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審決分類 審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) A47L
審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) A47L
管理番号 1075692
審判番号 無効2001-35523  
総通号数 42 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1984-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-12-05 
確定日 2003-04-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第1985007号発明「電気掃除機用集塵フィルタ―」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1985007号の特許請求の範囲第1〜2項に記載された発明の特許を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 
理由 1. 手続の経緯
(1)本件特許第1985007号の特許請求の範囲第1〜2項に記載された発明についての出願は、昭和58年5月11日に出願され、平成5年8月18日に出願公告の決定がされたところ、平成5年11月18日に特許異議の申立てがなされ、平成6年7月7日に出願公告決定後の補正がなされ、平成7年10月25日に特許権の設定登録がなされたものである。
(2)本件特許に対して、2001年12月5日に請求人王子製袋株式会社より無効審判の請求がなされ、答弁書の提出期間内である2002年3月25日に被請求人より訂正請求書が提出され、平成14年10月15日付けで訂正拒絶の理由が通知されたところ、平成14年12月17日付けで被請求人より訂正拒絶の理由に対する意見書が提出された。

2. 訂正の可否についての判断
(1) 訂正の内容
a.本件の願書に添付した明細書(以下、「公告後補正明細書」という。)の特許請求の範囲第1項に、
「電気掃除機の集塵部に着脱自在に装着する使い捨て袋状フィルターのゴミ吸込口近傍に、防虫剤、殺虫剤などの駆除薬剤処理をほどこしたことを特徴とする電気掃除機用集塵フィルター。」とあるのを、
「電気掃除機の集塵部に着脱自在に装着する使い捨て式の袋状の集塵フィルターであって、集塵したゴミを収容する紙袋と、ゴミ吸込口を有し前記紙袋を電気掃除機の集塵部に着脱自在に装着する紙袋支持部材とからなり、前記紙袋は開口縁が前記紙袋支持部材の一面に接合し、前記ゴミ吸込口の近傍で前記紙袋支持部材の紙袋接合側の面には、防虫剤、殺虫剤などの駆除薬剤処理をほどこしてあり、この駆除薬剤処理をほどこした所が集塵フィルター内側の一部をなし、且つ前記紙袋に防虫剤、殺虫剤などの駆除薬剤処理をほどこしたことを特徴とする電気掃除機用集塵フィルター。」と訂正する。
b.同第2項に、「特許請求の範囲第1項記載において、前記集塵フィルターは、集塵したゴミを収容する袋部材と、前記袋部材を電気掃除機の集塵部に着脱自在に装着する袋支持部材とからなり、前記袋支持部材に、防虫剤、殺虫剤などの駆除薬剤処理をほどこした電気掃除機用集塵フィルター。」とあるのを削除する。

(2) 訂正拒絶理由通知の概要
(i) 上記訂正事項aのうち、「前記紙袋は開口縁が前記紙袋支持部材の一面に接合し、」なる事項に関して、公告後補正明細書には、(イ)「紙袋支持部材10b”の内側に紙袋10aを接合したものである。」(本件公告公報第6欄第10から11行参照。なお、公告後補正明細書の記載は、特許請求の範囲の記載を除き、出願公告された明細書の記載と同じであるため、以下、引用箇所については、本件公告公報のものを示す。)、(ロ)「10bはその裏面、すなわち紙袋10aとの接合面に防虫およびダニ殺虫剤の混合接着糊26を塗布した紙袋支持部材である。」(本件公告公報第6欄第19から22行参照)、及び、(ハ)「紙袋支持部材10b”の内側に紙袋10aを接合することにより、」(第8欄第21から22行)と記載されており、また、願書に添付した図面(以下、「公告図面」という。)の第6及び第7図には、本件公告公報第8欄第31〜33行の記載を参酌すると、(ニ)「紙袋10aの開口縁が紙袋支持部材10bの裏面に接合されている」状態が記載されていると認められる。
これらの記載からすると、公告後補正明細書及び公告図面には、「紙袋支持部材10bの裏面」又は「紙袋支持部材10b”の内側」に紙袋10aを接合することが示されているものの、その他の取付態様については何ら示されていないといえる。
一方、紙袋支持部材が平板状であることは、この技術分野においては周知のことであるから、「紙袋支持部材の一面」とは、紙袋支持部材の「裏面」ないし「内側」だけでなく、「表面」ないし「外側」をも指していると解釈せざるを得ない。
そうであれば、「前記紙袋は開口縁が前記紙袋支持部材の一面に接合し、」なる事項は、公告後補正明細書及び公告図面のいずれにも記載されていない事項というべきである。

(ii)上記訂正事項aのうち、「前記ゴミ吸込口の近傍で前記紙袋支持部材の紙袋接合側の面には、」なる事項に関して、公告後補正明細書には、(イ)「本実施例においては、第4,5図に示すごとく、集塵フィルター10の一部を構成する紙袋支持部材10bに防虫およびダニ殺虫剤を浸透させておくようにしたものであり、これにより、紙袋10a内に捕集されたダニ類がダスト吸込口23から脱出しようと紙袋支持部材10bに伝って這い出してくると、当該紙袋支持部材10bに浸透されている防虫およびダニ殺虫剤は、その間にダニ虫体や有害微生物の毛穴などから体内に入り、」(本件公告公報第5欄第34から第43行参照)、(ロ)「第6図は本発明フィルターの第2の実施例を示すダスト吸込口23付近の縦断側面図であり、紙袋支持部材10bのうち、10b’は防虫およびダニ殺虫剤を浸透させない紙袋支持部材、10b”は防虫およびダニ殺虫剤を浸透させて紙袋支持部材である。これを換言すると、本実施例は、紙袋支持部材10b’と紙袋支持部材10b”とを2層に貼り合わせ、防虫およびダニ殺虫剤を浸透させた紙袋支持部材10b”の内側に紙袋10aを接合したものである。…交換時に直接手が触れる紙袋支持部材10b’の部分に防虫およびダニ殺虫剤を浸透させないよう配慮したものである。」(同第6欄第2から第16行参照)、及び、(ハ)「第7図は本発明フィルターの第3の実施例を示すダスト吸込口23付近の縦断側面図、第8図は第7図のA矢視図であり、10bはその裏面、すなわち紙袋10aとの接合面に防虫およびダニ殺虫剤の混合接着糊26を塗布した紙袋支持部材である。」(同第6欄第17から第22行参照)と記載されている。
上記(ロ)の記載からすると、紙袋支持部材10b’を貼り合わせる目的は、紙袋支持部材10b”の表面ないし外側には防虫およびダニ殺虫剤が浸出するため、この防虫およびダニ殺虫剤と手が接触しないようにすることにあることは明らかである。そうすると、上記(イ)及び(ロ)に記載されている紙袋支持部材10b及び10b”には、防虫およびダニ殺虫剤が全体的に浸透していると認めるほかないから、公告後補正明細書及び図面には、浸透の場合、紙袋支持部材10b及び10b”に防虫およびダニ殺虫剤を、全体的にほどこすことのみが記載されているということができる。
一方、「紙袋支持部材の紙袋接合側の面」にほどこす(浸透させる)とは、紙袋支持部材の紙袋接合側の面だけにほどこす(浸透させる)ことを意味していると解される。
そうであれば、「前記ゴミ吸込口の近傍で前記紙袋支持部材の紙袋接合側の面には、」なる事項は、公告後補正明細書及び公告図面のいずれにも記載されていないというべきである。
また、紙袋が接合するのは、「紙袋支持部材の一面」であることからすると、上記の事項において、「紙袋支持部材の紙袋接合側の面」は、紙袋支持部材の「裏面」ないし「内側」だけでなく、「表面」ないし「外側」をも指していると解釈せざるを得ないから、上記(1)に示した理由と同じ理由により、上記事項は、公告後補正明細書及び公告図面のいずれにも記載されていないというべきである。

(iii)してみると、上記訂正事項a及びbに係る訂正が、特許請求の範囲の減縮(特許法第134条第2項ただし書き第1号)及び明りょうでない記載の釈明(同第2号)を目的とするものであるとしても、当該訂正は、公告後補正明細書又は公告図面に記載した事項の範囲内でしたものであるということはできない。

(3) 被請求人の意見
被請求人は、別紙の参考図A〜Cを提示し、概略、次のような理由(i)、(ii)から、上記訂正は、本件の願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであると主張している。
(i)訂正後の特許請求の範囲の「前記紙袋は開口縁が前記紙袋支持部材の一面に接合し」なる記載において、「一面」とは、その用語だけを取り出せば、「紙袋支持部材の「裏面」ないし「内側」だけでなく、「表面」ないし「外側」をも指しているとの解釈も生じるが(参考図B及びC)、同請求の範囲の(イ)「ゴミ吸込口を有し前記紙袋を電気掃除機の集塵部に着脱自在に装着する紙袋支持部材」及び(ロ)「前記紙袋支持部材の紙袋接合側の面には、防虫剤、殺虫剤などの駆除薬剤処理をほどこしてあり、この駆除薬剤処理をほどこした所が集塵フィルター内側の一部をなし」の記載を併せて解釈すれば、紙袋支持部材の「裏面」ないし「内側」と同じ意味であることは明白である。
すなわち、「前記紙袋は開口縁が前記紙袋支持部材の一面に接合し」なる事項は、上記(イ)の紙袋支持部材であることを前提としており、その装着機能は、公告後補正明細書の発明の詳細な説明の記載(例えば、本件公告公報第5欄第30〜33行)及び図面の記載からして、袋支持部材の両側及び表面を手で持ったり触れたりすることによって発揮されるものであるが、参考図Bの態様は、紙袋支持部材の両側及び表面の外周縁が紙袋で覆われるため、袋支持部材の両側及び表面を手で持ったり、手で触れることができず、上記装着機能をなし得ない。
また、上記(ロ)の記載からすると、「駆除薬剤処理をほどこした所が集塵フィルター内側の一部をなし」ているのであるから、紙袋接合側の面がいわゆる「内側」ないし「外側」である参考図Aのような態様しか考えられず、紙袋接合側の面が集塵フィルターの外側にある参考図Cのような態様は考えられない。
(ii)「処理をほどこした」とは、公告後補正明細書によると、「浸透」のほかに「塗布」を含んでおり、実施例について、「…紙袋支持部材10bの裏面である紙袋取付側に位置して、防虫およびダニ殺虫剤をほどこすことにより、…集塵フィルター10の交換時に直接手が触れる紙袋支持部材10bの表面に防虫およびダニ殺虫剤を塗布しないように配慮することができ、」(本件公告公報第8欄第31〜37行)等の記載がなされていることから、「前記ゴミ吸込口の近傍で前記紙袋支持部材の紙袋接合側の面には、」なる訂正事項は、公告後補正明細書及び公告図面のいずれにも記載されているものである。

(4) 被請求人の意見に対する当審の判断
(i)被請求人は、「ゴミ吸込口を有し前記紙袋を電気掃除機の集塵部に着脱自在に装着する紙袋支持部材」の装着機能は、袋支持部材の両側及び表面を手で持ったり触れたりすることによって発揮されるものであるため、紙袋を当該紙袋支持部材の表面側に接合させる態様(参考図B)はあり得ないと主張するが、訂正後の特許請求の範囲には、紙袋支持部材が、両側及び表面を手で持ったり触れたりすることができるものであるとの限定がなされているわけではないし、紙袋が表面側に接合されたとしても、紙袋は柔軟性に富むため、紙袋を介して紙袋支持部材の両側を手で持って装着することができるのであるから、上記被請求人の主張は、根拠のないものであり失当である。
(ii)被請求人は、「処理をほどこした」とは、公告後補正明細書によると、「浸透」のほかに「塗布」を含んでおり、「前記ゴミ吸込口の近傍で前記紙袋支持部材の紙袋接合側の面には、」なる訂正事項は、公告後補正明細書及び公告図面のいずれにも記載されていると主張している。確かに、公告後補正明細書には、実施例として、紙袋接合側の面に塗布したものが記載されているが、訂正後の明細書において、「処理をほどこし」が「塗布」のみを意味すると限定的に解釈すべき事情は見当たらないから、訂正後の明細書においても、「処理をほどこし」とは、「塗布」のみならず「浸透」をも含んだものと解さざるを得ない。
そうであれば、被請求人の主張は、訂正後の特許請求の範囲の記載に基づいたものではなく、一実施例の記載に基づくものにすぎないのであるから、公告後補正明細書に、「浸透」させる場合において、紙袋接合側の面に「処理をほどこ」すことは記載されていないとする、先の訂正拒絶理由を撤回することはできない。

(5) むすび
したがって、上記訂正は、特許法第134条第5項の規定により準用する平成6年法改正前の特許法第134条第2項ただし書の規定に適合しない。

3. 本件発明
上記訂正は認められないから、本件特許請求の範囲第1〜2項に記載された発明は、公告後補正明細書の特許請求の範囲第1項に記載されたとおりの次のものと認められる(以下、「本件発明」という。)。
「電気掃除機の集塵部に着脱自在に装着する使い捨て袋状フィルターのゴミ吸込口近傍に、防虫剤、殺虫剤などの駆除薬剤処理をほどこしたことを特徴とする電気掃除機用集塵フィルター。」

4. 当事者の主張
(1) 請求人の主張
(i)請求人は、本件出願の手続補正書は、明細書の要旨を変更するものであるから、本件出願の出願日は手続補正書を提出したときにしたものとみなされるべきであると主張し、本件発明は、特許法第29条第1項3号に該当し、あるいは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件公告後補正明細書の記載は、特許法第36条第3項および第4項に規定する要件を満たしていないので、無効とすべきものであると主張し、以下の証拠方法を提出している。
(証拠方法)
甲第1号証;特開昭59-207124号公報(本件の公開公報)
甲第2号証;特願平6-158712号における平成7年1月26日付け拒 絶理由通知書
甲第3号証;実願昭59-195302号(実開昭61-110362号) のマイクロフィルム
甲第4号証;フランス国特許出願公開第2417287号明細書(1979 年9月14日)
甲第5号証;米国特許第2,225,389号明細書(1940年12月1 7日)
甲第6号証;ドイツ連邦共和国特許出願公開第2911004号明細書(1 980年10月2日)
甲第7号証;「月刊消費者」No.282、1983年2月号
甲第8号証;特開昭57-99939号公報
甲第9号証;東京都立衛生研究所年報第33号、昭和57年12月6日、第 307〜313頁
甲第10号証;実願昭56-23177号(実開昭57-135351号) のマイクロフィルム
甲第11号証;Journal of Economic Entomol ogy、Vol.61、No.5、1968年10月、第1 254〜1257頁
参考資料1;本件発明から想定されるフィルター例
参考資料2;本件における補正の経緯
参考資料3;米国特許3,859,064号明細書
参考資料4;欧州特許出願公開第0033250号明細書

(ii)無効理由の概要は以下のとおりである。
(無効理由1)
平成2年4月13日付け手続補正(補正1)、平成4年6月15日付け手続補正(補正2)は、下記の点で明細書の要旨を変更するものであり、平成5年4月23日法律第26号附則第2条第2項の規定によりなお従前の例によるとされる改正前の特許法第40条の規定により、本件特許出願は上記補正1を提出した時にしたものとみなされる。そうすると、本件発明は、甲第3号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(イ)願書に最初に添附した明細書及び図面(以下、「当初明細書」、「当初図面」という。甲第1号証参照)には、a.「紙袋内に集塵する電気掃除機に用いられるようにした、前記紙袋と、当該紙袋を電気掃除機に固定するための、略中央部にダスト吸込口を有する支持体とからなる電気掃除機用紙袋フィルターにおける、その支持体を、防虫および微生物殺虫剤を浸透させた支持体としたものである電気掃除機用紙袋フィルター」(請求項1)、及び、b.「支持体20全体に、防虫およびダニ用殺虫剤29を浸透させておくようにしたもので、」(第3ページ右上欄第7〜14行)と記載されており、当初明細書においては、使い捨て袋状フィルターは支持体を有するものであることを前提としているところ(甲第2号証でもそのように認定)、補正1により、本件発明には、支持体を有していないものも含まれるようになった。
(ロ)当初明細書には、c.「その支持体を、防虫および微生物殺虫剤を浸透させた支持体としたもの」と記載され(請求項1)、また、d.当初図面第7図には、支持体の袋状フィルター内部に向かって露出している部位に薬剤処理をしたものが記載されているところ、補正1により、
防虫および殺虫剤の処理箇所が「使い捨て袋状フィルターのゴミ吸込口近傍」とされ、支持体には駆除薬剤処理を施さず、支持体以外の部分例えば袋状フィルターの吸込口近傍の袋内面に薬剤処理を施すものも含まれるようになった。
(ハ)当初明細書には、e.「前記紙袋と、当該紙袋を電気掃除機に固定するための、略中央部にダスト吸込口を有する支持体とからなる電気掃除機用紙袋フィルター」(請求項1)と記載され、フィルターが支持体を有するものとされているが、補正1により、「電気掃除機の集塵部に着脱自在に装着する」とされ、支持体を使用しないで集塵部に着脱される集塵フィルターも含まれるようになった。
(ニ)当初明細書には、f.「電気掃除機用紙袋フィルター」(請求項1)と記載されていたところ、補正1により、袋状フィルターの構成材料が必ずしも紙に限定されないものとなった。
(無効理由2-1)
本件発明は、本件出願前頒布された甲第4〜8、及び、第10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(無効理由2-2)
本件発明は、本件出願前頒布された甲第4、第6〜7、及び、第9〜10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(無効理由2-3)
甲第6号証に記載の薬剤(有機錫)は、甲第11号証によると、接触性の殺ダニ剤であるから、本件発明は、甲第6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。
(無効理由3)
特許請求の範囲第1項に記載された「ゴミ吸込口近傍」なる用語は、用語自体の意味が不明瞭であり、発明の詳細な説明中にも定義はない、また、補正1により、本件発明に用いる袋状フィルターとして、支持体なしの紙袋フィルターも含まれるようになったが、かかる紙袋フィルターについては、明細書中に開示がない。したがって、本件特許は、昭和62年法改正前の特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない。

(2) 被請求人の主張
被請求人は、請求人の主張する無効理由は、下記のとおり、いずれも理由がない旨を主張し、証拠方法として、乙第1号証(松村明編「大辞林」、1988年11月3日第一刷発行、「きんぼう【近傍】」の項)を提出している。
(無効理由1について)
2002年3月26日付け訂正請求書により、特許請求の範囲の記載が訂正され、本件訂正後の発明は、当初明細書及び図面に記載された事項の範囲内となった。したがって、本件特許出願の出願日は、補正1の提出日に繰り下がるものではないから、甲第3号証は本件と特許出願後に頒布されたものである。
(無効理由2-1〜2-3について)
請求人が提出した甲第4〜第11号証には、塵埃を集塵する紙袋と、袋支持部材を有する使い捨て式集塵フィルターにおいて、「前記ゴミ吸込口の近傍で前記紙袋支持部材の紙袋接合側の面には、防虫剤、殺虫剤などの駆除薬剤処理をほどこしてあり、この駆除薬剤処理をほどこした所が集塵フィルター内側の一部をなし」ている点が開示も示唆もされていない。
(無効理由3について)
公告後補正明細書には、「第6図は本発明の第2の実施例を示すダスト吸込口23付近縦断面側面図であり、」(公告公報第3頁第6欄第2〜3行)、及び、「第7図は本発明フィルターの第3の実施例を示すダスト吸込口23付近の縦断面図、」(同公報第3頁第6欄第17〜18行)と記載されており、「ゴミ吸込口近傍」の「近傍」には、「付近」の意味があり(乙第1号証)、「ゴミ吸込口」は実施例の「ダスト吸込口23」に相当するものであるから、その範囲については第6図、第7図に示されている。また、上記訂正により、防虫剤、殺虫剤などの駆除薬剤処理を施したところを、「前記ゴミ吸込口の近傍」の範囲をより絞って「前記紙袋支持部材の紙袋接合側の面」に限定するものであるから、特許請求の範囲第1項には不明りょうとなる箇所は存在しない。

5. 対比、判断
まず、無効理由2-1について検討する。
甲第6号証には、次の内容の記載が認められる。
(イ)「送風される空気の流れの中に配置された少なくとも一つのフィルターを備えた吸引集塵機であって、フィルターに抗菌性及び/又は抗細菌性薬剤処理を施したことを特徴とする吸引掃除機。」(請求の範囲第1項)
(ロ)「交換可能なフィルターが、前記薬剤を付与された織物のフィルターで囲まれているクレーム1又はそれに続く各項のいずれかに記載される吸引集塵機。」(請求の範囲第6項)
(ハ)「前記薬剤が含浸、ローラー塗布、吹付け又は塗工によって塗布されたクレーム1又はそれに続く各項のいずれかに記載される吸引掃除機。」(請求の範囲第14項)
(ニ)「図1のように、吸引集塵機のハウジング1にはブロアー2が配置されており、該ブロアーによって、塵埃を巻込んだ空気は清掃すべき平面から吸引集塵機の吸込口3を経由して吸込まれる。塵埃を巻込んだ空気はブロアー2によって、集塵室5内に配置されているフィルター4の中に送られる。」(第5頁第24行〜第6頁第3行)
(ホ)「フィルター4は紙又は織物製とすることができ、抗菌性及び/又は抗細菌性の薬剤を付与することができる。フィルター4はその際、塵埃が付着するその内面に前記薬剤を付与することができ、そのため、単に空気が通過する際、かびや細菌を殺すだけでなく、ブロアー2のスイッチを切った後も、少なくとも、集塵袋の壁面に付着していて、かび及び細菌を含む塵埃の層を殺菌することができる。なお、通気路の壁面は、吸引掃除機の吸入口3からフィルター4の中まで薬剤を付与することが好ましい。」(第6頁第5〜16行)
これら(イ)〜(ホ)の記載内容及び図1〜図4の記載を総合すると、甲第6号証には、次の発明(以下、「甲第6号証発明」という。)が記載されているものと認められる。
「吸引集塵機の集塵部5に交換可能に装着する使い捨てフィルター4の吸込口3からフィルター4の中までに、抗菌性及び/又は抗細菌性の薬剤を含浸、ローラー塗布、吹付け又は塗工によって塗布した吸引集塵機用フィルター4。」
本件発明と甲第6号証発明とを対比すると、電気駆動の吸引集塵機は周知のものであって、電気掃除機に他ならないから、後者における「吸引掃除機」は、前者における「電気掃除機」に相当する。また、後者における「フィルター4」は、紙又は織物製とすることができ(上記記載(ホ)参照)るのであるし、塵埃を巻込んだ空気はブロアー2によって、集塵室5内に配置されているフィルター4の中に送られる(上記記載(ニ)参照)のであるから、フィルター4内部は閉じた空間であることが明らかであり、その機能からみて、前者における「袋状フィルター」に相当する。さらに、本件公告後補正明細書には、ほどこす処理の具体的態様として、「含浸」及び「塗布」が記載されているから、処理の内容からみて、後者における「含浸、ローラー塗布、吹付け又は塗工によって塗布」したことは、前者における「処理をほどこした」ことに相当する。
したがって、両者は、
「電気掃除機の集塵部に着脱自在に装着する袋状フィルターのゴミ吸込口近傍に、駆除薬剤処理をほどこしたことを特徴とする電気掃除機用集塵フィルター。」
である点で一致し、次の点で相違している。
a.用いる薬剤が、前者においては、「防虫剤、殺虫剤など」であるのに対し、後者においては、「抗菌性及び/又は抗細菌性の薬剤」である点
b.薬剤をほどこす箇所が、前者においては、「ゴミ吸込口近傍」であるのに対し、後者においては、ゴミ吸込からフィルターの中までとしている点
c.袋状フィルターが、前者においては、「着脱可能に装着する使い捨て」のものであるのに対し、後者においては、「交換可能に装着する」ものである点
そこで、これらの相違点について検討する。
まず、相違点aについてみる。
本件発明においては、「防虫剤、殺虫剤など」の薬剤を用いるとしているが、「…など」と表現されているため、この薬剤が「虫」に対して作用するものなのか、「虫」以外にも作用するものなのかが必ずしも明らかでない。そのため、本件公告後補正明細書をみてみると、同明細書には、「フィルターを掃除機から外して捨てた後も殺菌効果を持続して、ゴミからダニや菌類が繁殖するのを防止する一方、…使い捨て式フィルターの交換によって常に殺菌効果を甦らせることのできる、環境衛生上すぐれた電気掃除機用集塵フィルターを提供することにある。」(本件公告公報第4欄第2〜7行)、「前記各実施例においては、防虫およびダニ殺虫剤を用いた場合について例示したが、これと同等の効果を有する微生物殺虫剤を広く用いることができる。」(本件公告公報第10欄第17〜20行)と記載されており、この記載を参酌すると、「防虫剤、殺虫剤など」の中には、ダニを含む虫に対する殺虫作用を有する薬剤のほか、カビ、細菌等に対する殺菌作用を有する薬剤が包含されるものと解される。
そうであれば、本件発明と甲第6号証発明とにおいて、同じ薬剤(抗菌剤)が使用されることとなるから、上記相違点aは、実質的な相違点とはいえないものである。
(なお、甲第4号証には、集塵袋に殺虫剤を導入することにより虫を殺すこと(第1頁第21〜30行)、及び、集塵袋に直接含浸により導入すること(第1頁第31〜33行)が記載されており、掃除機内における集塵袋に殺虫剤をほどこすことが開示されていると認められるから(第10頁中段右より第14行〜下段右より第6行)、甲第6号証発明において、袋状フィルター自体に、「殺菌剤」ではなく、「防虫剤、殺虫剤」をほどこすことは、当業者ならば容易に想到しうることというべきである。
また、甲第10号証には、掃除機からの排気に対して殺虫剤溶液を噴霧することにより排気内のダニを殺虫して、掃除機外へのダニの排出を防止することが記載されており(明細書第2頁第3〜7行、第3頁第10行〜第4頁第3行)、この記載からすると、掃除機内においてダニを殺虫する必要があることは、当業者に容易に理解できるところ、甲第7号証には、掃除機の収じん部がダニの“たまり場”であることが記載されているのであるし(第10頁中段右より第14行〜下段右より第6行)、甲第9号証には、塗布薬剤によりダニを殺虫し得ることが記載されているのであるから(第310〜311頁、「結果」の項)、甲第6号証発明において、袋状フィルター自体に、「殺菌剤」ではなく、「殺ダニ剤」をほどこすことも当業者ならば容易に想到し得ることというべきである。)

次に、相違点bについてみる。
本件発明において、「ゴミ吸込口近傍」とはどの範囲をいうのか必ずしも明確ではないが(被請求人は、本件公告後補正明細書中、図面の簡単な説明の欄の第7図および第10図に関する説明において「ダスト吸込口23付近」と記載されており、「近傍」と「付近」とは同義であるから、「近傍」とは「付近」を意味すると主張しているが、たとえ、「付近」であったとしても、明確でないことに変わりはない。)、公告後補正明細書の「集塵フィルター10の一部を構成する紙袋支持部材10bに防虫及びダニ殺虫剤を浸透させておくようにしたものであり、これにより、紙袋10a内に捕集されたダニ類がダスト吸込口23から脱出しようと紙袋支持部材10bに伝って這い出してくると、当該紙袋支持部材10bに浸透されている防虫およびダニ殺虫剤は、その間にダニ虫体や有害微生物の毛穴などから体内に入り、たとえダニ類が紙袋10a外に脱出しても短時間のうちに死に至らしめるため、」(本件公告公報第5欄第35〜44行)、および、「紙袋10aにも防虫およびダニ殺虫剤を浸透させたり、あるいは紙袋10a内に防虫およびダニ殺虫剤を塗布したりすれば、紙袋10aを歩きまわるダニ類を防虫およびダニ殺虫剤との接触頻度が高くなるため、当該紙袋10a内におけるダニ類の繁殖を大幅に抑制することができる。」(本件公告公報第7欄第14〜20行)という記載からすると、「防虫剤、殺虫剤など」をほどこす理由は、ダニ等の虫などと薬剤とを接触させることにあるのであって、薬剤をほどこす箇所は、必ずしも、「ゴミ吸込口近傍」に限定する必要はなく(特に、殺菌剤をほどこす場合には、限定する意味はないというべきである。)、「ゴミ吸込口近傍」を含めたフィルター全体にほどこされていてもよいことは明白であるから、本件発明において、「ゴミ吸込口近傍」とは、「少なくともゴミ吸込口近傍」の意味に解するのが妥当である。
甲第6号証発明においても、薬剤は、ゴミ吸込口を含めたフィルター全体にほどこされているのであるから、上記相違点bについても、実質的な相違点ということはできない。

最後に、相違点cについてみる。
甲第6号証には「交換可能に装着する」袋状フィルターが、「使い捨て」のものであることは明記されていないが(なお、「交換可能」であれば「着脱可能」であることは明らかである。)、「着脱可能に装着する使い捨て」の袋状フィルターは本願出願前周知のものであるし(例えば、甲第8号証参照)、かかる袋状フィルターは、ゴミが袋内に一杯になるまでは集塵部に装着したまま使用されるのが通常であるから(第7号証第12頁「インジケーター」の項参照)、「使い捨て」のものであっても、甲第6号証発明にしたがって殺菌剤をほどこすことは当業者ならば容易に想到しうることというべきである。
本件発明においては、「フィルターを掃除機から外して捨てた後も殺菌効果を持続して、ゴミからダニや菌類が繁殖するのを防止する一方、掃除機そのものには、使い捨て式フィルターの交換によって常に殺菌効果を甦らせることができ、…生活環境のダニや菌類での再汚染を防止」できる効果を有するとされているが(本件公告公報第10欄第32〜38行)、当業者ならば、薬剤を適用するに当たり、掃除機の集塵室内に装着されている間は、薬効が持続するようなものを選択するのが普通であり、そうであれば、フィルターを掃除機の集塵室から外した後も薬効は持続するとみることができるから、上記の効果は、甲第6号証発明を「使い捨て」のものに適用することにより、自ずと奏されるものであって格別の効果とはいえない。

したがって、相違点a〜cには格別の技術的意義を見出せず、本件発明は、甲第6号証発明および本願出願前周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、他の無効理由を検討するまでもなく、本件発明は無効とすべきものである。

6. むすび
したがって、本件発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2003-02-18 
結審通知日 2003-02-21 
審決日 2003-03-06 
出願番号 特願昭58-81007
審決分類 P 1 122・ 841- ZB (A47L)
P 1 122・ 121- ZB (A47L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杉野 裕幸小谷 一郎  
特許庁審判長 梅田 幸秀
特許庁審判官 和泉 等
千壽 哲郎
登録日 1995-10-25 
登録番号 特許第1985007号(P1985007)
発明の名称 電気掃除機用集塵フィルタ―  
代理人 川島 利和  
代理人 田中 恭助  
代理人 小川 勝男  

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