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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200035214 審決 特許
不服200119641 審決 特許
不服200515110 審決 特許
不服20061739 審決 特許
審判199935138 審決 特許

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審決分類 審判 延長登録無効(全部) (訂正、訂正請求) 無効とする。(申立て全部成立) C07D
管理番号 1077138
審判番号 無効2000-35215  
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1982-06-08 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-04-21 
確定日 2003-05-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第1761235号「第二結晶形ラニチジン塩酸塩」の存続期間延長登録(特願平9-700049号)無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1761235号特許の特許権の存続期間の延長登録(特願平9-700049号)を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許権の存続期間の延長登録に係る特許第1761235号は、昭和56年10月1日に特許出願され、平成5年5月20日にその特許権の設定登録がされた。その後、平成9年10月1日に当該特許権の存続期間の延長登録の出願(特願平9-700049号)がされ、平成10年6月17日に当該特許権の存続期間の延長が登録されたところ、平成11年3月31日に山之内製薬株式会社より、特願平9-700049号に基づく特許権の存続期間の延長登録を無効とすることについて本件審判が請求された。

2.特許第1761235号に係る発明
特許第1761235号に係る発明の要旨は、特許明細書の記載及び図面から見て、その特許請求の範囲に記載された下記のとおりのものと認める(以下、本件特許発明という。)。

「鉱油中の混練物として下記の主ピークを示す赤外線スペクトルを有することを特徴とする、第二結晶形ラニチジン塩酸塩。
3260 1075
3190 1045
3100 1021
2560 1006
2510 991
2470 972
1620 958
1590 810
1570 800
1263 760
1230 700
1220 660
1195 640
1163 620cm-1
1130 」

3.特願平9-700049号に基づく本件特許権の存続期間の延長登録
特願平9-700049号に基づく本件特許権の存続期間の延長登録(以下、本件延長登録という)に係る特許法第67条の3第4項で規定する「延長の期間」は、4年1月11日であり、同「特許法第67条第2項の政令で定める処分」の内容は以下のとおりである。

(1)特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分
薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認(以下、製造承認ともいう。)
(2)処分を特定する番号
承認番号20900APZ00272000号
(3)処分の対象となった物(以下、有効成分ともいう。)
塩酸ラニチジン
(4)処分の対象となった物について特定された用途(以下、単に用途ともいう。)
胃痛、胸やけ、もたれ、むかつき

なお、上記(3)でいう「塩酸ラニチジン」は、「ラニチジン塩酸塩」と同義である。

4.当事者の主張
4-1 請求人の主張の概要
請求人は、下記甲第1〜13号証を提出して、
(a)本件特許発明の実施には、特許法第67条第2項の政令で定める処分を受ける必要がなく、本件延長登録は、特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない出願にされたものであるから無効とさるべきであり(特許法第125条の2第1項第1号)、
(b)本件特許発明の実施をすることができなかった期間はなく、本件延長登録により延長された期間はその特許発明を実施することができなかった期間を超えているので本件延長登録は無効とすべきである(特許法第125条の2第1項第3号)と主張している。



甲第1号証:特許第1761235号(本件特許)の特許原簿の写し
甲第2号証:特願平9-700049号(本件延長登録に係る特許出願)の写し
甲第3号証:「ザンタック」(登録商標)の添付文書
甲第4号証:「ザンタック」(登録商標)の配布文書
甲第5号証:「臨床成人病」第17巻第5号第851〜863頁(1987)
甲第6号証:「臨床成人病」第17巻第6号第1031〜1041頁(1987)
甲第7号証:「医学と薬学」第19巻第3号第651〜657頁
甲第8号証:「臨床成人病」第18巻第3号第383〜398頁(1988)
甲第9号証:「医薬品製造指針 1995年版」厚生省薬務局審査課監修、日本公定書協会編集、薬業時報社発行 第256〜259頁 第314〜317頁
甲第10号証:「一般医薬品製造【輸入】承認基準 1995年版」厚生省薬務局審査課監修、日本公定書協会編集、薬業時報社発行 第56〜56頁、第70〜71頁
甲第11号証:「医薬品製造製造指針 1998年版」厚生省医薬安全局審査研究会監修、日本公定書協会編集、薬業時報社発行 第32〜37頁、第314〜317頁
甲第12号証:「薬業時報」昭和61年5月26日 第10面の厚生省薬務局審査第二課 石井甲一の「スイッチOTCの留意点」についての記事
甲第13号証:「臨床成人病」第26巻第7号 第901〜920頁(1996)

そして、上記(a)に係る主張のうちの一部として、請求人は概ね以下のとおり述べている。

本件特許発明は、第二結晶形ラニチジン塩酸塩であるのに対し、製造承認は「塩酸ラニチジン」であり、両者は結晶形が相違するから、本件特許発明の実施に当該承認は必要ない。「日本薬局方外医薬品規格」(甲第2号証)においては成分コード108824は、塩酸ラニチジンであるが、第二結晶形とは記載されていない。吸湿性と記載されているので、公知の第一結晶である可能性が高い。
仮に、製造承認を受けたものが本件特許発明に係るものであったとしても、本件延長登録に係る物の「その物の使用される特定の用途」は「胃痛、胸やけ、もたれ、むかつき」であるが、当該用途については、胃酸分泌抑制作用に係る胃粘膜病変として既に製造承認(承認番号(4AM)429、(59AM)635及び(4AM)64))を受けている。本件延長登録に係る前記用途は、医療用医薬品として既承認の用途である「次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」の範囲内に含まれるものであって、スイッチOTC化のために自覚症状で表現したにすぎないものであり、既承認のものと用途は同一である。
したがって本件延長登録の理由となる処分(本件製造承認)は「塩酸ラニチジン」(処分の対象となった物)とその用途についての最初の処分ではないので、本件特許発明の実施に必要であったとは認められない。
なお、有効成分の使用量が既承認のものと異なるとしても、特許法第68条の2の規定によれば存続期間の延長後の効力は処分の対象となった物及びその特定用途であるから、用量の相違は延長後の効力に関係ない要因とされており、単なる用量の相違は、特許発明の実施に必須の事項とは解することはできず、とりわけ、本件特許発明にのように化学物質に関する発明においては、有効成分の使用量たる用量の相違は実施にあたっての任意な要因であると解されることから特許発明の実施に必須の事項とは解することはできず、特許発明の実施に用量の異なる新たな承認を受けることが必要となるものではない。

4-2 被請求人の主張の概要
被請求人は、請求人には本件審判を請求することについての利益がない旨主張するとともに、請求人の主張する無効理由(上記(a)の一部)については、概ね以下のように述べている。

製造承認は「塩酸ラニチジン」に関するものであり、結晶形が明記されていないから、その結晶形如何に関わらずその実施が妨げられていた。
本件公告公報においては、「第二結晶形は、第一結晶形よりも吸湿性が少なく」と記載されているのであり、吸湿性がないとはいっていない。「日本薬局方外医薬品規格」に結晶形が記載されおらず、「本品は吸湿性である。」と記載されていることから直ちに、製造承認を受けたものが第二結晶形ラニチジンでないとはいえない。
本件製造承認に基づいて製造された三共Z胃腸薬、大正エスエスブロックZは、第二結晶形であり、2つの医薬の添付文書には、効能効果の欄に「胃痛、胸やけ・・・」と記載、配合成分、用量も同じである(下記乙第1〜3号証提出)。
日本における医薬品の承認の要件として、有効成分の結晶形の特定が要求されることはない。薬事法に明記されているわけではないが、承認の実務上そのように取り扱われる。
又、既承認の効能は「胃潰瘍、・・・(略)・・・急性胃炎、慢性胃炎増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善」である。
一般用医薬品の効能効果の表示について厚生省の規制が存在するからといって、医療用医薬品と一般用医薬品との効果効能が実質的に同一と解さねばならない理由はない。製造承認書の効果効能の記載は、医療用医薬品と一般用医薬品とでは明確に異なるのであるから、むしろ両者は別々の効能効果について処分がなされたとするのが相当である。
本件承認の「胃痛、胸やけ、もたれ、むかつき」と「胃潰瘍、・・・(略)・・・急性胃炎、慢性胃炎増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善」とは、上位下位の関係にもない。



乙第1号証:グラカム、クリンカートの宣誓書
乙第2号証:三共Z胃腸薬(三共株式会社)の説明書
乙第3号証:大正エスブロックZ(大正製薬株式会社)の説明書

5.当審の判断
5-1 本件審判請求の利益
被請求人は、本件請求人は本件審判を請求することについて利益がない旨主張するので、まず、この点について検討すると、請求人が医薬品を製造販売している者であることは、特許庁に顕著な事実である。
そうすると、本件請求人は、特許権の延長の登録の存否によって、その権利に対する法律的な地位に直接の影響を受ける可能性があるから、本件審判の請求に利益があることは明らかである。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

5-2 無効理由について

5-2-1 甲第2号証、甲第4〜11号証、及び、甲第13号証に記載された事項

(1)甲第2号証(本件延長登録に係る特許出願(特願平9-700049号)の写し)
上記延長登録出願に添付された「延長の理由を記載した資料」の「記載内容を裏付けるための資料」(以下、延長理由裏付け資料という。)の内容は以下のとおりである。
(1-1)本件特許公告公報(記載省略)
(1-2)医薬品製造承認書(承認番号20900APZ00272000)
平成7年12月14日付けで申請のあった医薬品の製造の承認を薬事法(昭和35年法律第145号)第14条第1項の規定により、申請のとおり承認(承認日平成9年7月2日)することが記載されている。
(1-3)医薬品製造申請書(申請日:平成7年12月14日)
販売名欄には、アンタック胃腸薬、備考欄には一般用医薬品(2)と記載されている。成分として、塩酸ラニチジン、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウムを有効成分として含むこと(各配合量63mg、250mg、200mg、100mg)が記載されている。[効能又は効果」の項には、「胃痛、胸やけ、もたれ、むかつき(本剤は、胃のヒスタミンH<sita>2</sita>受容体に拮抗する薬を含んでいます。)」と記載されている(「ヒスタミンH<sita>2</sita>受容体」との記載は、「ヒスタミンH2受容体」をいうものと認められる)。
(1-4)治験実施依頼書(平成4年8月27日付け)
治験薬のコード名の項:NG101錠
成分名(薬効)の項塩酸ラニチジン、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウム(薬効 胃酸分泌抑制作用適切な胃内pHの上昇及び維持)
治験課題名の項:NG-101錠用量設定二重盲検試験比較試験
治験目的の項:NG-101錠の製造承認申請の際に提出すべき資料の収集のため
(1-5)日本局方外医薬品規格1993「塩酸ラニチジン」(記載省略)

(2)甲第4号証(「ザンタック」の配布文書)
ザンタック錠の組成中に塩酸ラニチジンを含むこと(第3頁組成・性状の項の「1.組成」参照。)、150mg錠は、1984年7月24日(承認番号(59AM)635)、300mg錠は1992年1月21日(同(4AM)64)、及び、75mg錠は1992年3月3日(同(4AM)429)に承認(製造承認と認められる。)されたこと、更に、効能追加は1989年6月であることが記載されている(第3頁の一番上の表)。又、その「効能・効果」は、「1.胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎、上部消化管出血(消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍、急性胃粘膜病変による) 2.次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性憎悪期 3.麻酔前投与」と記載されている(第3頁)。又、第9頁には、「2.胃炎(急性胃炎・慢性胃炎の急性憎悪期)」との表題のもとに、「(1)内視鏡的改善率」に関して、「びらん」、「発赤」、「浮腫」及び「出血」の観点からの4つのグラフが記載され、4つの表の下には、「対象:急性胃炎、慢性胃炎の急性憎悪期(・・・(略)・・・)」と記載されている。

(5)甲第5〜8号証(各「臨床成人病」第17巻第5号第851〜863頁(1987)、「臨床成人病」第17巻第6号第1031〜1041頁(1987)、「医学と薬学」第19巻第3号第651〜657頁、「臨床成人病」第18巻第3号第383〜398頁(1988))
甲第5号証は、「急性胃粘膜病変に対するRanitidineの臨床用量ならびに有用性に関する予備的検討」と題する論文であり、甲第6号証は、「急性胃粘膜病変に対するRanitidineの臨床的有用性の検討」と題する論文であり、甲第7号証は、「慢性胃炎の急性増悪に対するRanitidineの臨床的有用性の検討」と題する論文であり、甲第8号証は、「急性胃粘膜病変に対するRanitidineの臨床的有用性の検討」と題する論文であって、これら論文には、急性胃炎、慢性胃炎の急性憎悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善に係る臨床試験結果が記載されている(各甲号証の試験方法の項の「対象」参照。)
そして、これら甲号証における臨床試験においては、上記疾病の自覚症状の改善を観察項目及び検査項目としているところ、改善される自覚症状としては、「疼痛、食欲不振、胸やけ、げっぷ、悪心、嘔吐、胃部膨満感、胃重感」が記載されている(各甲号証の試験の「観察項目及び検査項目」「試験成績」又は「成績」の項参照。)。

(6)甲第9号証(「医薬品製造指針 1995年版」厚生省薬務局審査課監修、日本公定書協会編集、薬業時報社発行 第314〜317頁)
甲第9号証の「第2章 一般用医薬品の承認申請の留意事項」の「1.承認審査の流れ」の「(1)一般用医薬品としての特性」には、「一般用医薬品は、一般大衆が直接薬局、薬店等から購入し、自らの判断で使用するものであり、・・・(略)・・・」(第255頁)と記載されている。
又、「申請された一般用医薬品の審査の流れは、1)新一般用医薬品(区分(1)〜(3)に該当するもの)、2)その他医薬品(区分(4)〜(6)に該当するもの)に大きく分けられ」(第256頁第21〜22行)、「新一般用医薬品に該当する医薬品については、原則としては医療用医薬品として承認されている投与経路、効能・効果等の範囲内である必要があるので、その範囲からはずれる医薬品を申請する際には通常医療用医薬品として申請するよう考慮する必要がある。」(第257頁第2〜4行)、「新一般用医薬品には次の1〜3に分類される。1.新有効成分含有医薬品(申請区分(1))2.既承認であるが、一般用として初めての有効成分を含有する医薬品(申請区分(2))、3.一般用として既承認であるが、有効成分の組み合わせ、効能・効果が異なる医薬品(申請区分(3))(第257頁第6〜11行)、「2.既承認成分であるが、一般用として初めての有効成分(新一般用成分という)を含有する医薬品(申請区分(2):スイッチOTC) 医療用として承認されている成分を一般用として初めて申請する場合であるが」(第257頁第22〜24行)と記載されている。
又、効能又は効果の記載については、「一般大衆にわかりやすい用語であること」(第314頁第3行)、「一般用医薬品における効能は、病名もさることながら使用者の感知しうる症状を重視したうえで記載することが望ましく」(第314頁第11〜12行)と記載されている。
さらに、配合剤とする場合については、「配合剤の効能は、必ずしも配合成分個々の効能をすべて網羅できるとは限らない。一般的にいえば、作用の緩和なもの同士の組合せの場合は両方合わせた効能が認められ、作用の緩和なものと、強いものとの配合の場合は、強いものの効能に、強いもの同士の場合は、両方共通な部分の効能にそれぞれ限定されることになろう。しかし各成分の配合量によっては、この考え方が変わってくる場合がある。例えば各種ビタミンが配合されている製剤で、ビタミンEが一日量として200mg配合されていて、他のビタミンは常用量の範囲内である場合、これは、作用の緩和なもの同士の組合せであっても、効能はビタミンEを主剤とみなし、ビタミンEを中心として考えていくべきである。 したがって、配合成分の薬理作用と配合量から見て、その配合剤においてどの成分が主薬でありその成分が佐薬であるかを十分に検討し、当該薬剤の効能・効果は、原則として主薬を中心として考えるべきである。」(第315頁下から14行〜同下から4行)と記載されている。

(7)甲第10号証(「一般医薬品製造【輸入】承認基準 1995年版」厚生省薬務局審査課監修、日本公定書協会編集、薬業時報社発行 第56〜56頁、第70〜71頁)
胃腸薬(一般用医薬品)の製造承認の基準について記載されており、第4-1表(第56頁)のI欄(制酸剤)に配合できる有効成分として、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウム等が掲げられている。そして、その効能又は効果は、第4-6表の「主体とする成分」の「I欄」に、「・・・(略)・・・胸やけ、もたれ・・・(略)・・・はきけ(むかつき、胃のむかつき、嘔気、悪心)・・・(略)・・・、胃痛」と記載されている。

(8)甲第11号証(「医薬品製造製造指針 1998年版」厚生省医薬安全局審査研究会監修、日本公定書協会編集、薬業時報社発行 第32〜37頁、第314〜317頁)
第1表には、「一般用医薬品の承認申請に際し添付すべき資料の範囲」が記載され、申請区分が「(1)新有効成分含有医薬品」と「(2)新有効成分以外の有効成分であって、既承認の一般用医薬品の有効成分として含有されていない成分(以下「新一般用成分」という。」を含有する医薬品。」を申請する際添付すべき資料を○、×、△で表示している。

(9)甲第13号証(「臨床成人病」第26巻第7号 第901〜920頁(1996))
甲第13号証は、「胃炎に対するラニチジン配合剤の臨床的有用性の検討」と題する論文に係るものであって、塩酸ラニチジンは、「1984年に医療用医薬品として胃・十二指腸潰瘍薬の承認を得ている。次いで1988年には、急性胃炎、慢性胃炎の急性憎悪期に対して適応が拡大されて現在に至っている。」(第902頁右欄下から1行〜第903頁左欄第3行)こと、「私どもは、本邦において塩酸ラニチジンのOTC化に際して、服用直後の初期効果を期待するとともに、塩酸ラニチジンの用量を減量しながら医療用と同程度の効果を確保し、かつ安全性の向上に貢献するものとして、制酸剤を配合することとした。」(第903頁右欄第22〜26行)こと、「今回私どもは配合剤に含有する塩酸ラニチジンの至適用量を検討するために、制酸剤の用量を一定にして、塩酸ラニチジンの1回用量をそれぞれ63mg、31.5mg、0mgとした3群間で、胃炎に対して1日2回投与にて多施設無作為化二重盲検比較試験を実施したので報告する。」(第903頁右欄第31〜36行)こと、「ヒスタミンH2受容体拮抗薬と制酸剤を同時に服用した場合には、ヒスタミンH2受容体拮抗薬が吸着されて、その作用が低下する恐れがあり、制酸薬の選択に際しては吸収阻害の無いことを確認する必要があるため、一般用医薬品として汎用されているもののうち6種の制酸薬についてイヌにおける血行動態の検討を・・・(略)・・・にて行った。・・・(略)・・・表20に示すような薬剤を用いてFuchs変法試験にて制酸効果を検討し(図4)、即効的かつ持続的な制酸効果が得られしかもpH7以下を維持するケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウムを配合することとしたケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウムを配合することとした。」(第909頁右欄下から3行〜910頁第14行)こと、「本治験に先立ち、内田らは、健常成人男子を対象としてテトラガストリン刺激による胃酸分泌亢進状態において、塩酸ラニチジン63mg、31.5mg、15.75mg、0mgそれぞれの単回投与時の胃酸分泌抑制試験を行った。その結果、塩酸ラニチジンの1回投与量が、今回私どもが検討したH群と同量の63mg群では0mg群と比較し、有意な胃酸分泌抑制効果が認められたと報告している。又、浅野らは、本治験に用いた配合剤について、健常成人男子を対象に薬物動態試験を実施した。その結果、対象薬(塩酸ラニチジン63mg単味剤)と比較し、表22、図5に示した如くすべての薬動力学的パラメーターにおいて統計学的有意差を認めなかったことにより、今回の配合剤の処方は塩酸ラニチジンの吸収及び体内動態に影響を及ぼさないと判断された。このことにより、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウムを配合することとした。」(第910頁左欄下から10行〜同右欄第7行)ことが記載されている。更に、当該試験対象は、「平成4年7月から平成5年12月までに表1に示した医療機関に受診した患者で、心窩部痛、胸やけ、胸のつかえ、もたれ、げっぷ、悪心、胃部膨満感、胃重感などの上部消化管症状を2つ以上有し、内視鏡により胃粘膜病変がみられ、急性胃炎または慢性胃炎の急性憎悪期と診断され、本試験に同意した症例」(第903頁左欄下から5行〜同右欄表の下1行)であり、検査項目等の「自覚症状」の項には当該自覚症状(第904頁左欄表の下第16〜17行)、「内視鏡検査」の項には、「びらん、出血、発赤及び浮腫の程度」(第904頁左欄表の下第22〜23行)と記載され、その有効性を確認している。又、表20等にはNG-101A錠及びNG101B錠との記載がある。

5-2-2 判断
(1)特許法第67条及び67条の3でいう「特許発明の実施」についてまず検討すると、特許法第67条第2項には「特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があったときは、5年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。」と規定し、当該規定を受けて、特許施行令第3条第2号には、政令で定める許可その他の処分の1つとして、「薬事法(昭和35年法律第145号)第14条第1項に規定する医薬品に係る同項(同法第23条において準用する場合を含む)の承認」(以下、( )書き部分の記載を省略する。)が規定されているが、当該承認は、有効成分、効能又は効果のみならず、剤形、用法、用量等を特定した品目単位で行われるので(薬事法第14条第1項、2項)、承認品目毎にその実施が禁止状態におかれることになる。
しかしながら、特許権の存続期間が延長された場合の特許権の効力について規定する特許法第68条の2には「・・・(略)・・・当該特許権の効力は、その延長登録の理由となった第67条第2項の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用される物)についての当該特許発明の実施以外の行為には及ばない。」とされており、この規定は、特許権の存続期間の延長登録制度の趣旨、立法の経緯及び条文の文言からして、存続期間が延長された後の特許権の効力につき、一方では、処分と無関係な範囲には及ぼさないこととすると同時に、他方では、期間延長後の特許権者の権利主張の実効性を確保するため、処分単位で認めることとしないで、その処分において特定の用途が定められている場合には、処分の対象となった物につき、その処分において定められた特定の用途について実施する場合全般にまで拡大して及ぼしたものであるといえる。そうすると、特許法68条の2のみならず、特許法67条及び67条の3にいう「特許発明の実施」は、上述のような具体的な処分の対象そのもの(品目)を単位としてではなく、処分の対象となった物とその処分において定められた特定の用途によって特定される範囲のもの、すべてを単位としているものと解される。
してみれば、特許発明に係る延長登録が認められるためには、同じ「物」と「用途」によって特定される範囲において既に別の処分を受け特許発明の実施をすることができるようになっていないことが必要であり、逆に、同じ「物」を同じ「用途」に使用する以上、その使用形態、用法等の変更のため重ねて政令で定める処分が必要とされる場合であっても、そのことを理由に特許期間の登録延長を認めるべきではないということになる。
そして、薬事法第14条第1項の承認に係る延長登録においては、特許法第68条の2の規定にいう「物」に該当するのは、当該処分の対象となる、有効成分によって特定される医薬品であり、同「用途」に該当するのは当該医薬品の「効能・効果」とするのが相当である。
以上のことからすると、最初に薬事法14条1項による処分を受けて、所定の有効成分、効能・効果を有する医薬品について製造承認を得た特許権者は、その有効成分、効能・効果を有する医薬品に関して、特定の品目に限ってであれ、特許発明を実施することができるようになっていたのであるから、同じ有効成分、効能・効果の範囲内で、適用対象、剤型、用法、用量等の変更の必要上、再度処分を受ける必要が生じたとしても、特許期間の登録延長はこれを認めるべきでない。なお、上述のことは、延長登録に係る審決取消請求事件(東京高等裁判所平成10年(行ケ)364号事件(平成12年2月10日判決言渡)等)の判決で詳細に述べられている。

(2)上記の点を踏まえ本件を検討すると、甲第4号証及び甲第13号証の記載(第902頁右欄下から1行〜第903頁左欄第3行)からすると、塩酸ラニチジンを有効成分とする医薬は、本件延長登録に係る薬事法第14条第1項の承認に先立って、既に医療用医薬として薬事法第14条第1項の承認を受けていることは明らかであり、その効能・効果すなわち用途のうちには、「次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」があることが認められる。

本件延長登録された有効成分及び用途(上記3参照。)と、上記既承認の有効成分及び用途とを比較すると、有効成分は両者一致するが、用途が、前者は「胃痛、胸やけ、もたれ、むかつき」であるの対し、後者は「次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」である点で一応相違している。

この相違点について検討してみるに、上述のように、塩酸ラニチジンの既承認の医薬は医療用として製造承認されたものであるが、医薬品には、医療用の外に一般用として製造承認されるものがあって、そのうちには、「既承認であるが、一般用として初めての有効成分を含有する医薬品(申請区分(2))」(いわゆるスイッチOTC)があり、当該申請区分は、「医療用として承認されている成分を一般用として初めて申請する場合・・・(略)・・・」と説明されているものである(上記5-2-1 甲第9号証参照。)。
ところで、上述の申請区分(2)の医薬(スイッチOTC)は、その製造承認申請にあたり、提出が必須とされている書類が医療用のものと比較するとはるかに少なく(甲第11号証第1表)、特に、医薬の効果又は効能(用途)に関係する「薬理作用に関する資料」及び「吸収,・・・(略)・・・排泄に関する資料」の提出が必須とされていない。このことは、既に承認されている医療用医薬についてその効能又は効果が確認されているからであり、「既承認であるが、一般用として初めての有効成分を含有する医薬品(申請区分(2))」(いわゆるスイッチOTC)の効能又は効果は、通常、医療用医薬品のそれの範囲内のものであるということができる(このことは、甲第9号証に、「新一般用医薬品に該当する医薬品については、原則としては医療用医薬品として承認されている投与経路、効能・効果等の範囲内である必要があるので、その範囲からはずれる医薬品を申請する際には通常医療用医薬品として申請するよう考慮する必要がある。」(第257頁第2〜4行)こと、及び、一般用医薬品の1つである新有効成分含有医薬品(申請区分(1))に関して、「従来より新有効成分含有医薬品の申請は、特殊な場合を除き原則として医療用医薬品の方から申請することとされている。これは、基礎試験及び限られた臨床試験ではその医薬品の有効性、安全性の把握に限界があるため、一般消費者がセルフメディケーションとして自由に使用することのできる一般用医薬品になじまないと考えられるからである。例外的に最初から一般用として認められるものは、殺虫剤、プール殺菌消毒剤等が考えられる(第257頁第16〜21行)」と記載されていることからも窺える。)
そこで、本件における延長理由裏付け資料のうちの1つである「医薬品製造承認書」において当該製造承認申請書のとおり承認するとされているところの(上記5-2-1 甲第2号証(1-2)参照。)、「製造承認申請書」を見ると、その備考欄には、「一般用医薬品(2)」と記載されており(上記5-2-1 甲第2号証(1-3)参照。)、この「一般用医薬品(2)」は、上記甲第9号証でいう「既承認であるが、一般用として初めての有効成分を含有する医薬品(申請区分(2))」をいうものと認められるので、本件延長登録に係る製造承認された医薬は、一般用医薬(申請区分(2))として承認されたものといえる。そして、上記「製造承認申請書」においては、塩酸ラニチジンの外、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウムも有効成分とされているものの、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウムは、本件延長登録に係る製造承認前に既に一般用医薬品として汎用されているものであるから(例えば、甲第13号証第910頁左欄第2〜14行参照。)、製造承認された医薬の「既承認であるが一般用として初めて」の有効成分が塩酸ラニチジンであることは明らかである。
そして、一般用に転用された塩酸ラニチジンの効能又は効果が、既承認のそれを超えないものであることは、甲第13号証によって確認される。
すなわち、上記甲第13号証の臨床試験することになった経過、当該試験をする目的、対象者、有効成分、表2の治験薬の1回量の塩酸ラニチジン及び制酸剤の配合量、試験する錠剤名(上記5-2-1 甲第13号証参照。)と、上記延長理由裏付け資料の1つである「治験依頼書」(上記5-2-1 甲第2号証(1-2)参照。)の治験薬コード名、治験課題名、治験目的等、及び、同「製造承認申請書」(上記5-2-1 甲第2号証(1-3)参照。)の有効成分及び各成分の配合量を比較して総合的に勘案すれば、甲第13号証は、上記治験依頼書によって依頼された者のみの論文に係るものかどうかはともかく、本件延長登録に係る一般用医薬申請区分(2)の製造承認の申請のために行われた臨床試験の結果を報告するものであると認められるところ(なお、被請求人は、甲第13号証が上記製造承認に際して行われた臨床試験の結果と同じものである旨述べている(第1回口頭審理調書)。)、同号証の「胃炎に対するラニチジン配合剤の臨床的有用性の検討」と題する論文においては、医療用として既承認の塩酸ラニチジンのOTC化のためのものであるとした上で臨床試験が行われ、OTC化した既承認の効能又は効果は、その具体的臨床試験の対象疾病についての記載のとおり、「次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」にあると認められる(上記5-2-1 甲第13号証参照。)。そして、同号証の「私どもは、本邦において塩酸ラニチジンのOTC化に際して、服用直後の初期効果を期待するとともに、塩酸ラニチジンの用量を減量しながら医療用と同程度の効果を確保し、かつ安全性の向上に貢献するものとして、制酸剤を配合することとした。」(第903頁右欄第22〜26行)、「今回私どもは配合剤に含有する塩酸ラニチジンの至適用量を検討するために、制酸剤の用量を一定にして、塩酸ラニチジンの1回用量をそれぞれ63mg、31.5mg、0mgとした3群間で、胃炎に対して1日2回投与にて多施設無作為化二重盲検比較試験を実施したので報告する。」、「ヒスタミンH2受容体拮抗薬と制酸剤を同時に服用した場合には、ヒスタミンH2受容体拮抗薬が吸着されて、その作用が低下する恐れがあり、制酸薬の選択に際しては吸収阻害の無いことを確認する必要があるため、一般用医薬品として汎用されているもののうち6種の制酸薬についてイヌにおける血行動態の検討を・・・(略)・・・にて行った。・・・(略)・・・表20に示すような薬剤を用いてFuchs変法試験にて制酸効果を検討し(図4)、即効的かつ持続的な制酸効果が得られしかもpH7以下を維持するケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウムを配合することとしたケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウムを配合することとした。」(第909頁右欄下から3行〜910頁第14行)、「本治験に先立ち、内田らは、健常成人男子を対象としてテトラガストリン刺激による胃酸分泌亢進状態において、塩酸ラニチジン63mg、31.5mg、15.75mg、0mgそれぞれの単回投与時の胃酸分泌抑制試験を行った。その結果、塩酸ラニチジンの1回投与量が、今回私どもが検討したH群と同量の63mg群では0mg群と比較し、有意な胃酸分泌抑制効果が認められたと報告している。又、浅野らは、本治験に用いた配合剤について、健常成人男子を対象に薬物動態試験を実施した。その結果、対象薬(塩酸ラニチジン63mg単味剤)と比較し、表22、図5に示した如くすべての薬動力学的パラメーターにおいて統計学的有意差を認めなかったことにより、今回の配合剤の処方は塩酸ラニチジンの吸収及び体内動態に影響を及ぼさないと判断された。このことにより、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウムを配合することとした。」(第910頁左欄下から10行〜同右欄第7行)との各記載からすると、当該臨床試験は、服用直後に効果を奏させるため、及び、塩酸ラニチジンの用量を減量し、安全性向上させるために制酸剤を配合することを検討するためのものであって、塩酸ラニチジンの既承認の効能又は効果である、「次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」を超える範囲または異なる範囲の塩酸ラニチジンの効能又は効果に係る臨床試験でないことは明らかである。このことは、本件延長理由裏付け資料のうちの1つである「治験依頼書」の治験課題名に「NG101錠用量設定二重盲検試験比較試験」と、用量設定のための試験である旨を記載している(上記5-2-1 甲第2号証(1-4)参照。)ことからも窺える。

そして、甲第9号証には、上述のように、一般用医薬品の製造承認申請にあたっては、その効能又は効果の記載は、「一般大衆にわかりやすい用語であること」、「一般用医薬品における効能は、病名もさることながら使用者の感知しうる症状を重視したうえで記載することが望ましく」とされているし、配合剤の場合の効能又は効果は、他に配合される有効成分との相対的薬効の強さ及び配合量を検討する旨の記載がある(上記5-2-1 甲第9号証参照。)。
してみれば、本件延長登録に係る製造承認についての効能又は効果は、医療用として既承認の塩酸ラニチジンの「次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」の効能又は効果をその範囲内で一般用に転用するに際して、他に配合される有効成分であるケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウムの配合量及び効能又は効果(上記5-2-1 甲第10号証参照。)を考慮した上で、一般大衆にわかりやすい自覚症状の用語を用いて表現したものと認められ、塩酸ラニチジンについてみれば、少なくとも、医療用として既承認の塩酸ラニチジンの「次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」の効能又は効果の範囲を超えるものでないことは明らかである。

(3)なお、甲第5〜8号証は、塩酸ラニチジンの「次の疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善 急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」の効能又は効果についての医療用医薬品の製造承認申請のために行った臨床試験の結果を報告するものの1つであると認められるが(被請求人は、甲第5〜8号証が既承認の塩酸ラニチジンの臨床試験の結果と同じものである旨述べている(第1回口頭審理調書)。)、これら甲号証における当該改善される自覚症状は、「疼痛、食欲不振、胸やけ、げっぷ、悪心、嘔吐、胃部膨満感、胃重感」であり、本件延長登録に係る用途である「胃痛」、「もたれ」及び「むかつき」の用語そのものは見あたらない。
しかしながら、甲第13号証には、急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)に係る自覚症状については「心窩部痛、胸やけ、胸のつかえ、もたれ、げっぷ、悪心、胃部膨満感、胃重感」(第903頁左欄下から5行〜同右欄表の下1行)となっており、同じ疾患(及び状態)であるにもかかわらず自覚症状を一部相違した表現で記載していることからすると、甲第5〜8号証においては上記疾患の胃粘膜病変に係る類似する症状を適宜選択して記載していると認められるし、本件延長登録に係る製造承認自体は、配合剤に係るものであって、塩酸ラニチジンに相当量配合されるケイ酸アルミン酸マグネシウム等の成分については、一般医薬品の製造承認基準に係る甲第10号証に、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミナマグネシウム及び酸化マグネシウム等(表4-1I欄1項参照。)の有効成分を主体とした製剤の効能又は効果の範囲は、第4-6表(I欄)のとおりとされ、そこには、「胃酸過多、胸やけ、・・・(略)・・・もたれ・・・(略)・・・はきけ(むかつき、胃のむかつき・・・(略)・・・悪心)嘔吐・・・(略)・・・胃痛」と記載されており、上述のように甲第9号証における配合剤の場合の効能又は効果は、他に配合される有効成分との相対的薬効の強さ及び配合量を検討するとされているから、本件延長登録に係る製造承認における効能又は効果は、ケイ酸アルミン酸マグネシウム等の成分の効能又は効果も考慮した上で一般大衆にわかりやすい自覚症状の用語を用いて表現したものと考えるのが自然である。
そうすると、本件延長登録に係る用途が甲第5〜8号証に記載されている改善される自覚症状の記載と一部一致しないことは、上記(2)の判断と矛盾するものではない。

(4)もっとも、被請求人は、本件延長登録に係る医薬はスイッチOTCであると認めているものの(平成13年2月22日付け口頭審理陳述要領書第4頁第9〜10行)、「効能効果の表示について厚生省の規制が存在するからといって、医療用医薬品と一般用医薬品との効果効能が実質的に同一と解さねばならない理由はない。製造承認書の効果効能の記載は、医療用医薬品と一般用医薬品とでは明確に異なるのであるから、むしろ両者は別々の効能効果について処分がなされたとするのが相当である。本件承認の「胃痛、胸やけ、もたれ、むかつき」と「胃潰瘍、・・・(略)・・・急性胃炎、慢性胃炎増悪期の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善」とは、上位下位の関係にもない。」と主張している。
しかし、両者の用途についての表現が日本語として上位下位の関係にあるといえるかどうかはともかく、本件延長登録に係る製造承認は、上述のように、一般用医薬の申請区分(2)に係る医薬についてのものであり、製造承認されたその効能・効果は、塩酸ラニチジンについて医療用として既承認の効能又は効果の範囲内のものと認められるものであるから、上記表現の違いをもって、塩酸ラニチジンの別の効果又は効能が承認されたとするのが適当でないことは明らかである。

(5)結局、本件延長登録に係る製造承認における塩酸ラニチジンの「用途」は、既承認の「用途」と実質的に相違するとはいえない。
してみれば、本件延長登録に係る製造承認は、医療用用途を一般用に転用する(かつ、配合剤とする)ために必要なものであったとしても、当該有効成分(塩酸ラニチジン)及び用途(胃痛、胸やけ、もたれ、むかつき)で特定される範囲についての最初の処分ということはできない。
したがって、本件延長登録に係る製造承認は、本件特許発明の実施に必要な処分であったとはいえないので、本件延長登録は、特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない出願に対してされたものである。

5.結び
以上のとおりであるから、本件特許権に係る延長登録は、特許法第125条の2第1項第1号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-12-12 
結審通知日 2002-12-17 
審決日 2002-12-27 
出願番号 特願昭56-154887
審決分類 P 1 15・ 71- Z (C07D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 横尾 俊一  
特許庁審判長 田中 倫子
特許庁審判官 竹林 則幸
深津 弘
登録日 1993-05-20 
登録番号 特許第1761235号(P1761235)
発明の名称 第二結晶形ラニチジン塩酸塩  
代理人 佐藤 一雄  
代理人 中村 行孝  
代理人 紺野 昭男  
代理人 佐伯 憲生  
代理人 横田 修孝  
代理人 小野寺 捷洋  

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