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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B60J |
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管理番号 | 1079596 |
異議申立番号 | 異議2002-71513 |
総通号数 | 44 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-06-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-06-11 |
確定日 | 2003-04-18 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3254555号「ガラス用ウェザストリップ」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3254555号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1手続の経緯 本件特許3254555号の発明は、平成8年12月9日(1996.12.9)に出願され、特許の設定登録(全5項)がなされ、その後、表記の異議申立人より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、訂正請求がなされたものである。 2訂正の適否の判断 (1) 訂正の内容 (特許請求の範囲) a 請求項1の「ウレタン滑性層が形成され」の後に、「、且つ、前記押出部におけるウレタン滑性層が2コートタイプの塗料で形成され」を挿入する。 b 請求項1の「ポリエステルポリオール」の前に、「硬質タイプの」を挿入する。 (発明の詳細な説明) c 明細書段落番号【0009】中の「所定値以下の摩擦係数を長期間維持することが困難、即ち、」を削除する。 d 明細書段落番号【0012】,中の記載について、上記bと同じ趣旨の訂正をする。 e 【0010】における「型成形部のガラス接触部において、所定値以下の摩擦係数を長期間維持することができる」を「型成形部に熱変形が発生するおそれがなく、且つ、型成形部のガラス接触部における耐摩耗性を向上させることができる」 f 【0035】における「表面硬度が、《中略》摩耗が促進されない。」を「型成形部にウレタン滑性層を100℃以下の温度で硬化させることができるため、型成形部が熱変形するおそれがない。」と訂正する。 (2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 (特許請求の範囲) 上記訂正事項aについては、特許明細書の特許請求の範囲に記載された押出部のウレタン滑性層の材料をより具体的な構成に限定しようとするものである。 したがって、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 上記訂正事項bについては、特許明細書の特許請求の範囲に記載されたポリエステルポリオールのタイプをより具体的な構成に限定しようとするものである。 したがって、上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (発明の詳細な説明) 上記訂正事項c,e及びfについては、不明瞭な記載の釈明を目的とするものである。 上記訂正事項dについては、 明細書の記載と特許請求の範囲との整合を図るためのもので、不明瞭な記載の釈明を目的とするものである。 また上記訂正事項aないしfは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内での訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (3) むすび 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法120条の42項及び3項で準用する特許法126条2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3特許異議の申立てについての判断 (1) 本件発明 上記2で示したように上記訂正が認められるから、本件異議申立に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりの次のものである。 「【請求項1】 押出部に型成形部が型成形接続されてなり、ガラス接触部にウレタン滑性層が形成され、且つ、前記押出部におけるウレタン滑性層が2コートタイプの塗料で形成されてなるエチレンプロピレン系ゴム製のガラス用ウェザストリップであって、 前記型成形部における前記ウレタン滑性層が、1コートタイプの塗料で形成され、且つ、鉛筆硬度B以上H未満の範囲に調整されてなり、 前記1コートタイプの塗料が、分子量1万〜9万の硬質タイプのポリエステルポリオールをポリオール成分とするベースポリマーと、プライマーとを含有してなり、100℃以下で硬化可能なものであり、 さらに、ウレタン系樹脂と熱融着可能な極性樹脂材料を樹脂製滑剤として含有することを特徴とするガラス用ウェザストリップ。 【請求項2】 前記極性樹脂材料が、ポリアミド(ナイロン)であることを特徴とする請求項1記載のガラス用ウェザストリップ。 【請求項3】 前記ナイロンが6ナイロンまたは66ナイロンであることを特徴とする請求項2記載のガラス用ウェザストリップ。 【請求項4】 前記極性樹脂材料が、ポリカーボネートであることを特徴とする請求項1記載のガラス用ウェザストリップ。 【請求項5】 前記樹脂製滑剤の設定粒径が、前記ウレタン滑性層の塗膜厚より、5〜25μm大きいことを特徴とする請求項1記載のガラス用ウェザストリップ。」 (2) 引用された刊行物等に記載の発明 [刊行物1]特開昭61―225222号公報(甲第3号証) [特許請求の範囲]には、「被処理弾性体表面に接着性を付与するための前処理工程と、多価イソシアネートとポリオールの組合せからなる硬化性ポリウレタンと、硬化性シリコンとを少なくとも塗膜形成要素として実質的に含有した滑性・撥水性表面処理剤を塗布する工程とからなることを特徴とする高分子弾性体の表面処理方法。」と記載され、 [2頁右下欄11行ないし3頁左上12行]には、「ここで第2工程の表面処理剤には、硬化性ポリウレタン塗料と、硬化性シリコンを塗膜形成要素として含有する以外に、具体的には以下の3つの組合せがある。《中略》 (2)硬化性ポリウレタン塗料と、硬化性シリコンと、粒径が0.1μ〜200μのパウダーを主要成分とする表面処理剤。《中略》 そのうちの硬化性ポリウレタン塗料としては、末端にヒドロキシル基を有するポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオールまたはそのブレンド《中略》と、ジイソシアナートからなるものである。」と記載され、 [3頁右上欄11行ないし左下欄4行]には、「また、粒径が0.1μ〜200μのパウダーとしては、無機および有機系の顔料を含み、更に金属またはケイ素の各炭化物若しくは酸化物パウダー,金属石けんパウダー,ナイロンパウダー,《中略》ナイロンパウダーはナイロン66,ナイロン610,ナイロン6,ナイロン11,ナイロン12などのパウダーを用いる。」と記載され、 [4頁右上欄10行ないし17行]には、「また粒径を0.1μ〜200μに限定した理由は以下のとおりである。つまり、パウダーの粒径が0.1μを下回ると摩擦係数を低下させる効果がないという不具合が生じ、逆に粒径が200μを上回ると塗膜がパウダーを保持できず、パウダーが離脱して滑性付与の効果がなくなるという不具合が生ずる。したがって、以下の範囲に限定され、またより好ましくは1μ〜100μである。」と記載され、 [4頁右下欄9行ないし12行]には、「高分子弾性体としては、一般的に用いられるストリップゴムや塩ビ等あるいは最も効果を発揮する対象としてEPTラバー,EPDMラバー等の非極性高分子弾性体等が揚げられる。」と記載され、 [5頁右上欄13行ないし左下欄下から3行]には、「この実施例では、被処理弾性体として自動車用のウエザーストリップを用いる。まず、ウエザーストリップの表面に変成EPTによりプライマー処理を施した。《中略》 つぎに、滑性・撥水性表面処理剤としては、 (1)《略》(2)《略》(3)《略》(4)《略》 各処理剤(1)〜(4)をそれぞれ調整して前記前処理したウエザーストリップの表面に同1条件下でスプレー塗布し常温で乾燥させた。」と記載されており、該自動車用のウエザーストリップが押出成形されることは通常であるから、上記実施例では、押出部に2コートタイプの塗料を用いていることは明白である。 これらの記載からみれば刊行物1には、以下のとおりの発明が記載されていると認められる。[以下、〈〉内には、本件発明で相当している事項の用語を示す。] 『ガラス接触部に滑性処理剤である硬化性ポリウレタン塗料〈ウレタン滑性層〉が形成され、且つ、前記押出部における硬化性ポリウレタン塗料〈ウレタン滑性層〉が2コートタイプの塗料で形成されてなるエチレンプロピレン系ゴム製のガラス用ウエザストリップであって、 前記滑性処理剤である硬化性ポリウレタン塗料〈ウレタン滑性層〉が、ポリエステルポリオールをポリオール成分とするベースポリマーを含有してなり、100℃以下で硬化可能なものであり、 さらに、ウレタン系樹脂と熱融着可能なナイロン66〈極性樹脂材料〉を樹脂製滑剤として含有することを特徴とするガラス用ウエザストリップ。』 [刊行物2]特開昭61―226346号公報(甲第1号証) [2頁左上欄15行ないし右上欄1行]には、「第1図ないし第3図において、ウエザーストリップ4,5は、車体1のフロントウインドガラス2やウインドウガラス2などを取付ける車体開口部2a,3aの周縁部に装着されている。各ウエザーストリップ4,5は一部にコーナ部を備えており、コーナ部の型成形品と直状部の連続加硫成型品を接合して一体にした構造となっている。」と記載され、 [2頁左下欄14行ないし右下欄11行]には、「前記塗料を塗装する場合には、ウレタン系塗料を密着しやすくするためにウエザーストリップ4,5,10の所要部位にプライマーを塗布してヒータでプライマーを乾燥したのち、スプレーなどによりプライマー塗布面に顔料を含有させたウレタン系塗料を塗布してヒータにより該顔料を乾燥させる。 これにより、各ウエザーストリップ4,5,10はコーナ部の型成形部と直状部の押出成形部との段差が消されて、外観が向上する。《中略》 更にまた、前記ウレタン系塗料に硬化性シリコン、シリコンオイルを含有させることにより成形される塗膜層の滑性や耐摩耗性を向上させることができる。」と記載されている。 [刊行物3]特開昭60―166518号公報(甲第2号証) [特許請求の範囲]には、「(1)ゴム又は熱可塑性樹脂を基材とする自動車用ウェザーストリップにおいて、摺動ガラスと摺接する面に、 (A) ウレタン系もしくはメタノール可溶ナイロン系の塗料、及び (B) 油状物質を内包する球状の樹脂製マイクロカプセル、 を必須の成分とする塗料組成物を塗布してなることを特徴とする自動車用ウェザーストリップ。」と記載され、 [3頁右上欄11行ないし左下欄下から4行]には、「更に塗膜表面に凹凸を形成し、ウインドガラスとの摺動抵抗を下げる目的で、ナイロン粒子を含有させることが好ましい。このナイロン粒子としては、例えば、 《中略》 (C") 平均粒径が好ましくは5〜100μのナイロンパウダー などがある。《中略》 続いて、乾燥及び焼付けすることによってウエザーストリップ本体1上に(A)の塗料11、マイクロカプセル12及び所望によりナイロン粒子13を一体化した第3図(b)に示す如き微視的凹凸状の面14が形成される。」と記載されている。 また、第3図(b)から、ナイロン粒子13の粒径が、塗膜厚より大きい点を看取できる。 [刊行物4]特公昭63―40828号公報(甲第4号証) 特許請求の範囲には、水酸基価20〜200,分子量約1000〜100000のポリエステルポリオールとポリイソシアネート混合物とを含有してなるウレタン樹脂被覆組成物が記載され、 [2頁4欄2行ないし4行]には、フタル酸を用いたポリエステルポリオールが示されている。 [3頁6欄11行ないし15行]には、このウレタン樹脂被覆組成物は低温時における指触乾燥及び硬化乾燥が良好であるばかりでなく、塗膜性能が極めてすぐれており、常温乾燥型塗料として好適であることが記載されている。 [5頁表1の実施例6]には、鉛筆硬度がHBの塗膜性能を有するものが示されている。 [刊行物5]特開昭60―92364号公報(甲第5号証) 特許請求の範囲には、芳香族を有するポリエステルポリオールを用い、水酸基価10〜150で,平均分子量3000〜15000のウレタン変性ポリエステルとポリイソシアネート化合物とからなる、低温硬化性を有すると共に、とくに塗膜硬度および加工性にすぐれた塗料用樹脂組成物が記載され、 [3頁右下欄10行ないし13行]には、ウレタン化反応の反応温度としては、好ましくは60〜100℃の範囲が適当であることが記載され、 [6頁第2表]には、実施例として、鉛筆硬度がHの塗膜性能を有するものが示されている。 (3) 対比・判断 本件発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると、 両者は、「ガラス接触部に滑性処理剤である硬化性ポリウレタン塗料〈ウレタン滑性層〉が形成され、且つ、前記押出部におけるウレタン滑性層が2コートタイプの塗料で形成されてなるエチレンプロピレン系ゴム製のガラス用ウェザストリップであって、 前記滑性処理剤である硬化性ポリウレタン塗料〈ウレタン滑性層〉が、、ポリエステルポリオールをポリオール成分とするベースポリマーを含有してなり、100℃以下で硬化可能なものであり、 さらに、ウレタン系樹脂と熱融着可能なナイロン66〈極性樹脂材料〉を樹脂製滑剤として含有することを特徴とするガラス用ウェザストリップ。」である点で一致し、 以下の各構成が刊行物1(甲第3号証)に示されていない点でで相違する。 [請求項1ないし3] A:「押出部に型成形部が型成形接続されて」いる点, B:「プライマーを含有する1コートタイプの塗料で形成され、」ている点, C:「押出部を2コートタイプの塗料で、型成形部が1コートタイプの塗料で」形成した点, D:「鉛筆硬度B以上H未満の範囲に調整されて」いる点, E:「分子量1万〜9万のポリエステルポリオールをポリオール成分と」している点, F:「硬質タイプのポリエステルポリオールをポリオール成分と」している点, [請求項4] G:「極性樹脂材料が、ポリカーボネート」である点, [請求項5] H:「樹脂製滑剤の設定粒径が、前記ウレタン滑性層の塗膜厚より、5〜25μm大きい」点 しかしながら、 Aの点に関しては、ガラス用ウェザストリップでは周知の技術であり、型成形部にも滑性処理されることは当然であり、刊行物2(甲第1号証)にも示されている。 Bの点に関しては、プライマーの用語は必ずしも明確なものではないが接着剤の一種としてみるならば、これを含有させ1コートタイプとすることは、刊行物を示すまでもなく周知の技術であり、当業者なら必要に応じて設定しうることと認められる。 Cの点に関しては、当業者が必要に応じて変更し得ることであり、何ら発明力を要するものではない。 Dの点に関しては、塗料の硬度として通常の値であり、刊行物4,5にも示されている。 Eの点の分子量に関しては、上記Dの点の硬度と共に本件出願前の技術水準からみて、自由に増減しうる事項であり、本件発明での1万〜9万程度の例としては、同じく刊行物4,5を示すことができる。 Fの点に関しては、硬質タイプのポリエステルポリオールを 用いることはウレタン系樹脂の塗料としては通常であり、同じく刊行物4,5を示すことができる。 Gの点に関しては、ポリカーボネートはナイロンと同じ極性樹脂材料で有り必要に応じて設計変更できるものである。 またポリカーボネートを使用したことによる格別な効果も見あたらない Hの点に関しては、刊行物3(甲第2号証)の第3図から明白であって、当然このような形態を呈すものと認められる。 したがって請求項1ないし5に係る発明と刊行物1との間におけるすべての相違点が周知あるいは容易になし得る程度の事項であり、また該周知事項を刊行物1に記載の発明に適用したことによって格別な効果が生じるとも認められない。 (4) むすび 以上のとおり、本件請求項1ないし5に係る発明は、上記刊行物1ないし5に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明についての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ガラス用ウェザストリップ (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 押出部に型成形部が型成形接続されてなり、ガラス接触部にウレタン滑性層が形成され、且つ、前記押出部におけるウレタン滑性層が2コートタイプの塗料で形成されてなるエチレンプロピレン系ゴム製のガラス用ウェザストリップであって、 前記型成形部におけるウレタン滑性層が、1コートタイプの塗料で形成され、且つ、鉛筆硬度B以上H未満の範囲に調整されてなり、 前記1コートタイプの塗料が、分子量1万〜9万の硬質タイプのポリエステルポリオールをポリオール成分とするベースポリマーと、プライマーとを含有してなり、100℃以下で硬化可能なものであり、 さらに、ウレタン系樹脂と熱融着可能な極性樹脂材料を樹脂製滑剤として含有することを特徴とするガラス用ウェザストリップ。 【請求項2】 前記極性樹脂材料が、ポリアミド(ナイロン)であることを特徴とする請求項1記載のガラス用ウェザストリップ。 【請求項3】 前記ナイロンが6ナイロンまたは66ナイロンであることを特徴とする請求項2記載のガラス用ウェザストリップ。 【請求項4】 前記極性樹脂材料が、ポリカーボネートであることを特徴とする請求項1記載のガラス用ウェザストリップ。 【請求項5】 前記樹脂製滑剤の設定粒径が、前記ウレタン滑性層の塗膜厚より、5〜25μm大きいことを特徴とする請求項1記載のガラス用ウェザストリップ。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、押出部に型成形部が型成形接続されてなり、ガラスが摺動等して接触するガラス接触部にウレタン系樹脂からなるウレタン滑性層が形成されてなるエチレンプロピレン系ゴム(EPR)製のガラス用ウェザストリップに関する。 【0002】 【従来の技術】 自動車ドア等に装着されるガラス用ウェザストリップの一例を、図1に示す。 【0003】 押出物を所定長に裁断したルーフサイド側ガラスラン部12、前下ピラー側ガラスラン部14、後ピラー側ガラスラン部16、及び、インナー部18、アウター部20がそれぞれ、前型成形部・後型成形部22、24及び分岐型成形部26で型成形接続されたものである(各型成形部は斜線部で示されている。)。ここで、ルーフサイド側ガラスラン部12、前下ピラー側ガラスラン部14、後ピラー側ガラスラン部16は、それぞれ、内側に対向して摺動リップ28、29を備え、溝底摺動部30を備えたチャンネル断面を備えた構成である(図2・3参照)。また、インナー部18及びアウター部20は、取り付け部32から分岐した摺動リップ34を備えた断面を有している(図3参照)。 【0004】 従来、上記押出部の摺動リップ28、29、及び溝底摺動部30の各ガラス摺動面には、通常、ウレタン樹脂系からなるウレタン滑性層36を形成していた(図2・3参照)。 【0005】 各ウレタン滑性層36の形成は、通常、プライマーコート後、ウレタン樹脂コートを行う、いわゆる、2コートタイプのウレタン塗料を使用し、更に、表面硬度を及び密着性を確保するために、押出物(基体)の加硫工程で加熱硬化(例えば、180℃×5分)させていた。これは、ウレタン塗料自体(極性材料)がEPR基体(非極性材料)と直接的に接着が困難であり、接着のためにプライマー層を必要とするためである。 【0006】 そして、型成形部のガラス接触面には、ウレタン滑性層は形成していないことが多かった。特に、型成形部の溝底部の滑性処理は、摺動リップを拡開して行う必要があり、面倒であるとともに、ガラス摺動距離が短いため、その必然性も小さかった。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 しかし、昨今のガラス摺動抵抗の低減の要請から、型成形部の溝底部や摺動リップにも滑性処理をする要請が強くなってきている。 【0008】 この場合、押出部に使用するウレタン塗料をそのまま型成形部にも使用することが考えられる。ところが、2コートタイプの塗料では、手間が増大して望ましくないともに、180℃もの高温で硬化させる必要があり、型成形部が熱変形するおそれがある。 【0009】 そこで、低温で硬化可能なものとして、シリコーン系でプライマー含有の1コートタイプの市販の塗料を使用することが考えられる。しかし、上記のものでは、耐摩耗性が十分でないことが分かった。特に、基材がソリッドゴムの場合顕著であった。 【0010】 本発明は、上記にかんがみて、型成形部に熱変形が発生するおそれがなく、且つ、型成形部のガラス接触部における耐摩耗性を向上させることができる1コート、低温硬化形のウレタン滑性層を有するガラス用ウェザストリップを提供することを目的とする。 【0011】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をする過程で、ウレタン滑性層の表面硬度を所定範囲に調製すれば、耐摩耗性が向上することを見出し、下記構成のガラス用ウェザストリップに想到した。 【0012】 押出部に型成形部が型成形接続されてなり、ガラス接触部にウレタン滑性層が形成され、且つ、前記押出部におけるウレタン滑性層が2コートタイプの塗料で形成されてなるエチレンプロピレン系ゴム製のガラス用ウェザストリップであって、 型成形部におけるウレタン滑性層が、ベースポリマーが、分子量1万〜9万の硬質タイプのポリエステルポリオールをポリオール成分とし、100℃以下で硬化可能で、プライマー含有の1コートタイプの塗料で形成され、塗膜硬さが、鉛筆硬さで、B以上H未満の範囲に調製されてなることを特徴とする。 【0013】 ここで、ウレタン滑性層は、前記ウレタン滑性層を形成するウレタン系樹脂と熱融着可能な極性樹脂材料を樹脂製滑剤として含有させることが、更には、該樹脂系滑剤の設定粒径が、ウレタン滑性層の塗膜厚より、5〜25μm大きいことが、より望ましい。 【0014】 【手段の詳細な説明】 次に、上記手段の各構成について詳細な説明をおこなう。配合割り合いは、特に断らない限り、重量単位とする。 【0015】 (1)本発明のガラス用ウェザストリップは、押出部12、14、16等に型成形部22、24が型成形接続されてなり、ガラス摺動部28、29、34等にウレタン滑性層36が形成されてなるエチレンプロピレン系ゴム製のものであることを前提的要件とする。 【0016】 ここで、エチレンプロピレン系ゴムには、エチレンプロピレン共重合体ゴム(EPM)、エチレンプロピレン非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、更には、プロピレンの一部を他のα-オレフィンで置換した共重合体ゴムを含む。また加硫系は、過酸化物加硫系、硫黄加硫系を問わない。 【0017】 また、押出部におけるウレタン滑性層としては、従来と同様に、2コートタイプのものが塗布されている。 【0018】 (2)上記において、型成形部におけるウレタン滑性層が、1コートタイプの塗料で形成され、鉛筆硬度B以上H未満の範囲に調整されてなり、1コートタイプの塗料が、分子量1万〜9万のポリエステルポリールをポリオール成分とするベースポリマーとで、プライマーとを含有してなり、100℃以下で硬化可能なことことを特徴的要件とする。 【0019】 ここでポリエステルポリオールの分子量が、1万未満では、100℃以下での十分な硬化をさせ難く、また、9万を越えると、塗膜硬度で、鉛筆硬度B以上のものを得難くなる。 【0020】 また、ポリエステルポリオールは、グリコオールとジカルボン酸を当量づつ反応させて調製する。このとき、グリコールとジカルボン酸の炭素数を適宜選択することにより、塗膜物性(強度)の調整が可能となる。このとき、通常、塗膜物性が下記範囲内にあるようにすることが望ましい。即ち、押出部と型成形部との硬度差に加えて、剛性及び強度の差が小さい程、滑らかなガラス摺動が可能となり望ましい。 【0021】 引張強度(JIS K 6301)…24.5〜44.1MPa(250〜450kgf/cm2) 100%モジュラス(M100%)(JIS K 6301)…9.8〜29.4MPa(100〜300kgf/cm2) なお、上記の値は、押出部に塗布されている2コートタイプのウレタン滑性層の塗膜物性と略等しく、例えば、引張強度:44.1MPa(450kgf/cm2)、M100%:34.3MPa(350kgf/cm2)である。 【0022】 なお、イソシアナート成分としては、芳香族系及び脂肪族系を問わないが、耐候性の見地から、ヘキサメチレンジイソシアナート(HMDI)、ヘキサヒドロメタキリシレンジイソシアナート(HXDI)、ジシクロヘキサンメタン4,4′ジイソシアナート(HMDI)等の脂肪族系のものが望ましい。 【0023】 プライマーとしては、通常、EPDMまたはEPMにカルボキシル基、水酸基、アミノ基等のイソシアネートと反応可能な官能基を導入したものを使用できる。ウレタン樹脂100部に対するプライマー成分の添加量は、5〜50部、望ましくは、10〜30部とする。 【0024】 塗膜硬度が、鉛筆硬度B未満では、所定の耐摩耗性を得難く、また、ウレタン塗料だけでは、H以上の硬度が得難い。ちなみに、押出部の2コートタイプのウレタン滑性層の硬度は、通常、略Hである。 【0025】 上記範囲の硬度を得るには、ウレタン滑性層を形成するウレタン系樹脂と熱融着可能な極性樹脂材料を樹脂製滑剤の一部として含有させることが望ましい。当該樹脂製滑剤としては、6ナイロン、66ナイロン、ポリカーボネート等を挙げることができる。この樹脂製滑剤の添加量は、ウレタン樹脂100部に対して、2〜20部、望ましくは、5〜15部とする。 【0026】 なお、その他、樹脂系滑剤としてフッ素樹脂、また、二硫化モリブデン等の固体滑剤、更には、シリコーンオイル(例えば10万cSt)等の液体滑剤を適宜配合することもできる。 【0027】 滑剤の配合量は、合計量で、ウレタン樹脂100部に対して、100部未満、望ましくは、20〜80部とする。 【0028】 上記において、極性樹脂材料からなる樹脂系滑剤の設定粒径が、ウレタン滑性層の塗膜厚より、5〜25μm大きいことが望ましい。その理由は、下記の如くであると推定される。なお、ウレタン滑性層の塗膜厚は、通常、5〜20μmである。 【0029】 ウレタン滑性層の耐摩耗性向上の理由は、下記の如くであると推定される。 【0030】 初期においては、粒径が大きな樹脂系滑剤38の存在により、表面にウレタン塗膜40が存在しており、ガラスとの接触面積が小さくなり、低い摩擦係数を達成できる(図4▲1▼)。 【0031】 ウレタン塗膜40が摩耗してが樹脂系滑剤38が露出した時点においては、耐摩耗性の良好な樹脂系滑剤(特に、ポリアミド)38上を、ガラスが滑り、塗膜40の耐摩耗性向上に寄与する(図4▲2▼)。 【0032】 更に、樹脂製滑剤38が摩耗してきても、塗膜40であるウレタン塗料と滑剤38である極性樹脂とが強固に接着しているため、樹脂製滑剤38が耐摩耗性の大部を担い、塗膜40自体の摩耗量が小さくなる。 【0033】 上記塗膜の形成は、通常、上記ウレタン成分(ポリエステルポリオール及びイソシアナート)、滑剤成分の他に、分散剤、カーボンブラック、触媒等を塗布直前に溶剤存在下で混ぜ合わせ、溶剤で適宜粘度に調整して塗料を調製する。該塗料を、刷毛等により型成形部の所要部位に塗布する。そして、その後、100℃以下の温度で、例えば、80℃×5分の条件で乾燥・硬化させる。 【0034】 【発明の作用・効果】 本発明のガラス用ウェザストリップは、上記の如く、型成形部におけるウレタン滑性層が、1コートタイプの塗料で形成され、且つ、鉛筆硬度B以上H未満の範囲に調整されてなり、1コートタイプの塗料が、分子量1万〜9万のポリエステルポリールをポリオール成分とするベースポリマーと、プライマーとを含有してなる100℃以下で硬化可能な構成により下記の作用効果を奏するものである。 【0035】 型成形部にウレタン滑性層を100℃以下の温度で硬化させることができるため、型成形部が熱変形するおそれがない。 【0036】 また、シリコーン系プライマー含有の1コートタイプの塗料を塗布したものと比べて、押出部と型成形部との硬度差が小さいことに基づき、摩耗の促進、さらには、塗膜の剥れ等の増大が促進されない。 【0037】 更に、ウレタン系樹脂と熱融着可能な極性樹脂材料を樹脂製滑剤として含有させた場合は、耐摩耗性の大部を、ウレタン塗料自体より、通常、耐摩耗性に優れ、かつ摩擦係数の小さな該樹脂製滑剤が担うため、ウレタン滑性層の耐摩耗性、即ち、耐久性が向上する。 【0038】 また、極性樹脂材料の設定粒径を大きくした場合は、上記傾向はより確実となり、更に、ウレタン滑性層の耐久性が向上するが、粒子径が40μmを超えると、外観上凹凸が目立ちやすい。 【0039】 【実施例】 (1)本発明の効果を確認するために、表示の各ウレタン滑性塗膜形成用の、塗料を使用してEPDM基材上に塗布(1コートまたは2コート)して、表示の条件で乾燥硬化させた。各塗膜について、膜厚、動摩擦係数、及び、塗膜硬さ(鉛筆硬度;但し、鉄板上塗膜について測定)を測定するとともに、耐摩耗性試験を下記方法で行った。なお、各ウレタン塗料自体の仕様強度物性も参考のために付記する。 【0040】 <耐摩耗性試験> 摩耗試験機(染色堅牢度試験用摩擦試験機;JIS L 0823)を用いて、下記条件で行い、表面処理層が摩耗して、基材が露出するまでの往復摩耗回数を求めた。 【0041】 ガラス摩耗子:幅20mm(下端R10mm)、厚さ4mm(下端R2mm) 摩耗荷重:3kg、往復距離:140mm、往復スピード:60往復/min. (2)試験結果を示す表1から、本実施例においては、硬度が2Bの比較例に比して格段に優れた耐摩耗性を示すとともに、2コートの従来例の場合と、ほとんど変わらない耐摩耗性を示すことが分かる。 【0042】 【表1】 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明を適用するガラス用ウェザストリップの一例を示す概略斜視図 【図2】 図1のA部における型成形部を示す斜視図 【図3】 図1のB部における型成形部を示す斜視図 【図4】 ウレタン塗膜の摩耗の経過状態を示す説明図 【符号の説明】 12 ルーフサイド側ガラスラン部(押出部) 14 前下ピラー側ガラスラン部(押出部) 16 後ピラー側ガラスラン部(押出部) 18 インナー部(押出部) 20 アウター部(押出部) 22 前型成形部 24 後型成形部 26 分岐型成形部 28、29、34 摺動リップ部 30 溝底摺動部 36 ウレタン滑性層 |
訂正の要旨 |
a.特許明細書中【請求項1】における「形成されてなる」を「形成され、且つ、前記押出部におけるウレタン滑性層が2コートタイプの塗料で形成されてなる」と訂正する。 これに伴い、明りょうでない記載の釈明を目的として、【0012】における「形成されてなる」を「形成され、且つ、前記押出部におけるウレタン滑性層が2コートタイプの塗料で形成されてなる」と訂正する。 b.同じく請求項1の「ポリエステルポリオール」を「硬質タイプのポリエステルポリオール」と、それぞれ訂正する。 これに伴い【0012】における「ポリエステルポリオール」を「硬質タイプのポリエステルポリオール」と訂正する。 c.同【0009】における「所定値以下の摩擦係数を維持することが困難、即ち、」を削除する。 d.同【0010】における「型成形部のガラス接触部において、所定値以下の摩擦係数を長期間維持することができる」を「型成形部に熱変形が発生するおそれがなく、且つ、型成形部のガラス接触部における耐摩耗性を向上させることができる」と訂正する。 e.同【0035】における「表面硬度が、…摩耗が促進されない。」を「型成形部にウレタン滑性層を100℃以下の温度で硬化させることができるため、型成形部が熱変形するおそれがない。」と訂正する。 |
異議決定日 | 2003-02-28 |
出願番号 | 特願平8-328840 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZA
(B60J)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 島田 信一 |
特許庁審判長 |
蓑輪 安夫 |
特許庁審判官 |
鈴木 久雄 鈴木 法明 |
登録日 | 2001-11-30 |
登録番号 | 特許第3254555号(P3254555) |
権利者 | トヨタ車体株式会社 豊田合成株式会社 |
発明の名称 | ガラス用ウェザストリップ |
代理人 | 飯田 昭夫 |
代理人 | 飯田 昭夫 |
代理人 | 飯田 堅太郎 |
代理人 | 飯田 堅太郎 |
代理人 | 江間 路子 |
代理人 | 飯田 堅太郎 |
代理人 | 江間 路子 |
代理人 | 江間 路子 |
代理人 | 飯田 昭夫 |