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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  F01N
管理番号 1079625
異議申立番号 異議2002-71737  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-03-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-07-15 
確定日 2003-03-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3246215号「排気ガス浄化装置の製造方法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3246215号の請求項1、4に係る特許を取り消す。 同請求項2ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3246215号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成6年8月25日に出願され、平成13年11月2日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、田中秀幸より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年12月20日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載について、「まず、その表裏両面または外周を合成樹脂製フィルムで被覆したシール材をセラミックモノリスの外周に巻き付け、」とあるのを、「まず、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付け、」と訂正する。
イ.訂正事項b
明細書の段落【0008】の記載について、「まず、その表裏両面または外周を合成樹脂製フィルムで被覆したシール材をセラミックモノリスの外周に巻き付け、」とあるのを、「まず、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付け、」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、発明の構成に欠くことができない事項である「まず、その表裏両面または外周を合成樹脂製フィルムで被覆したシール材をセラミックモノリスの外周に巻き付け、」をこれに含まれる事項である「まず、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付け、」に変更し、しかも、「まず、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付け、」については、願書に添付された明細書の段落【0016】に記載されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、上記訂正事項bは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人田中秀幸は、請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証(特公昭59-47712号公報)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、請求項4に係る発明は、甲第1号証,甲第2号証(特公昭61-35143号公報),甲第3号証(特公昭62-38397号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であって、それら発明に係る特許は取り消されるべき旨主張している。

(2)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1ないし4」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】排気ガス浄化用触媒を収容したセラミックモノリスを排気ガスの煙道内に固定されてなる排気ガス浄化装置を製造するにあたり、まず、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付け、ついで、このセラミックモノリスを排気ガス煙道内に挿入、固定することを特徴とする排気ガス浄化装置の製造方法。
【請求項2】シール材が無機繊維をマット状に成形したものである請求項1の排気ガス浄化装置の製造方法。
【請求項3】無機繊維がアルミナ-シリケート繊維である請求項2の排気ガス浄化装置の製造方法。
【請求項4】シール材の密度が0.10〜1.0g/cm3の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の排気ガス浄化装置の製造方法。」

(3)引用刊行物
当審において通知した取消しの理由で引用した刊行物1ないし3は、次のとおりである。
刊行物1:特公昭59-47712号公報(甲第1号証)
刊行物2:特公昭61-35143号公報(甲第2号証)
刊行物3:特公昭62-38397号公報(甲第3号証)

(4)引用刊行物に記載された発明
刊行物1には、次の事項が記載されている。
ア.「膨脹性雲母又はヒル石30ないし85重量%、アスベスト、ガラス繊維、耐火性繊維又は金属繊維のような無機繊維材料5ないし60重量%、及び合成雲母又はアスベストのような無機結合剤10ないし70重量%を含み、可撓性と弾性とを有し、自動車等の排気ガス処理用触媒支持体を金属製容器内の定位置に安定して保持する熱膨張性シート材料。」(第1欄第30〜37行)
イ.「本発明は膨脹後に耐熱性と弾力性を有する膨脹性シート材料に関連する。さらに本発明は容器内は触媒支持体を定位置に配置するパツキングとしての膨脹性シート材料の使用法に関連する。空気汚染を制御するために、自動車排気ガスに含まれる(1)一酸化炭素と炭化水素の酸化及び(2)窒素酸化物の還元に触媒装置が必要であることは既に認められている。触媒作用中に遭遇する比較的高温度のため、セラミックが通常触媒支持体として使用されている。特に有用な支持体は、例えば米国特許3,444,925号に記載されているような蜂巣状セラミツク構造体である。」(第2欄第2〜13行)
ウ.「この膨脹性シート材料は、現場の膨脹で装着される材料として自動車排気ガスの触媒転化器即ちコンバータに利用される。」(第3欄第23〜25行)
エ.「補強剤(60%以下、通常5〜60%)、例えばクリソタイルアスベスト又はアンフイボールアスベスト、Eガラスの商標で市販されている、細かく切断した軟質ガラス繊維、ジルコニアシリカ繊維、結晶性アルミナウイスカー及びアルミノ珪酸塩繊維(フアイバフラツクス(Fiberfrax)及びカオウール(Kaowool)の商標で市販されるもの)を含む耐火性フイラメント、又は金属繊維を配合し、」(第3欄第40行〜第4欄第4行)
オ.「次の例は上記の膨脹性シート製作の実施例を示し、この実施例では従来の製紙工程のように製紙用スラリをスクリーン又は手すき機に使用する代りに、延展可能なコンシステンシーを有する非常に濃厚なスラリが作られ、これをシート材料、例えばクラフト紙、ポリエチレンテトラフタレート繊維、ガラスマツト又はガラス織物又はセラミツク基質の外表面に、ナイフ被覆法、ロール被覆法、浸漬法又は他の方法で、被覆し、又は押し出して作られる。」(第10欄第22〜31行)
カ.「第2表に記載した例では、合計100gの乾燥材料をへらで乾燥混合し、次にこの材料に表示量の水を添加して延展可能なコンシステンシーにする。この非流動性のペーストを表示の基質の7.5×48cmのストリツプ上に厚さ約1ないし3mmになるまで延展し、次にこのシートを70℃で乾燥する。このシートは、例1〜5で製作されるシートほど可撓性はないが、自立性がありかなりの強度を有する。これを湿めらせると、セラミツク構造体の周囲に巻いて容器内に装着することができる。必要に応じ、このシート材料を被覆した基質に低付着力のノリ剤を塗布してもよく、この基質を膨脹性シート材料から分離又は剥ぎとることができる。」(第10欄第36行〜第12欄第2行)
キ.「合計100gの乾燥材料として、等級No.4のヒル石60g,無機繊維材料である軟質ガラス繊維(6mm)10g,無機結合材であるベンナイト粘土30gを、基質として、プラスチツクフイルムを、それぞれ用意する。」(第6頁第2表の例9)
これらの記載事項によると、刊行物1には、
「排気ガス処理用触媒支持体であるセラミツク構造体を金属製容器内に固定されてなる排気ガス浄化装置を製造するにあたり、まず、膨脹性雲母又はヒル石,アルミノ珪酸塩繊維等の無機繊維材料,及び無機結合材から成る乾燥材料を乾燥混合したものとプラスチツクフイルムとを用意し、次に乾燥材料を乾燥混合したものに水を添加してスラリとし、このスラリをプラスチツクフイルムの外表面に被覆し,乾燥して熱膨脹性シートを製作し、次にこの熱膨張性シートをセラミツク構造体の外周に巻き付け、ついで、このセラミツク構造体を金属製容器内に挿入、固定する排気ガス浄化装置の製造方法。」
の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

刊行物2には、次の事項が記載されている。
サ.「さらに本発明は、自動車の接触式コンバーターモノリスの装着および位置決め用パツキンとして用いるに有用なたわみ膨脹性シート材料に関する。」(第2欄第17〜20行)
シ.「このシートは13mmの厚さおよび0.53g/cm3の密度を有した。」(第7欄第31,32行)
ス.「この厚さ2.8mmのシートの密度は平均0.395g/cm3であった。」(第8欄第18,19行)

刊行物3には、次の事項が記載されている。
タ.「特にセラミツク構造体である触媒担体を容器内の所定位置に支持するパツキングとして使用できる可撓-膨脹性シート材料に関連する。」(第1欄第15行〜第2欄第1行)
チ.「種々の密度に圧縮した上記シート材料は、3.05mmの厚さを有しかつ0.32g/ml〜1.12g/mlの範囲にある「最終使用密度」に成形された。」(第9欄第28〜31行)

(5)対比・判断
≪本件発明1について≫
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比する。
刊行物1記載の発明の「排気ガス処理用触媒支持体であるセラミツク構造体」,「金属製容器」,「プラスチツクフィルム」は、それぞれ、本件発明1の「排気ガス浄化用触媒を収容したセラミックモノリス」,「排気ガスの煙道」,「合成樹脂製フィルム」に相当する。
また、本件発明1において用いられる技術用語「シール材」は、一般的に、成形品を成形する前の成形材料としての「シール材」を含むものと解される。そうすると、刊行物1記載の発明の「膨脹性雲母又はヒル石,アルミノ珪酸塩繊維等の無機繊維材料,及び無機結合材から成る乾燥材料を乾燥混合したもの」は、本件発明1の「シール材」に相当するものといえる。
さらに、刊行物1記載の発明の「乾燥材料を乾燥混合したものに水を添加してスラリとし、このスラリをプラスチツクフイルムの外表面に被覆し」は、その技術内容からみて、「乾燥材料を乾燥混合したものに水を添加してスラリとし、このスラリの外表面をプラスチツクフイルムで被覆し」と同義と認められる。そうすると、刊行物1記載の発明の「乾燥材料を乾燥混合したものに水を添加してスラリとし、このスラリをプラスチツクフイルムの外表面に被覆し」は、本件発明1の「シール材を合成樹脂製フィルムで被覆し」に相当するものといえる。
してみると、両者は、
「排気ガス浄化用触媒を収容したセラミックモノリスを排気ガスの煙道内に固定されてなる排気ガス浄化装置を製造するにあたり、まず、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付け、ついで、このセラミックモノリスを排気ガス煙道内に挿入、固定する排気ガス浄化装置の製造方法。」
の点で一致し、次の点で相違する
相違点;本件発明1は、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付けるのに対して、刊行物1記載の発明は、シール材を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付ける点では一致するものの、合成樹脂製フィルムでシール材の内周(裏面)を被覆するのか、外周(表面)を被覆するのか明らかでない点。

上記相違点について検討する。
合成樹脂製フィルムで被覆したシール材をセラミックモノリスの外周に巻き付けるに当たり、その外周(表面)を合成樹脂製フィルムで被覆したシール材をセラミックモノリスの外周に巻き付ける方を選択することは、シール性,巻き付け易さ等を勘案して、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものと認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物1記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

≪本件発明2について≫
本件発明2と刊行物1記載の発明とを対比する。
刊行物1記載の発明の「排気ガス処理用触媒支持体であるセラミツク構造体」,「金属製容器」,「アルミノ珪酸塩繊維等の無機繊維材料」,「プラスチツクフィルム」は、それぞれ、本件発明2の「排気ガス浄化用触媒を収容したセラミックモノリス」,「排気ガスの煙道」,「無機繊維」,「合成樹脂製フィルム」に相当する。
また、刊行物1記載の発明の「熱膨張性シート」は、膨脹性雲母又はヒル石,アルミノ珪酸塩繊維等の無機繊維材料,及び無機結合材から成る乾燥材料を乾燥混合したものに水を添加してスラリとし、このスラリをプラスチツクフイルムの外表面に被覆し,乾燥して製作されるものであるから、「膨脹性雲母又はヒル石,及び無機繊維をマット状に成形したもの(成形品)」といえる。
さらに、本件発明2の「シール材」は無機繊維をマット状に成形したもの(成形品)である。そうすると、刊行物1記載の発明の「膨脹性雲母又はヒル石,アルミノ珪酸塩繊維等の無機繊維材料,及び無機結合材から成る乾燥材料を乾燥混合したもの」は、成形品を成形する前の成形材料であるから、本件発明2の成形したもの(成形品)である「シール材」に相当するものとはいえず、刊行物1記載の発明において、本件発明2の「シール材」に相当するものは、成形したもの(成形品)である「熱膨張性シート」である。
してみると、両者は、
「排気ガス浄化用触媒を収容したセラミックモノリスを排気ガスの煙道内に固定されてなる排気ガス浄化装置を製造するにあたり、セラミックモノリスを排気ガス煙道内に挿入、固定する排気ガス浄化装置の製造方法。」
の点で一致し、次の点1,2で相違する。
相違点1;本件発明2の「シール材」は、無機繊維をマット状に成形したものであるのに対して、刊行物1記載の発明の「シール材」は、膨脹性雲母又はヒル石,及び無機繊維をマット状に成形したものである点。
相違点2;本件発明2は、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付けるのに対して、刊行物1記載の発明は、膨脹性雲母又はヒル石,無機繊維,及び無機結合材から成る乾燥材料を乾燥混合したものと合成樹脂製フィルムとを用意し、次に乾燥材料を乾燥混合したものに水を添加してスラリとし、このスラリを合成樹脂製フィルムの外表面に被覆し,乾燥してシール材を製作し、次にこのシール材をセラミックモノリスの外周に巻き付ける点。
してみると、刊行物1記載の発明は、本件発明2の構成に欠くことができない事項である「シール材が無機繊維をマット状に成形したものである」事項、及び「シール材と合成樹脂製製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付ける」事項を備えていない。
そして、本件発明2は、上記の事項により、「金属ケーシング内に、触媒を収容したセラミックモノリスを、簡単に所定の場所に確実に挿入し、かつ、安定的に固定することができる。」という顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明2は、刊行物1記載の発明といえないばかりでなく、刊行物1記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

≪本件発明3について≫
本件発明3は、本件発明2を更に限定したものであるから、上記本件発明2についての判断と同様の理由により、刊行物1記載の発明といえないばかりでなく、刊行物1記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

≪本件発明4について≫
本件発明4と刊行物1記載の発明とを対比すると、本件発明1との対比に加え、本件発明4は、「シール材の密度」が0.10〜1.0g/cm3の範囲であるのに対して、刊行物1記載の発明は、「シール材の密度」が不明である点、で両者はさらに相違する。
そこで検討するに、刊行物2に、「たわみ膨脹性シート」の密度を0.53g/cm3,0.395g/cm3とすることが、刊行物3に、「可撓-膨脹性シート」の密度を0.32〜1.12g/cm3の範囲とすることが記載されているように、排気ガス浄化装置の製造に用いられる「熱膨張性シート」の密度を上記数値近辺とすることは、周知の技術事項と認められる。
してみると、刊行物1記載の発明において、「熱膨張性シート」の成形材料である「膨脹性雲母又はヒル石,アルミノ珪酸塩繊維等の無機繊維材料,及び無機結合材から成る乾燥材料を乾燥混合したもの」の密度、すなわち「シール材」の密度を0.10〜1.0g/cm3の範囲とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものと認められる。
したがって、本件発明4は、刊行物1記載の発明,及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1,4は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1,4についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
また、本件発明2,3についての特許を取り消すべき理由を発見しないから、本件発明2,3についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
排気ガス浄化装置の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 排気ガス浄化用触媒を収容したセラミックモノリスを排気ガスの煙道内に固定されてなる排気ガス浄化装置を製造するにあたり、まず、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付け、ついで、このセラミックモノリスを排気ガス煙道内に挿入、固定することを特徴とする排気ガス浄化装置の製造方法。
【請求項2】 シール材が無機繊維をマット状に成形したものである請求項1の排気ガス浄化装置の製造方法。
【請求項3】 無機繊維がアルミナ-シリケート繊維である請求項2の排気ガス浄化装置の製造方法。
【請求項4】 シール材の密度が0.10〜1.0g/cm3の範囲である請求項1〜3のいずれかに記載の排気ガス浄化装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、排気ガス浄化装置の製造方法に関する。更に詳しくは、セラミックモノリスをシール材によって排気ガス煙道内に挿入、安定的に固定された排気ガス浄化装置を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、大気汚染を抑制するために、通常、内燃機関の排気ガス中に含まれる有害成分の一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物を除去する方法の一つとして、重金属や貴金属などの触媒を利用する排気ガス浄化装置が使用されている。この種の浄化装置は、次の二種に分類される。
(1)粒状の担体(一般にセラミックが使用される)に触媒金属を担持したペレット状触媒を金属製ケースに納めたペレット触媒型浄化装置
(2)円筒内部に排気ガス通路を多数有するセラミック担体(以下これを「セラミックモノリス」と言う)に触媒金属を担持させたいわゆる一体型触媒を保持層を介して保持した浄化装置(米国特許第3441381号明細書および米国特許第3441382号明細書参照)
【0003】
上記の従来法のうち、(2)の一体型触媒を使用する浄化装置は、触媒の保持方法が適切であれば、(1)のペレット触媒型浄化装置のようにペレット表面の触媒金属が摩耗して逸散することも少なく、また使用する容器も比較的小さくてもよいことから、(1)よりも優れている。
しかし、(2)の浄化装置も触媒の保持方法が適切でない場合は、内燃機関稼働時の振動によって前記一体型触媒は容易に破壊されてしまう。特に、排気ガスが高温の場合には、容器に使用した金属は普通は一体型触媒よりも熱膨脹量が大きいため、前記容器と一体型触媒との間に介在する保持層の保持力が弱くなり、一体型触媒は振動により破壊し易くなる。このため、保持層の保持力は、低温から高温に移行しても、適切に保持されていなければならない。
【0004】
触媒の保持体に要求される性能は、次のような通りである。(1)保持層の保持力に耐久性があること、即ち高温における振動状態にあっても保持層の保持力が持続されることが必要である。(2)保持層は排気ガスによって保持力が低下しないように、排気ガスが通過しない程度の密度が必要である。これら(1)〜(2)の性能を備えた保持体として、円筒内部に排気ガス通路を多数有するセラミックモノリスが提案され、実用化されている。浄化装置が自動車に塔載されてものである場合には、衝撃荷重により、モノリスに亀裂が生じたり、砕けたりするという問題がある。このセラミックモノリスの脆さの問題を解決するために、従来から数多くの研究が行われており、種々の構造のものが提案されている。
【0005】
例えば、特公昭58-17335号公報、特開平1-240715号公報などには、一体型触媒のセラミックモノリスを金属ケーシングに固定する際に、セラミックモノリスの外側をセラミック繊維の成形体、またはセラミック製の膨張性シート材料(これらを「シール材」という)によって被覆する技術が提案されている。このようにセラミックモノリスの外側を被覆することにより、振動・衝撃による亀裂・砕けの発生などを防止することができる。
【0006】
外側をシール材で被覆してケーシングに挿入・固定するには、次の方法が知られている。(a)スタッフィング方式…シール材で被覆したセラミックモノリスを、金属ケーシングに押込む方法。(b)クラムシエル方式…半割した金属ケーシングに、シール材で被覆したセラミックモノリスを挾み込み、半割の金属ケーシングを溶接などで固定する方法。これら(a)および(b)のいずれの方法を採用するにしても、セラミックモノリスが金属ケーシング内で移動しないようにするため、シール材を介在させるのが好ましい。この際介在させるシール材の厚みは、金属ケーシングとセラミックモノリス外側とで形成する間隔と同等か、この間隔より若干大きくする必要がある。
このようなシール材で被覆したセラミックモノリスを金属ケーシング内に挿入・固定する場合には、(a)の方法においては、シール材の表面が傷んでいたり、金属ケーシングとシール材との滑りが悪いと、シール材がずれたりして、適切な挿入・固定ができないという問題がある。(b)の方法においては、シール材がはみだし易く、溶接ができなくなるという問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとした課題】
本発明は、上記の現状に鑑み、排気ガス煙道を構成する各種の金属ケーシング内に、触媒を収容したセラミックモノリスを、簡単に所定の場所に確実に挿入し、かつ、安定的に固定された排気ガス浄化装置を製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項第1項に記載の発明においては、排気ガス浄化用触媒を収容したセラミックモノリスを排気ガスの通路内に固定されてなる排気ガス浄化装置を製造するにあたり、まず、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付け、ついで、このセラミックモノリスを排気ガス煙道内に挿入、固定するという手段を講じている。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において排気ガス浄化装置とは、内燃機関、特に、自動車の排気ガス中の有害成分、例えば一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物を除去する装置を意味し、この排気ガス浄化装置には、排気ガスの煙道内に、排気ガス浄化用触媒を収容したセラミックモノリスが固定される。
【0010】
セラミックモノリスは、排気ガスの煙道内に固定され、排気ガス中の有害成分を無害成分に変換する化学反応を促進する触媒を保持する機能を果たす。このセラミックモノリスは、セラミック材料によって構成される。セラミック材料の種類としては、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウム、ジルコニア、炭化珪素、コジェライトなどのような、脆い耐火セラミック材料が挙げられる。セラミック材料は、上記に例示したものに限定されるものではない。これらのセラミック材料からなるモノリスは、長さ方向の一端入口から他端出口まで、長さ方向に延びる複数の気体透過性通路を有する。モノリスは、代表的には長さ方向に対して直角方向の断面形状が、楕円形または円形であるが、これら形状に限られるものではない。
【0011】
セラミックモノリスに収容される排気ガス浄化用触媒は、排気ガス中の有害成分を無害成分に変換する化学反応を促進する機能を果たす。触媒は、排気ガス中の有害成分を無害成分に変換する化学反応を促進する機能を有するものであればいかなるものであってもよく、その種類に制限されるものではない。また、これら触媒をセラミックモノリスに収容する方法も、従来から知られている方法によることができる。
【0012】
本発明におけるシール材は、セラミックモノリスの外周と金属ケーシング内側とで形成される隙間をシールする機能を果たす。このシール材は、煙道内を通過する排気ガスの温度によって分解・変質しない性質のものがよい。具体的には、無機繊維、金属繊維などがある。無機繊維の種類としては、アルミナーシリケート繊維、石綿繊維、ガラス繊維、ジルコニアーシリカ繊維、結晶性アルミナホイスカーなどが挙げられる。これら例示は、本発明を制限するものではない。
これらの無機繊維は、マット状に成形しておくのが好ましい。無機繊維をマット状に成形する際に、少量の合成樹脂を使用して繊維同士を接着するのが好ましい。これらの無機繊維は、密度が小さいものが好ましく、0.10〜1.0g/cm3の範囲で選ぶのが好ましい。
【0013】
本発明における合成樹脂製フィルムは、上記シール材の全面または外周面を被覆する機能を果たす。合成樹脂は、フィルムが柔軟性を発揮するものであればその種類には制限がなく、ポリエチレン、エチレンー酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。フィルムの製法、厚さなどには特に制限がない。
【0014】
本発明方法によるときは、まず、その表裏両面または外周を合成樹脂製フィルムで被覆したシール材をセラミックモノリスの外周に巻き付け、ついで、このセラミックモノリスを排ガス煙道内に固定する方法を採用する。
シール材の表裏両面または外周を合成樹脂製フィルムで被覆しておくと、金属ケーシング内側に前記(a)スタッフィング方式で固定する場合には、金属ケーシング内側で滑り易く、挿入と所定の位置への移動が容易となる。また、金属ケーシング内側に前記(b)クラムシエル方式で固定する場合には、シール材がはみだすことがなく、溶接ができなくなるという問題が解消される。
【0015】
以下、本発明方法を図面に基づいて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。
図は、本発明方法の実施の態様を示すものであり、図1はセラミックモノリスをシール材で被覆する前の状態の斜視図、図2はセラミックモノリスをシール材で被覆した後の状態の斜視図、図3はセラミックモノリスを金属ケーシングに固定した状態の斜視図をそれぞれ示す。
図において、1はセラミックモノリス、2はシール材、3は合成樹脂製フィルム、4は金属ケーシングである。
【0016】
セラミックモノリス1をシール材2で被覆する際、シール材2の外側に合成樹脂製フィルム3を配置し(図1参照)、モノリス1の表面にシール材2を加圧しながら巻き付ける。この際、巻き付ける前に合成樹脂製フィルム3の一端をモノリス1の表面に接着し、シール材2をモノリス1の表面に巻き付けた後他端を接着する(図2参照)。このようにシール材2で被覆したモノリス1を、金属ケーシング4に挿入固定すれば、目的の排気ガス浄化装置が得られる(図3参照)。
合成樹脂製フィルム3は、排気ガス浄化装置を最初に稼働させた際に高温で燃焼、消滅するが、合成樹脂製フィルム3を使用する目的は、モノリス1を金属ケーシング4に確実に挿入固定することにあるので、最初に稼働させた際に燃焼、消滅してもよい。
【0017】
本発明方法は、次のように特別に有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
1.本発明方法による時は、金属ケーシング内に、触媒を収容したセラミックモノリスを、簡単に所定の場所に確実に挿入し、かつ、安定的に固定することができる。
2.本発明方法によって得られた排気ガス浄化装置は、セラミックモノリスの外側がシール材によって被覆されているので、衝撃荷重による亀裂・砕けの発生などを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、セラミックモノリスをシール材で被覆する前の状態の斜視図を示す。
【図2】
図2は、セラミックモノリスをシール材で被覆した後の状態の斜視図を示す。
【図3】
図3は、セラミックモノリスを金属ケーシングに固定した状態の斜視図を示す。
【符号の説明】
1…セラミックモノリス
2…シール材
3…合成樹脂製フィルム
4…金属ケーシング
 
訂正の要旨 (イ)特許第3246215号の明細書の特許請求の範囲第1項に「まず、その表裏両面または外周を合成樹脂製フィルムで被覆したシール材をセラミックモノリスの外周に巻き付け、」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「まず、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付け、」と訂正する。
(ロ)特許第3246215号の明細書の段落番号0008に「まず、その表裏両面または外周を合成樹脂製フィルムで被覆したシール材をセラミックモノリスの外周に巻き付け、」とあるのを、特許請求の範囲の減縮に伴う明瞭でない記載の釈明を目的として、「まず、シール材と合成樹脂製フィルムとを用意し、シール材の表裏両面又は外周を合成樹脂製フィルムで被覆し、これをセラミックモノリスの外周に巻き付け、」と訂正する。
異議決定日 2003-02-03 
出願番号 特願平6-200939
審決分類 P 1 651・ 121- ZD (F01N)
P 1 651・ 113- ZD (F01N)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 亀田 貴志  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 亀井 孝志
清田 栄章
登録日 2001-11-02 
登録番号 特許第3246215号(P3246215)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 排気ガス浄化装置の製造方法  
代理人 長谷川 曉司  
代理人 長谷川 曉司  

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