレベーク条件を90℃、10分間に変更して行ない、乾燥塗膜を得た。膜厚は1.48〜1.50μmであり、膜厚面内ばらつき範囲が0.18μmであり、膜表面あらさ(凹凸)が約400Åであった。
【0083】
透明感のない塗膜が得られた。またストリエーションも発生した。
また実施例1と同様にして露光して現像し、100μm×100μmの緑色画素を形成した。
【0084】
形成された画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性はあまり高くないことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものではなかった。
【0085】
【実施例4】
実施例1において、カラーフィルター用感放射線性組成物1に代えて表7に示すカラーフィルター用感放射線性組成物7を用いた以外は、実施幌1と同様にして乾燥塗膜を得た。
【0086】
【表7】

【0087】
得られた乾燥塗膜を実施例1と同様にして測定した結果、膜厚は1.47〜1.53μmであり、膜厚面内ばらつき範囲が0.06μm以下であり、膜表面あらさ(凹凸)が約200Åであった。
【0088】
この乾燥塗膜は透明感に優れており、ストリエーションの発生もなかった。
次いで、実施例1と同様にして露光した後、現像して100μm×100μmの緑色画素を形成した。
【0089】
形成された色画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性が高いことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものであった。
【0090】
【実施例5】
実施例1において、カラーフィルター用感放射線性組成物1に代えてカラーフィルター用感放射線性組成物8を用いた以外は、実施例1と同様にして乾燥塗膜を得た。
【0091】
【表8】

【0092】
得られた乾燥塗膜を実施例1と同様にして測定した結果、膜厚は1.62〜1.69μmであり、膜厚面内ばらつき範囲が0.10μm以下であり、膜表面あらさ(凹凸)が約200Åであった。
【0093】
この乾燥塗膜は透明感に優れており、ストリエーションの発生もなかった。
次いで、実施例1と同様にして該乾燥塗膜を露光した後、現像して100μm×100μmの緑色画素を形成した。
【0094】
形成された色画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性が高いことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものであった。
【0095】
【比較例4】
実施例1において、カラーフィルター用感放射線性組成物主に代えて表9に示すカラーフィルター用感放射線性組成物9を用いた以外は、実施例1と同様にして乾燥塗膜を得た。
【0096】
【表9】

【0097】
得られた乾燥塗膜を実施例1と同様にして測定した結果、膜厚は1.68〜1.71μmであり、膜厚面内ばらつき範囲が0.30μmであり、膜表面あらさ(凹凸)が約400Åであった。
【0098】
この乾燥塗膜は透明感がなかった。またストリエーションも発生した。
また実施例1と同様にして露光して現像し、100μm×100μmの緑色画素を形成した。
【0099】
形成された色画素を微分偏光顕微鏡で観察したところ、表面の平滑性はあまり高くないことが認められ、カラーフィルターとして好ましいものではなかった。
【0100】
【発明の効果】
上述したように、本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物を用いると、基板上にムラなく均一に塗布することができ、ストリエーションを発生することなく塗膜を形成することができる。また本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物を用いると、塗膜中に有機溶剤を多量に残存することなく乾燥塗膜を得ることができる。
【0101】
本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物から形成される乾燥塗膜は、均一な膜厚を有するとともに、平滑な表面を有しており、基板との密着性にも優れている。
【0102】
このような本発明に係るカラーフィルター用感放射線性組成物を用いると、透明感に優れたカラーフィルターを、優れた歩留まりで製造することができる。
 
訂正の要旨 訂正事項
a.特許請求の範囲の請求項1の
「〔D〕有機溶剤に溶解または分散されてなり、
前記バインダーポリマー〔B〕のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;THFをキャリヤーとする)で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量が、10,000〜500,000であり、
前記有機溶剤〔D〕が、常圧における沸点が100〜200℃であり、20℃における蒸気圧が0.05〜10mmHgであるエステル類、エーテル類またはケトン類の少なくとも1種を、」
を、
「〔D〕有機溶剤に溶解または分散されてなり、
前記バインダーポリマー〔B〕が、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体、メチルメタクリレート/メタクリル酸/ポリスチレンマクロモノマー共重合体から選ばれる少なくとも1種であり、
前記バインダーポリマー〔B〕のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;THFをキャリヤーとする)で測定されるポリスチレン換算重量平均分子量が、10,000〜500,000であり、
前記バインダーポリマー〔B〕を形成するに際し、前記メタクリル酸が前記バインダーポリマー〔B〕を形成するモノマー合計100重量%に対して、20重量%〜40重量%の量で用いられ、
前記有機溶剤〔D〕が、常圧における沸点が100〜200℃であり、20℃における蒸気圧が0.05〜10mmHgであるエステル類、エーテル類またはケトン類の少なくとも1種を、」と訂正する。
異議決定日 2003-01-21 
出願番号 特願平4-166165
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G02B)
P 1 651・ 113- YA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森口 良子  
特許庁審判長 江藤 保子
特許庁審判官 矢沢 清純
六車 江一
登録日 2000-08-18 
登録番号 特許第3099523号(P3099523)
権利者 ジェイエスアール株式会社
発明の名称 カラーフィルター用感放射線性組成物  
代理人 牧村 浩次  
代理人 西村 公佑  
代理人 鈴木 亨  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 高畑 ちより  
代理人 鈴木 亨  
代理人 高畑 ちより  
代理人 高木 千嘉  
代理人 牧村 浩次  

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