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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:116  C25D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C25D
管理番号 1074825
異議申立番号 異議2002-70704  
総通号数 41 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-11-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-03-18 
確定日 2003-02-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3210546号「抗菌・防黴性の建築材料」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3210546号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3210546号の手続の経緯は次のとおりである。

特許出願: 平成 7年 5月10日
設定登録: 平成13年 7月13日
特許掲載公報発行: 平成13年 9月17日
特許異議申立て: 平成14年 3月18日
取消理由通知: 平成14年10月 4日付け
訂正請求: 平成14年12月17日
特許異議意見書: 平成14年12月17日

2.訂正の適否についての判断

2-1.訂正の内容
訂正の内容は、訂正請求書及びそれに添付された訂正明細書の記載からみて、下記(1)〜(3)のとおりである。

(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の「さらに該陽極酸化皮膜上に」と「光触媒作用を有する」との間に、「200℃を超えない温度での塗装工程により」と挿入し、請求項1を「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に200℃を超えない温度での塗装工程により光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜が形成されてなり、半導体微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出していることを特徴とする建築材料。」と訂正する。

(2)訂正事項b
明細書【0006】の「該陽極酸化皮膜上に光触媒作用」を「該陽極酸化皮膜上に200℃を超えない温度での塗装工程により光触媒作用」と訂正する。

(3)訂正事項c
明細書【0024】の【表1】、同【0025】の【表2】、同【0028】の【表3】の次に、それぞれ出願当初明細書の【0025】、【0026】、【0029】に記載された表1〜3の内容を挿入する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aは、請求項1に係る光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜の形成に関し、その塗装工程の温度を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記塗膜の塗装工程温度に関し、明細書【0009】には、「・・従来の光触媒膜のように200℃を超える温度下での処理は不要となり・・・」(特許掲載公報第5欄第20〜21行)、同【0023】には、「実施例1・・・TiO2微粉末と塗料を混練した後、・・・この塗料中に陽極酸化処理Al板を浸し、・・・190℃で・・・焼き付けを行った。」(同公報第9欄第20〜26行)と記載されているから、この訂正は、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(2)訂正事項bは、上記訂正事項aに整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(3)訂正事項cは、表1〜3の内容の欠落を、明細書【0026】に記載の表1及び表2の内容、及び同【0028】に記載の表3の内容のとおりに補うことにより、明りょうでない記載を釈明することを目的とするものであり、かつ、新規事項を追加するものでも、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

2-3.むすび

したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する同法第126条第2項および第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断

3-1.特許異議の申立理由の概要
特許異議申立人三協アルミニウム工業株式会社は、下記の甲第1〜8号証を提出し、以下の理由1,2により、本件の請求項1〜5に係る発明の特許は取り消されるべきであると主張している。

理由1:本件の請求項1,3に係る発明は、本件出願日前の出願であって、その後出願公開された甲第1号証に係る出願(以下「先願」という)の願書に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書」という)に記載された発明(以下「先願発明」という)と同一であり、本件出願に係る発明の発明者と先願発明の発明者とは同一でなく、さらに、本件出願の時において、本件出願人と先願出願人とは同一でないから、本件の請求項1,3に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
理由2:本件の請求項1,2,4,5に係る発明は、本件の出願前に頒布された刊行物である以下の甲第2〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1,2,4,5に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証:特願平6-254242号(特開平7-232080号)
甲第2号証:特開昭62-182298号公報
甲第3号証:特開平6-200399号公報
甲第4号証:特開平4-32577号公報
甲第5号証:特開平6-65787号公報
甲第6号証:特開平6-65012号公報
甲第7号証:特開平5-253544号公報
甲第8号証:特開平7-462号公報

なお、当審が通知した取消理由は、本件の請求項1〜5に係る発明は、上記甲第2,4,7,8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものものであるから、本件の請求項1〜5に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであることを趣旨としている。

3-2.本件発明
本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下「本件発明11」等という)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】 アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に200℃を超えない温度での塗装工程により光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜が形成されてなり、半導体微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出していることを特徴とする建築材料。
【請求項2】 前記塗膜が、光触媒作用を有する半導体微粒子と抗菌性の金属微粒子が混在する塗膜からなる請求項1に記載の建築材料。
【請求項3】 前記塗膜が、半導体微粒子が混在していない塗膜からなる層の上に光触媒作用を有する半導体微粒子が混在する塗膜を形成した二層の塗膜構造からなる請求項1に記載の建築材料。
【請求項4】 前記塗膜が、半導体微粒子が混在していない塗膜からなる層の上に光触媒作用を有する半導体微粒子と抗菌性の金属微粒子が混在する塗膜を形成した二層の塗膜構造からなる請求項1に記載の建築材料。
【請求項5】 前記抗菌性の金属微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出している請求項2又は4に記載の建築材料。」

3-3.各甲号証の記載
(1)甲第1号証に係る先願明細書には、以下の記載がある。

1-ア.「基材表面にバインダー層を介して光触媒層が保持された光触媒機能を有する多機能材において、前記光触媒層の上層部は外気と接するようにバインダー層から露出され、また前記光触媒層の下層部はその一部がバインダー層内に埋設されていることを特徴とする光触媒機能を有する多機能材。」(請求項1)

1-イ.「ここで、基材としては、タイル、衛生陶器、ガラス等のセラミック、樹脂、金属、木材またはその混合物等のいずれでもよい。」(【0008】)

1-ウ.「また、前記バインダー層は、例えば釉薬、無機ガラス、熱可塑性樹脂、半田等の熱可塑性材料にて構成する。・・・」(【0010】)

1-エ.「・・・この方法によれば、・・・建材等に後から防臭性、防汚性、抗菌性、抗カビ性等の機能を付加することができる。」(【0028】)

1-オ.「(実施例4)・・・ポリイミド系樹脂からなる基材の表面に、アクリル樹脂バインダーを塗布後、15%TiO2ゾル水溶液をスプレー・コーティング法により塗布し、・・・TiO2層を形成し、次いで・・・150℃で焼成し多機能材を得た。」(【0073】)

(2)甲第2号証(取消理由の引用刊行物1)には、以下の記載がある。

2-ア.「アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の微細孔に、抗菌剤又は防黴剤を含浸させて、抗菌性又は防黴性を付与したことを特徴とする抗菌・防黴性陽極酸化皮膜付アルミニウム製品。」(特許請求の範囲第1項)

2-イ.「上記抗菌剤又は防黴剤が;10,10´-オキシビスフェノールキシアルシン・・・である特許請求の範囲第1項記載の抗菌・防黴性陽極酸化皮膜付アルミニウム製品。」(特許請求の範囲第3項)

2-ウ.「酸化皮膜12に抗菌剤14(又は防黴剤)を含浸させるために、次のような方法が採用される。・・・(c)塗布法;上記抗菌剤14(又は防黴剤)を溶解させた有機溶剤の液を、酸化皮膜12の表面に塗布する。・・・上記方法によって得られた陽極酸化皮膜12を有するアルミニウム製品は、例えば・・・病院、浴室、理・美容室、洗面所、厨房、無菌室内の・・・壁面材、サッシや手摺等に使用される。当該アルミニウム製品は、表面に形成された酸化皮膜12が安定していることから腐食性、硬さ、耐摩耗性等に優れている・・・。又、微細孔13を有する酸化皮膜12に抗菌剤14(又は防黴剤)を含浸させるので、抗菌剤14の付着強度が高い。」(第3頁左上欄第2行〜同頁右上欄第11行)

2-エ.第1図には、この発明による抗菌・防黴性陽極酸化皮膜付アルミニウム製品の横断面部分図であって、酸化皮膜12の微細孔13内には含浸された抗菌剤又は防黴剤14が存在し、抗菌剤又は防黴剤14は微細孔を埋めるとともに、製品表面に露出していることが記載されている。

(3)甲第3号証には、以下の記載がある。

3-ア.「アルミニウム又はアルミニウム合金に形成された多孔質陽極酸化皮膜(1)の細孔(2)に微細粒子の機能性物質(3)を充填させてなる機能性酸化皮膜を有するアルミニウム又はアルミニウム合金機能性材料。」(請求項1)

3-イ.「本発明は、・・・アルミニウムの陽極酸化皮膜の細孔に調湿材料、芳香材料、発光材料等の機能性物質を充填したパネル、形材等のアルミニウム機能性材料に関するものである。」(【0001】)

3-ウ.「前記機能性物質微細粒子のアルミニウム多孔質陽極酸化皮膜細孔中への充填方法としては、該微細粒子の分散液中での電気泳動法等を好適に用いることが出来る。・・・」(【0011】)

3-エ.「応用例3・・・発光材を多孔質陽極酸化皮膜の細孔内に充填したアルミニウムパネルを天井、床の間、書院窓などに用い、・・・」(【0017】)

3-オ.「・・・また、機能性物質は、陽極酸化皮膜の細孔深くに析着充填されている為、その脱落もなく、・・・」(【0018】)

(4)甲第4号証(取消理由の引用刊行物4)には、以下の記載がある。

4-ア.「多数の微小孔によって多孔質化・・・されて・・・酸素を含有する皮膜が、AlまたはAl合金材の表面に形成されると共に、該皮膜の上に樹脂塗膜が形成され、・・・塗膜密着性及び耐食性に優れた塗装AlまたはAl合金材。」(特許請求の範囲第1項)

4-イ.「皮膜が・・・多孔質アルマイトである塗装AlまたはAl合金材。」(特許請求の範囲第4項)

4-ウ.「実施例1
Al合金板・・・に、第1表に示す如く種々の酸素含有皮膜形成処理を施し、・・・次いで各皮膜表面にアルキドメラミン系の焼付き硬化型塗料を・・・塗布し、次いで130℃で・・・焼付け処理を行なって塗装Al合金板を得た。」(第3頁右上欄第18行〜同頁左下欄第6行)

(5)甲第5号証には、下記の記載がある。

5-ア.「AlまたはAl合金板の両面に、膜厚が0.5μm以上のアルマイト皮膜を有し、且ついずれか片面には該アルマイト皮膜の空孔内を通して、Zn系めっき材,Fe系めっき材またはMn系めっき材が形成されてなることを特徴とする接着性および塗装後耐食性に優れたAlまたはAl合金板。」(請求項1)

5-イ.「AlまたはAl合金板(・・・)は・・・建材等の幅広い分野で用いられてきた。・・・」(【0002】)

(6)甲第6号証には、以下の記載がある。

6-ア.「銀、銅、亜鉛、白金の内から選ばれた少なくとも一種の金属イオンを含有した酸化チタン膜を基板に被覆し、その上にさらに酸化チタン膜を被覆したことを特徴とする抗菌抗カビ性セラミックス。」(請求項3)

6-イ.「本発明に用いられる導電性の基板としては、・・・アルミニウム・・・などの金属・・・が挙げられる。・・・」(【0009】)

6-ウ.「本発明に用いられる酸化チタン膜は・・・超微粒子の酸化チタンの懸濁液を・・・塗布法・・・などによって基板上にコートした後、焼成して製造してもよい。・・・そのときの焼成温度は500℃〜550℃程度が最も好ましい。・・・」(【0012】)

6-エ.「こうして得られた本発明による抗菌抗カビ性セラミックスは、・・・風呂場のタイルや建物の外壁に適用すれば・・・」(【0017】)

(7)甲第7号証(取消理由の引用刊行物2)には、以下の記載がある。

7-ア.「居住空間の壁面、床面或いは天井面を構成する板状部材の表面にバインダ層を形成し、このバインダ層の表面にアナターゼ型TiO2を主体とする光触媒粉末をその一部がバインダ層から露出するように吹き付けて付着させ、次いで300℃以上850℃以下の範囲で加熱してバインダ層を溶融せしめた後、冷却してバインダ層を固化せしめるようにしたことを特徴とする脱臭機能を備えた板状部材の製造方法。」(請求項1)

(8)甲第8号証(取消理由の引用刊行物3)には、以下の記載がある。

8-ア.「病院内における部材として、表面及びその近傍が実質的に光触媒機能を有する金属酸化物と該金属酸化物の光触媒機能を向上させる第二の金属とを含有する金属混合体からな・・・る材料を適用し、該部材が光に暴露されたものであることを特徴とする院内感染防止方法。」(請求項1)

8-イ.「・・・酸化チタン等の半導体は、特定の波長の光により光触媒機能を発現し、強力な酸化作用により防臭、防黴機能を有することが知られている。・・・」(【0005】)

8-ウ.「前記部材のうち、床、壁、窓枠、手すり・・・等の固形部材の場合は、・・・部材表面を金属混合体複合体を薄膜に加工したもので被覆することが好ましい。金属材料としては、壁、ドア、床材等に用いられる金属パネル、窓枠、階段、洗面所等の手すり・・・が挙げられ、これらは、・・・該表面に金属混合体複合体を薄膜状に加工したものを適用してもよい。」(【0012】)

3-4.対比・判断
(1)理由1について
本件発明1(前者)と、先願発明(後者)とを対比すると、後者の「光触媒層」(1-ア)は、TiO2ゾル水溶液を塗布して形成したTiO2層を150℃で焼成したものであるから(1-オ)、前者の「200℃を超えない温度での塗装工程により(形成された)光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜」に相当し、後者の「・・・基材の表面に・・・バインダーを塗布」(1-オ)、「光触媒層の上層部は外気と接するように・・・露出され」(1-ア)、「建材」(1-エ)は、それぞれ、前者の「基材の表面に・・・膜を形成」、「半導体微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出している」、「建築材料」に相当するから、両者は、
「基材の表面に膜を形成し、さらに該膜上に200℃を超えない温度での塗装工程により光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜が形成されてなり、半導体微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出している建築材料。」
である点で一致する。

しかしながら、先願明細書には、基材として金属は示唆されているが(1-イ)、本件発明1の構成である「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し」た点については、記載も示唆もない。
また、アルミニウム又はアルミニウム合金基材の表面に陽極酸化皮膜を形成したものに塗膜を形成して機能性を付加することが、甲第2〜5号証に記載されているように、周知技術、慣用手段であるとしても、先願明細書には、基材として金属の使用が示唆されているにすぎないから、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成したものが記載されているに等しいとはいえない。
そして、本件発明1は、上記の構成を有することにより、「・・・アルミ合金からなる基材の表面に、塗膜とアルミ合金地金との密着性を高めるアンカー効果を有する陽極酸化皮膜を形成し、さらにこの・・・上に光触媒作用を有する半導体微粒子・・・を含有もしくは担持する塗膜をコーティングしたものであるため、光触媒膜の剥離といった問題もなく、・・・従って、・・・抗菌・防黴性の膜がアルミ合金基材表面に高い密着強度でコーティングされた自己浄化性のアルミ建材が提供される。・・・」という、明細書【0029】記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、先願発明と同一ではないし、実質上同一であるともいえない。

本件発明3は、本件発明1の構成を全て具備するものであるから、本件発明1に対する理由と同様の理由により先願発明と同一ではない。

(2)理由2について
本件発明1(前者)と、刊行物2記載の発明(後者)とを対比すると、後者の「アルミニウム又はアルミニウム合金」は、前者の「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材」に相当し、後者の「抗菌剤又は防黴剤」は、抗菌性又は防黴性を付与する機能において、前者の「光触媒作用を有する半導体微粒子」に対応し(明細書【0003】の記載「・・・TiO2に代表される光触媒作用を有する半導体微粒子が・・・抗菌、防黴、防汚、防臭作用を有することは従来から知られており・・・」を参照)、後者の「陽極酸化皮膜の微細孔に、・・・含浸させて」(2-ア)は、塗布法による含浸を含むから(2-ウ)、前者の「陽極酸化皮膜上に・・・塗装工程により・・・塗膜が形成されてなり」に相当し、後者の含浸された抗菌剤又は防黴剤は、製品表面に露出しており(2-エ)、後者の「病院・・・の・・・壁面材、サッシや手摺等」(2-ウ)は、前者の「建築材料」に相当するから、両者は、
「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に抗菌剤又は防黴剤よりなる抗菌性又は防黴性の塗膜が形成されてなり、抗菌剤又は防黴剤の少なくとも一部が塗膜表面より露出している建築材料。」である点で一致し、下記の点で相違する。
相違点:陽極酸化皮膜上に形成された抗菌性又は防黴性の塗膜が、前者では、200℃を超えない温度での塗装工程により形成された光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜であり、半導体微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出しているのに対して、後者では、10,10´-オキシビスフェノールキシアルシンなどの抗菌剤又は防黴剤からなる塗膜であり、抗菌剤又は防黴剤の少なくとも一部が塗膜表面より露出している点。

そこで検討すると、抗菌性又は防黴性の塗膜として、光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜は、甲第6号証(6-ア、6-ウ)に記載されているし、また、甲第7号証には、TiO2を主体とする光触媒粉末を吹き付けて付着させた脱臭機能を備えた部材が記載されており(7-ア)、甲第8号証の酸化チタン等の半導体が光触媒機能を発現し、防臭、防黴機能を有する旨の記載(8-イ)、または、本件明細書【0003】の記載を勘案すると、甲第7号証にも、抗菌性又は防黴性の塗膜として、光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜が記載されているといえる。
しかしながら、光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜を200℃を超えない温度での塗装工程により形成することは、甲6〜8号証のいずれにも、記載も示唆もされていない。
また、甲3〜5号証には、アルミニウムやアルミニウム合金上に陽極酸化皮膜を形成し、その上に膜を形成することにより接着性または耐食性を改善することは記載されており(3-ア、3-オ、4-ア、5-ア)、その膜が130℃の塗装工程により得られることも甲4号証に記載されているが(4-ウ)、それらの膜は、「調湿材料、芳香材料、発光材料等の機能性物質」(3-イ)、樹脂塗膜(アルキドメラミン系)(4-ア、4-ウ)、または「Zn系めっき材,Fe系めっき材またはMn系めっき材」(5-ア)であって、光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜や、その塗装工程の温度に関しては、記載も示唆もない。
そして、本件発明1は、上記相違点における前者の構成を有することにより、「・・・従来の光触媒膜の場合のように200℃を超える温度下での処理は不要となり、アルミ合金基材の強度低下を招くことはない。・・・」(明細書【0009】)と同時に、「・・・アルミ合金からなる基材の表面に、塗膜とアルミ合金地金との密着性を高めるアンカー効果を有する陽極酸化皮膜を形成し、さらにこの・・・上に光触媒作用を有する半導体微粒子・・・を含有もしくは担持する塗膜をコーティングしたものであるため、光触媒膜の剥離といった問題もなく、・・・従って、・・・抗菌・防黴性の膜がアルミ合金基材表面に高い密着強度でコーティングされた自己浄化性のアルミ建材が提供される。・・・」(同【0029】)という効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲第2〜8号証記載の発明を組み合わせて、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

本件発明2,4,5は、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定を付加するものであるから、上記本件発明1に対する理由と同様の理由により、甲第2〜8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、本件発明3も、本件発明1の構成を全て有し、さらに限定を付加するものであるから、上記本件発明1に対する理由と同様の理由により、取消理由で引用した刊行物1〜4(甲第2,7,8,4号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3-5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明1〜5の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
抗菌・防黴性の建築材料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に200℃を超えない温度での塗装工程により光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜が形成されてなり、半導体微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出していることを特徴とする建築材料。
【請求項2】 前記塗膜が、光触媒作用を有する半導体微粒子と抗菌性の金属微粒子が混在する塗膜からなる請求項1に記載の建築材料。
【請求項3】 前記塗膜が、半導体微粒子が混在していない塗膜からなる層の上に光触媒作用を有する半導体微粒子が混在する塗膜を形成した二層の塗膜構造からなる請求項1に記載の建築材料。
【請求項4】 前記塗膜が、半導体微粒子が混在していない塗膜からなる層の上に光触媒作用を有する半導体微粒子と抗菌性の金属微粒子が混在する塗膜を形成した二層の塗膜構造からなる請求項1に記載の建築材料。
【請求項5】 前記抗菌性の金属微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出している請求項2又は4に記載の建築材料。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、抗菌・防黴性の建築材料(以下、建材という)に関し、さらに詳しくは、アルミニウム又はアルミニウム合金製の建材(以下、アルミ建材という)表面に形成した陽極酸化皮膜上に、光触媒作用を有する半導体微粒子、さらには抗菌性金属微粒子を含有もしくは担持した塗膜を形成してなる抗菌・防黴作用に優れたアルミ建材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)等の院内感染が問題視されるようになってきている。院内感染の多くは日和見感染症であり、ウィルス、細菌、原虫、黴等が抵抗力や免疫力が低下した人体の中で急に活発化して発症する感染症である。例えばMRSAの感染に関して言えば、その菌は主に患者や院内従事者の体、スリッパ、医療器具等を介して病院内に広がるようだが、空気中の塵埃に菌が付着して空気感染を起こすこともある。
そのため、院内感染を防ぐには室内空気全体を殺菌、浄化処理する必要があり、従来、薬品による消毒や空気清浄器に頼ってきた。しかしながら、消毒においては、薬品を用いるため人体への影響が無視できず、薬品の臭いも不快感を与えるといった問題があり、また、作業が容易でない等の理由から頻繁に行うわけにもいかなかった。一方、空気清浄器による院内の浄化は比較的容易ではあるが、空気中の塵埃等を静電気により除去する原理であるため、細菌、黴、及びそれに付随する臭気等は除去しにくいといった問題があった。
また、煙草のヤニがサッシ、パネル材等の建築部材表面に付着し汚れた場合、美観を損ねるだけでなく、その部分に細菌が付着し繁殖し易いという問題もあった。
【0003】
ところで、TiO2に代表される光触媒作用を有する半導体微粒子が、その光触媒作用により有機物の分解を行い、その作用に基づき抗菌・防黴・防汚・防臭作用を有することは従来から知られており、最近ではそれらを利用して、細菌や黴が繁殖しにくい様々な材料が研究、開発されている。例えば、特開平2-6333号公報には酸化チタンの粒子表面に銅、亜鉛等の抗菌性金属を担持させた抗菌性粉末について開示されており、この粉末を樹脂、ゴム、ガラス等に配合することによって抗菌性組成物が得られ、また、公知の方法により、電機機器、家具調度品、室内装飾材、食品等の包装資材などの抗菌性処理のほか、環境衛生施設、機器類の抗菌剤として上記粉末を利用できると教示している。
特開平6-65012号公報には、銀、銅、亜鉛、白金等の金属を含有した酸化チタン膜をコンクリート、ガラス、プラスチック、セラミックス、金属等の材質からなる基板にコーティングすることによって、該基板において雑菌及び黴の繁殖を防止できる旨が開示されている。
さらに特開平4-307066号公報には、パネルの裏面に光触媒を付設し、該パネルの裏側に短波長ランプを配置し、このランプから光触媒へ紫外線照射することによって、光触媒を活性化し、パネルが設置された室内の脱臭を図るという室内空気のリフレッシュ法が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミ合金という)製の建築部材、例えばパネル材上に酸化チタン等の光触媒をコーティングすると、アルミ合金基材と光触媒の充分な密着性が得られず、コーティングした光触媒の膜が剥離し易いという問題がある。
また、複雑な形状を有する建材上に均一に光触媒をコーティングすることは困難であり、さらに、通常、光触媒をコーティングする場合、200℃を超える温度に基材を加熱する必要があり、このような温度にアルミ合金をさらすとアルミ合金の強度が著しく低下してしまう。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記のような問題を解決し、特別の装置を要することなくメンテナンスフリーであり、しかも抗菌・防黴性の膜が高い密着強度でコーティングされた抗菌・防黴性のアルミ建材を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に200℃を超えない温度での塗装工程により光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜をコーティングしてなり、半導体微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出していることを特徴とするアルミ建材が提供される。
好適な態様においては、前記光触媒作用を有する半導体微粒子と共に銀、銅等の抗菌性の金属微粒子を含有もしくは担持した塗膜をコーティングすることにより、より一層抗菌・防黴性に優れた建材が提供される。
さらに本発明の他の態様によれば、前記塗膜が、光触媒作用を有する半導体微粒子が混在していない塗膜からなる層の上に、上記半導体微粒子あるいはさらに抗菌性の金属微粒子が混在する塗膜を形成した二層構造の塗膜からなる建材が提供される。
【0007】
【発明の作用及び態様】
前記したように、アルミ合金地金に直接、光触媒作用を有する半導体膜(以下、光触媒膜という)をコーティングすると、光触媒膜とアルミ合金地金との密着性が悪く、衝撃を受けた場合に光触媒膜が剥離してしまうという問題がある。
また、複雑な形状を有する押出形材等に光触媒膜をコーティングする場合は、膜の付き廻りの問題があり、凹部や隅角部にまで光触媒膜を均一にコーティングすることは困難である。
さらに、通常行われている光触媒微粒子を含む懸濁液を基材表面に塗布、焼結させる方法や、金属薄膜を形成した後、これを酸化させて所定の光触媒膜を形成する方法では、200℃を超える温度下での処理が必要であるが、アルミ合金の場合には、このような高い温度にさらすとその強度が著しく低下してしまうという問題がある。
【0008】
前記のような問題点を解決するためには、光触媒膜とアルミ合金地金の間に、光触媒膜とアルミ合金地金との密着性を強める効果を有する膜を介在させる必要がある。このような中間膜として、本発明のアルミ建材は、アルミ合金表面に一体的に形成される微多孔質の陽極酸化皮膜を利用するものである。
さらに本発明は、光触媒作用を有する半導体微粒子の担体として塗膜を用い、通常のアルミ建材の塗装工程を利用することにより、抗菌・防黴性の膜が高い密着強度でコーティングされたアルミ建材を提供するものである。
【0009】
すなわち、本発明のアルミ建材は、アルミ合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらにこの陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体微粒子を少なくともその一部が塗膜表面より部分的に露出するように含有もしくは担持した塗膜をコーティングしたものである。陽極酸化皮膜は絶縁膜であり、しかも表面に直径約5nm〜200nmの細孔が無数に開いた微多孔質で、しかも凹凸のある構造を有している。従って、微多孔質構造によるアンカー効果によって、コーティングされる抗菌・防黴性の膜のアルミ合金地金に対する密着性を向上させることができる。
また、本発明のアルミ建材は、通常のアルミ建材の塗装工程を利用して光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持する塗膜を陽極酸化皮膜上にコーティングしたものであるため、従来の光触媒膜の場合のように200℃を超える温度下での処理は不要となり、アルミ合金基材の強度低下を招くことはない。また、パネル材から複雑な形状の押出形材まで種々の形状のアルミ建材に対して、抗菌・防黴性の膜を、高い密着強度で、しかも容易にかつ作業性よくコーティングできる。
【0010】
このように、本発明のアルミ建材は、塗膜とアルミ合金地金との密着性を強めるアンカー効果を有する陽極酸化皮膜の上に光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜をコーティングしたものであるため、光触媒膜の剥離といった問題もなく優れた抗菌・防黴作用を示す。
このような建材表面には、光触媒作用を有する半導体微粒子、例えば、TiO2が存在しているため、この半導体微粒子に太陽光線や蛍光灯の光が照射されると、TiO2表面に正孔(h+)及び電子(e-)が生じ光触媒作用を示し、水や各種の有機物の分解が行われる。すなわち、この電子の作用により空気中の酸素が還元され、酸素ラジカルを生じ、また正孔の作用によって水が酸化され、OHラジカルが生じる。これら活性酸素は優れた殺菌作用を有し、その結果、黴等が生じにくくなる。
【0011】
本発明のアルミ建材の使用に際しては、例えば上記のような作用を有する建材から枠材もしくは框材、パネル材を製作し、これを同様に光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持する水密気密材と組み合わせて建具ユニットを構成する。
この建具は室内面全体に光触媒膜がコーティングされており、日中は太陽光線が照射され、夜間は蛍光灯の光が照射されるため、コーティング面は常に光触媒作用を発揮する。この光触媒作用によって、抗菌・防黴作用を示す面となる。また、室内空気は常に対流しているため建具内面に接しており、このようにして建具内面に触れることにより清浄化される。
【0012】
本発明で用いる半導体としては、電子及び正孔の移動度が比較的大きく、上記のような光触媒作用を有する半導体であればいずれも使用可能であり、例えばTiO2、RuO2、Cs3Sb、InAs、InSb、GaAs等が挙げられるが、これらの中でも特にTiO2が好ましい。
使用する半導体微粒子の粒径は、1nm〜1μm、好ましくは5nm〜0.5μmが適当である。粒径が1nmよりも小さくなると量子サイズ効果によりバンドギャップが大きくなり、低圧水銀ランプなどの短波長光を発生する照明下でないと光触媒性能が得られないといった問題がある。また、粒径があまりに小さ過ぎると取り扱いが困難であったり、分散性が悪くなるという問題も生じてくる。取り扱い性の点からは5nm以上の粒径が好ましい。一方、粒径が1μmを超えると、半導体微粒子の担持性が悪くなり、基材表面に形成される塗膜中の半導体微粒子含有量が少なくなる。さらには、粒径が大きいと、塗膜表面に比較的大きな半導体微粒子が存在することになるため、表面の滑らかさが乏しくなり、また、表面に露出した粒子が脱落し易くもなる。以上の点から、半導体微粒子は0.5μm以下の粒径が好ましい。
【0013】
本発明のアルミ建材においては、電着塗装あるいは静電塗装等の塗装によって光触媒作用を有する抗菌・防黴性の塗膜を形成している。従って、塗装される基材の形状は複雑なものからパネル状のものまで適応可能である。
電着塗装あるいは静電塗装は、建材の表面処理に通常用いられている方法であり、この方法を適用することによって、複雑な形状の部材に均一な抗菌・防黴性塗膜を形成することが可能となり、さらには現状の生産設備を変更することなしに抗菌・防黴性塗膜の形成を行うことが可能となる。
塗料としてはアクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、フッ素系等の塗料が使用されるが、建材の塗膜として適度の強度と密着性と光触媒作用に対する耐久性を有するものであれば特に限定されず、用途に応じて適宜選定することができる。
【0014】
前記塗料と半導体微粒子を使用した光触媒作用を有する抗菌・防黴性塗膜の形成方法としては、種々の方法を用いることができる。
例えば、塗料材料に前記半導体微粒子を適量混合し、この塗料粒子と半導体微粒子を含む塗料溶液を用いて電着塗装を行うと、半導体微粒子を担持した塗料粒子がアニオン化し、建材表面に付着する。これを、水洗し、焼き付けを行うことによって、表面に光触媒作用を有する半導体微粒子を含んだ塗膜が形成された建材が得られる。
また、静電塗装においては、前記塗料粒子と半導体微粒子を含む塗料溶液を用いることにより、半導体微粒子を担持した塗料粒子が微小電荷を持ち、アースされた被塗物に付着する。これを焼き付け処理することによって、表面に光触媒作用を有する半導体微粒子を含んだ塗膜が形成された建材が得られる。
このような塗装法により、図1に示すように、アルミ合金地金1表面に形成された陽極酸化皮膜2上に、光触媒作用を有する半導体微粒子11が混在した塗膜10aがコーティングされたアルミ建材が得られる。塗膜10aの一部は陽極酸化皮膜2の細孔3内に侵入しているため、陽極酸化皮膜2に対する上記抗菌・防黴性の塗膜10aの密着強度は極めて優れている。
【0015】
別の抗菌・防黴性塗膜の形成方法としては、例えば電着塗装法や静電塗装法によって、陽極酸化皮膜上に半導体微粒子が混在しない塗膜をコーティングし、この塗膜が焼き付け処理前のまだ軟らかい段階で、光触媒作用を有する半導体微粒子を塗膜表面に吹き付ける方法も採用できる。
このような方法によって、図2に示すように、半導体微粒子11が一部、塗膜10bの表面部に埋め込まれた状態に、表面部に半導体微粒子11を担持した塗膜10bが陽極酸化皮膜(図示せず)上にコーティングされる。この方法においては、半導体微粒子の吹き付け圧力等を調整することによって、塗膜10bの表面部にのみ、図2に示すように半導体微粒子11が比較的均一に埋め込まれた状態にコントロールすることができる。
【0016】
前記したいずれの方法によっても、得られる抗菌・防黴性の塗膜が光触媒作用を発揮するためには、光触媒作用を有する半導体微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出している状態にすることが必要である。
従って、塗膜中に含有もしくは担持される半導体微粒子の量的割合は、塗膜全量の0.01〜100重量%の範囲が好ましい。0.01重量%より少なくなると光触媒特性を発揮する半導体微粒子の量が不足し、ひいては建材の充分な抗菌・防黴性が得られず、一方、100重量%を超えると抗菌・防黴性の発揮に関しては問題ないが、塗膜の密着性が著しく低下するので好ましくない。特に、半導体微粒子を混合した塗料溶液を用いて電着塗装法や静電塗装法によって塗装する方法では、塗膜中に含有され光触媒特性の発揮に寄与しない半導体微粒子の量的割合が増えるため、塗料溶液に混合される光触媒作用を有する半導体微粒子の混合量は、塗料中の塗料樹脂成分に対し、10重量%以上、100重量%未満の範囲にあることが好ましい。
【0017】
塗膜の膜厚は、数μm〜数十μmが適当である。膜厚が厚い程塗膜の耐候性は増大するが、建材に穴を開けたり、切断したりする加工時や、施工時に剥離が起きやすくなる。また、塗膜中に含まれる半導体微粒子の量も多くなり経済的でない。
【0018】
本発明の建材の別の態様は、前記光触媒作用を有する半導体微粒子を塗膜中に混在させた層と、塗膜だけからなる層の二層構造の塗膜を有する。二層構造の塗膜としたことにより、光触媒作用を維持させたまま含有させる半導体微粒子の量を減少させることが可能となる。
この二層構造の塗膜を形成する方法としては、前記したような塗装法により、通常の塗料を用いた塗装の後に、塗料材料に半導体微粒子を適量混合した塗料溶液を用いて塗装を行うことによって、二層構造で表層に光触媒作用を有する半導体微粒子を含んだ塗膜が得られる。すなわち、図3に示すように、アルミ合金地金1表面に形成された陽極酸化皮膜2上に、下層の半導体微粒子が混在していない通常の塗膜10cと、該塗膜10cの上にコーティングされた半導体微粒子11が混在した塗膜10dの二層構造の塗膜が形成されたアルミ建材が得られる。このような態様においても、下層の塗膜10cの一部は陽極酸化皮膜2の細孔3内に侵入しているため、塗膜10cの陽極酸化皮膜2に対する密着強度は極めて優れている。
【0019】
尚、上記の態様においても、表層に混在させる半導体微粒子の量は、前記態様と同じ理由により、表層の塗膜10d全量の0.01〜100重量%、好ましくは10〜100重量%の範囲にあることが望ましい。
また、表層に使用される塗料と下層を構成するために使用される塗料は、それらが二層構造を形成したときに充分な密着強度が確保できれば異なるものでもよいが、密着強度を考慮すると同一種類の塗料を使用することが好ましい。
さらに二層構造の場合の各層の膜厚は、前記態様と同じ理由により、表層は0.5〜1μm、基材側の下層は数μm〜数十μm程度が好ましい。
【0020】
以上、本発明の建材として二つの基本的態様を述べたが、さらに抗菌性を向上させる材料として前記半導体微粒子以外に銅、銀、白金等の抗菌性を有する金属微粒子を塗膜中に含有もしくは担持(塗膜上にコーティング)してもよい。これらの金属は、光の照射がなくても抗菌性を発揮するので、これらの抗菌性金属を含有もしくは担持する塗膜では、夜間、蛍光灯の明かりが消えても抗菌・防黴性が維持されることになる。尚、これら抗菌性金属微粒子の大きさ、形状や塗膜への添加方法も前述した光触媒作用を有する半導体微粒子の場合と同様であり、また、その含有量は、一緒に混在する半導体微粒子との合計量で、それらが含有もしくは担持される塗膜全量の0.01〜100重量%、好ましくは10〜100重量%の範囲にあることが望ましい。
【0021】
前記のような抗菌性の金属微粒子を光触媒作用を有する半導体微粒子と共に含有もしくは担持する塗膜の構造例を図4乃至図6に示す。
図4は、アルミ合金地金1表面に形成された陽極酸化皮膜2上に、光触媒作用を有する半導体微粒子11と抗菌性金属微粒子12が混在した塗膜10eがコーティングされた構造を示している。一方、図5は、塗料溶液のみの塗装によって陽極酸化皮膜上に形成した塗膜10fに、半導体微粒子11及び抗菌性金属微粒子12を吹き付けることによって、これらの微粒子が塗膜の表面部に埋め込まれた状態を示している。図6は、陽極酸化皮膜2上に、下層の通常の塗膜10gと、該塗膜10gの上にコーティングされた半導体微粒子11と抗菌性金属微粒子12とが混在した塗膜10hの二層構造の塗膜が形成された例を示している。
【0022】
【実施例】
以下、実施例を示して本発明の効果についてさらに具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでないことはもとよりである。
【0023】
実施例1
硫酸電解浴中で膜厚10μmの陽極酸化皮膜を形成したAl板上に、光触媒であるTiO2の微粉末(平均粒径20nm)をそれぞれ5重量%(試料No.1)、50重量%(試料No.2)及び100重量%(試料No.3)混練したアクリル系塗料を用い、塗膜の膜厚が10μmとなるよう電着塗装を行った。
また、比較のために、陽極酸化皮膜を形成していないAl板上に、光触媒であるTiO2の微粉末(平均粒径20nm)を50重量%混練したアクリル系塗料を用い、塗膜の膜厚が10μmとなるよう電着塗装を行った(試料No.4)。
なお、電着塗装は、所定量のTiO2微粉末と塗料を混練した後、水で希釈し、この塗料中に陽極酸化処理Al板を浸し、1分間通電せずに塗料とAl板を馴染ませた後、塗料温度20〜25℃、印加電圧DC200Vの条件で所定の膜厚が得られるまで電圧を印加して行った。その後、純水を用い、2回水洗した後、190℃で40分間焼き付けを行った。
【0024】
防黴性評価:
上記実施例1で得られたTiO2微粉末を含有する塗膜をコーティングした各Al板の防黴性を調べるため、温度25℃、湿度90%に保った大気雰囲気に50日間暴露した。その結果を表1に示す。表示方法については、塗装表面に黴の発生が認められなかったものには○、認められたものには×で表示してある。
【表1】

【0025】
密着性評価:
上記実施例1で得られたTiO2微粉末を含有する塗膜をコーティングした各Al板に対し、スコッチテープ試験(JIS H 8602の5.8項に記載のセロハン粘着テープを用いた塗膜の付着性試験)を行い、またJIS H 8504に規定する方法にしたがってスクラッチ試験を行い、それぞれ塗膜の密着性をテストした。その結果を表2に示す。
【表2】

【0026】
表1からわかるように、試料No.1においては防黴性は不十分であったが、その他の試料No.2〜4については防黴効果が認められた。これは、試料No.1においては塗料への光触媒TiO2の混入量が少なかったため、塗膜表面に露出している光触媒が少なく、それ故、防黴性が不十分であったといえる。その他の試料については、光触媒の混入量が充分であったため、防黴効果が発揮されたものである。
また、表2の密着性試験の結果から明らかなように、試料No.3及びNo.4においては密着性に劣るという結果が得られた。試料No.3は、塗料への光触媒TiO2の混入量が多かったために密着性が低下したものである。また、陽極酸化皮膜が形成されていないAl板上に塗装を行った試料No.4では、陽極酸化皮膜によるアンカー効果がないために密着性が劣ったものである。陽極酸化皮膜上にそれぞれ5重量%及び50重量%の光触媒混合量の塗膜が塗装された試料No.1及び2については、塗膜の密着強度が向上し、密着性試験においても全く剥離を生ずることはなかった。
【0027】
実施例2
硫酸電解浴中で膜厚10μmの陽極酸化皮膜を形成したAl板上に、アクリル系塗料のみを用いて塗膜の膜厚が8μmとなるよう電着塗装を行った後、TiO2の微粉末(平均粒径20nm)を50重量%混練したアクリル系塗料を用い、塗膜の膜厚が2μmとなるよう電着塗装を行った。なお、電着塗装の条件及び工程は前記実施例1の場合と同様である。
【0028】
上記実施例2で得られた抗菌・防黴性の塗膜について、前記と同様にして防黴性及び密着性の評価を行った。その結果を表3に示す。
【表3】

表3に示す結果から明らかなように、二層構造の塗膜をコーティングしたAl板は、防黴性及び密着性共に優れ、光触媒混入塗膜と通常の塗膜の間での剥離は認められなかった。
【0029】
【発明の効果】
以上のように、本発明の、アルミ建材は、アルミ合金からなる基材の表面に、塗膜とアルミ合金地金との密着性を強めるアンカー効果を有する陽極酸化皮膜を形成し、さらにこの陽極酸化皮膜の上に光触媒作用を有する半導体微粒子あるいはさらに抗菌性金属微粒子を含有もしくは担持する塗膜をコーティングしたものであるため、光触媒膜の剥離といった問題もなく、また、光が当たる材料表面の塗膜には充分な量の半導体微粒子あるいはさらに抗菌性金属微粒子が存在するため、優れた抗菌・防黴作用を示す。従って、本発明によれば、特別の装置を要することなくメンテナンスフリーであり、しかも抗菌・防黴性の膜がアルミ合金基材表面に高い密着強度でコーティングされた自己浄化性のアルミ建材が提供される。
さらに、光触媒作用を有する半導体微粒子を混在させた塗料を用いることにより、従来の表面処理工程に何等変更を加えることなく、アルミ合金上に抗菌・防黴性の膜を形成できる。この方法によれば、複雑な形状の押出形材からパネル材に至るまで種々の形状の建材に対して全く同じ処理方法で抗菌・防黴性の膜の形成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体微粒子が混在した塗膜がコーティングされたアルミ建材の構造を概略的に示す部分拡大断面図である。
【図2】
半導体微粒子が塗膜表面部に埋め込まれた状態の塗膜構造を概略的に示す部分拡大断面図である。
【図3】
陽極酸化皮膜上に、通常の塗膜と、半導体微粒子が混在した塗膜の二層構造の塗膜がコーティングされたアルミ建材の構造を概略的に示す部分拡大断面図である。
【図4】
陽極酸化皮膜上に半導体微粒子と抗菌性金属微粒子が混在した塗膜がコーティングされたアルミ建材の構造を概略的に示す部分拡大断面図である。
【図5】
半導体微粒子と抗菌性金属微粒子が塗膜表面部に埋め込まれた状態の塗膜構造を概略的に示す部分拡大断面図である。
【図6】
陽極酸化皮膜上に、通常の塗膜と、半導体微粒子と抗菌性金属微粒子が混在した塗膜の二層構造の塗膜がコーティングされたアルミ建材の構造を概略的に示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
1 アルミ合金地金
2 陽極酸化皮膜
3 細孔
10a,10b,10c,10d,10e,10f,10g,10h 塗膜
11 半導体微粒子
12 抗菌性金属微粒子
 
訂正の要旨 訂正事項
特許第3210546号の明細書を請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち、
1. 訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1
「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜が形成されてなり、半導体微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出していることを特徴とする建築材料。」
を、
「アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材の表面に陽極酸化皮膜を形成し、さらに該陽極酸化皮膜上に200℃を超えない温度での塗装工程により光触媒作用を有する半導体微粒子を含有もしくは担持した塗膜が形成されてなり、半導体微粒子の少なくとも一部が塗膜表面より部分的に露出していることを特徴とする建築材料。」
と訂正する。
2. 訂正事項b
明細書の段落番号【0006】中、第3〜4行目(特許第3210546号公報第2頁第4欄第18行目)の
「該陽極酸化皮膜上に光触媒作用」
なる記載を、
「該陽極酸化皮膜上に200℃を超えない温度での塗装工程により光触媒作用」
と訂正する。
3. 訂正事項c
明細書の段落番号【0024】、【0025】及び【0028】の【表1】、【表2】及び【表3】(特許第3210546号公報第5頁第9欄第34行目及び第43行目、同頁第10欄第24行目)の内容を加入する。
異議決定日 2003-01-15 
出願番号 特願平7-135728
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C25D)
P 1 651・ 116- YA (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 有田 恭子  
特許庁審判長 松本 悟
特許庁審判官 吉水 純子
綿谷 晶廣
登録日 2001-07-13 
登録番号 特許第3210546号(P3210546)
権利者 ワイケイケイ株式会社
発明の名称 抗菌・防黴性の建築材料  
代理人 ▲吉▼田 繁喜  
代理人 ▲吉▼田 繁喜  
代理人 湯田 浩一  

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