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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1079216
審判番号 不服2000-20214  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-12-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-12-21 
確定日 2003-07-02 
事件の表示 平成 9年特許願第127527号「内燃機関の始動時燃料噴射制御装置」拒絶査定に対する審判事件[平成10年12月 2日出願公開、特開平10-318020]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本件出願は、平成9年5月16日の出願であって、平成12年1月28日付けの手続補正により願書に添付した明細書および図面の補正がなされたが、平成12年11月10日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、平成12年12月21日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに、平成13年1月19日付けの手続補正により明細書の補正がなされたものである。

[2]平成13年1月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成13年1月19日付けの手続補正を却下する。
〔理 由〕
(1)補正後の請求項1および2に記載された発明
平成13年1月19日付けの手続補正(以下、単に「本件手続補正」という。)により、本件出願の特許請求の範囲は、次のように補正されている。
「【請求項1】複数の気筒を備えた内燃機関の始動時に各気筒のクランク位置が判別されると、各気筒の吸気弁開弁時期に同期して吸気行程中に燃料噴射を実行する吸気同期噴射手段を備えた始動時燃料噴射制御装置において、各気筒のクランク位置が判別された後であって前記吸気同期噴射手段による燃料噴射が実行される前に、各気筒に対して、吸気行程以外の行程での燃料噴射を所定回数実行する吸気非同期噴射手段を備えることを特徴とする内燃機関の始動時燃料噴射制御装置。
【請求項2】前記吸気非同期噴射手段は、前記内燃機関の始動開始時に各気筒に対して一回のみ吸気非同期噴射を行うことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の始動時燃料噴射制御装置。」
すなわち、本件手続補正により補正される請求項1は、平成12年1月28日付けの手続補正により補正された請求項1(以下、平成12年1月28日付けの手続補正により補正された請求項を単に「補正前の請求項」という。)に記載された事項に「各気筒のクランク位置が判別されると」、及び「各気筒のクランク位置が判別された後であって」を付加して限定するものであって、本件手続補正は、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件手続補正により補正される請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、単に「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(すなわち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものであるか)について、以下に検討する。
(2)引用文献
i.原査定の拒絶の理由に引用された特開平8ー74622号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「【0033】図2において、44はマイクロコンピュータによって構成されたエンジンコントロールユニットである。このエンジンコントロールユニット44には、エンジン点火系のディストリビュータ45からクランク角信号および回転信号が入力され、・・・【0034】 燃料噴射は気筒毎にトレーリング噴射とリーディング噴射の分割噴射とされる。すなわち、吸気上死点前6゜のタイミングで要求燃料噴射量が演算され、その要求燃料噴射量に相当するパルス幅が演算される。そして、吸気上死点後60゜までに燃料を噴き終えたいということから、演算したパルス幅が吸気上死点後60゜までに入るかどうかによって、吸気上死点後60゜までに入る場合はそのタイミングで全量が噴射される・・・【0036】燃料噴射時期は、クランク角度360゜毎のSGC信号(クランク角度信号)と、クランク角度180゜毎のSGT信号(回転信号)によって決定される。すなわち、エンジン始動後は、各気筒について上記のように吸気上死点後60までに要求燃料噴射量を噴き切るタイミングとなるよう気筒判別が行われ、その判別順序にしたがって各気筒に燃料を噴射する、いわゆるシーケンシャル噴射が行われる。・・・【0038】気筒判別用カウンタの出力cgは、SGCが0から1に立ち上がり、同時にSGTが0から1に切り替わった時に「3」となり、SGCが1から0に立ち上がると同時にSGTが0から1に切り替わった時に「7」となる。また、SGTが1から0に、あるいは0から1へ切り替わる度にカウントが1ずつ増加し、8以上になると0に戻る。このcgの値が「0」の時は第1気筒(#1)のトレーリング側噴射タイミング、cgが「2」の時は第3気筒(#3)のトレーリング側噴射タイミング、cgが「4」の時は第4気筒(#4)のトレーリング側噴射タイミング、cgが「6」の時は第2気筒(#4)のトレーリング側噴射タイミングというように気筒判別がなされる。・・・【0039】また、始動時には、上記吸気行程におけるシーケンシャル噴射は停止され、要求燃料噴射量を3等分して吸気行程を除く時期に3回に分けて噴射する3分割噴射の方式でシーケンシャル噴射が行われる。なお、図示の例では冷間時,温間時とも吸気行程外の3分割噴射を行っているが、エンジン水温が例えばマイナス15℃以上の温間時には、プラグのかぶりの影響が少ないことから、必ずしも吸気行程を除く必要はなく、この場合、吸気行程を含めて4分割噴射としてもよい。また、始動時の気筒判別が完了するまでの期間は、SGT信号が1から0に切り替わるタイミングで全気筒に対し同時噴射が行われる。ただし、エンジン水温が例えばマイナス15℃に達しないような冷間時においては、プラグのかぶりを避けるため燃料がカットされる。図4はこのような始動時の燃料噴射を説明する模式図である。」(第4頁右欄第16行〜第5頁左欄第10行)
(b)「S15で気筒判定フラグ:xgfindが立っていなければ、始動時でかつ気筒判別が完了していないと判定し、この時は、S16で、水温が設定値ω(例えばマイナス15℃)以上かどうかで温間時か冷間時かを判定し、温間時であれば、S17で同時噴射を実行する。また、冷間時と判定した時はS18で燃料カットを行う。そして、いずれもS24へ進む。【0049】また、S15で気筒判定フラグ:xgfindが立っていれば、S19へ進み、始動時(クランキング中)かどうかをスタータ信号,エンジン回転数等によって判定し、始動時という場合は、S20で吸気行程を除く期間での3分割噴射を実行する。また、始動時でなければ、S21で吸気行程のシーケンシャル噴射を実行する。そして、いずれもS24へ進む。」(第5頁左欄第28〜41行)(なお、下線は、対比の便のために当審で付加した。)
(c)「請求項2に係る構成によれば、始動時、気筒判別完了後は気筒別に燃料を噴射し、その際、少なくともエンジン温度が設定値に達しない時は各気筒に対し吸気行程を除いて噴射を行わせることにより、燃料が点火プラグに付着して低温時の始動性が悪化するのを防止できる。【0056】また、請求項3に係る構成によれば、始動時、気筒判別完了後の燃料噴射は吸気行程を除く時期に複数回に分けて行うことにより、燃料の点火プラグへの付着を防止するとともに、気化,霧化を促進させ、低温時の始動性を向上させることができる。」(第5頁右欄第19〜29行)
したがって、前記の記載事項(a)〜(c)、及び図面の記載を総合すると、引用文献1には、次のような発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

対比用『複数の気筒を備えたエンジン(内燃機関)の始動時に気筒判別が完了(各気筒のクランク位置が判別)されると、各気筒の吸気行程のシーケンシャル噴射(吸気弁開弁時期に同期して吸気行程中に燃料噴射を実行する吸気同期噴射)手段を備えた燃料噴射制御装置(始動時燃料噴射制御装置)において、気筒判別が完了された後であって前記吸気行程のシーケンシャル噴射手段による燃料噴射が実行される前に、吸気行程を除く時期に3回に分けて噴射する3分割噴射の方式でのシーケンシャル噴射(各気筒のクランク位置が判別された後であって前記吸気同期噴射手段による燃料噴射が実行される前に、各気筒に対して、吸気行程以外の行程での燃料噴射)を{所定回数}実行する吸気行程外3分割噴射手段(吸気非同期噴射手段)を備えることを特徴とするエンジン(内燃機関)の燃料噴射制御装置(始動時燃料噴射制御装置)。』

「複数の気筒を備えたエンジンの始動時に気筒判別が完了されると、各気筒の吸気行程のシーケンシャル噴射手段を備えた燃料噴射制御装置において、気筒判別が完了された後であって前記吸気行程のシーケンシャル噴射手段による燃料噴射が実行される前に、吸気行程を除く時期に3回に分けて噴射する3分割噴射の方式でのシーケンシャル噴射を実行する吸気行程外3分割噴射手段を備えることを特徴とするエンジンの燃料噴射制御装置」
ii.原査定の拒絶の理由に引用された特開平4ー164137号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(d)「この発明の目的は、始動時回転上昇中の燃焼を改善して良好な始動性を確保することができる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。」(第2頁左上欄第4〜6行)
(e)「非同期噴射の回数は・・・十分な燃料が供給されて、かつ燃料供給過剰によるプラグのくすぶりや燃焼悪化を生じない条件を満たせば始動中二回以上何回でもよく」(第5頁左上欄第3〜8行)
したがって、前記の記載事項(d)、(e)によれば、引用文献2には、「良好な始動性を確保するための非同期噴射の回数を、適切な燃焼状態となるように任意に設定する技術」が記載されているものと認められる。
(3)対比・判断
(a)本願補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「エンジン」は前者の「内燃機関」に相当する。同様に、「吸気行程のシーケンシャル噴射」は「吸気弁開弁時期に同期して吸気行程中に燃料噴射を実行する吸気同期噴射」に、「燃料噴射制御装置」は「始動時燃料噴射制御装置」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「気筒判別が完了される」について検討するに、上記摘記事項(a)中の、「【0033】・・・エンジンコントロールユニット44には、エンジン点火系のディストリビュータ45からクランク角信号および回転信号が入力され、・・・【0036】燃料噴射時期は、クランク角度360゜毎のSGC信号(クランク角度信号)と、クランク角度180゜毎のSGT信号(回転信号)によって決定される。」との記載、及び複数気筒の内燃機関における各気筒とエンジン点火、燃料噴射との関係における一般的知識とによれば、引用発明も、クランク角度、即ちクランク位置に基づいて気筒判別しているものと解される。してみると、引用発明の「気筒判別が完了される」は、本願補正発明の「各気筒のクランク位置が判別される」に相当する。
次に、引用発明の「気筒判別が完了された後であって前記吸気行程のシーケンシャル噴射による燃料噴射が実行される前に、吸気行程を除く時期に3回に分けて噴射する3分割噴射の方式でのシーケンシャル噴射」を検討するに、引用発明は3回に分けて噴射しているものの、いずれの噴射も吸気行程を除く時期に噴射しているのであるから、引用発明の「気筒判別が完了された後であって前記吸気行程のシーケンシャル噴射手段による燃料噴射が実行される前に、吸気行程を除く時期に3回に分けて噴射する3分割噴射の方式でのシーケンシャル噴射」は、本件発明の「各気筒のクランク位置が判別された後であって前記吸気同期噴射手段による燃料噴射が実行される前に、各気筒に対して、吸気行程以外の行程での燃料噴射」に相当するとともに、引用発明の「吸気行程外3分割噴射手段」は、本件発明の「吸気非同期噴射手段」に相当する。
したがって、本願補正発明と引用発明は、「複数の気筒を備えた内燃機関の始動時に各気筒のクランク位置が判別されると、各気筒の吸気弁開弁時期に同期して吸気行程中に燃料噴射を実行する吸気同期噴射手段を備えた始動時燃料噴射制御装置において、各気筒のクランク位置が判別された後であって前記吸気同期噴射手段による燃料噴射が実行される前に、各気筒に対して、吸気行程以外の行程での燃料噴射を実行する吸気非同期噴射手段を備える内燃機関の始動時燃料噴射制御装置」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉吸気行程以外の行程での燃料噴射回数に関して、本願補正発明は、「所定回数」としているのに対し、引用発明では、燃料噴射回数が所定回数かどうか不明である点。
(b)そこで、前記〈相違点〉について検討する。
引用文献2には、「良好な始動性を確保するための非同期噴射の回数を、適切な燃焼状態となるように任意に設定する技術」が記載されているように、始動時の非同期噴射の回数は燃焼状態を考慮して適宜設定し得るものである。してみると、引用発明に引用文献2に記載された技術を適用して「所定回数」とすることは、当業者が容易になし得るものである。
そして、本願補正発明は、全体構成でみても、引用発明、及び引用文献2に記載された技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものとも認められない。
よって、本願補正発明は、引用発明、及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(4)むすび
以上のとおり、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[3]本願発明について
(1)平成13年1月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明は、平成12年1月28日付けの手続補正により補正される特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、この発明を単に「本願発明」という。)。
「【請求項1】複数の気筒を備えた内燃機関の始動時に、各気筒の吸気弁開弁時期に同期して吸気行程中に燃料噴射を実行する吸気同期噴射手段を備えた始動時燃料噴射制御装置において、
前記吸気同期噴射手段による燃料噴射が実行される前に、各気筒に対して、吸気行程以外の行程での燃料噴射を所定回数実行する吸気非同期噴射手段を備えることを特徴とする内燃機関の始動時燃料噴射制御装置。」
(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平8ー74622号公報)、引用文献2(特開平4ー164137号公報)、および、それらの記載事項は、前記[2]の(2)に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明は、前記[2]で検討した本願補正発明から「各気筒の吸気弁開弁時期に同期して燃料噴射を実行する」条件の限定事項である「各気筒のクランク位置が判別されると」との構成を省くと共に、「吸気行程以外の行程での燃料噴射を実行する」条件の限定事項である「各気筒のクランク位置が判別された後であって」との構成を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに本願発明を特定する事項の一部を限定する構成を付加したものに相当する本願補正発明が、前記[2]の(3)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-04-15 
結審通知日 2003-04-22 
審決日 2003-05-08 
出願番号 特願平9-127527
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山岸 利治小松 竜一  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 松下 聡
飯塚 直樹
発明の名称 内燃機関の始動時燃料噴射制御装置  
代理人 遠山 勉  
代理人 川口 嘉之  
代理人 永田 豊  
代理人 松倉 秀実  

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