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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1074824
異議申立番号 異議2002-70703  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-11-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-03-18 
確定日 2003-02-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3210544号「抗菌・抗黴性のアルミニウム建築材及びそれを用いた建具」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3210544号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3210544号の手続の経緯は次のとおりである。

特許出願: 平成 7年 4月21日
設定登録: 平成13年 7月13日
特許掲載公報発行: 平成13年 9月17日
特許異議申立て: 平成14年 3月18日
取消理由通知: 平成14年10月 4日付け
訂正請求: 平成14年12月17日
特許異議意見書: 平成14年12月17日

2.訂正の適否についての判断

2-1.訂正の内容
訂正の内容は、訂正請求書及びそれに添付された訂正明細書の記載からみて、下記(1)〜(4)のとおりである。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の「・・・薄膜をコーティングしてなり・・・」を「・・・薄膜を直にコーティングしてなり・・・」と訂正し、請求項1を「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてなり、該光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の膜厚が1μm以下であることを特徴とするアルミニウム建築材。」と訂正する。

(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項3の「・・・抗菌性の金属がコーティングされている・・・」を「・・・抗菌性の金属が1μm以下の厚さとなるようにコーティングされている・・・」と訂正し、請求項3を「前記光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の上にさらに抗菌性の金属が1μm以下の厚さとなるようにコーティングされている請求項1又は2に記載のアルミニウム建築材。」と訂正する。

(3)訂正事項c
明細書【0006】の「・・・さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなり・・・」(特許掲載公報第4欄第24〜25行)を「・・・さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてなり・・・」と訂正する。

(4)訂正事項d
明細書【0006】の「・・・抗菌性の金属をコーティングすることにより・・・」(特許掲載公報第4欄第29〜30行)を「・・・抗菌性の金属を1μm以下の厚さとなるようにコーティングすることにより・・・」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aは、請求項1に係る光触媒作用を有する半導体を含む薄膜のコーティングに関し、陽極酸化皮膜上に該薄膜を直にコーティングする態様に限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、その態様は、明細書【0012】に「・・・このような光触媒作用を有する半導体のコーティング方法としては、・・・このような方法によって、アルミ合金表面の陽極酸化皮膜上に光触媒膜がコーティングされると共に、光触媒膜の一部が陽極酸化皮膜の微細孔内に析着・充填され、あるいは陽極酸化皮膜の微細孔が封止され・・・」(特許掲載公報第6欄第10〜17行)と記載され、図1〜5にも記載されているから、この訂正は、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(2)訂正事項bは、請求項3に係る抗菌性の金属のコーティングに関し、1μm以下の厚さとなるようにコーティングされている態様に限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「抗菌性の金属が1μm以下の厚さとなるようにコーティングされている」ことについて、明細書【0017】には、「コーティングされる抗菌性金属膜の膜厚は、1μm以下とする必要がある。・・・従って、抗菌性金属膜の膜厚は、1μm以下とする必要があり、好ましくは1〜100nm、特に好ましくは1〜10nmである。・・・」(特許掲載公報第4欄第25〜32行)と記載されているから、この訂正は、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(3)訂正事項cは、上記訂正事項aに整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(4)訂正事項dは、上記訂正事項bに整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

2-3.むすび

したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する同法第126条第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断

3-1.特許異議の申立理由の概要
特許異議申立人三協アルミニウム工業株式会社は、下記の甲第1〜13号証を提出し、以下の理由1,2により、本件の請求項1〜5に係る発明の特許は取り消されるべきであると主張している。

理由1:本件の請求項1,3に係る発明は、本件出願日前の出願であって、その後出願公開された下記の甲第1号証に係る出願(以下「先願1」という)、または、同甲第2号証に係る出願(以下「先願2」という)の願書に添付した明細書又は図面(以下、それぞれ「先願明細書1」、「先願明細書2」という)に記載された発明(以下、それぞれ「先願発明1」、「先願発明2」という)と同一であり、本件出願に係る発明の発明者と先願発明1,2の発明者とは同一でなく、さらに、本件出願の時において、本件出願人と先願1,2の出願人とは同一でないから、本件の請求項1,3に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
理由2:本件の請求項1〜5に係る発明は、本件の出願前に頒布された刊行物である以下の甲第3〜13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1〜5に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特願平6-332117号(特開平8-165209号)
甲第2号証:特願平6-254242号(特開平7-232080号)
甲第3号証:特開昭62-182298号公報
甲第4号証:特開平6-200399号公報
甲第5号証:特開平6-65012号公報
甲第6号証:特開平4-307066号公報
甲第7号証:特開平6-278241号公報
甲第8号証:特開平7-102678号公報
甲第9号証:「工業材料」1995年1月号(Vol.43 No.1)第94〜100頁(国立国会図書館受入:平成6年12月16日)
甲第10号証:特開平7-462号公報
甲第11号証:特開平4-32577号公報
甲第12号証:特開平6-65787号公報
甲第13号証:特開平2-6333号公報

なお、当審が通知した取消理由は、本件の請求項1,3に係る発明は、上記甲第1号証に係る先願と同一であるから、本件請求項1,3に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、本件請求項1〜3に係る発明は、上記甲第3,5,9,11,12号証に記載された発明、及び特開平5-337337号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、本件請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであることを趣旨としている。

3-2.本件発明
本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明1」等という)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】 アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてなり、該光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の膜厚が1μm以下であることを特徴とするアルミニウム建築材。
【請求項2】 前記陽極酸化皮膜の膜厚が0.001〜30μm、細孔径が5〜250nmである請求項1記載のアルミニウム建築材。
【請求項3】 前記光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の上にさらに抗菌性の金属が1μm以下の厚さとなるようにコーティングされている請求項1又は2に記載のアルミニウム建築材。
【請求項4】 アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなる框材もしくは枠材と、表面に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなるパネル材と、光触媒作用を有する半導体微粒子を含有する水密気密材とから構成される建具。
【請求項5】 表面に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなるパネル材が窓ガラスパネル材である請求項4に記載の建具。」

3-3.各甲号証の記載
(1)甲第1号証に係る先願明細書1(取消理由の引用先願明細書1)には、以下の記載がある。

1-ア.「単体,合金,化合物又は皮膜としてAgを含む基材と、イオンビーム支援蒸着法で形成したTiO2 膜又は白金族元素の蒸着膜とを備えている触媒作用を利用した抗菌・防カビ部材。」(請求項1)

1-イ.「・・・TiO2 は、光照射によって電子や正孔が生成し、強力な酸化還元作用を発現する光触媒としての機能を持っていることから、活性酸素の生成を促進させ、Agと共同して抗菌・防カビ性を著しく向上させる。このような作用は、TiO2 の膜厚を0.01〜1μmにするとき顕著となる。・・・」(【0007】)

1-ウ.「・・・実施例1:・・・アルミニウム合金(1100)板に膜厚20μmのアルマイト皮膜を形成したものを基材として使用した。この基材に真空蒸着法で膜厚1μmのAg蒸着膜を形成した後、酸素イオンビームで照射しながら、イオンビーム支援蒸着法によりTiを蒸着させ、膜厚0.4μmのTiO2 膜を形成した。・・・」(【0011】)

1-エ.「実施例4:・・・アルミニウム合金(1100)板に膜厚20μmのTiO2 含有塗膜を形成したものを、基材として用意した。この基材に、Arイオンビームを用いてAgを蒸着し、膜厚0.4μmのAg蒸着膜を形成した。・・・」(【0012】)

1-オ.「・・・実施例7:実施例1と同じアルマイト処理したアルミニウム合金板に真空蒸着法でPtを蒸着したものを、基材として用意した。この基材に、酸素イオンビームを使用したイオンビーム支援蒸着法でTi及びAgを蒸着し、膜厚0.4μmのAg含有TiO2 膜を形成した。」(【0012】)

1-カ.「・・・このようにして、処理された部材は、・・・建材等として広範な分野で使用される。」(【0021】)

(2)甲第2号証に係る先願明細書2には、以下の記載がある。

2-ア.「基材表面にバインダー層を介して光触媒層が保持された光触媒機能を有する多機能材において、前記光触媒層の上層部は外気と接するようにバインダー層から露出され、また前記光触媒層の下層部はその一部がバインダー層内に埋設されていることを特徴とする光触媒機能を有する多機能材。」(請求項1)

2-イ.「ここで、基材としては、タイル、衛生陶器、ガラス等のセラミック、樹脂、金属、木材またはその混合物等のいずれでもよい。」(【0008】)

2-ウ.「また、前記バインダー層は、例えば釉薬、無機ガラス、熱可塑性樹脂、半田等の熱可塑性材料にて構成する。・・・」(【0010】)

2-エ.「前記光触媒層の厚さは0.1μm〜0.9μmであることが好ましい。・・・」(【0014】)

2-オ.「・・・この方法によれば、・・・建材等に後から防臭性、防汚性、抗菌性、抗カビ性等の機能を付加することができる。」(【0028】)

(3)甲第3号証(取消理由の引用刊行物2)には、以下の記載がある。

3-ア.「アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の微細孔に、抗菌剤又は防黴剤を含浸させて、抗菌性又は防黴性を付与したことを特徴とする抗菌・防黴性陽極酸化皮膜付アルミニウム製品。」(特許請求の範囲第1項)

3-イ.「上記抗菌剤又は防黴剤が;10,10´-オキシビスフェノールキシアルシン・・・である特許請求の範囲第1項記載の抗菌・防黴性陽極酸化皮膜付アルミニウム製品。」(特許請求の範囲第3項)

3-ウ.「酸化皮膜12に抗菌剤14(又は防黴剤)を含浸させるために、次のような方法が採用される。(a)電着法;・・・(b)浸漬法;・・・(c)塗布法;・・・。」(第3頁左上欄第2〜15行)

3-エ.「上記方法によって得られた陽極酸化皮膜12を有するアルミニウム製品は、例えば・・・病院、浴室、理・美容室、洗面所、厨房、無菌室内の・・・壁面材、サッシや手摺等に使用される。当該アルミニウム製品は、表面に形成された酸化皮膜12が安定していることから腐食性、硬さ、耐摩耗性等に優れている・・・。又、微細孔13を有する酸化皮膜12に抗菌剤14(又は防黴剤)を含浸させるので、抗菌剤14の付着強度が高い。」(第3頁左上欄第19行〜同頁右上欄第11行)

(4)甲第4号証には、以下の記載がある。

4-ア.「アルミニウム又はアルミニウム合金に形成された多孔質陽極酸化皮膜(1)の細孔(2)に微細粒子の機能性物質(3)を充填させてなる機能性酸化皮膜を有するアルミニウム又はアルミニウム合金機能性材料。」(請求項1)

4-イ.「本発明は、・・・アルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔に調湿材料、芳香材料、発光材料等の機能性物質を充填したパネル、形材等のアルミニウム機能性材料に関するものである。」(【0001】)

4-ウ.「応用例3・・・発光材を多孔質陽極酸化皮膜の細孔内に充填したアルミニウムパネルを天井、床の間、書院窓などに用い、・・・」(【0017】)

4-エ.「・・・また、機能性物質は、陽極酸化皮膜の細孔深くに析着充填されている為、その脱落もなく、・・・」(【0018】)

(5)甲第5号証(取消理由の引用刊行物3)には、下記の記載がある。
5-ア.「銀、銅、亜鉛、白金の内から選ばれた少なくとも一種の金属イオンを含有した酸化チタン膜を基板に被覆し、その上にさらに酸化チタン膜を被覆したことを特徴とする抗菌抗カビ性セラミックス。」(請求項3)

5-イ.「本発明に用いられる導電性の基板としては、・・・アルミニウム・・・などの金属・・・が挙げられる。・・・」(【0009】)

5-ウ.「こうして得られた本発明による抗菌抗カビ性セラミックスは、・・・風呂場のタイルや建物の外壁に適用すれば・・・」(【0017】)

(6)甲第6号証には、以下の記載がある。

6-ア.「パネルの裏面に光触媒を付設し、この光触媒へ波長410nm以下の紫外線を含む光線を照射する短波長光ランプを前記パネルの裏側に配置してなる脱臭パネル機構。」(請求項1)

6-イ.「光触媒5は、TiO2単独・・・を原料に、パネル即ちガラス板、木板、プラスチック板等の板状体に塗布、塗布焼結などしてコーティングしたものである。・・・」(【0011】)

(7)甲第7号証には、以下の記載がある。

7-ア.「受光面のある建築材料の表面に、光触媒活性を示す金属酸化物の薄膜を形成してなることを特徴とする建築材料。」(請求項1)

7-イ.「前記薄膜の透明性は・・・重要な要素であり、金属酸化物の膜厚を数μm程度にすることによって、防臭性等の機能を有する透明な薄膜を得ることができる。・・・」(【0018】)

(8)甲第8号証には、以下の記載がある。

8-ア.「病院内における部材が、金属材料・・・からなり、光に暴露され、かつ、該部材表面に光触媒機能を有する材料を適用したものであることを特徴とする院内感染防止方法。」(請求項1)

8-イ.「前記部材のうち、床、壁、窓枠、手すり・・・等、金属材料・・・からなる固形部材の場合は、該部材表面に光触媒機能を有する物質からなる薄膜で被覆することが好ましい。・・・これらの固形部材においては、酸化チタン等の光触媒機能を発現する物質からなる薄膜をコーティングするものであるが、膜厚を1μm程度にすれば、膜自体は透明であるため、意匠性を損なうことなく、各部材に適用することができる。」(【0013】)

(9)甲第9号証(取消理由の引用刊行物4)は、標題が「酸化チタン光触媒を用いた抗菌タイル」であり、以下の記載がある。

9-ア.「タイル表面に酸化チタンをコーティングし、これを焼成することにより、1μm以下の均一な光触媒薄膜層を固定化する新技術と・・・」(第95頁左欄第10〜12行)

9-イ.「・・・今後、酸化チタン光触媒技術を用いたタイル、建築材料がクリーンで快適な生活環境の創出に寄与するものになっていくと期待する。」(第100頁右欄第3〜6行)

(10)甲第10号証には、下記の記載がある。

10-ア.「病院内における部材として、表面及びその近傍が実質的に光触媒機能を有する金属酸化物と該金属酸化物の光触媒機能を向上させる第二の金属とを含有する金属混合体からなり、内部が実質的に該金属酸化物を構成するものと同種の金属と該金属酸化物の光触媒機能を向上させる第二の金属とを含有する金属混合体からなり、該表面及びその近傍と内部とが連続的に構成されている材料を適用し、該部材が光に暴露されたものであることを特徴とする院内感染防止方法。」(請求項1)

10-イ.「前記部材のうち、床、壁、窓枠、手すり・・・等の固形部材の場合は、・・・部材表面を金属混合体複合体を薄膜に加工したもので被覆することが好ましい。金属材料としては、壁、ドア、床材等に用いられる金属パネル、窓枠、階段、洗面所等の手すり・・・が挙げられ、これらは、・・・該表面に金属混合体複合体を薄膜状に加工したものを適用してもよい。・・・」(【0012】)

10-ウ.「本発明の院内感染防止方法に用いられる光触媒機能を発現する物質としては、例えば、表面及びその近傍は、酸化チタン等の金属酸化物半導体と光触媒機能を向上させるためのパラジウム等との金属混合体が、内部は、チタン等とパラジウム等との金属混合体であり、両者が連続的に構成されている金属混合体複合体等が挙げられる。・・・具体的には、表面及びその近傍に用いられる金属酸化物としては、・・・特に、酸化チタン・・・等がひろく知られている。・・・」(【0013】〜【0014】)

(11)甲第11号証(取消理由の引用刊行物5)には、以下の記載がある。

11-ア.「多数の微小孔によって多孔質化・・・されて・・・酸素を含有する皮膜が、AlまたはAl合金材の表面に形成されると共に、該皮膜の上に樹脂塗膜が形成され、該被膜と塗膜が・・・接合されたものである・・・塗膜密着性及び耐食性に優れた塗装AlまたはAl合金材。」(特許請求の範囲第1項)

11-イ.「皮膜が・・・多孔質アルマイトである塗装AlまたはAl合金材。」(特許請求の範囲第4項)

11-ウ.「本発明は、・・・塗装AlまたはAl合金材に関し、この塗装AlまたはAl合金材は、・・・建材等として有用である。」(第1頁右下欄第6〜9行)

(12)甲第12号証(取消理由の引用刊行物6)には、下記の記載がある。

12-ア.「AlまたはAl合金板の両面に、膜厚が0.5μm以上のアルマイト皮膜を有し、且ついずれか片面には該アルマイト皮膜の空孔内を通して、Zn系めっき材,Fe系めっき材またはMn系めっき材が形成されてなることを特徴とする接着性および塗装後耐食性に優れたAlまたはAl合金板。」(請求項1)

12-イ.「AlまたはAl合金板(・・・)は・・・建材等の幅広い分野で用いられてきた。・・・」(【0002】)

(13)甲第13号証には、下記の記載がある。

13-ア.「含水酸化チタンもしくは酸化チタンの粒子表面に、銅、亜鉛またはそれらの合金からなる抗菌性金属の少なくとも一種を担持してなることを特徴とする抗菌性粉末。」(特許請求の範囲第1項)

13-イ.「前記のようにして担持処理された抗菌性粉末は、各種の樹脂、ゴム、ガラスなどに配合して抗菌性組成物としたり、それ自体公知の種々の方法を適用することによって、・・・室内装飾材・・・などの抗菌性処理に適用したり、種々の環境衛生施設、機器類の抗菌剤等として利用することができる。」(第4頁左上欄第10〜17行)

13-ウ.「・・・抗菌性粉末の内の一種・・・に・・・アクリル樹脂・・・を加え・・・塗膜を得た。・・・この塗膜をポリプロピレン合成紙(・・・)上に、・・・手塗り塗工した。・・・乾燥塗膜厚み約14μm、全厚み約113μmの塗工成形物を得た。」(第7頁左下欄第2〜18行)

3-4.対比・判断
3-4-1.理由1について
(1)先願発明1との対比・判断
本件発明1(前者)と、先願発明1(後者)とを対比すると、後者の実施例1,7等の態様における「アルミニウム合金・・・板に・・・アルマイト皮膜を形成した」(1-ウ)、「実施例1と同じアルマイト処理したアルミニウム合金板」(1-オ)は、前者の「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し」に相当し、後者の「Tiを蒸着させ、膜厚0.4μmのTiO2 膜を形成した」(1-ウ)、「Ti及びAgを蒸着し、膜厚0.4μmのAg含有TiO2 膜を形成した」(1-オ)は、前者の「該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を・・・コーティングしてなり、該光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の膜厚が1μm以下である」に相当し、後者の「建材」(1-カ)は、前者の「建築材」に相当するから、両者は
「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなり、該光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の膜厚が1μm以下であることを特徴とするアルミニウム建築材。」
である点で一致する。
しかしながら、先願明細書1には、光触媒作用を有する半導体を含む薄膜が陽極酸化皮膜上にAg蒸着膜やPt蒸着膜を介してコーティングされている実施例か(1-ウ、1-オ)、もしくは陽極酸化被膜を介さずアルミニウム合金上に直にコーティングされている実施例しか記載されておらず(1-エ)、本件発明1の構成である「該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてな」る点については記載も示唆もないから、本件発明1は、先願発明1と同一ではない。
そして、本件発明1は、上記構成を有することにより、「・・・本発明のアルミ建築材は、アルミ合金からなる基材の表面に、光触媒膜の強い酸化還元作用に対するバリヤーとして機能し、しかも光触媒膜とアルミ合金地金との密着性を強めるアンカー効果を有する微多孔質の陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒膜をコーティングしたものであるため、アルミ合金地金表面の腐食(酸化)や光触媒膜の剥離といった問題もなく、・・・優れた抗菌・抗黴作用を示す。従って、本発明によれば、・・・抗菌・抗黴性の膜がアルミ合金基材表面を腐食することなくかつ高い密着強度でコーティングされた自己浄化性のアルミ建築材が提供される。・・・」(明細書【0031】)という先願発明1とは異なる作用、効果を奏するものであるから、先願発明1と実質同一であるともいえない。

本件発明3は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明1に対する理由と同様の理由により先願発明1と同一ではないし、実質同一であるともいえない。

(2)先願発明2との対比・判断
本件発明1(前者)と、先願発明2(後者)とを対比すると、後者の「基材表面にバインダー層を介して光触媒層が保持された光触媒機能を有する」(2-ア)ことは、前者の「基材の表面に・・・膜を形成し、さらに該・・・膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてな」ることに相当し、後者の「前記光触媒層の厚さは0.1μm〜0.9μmである」(2-エ)は、前者の「薄膜の膜厚が1μm以下である」に相当し、後者の「建材等」(2-オ)は、前者の「建築材」に相当するから、両者は、
「基材の表面に膜を形成し、さらに該膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてなり、該光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の膜厚が1μm以下であることを特徴とする建築材。」
である点で一致する。
しかしながら、先願明細書2には、本件発明1の構成である「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてな」る点について、記載も示唆もない。
また、甲第3,4,11,12号証に記載されているように、アルミニウム又はアルミニウム合金基材に陽極酸化皮膜を設けた建築材が周知、慣用であるとしても、先願明細書2には、「金属」等の基材に(2-イ)、「釉薬、無機ガラス、熱可塑性樹脂、半田等の熱可塑性材料」のバインダー層(2-ウ)を設けたものしか示されていないから、上記本件発明1の構成が記載されているに等しいということもできない。
そして、本件発明1は、上記構成を有することにより、「・・・本発明のアルミ建築材は、アルミ合金からなる基材の表面に、光触媒膜の強い酸化還元作用に対するバリヤーとして機能し、しかも光触媒膜とアルミ合金地金との密着性を強めるアンカー効果を有する微多孔質の陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒膜をコーティングしたものであるため、アルミ合金地金表面の腐食(酸化)や光触媒膜の剥離といった問題もなく、・・・優れた抗菌・抗黴作用を示す。従って、本発明によれば、・・・抗菌・抗黴性の膜がアルミ合金基材表面を腐食することなくかつ高い密着強度でコーティングされた自己浄化性のアルミ建築材が提供される。・・・」という、明細書【0031】記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、先願発明2と同一ではないし、実質上同一であるともいえない。

本件発明3は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明1に対する理由と同様の理由により先願発明2と同一ではない。

3-4-2.理由2について
本件発明1(前者)と、甲第3号証記載の発明(後者)とを対比すると、後者の「アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の微細孔に、抗菌剤又は防黴剤を含浸させて」(3-ア)は、含浸が電着、浸漬、塗布法によって行われているから(3-ウ)、前者の「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に・・・薄膜を直にコーティングしてなり」に相当し、後者の「抗菌剤又は防黴剤」は、抗菌性又は防黴性を付与する機能において、前者の「光触媒作用を有する半導体」に対応し(明細書【0003】の記載「・・・TiO2に代表される光触媒作用を有する半導体微粒子が・・・抗菌、防黴、防汚、防臭作用を有することは従来から知られており・・・」を参照)、後者の「病院・・・の・・・壁面材、サッシや手摺等」(3-エ)は、前者の「建築材」に相当するから、両者は、
「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に抗菌性又は防黴性を付与する薄膜を直にコーティングしてなるアルミウム建築材。」である点で一致し、下記の点で相違する。
相違点:陽極酸化皮膜上に直にコーティングしてなる抗菌性、防黴性を付与する薄膜が、前者では、光触媒作用を有する半導体を含む薄膜であって、該薄膜の膜厚が1μm以下であるのに対して、後者では10,10´-オキシビスフェノールキシアルシン等の抗菌剤又は防黴剤(3-イ)よりなり、その膜厚が不明である点。

そこで検討すると、抗菌性又は防黴性を付与する薄膜として、光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を形成した建築材は、甲第5〜9,13号証にそれぞれ記載されているし、さらに、甲第8号証には、該薄膜の膜厚が1μm程度であること(8-イ)が、甲第9号証には、タイル(基材)表面に酸化チタンをコーティングし、1μm以下の光触媒薄膜層を得ることが記載されている。
しかしながら、甲第5〜9,13号証には、光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングする基材として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成したものを用いることは、記載も示唆もされていない。
甲第10号証には、光触媒機能を発現する酸化チタン層を表面に形成した金属混合体複合体を薄膜に加工した建築材が記載されているが、酸化チタン層はチタンを含む金属混合体に直にコーティングされるものであって(10-ア、10-ウ)アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に形成された陽極酸化皮膜上に直にコーティングされることはあり得ない。
また、甲4,11,12号証には、アルミニウムやアルミニウム合金上に陽極酸化皮膜を形成し、その上に薄膜を直にコーティングすることにより接着性または耐食性が改善された建築材を得ることは記載されているが、それらの膜は、「調湿材料、芳香材料、発光材料等の機能性物質」(4-イ)、樹脂塗膜(11-ア)、または「Zn系めっき材,Fe系めっき材またはMn系めっき材」(12-ア)であって、光触媒作用を有する半導体微粒子を含む薄膜や、その膜厚に関しては、記載も示唆もない。
そして、本件発明1は、上記相違点における前者の「陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてなる」(以下「本件発明1の特徴点」という)という構成を有することにより、「本発明のアルミ建築材は、アルミ合金からなる基材の表面に、光触媒膜の強い酸化還元作用に対するバリヤーとして機能し、しかも光触媒膜とアルミ合金地金との密着性を強めるアンカー効果を有する微多孔質の陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒膜をコーティングしたものであるため、アルミ合金地金表面の腐食(酸化)や光触媒膜の剥離といった問題もなく、・・・優れた抗菌・抗黴作用を示す。従って、本発明によれば、・・・抗菌・抗黴性の膜がアルミ合金基材表面を腐食することなくかつ高い密着強度でコーティングされた自己浄化性のアルミ建築材が提供される。」という、明細書【0031】記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲第3〜13号証記載の発明を組み合わせて、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

本件発明2,3は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定を付加するものであるから、上記本件発明1に対する理由と同様の理由により、甲第3〜13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

本件発明4,5は、本件発明1の特徴点である「陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてなる」建築材である框材もしくは枠材を含む建具に係る発明である。
そして、本件発明1が、上記本件発明1の特徴点により進歩性を有するものであることは、上述のとおりであるから、この特徴点を有する本件発明4,5も、本件発明1に対する理由と同様の理由により、甲第3〜13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、取消理由通知で引用した刊行物7である特開平5-33733号公報には、化学的腐食及び短波長の光に対して長時間耐える光触媒担体が記載されているが(請求項1)、その担体がアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成したものであることは、記載も示唆もないから、上記判断が覆るものではない。

3-5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明1〜5の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
抗菌・抗黴性のアルミニウム建築材及びそれを用いた建具
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてなり、該光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の膜厚が1μm以下であることを特徴とするアルミニウム建築材。
【請求項2】 前記陽極酸化皮膜の膜厚が0.001〜30μm、細孔径が5〜250nmである請求項1記載のアルミニウム建築材。
【請求項3】 前記光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の上にさらに抗菌性の金属が1μm以下の厚さとなるようにコーティングされている請求項1又は2に記載のアルミニウム建築材。
【請求項4】 アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなる框材もしくは枠材と、表面に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなるパネル材と、光触媒作用を有する半導体微粒子を含有する水密気密材とから構成される建具。
【請求項5】 表面に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなるパネル材が窓ガラスパネル材である請求項4に記載の建具。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、抗菌・抗黴性のアルミニウム又はアルミニウム合金製の建築材(以下、アルミ建築材と略称する。)に関し、さらに詳しくは、その表面に形成した陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体あるいはさらに抗菌性金属をコーティングしてなる抗菌・抗黴性に優れたアルミ建築材、及びそれを用いた建具に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)等の院内感染が問題視されるようになってきている。院内感染の多くは日和見感染症であり、ウィルス、細菌、原虫、黴等が、抵抗力や免疫力が低下した人体の中で急に活発化して発症する感染症である。例えばMRSAの感染に関して言えば、その菌は主に患者や院内従事者の体、スリッパ、医療器具等を介して病院内に広がるようだが、空気中の塵埃に菌が付着して空気感染を起こすこともある。
そのため、院内感染を防ぐには室内空気全体を殺菌、浄化処理する必要があり、従来、薬品による消毒や空気清浄器に頼ってきた。しかしながら消毒においては、薬品を用いるため人体への影響も無視できず、薬品の臭いも不快感を与えるといった問題があり、また、作業が容易でない等の理由から頻繁に行うわけにもいかなかった。一方、空気清浄器による院内の浄化は比較的容易ではあるが、空気中の塵埃等を静電気により除去する原理であるため、細菌、黴、及びそれに付随する臭気等は除去しにくいといった問題があった。
また、煙草のヤニがサッシ、パネル材等の建築部材表面に付着し汚れた場合、美観を損ねるだけでなく、その部分に細菌が付着し繁殖し易いという問題もあった。
【0003】
ところで、TiO2に代表される光触媒作用を有する半導体微粒子が抗菌・抗黴作用を有することは従来から知られており、最近ではそれらを利用して、細菌や黴が繁殖しにくい様々な材料が研究、開発されている。例えば、特開平2-6333号公報には酸化チタンの粒子表面に銅、亜鉛等の抗菌性金属を担持させた抗菌性粉末について開示されており、この粉末を樹脂、ゴム、ガラス等に配合することによって抗菌性組成物が得られ、また、公知の方法により、電機機器、家具調度品、室内装飾材、食品等の包装資材等の抗菌性処理のほか、環境衛生施設、機器類の抗菌剤等として上記粉末を利用できると教示している。
特開平6-65012号公報には、銀、銅、亜鉛、白金等の金属を含有した酸化チタン膜をコンクリート、ガラス、プラスチック、セラミックス、金属等の材質からなる基板にコーティングすることによって、該基板において雑菌及び黴の繁殖を防止できる旨が開示されている。
さらに特開平4-307066号公報には、パネルの裏面に光触媒を付設し、該パネルの裏側に短波長光ランプを配置し、このランプから光触媒へ紫外線照射することによって、光触媒を活性化し、パネルが設置された室内の脱臭を図るという、光触媒による室内空気のリフレッシュ法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平4-307066号公報に記載の室内の脱臭を目的とした脱臭パネル機構は、前述した通り紫外線ランプを設置する必要があり、この様に特別な光源を用いた場合、光源のメンテナンスをしなければならない点や電気代などのランニングコストがかかるという欠点がある。また、紫外線ランプを室内に配置するのは危険であり、周りにある内装材や家具の色褪せを招くことにもなる。
また、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミ合金という)製の建築部材、例えばパネル材上に酸化チタン等の光触媒をコーティングすると、アルミ合金基材と光触媒の充分な密着性が得られず、コーティングした光触媒の膜が剥離し易いという問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、特別の装置を要することなくメンテナンスフリーであり、しかも抗菌・抗黴性の膜が高い密着強度でコーティングされた抗菌・抗黴性のアルミ建築材を提供することにある。
さらに本発明の目的は、空気清浄器など特別な装置を必要とせず、しかも薬品による消毒などを行わなくても、自己浄化機能を有し、細菌や黴の繁殖を防いで室内環境を清浄化する機能を有する建具ユニットを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の一側面によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてなり、該光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の膜厚が1μm以下であることを特徴とするアルミ建築材が提供される。
好適な態様においては、前記光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の上にさらにAg、Cu等の抗菌性の金属を1μm以下の厚さとなるようにコーティングすることにより、より一層抗菌・抗黴性に優れたアルミ建築材が提供される。
【0007】
さらに本発明の他の側面によれば、このようなアルミ建築材を用いた建具ユニットも提供される。その一態様によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなる框材もしくは枠材と、表面に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなるパネル材と、光触媒作用を有する半導体微粒子を含有する水密気密材とから構成される建具が提供される。
好適な態様においては、上記パネル材が窓ガラスパネル材である建具が提供される。
【0008】
【発明の作用及び態様】
前記したように、アルミ合金地金に直接、光触媒作用を有する半導体を含む膜(以下、光触媒膜という)をコーティングすると、光触媒膜とアルミ合金地金との密着性が悪く、衝撃を受けた場合に光触媒膜が剥離してしまうという問題がある。
このような問題を解決するためには、光触媒膜とアルミ合金地金の間に、光触媒膜とアルミ合金地金との密着性を強めるアンカー効果を有する膜を介在させる必要がある。このような中間膜として、本発明のアルミ建築材は、アルミ合金表面に一体的に形成された微多孔質の陽極酸化皮膜を利用するものである。
すなわち、本発明のアルミ建築材は、アルミ合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒膜をコーティングしたものである。陽極酸化皮膜は絶縁膜であり、しかも表面に直径約5nm〜250nmの細孔が無数に開いた微多孔質で、しかも凹凸のある構造を有している。従って、微多孔質構造によるアンカー効果によって、コーティングされる光触媒膜のアルミ合金地金に対する密着性を向上させることができる。
【0009】
このように、本発明のアルミ建築材は、光触媒膜とアルミ合金地金との密着性を強めるアンカー効果を有する微多孔質の陽極酸化皮膜の上に光触媒膜をコーティングしたものであるため、光触媒膜の剥離といった問題もなく、また、光が当たる材料表面の光触媒膜には充分な量の半導体が存在するため、優れた抗菌・抗黴作用を示す。すなわち、材料表面に露出している半導体微粒子、例えばTiO2に太陽光線や蛍光灯の光が照射されると、TiO2表面に正孔(h+)及び励起電子(e-)が生じ、光触媒作用を示す。すなわち、この電子の作用により空気中の酸素が還元され、酸素ラジカルを生じ、また正孔の作用によって水が酸化され、OHラジカルを生ずる。これらの活性酸素は優れた殺菌作用を有し、その結果、黴等が発生しにくくなる。
【0010】
また、上記のように抗菌・抗黴性に優れるアルミ建築材から框材もしくは枠材を作製し、これを、同様に抗菌・抗黴性を付与した他の部材、例えば、表面に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなるパネル材や、光触媒作用を有する半導体微粒子を含有する水密気密材と組み合わせて建具ユニットを構成することにより、抗菌・抗黴効果が一層高まり、これらの部材の表面に限らず、このような建築部材で構成される室内空間全体を衛生的に保つことができる。
すなわち、建具内面全体に光触媒膜をコーティングすることにより、日中は太陽光線が照射されるし、夜間でも蛍光灯の光が照射されるため、コーティング面は常に光触媒機能を発揮することになり、前記した原理によって抗菌・抗黴作用を示す面となる。また、室内空気は、常に対流しているため建具内面に接しており、このようにして建具内面に触れることにより清浄化される。
【0011】
アルミ合金表面に形成する陽極酸化皮膜の膜厚としては、0.001〜30μmが好ましい。膜厚が0.001μmより薄いと充分なアンカー効果を発揮できず、逆に、30μmより厚くなると、衝撃を受けたときに陽極酸化皮膜がアルミ合金地金から剥がれてしまう恐れがある。
陽極酸化処理は、硫酸、クロム酸、リン酸等の無機酸やシュウ酸、スルホサリチル酸、マロン酸等の有機酸、あるいはこれらの混酸からなる電解液を用いて従来公知の方法に従って行うことができ、微細孔の陽極酸化皮膜を形成できればよく、特に限定されるものではない。
【0012】
上記アルミ合金表面に形成した陽極酸化皮膜上にコーティングされる半導体としては、電子及び正孔の移動度が比較的大きく、上記のような光触媒作用を有する半導体であればいずれも使用可能であり、例えばTiO2、RuO2、Cs3Sb、InAs、InSb、GaAs等が挙げられるが、これらの中でも特にTiO2が好ましい。
このような光触媒作用を有する半導体のコーティング方法としては、スパッタ法、溶射法、レーザーアブレーション法、ゾル-ゲル法、メッキ法など種々の方法を用いることができる。このような方法によって、アルミ合金表面の陽極酸化皮膜上に光触媒膜がコーティングされると共に、光触媒膜の一部が陽極酸化皮膜の微細孔内に析着・充填され、あるいは陽極酸化皮膜の微細孔が封止され、極めて密着強度の高い光触媒膜が形成される。
【0013】
陽極酸化皮膜上への光触媒膜のコーティング態様の幾つかの例を図1乃至図5に示す。図5に示すように、アルミ合金地金1表面に形成された陽極酸化皮膜2は六角柱状のセル4の集合体である。セル4の中央にはアルミ合金地金1に垂直な細孔3が形成されており、細孔3の底部にはアルミ合金地金1と接して略椀状のバリヤー層5が形成されている。
このような構造の陽極酸化皮膜上に光触媒膜をコーティングする場合、コーティング方法やコーティングする半導体微粒子の粒径等により、図1乃至図5に示すような種々の態様のコーティング膜が得られる。図1は、陽極酸化皮膜2の細孔3内に半導体微粒子が析着・充填されると共にその表面に膜状にコーティングされ、このようにコーティングされた光触媒膜10aによって陽極酸化皮膜2の細孔3が封止された態様を示している。図2及び図3は、陽極酸化皮膜2の細孔3内に一部が入り込んでいるが、実質的に陽極酸化皮膜2上にその細孔3を塞ぐように光触媒膜10b、10cがコーティングされた態様を示しており、図2の場合は光触媒膜10bの表面が平滑に、図3の場合は光触媒膜10cの表面が凹凸状に形成されている。
【0014】
一方、図4及び図5は、陽極酸化皮膜2の細孔3底部に半導体微粒子10eが析着していると共に、その表面に細孔3を完全に塞ぐことなく析着して、多孔質の光触媒膜10dがコーティングされている態様を示している。このようなコーティング態様は、特にスパッタ法を用いた場合に形成され易い。すなわち、陽極酸化皮膜のセル壁は細孔に対して全ゆる方向から飛来するスパッタ粒子に対するバリヤーとして働き、細孔内への粒子の堆積は少なくなる。逆に、陽極酸化皮膜2のセル壁頂部に選択的に堆積し、図4及び図5に示すような多孔質のコーティング膜が得られる。
本発明による陽極酸化皮膜上への光触媒膜のコーティング態様は前記した例に限定されるものではなく、本発明の目的とする効果が得られる限り、種々のコーティング態様を採用できる。
【0015】
陽極酸化皮膜を形成したアルミ合金基材上にコーティングされる光触媒膜の膜厚は、数nm〜1μmが適当である。膜厚が厚いほど光触媒作用が高く、従って抗菌・抗黴性が高くなるが、1μm以上の膜厚になると基材表面から剥離し易くなるので好ましくない。特に光触媒膜をコーティングした建築材に穴を開けたり、切断したりする加工時や、施工時に剥離が起きやすくなる。一方、膜厚が薄くなれば光触媒作用も弱まり、充分な抗菌・抗黴作用を発揮できなくなるため、数nm以上、好ましくは10nm以上が望ましい。
【0016】
さらに本発明によれば、前記のようにアルミ合金基材表面の陽極酸化皮膜上に上記光触媒膜をコーティングした後、さらにAg、Cu、Pt等の抗菌作用を有する金属をコーティングすることにより、より一層抗菌・抗黴効果に優れたアルミ建築材が提供される。それによって、夜間、蛍光灯の明りが消えても抗菌性が維持され、室内空間全体を常に衛生的に保つことができる。
上記抗菌作用を有する金属のコーティング方法としても、前記光触媒膜のコーティング方法と同様に、スパッタ法、溶射法、レーザーアブレーション法、ゾル-ゲル法、メッキ法等種々の方法を用いることができる。
【0017】
コーティングされる抗菌性金属膜の膜厚は、1μm以下とする必要がある。前記した光触媒膜の場合と同様に、抗菌性金属膜の場合もその膜厚が厚いほど抗菌作用は強くなるが、1μmを超えると建築材表面に金属色が付き始め、美観上の問題が生じるほか、光の透過を遮断し、下地にある光触媒膜の抗菌・抗黴作用を低下させることにもなる。従って、抗菌性金属膜の膜厚は、1μm以下とする必要があり、好ましくは1〜100nm、特に好ましくは1〜10nmである。また、このような抗菌性金属は、必ずしも建築材表面に膜状に付着させる必要はなく、下地の光触媒膜への光の透過性を考慮した場合、島状に分散して付着させる方が好ましい。
【0018】
さらに本発明の他の態様によれば、このようなアルミ建築材から作製した框材もしくは枠材と、表面に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなるパネル材と、光触媒作用を有する半導体微粒子を含有する水密気密材とから構成される建具ユニットが提供される。このような建築部材を組み合わせて建具ユニットを構成することにより、抗菌・抗黴効果が一層高まり、これらの部材の表面に限らず、このような建築部材で構成される室内空間全体を衛生的に保つことができる。
上記パネル材としては種々の材質のものを用いることができるが、前記したアルミ建築材と同様に、アルミ合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒膜をコーティングしてなるパネル材、あるいはまた、上記光触媒膜の上にさらにAg、Cu、Pt等の抗菌性の金属をコーティングしてなる金属パネル材、合成樹脂からなる基材の表面に光触媒膜又は光触媒膜と上記抗菌性金属をコーティングした樹脂パネル材、ガラスからなる基材の表面に光触媒膜又は光触媒膜と上記抗菌性金属をコーティングしたガラスパネル材などを用いることが好ましい。
【0019】
特に窓ガラスパネル材に光触媒膜をコーティングする方法としては、前記したようなスパッタ法等の蒸着法や、ゾル-ゲル法、メッキ法などを用いることができ、その膜厚は数nm〜1μmが適当である。膜厚が厚いほど光触媒作用が高く、従って抗菌・抗黴性が高くなるが、1μm以上の膜厚になるとガラス表面から剥離し易くなるので好ましくない。一方、膜厚が薄くなれば光触媒作用も弱まるため、数nm以上、好ましくは10nm以上が望ましい。
また、このように光触媒膜がコーティングされた窓ガラスパネル材の表面に、さらに銅、銀、白金等の抗菌性を有する金属を、上記光触媒膜のコーティングと同様の方法によりコーティングすることもできる。それによって、夜間、蛍光灯の明りが消えても抗菌性が維持される。抗菌性金属膜の膜厚は、1〜10nmが適当である。抗菌性金属膜の膜厚が厚いほど抗菌作用は強くなるが、10nmを超えると光の透過性が減少し、窓として機能しなくなる。また、下地にある光触媒膜の抗菌・抗黴作用を低下させることにもなる。従って、抗菌性金属膜の膜厚は、1〜10nmが適当である。また、このような抗菌性金属は、必ずしも窓ガラスパネル材表面に膜状に付着させる必要はなく、光の透過性を考慮した場合、島状に分散して付着させる方が好ましい。
【0020】
前記水密気密材は、ゴムや樹脂等の高分子材料基材中に半導体微粒子を分散させ、抗菌・抗黴性を付与したものである。特に、窓ガラスパネル材の固定部として用いられているガスケット部は、結露水や汚れ等が溜り易く、それにより黴が生えて黒ずんでしまい、衛生的でないだけでなく、美観的にも悪くなってしまうという問題があったが、本発明の水密気密材を用いることにより、このような問題を解消できる。
高分子基材中に半導体微粒子を混在させる態様としては、光触媒作用を有する半導体微粒子を基材の少なくとも一方の表面に向かって多くなるように混在させたり、あるいは、光触媒作用を有する半導体微粒子が混在した高分子材料からなる層と上記半導体微粒子が混在していない高分子材料からなる層の二層構造とするなど、種々の態様を採用できる。このように、材料の表層部には充分な量の半導体微粒子が存在するが、内部にはできるだけ存在しないようにすることにより、半導体微粒子の配合量を減らし、半導体微粒子を多量に配合した時の材料の伸びや強度等の機械的特性の低下といった問題を解決することができる。また、光が当たる材料の表層部には充分な量の半導体微粒子が存在するため、優れた抗菌・抗黴作用を発揮させることができる。
【0021】
混合される半導体微粒子の割合は、高分子基材に対し0.01〜1000重量%の範囲にあることが好ましい。0.01重量%より少なくなると光触媒特性を発揮する半導体微粒子の量が不足し、ひいては水密気密材の充分な抗菌・抗黴性が得られず、一方、1000重量%を超えると抗菌・抗黴性の発揮に関しては問題ないが、水密気密材の機械的特性が著しく低下する。
使用する半導体微粉末の粒径は、1nm〜100μm、好ましくは5nm〜10μmが適当である。粒径が1nmより小さくなると量子サイズ効果によりバンドキャップが大きくなり、低圧水銀ランプ等の短波長光を発生する照射下でないと光触媒性能が得られないといった問題がある。また、粒径があまりに小さ過ぎると取り扱いが困難であったり、分散性が悪くなるという問題も生じてくる。取扱性の点からは5nm以上の粒径が好ましい。一方、粒径が100μmを超えると、材料表面に比較的大きな半導体微粒子が存在することになるため、表面の滑らかさが乏しくなり、また材料表面に露出した粒子が脱落し易くもなる。材料表面の平滑さ等を考慮すると10μm以下の粒径が好ましい。
【0022】
水密気密材の基材となる高分子材料としては、塩化ビニル樹脂、アクリルゴム、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンターポリマー(EPDM)等の適度の柔軟性と強度を有し、さらに光触媒作用に対して安定なものであれば特に限定されず、用途に応じて適宜選定することができる。本発明の水密気密材をガスケット部材として用いる場合、上記高分子材料としてもガスケットに従来用いられている各種樹脂やゴムを好適に用いることができる。
【0023】
本発明の水密気密材には、さらに抗菌性を向上させる材料として前記半導体微粒子以外に銅、銀、白金等の抗菌性を有する金属微粒子を含有させてもよい。これらの金属は、光の照射がなくても抗菌性を発揮するので、これらの抗菌性金属が表層部に存在する建築用水密気密材は、夜間、蛍光灯の明りが消えても抗菌・抗黴性が維持されることになる。尚、これらの抗菌性金属の大きさ、形状や高分子材料への添加方法も前述した光触媒作用を示す半導体微粒子の場合と同様であり、また、その含有量は、一緒に混在する半導体微粒子との合計量で、高分子材料に対し0.01〜1000重量%の範囲にあることが望ましい。
【0024】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでないことはもとよりである。
【0025】
実施例1
硫酸電解浴中で膜厚10μmの陽極酸化皮膜を形成したAl板上に、光触媒であるTiO2の膜を膜厚が0.1μmとなるようにコーティングした。コーティングに際してはRFマグネトロンスパッタ装置を使用し、以下の条件でコーティングを行った。
ターゲット:Ti
スパッタガス:Ar+O2
ガス圧(全圧):0.5Pa(O2分圧:5×10-3Pa)
スパッタ時間:30分
【0026】
実施例2
硫酸電解浴中で膜厚15μmの陽極酸化皮膜を形成したAl板上に、光触媒であるTiO2の膜を膜厚が0.1μmとなるようにコーティングした。コーティングは、実施例1で用いたものと同じRFマグネトロンスパッタ装置を使用し、スパッタ時間を20分間とした以外は実施例1と同じ条件で行った。
【0027】
比較例
陽極酸化皮膜を形成していないAl板上に、光触媒であるTiO2の膜を膜厚が0.1μmとなるようにコーティングした。コーティングは、実施例1で用いたものと同じRFマグネトロンスパッタ装置を使用し、同じ条件でコーティングを行った。
【0028】
抗黴性評価:
実施例1、2及び比較例で得られたTiO2膜をコーティングしたAl板の抗黴効果を調べるため、温度25℃、湿度90%に保った大気雰囲気に50日間暴露した。TiO2コーティング面上の黴の占有面積の経時変化を図6に示す。
【0029】
密着性評価:
実施例1、2及び比較例で得られたTiO2膜をコーティングしたAl板に対し、JIS H 8602の5.8項に記載のセロハン粘着テープを用いた塗膜の付着性試験(粘着テープ試験)を行い、またJIS H 8504に規定する方法に従ってスクラッチ試験を行い、それぞれTiO2膜の密着性をテストした。その結果を表1に示す。
【表1】

【0030】
図6から分かるように、TiO2膜でコーティングされたAl板はいずれも抗黴効果が有り、TiO2膜がコーティングされるAl板に陽極酸化皮膜が形成されたかどうかは抗黴効果に影響していない。しかしながら、表1に示す密着性試験の結果から明らかなように、陽極酸化皮膜が形成されていないAl板に直接TiO2膜が形成された場合には、その密着性が弱く、密着性試験においてTiO2膜の剥離が生じた。これに対して、実施例1及び2のように、Al板上に形成された陽極酸化皮膜上にTiO2膜をコーティングした場合、TiO2膜の密着強度が向上し、密着性試験においても全く剥離を生ずることはなかった。
【0031】
【発明の効果】
以上のように、本発明のアルミ建築材は、アルミ合金からなる基材の表面に、光触媒膜の強い酸化還元作用に対するバリヤーとして機能し、しかも光触媒膜とアルミ合金地金との密着性を強めるアンカー効果を有する微多孔質の陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒膜をコーティングしたものであるため、アルミ合金地金表面の腐食(酸化)や光触媒膜の剥離といった問題もなく、また、光が当たる材料表面の光触媒膜には充分な量の半導体が存在するため、優れた抗菌・抗黴作用を示す。従って、本発明によれば、特別の装置を要することなくメンテナンスフリーであり、しかも抗菌・抗黴性の膜がアルミ合金基材表面を腐食することなくかつ高い密着強度でコーティングされた自己浄化性のアルミ建築材が提供される。
また、上記のように抗菌・抗黴性に優れるアルミ建築材から框材もしくは枠材を作製し、これを、同様に抗菌・抗黴性を付与した他のパネル材や水密気密材と組み合わせて建具ユニットを構成することにより、抗菌・抗黴効果が一層高まり、これらの部材の表面に限らず、このような建築部材で構成される室内空間全体を清浄化でき、長期間に亘って衛生的に保つことができる。
さらに本発明によれば、前記框材もしくは枠材や、パネル材及び水密気密材上に上記光触媒膜をコーティングした後、さらにAg、Cu等の抗菌作用を有する金属をコーティングすることにより、夜間、蛍光灯の明りが消えても抗菌性が維持され、室内空間全体を常時衛生的に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
陽極酸化皮膜上への光触媒膜のコーティング態様の一例を示す部分断面図である。
【図2】
陽極酸化皮膜上への光触媒膜のコーティング態様の他の例を示す部分断面図である。
【図3】
陽極酸化皮膜上への光触媒膜のコーティング態様のさらに他の例を示す部分断面図である。
【図4】
陽極酸化皮膜上への光触媒膜のコーティング態様の別の例を示す部分断面図である。
【図5】
図4に示す態様の陽極酸化皮膜上に光触媒膜がコーティングされた状態を示す部分断面斜視図である。
【図6】
実施例1、2及び比較例で得られたTiO2膜コーティングAl板上の黴占有面積の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 アルミ合金地金
2 陽極酸化皮膜
3 細孔
4 セル
5 バリヤー層
10a,10b,10c,10d 光触媒膜
 
訂正の要旨 訂正事項
特許第3210544号の明細書を請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち、
1. 訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1
「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜をコーティングしてなり、該光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の膜厚が1μm以下であることを特徴とするアルミニウム建築材。」
を、
「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体を含む薄膜を直にコーティングしてなり、該光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の膜厚が1μm以下であることを特徴とするアルミニウム建築材。」
と訂正する。
2. 訂正事項b
特許請求の範囲の請求項3
「前記光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の上にさらに抗菌性の金属がコーティングされている請求項1又は2に記載のアルミニウム建築材。」
を、
「前記光触媒作用を有する半導体を含む薄膜の上にさらに抗菌性の金属が1μm以下の厚さとなるようにコーティングされている請求項1又は2に記載のアルミニウム建築材。」
と訂正する。
3. 訂正事項c
明細書の段落番号【0006】中、第4行目(特許第3210544号公報第2頁第4欄第25行目)の
「薄膜をコーティング」
なる記載を、
「薄膜を直にコーティング」
と訂正する。
4. 訂正事項d
明細書の段落番号【0006】中、第8行目(特許第3210544号公報第2頁第4欄第29行目)の
「金属をコーティング」
なる記載を、
「金属を1μm以下の厚さとなるようにコーティング」
と訂正する。
異議決定日 2003-01-16 
出願番号 特願平7-119063
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C23C)
P 1 651・ 161- YA (C23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 有田 恭子  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 綿谷 晶廣
吉水 純子
登録日 2001-07-13 
登録番号 特許第3210544号(P3210544)
権利者 ワイケイケイ株式会社
発明の名称 抗菌・抗黴性のアルミニウム建築材及びそれを用いた建具  
代理人 ▲吉▼田 繁喜  
代理人 湯田 浩一  
代理人 ▲吉▼田 繁喜  

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