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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1074746
異議申立番号 異議2000-71691  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-04-25 
確定日 2003-02-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2967024号「電極埋設品及びその製造方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2967024号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第2967024号の請求項1ないし6に係る発明は、平成6年3月29日に特許出願され、平成11年8月13日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人木村昭子及び特許異議申立人石田弘徳により特許異議の申立がなされ、取消理由の通知がされ、その指定期間内である平成13年4月23日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の要旨
a.訂正事項a
明細書における特許請求の範囲の請求項1を以下のように訂正する。
「【請求項1】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、前記電極を包囲する前記基体が、接合面のない-体焼結品であることを特徴とする、電極埋設品。」
b.訂正事項b
明細書における特許請求の範囲の請求項4、請求項5を削除する。
c.訂正事項c
明細書における特許請求の範囲の請求項6を請求項4とし、かつ以下のように訂正する。
「【請求項4】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品を製造する方法であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、セラミックス成形体とこのセラミックス成形体中に埋設されている前記電極とを、前記電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、前記基体を接合面のない一体焼結品とし、前記基体内に前記電極を埋設し、前記孔内にセラミックスを充填させることを特徴とする、電極埋設品の製造方法。」
d.訂正事項d
明細書の段落番号【0007】を以下のように訂正する。
「【0007】【課題を解決するための手段】本発明は、緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品であって、電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、電極を包囲する基体が、接合面のない一体焼結品であることを特徴とする。」
e.訂正事項e
明細書の段落番号【0008】の1〜2行(特許第2967024号公報の段落番号【0008】の1〜3行)の「また、本発明は、緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えている電極埋設品を製造する方法であって、」を「また、本発明は、緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品を製造する方法であって、」に訂正する。
f.訂正事項f
明細書の段落番号【0012】の1〜2行(特許第2967024号公報の段落番号【0012】の1〜3行)の「本発明に係る電極埋設品としては、電気集塵機、電磁シールド、高周波電極、静電チャックが好ましい。」を「本発明に係る電極埋設品は、高周波電極、静電チャックである。」に訂正する。
g.訂正事項g
明細書の段落番号【0012】の5〜7行(特許第2967024号公報の段落番号【0012】の7〜10行)の「また、電極埋設品が静電チャック、電気集塵機である場合には、電極を面状の金属バルク体とすることにより、チャック、集塵の応答速度の向上が可能である。」を「また、電極埋設品が静電チャックである場合には、電極を面状の金属バルク体とすることにより、チャックの応答速度の向上が可能である。」に訂正する。
h.訂正事項h
明細書の段落番号【0013】の1〜2行(特許第2967024号公報の段落番号【0013】の1〜3行)の「電極埋設品が、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置される電極埋設品である場合には、次の作用がある。」を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
a.訂正事項aは、訂正前の請求項1に対して、訂正前の請求項4、5の記載を追加し、かつ、この際、請求項から電磁集塵機と電磁シールドとの記載を除いたものである。
したがって、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
b.訂正事項bは、請求項4及び請求項5の削除である。
c.訂正事項cは、訂正前の請求項6において、電極埋設品が、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための高周波電極および静電チャックであることを規定したものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
d.訂正事項dは、訂正事項aにおける請求項1の特許請求の範囲の減縮に伴い、これと適合させるための訂正であり、
訂正事項eは、訂正事項cにおける請求項6の特許請求の範囲の減縮に伴い、これと適合させるための訂正であり、
訂正事項f、g、hは、いずれも、訂正事項aにおける請求項1の特許請求の範囲の減縮に伴い、これと適合させるための訂正であり、
訂正事項dないしhは、いずれも、不明瞭な記載の釈明に該当するものである。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定により従前の例によるとされる平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立についての判断
(1)本件請求項1ないし4に係る発明
上記2.に記載したように上記訂正が認められるから、本件請求項1ないし4に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記2.(1)参照)
【請求項1】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、前記電極を包囲する前記基体が、接合面のない一体焼結品であることを特徴とする、電極埋設品。
【請求項2】前記電極が金網であることを特徴とする、請求項1記載の電極埋設品。
【請求項3】前記電極がパンチングメタルであることを特徴とする、請求項1記載の電極埋設品。
【請求項4】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品を製造する方法であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、セラミックス成形体とこのセラミックス成形体中に埋設されている前記電極とを、前記電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、前記基体を接合面のない一体焼結品とし、前記基体内に前記電極を埋設し、前記孔内にセラミックスを充填させることを特徴とする、電極埋設品の製造方法。
(2)引用例
a.甲第1号証:特開平4-304941号公報(以下、「引用例1」という。)
引用例1には、(a-1)「図1は、セラミックスヒーターと一体化された静電チャックを示す概略断面図・・・である。」(2頁右欄20行ないし23行)との記載、
この静電チャック自体の構成に関する(a-2)「【0011】円盤状のセラミックス基体1の一方の主面1bに沿って、例えば円形の膜状電極5が形成されている。そして、この膜状電極5を覆うように、一方の主面1b上にセラミックス誘電体層6が形成され、一体化されている。これにより、膜状電極5は、セラミックス基体1とセラミックス誘電体層6との間に内蔵される。この膜状電極5は、パンチングメタルのような穴明き形状とすると、誘電体層6の基材1との密着性が良好となる。」(2頁右欄35行ないし42行)との記載、(a-3)「セラミックス基体1、セラミックス誘電体層6は、・・・窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナ-炭化珪素複合体等とするのが好ましい。」(3頁右欄33行ないし38行)との記載、(a-4)「図3に示すヒーター付き静電チャックを作成する。この作成時には、セラミックス基体1とセラミックス誘電体6とを・・・一体焼結する。」(4頁左欄24行ないし27行)との記載、
上記ヒーター付き静電チャックの作用に関する(a-5)「・・・膜状電極5がセラミックス誘電体層6とセラミックス基体1との間に内蔵されているので、従来の金属ヒーターの場合のような汚染を防止できる。」(3頁左欄31行ないし34行)との記載がある。
引用例1の上記各記載によれば、引用例1には、以下のとおりの発明が記載されているものと認められる。
(a-6)「窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素複合体等からなるセラミックス基体1の一方の主面1bに沿って、膜状電極5が形成され、この膜状電極5を覆うように、一方の主面1b上に窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素複合体等からなるセラミックス誘電体層6が形成され、一体化され、膜状電極5は、パンチングメタルのような穴明き形状のものであり、セラミックス基体1とセラミックス誘電体層6との間に内蔵されている静電チャック。」
(a-7)「窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素複合体等からなるセラミックス基体1の一方の主面1bに沿って、パンチングメタルのような穴明き形状の膜状電極5を形成し、この膜状電極5を覆うように、一方の主面1b上に窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素複合体等からなるセラミックス誘電体層6を形成して一体焼成し、この膜状電極5をセラミックス基体1とセラミックス誘電体層6との間に内蔵させることよりなる静電チャックの製造方法。」
b.甲第2号証:特開平5-13558号公報(以下、「引用例2」という。)
引用例2には、(b-1)従来技術に関する「スーパークリーン状態を必要とする半導体製造用装置では、デポジション用ガス、エッチング用ガス、クリーニング用ガスとして塩素系ガス、フッ素系ガスなどの腐食性ガスが使用されている。このため、ウェハーをこれらの腐食性ガスに接触させた状態で加熱するための加熱装置として、・・・ヒーターを使用する」(2頁右欄3行ないし10行)との記載、(b-2)「従来の半導体ウェハー固定技術としては、・・・静電チャックの各方式が知られており、例えば、半導体ウェハーの搬送用、露光、成膜、微細加工、洗浄、ダイシング等に使用されている。・・・一方、特に、・・・成膜プロセスにおける半導体ウェハー加熱、温度制御では、半導体ウェハーの被加熱面の温度を均一化できないと、半導体生産時の歩留り低下の原因になる。」(2頁右欄33行ないし41行)との記載、
(b-3)「【0015】円盤状セラミックス基体2の一方の主面2aに沿って、例えば円形の膜状電極5が形成されている。そして、この膜状電極5を覆うように、一方の主面2a上にセラミックス誘電体層4が形成され、一体化されている。これにより、膜状電極5は、セラミックス基体2とセラミックス誘電体層4との間に内蔵される。この膜状電極5は、パンチングメタルのような穴明き形状とすると、誘電体層6の基材1との密着性が良好となる。」(3頁右欄34行ないし39行)との記載がある。
c.甲第3号証:特開平5-275434号公報(以下、「引用例3」という。)
引用例3には、(c-1)「金属箔1を・・・加工し、例えば図1(b)に示すような平面的パターンの抵抗発熱体2を製造する。抵抗発熱体2においては、金属箔の主要表面に対してほぼ平行に、細長い金属箔が延びた形状となっており、従って、抵抗発熱体2の全体がほぼ同一平面上にある。」(3頁左欄14行ないし19行)との記載、(c-2)「下型5Aの上(枠6の内側)にセラミックス粉体を充填し、一旦プレス成形して予備成形体7を得る。次いで、予備成形体7の上に抵抗発熱体2を設置し、・・・。抵抗発熱体2の上にセラミックス粉体8を充填する。次いで、図2(c)に示すように、上型5Bと下型5Aとでセラミックス粉体を一軸加圧成形し、円盤状成形体9を得る。次いで、図2(d)に示すように、下型5Aを上昇させて円盤状成形体9を取り出す。【0013】次いで、円盤状成形体9を焼結してセラミックスを緻密化させ、円盤状基体とする。・・・円盤状成形体9は、・・・ホットプレス法で焼結する」(3頁左欄29行ないし45行)との記載、
(c-3)「【0014】本実施例においては、金属箔からなる抵抗発熱体を用いており、かつ抵抗発熱体2がほぼ同一平面内にある。このため、抵抗発熱体の型崩れという問題がほとんどなく、・・・ホットプレス焼結・・・した場合も、抵抗発熱体2の平面形状が定まっていることから、抵抗発熱体2の変形や位置ズレがほとんどなくなった。」(3頁左欄48行ないし右欄7行)との記載、
(c-4)「【0016】円盤状基体9Aを構成する緻密質セラミックスとしては、窒化珪素、窒化アルミニウム、サイアロン等を表示できる。・・・窒化アルミニウムを使うと、ハロゲン系腐食性ガスに対して、高い耐蝕効果が得られる。」(3頁右欄13行ないし18行)との記載がある。
(3).対比・判断
a.請求項1に係る発明について
(一致点)
上記引用例1に開示されている認められる(a-6)のヒーター付き静電チャック(以下、「引用例1の発明」という。)と本件請求項1に係る発明とを対比すると、
(a-1) 両者は、「セラミックスからなる基体と、この基体に一体化されたセラミックス誘電体層とこれらに包囲されている電極とを備えている、静電チャックからなる電極埋設品であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、前記基体とセラミックス誘電体層が、一体焼結品である電極埋設品。」である点で一致しており、
(相違点)
(a-2) セラミックスからなる基体が、本件請求項1に係る発明では、緻密質セラミックスからなるのに対し、引用例1の発明では、緻密質セラミックスからなるとの直接的記載がない点、
(a-3) 電極が、本件請求項1に係る発明では、基体中に埋設されているのに対し、引用例1の発明では、基体1とセラミックス誘電体層6との間に内蔵されている点、
(a-4)電極を包囲する基体が、本件請求項1に係る発明では、接合面のない一体焼結品であるのに対し、引用例1の発明では、セラミックスからなる基体1と、この基体に一体化されたセラミックス誘電体層6が一体焼結品であるが、両者の間に接合面があるか否か記載されていない点
(a-5)本件請求項1に係る発明では、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設部品が、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するためのものであるのに対し、引用例1の発明では、静電チャックが、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するためのものであるとの記載がない点において相違している。
(判断)
ア. 上記相違点(a-2)について検討すると、基体を構成するセラミックスに関し、本件特許明細書には、「基体を構成するセラミックスとしては、窒化珪素、窒化アルミニウム、・・・サイアロン等の窒化物系セラミックス、・・・アルミナー炭化珪素複合材料が好ましい。」【0015】との記載があり、上記セラミックスは本件請求項1に係る発明における緻密質セラミックスに相当するものと認められる。
一方、引用例1には、「セラミックス基体1、セラミックス誘電体層6は、・・・窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素複合体等とするのが好ましい。」(3頁右欄33行乃至38行)との記載がある。
そうすると、両者の発明においては、基体及びこの基体に一体化されるセラミックス誘電体層を構成するセラミックスは互いに一致しており、本件請求項1に係る発明では、上記したように、基体を構成するセラミックスが緻密質セラミックスに相当するものと認められるので、引用例1に記載の基体1及びセラミックス誘電体層6を構成するセラミックスは、同様に、緻密質セラミックスに相当するものと認められ、上記相違点(a-2)には実質的に差異はないものと認められる。
イ. 上記相違点(a-3)及び(a-4)について検討すると、引用例3の上記(c-1)及び(c-2)の記載によれば、引用例3には、プレス成形して予備成形体7の上に平面的パターンの板状体である抵抗発熱体2を設置し、抵抗発熱体2の上にセラミックス粉体8を充填し、セラミックス粉体を一軸加圧成形し、得られた成形体9をホットプレス法で焼結してセラミックスを緻密化させ、基体とすることが開示されているものと認められる。
そして、引用例1記載の発明であるヒーター付き静電チャックと引用例3記載の発明である半導体加熱用セラミックスヒーターとは、半導体製造装置内に設置され、半導体ウェハーを処理する際に用いられるものであって、同一技術分野に属するものであるから、両発明を組み合わせること、すなわち、引用例1の発明に引用例3の発明を適用することに格別の困難性はない。
そうすると、平面的パターンの導体が、引用例1では、静電チャックの電極であるのに対し、引用例3では、抵抗発熱体2である点で相違するものの、引用例1の静電チャックの電極と引用例3の抵抗発熱体2との両者は、ともに、平面的パターンの面状体、すなわち、板状体である点で共通しているので、引用例3の記載にしたがって、セラミックス予備成形体7の上に、引用例1に記載の平面的パターンの面状体、すなわち、パンチングメタルのような穴明き形状の膜状電極5を設置し、その上にセラミック粉体8を充填し、一軸加圧成形し、えられた成形体をホットプレス法で焼結して一体焼結することは容易に想到しうることであり、えられた一体焼結品は接合面のないものとなり、上記膜状電極5は焼結されたセラミックス成形体中に埋設されるであろうことは容易に予想することができることというべきである。
ウ. 相違点(a-5)について検討すると、引用例2の記載によれば、半導体製造用装置では、デポジション用ガス、エッチング用ガス、クリーニング用ガスとして塩素系ガス、フッ素系ガスなどの腐食性ガスが使用されること、また、静電チャックが半導体ウェハー固定技術として知られており、例えば、半導体ウェハーの搬送用、露光、成膜、微細加工、洗浄等に使用されることは周知であることが認められる(異議申立人 石田弘徳が甲第1号証として提示した特開昭5-251365号公報を参照されたい。)。さらに、引用例2に記載のウェハ-加熱装置もヒーター付き静電チャックであって、半導体製造装置に設置して、塩素系ガスやフッ素系ガス等のハロゲン系腐食性ガス雰囲気下で使用されることが開示されている。
そして、引用例1に記載のヒーター付き静電チャックは、引用例2に記載のものとと同様の構成を有するものであって、引用例1には、従来技術に関して、静電チャックは、「半導体ウェハーの搬送用、露光、成膜、微細加工、洗浄・・・等に使用され」(【0002】参照)ること、そして、引用例1に記載の静電チャックも半導体製造装置に設置して用いられることも開示されている。
そうすると、引用例1に記載のヒーター付き静電チャックを引用例2に記載のものと同様に、塩素系ガスやフッ素系ガス等のハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置して使用することは容易に想到しうることである。
エ. したがって、本件請求項1に係る発明は、引用例1ないし引用例3に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
そして、本件請求項1に係る発明の効果も、引用例1ないし引用例3に記載されたものから予測することができる程度のものであって、格別優れたものとはいえない。
b.本件請求項2に係る発明について
ア. 本件請求項1に係る発明と引用例1に開示された(a-6)の発明(引用例1の発明)との対比及び判断については(3)a.において前述したとおりである。
イ. そして、本件請求項2に係る発明における「前記電極が金網である」点について検討すると、引用例1には、膜状電極5として、「パンチングメタルのような穴明き形状とすると、誘電体層6の基材1との密着性が良好となる。」(2頁右欄41行ないし42行)との記載がある。そして、金網は、引用例1に記載のパンチングメタルと同様に、穴明き形状の金属製品として極めてよく知られたものであり、金網を構成する金属線が導体となることは明らかである。
そうすると、電極として、引用例1に記載のパンチングメタルにかえて金網を用いることは容易に想到しうることであるから、本件請求項2に係る発明は、引用例1ないし引用例3に記載されたもの及び従来周知の上記事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
c.本件請求項3に係る発明について
ア. 本件請求項1に係る発明と引用例1に開示された(a-6)の発明(引用例1の発明)との対比及び判断については(3)a.において前述したとおりである。
イ. そして、本件請求項3に係る発明における「前記電極がパンチングメタルである」点について検討すると、引用例1には、膜状電極5として、「パンチングメタルのような穴明き形状とすると、誘電体層6の基材1との密着性が良好となる。」(2頁右欄41行ないし42行)との記載があり、引用例1に記載のパンチングメタルは本件請求項3に係る発明におけるパンチングメタルに相当するものであることが認められる。
したがって、本件請求項3に係る発明は、引用例1ないし引用例3に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
d.本件請求項4に係る発明について
ア. 本件請求項4に係る発明と引用例1に開示された(a-7)の電極埋設品の製造方法(以下、「引用例1の方法の発明」という。)とを対比すると、
(一致点)
(d-1) 両者は、「セラミックスからなる基体と、この基体に一体化されたセラミックス誘電体層とこれらに包囲されている電極とを備えている、静電チャックからなる電極埋設品を製造する方法であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、セラミックス成形体を焼結することにより、基体を一体焼結品とし、前記基体内に前記電極を埋設することよりなる電極埋設品の製造方法。」である点で一致しており、
(相違点)
(d-2) セラミックスからなる基体が、本件請求項4に係る発明では、緻密質セラミックスからなるのに対し、引用例1の方法の発明では、緻密質セラミックスからなるとの直接的記載がない点、
(d-3) 本件請求項4に係る発明では、セラミックス成形体とこのセラミックス成形体中に埋設されている前記電極とを、前記電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、前記電極を接合面のない一体焼結品とし、前記基体内に前記電極を埋設し、前記孔内にセラミックスを充填させるのに対し、引用例1の方法の発明では、基体1とセラミックス誘電体層6との間に膜状電極5を設け、基体1とセラミックス誘電体層6とを一体焼結し、膜状電極5を基体1とセラミックス誘電体層6との間に内蔵させ、セラミックスからなる基体1と、この基体に一体化されたセラミックス誘電体層6との間に接合面があるか否か記載されていない点、
(d-4)本件請求項4に係る発明では、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設部品を製造する方法であるのに対し、引用例1の方法の発明は、静電チャックの製造方法であって、上記静電チャックがハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するためのものであるとの記載がない点において相違している。
(判断)
イ. 上記相違点(d-2)について検討すると、基体を構成するセラミックスに関し、本件特許明細書には、「基体を構成するセラミックスとしては、窒化珪素、窒化アルミニウム、・・・サイアロン等の窒化物系セラミックス、・・・アルミナ-炭化珪素複合材料が好ましい。」【0015】との記載があり、上記セラミックスは本件請求項4に係る発明における緻密質セラミックスに相当するものと認められる。
一方、引用例1には、「セラミックス基体1、セラミックス誘電体層6は、・・・窒化珪素焼結体、サイアロン、窒化アルミニウム、アルミナー炭化珪素複合体等とするのが好ましい。」(3頁右欄33行乃至38行)との記載がある。
そうすると、両者の発明においては、基体及びこの基体に一体化されるセラミックス誘電体層を構成するセラミックスは互いに一致しており、本件請求項4に係る発明では、上記したように、基体を構成するセラミックスが緻密質セラミックスに相当するものと認められるので、引用例1に記載の基体1及びセラミックス誘電体層6を構成するセラミックスは、同様に、緻密質セラミックスに相当するものと認められ、上記相違点(d-2)には実質的に差異はないものと認められる。
ウ. 上記相違点(d-3)について検討すると、引用例3の(c-2)及び(c-3)の記載によれば、引用例3には、プレス成形して予備成形体7の上に平面的パターンの板状体である抵抗発熱体2を設置し、抵抗発熱体2の上にセラミックス粉体8を充填し、セラミックス粉体を一軸加圧成形し成形体9を形成すること、及び得られた上記成形体9をホットプレス法で焼結してセラミックスを緻密化させ、基体とすることが開示されており、抵抗発熱体2の変形や位置ズレがないように、上記成形体9をホットプレス法で焼結して緻密化させ、基体とするには、上記膜状電極5の厚さ方向に向かって圧力を加えつつ上記セラミックス成形体9をホットプレス焼結して基体とすることは自明の技術的事項である。
そして、引用例1記載の発明であるヒーター付き静電チャックと引用例3記載の発明である半導体加熱用セラミックヒーターとは、半導体製造装置内に設置され、半導体ウェハーを処理する際に用いられるものであって、同一技術分野に属するものであるから、両発明を組み合わせ、引用例1記載の方法の発明に引用例3記載の方法の発明を適用することに格別の困難性はない。
そうすると、平面的パターンの導体が、引用例1では、静電チャックの電極であるのに対し、引用例3では、抵抗発熱体2である点で相違するものの、引用例1の静電チャックの電極と引用例3の抵抗発熱体2との両者は、ともに、平面的パターンの面状体、すなわち、板状体である点で共通しているので、引用例3の記載にしたがって、セラミックス予備成形体7の上に、引用例1に記載の平面的パターンの面状体、すなわち、パンチングメタルのような穴明き形状の膜状電極5を設置し、その上にセラミック粉体8を充填し、一軸加圧成形し、さらに、上記膜状電極5の厚さ方向に向かって圧力を加えつつえられた成形体をホットプレス法で焼結して一体焼結することは容易に想到しうることであって、上記膜状電極5の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、セラミックスが上記膜状電極の穴内に充填され、接合面のない一体焼結品が製造されるであろうことは容易に予想することができることというべきである。
エ. 相違点(d-4)について検討すると、引用例2の記載によれば、スーパークリーン状態を必要とする半導体製造用装置では、デポジション用ガス、エッチング用ガス、クリーニング用ガスとして塩素系ガス、フッ素系ガスなどの腐食性ガスが使用され、静電チャックが半導体ウェハー固定技術として知られており、例えば、半導体ウェハーの搬送用、露光、成膜、微細加工、洗浄等に使用されることは周知であることが認められる(異議申立人 石田弘徳が甲第1号証として提示した特開昭5-251365号公報を参照されたい。)。さらに、引用例2に記載のウェハ-加熱装置もヒーター付き静電チャックであって、半導体製造装置に設置して、塩素系ガスやフッ素系ガス等のハロゲン系腐食性ガス雰囲気下で使用されることが開示されている。
そして、引用例1に記載のヒーター付き静電チャックは、引用例2に記載のものとと同様の構成を有するものであって、引用例1には、従来技術に関して、静電チャックは、「半導体ウェハーの搬送用、露光、成膜、微細加工、洗浄・・・等に使用され」(【0002】参照)ること、そして、引用例1に記載の静電チャックも半導体製造装置に設置して用いられることも開示されている。
そうすると、引用例1に記載のヒーター付き静電チャックを引用例2に記載のものと同様に、塩素系ガスやフッ素系ガス等のハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置して使用することは容易に想到しうることである。
オ. したがって、本件請求項4に係る発明は、引用例1ないし引用例3に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
そして、本件請求項4に係る発明の効果も、引用例1ないし引用例3に記載されたものから予測することができる程度のものであって、格別優れたものとはいえない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電極埋設品及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、前記電極を包囲する前記基体が、接合面のない一体焼結品であることを特徴とする、電極埋設品。
【請求項2】前記電極が金網であることを特徴とする、請求項1記載の電極埋設品。
【請求項3】前記電極がパンチングメタルであることを特徴とする、請求項1記載の電極埋設品。
【請求項4】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品を製造する方法であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、セラミックス成形体とこのセラミックス成形体中に埋設されている前記電極とを、前記電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、前記基体を接合面のない一体焼結品とし、前記基体内に前記電極を埋設し、前記孔内にセラミックスを充填させることを特徴とする、電極埋設品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電極埋設品及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】現在、半導体ウエハーの搬送,露光,成膜,微細加工,洗浄,ダイシング等のために、静電チャックが使用されている。かかる静電チャックとしては、次のものが知られている。
(1)円盤状のセラミックスグリーンシート上に膜状電極をスクリーン印刷し、この膜状電極を覆うように、他の円盤状セラミックスグリーンシートを載せ、プレス成形し、こうして得た円盤状成形体を焼結させたものが知られている。しかし、成形体に圧力をかける際、不可避的に圧力の不均一が生じ、静電チャックの誘電体層の厚みが不均一になるため、製造が難しく、歩留りが悪い。
【0003】(2)この問題を解決するため、本出願人は、図7に概略的に示すような静電チャック35を開発した。即ち、緻密質の絶縁性セラミックスからなる円盤状誘電体板36と、絶縁性セラミックスからなる円盤状支持体37とを準備する。円盤状支持体37には貫通孔39が設けられている。そして、導電性接合剤からなる円形シートと、円柱状端子16とを準備する。円盤状支持体37と誘電体板36の裏面との間に、円形シートを挟む。円柱状端子16を貫通孔39に挿通させる。この状態で、組立体に加熱処理を施し、図7に示すように、導電性接合剤層38によって、誘電体板36と円盤状支持体37とを接合する。次いで、誘電体板36を研磨加工し、ウエハー吸着面36aを平坦にする。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、(1)の場合には、製造上の制約から、誘電体層の厚みが不均一になり易い。この点について補足する。グリーンシート上に印刷電極を形成した後、グリーンシートを積層してプレス成形、焼成を行う方法では、プレス成形段階や焼成段階で、誘電体層の厚さのバラツキや密着不良が不可避的に生じる。即ち、焼成体の内部における印刷電極の位置が変動している。従って、一体焼結後に誘電体層の表面をいくら精密に平面加工しても、誘電体層の厚さを均一にすることは困難である。また、こうした常圧焼結方法では、特に大型になってくると、誘電体層の緻密性を100%確保することが困難であり、絶縁破壊を防止するという観点から見た信頼性が低下してくる。更に、電極がスクリーン印刷法によって形成されているので、電極の抵抗値が比較的に大きい。従って、静電チャックの作働時における立ち上がり速度を向上させることは困難である。
【0005】一方、(2)の場合には、円盤状支持体37と誘電体板36とを、双方ともに成形し、焼成した後、研削機械によって表面をそれぞれ研削加工し、特に誘電体板の方については、その厚さを一定にする平面加工を施す必要がある。しかも、両者の間に銀ろう等からなる円形シートを挟み、加熱処理することで、両者を接合する必要がある。従って、円盤状支持体37及び誘電体板36の研削加工、厚さの調整及び特に面倒なろう接合工程が必要なので、製造工程数が多く、量産に支障がある。しかも、銀ろう等の導電性接合剤によって円盤状支持体37と誘電体板36とを接合すると、導電性接合剤層38に沿って必ず接合面が残る。しかし、高真空等の条件では、この接合面が絶縁破壊の原因となる。
【0006】本発明の課題は、電極埋設品において、絶縁破壊やショートを防止するという点で信頼性を向上させ、かつ電極の抵抗値を小さくし、かつ、基体のうち特に電極の周囲における強度を向上させることである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品であって、電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、電極を包囲する基体が、接合面のない一体焼結品であることを特徴とする。
【0008】また、本発明は、緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品を製造する方法であって、電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、セラミックス成形体とこのセラミックス成形体中に埋設されている電極とを、電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、基体を接合面のない一体焼結品とし、基体内に前記電極を埋設し、孔内にセラミックスを充填させることを特徴とする。
【0009】
【作用】本発明の電極埋設品によれば、埋設された面状の電極が金属バルク体からなっているので、電極の抵抗値が小さい。この点について補足すると、スクリーン印刷電極は、厚さが高々数十μm程度なので、抵抗値が必然的に大きくなる。
【0010】しかも、電極を包囲する基体が、接合面のない一体焼結品であるので、高真空等の放電し易い条件下においても、接合面からの放電、絶縁破壊は生じ得ない。従って、電極埋設品の信頼性が飛躍的に向上する。しかも、電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、セラミックス粉末が流動して回り込むので、板状体の両側におけるセラミックスの接合力が大きくなり、基体の強度が向上する。
【0011】本発明に係る製造方法によれば、金属バルク体からなる面状の電極が埋設されたセラミックス成形体を、電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、本発明の電極埋設品を製造することができる。しかも、製造工程が少なく、ろう付け等の接合工程が存在していないので、量産に適している。
【0012】
【実施例】本発明に係る電極埋設品は、高周波電極、静電チャックである。特に、電極埋設品が高周波電極である場合には、例えば電極がタングステンであり、周波数が13.56MHzの場合、電極の厚さは430μm以上が望ましい。しかし、この厚さの電極を、スクリーン印刷法で形成することは困難である。また、電極埋設品が静電チャックである場合には、電極を面状の金属バルク体とすることにより、チャックの応答速度の向上が可能である。
【0013】図7に示すような静電チャックにおいては、ハロゲン系腐食性ガスによって、膜状電極38が腐食することがあった。更に、膜状電極38は、重金属を含むろうで形成されているので、半導体に重金属汚染が生じるおそれがあった。
【0014】この点、本発明によれば、電極を包囲する基体が、接合面のない一体焼結品であるので、電極の腐食及び半導体製造装置内の汚染を、防止することができる。ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置される電極埋設品としては、静電チャック、高周波電極がある。
【0015】基体を構成するセラミックスとしては、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、サイアロン等の窒化物系セラミックス、炭化珪素及びアルミナ-炭化珪素複合材料が好ましい。本発明者の研究によれば、耐熱衝撃性の観点からは、窒化珪素が特に好ましく、ハロゲン系腐食性ガス等に対する耐蝕性の点では、窒化アルミニウムが好ましい。
【0016】ただし、窒化アルミニウムは特に焼結しにくい材料である。このため、特に従来の常圧焼結方法では、高い相対密度を有する焼結体を得ることは困難である。従って、従来は、窒化アルミニウム粉末中に多量の焼結助材を含有させてその焼結を促進することが行われていた。しかし、特に半導体製造装置内に設置されるで場合には、こうした焼結助材等が不純物となり、半導体汚染の原因になりうる。
【0017】この点、本発明によれば、窒化アルミニウム粉末をホットプレス焼結することにより、窒化アルミニウム粉末における不純物の含有量が1%以下である場合においても、99%を越える極めて高い相対密度を有する基体を製造することができた。
【0018】電極埋設品が静電チャックであり、かつ静電チャックを半導体製造装置内で使用する場合には、次の問題がある。セラミックスは温度が高くなるにつれて体積抵抗率が低くなるという特性があるので、温度が高くなるにつれて、吸着した半導体ウエハーに流れる電流が増加し、半導体ウエハーが破損する可能性が出てくる。
【0019】従って、半導体ウエハーの破損を防止するという観点からは、基体の体積抵抗率は、1011Ω・cm以上とすることが好ましい。この点で、更に最高600°C以上の高温用途の場合には、例えば500〜600°Cの高温域においても1011Ω・cm以上の体積抵抗率を有するものが好ましい。この点では、アルミナ、ベリリア、マグネシア、窒化珪素、窒化ホウ素が好ましい。
【0020】本発明の製造方法においては、セラミックス成形体に、金属バルク体からなる面状の電極を埋設する。この過程では、次の方法を例示できる。
方法(1) 予備成形体を製造し、この予備成形体の上に前記電極を設置する。次いで、この予備成形体及び電極の上にセラミックス粉末を充填し、一軸プレス成形する。
【0021】方法(2) コールドアイソスタティックプレス法によって、平板状の成形体を2つ製造し、2つの平板状成形体の間に電極を挟む。この状態で2つの成形体及び電極をホットプレスする。この方法では、コールドアイソスタティックプレス法によって、予め成形体の密度が大きくなっており、かつ成形体中における密度のバラツキが、方法(1)の場合に比べて少なくなっている。従って、方法(1)の場合に比べて、ホットプレス時における成形体の収縮量が小さくなり、かつ焼成後におけるバラツキも小さい。この結果、基体の平均絶縁耐圧が、相対的に大きくなる。
【0022】この作用効果は、特に、電極埋設品が静電チャックである場合に、極めて重要である。なぜなら、上記した理由から、静電チャックの誘電体層における平均絶縁耐圧を、より一層大きくし、その信頼性を飛躍的に向上させることができるからである。
【0023】この意味で、コールドアイソスタティックプレス法によって得られた成形体の相対密度は、60%以上とすることが最も好ましい。
【0024】更に、コールドアイソスタティックプレス法によって得られた成形体の表面に、電極をスクリーン印刷する方法は、印刷後、非酸化性雰囲気下において長時間の脱脂工程を実施する必要がある。この点、コールドアイソスタティックプレス法によって得られた成形体の間に電極を挟む態様では、こうした長時間の脱脂工程が存在しないので、量産の観点から有利である。
【0025】更に、電極埋設品が静電チャックである場合には、仮にスクリーン印刷によって電極膜を形成したと仮定すると、ホットプレス工程の際に電極膜が変形し、この結果、電極膜の上にある誘電体層の厚さが不均一となるという問題が生ずると考えられる。この点、本発明におけるように、面状の金属バルク体からなる電極を埋設すれば、ホットプレスの際に電極の剛性によって電極の変形を防止できるので、誘電体層の厚さの不均一を防止できる。特に、静電チャックの場合には、この誘電体層の厚さがチャック性能を決定するので、重要である。また、本発明における面状の金属バルク体とは、例えば、線体あるいは板体をらせん状、蛇行状に配置することなく、例えば、図3、図6に示すような一体の面状として形成したものをいう。
【0026】電極としては、その厚さ方向に向かってホットプレスをするため、ホットプレス時の歪みを防止するという観点から、平板形状の電極が好ましい。この電極としては、最高600°C以上の高温にまで温度が上昇する用途においては、高融点金属で形成することが好ましい。こうした用途としては、半導体製造装置用の静電チャックがある。
【0027】こうした高融点金属としては、タンタル,タングステン,モリブデン,白金,レニウム、ハフニウム及びこれらの合金を例示できる。半導体汚染防止の観点から、更に、タンタル、タングステン、モリブデン、白金及びこれらの合金が好ましい。
【0028】特に、電極がタングステンであり、基体が窒化珪素である場合には、両者の熱膨張係数が大きく異なるので、従来のように、スクリーン印刷によって膜を形成し、常圧焼結する方法では、熱膨張の不整合のために、一体化が困難であった。この点、本発明の製造方法によれば、このように熱膨張係数が大きく異なる基体と電極との組み合わせであっても、一体化することが可能である。なぜなら、電極の厚さ方向へと向かって成形体をホットプレスしているからである。
【0029】電極の形態は、多数の小孔を有する板状体からなる面状の電極であり、これらにセラミックス粉末が流動して回り込むので、板状体の両側におけるセラミックスの接合力が大きくなり、基体の強度が向上する。
【0030】こうした板状体としては、パンチングメタル、金網を例示できる。ただし、電極が高融点金属からなり、かつパンチングメタルである場合には、金属の硬度が高いので、高融点金属からなる板に多数の小孔をパンチによって開けることは困難であり、加工コストも非常に高くなる。
【0031】この点、電極が金網である場合には、高融点金属からなる線材が容易に入手できるので、この線材を編組すれば金網を製造できる。従って、電極の製造が容易である。
【0032】また、電極の形態が薄板である場合には、電極と基体との熱膨張係数の差によって、電極の周縁部分に特に大きな応力が加わり、この応力のために基体が破損することがあった。しかし、電極が、多数の小孔を有する板状体である場合には、この応力が多数の小孔によって分散される。
【0033】金網のメッシュ形状、線径等は特に限定しない。しかし、線径φ0.03mm、150メッシュ〜線径φ0.5mm、6メッシュにおいて、特に問題なく使用できた。また、金網を構成する線材の幅方向断面形状は、円形の他、楕円形、長方形等、種々の圧延形状であってよい。
【0034】以下、図面を参照しつつ、本発明の実施例を説明する。図1は、静電チャックを概略的に示す断面図である。図2は、図1の静電チャックのうち一部を切り欠いて示す斜視図である。図3は、金網3を示す斜視図である。図4(a)は、一軸プレス型における成形工程を説明するための模式的断面図であり、図4(b)は、成形体15を示す断面図であり、図4(c)は、静電チャックを概略的に示す断面図である。図5は、コールドアイソスタティックプレス法による成形体を示す断面図である。
【0035】本実施例の静電チャックを製造するには、まず図4(a)に示すようなプレス成形機を準備する。プレス成形機の下型14に、型枠10が嵌め合わされている。セラミックス粉末を型枠10の内部空間11に充填し、下型14及び図示しない上型によって一軸プレス成形し、予備成形体12Aを製造する。予備成形体12Aの上に金網3を設置する。金網3は、図3に示すように、円形をなしている。
【0036】次いで、金網3の上にセラミックス粉末13を充填し、金網3を埋設する。図示しない上型によって粉末13を一軸加圧成形し、図4(b)に示す成形体15を作成する。成形体15においては、予備成形体12Aと予備成形体12Bとの間に金網3が埋設された状態となっている。次いで、この成形体15をホットプレス焼結し、所定の研削加工を施し、図4(c)に示す静電チャック本体を得る。
【0037】図4(c)においては、略円盤形状の基体1の側周面1dにリング状のフランジ1cが設けられており、基体1の内部に、金網3からなる電極9が埋設されている。半導体ウエハー等の被固定物の設置面1a側には、所定厚さの誘電体層4が形成されている。支持部分8側には端子16が埋設されており、端子16が電極9に接続されている。端子16の端面が、基体1の裏面1bに露出している。
【0038】また、他の方法では、セラミックス粉末13をコールドアイソスタティックプレスによって成形し、図5に示すような平板形状の成形体17Aと17Bとを製造する。次いで、成形体17Aと17Bとの間に金網3を挟み、この状態で、成形体17A、17Bをホットプレス焼結させる。
【0039】前記した方法によって図1、図2に示す静電チャックを製造した。まず、セラミックス粉末13として、イットリアを5重量%含有する窒化アルミニウム粉末を使用した。コールドアイソスタティックプレスによって7トン/cm2の圧力を加えて成形し、2枚の成形体17A、17Bを製造した。各成形体の嵩密度は2.51g/cm3であった。
【0040】金属モリブデンからなる金網3を準備した。金網3のメッシュはφ0.18mmの圧延品である。これを成形体17Aと17Bとの間に挟み、1900°C、200kg/cm2でホットプレス焼結した。この後、機械加工によって誘電体層の厚さを平均300μmに設定した。実測では、誘電体層の厚さは、306±50μmであった。この後、裏面側より超音波加工によって基体に孔をあけ、端子16を接合した。なお、基体1の4箇所に、半導体ウエハーを昇降するためのピンを通す孔2を形成した。
【0041】この静電チャックの動作試験を行った。端子16に電線5を接続し、またステンレス製おもり6を設置面1a上に設置し、ステンレス製おもり6に電線(アース線)5を接触させた。これらの電線5を直流電源7に接続した。また、ステンレス製おもり6を、荷重測定用のロードセル40に接続した。1KVの電圧を印加し、ステッピングモーター41によって、ロードセル40に接続されたステンレス製おもり6を、矢印A方向へと引き上げた。吸着力は、(ロードセルが剥離したときの荷重-重りの質量)/(重りの吸着面の断面積)によって求めた。この結果、50g/cm2の吸着力を得た。
【0042】また、基体1の相対密度は99.9%以上であり、φ146mmの面内において、最低絶縁耐圧が10KV/mmであり、平均28KV/mmであった。
【0043】一方、従来の常圧焼結窒化アルミニウム製の静電チャックについては、嵩密度が最高のもので、99.0%であった。また、φ150mmの面内において、最低絶縁耐圧が3KV/mmであり、平均15KV/mmであった。
【0044】図6はパンチングメタル21を示す斜視図である。
【0045】パンチングメタル21は円形をしており、円形の平板21a内に多数の円形孔21bが、碁盤目形状に多数形成されている。
【0046】
【発明の効果】以上述べたように、本発明の電極埋設品によれば、埋設された電極が面状の一体化した金属バルク体からなっているので、線体や板体をらせん状や蛇行状に配置した場合に比べ、電極の抵抗値が小さい。
【0047】しかも、電極を包囲する基体が、接合面のない一体焼結品であるので、高真空等の放電し易い条件下においても、接合面からの放電、絶縁破壊は生じ得ない。従って、電極埋設品の信頼性が飛躍的に向上する。
【0048】しかも、電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、セラミックス粉末が流動して回り込むので、板状体の両側におけるセラミックスの接合力が大きくなり、基体の強度が向上する。
【0049】本発明に係る製造方法によれば、面状の金属バルク体からなる電極が埋設されたセラミックス成形体を、電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、本発明の電極埋設品を製造することができる。しかも、製造工程が少なく、ろう付け等の接合工程が存在していないので、量産に適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】静電チャック及びその吸着力の測定機構を、概略的に示す断面図である。
【図2】図1の静電チャックのうち一部を切り欠いて示す斜視図である。
【図3】金網3を示す斜視図である。9
【図4】(a)は、一軸プレス型における成形工程を説明するための模式的断面図であり、(b)は、成形体15を示す断面図であり、(c)は、静電チャックを概略的に示す断面図である。
【図5】コールドアイソスタティックプレス法による成形体を示す断面図である。
【図6】パンチングメタル21を示す斜視図である。
【図7】従来の静電チャックの一例を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】1、31 基体 1a、31a 設置面 3 金網 4 誘電体層 9 電極12A、12B 一軸プレスによる成形体 13 セラミックス粉末 15 金網3が埋設された成形体 16 端子 17A、17B コールドアイソスタティックプレス法による成形体 21 パンチングメタル
 
訂正の要旨 訂正の要旨
1.訂正事項a
特許請求の範囲の減縮を目的として、明細書における特許請求の範囲の請求項1を以下のように訂正する。
「【請求項1】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、前記電極を包囲する前記基体が、接合面のない-体焼結品であることを特徴とする、電極埋設品。」
2.訂正事項b
明細書における特許請求の範囲の請求項4、請求項5を削除する。
3.訂正事項c
特許請求の範囲の減縮を目的として明細書における特許請求の範囲の請求項6を請求項4とし、かつ以下のように訂正する。
「【請求項4】緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品を製造する方法であって、前記電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、セラミックス成形体とこのセラミックス成形体中に埋設されている前記電極とを、前記電極の厚さ方向に向かって圧力を加えつつホットプレス焼結することにより、前記基体を接合面のないー体焼結品とし、前記基体内に前記電極を埋設し、前記孔内にセラミックスを充填させることを特徴とする、電極埋設品の製造方法。」
4.訂正事項d
訂正事項aにおける請求項1の特許請求の範囲の減縮に伴い、これと適合させるために、明細書の段落番号【0007】を以下のように訂正する。
「【0007】【課題を解決するための手段】本発明は、緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品であって、電極が、面状の金属バルク体からなる多数の孔が設けられている板状体からなり、電極を包囲する基体が、接合面のない一体焼結品であることを特徴とする。」
5.訂正事項e
訂正事項cにおける請求項6の特許請求の範囲の減縮に伴い、これと適合させるために、明細書の段落番号【0008】の1〜2行(特許第2967024号公報の段落番号【0008】の1〜3行)の「また、本発明は、緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えている電極埋設品を製造する方法であって、」を「また、本発明は、緻密質セラミックスからなる基体と、この基体中に埋設されている電極とを備えており、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置するための、高周波電極および静電チャックからなる群より選ばれた電極埋設品を製造する方法であって、」に訂正する。
6.訂正事項f
訂正事項aにおける請求項1の特許請求の範囲の減縮に伴い、これと適合させるために、明細書の段落番号【0012】の1〜2行(特許第2967024号公報の段落番号【0012】の1〜3行)の「本発明に係る電極埋設品としては、電気集塵機、電磁シールド、高周波電極、静電チャックが好ましい。」を「本発明に係る電極埋設品は、高周波電極、静電チャックである。」に訂正する。
7.訂正事項g
訂正事項aにおける請求項1の特許請求の範囲の減縮に伴い、これと適合させるために、明細書の段落番号【0012】の5〜7行(特許第2967024号公報の段落番号【0012】の7〜10行)の「また、電極埋設品が静電チャック、電気集塵機である場合には、電極を面状の金属バルク体とすることにより、チャック、集塵の応答速度の向上が可能である。」を「また、電極埋設品が静電チャックである場合には、電極を面状の金属バルク体とすることにより、チャックの応答速度の向上が可能である。」に訂正する。
8.訂正事項h
訂正事項aにおける請求項1の特許請求の範囲の減縮に伴い、これと適合させるために、明細書の段落番号【0013】の1〜2行(特許第2967024号公報の段落番号【0013】の1〜3行)の「電極埋設品が、ハロゲン系腐食性ガスを使用する半導体製造装置内に設置される電極埋設品である場合には、次の作用がある。」を削除する。
異議決定日 2001-06-28 
出願番号 特願平6-59077
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (H01L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中西 一友松本 邦夫  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 ぬで島 慎二
井口 嘉和
登録日 1999-08-13 
登録番号 特許第2967024号(P2967024)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 電極埋設品及びその製造方法  
代理人 青木 純雄  
代理人 細田 益稔  
代理人 青木 純雄  
代理人 細田 益稔  

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