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審決分類 |
審判 全部申し立て 特29条の2 G03F 審判 全部申し立て 2項進歩性 G03F 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 G03F |
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管理番号 | 1079632 |
異議申立番号 | 異議2002-71967 |
総通号数 | 44 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-02-14 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-08-09 |
確定日 | 2003-04-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3256345号「フォトマスクブランクスおよびフォトマスク」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3256345号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3256345号に係る発明は、平成5年7月26日に特許出願され、平成13年11月30日にその特許の設定登録がされ、その後、異議申立人北垣哲郎より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年12月18日に訂正請求がなされたものである。 1.1 異議申立ての概要 異議申立人北垣哲郎は、甲第1号証(特公昭62-27387号公報)、甲第2号証(特公昭62-27386号公報)、甲第3号証(特開平4-162039号公報)、甲第4号証(特開昭57-104141号公報)、甲第5号証(特願平5-83434号(特開平6-308713号公報参照))、甲第6号証(特願平5-173042号(特開平7-28224号公報参照))及び甲第7号証(特願平6-31428号(特開平6-342205号公報参照))を提出し、本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証記載の発明と同一であるから、本件請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してなされたものであり、本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件請求項1〜3に係る発明は、その出願の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された出願(甲第5号証〜甲第7号証)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であるから、本件請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、本件特許第3256345号の請求項1〜3に係る特許は、その明細書の発明の詳細な説明の欄及び図面の記載が不備のため、特許法第36条に規定する要件を満たさない出願に対してされたものであるので、本件請求項1〜3に係る特許を取り消すべき旨主張している。 1.2 異議申立人北垣哲郎が提出した甲第1号証の内容 甲第1号証の特許請求の範囲には、「1 透明基板上に第1層として窒素を含むクロム層、第2層として炭素を含むクロム層を積層したことを特徴とするフォトマスクブランク。」と記載されている。 同号証第4欄第14行〜第23行には、「そこで、本発明者は、特に透明基板上に積層した窒素を含むクロム層が従来ほぼ同一の炭化度または窒化度で構成されていたのに対して、この炭素または窒素を含むクロム層のうち、透明ガラス基板に近い第1層として窒素を含むクロム層を、第2層として炭素を含むクロム層をそれぞれ積層することにより、エッチング速度を近い層にて比較的早くして、遠い層にて遅くすることにより、過剰なオーバーエッチングをすることなく、クロム残りを除去することを見出した。」と記載されている。 同号証の第3欄第14行〜第26行には、「この低反射ブランクは、前述したようにレジスト塗布、露光現象及びレジスト剥離の各工程の後、硝酸第2セリウムアンモニウム165gと過塩素酸(70%)42mlに純水を加えて1000mlにしたエッチング液(19〜20℃)でウエットエッチングすることにより所定のパターンを形成した場合、エッチング時間が50(sec)でアンダーカット量が約0.36(μm)であった。 ここで、アンダーカット量とは、第2図dに示すようにオーバーエッチングした場合においてレジスト41下の幅寸法χ1と、窒素を含むクロム層21及び窒素を含むクロム酸化層31の最大幅寸法χ2との差である。」と記載されている。 甲第1号証の第4欄第26行〜第39行には、「第5図a及びbは、従来品の第1図a及びbにそれぞれ対応して示した、この発明の実施例による断面図である。 第5図aは、比較的表面反射率の高いフォトマスクブランクの例で、表面を精密研磨したソーダライムガラスからなる透明基板10上に、窒化度が比較的大きい窒素を含むクロム層22(膜厚約150Å)を第1層とし、そのクロム層22上に窒化度が比較的小さい炭素を含むクロム層23(膜厚約500Å)をそれぞれ積層してなるフォトマスクブランクであり、第5図bは更に前例のフォトマスクブランクのクロム層23上に窒素を含む酸化クロム層32(膜厚250Å)を積層してなる低反射フォトマスクブランクである。」と記載されている。 1.3 異議申立人北垣哲郎が提出した甲第2号証の内容 甲第2号証の特許請求の範囲には、「1 透明基板上に窒素を含むクロム層を積層させ、または該クロム層に更に酸化クロム層を積層させてなるフォトマスクブランクにおいて、該クロム層のうち、窒化度が該透明基板に近い層に大きく、かつ遠い層に小さいことを特徴とするフォトマスクブランク。」と記載されいる。 同号証第4欄第14行〜第21行には、「そこで、本発明者は、特に透明基板上に積層した窒素を含むクロム層が従来ほぼ同一の窒化度で構成されていたのに対して、この窒素を含むクロム層のうち、透明ガラス基板に近い層と遠い層とに分け、エッチング速度を近い層にて比較的早くして、遠い層にて遅くすることにより、過剰なオーバーエッチングをすることなく、クロム残りを除去することを見出した。」と記載されている。 同号証の第3欄第17行〜第29行には、「この低反射ブランクは、前述したようにレジスト塗布、露光現象及びレジスト剥離の各工程の後、硝酸第2セリウムアンモニウム165gと過塩素酸(70%)42mlに純水を加えて1000mlにしたエッチング液(19〜20℃)でウエットエッチングすることにより所定のパターンを形成した場合、エッチング時間が30(sec)でアンダーカット量が約0.28(μm)であった。 ここで、アンダーカット量とは、第2図dに示すようにオーバーエッチングした場合においてレジスト41下の幅寸法χ1と、窒素を含むクロム層21及び窒素を含むクロム酸化層31の最大寸法χ2との差である。」と記載されている。 甲第2号証の第4欄第37行〜第5欄第1行には、「そこで、この低反射フオトマスクブランクについてクロム層22とクロム層23の各窒化度を相対的に変えたものを表に示すように用意し、膜厚についてはクロム層22を150Å、クロム層23を500Åにし、このクロム層23上に前述した酸化クロム層32を積層し、光学濃度については、所望値3.0が得られるようにスパッタリング速度を調整し、その他は従来と同様なスパッタリング法により各層を積層する。」と記載されている。 1.4 異議申立人北垣哲郎が提出した甲第3号証の内容 甲第3号証の特許請求の範囲の請求項1には、「(1)所定波長の光ビームもしくは電磁波に対してほぼ透明な基板に形成された幾何学的なパターンを感応基板へ転写するために使われるフォトマスクにおいて、前記光ビームもしくは電磁波に対する透明部から成る第1の部分と、前記光ビームもしくは電磁波に対して所定の透過率を有する半透明部から成る第2の部分とによって前記パターンを形成するとともに、隣接する前記第1の部分と第2の部分との前記光ビームもしくは電磁波に対する光路長を異ならせて2nπもしくは(2n+1)π(但しnは整数)の位相差を与えたことを特徴とするフォトマスク。」と記載されている。 同号証の特許請求の範囲の請求項3、4には、「(3)前記第2の部分は、少なくとも2種類の薄膜を積層して形成され、該薄膜の膜厚の各々を調整することにより、前記光ビームもしくは電磁波に対する透過率と、前記第1の部分と第2の部分との位相差とを制御することを特徴とする請求項1または2に記載のフォトマスク。 (4)前記第2の部分は、前記薄膜として金属薄膜と誘電体薄膜とを積層して形成されたことを特徴とする請求項3に記載のフォトマスク。」と記載されている。 同号証の第3頁左上欄第16行〜同右上欄第6行には、「また、半透明部を少なくとも2種類の薄膜、例えば金属薄膜と誘電体膜とを積層して多層膜とすれば、金属薄膜及び誘電体膜の各々の条件(膜厚)を最適化することで、任意のエネルギー透過率を得ることができる。また、同様にして半透明部からの透過光と、透明部からの透過光に対して任意の位相差(2nπもしくは(2n+1)π)を与えることが可能である。ここでは半透明部を多層膜としているため、各膜厚を最適化するだけで簡単に透過率と位相差とを制御することが可能となっている。」と記載されている。 1.5 異議申立人北垣哲郎が提出した甲第4号証の内容 甲第4号証の請求項1には、「1透明基板上にクロムからなる薄膜層と、その上に積層された酸化クロム、窒化クロムの2種を主成分としてなる薄膜層とからなる多層遮光膜を設けてなることを特徴とするフォトマスク基板。」と記載されており、同号証第1頁右欄第15行〜第2頁左上欄第17行には、「ところで、この多層構造マスクは、…単層型のクロムマスクに比較して、画像品質や耐久性にすぐれたものを作成し難いという欠点を有している。 この問題は、具体的には、その多層構造の遮光層を周知のフォトリソグラフィー・プロセスによりエッチングしてパターン化するに際して、クロム層とその上面もしくは下面に積層された酸化クロム層とのエッチング速度が異なることに起因するものである。通常の場合、酸化クロム層のエッチング速度がクロム層に比して数倍遅い。このため、2層構造の片面低反射クロムマスク及び3層構造両面低反射クロムマスクの場合、第1図にそれぞれ(a),(b)で示すように、最上部の酸化クロム層1より、その下層のクロム層2の方がエッチング速度が速いため、クロム層2のアンダーカット量が大きくなり、両層間の断面形状に段差を生じ、画像周囲に酸化クロム層からなるひさしを生じることになる。」と記載されている。 同号証第2頁右上欄18行〜左下欄第7行には、「これらの問題を解決するために通常行なわれている方法はクロム膜、酸化クロム膜の各膜の成膜方法を根本的に異なる方法とすることであり、例えば、下層のクロム膜をスパッタリング法で形成し、上層の酸化クロム層を真空蒸着で形成するという方法である。これはスパッタリング法で形成された酸化クロム膜に比し、真空蒸着で得られる酸化クロム層の方がエッチング速度が早く、スパッタリング法によるクロム膜のエッチング速度に近いためである。」と記載されている。 1.6 異議申立人北垣哲郎が提出した甲第5号証の内容 甲第5号証の【0001】段落には、「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、LSI、超LSI等の高密度集積回路等の製造に用いられる位相シフトフォトマスク及びそれを製造するための位相シフトフォトマスク用ブランクスに関する。」と記載されている。 甲第5号証の【0016】〜【0018】段落には、「【0016】また、さらに、半透明層を2層以上の多層膜にすることにより、各層によりエッチング加工時にエッチング特性を組織構造の違いや成分比の違いにより制御が可能となり、同一連続エッチング条件で単層に比べて垂直なエッチング断層が得られるように調整が可能となる。 【0017】半透明層のエッチング法としては、一般的な硝酸第二セリウムアンモンと過塩素酸の混合水溶液を用いたウェットエッチング法や、Cl2 、CCl4 、CHCl3 、CH2 Cl2 等に酸素を加えた混合ガスを用いたドライエッチング法がよい。 【0018】半透明層を構成する多層膜の膜厚は、露光光の波長をλ、各層の膜厚をti 、各層の露光波長での屈折率をni とすると、aλ=Σi ti (ni-1)において、a=1/2となるように調整すればよく、実質上位相シフト量が180°となる。ここで、Σi はiについての総和を表す。なお、1/4≦a≦3/4であれば、位相シフト層の効果が認められるが、aが1/2近傍にあることが最良であることは言うまでもない。」と記載されている。 甲第5号証の【0020】段落には、「【0020】【実施例】以下、本発明の位相シフトフォトマスク及び位相シフトフォトマスク用ブランクスの実施例を具体的に説明する。 〔実施例1〕図1は、本発明の一実施例の位相シフトフォトマスクを模式的に示した断面図である。光学研磨された高純度石英ガラスからなる透明基板1上に、PVD法により形成されたクロム、酸素、窒素を成分とするクロム化合物からなる厚さ70nmの第1半遮光膜2と、さらに、同様な方法で形成されたクロム、酸素、窒素、炭素を成分とするクロム化合物からなる厚さ65nmの第2半遮光膜3とが積層され、基板1上には、第1半遮光膜2と第2半遮光膜3とで形成された半遮光層4の領域と、この半遮光層4がない抜きパタンとしての透明な領域5がある。なお、第1半遮光膜2と第2半遮光膜3の356nmでの屈折率は、それぞれ、2.3と2.4であった。各層の屈折率は、膜形成条件を制御することにより20%程度は調整可能であった。」と記載されている。 甲第5号証の【0022】〜【0023】段落には、「【0022】この実施例により形成された透明基板1上の2層からなる半遮光層4がエッチング加工された部分を斜め上方から電子走査顕微鏡(SEM)で見ると、エッチング特性の違いにより、半遮光層端面が2つの部分に分かれており、かつ、端部が基板面に対して垂直に揃うように調整されていることが分かった。さらに、図3(a)〜(c)はこの実施例の製造方法を説明するための断面図である。まず、図3(a)に示すように、光学研磨された高純度石英ガラスからなる透明基板1上に、クロムをターゲットとして、アルゴン、酸素、窒素の混合ガスを用いたスパッタリング法により、第1半透明膜2を厚さ70nmだけ形成し、さらに、その上に、混合ガスをアルゴン、酸素、窒素、二酸化炭素の混合ガスを用いたスパッタリング法により、第2半透明膜3を厚さ65nmだけ積層することにより、2層からなる半遮光層4を形成した位相シフトフォトマスク用ブランクスが完成した。 【0023】この際の第1半透明膜2と第2半透明膜3の波長365nmでの屈折率は、それぞれ、2.3と2.4であった。また、波長200〜800nmの範囲の光の透過率は、図2の場合と同様であった。」と記載されている。 1.7 異議申立人北垣哲郎が提出した甲第6号証の内容 甲第6号証の請求項1、3、9及び11には、「【請求項1】 透明基板上のハーフトーン位相シフト層がクロム化合物を主体とする層を少なくとも1層以上含むハーフトーン位相シフトフォトマスクにおいて、前記クロム化合物を主体とする層のクロム原子と酸素原子との組成比が、X線光電子分光法によって、100対100乃至300の範囲に含まれていることを特徴とするハーフトーン位相シフトフォトマスク。 【請求項3】 請求項2において、前記クロム化合物を主体とする層の膜表面より深さ30Å以内の表面領域で他の領域よりも多く炭素原子が含有されていることを特徴とするハーフトーン位相シフトフォトマスク。 【請求項9】 透明基板上のハーフトーン位相シフト層がクロム化合物を主体とする層を少なくとも1層以上含むハーフトーン位相シフトフォトマスク用ブランクスにおいて、前記クロム化合物を主体とする層のクロム原子と酸素原子との組成比が、X線光電子分光法によって、100対100乃至300の範囲に含まれていることを特徴とするハーフトーン位相シフトフォトマスク用ブランクス。 【請求項11】 請求項10において、前記クロム化合物を主体とする層の膜表面より深さ30Å以内の表面領域で他の領域よりも多く炭素原子が含有されていることを特徴とするハーフトーン位相シフトフォトマスク用ブランクス。」と記載されている。 甲第6号証の【0019】段落には、「【0019】次に、炭素原子の役割について調べるため、酸素源として炭酸ガスの代わりに酸素ガスを用いた酸素ガス/アルゴンガス系で同様な成膜を行った。このときも、上述と同様の結果が得られたが、膜の耐薬品性が炭酸ガス/窒素ガス系、及び、炭酸ガス/アルゴンガス系での膜に比べて劣るという結果が得られた。例えば、フォトマスクの洗浄に使用される、80°Cに熱した濃硫酸:濃硝酸=10:1(体積)の混酸に30分間浸漬した後の膜減り量を図7に示す。これより、炭酸ガスを用いて成膜した膜が、酸素ガスを用いて成膜した膜に比べて、洗浄に用いる混酸に対する耐性が良いことが判る。そして、この性質は、マスクプロセスの際に使用される他の薬品(酸、アルカリ、有機溶剤等)に対しても同様である。また、図8に、酸素ガス/アルゴンガス系で成膜した膜のX線光電子分光法により求めた組成を示す。図8と図6とを比較すると、膜中に含まれる炭素量が異なることが判る。これにより、上述の薬品耐性の強さは、炭素原子が含まれることによるものと考えられる。なお、炭素原子の定量分析は一般的に難しく、また、図6と図8において、炭素源となるガスを積極的に導入していないときにも、膜中に炭素原子が確認されることから、これらの結果にはある程度のバッックグラウンドが重なっていると考えられる。そこで、発明者等は様々な成膜環境、分析環境を検討した結果、上述の効果は、炭素原子がクロム原子に対して0.5%以上含まれるときに現れることを突き止めた。また、図9に、X線光電子分光法により求めた組成の深さ方向のプロファイルを示すが、多くの場合、炭素原子は表面領域に多く分布する。表面領域にこのような炭素原子を多く含む膜は、薬液浸漬時の耐性が向上している。」と記載されている。 1.8 異議申立人北垣哲郎が提出した甲第7号証の内容 甲第7号証の請求項1及び3には、「【請求項1】 透明基板上に露光光に対して半透明な領域と透明な領域とを有し、該透明領域と該半透明領域との位相差が実質的に180°になるような構成の位相シフトフォトマスクにおいて、半透明領域を構成する半透明膜がクロムあるいはクロム化合物の多層膜からなることを特徴とする位相シフトフォトマスク。 【請求項3】 前記半透明膜の構成が、透明基板側より、クロムあるいは窒化クロムの中のどちらかからなる一層膜と、酸化クロム、酸化窒化クロム、酸化炭化クロム、酸化窒化炭化クロムの中の一の化合物からなる一層膜との2層膜からなることを特徴とする請求項1記載の位相シフトフォトマスク。」と記載されている。 2.訂正の適否について 本件訂正請求は、本件特許第3256345号の明細書(以下、「特許明細書」という。)を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに、訂正しようとするものである。 2.1 訂正事項 訂正事項a 特許明細書の請求項1の「透明基板の上に2層以上の位相シフト層が形成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスクであって、前記各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は」を、「透明基板の上に透光性を有する2層以上の位相シフト層が形成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスクであって、前記各位相シフト層はクロム酸化物から成り、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液をエッチング液としたときに、前記各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は」と訂正する。 2.2 訂正後の特許請求の範囲 請求項1 「透明基板の上に透光性を有する2層以上の位相シフト層が形成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスクであって、 前記各位相シフト層はクロム酸化物から成り、 硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液をエッチング液としたときに、 前記各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は、前記透明基板に近い方の位相シフト層よりも、前記透明基板に遠い方の位相シフト層の方が遅くなるように構成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスク。」 請求項2 「前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに膜厚が変えられた請求項1記載のフオトマスクブランクスおよびフォトマスク。」 請求項3 「前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに光学的特性が変えられた請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のフォトマスクブランクスおよびフオトマスク。」 3. 訂正の適否 3.1 訂正事項a 上記訂正事項aは、「2層」及び「前記各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度」を、それぞれ、下位概念である、「透光性を有する2層」及び「前記各位相シフト層はクロム酸化物から成り、 硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液をエッチング液としたときに、 前記各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮にあたる。 当該訂正事項aは、特許明細書【0014】、【0017】及び【0018】から導き出されるので、上記訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。 3.2 訂正の適否の判断 上記訂正事項aは、上記3.1のとおりであるから、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、改正前の特許法第126条第1項ただし書、同条第2項の規定に適合する。 従って、当該請求を認める。 4.特許異議申立てについての判断 4.1 本件請求項1〜3に係る発明 上記2.2に記載のとおり。 4.2 異議申立ての理由の概要 上記1.1に記載のとおり。 4.3 取消理由通知の概容 (1).本件特許第3256345号の請求項1〜3に係る発明は、その請求項1〜3に記載されたとおりのものである。 (2).第29条第1項第3号該当性について 請求項1〜3に係る発明は、異議申立人北垣哲郎が提出した異議申立書記載の理由により、下記甲第1号証又は甲第2号証記載の発明と同一である。 よって、本件請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明に対してなされたものである。 (3).第29条第2項違反について 請求項1〜3に係る発明は、異議申立人北垣哲郎が提出した異議申立書記載の理由により、下記甲第1号証〜甲第4号証記載の発明に基いて当業者が容易に発明できたものである。 よって、本件請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 (4).第29条の2違反について 請求項1〜3に係る発明は、特許異議申立人北垣哲郎が提出した特許異議申立書に記載された理由により、その出願の日前の他の出願であって、その出願後に出願公開された下記の出願(以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書(以下「先願明細書」という。)又は図面(以下「先願図面」という。)に記載された発明と同一であると認められる。 (5). 第36条違反について 本件特許第3256345号は、その明細書の発明の詳細な説明の欄及び図面の記載が異議申立人北垣哲郎が提出した異議申立書記載の理由で不備のため、特許法第36条に規定する要件を満たさない出願に対してされたものである。 記 甲第1号証:特公昭62-27387号公報 甲第2号証:特公昭62-27386号公報 甲第3号証:特開平4-162039号公報 甲第4号証:特開昭57-104141号公報 先願(甲第5号証):特願平5-83434号(特開平6-308713号公報参照) 先願(甲第6号証):特願平5-173042号(特開平7-28224号公報参照) 先願(甲第7号証):特願平6-31428号(特開平6-342205号公報参照) 4.4 引用例の内容 1.2〜1.8に記載のとおり。 4.5 本件請求項1〜3に係る発明と取消理由に引用した引用例との対比 4.5.1 本件請求項1に係る発明と取消理由に引用した甲第5号証との対比 甲第5号証記載の発明は、【0001】段落に記載されているように、位相シフトフォトマスク及びそれを製造するための位相シフトフォトマスク用ブランクスに関するものである。 また、甲第5号証の【0020】段落には、「光学研磨された高純度石英ガラスからなる透明基板1上に、PVD法により形成されたクロム、酸素、窒素を成分とするクロム化合物からなる厚さ70nmの第1半遮光膜2と、さらに、同様な方法で形成されたクロム、酸素、窒素、炭素を成分とするクロム化合物からなる厚さ65nmの第2半遮光膜3とが積層され」と記載されているいるから、甲第5号証の位相シフトフォトマスク及びそれを製造するための位相シフトフォトマスク用ブランクスは、その位相シフト層がクロム酸化物である。 さらに、甲第5号証の【0017】段落には、「半透明層のエッチング法としては、一般的な硝酸第二セリウムアンモンと過塩素酸の混合水溶液を用いたウェットエッチング法…がよい。」と記載されているいる。 また、甲第5号証の【0016】段落には、「半透明層を2層以上の多層膜にすることにより、各層によりエッチング加工時にエッチング特性を組織構造の違いや成分比の違いにより制御が可能となり、同一連続エッチング条件で単層に比べて垂直なエッチング断層が得られるように調整が可能となる。」と記載されているから、甲第5号証の位相シフト層は2層以上である。 そこで、本件請求項1に係る発明と甲第5号証とを対比すると、両者は、「透明基板の上に透光性を有する2層以上の位相シフト層が形成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスクであって、 前記各位相シフト層はクロム酸化物から成り、 硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液をエッチング液としたフォトマスクブランクスおよびフォトマスク。」において一致する。 しかるに、本件請求項1に係る発明が、「各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は、前記透明基板に近い方の位相シフト層よりも、前記透明基板に遠い方の位相シフト層の方が遅くなるように構成」するのに対し、甲第5号証には当該構成の記載がない点で両者は一応、文言上の相違を有する。 上記文言上の相違について検討する。 ウエットエッチング法においては、エッチングの際、最初にエッチング液に曝される層が、エッチングが進んで後からエッチング液に曝される層よりも基板に平行な方向により多くエッチングされることは周知事項(例えば、甲第1号証及び甲第2号証等参照。)であるところ、甲第5号証の【0016】段落には、「半透明層を2層以上の多層膜にすることにより、各層によりエッチング加工時にエッチング特性を組織構造の違いや成分比の違いにより制御が可能となり、同一連続エッチング条件で単層に比べて垂直なエッチング断層が得られるように調整が可能となる。」(以下、「記載A」という。)と記載されており、当該記載Aは、「各層によりエッチング加工時にエッチング特性を…制御」し、「同一連続エッチング条件で単層に比べて垂直なエッチング断層が得られる」ということであるから、上記周知事項を考慮すると、上記記載Aは、「各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は、前記透明基板に近い方の位相シフト層よりも、前記透明基板に遠い方の位相シフト層の方が遅くなるように構成」することを意味することは、当業者において自明である。 そうすると、本件請求項1に係る発明と甲第5号証記載の発明に実質上の差異はない。 4.5.2 本件請求項2に係る発明と取消理由に引用した甲第5号証との対比 本件請求項2に係る発明は、本件請求項1に係る発明を引用し、その付加事項は、「前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに膜厚が変えられた請求項1記載のフオトマスクブランクスおよびフォトマスク。」であるが、甲第5号証の【0020】段落には、「【0020】【実施例】以下、本発明の位相シフトフォトマスク及び位相シフトフォトマスク用ブランクスの実施例を具体的に説明する。 〔実施例1〕図1は、本発明の一実施例の位相シフトフォトマスクを模式的に示した断面図である。光学研磨された高純度石英ガラスからなる透明基板1上に、PVD法により形成されたクロム、酸素、窒素を成分とするクロム化合物からなる厚さ70nmの第1半遮光膜2と、さらに、同様な方法で形成されたクロム、酸素、窒素、炭素を成分とするクロム化合物からなる厚さ65nmの第2半遮光膜3とが積層され」と記載されているから、甲第5号証記載の発明は、本件請求項2に係る発明の付加事項である、「前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに膜厚が変えられた請求項1記載のフオトマスクブランクスおよびフォトマスク。」の構成も備えているから、本件請求項2に係る発明と甲第5号証記載の発明に実質上の差異はない。 4.5.3 本件請求項3に係る発明と取消理由に引用した甲第5号証との対比 本件請求項3に係る発明は、本件請求項1及び2に係る発明を引用し、その付加事項は、「前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに光学的特性が変えられた請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のフォトマスクブランクスおよびフオトマスク。」であるが、甲第5号証の【0020】段落には、「第1半遮光膜2と第2半遮光膜3の356nmでの屈折率は、それぞれ、2.3と2.4であった。各層の屈折率は、膜形成条件を制御することにより20%程度は調整可能」と記載されているから、甲第5号証記載の発明は、本件請求項3に係る発明の付加事項である、「前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに光学的特性が変えられた請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のフォトマスクブランクスおよびフオトマスク。」の構成も備えているから、本件請求項3に係る発明と甲第5号証記載の発明に実質上の差異はない。 4.5.4 本件請求項1に係る発明と取消理由に引用した甲第1号証との対比 甲第1号証の特許請求の範囲には、「1 透明基板上に第1層として窒素を含むクロム層、第2層として炭素を含むクロム層を積層したことを特徴とするフォトマスクブランク。」と記載され、甲第1号証第4欄第14行〜第22行には、「本発明者は、特に透明基板上に積層した窒素を含むクロム層が従来ほぼ同一の炭化度または窒化度で構成されていたのに対して、この炭素または窒素を含むクロム層のうち、透明ガラス基板に近い第1層として窒素を含むクロム層を、第2層として炭素を含むクロム層をそれぞれ積層することにより、エッチング速度を近い層にて比較的早くして、遠い層にて遅くすることにより、過剰なオーバーエッチングをすることなく」と記載され、さらに、同号証の第3欄第14行〜第19行には、「この低反射ブランクは、前述したようにレジスト塗布、露光現象及びレジスト剥離の各工程の後、硝酸第2セリウムアンモニウム165gと過塩素酸(70%)42mlに純水を加えて1000mlにしたエッチング液(19〜20℃)でウエットエッチングする」と記載されているから、本件請求項1に係る発明と甲第1号証記載の発明は、「透明基板の上に2層以上の層が形成されたフォトマスクブランクスであって、 硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液をエッチング液としたときに、 前記各層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は、前記透明基板に近い方の層よりも、前記透明基板に遠い方の層の方が遅くなるように構成されたフォトマスクブランクス。」において一致し、本件請求項1に係る発明では、エッチングされる層が、「透光性を有する位相シフト層」であるのに対し、甲第1号証記載の発明は、位相シフト層に適用されるとの記載がない点で相違し、また、本件請求項1に係る発明が、「各位相シフト層はクロム酸化物から成」るものであるのに対し、甲第1号証記載の発明は、透明基板上に第1層として窒素を含むクロム層、第2層として炭素を含むクロム層を積層しており、クロム酸化物を層としていない点で相違する。 上記相違について検討する。 位相シフト層を有する所謂位相シフトマスクは周知であって、位相シフト層をクロム酸化物で構成することも周知である。 また、ウエットエッチングにおいては、クロム酸化物とクロム炭化物及びクロム窒化物で基板に平行な方向のエッチングの仕方に特に差はないことは当業者において明らかな事項であるから、周知の位相シフト層のエッチングにおいて、甲第1号証記載の発明を適用し、「各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は、前記透明基板に近い方の位相シフト層よりも、前記透明基板に遠い方の位相シフト層の方が遅くなるように構成」することに困難性は認められない。 そうすると、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証記載の発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 4.5.5 本件請求項2に係る発明と甲第1号証との対比 本件請求項2に係る発明は、本件請求項1に係る発明を引用し、その付加事項は、「前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに膜厚が変えられた請求項1記載のフオトマスクブランクスおよびフォトマスク。」であるが、甲第1号証の第4欄第26行〜第39行には、「第5図a及びbは、従来品の第1図a及びbにそれぞれ対応して示した、この発明の実施例による断面図である。 第5図aは、比較的表面反射率の高いフォトマスクブランクの例で、表面を精密研磨したソーダライムガラスからなる透明基板10上に、窒化度が比較的大きい窒素を含むクロム層22(膜厚約150Å)を第1層とし、そのクロム層22上に窒化度が比較的小さい炭素を含むクロム層23(膜厚約500Å)をそれぞれ積層してなるフォトマスクブランクであり、第5図bは更に前例のフォトマスクブランクのクロム層23上に窒素を含む酸化クロム層32(膜厚250Å)を積層してなる低反射フォトマスクブランクである。」と記載されているから、甲第1号証記載の発明は、本件請求項2に係る発明の付加事項である、「前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに膜厚が変えられた請求項1記載のフオトマスクブランクスおよびフォトマスク。」の構成も備えているから、本件請求項2に係る発明は、本件請求項1に係る発明と同様に、甲第1号証記載の発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 4.5.6 本件請求項3に係る発明と甲第1号証との対比 本件請求項3に係る発明は、本件請求項1及び2に係る発明を引用し、その付加事項は、「前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに光学的特性が変えられた請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のフォトマスクブランクスおよびフオトマスク。」であるが、甲第1号証の第4欄第26行〜第39行には、「第5図a及びbは、従来品の第1図a及びbにそれぞれ対応して示した、この発明の実施例による断面図である。 第5図aは、比較的表面反射率の高いフォトマスクブランクの例で、表面を精密研磨したソーダライムガラスからなる透明基板10上に、窒化度が比較的大きい窒素を含むクロム層22(膜厚約150Å)を第1層とし、そのクロム層22上に窒化度が比較的小さい炭素を含むクロム層23(膜厚約500Å)をそれぞれ積層してなるフォトマスクブランクであり、第5図bは更に前例のフォトマスクブランクのクロム層23上に窒素を含む酸化クロム層32(膜厚250Å)を積層してなる低反射フォトマスクブランクである。」と記載されているから、甲第1号証記載の発明は、本件請求項3に係る発明の付加事項である、「前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに光学的特性が変えられた請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のフォトマスクブランクスおよびフオトマスク。」の構成も備えているから、本件請求項3に係る発明は、本件請求項1に係る発明と同様に、甲第1号証記載の発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件請求項1〜3に係る発明は、特許法第29条の2及び特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件請求項1〜3に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1及び2項の規定により、上記のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 フォトマスクブランクスおよびフォトマスク (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】透明基板の上に透光性を有する2層以上の位相シフト層が形成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスクであって、 前記各位相シフト層はクロム酸化物から成り、 硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液をエッチング液としたときに、 前記各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は、前記透明基板に近い方の位相シフト層よりも、前記透明基板に遠い方の位相シフト層の方が遅くなるように構成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスク。 【請求項2】前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに膜厚が変えられた請求項1記載のフォトマスクブランクスおよびフォトマスク。 【請求項3】前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに光学的特性が変えられた請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のフォトマスクブランクスおよびフォトマスク。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 この発明は投影露光装置に使用されるフォトマスクブランクスおよびフォトマスクに関するものである。 【0002】 【従来の技術】 従来の位相シフトフォトマスクの一例が図4に示されており、同図において、透明基板1の表面には遮光層3が作られ、更に、その遮光層3の上には透明または半透明位相シフター層2が作られている。その場合、透明または半透明位相シフター層2は位相シフトの役割を果たし、また、遮光層3は光の透過率を抑える役割を果たしている。そして、遮光層3はCr、モリブデンシリサイド膜等の遮光膜で作られている。 【0003】 また、別の例が図5に示されており、同図において、透明基板1の表面には単層の半透明位相シフター層2だけが作られている。その場合、単層の半透明位相シフター層2は位相シフトの役割と光の透過率を調整する役割とを兼用している。したがって、別の例では遮光層は用いず、ハーフトーン位相シフターの光吸収性により光の透過率を制御することで、露光波長λにおける光の透過エネルギーをフォトレジストの感光感度以下に抑えるようにしている。 【0004】 このような一例および別の例において、シフター層2は目的位相シフトφ(通常πラジアン)に対して、 φ=2π・(n1-1)・d1/λ・・・・(1)を満足するようにシフター層2の厚みd1が設定される。したがって、(1)式より、d1は次のようになる。d1=φ・λ/2π・(n1-1)・・・・(2) 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 従来の位相シフトフォトマスクの一例および別の例は、シフター開口部8を形成するために、ウェット(湿式)エッチングを行うと、図6に示されるようにウェットエッチングの等方性によりシフター開口部8の境界がだれるようになる。そのため、ドライエッチングによってシフター開口部8を形成しなければならなかった。 【0006】 また、従来の位相シフトフォトマスクの一例は、位相シフター層2と遮光層3とが異質の物質で作られているため、フォトマスクの製造プロセスにおいて成膜プロセスやドライエッチングプロセスが複雑になり、手間がかかる問題が起きた。 【0007】 また、別の例は、半透明位相シフター層2があるだけであるので、フォトマスクの製造プロセスにおいて成膜プロセスやドライエッチングプロセスが簡単になり、手間が省けるようになる。しかしながら、単層であるため、光学膜の設計に柔軟性を欠くようになる。そのため、例えば、クロムやモリブデンシリサイドの酸化物や酸窒化物のように短波長の露光波長に対し、消衰係数kがある限度以下にならない場合、光の透過率Tの光学的パラメータ依存性により、光の透過率の低下を抑えることができないという問題がある。また、低反射率あるいは高反射率のハーフトーンフォトマスクが必要とされる場合でも、単層であると、反射率が一義的に決まってしまう。 【0008】 この発明の目的は、従来の問題を解決して、ウェットエッチングによって位相シフトフォトマスクのパターンを切ることが可能であるとともに、吸収係数の大きな位相シフター層であっても光の透過率を高くすることが可能になり、更に、低反射率または高反射率のハーフトーンフォトマスクの製作が可能で、しかも、フォトマスクの製造プロセスが単純で手間のかからないフォトマスクブランクスおよびフォトマスクを提供するものである。 【0009】 上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、透明基板の上に透光性を有する2層以上の位相シフト層が形成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスクであって、前記各位相シフト層はクロム酸化物から成り、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液をエッチング液としたときに、前記各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は、前記透明基板に近い方の位相シフト層よりも、前記透明基板に遠い方の位相シフト層の方が遅くなるように構成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスクである。 請求項2記載の発明は、前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに膜厚が変えられた請求項1記載のフォトマスクブランクスおよびフォトマスクである。 請求項3記載の発明は、前記各位相シフト層は、前記位相シフト層ごとに光学的特性が変えられた請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のフォトマスクブランクスおよびフォトマスクである。 【0010】 【作用】 この発明においては、エッチング特性を膜厚の方向に変化させているので、ウェットエッチングに際して、位相シフト層の透明基板面に平行な方向のエッチング量(サイドエッチング量と称する)の均一化をはかることが可能になり、ウェットエッチングによってもシャープなパターンが形成されるようになる。 【0011】 また、光学的特性を膜厚の方向に変化させているので、位相シフト層における入射光の反射による透過率損失を軽減して、消衰係数の大きな位相シフト層の材質に対しても透過率を高くすることが可能になる。 【0012】 更に、低反射率または高反射率のフォトマスクブランクスおよびフォトマスクを簡単に作ることができる。 【0013】 【実施例】 以下、この発明の実施例について図面を参照しながら説明する。この発明の実施例のフォトマスクブランクスおよびフォトマスクが図1に示されており、同図において、透明基板1の上には1層目の位相シフト層5が形成され、更に、その1層目の位相シフト層5の上には2層目の位相シフト層6が形成されている。なお、図中、7はシフター部、8はシフター開口部である。 【0014】 このような実施例の製造には、直流マグネトロン方式によるスパツタ成膜装置が用いられ、クロムターゲットからクロムをスパツタ蒸着すると共に、反応性ガスとして酸素とCH4を用いた反応性スパッタリングによって透明基板1の上に成膜条件を変えて2層のハーフトーンクロム酸化物からなる位相シフター膜を形成した。 【0015】 スパツタ成膜装置の基板ホルダーは153mm□の石英の透明基板1を円周方向に14枚搭載することができ、膜厚分布を均一化するために、毎分1.5回転の回転速度で回転して成膜した。そのときの基板温度は100℃である。1層目の位相シフター層はArを40sccm、O2を7sccm流し、スパツタ圧力2mTorr、スパッタ電圧を417V、スパッタ電流を2.5Aにして、10分間成膜し、層厚を65.5nmに形成した。回転成膜の堆積速度は6.25nm/minであり、静止成膜換算では、94nm/minである。膜厚は62.5nmである。 【0016】 1層目の成膜条件で得られる膜質は光学定数n1-ik1において、n1=2.5、k1=0.57であり、ウェットエッチング速度は層厚方向において174nm/min、層厚方向に垂直な方向(サイドエッチングと称する)において1620nm/minである。 【0017】 ウェットエッチング液は水1リットルに対し、硝酸第2セリウムアンモニウム165gr、70%過塩素酸42ミリリットルを加えた水溶液で、液温20℃とした。 【0018】 1層目を形成した直後、続けて2層目を成膜条件を変えて形成し、2層目のハーフトーンクロム酸炭化層を62.5nmの厚さで形成した。 【0019】 2層目の成膜条件は以下の通りである。反応ガス流量はAr;27sccm、O2;4.4sccm、CH4;3sccm、スパッタ圧力は2mTorr、スパッタ電圧は425V、スパッタ電流は2.5A、成膜時間は14.5分である。回転成膜の堆積速度は4.3nm/min、静止成膜換算で、65nm/minである。基板温度は200℃である。 【0020】 2層目の成膜条件で得られた膜質は光学定数n2-ik2において、n2=2.0、k2=0.58であり、ウェットエッチング速度は層厚方向において132nm/min、層厚方向に垂直な方向(サイドエッチングと称する)において960nm/minである。膜厚は62.5nmである。 【0021】 透明基板1に2層目の位相シフト層を形成した位相フォトマスクブランクスにAZ1500フォトレジストを塗布し、露光現象して線幅2μmの線状のレジストパターンを形成し、エッチング時間1分間でウェットエッチングを行った。 【0022】 ウェットエッチング後の位相シフトフォトマスクの断面形状は図2に図式的に示されている。図2において、9はレジスト層である。 【0023】 なお、この位相シフトフォトマスクは、1層目と同じ膜質の単層のハーフトーン位相シフトフォトマスクと同じ膜質の単層のハーフトーン位相シフトフォトマスクと同じドライエッチング条件でエッチングすることができた。即ち、平行平板型のRFイオンエッチング装置を用い、作動圧力を0.3Torr、反応ガスCH2Cl2とO2をそれぞれ25sccmおよび75sccmにして、エッチングを行うと、エッチング時間約4分でエッチングを行うことができた。 【0024】 この2層位相シフト層フォトマスクのi線の光透過率Tは6.38%、反射率は12.9%、位相シフト角φ0は180°であった。 【0025】 このような実施例において、ウェットエッチング形状が図2に示すように改善されたのは、2層目のサイドエッチング速度が1層目のサイドエッチング速度より小さいために、サイドエッチングの進行が均一化されるためである。また、このハーフトーン位相シフトマスクの透過率、反射率および位相シフト角は、測定された光学定数、膜厚からの計算値と一致する。 【0026】 ところで、この実施例は2層のハーフトーン位相シフト層に関するものであるが、3層以上のハーフトーン位相シフト層についても同様に設計、制作することが可能になる。図3は反射率の低下と透過率の改善をはかった3層のハーフトーン位相シフト層を示している。この3層のハーフトーン位相シフト層の特性と、同じ膜厚で光学定数がこの3層のハーフトーン位相シフト層の平均値に等しい従来の単層膜の特性とを比較すると、3層のハーフトーン位相シフト層の反射率R=13.4%、透過率T=9.74%に対して、単層膜では反射率R=10.23%、透過率T=9.5%で、反射率の増加と透過率の改善に有効であることがわかる。位相シフト角は共に180°である。更に、多層にして、増反射膜とすることにより、消衰係数kが小さい波長域においても、透過率を抑えることが可能である。図3において、10は3層目の位相シフト層である。 【0027】 なお、この3層膜の膜構成はj層目の光学定数および膜厚をそれぞれnj-kjおよびdjとすると、 n1=2.5、k1=0.5、d1=325Å n2=2.3、k2=0.42、d2=706.5Å n3=2.07、k3=0.4、d3=392.5Å 全膜厚d=d1+d2+d3=1424Å であり、この3層膜の光学定数の平均値、膜厚が等しい単層膜の光学定数、および膜厚は、 n=2.282、k=0.4327、d=1424Å である。 また、光の入射方向は基板裏面からである。 【0028】 【発明の効果】 この発明においては、エッチング特性を膜厚の方向に変化させているので、ウェットエッチングに際して、位相シフト層の透明基板面に平行な方向のエッチング量(サイドエッチング量と称する)の均一化をはかることが可能になり、ウェットエッチングによってもシャープなパターンが形成されるようになる。 【0029】 また、光学的特性を膜厚の方向に変化させているので、位相シフト層における入射光の反射による透過率損失を軽減して、消衰係数の大きな位相シフト層の材質に対しても透過率を高くすることが可能になる。 【0030】 更に、低反射率または高反射率のフォトマスクブランクスおよびフォトマスクを簡単に作ることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】この発明の実施例の説明図 【図2】この発明の実施例をウェットエッチング後の断面形状を示す説明図 【図3】この発明のその他の実施例の説明図 【図4】従来の位相シフトフォトマスクの一例の説明図 【図5】従来の位相シフトフォトマスクの別の例の説明図 【図6】従来の位相シフトフォトマスクをウェットエッチング後の断面形状を示す説明図 【符号の説明】 1・・・・・・透明基板 2・・・・・・半透明位相シフター層 3・・・・・・遮光層 5・・・・・・1層目の位相シフト層 6・・・・・・2層目の位相シフト層 7・・・・・・シフター部 8・・・・・・シフター開口部 9・・・・・・レジスト層 10・・・・・3層目の位相シフト層 |
訂正の要旨 |
平成13年10月11日付け提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲第1項の「透明基板の上に2層以上の位相シフト層が形成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスクであって、前記各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は……」という記載を、「透明基板の上に透光性を有する2層以上の位相シフト層が形成されたフォトマスクブランクスおよびフォトマスクであって、前記各位相シフト層はクロム酸化物から成り、硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の水溶液をエッチング液としたときに、前記各位相シフト層の前記透明基板に平行な方向のエッチング速度は……」と訂正する。 |
異議決定日 | 2003-02-25 |
出願番号 | 特願平5-204556 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
ZA
(G03F)
P 1 651・ 121- ZA (G03F) P 1 651・ 16- ZA (G03F) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 大熊 靖夫 |
特許庁審判長 |
高橋 美実 |
特許庁審判官 |
辻 徹二 柏崎 正男 |
登録日 | 2001-11-30 |
登録番号 | 特許第3256345号(P3256345) |
権利者 | 三菱電機株式会社 アルバック成膜株式会社 |
発明の名称 | フォトマスクブランクスおよびフォトマスク |
代理人 | 石島 茂男 |
代理人 | 阿部 英樹 |
代理人 | 石島 茂男 |
代理人 | 石島 茂男 |
代理人 | 阿部 英樹 |
代理人 | 石島 茂男 |
代理人 | 阿部 英樹 |
代理人 | 阿部 英樹 |