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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1079636
異議申立番号 異議2002-72440  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-11-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-07 
確定日 2003-04-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3273617号「光学防曇基材」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3273617号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3273617号の請求項1〜3に係る発明は、平成3年4月30日に特許出願され、平成14年2月1日にその特許の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 宇田川庄吾(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年2月6日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断

(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載について、
「【請求項1】 基材表面に単分子膜を設けた光学防曇基材であって、前記単分子膜が分子端末に親水性基を含み且つ直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基を含む分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合していることを特徴とする光学防曇基材。」
とあるのを、
「【請求項1】 基材表面に単分子膜を設けた光学防曇基材であって、前記単分子膜は、A-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基 、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基またはシロキサン基を含む官能基)を基材表面に化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませた分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合していることを特徴とする光学防曇基材。」
と訂正する。
イ.訂正事項b
明細書の段落【0006】の記載について、
「【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の光学防曇基材は、基材表面に単分子膜を設けた光学防曇基材であって、前記単分子膜が分子端末に親水性基を含み且つ直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基を含む分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合していることを特徴とする。」
とあるのを、
「【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の光学防曇基材は、基材表面に単分子膜を設けた光学防曇基材であって、前記単分子膜は、A-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基 、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基またはシロキサン基を含む官能基)を基材表面に化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませた分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合していることを特徴とする。」
と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、発明の構成要件である「単分子膜」について「前記単分子膜が分子端末に親水性基を含み且つ直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基を含む分子よりなり、」とあるのを「前記単分子膜は、A-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基 、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基またはシロキサン基を含む官能基)を基材表面に化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませた分子よりなり、」と限定したものであって、この点については、明細書の段落【0012】に記載されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、上記訂正事項bは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事業の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断

(1)本件の請求項1〜3に係る発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された以下のとおりのものである。

【請求項1】 基材表面に単分子膜を設けた光学防曇基材であって、前記単分子膜は、A-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基 、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基またはシロキサン基を含む官能基)を基材表面に化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませた分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合していることを特徴とする光学防曇基材。
【請求項2】 親水性基が-OH、-COOH、-NH2 、-N+R3X-(Rはアルキル基、Xはハロゲン原子を示す)、-NO2および-SO3H基から選ばれる少なくとも1つの官能基である請求項1記載の光学防曇基材。
【請求項3】 -COOHまたは-SO3H基のHがアルカリ金属またはアルカリ土類金属で置換されている請求項2記載の光学防曇基材。

(2)引用刊行物に記載された発明
当審で通知した取消理由で引用した刊行物1:米国特許第4539061号明細書(申立人の提出した甲第1号証)には、以下のような事項が記載されている。(申立人の翻訳による。)
a.「この発明は、多層膜構造を形成するための構造単位として、かつ表面の性質の改質剤として自己組立式の単層フィルムに基づく製造方法を提供するものである。固体液体界面での吸着を用いて化学吸着又は物理吸着によって良好な特性の組織化され配向された緻密な単層を構成し、次に熱力学的に等価のフィルム構造に導かれる。第1層を構成するために使われる分子は、末端の極性基とその分子の末端又は中間にある非極性官能基を有する。」(明細書1欄7〜17行)
b.「本発明は計画的な単層及び多層膜構造及びそれらのその位置での化学的改質を構成する新規な方法を提供する。その方法は、単層形成分子を含む液層と固層の間の境界で、適宜な固体の上にある種の2機能性分子の直接の吸着(物理吸着又は化学吸着)に基づく。」(明細書2欄20〜27行)
c.「新規な方法の重要な工程は、一端に末端の極性基、他方の末端又は分子の他のいかなる位置にある非極性基を有する分子の第1の単層を形成する工程と、固体基材の上に自己制御的によって第1の繊密な単層を形成した後、活性化された単層に付加する最初の工程と同様の性質の単層を固着させるために極性基を導入することによる単層を活性化する工程と、所望の数の層が得られるまで更に単層の活性化と塗布を繰り返す工程である。例えば、活性化は活性化中に化学的に極性基に改質されうる末端の非極性基に供給される2機能性表面処理剤を使うことによって達成できる。
2機能性単層構造素材は次の一般的な条件に従うべきである。
構造的に自己制御的に繊密な整然とした配列に適合する分子は、
(a)長鎖の飽和及び不飽和炭化水素及びフルオロカーボン、ステロイド及び他の長い多環化合物のように、長く延びた非極性(撥水性)の部分を含む棒状の分子、」(明細書2欄43〜66行)
d.「(a)又は(b)型の分子は、極性の固体基材に結合する1又は2以上の極性の先頭基(活性基)、及び基材表面に又は単層で覆われた表面に結合はしないが吸着状態の化合物に機能する適当な表面反応剤を介して化学的に適当な活性基に変換可能な1又は2以上の非極性基(不活性基)を有する。不活性と活性の2つの性質を示す非極性基のための条件は、極性の先頭基のみを通して膜の中で分子が正確な配列を行うこと、単層と表面の固定が進行すること、吸着の工程が、適当な外部からの制御の条件で反応の連続の引き金のための手当を提供しながら、良好な単層の完成で停止することを確実にするために必要である。」(明細書3欄3〜18行)
e.「自己制御的な単層を固着させる基材として適当な固体は次の条件に適合する必要がある。即ち、単層生成分子が上述した結合により結合しうる高エネルギー(極性)表面を露出させている全ての固体。これらには、金属、金属酸化物、半導体、ガラス、シリ力、水晶、塩類、有機及び無機ポリマー、有機及び無機結晶などが含まれる。
吸着が行われる単層形成分子を含む液相は、いかなる液体でも良く、即ち有機溶媒又は水溶性溶媒の溶液、吸着する化合物の溶融液、あるいは吸着する化合物の蒸発相でもよい。
そのような単分子フィルムの構成に用いられる好適な分子は、例えば(a)炭素数が12以上の炭化水素鎖を有する直鎖脂肪族分子で、鎖のいずれの位置に結合しているエチレン二重結合及び下記に示す極性固着基のいずれかによって一方の末端が置換されているものを含む」(明細書3欄26〜45行)
f.固着基として、「(a)シラン類:モノクロロ、ジクロロ、トリクロロ、シラノール類、シラザン類。シロキサン結合又は水素結合を介して結合する。」(明細書4欄12〜15行)が例示されている。
g.非極性基として、「(a)エチレン二重結合、末端又は非末端、…(f)エステル類、第2級又は第3級アミド類、(g)ハロゲン原子、(h)ニトリル類(シアノ基)、(i)アルデヒド類」(明細書4欄42〜52行)が例示されている。
h.「これらは、次の例示の化学的方法によって以下のタイプの機能的極性基に変換可能であり、又は以下のカップリング剤として用いられる。
(a)ヒドロホウ素化、又は過マンガン酸カリウム又は四酸化オスミウムによる末端のエチレン二重結合の水酸基への酸化。
(b)非末端のエチレン二重結合のオゾンによるアルデヒド又はカルボン酸への酸化、-二重結合の位置でのオゾンによる炭化水素鎖の「切断」。

(d)酸誘導体の加水分解及びエステル、アミド結合あるいは塩形成を介する更なるカップリング。

(f)アルデヒド又は水酸基のカルボン酸への酸化、酸のハロゲン化物への変換及びヒドラジド基を用いた縮合」(明細書4欄53行〜5欄3行)
i.「FIG.2は、吸着による多層膜生成を図示する。単層結合単位として2機能性シラン表面処理剤を用いたO-Si-O基による結合」(明細書5欄31〜33行)
j.「上述した一般的な原理により、単層及び多層膜フィルム構造の具現化、それらの化学改質には多くの方法があり得る。一つの実例は、有機溶媒から化学吸着されたトリクロロシラン-ビニル基を含む長鎖2機能性表面処理剤を用い、シロキサン結合を介する共有結合、及びビニル基の化学改質でヒドロホウ素化反応を介して末端の水酸基に変換することである。」(明細書5欄51〜59行)
k.「上述した一般的な方法は次の分野で有用である。マイクロエレクトロニクス及び光学部材(例えば薄膜の有機絶縁体、導電体、半導体)のための不活性又は活性の薄膜要素の構造、人工的な膜組織、超薄膜保護コーティング(特に光学表面の質や性能を維持するために特に有用)…」(明細書6欄14〜20行)
l.「本発明の方法は所望の表面特性を有する単層の製造にも用いられる。適宜な基材に上記で定義したタイプの単層を適用すれば、非極性基又は不飽和機能基が改質され、その後所望の新しい特性をその層にそして表面に与える。」(明細書6欄30〜36行)
m.実施例においては、ステップAで、HTS(15-へキサデシニルトリクロロシラン、炭素数16、85°-90°C.,0.03Torr)等(明細書7欄25〜26行目)が合成され、
n.ステップBでは、「吸着工程
80%n-へキサデカン、12%CCl4、8%クロロホルムの混合溶媒中にシラン化合物を濃度2.0×10-3〜5.0×10-2Mの攪拌した溶液から常温で単層を化学吸着させた。…。固体基材はシラン溶液中に1〜2分間浸漬され、その後すばやく引き上げた。良好な単層がシラン溶液から乾燥によりこれらの基材上にのみ出現するように考慮された。単層で被覆された基材はクロロホルムと蒸留水で濯ぎ、形成されたフィルムを安定化するようにした。
表面活性化工程
外方のビニル基から末端の水酸基への変換を次のように行った。フィルム被覆基材は、THFのジボラン溶液に室温でアルゴン雰囲気下で1分間浸漬され、それからアルカリ性過酸化水素溶液(0.1M NaOH中に30%H2O2)に1分間浸漬され、最後に蒸留水で洗浄し、空気気流中で乾燥された。」(明細書7欄42行〜8欄5行)
o.TableIIでは、「ガラス表面への多層膜生成と多層膜構造」(明細書9欄41〜42行)として、「TableIIはガラスにHTSフィルムを成長させたものの接触角の測定値を示す。」(明細書9欄42〜45行)
p.TableIIから、HTSの第1層(First layer)を活性化したものは、水の接触角が50°となっている。
q.クレーム2には、「2.活性基が、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、シラノール、シラザンのシラン基、リン酸基、硫酸基、スルホン酸基、カルボン酸基、アミド類、ハロゲン化アシル類、ヒドラジド類、アミン類、ヒドラジン類、水酸基、アルデヒド類、ホウ酸類、ハロゲン類、ジアゾニウム塩類、及びピリジン類を有する分子からなる群から選択される請求項1記載のプロセス。」(明細書12欄10〜36行)と、記載されている。(注:摘示箇所を一部修正した。)
r.「FIG.2



当審で通知した取消理由で引用した刊行物2:特開昭62-247302号公報(申立人の提出した甲第2号証)には、以下のような事項が記載されている。
s.「無機コート膜に、

(R1,R2,R3は水素あるいは有機基)から選ばれる結合を少なくとも1種以上有する構造のシラン化合物を反応させたことを特徴とする無機コート膜の表面改質法。」(特許請求の範囲)
t.「〔従来の技術〕
真空蒸着法,イオンプレーティング法,スパッタリング法などによって得られる無機コート膜は、レンズ,ディスプレー装置のパネルや種々の光学材料の反射防止膜,ハードコート膜,各種機能性膜などに広く用いられている。特にSiO2膜は、その基材との付着力,硬度,取扱い易さなどの点で幅広く使用されている。
〔発明が解決しようとする問題点〕
しかし、SiO2等の無機コート膜は、…さらに環境の温度差により光学材料上のコート膜表面に水滴が細かく付着して生ずる曇りにより、材料の透過率が低下するという問題もあった。」(1頁左下欄下から3行〜右下欄末行)
u.「本発明で用いるシラン化合物は、水酸基アミン反応等が起こり、水酸基の存在する表面の反応に有効である。
例えば、SiO2膜表面付近では、下に示すような反応が起こると考えられる。

」(2頁右上欄1〜6行)
v.「本発明で用いうるシラン化合物としては、…あるいは下記に示す物質等があげられる。

」(2頁左下欄5行、右下欄下から2行〜3頁左上欄1行)
w.「本発明において、使用するシラン化合物同志が無機コート膜との反応前、もしくは反応後結合し、ポリマー化することがありえるが、本発明の目的とするところの重合度を得るように調整すればなんら問題はない。」(3頁左上欄5〜9行)
x.「後処理によって親水性の基に変換されるような置換基を有するシラン化合物…を無機コート膜に反応させたのち、後処理で親水性処理を行なえば、コート膜表面に親水性…機能を持たせることも可能である。」(3頁左上欄末行〜右上欄7行)
y.「〔実施例1
ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)製樹脂からなる合成樹脂製レンズをアセトンで洗浄し、その後真空蒸着法により基板温度50℃で、樹脂表面に反射防止処理を行なった。膜構成はレンズ側からSiO2層がλ/4、ZrO2層とSiO2層の合成膜厚がλ/4、ZrO2層がλ/4、最上層のSiO2層がλ/4とした。(ここでλ=520nm)。次にこのレンズをイソプロピルアルコールで洗浄し、十分乾燥させた後、液温20℃のビス(ジメチルアミノ)メチルシラン液に5分乾浸漬した。浸漬後、湿度50%、温度25℃の雰囲気中で10分間放置し、その後アセトンにより洗浄を行なった。
洗浄後のレンズの外観、反射防止の特性に大きな変化はみられなかった。」(3頁右下欄9行〜4頁左上欄5行)
z.「親水性を表面に持たした場合、水の接触角が低下することにより、細かい水滴が発生しにくくなり光の乱反射による曇りの現象が防げる。…
本発明は、このような効果を有するため、合成樹脂製及びガラス製眼鏡レンズ,カメラレンズ,表示用パネル,時計用ガラス,窓ガラス等、無機コート膜を使用した製品に適用することが可能である。」(5頁右下欄1〜11行)

(3)対比及び判断
(3)-1.本件発明1について
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比する。
刊行物1のFIG.2の右上の図に示されるACTIVATED MONOLAYERは、FIG.2の左上の図に示されるMONOLAYERの単分子の上側末端のビニル基が水酸基に変換されたものであるから、刊行物1のFIG.2の右上の図は、本件発明1における「基材表面に単分子膜を設けた基材であって、前記単分子膜が分子端末に親水性基を含み且つ直鎖状炭化水素基を含む分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合している基材」に相当している。
また、本件発明1では「単分子膜は、A-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基 、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基を含む官能基)を基材表面に化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませた分子よりなり、」と規定されているが、そのように化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませたものは、刊行物1の実施例に記載されている、例えば基板上に形成したHTS(15-へキサデシニルトリクロロシラン:炭素数16)等のACTIVATED MONOLAYERと、できあがったものとしては特に差違は認められない。
したがって、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、
「基材表面に単分子膜を設けた基材であって、前記単分子膜は、A-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基 、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基を含む官能基)を基材表面に化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませた分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合していることを特徴とする基材。」である点で一致し、
本件発明1が「光学防曇基材」であるのに対し、刊行物1に記載された発明では、FIG.2右上に示されるACTIVATED MONOLAYERは、多層膜形成の一段階として設けられている点で一応相違する。(なお、刊行物1には、Bが直鎖状シロキサン基を含む官能基の場合については、記載されていない。)
しかし、刊行物1には、摘示事項lとして、「本発明の方法は所望の表面特性を有する単層の製造にも用いられる。適宜な基材に上記で定義したタイプの単層を適用すれば、非極性基又は不飽和機能基が改質され、その後所望の新しい特性をその層にそして表面に与える。」との記載があり、摘示事項kには光学表面への適用について記載があること、また、刊行物2では、光学材料上の無機コート膜の改質のためのシラン化合物の適用は1回だけであることからして、刊行物1に記載された発明におけるACTIVATED MONOLAYERを設けた基材が「光学基材」として用い得ることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。そして、ACTIVATED MONOLAYERの上部末端が水酸基となっていることからして、また、TableIIでHTSの第1層(First layer)を活性化したものは水の接触角が50°となっているとからしても、このものは既に親水性であること、また、刊行物2に、摘示事項zとして、「親水性を表面に持たした場合、水の接触角が低下することにより、細かい水滴が発生しにくくなり光の乱反射による曇りの現象が防げる。…本発明は、このような効果を有するため、合成樹脂製及びガラス製眼鏡レンズ,カメラレンズ,表示用パネル,時計用ガラス,窓ガラス等、無機コート膜を使用した製品に適用することが可能である。」との記載があることからして、刊行物1に記載された発明におけるACTIVATED MONOLAYERは「光学基材」とした場合に防曇性を示すものと認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(なお、刊行物2には、直鎖状シロキサン基の両末端にアミノ基を有するシラン化合物等をSiO2等が施されたレンズ等の光学材料に水酸基アミン反応等により結合すること、親水性を表面に持たした場合曇りが防げることなどが記載されているので、Bが直鎖状シロキサン基を含む官能基である場合にも、本件発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。)

(3)-2.本件発明2について
刊行物1のFIG.2の右上の図に示されるACTIVATED MONOLAYERは、単分子の上側末端が水酸基であり、本件発明2における「親水性基が-OHである」に相当している。また、刊行物1には、他に、カルボン酸、スルホン酸基、アミン類も例示されている。
したがって、本件発明2は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)-3.本件発明3について
カルボン酸基、スルホン酸基のHをアルカリ金属、アルカリ土類金属で置換し得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、本件発明3は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本件発明1〜3は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光学防曇基材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材表面に単分子膜を設けた光学防曇基材であって、
前記単分子膜は、A-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基またはシロキサン基を含む官能基)を基材表面に化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませた分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合していることを特徴とする光学防曇基材。
【請求項2】 親水性基が-OH、-COOH、-NH2、-N+R3X-(Rはアルキル基、Xはハロゲン原子を示す)、-NO2および-SO3H基から選ばれる少なくとも1つの官能基である請求項1記載の光学防曇基材。
【請求項3】 -COOHまたは-SO3H基のHがアルカリ金属またはアルカリ土類金属で置換されている請求項2記載の光学防曇基材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、光学材料の基材表面が親水性化された光学防曇基材に関する。さらに詳しくは、浴室用鏡や化粧用鏡、窓ガラス、または乗り物のウインドガラスやバックミラー、眼鏡などの光学レンズの表面に親水性の単分子膜を形成した防曇性の光学基材に関する。
【0002】
【従来の技術】
天候などの影響でとくに湿度が高いときや温度の低い冬期などにおいては、たとえば自動車のウインドガラスは走行中に曇りが生じ視界が悪くなったり、浴室の鏡が曇って見えなくなったりする。これは、一般にウインドガラスや鏡などの光学基材の熱導伝性が悪いため、気温が急に上昇したり、一方の面が冷却された状態で他の面が温度の高い空気雰囲気に触れると表面で空気中の水分が結露して、いわゆる曇が生じてしまう。あるいは梅雨のときなどは、空気中の湿度が飽和状態にあるため、人間の呼吸する息や汗などで簡単に結露による曇りが生ずる。
【0003】
従来この曇を防ぐため、光学材料の表面にたとえばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの親水性化合物を含む薬品や樹脂を塗布したり、親水性のフィルムを張りつけたりする方法が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、光学材料の表面に親水性の樹脂を塗布したり親水性のフィルムを張りつける方法では、透明性が劣る上、剥離や傷が付き易いなどの欠点があった。また、親水性の薬品や樹脂を塗布する方法では、コストは低いが、耐久性が低いというの面で問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来技術の課題を解決するために、光学材料の表面に透明性や耐久性が高く、かつ所望の防曇性を有する親水性コーティング膜を設けた光学防曇基材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明の光学防曇基材は、基材表面に単分子膜を設けた光学防曇基材であって、
前記単分子膜は、A-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基またはシロキサン基を含む官能基)を基材表面に化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませた分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合していることを特徴とする。
【0007】
前記構成においては、親水性基が-OH、-COOH、-NH2、-N+R3X-(Rはアルキル基、Xはハロゲン原子を示す)、-NO2および-SO3H基から選ばれる少なくとも1つの官能基であることが好ましい。また前記構成においては、-COOHまたは-SO3H基のHがアルカリ金属またはアルカリ土類金属で置換されていることが好ましい。
【0008】
【作用】
前記本発明の光学防曇基材の構成によれば、親水性の官能基を含む直鎖状分子がシロキサン結合を介して光学材料の基材表面に固定されるため、たとえ表面で結露が生じても、水滴は基材表面を濡らし表面全面に広がる曇りが生じない。また、化学吸着しているため剥離することもない。しかもこの単分子膜は膜厚がナノメーターレベルであるため、透過性に優れており基材の光学的性能を妨げること無く、耐久性にも優れたものとすることができる。
【0009】
また親水性基が-OH、-COOH、-NH2、-N+R3X-(Rはアルキル基、Xはハロゲン原子を示す)、-NO2および-SO3H基から選ばれる少なくとも一つの官能基であるという本発明の好ましい構成によれば、さらに優れた防曇効果を発揮できる。
【0010】
また-COOH、または-SO3H基のHがアルカリ金属またはアルカリ土類金属で置換されているという本発明の好ましい構成によれば、とくに優れた防曇効果を発揮できる。
【0011】
【実施例】
以下実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。本発明に用いられる光学基材としては、浴室や洗面所の鏡、化粧用鏡、窓ガラス、天窓のガラス、または乗り物のウインドガラスやバックミラー、眼鏡などの光学レンズ、温室ガラス(透明プラスチックを含む)、農業用フィルムなどである。また前記の基材としては、ガラスのみならず、プラスチックなどであってもよい。またプラスチック材料の場合、プレート、シート、フィルムなどであってもよい。これら基材表面に水酸基がきわめて少ない場合は、プラズマ処理すること、またはシロキサン層を形成することなどによって表面に水酸基を露出することができる。
【0012】
本発明の光学防曇基材は一例として次のようにして製造する。まず、前記基材、例えばガラスを用意し、その表面にクロロシリル基を分子末端に含む物質、たとえばA-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基またはシロキサン基を含む官能基)を混ぜた非水系溶媒に接触させ、前記基材表面の水酸基と前記クロロシリル基を分子末端に含む物質のクロロシリル基とを反応させて、前記物質を前記表面に析出させる工程と、非水系有機溶媒を用い前記基材表面上に残った余分なクロロシリル基を複数個含む物質を洗浄除去した後、前記物質のブロモ基、ヨード基、シアノ基、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基を化学反応させて-OH、-COOH、-NH2、-N+R3X-(Xはハロゲン原子を示す)、-NO2、または-SO3H基から選ばれる少なくとも一つの官能基に変換させる工程とにより化学吸着単分子膜を基材表面に形成する。あるいは、-COOH、または-SO3H基に変換後、-COOH、または-SO3H基の官能基内のHをアルカリ金属またはアルカリ土類金属と置換した単分子膜を形成する。
【0013】
以下、本発明に関する防曇を目的とした親水性を有する化学吸着膜の作製には、単分子膜に防曇効果を有する官能基として-OH、-COOH、-NH2、-N+R3X-(Rはアルキル基、Xはハロゲン原子を示す)、-NO2、または-SO3H基等を導入する方法がある。以下順に説明する。
【0014】
実施例1(-OH基の導入)
まず、加工の終了した鏡用ガラス11を用意し(図1(a))、有機溶媒で洗浄した後、表面をエステル結合(R-CO-OCH2-(Rは官能基))を含む官能基及びクロロシリル基を含む物質を混合した非水系の溶媒、例えば、CH3OOC(CH2)7SiCl3を用い、2wt%程度の濃度で溶かした80wt%n-ヘキサデカン(トルエン、キシレン、ジシクロヘキシルでもよい)、12wt%四塩化炭素、8wt%クロロホルム溶液を調整し、前記鏡用ガラス表面を5時間程度浸漬すると、鏡用ガラス表面には水酸基12が多数含まれているので、エステル結合及びクロロシリル基を含む物質のSiCl基と前記水酸基が反応し脱塩酸反応が生じ鏡用ガラスの表面全面に亘り、下記(化1)に示す結合が生成され、エステル結合を含む単分子膜13が鏡用ガラス表面と化学結合した状態で約20オングストローム(2nm)の膜厚で形成できた(図1(b))。
【0015】
【化1】

【0016】
次に、この鏡用ガラス表面を数wt%のリチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH4)を含むエーテル溶液中で室温下で20分反応させて、末端に親水性の水酸基に変換し、次の化学式で表わされる単分子膜14を形成した(図1(c))。
【0017】
【化2】

【0018】
なお、この単分子膜14はきわめて強固に鏡用ガラス表面に化学結合しているので全く剥離することがなかった。さらに、ここでアルカリ金属の有機化合物、例えばLi(CH2)3CH3(NaOCH3でもよい)を5wt%程度溶解したヘキサン溶液に鏡用ガラス表面を浸漬すると、
【0019】
【化3】

【0020】
で表わされるきわめて親水性の高い膜15が形成できた(図1(d))。この単分子膜の水に対する濡れ角度は約70度であり、空気中の水蒸気を吸着し結露条件下でもガラス表面が曇ることはなかった。なお、この実施例においては、反射層形成前のガラスに吸着を行なったが、鏡面を形成した後本発明の化学吸着膜を形成してもよい。
【0021】
実施例2(-COOH基の導入)
例えば、ウインドガラス21を用意し(図2(a))、よく洗浄した後、エステル結合(R-CO-OCH2-(Rは官能基))をもつ官能基とクロロシリル基を含む物質を混合した非水系の溶媒、例えば、CH3OOC(CH2)10SiCl3を用い、2wt%程度の濃度で溶かした80wt%n-ヘキサデカン(トルエン、キシレン、ジシクロヘキシルでもよい)、12wt%四塩化炭素、8wt%クロロホルム溶液を調整し、前記ウインドガラスを5時間程度浸漬すると、ウインドガラス表面には水酸基22が多数含まれているので、エステル結合及びクロロシラン基を含む物質のSiCl基と前記水酸基が反応し脱塩酸反応が生じ基板表面全面に亘り、下記(化4)に示す結合が生成され、エステル結合を含む単分子膜23がウインドガラス表面と化学結合した状態で約20オングストローム(2nm)の膜厚で形成できた(図2(b))。
【0022】
【化4】

【0023】
次に、この表面を塩酸(HCl)の36wt%溶液中で65℃で30分反応させて、下記(化5)に示すような末端に親水性のカルボキシル基が形成された。
【0024】
【化5】

【0025】
なお、この単分子膜24(図2(c))もきわめて強固にウインドガラス表面に化学結合しているので全く剥離することがなかった。また、この単分子膜は空気中の水蒸気を吸着し、結露条件下でもガラス表面が曇ることはなかった。さらに、ここでアルカリ金属やアルカリ土類金属の有機化合物、例えばNaOH(別のものとしてCa(OH)2でもよい)を1wt%程度溶解した水溶液にウインドガラス表面を浸漬すると、下記(化6)で表わされるきわめて親水性の高い単分子膜25が形成できた(図2(d))。
【0026】
【化6】

【0027】
この単分子膜は水に対する濡れ角度が55度であり、ウインドガラス表面にきわめて防曇効果の高い単分子膜を形成できた。
【0028】
実施例3(-NH2基の導入)
まず、組み立て前のウインドガラス31を用意し(図3(a))、重クロム酸を含む水溶液で80℃で30分程度洗浄し、その後水洗してシアノ基及びクロロシリル基を含む物質を混ぜた非水系の溶媒、例えば、NC(CH2)17SiCl3を用い、1wt%程度の濃度で溶かした80wt%n-ヘキサデカン(トルエン、キシレン、ジシクロヘキシルでもよい)、12wt%四塩化炭素、8wt%クロロホルム溶液を調整し、前記ガラスを2時間程度浸漬すると、ガラス表面には水酸基32が多数含まれているので、シアノ基を含む物質のSiCl基と前記水酸基が反応し脱塩酸反応が生じ表面全面に亘り、下記(化7)に示す結合が生成され、シアノ基を含む単分子膜33が表面と化学結合した状態で形成できた(図3(b))。
【0029】
【化7】

【0030】
次に、リチウムアルミニウムハイドライドの溶解したエーテル(10mg/ml)にガラスを浸漬し、一晩反応させた。その後、溶液から取り出しエーテル、続いてエーテルと同容量の10wt%の塩酸を加えた。その後、さらにトリエチルアミン溶液に入れて、2時間反応を行わせた後、クロロホルム溶液で洗浄すると、下記(化8)で表わせる防曇効果の高い単分子膜を得た。なお、この単分子膜33(図3(c))もきわめて強固にガラス表面に化学結合しているので全く剥離することがなかった。
【0031】
【化8】

【0032】
また、他の-NH2基の導入実施例として、次のようなものがある。まず、ガラスよく水洗浄した後、ブロモ基またはヨード基とクロロシリル基を含む物質を混ぜた非水系の溶媒、例えばBr(CH2)17SiCl3を用い、1wt%程度の濃度で溶かした80wt%n-ヘキサデカン(トルエン、キシレン、ジシクロヘキシルでもよい)、12wt%四塩化炭素、8wt%クロロホルム溶液を調整し、前記ガラスを2時間程度浸漬すると、表面には水酸基が多数含まれているので、ブロモ基を含む物質のSiCl基と前記水酸基が反応し脱塩酸反応が生じ表面全面に亘り、下記(化9)に示す結合が生成され、ブロモ基を含む単分子膜が表面と化学結合した状態で形成できた。
【0033】
【化9】

【0034】
次に、ナトリウムアミドの溶解したN,Nジメチルホルムアミド溶液(8mg/ml)にガラスを入れ一晩反応を行わせと、下記(化10)で表される単分子膜を得た。
【0035】
【化10】

【0036】
さらに、リチウムアルミニウムハイドライドの溶解したエーテル(10mg/ml)にガラスを浸漬し、一晩反応させた後取り出し、空の容器に入れて、エーテル、続いてエーテルと同容量の10wt%の塩酸を加える。その後トリエチルアミン溶液に入れて、2時間反応を行わせた後、クロロホルム溶液で洗浄すると、下記(化11)で表わせる水に対する濡れ角度が65度の防曇性の単分子膜を得た。
【0037】
【化11】

【0038】
なお、この単分子膜もきわめて強固にガラス表面に化学結合しているので全く剥離することがなかった。
【0039】
実施例4(-N+R3X-基(Xはハロゲン原子を示す)の導入)
まず、プラスチック製レンズ41(例えば、ポリカーボネイト樹脂やアクリル樹脂の場合には、酸素を含む雰囲気中で300W、20分程度のプラズマ処理を行うか、重クロム酸混液で80℃で30分程度を処理して表面に少しOH基を形成できた。)を用意し(図4(a))、有機溶媒で洗浄した後、一端にクロロシリル基及び他の一端にもクロロシリル基を含む物質を混合した非水系の溶媒、例えば、SiCl4を用い、2wt%程度の濃度で溶かした非水系の溶媒(トルエン、キシレン、ジシクロヘキシルでもよい)溶液を調整し、前記レンズ基材表面41を1時間程度浸漬し、その後フレオン系溶剤で洗浄しさらに水洗すると、レンズ基材表面には水酸基が多少含まれているので、表面に(HO)3SiO-が形成されて、表面に水酸基42が並んだ状態で多数形成された。
【0040】
そこで、一端にクロロシリル基及び他の一端にもクロロシリル基を含む物質を含む物質を混ぜた非水系の溶媒、例えば、ClSi(CH3)2(CH2)10SiCl3を用い、2wt%程度の濃度で溶かした80wt%n-ヘキサデカン(トルエン、キシレン、ジシクロヘキシルでもよい)、12wt%四塩化炭素、8wt%クロロホルム溶液を調整し、前記レンズ基材表面41を5時間程度浸漬すると、レンズ表面には水酸基42が多数含まれているので、一端のSiCl基と前記水酸基が反応し脱塩酸反応が生じ、下記(化12)に示すような結合が生成され、クロロシラン基を含む単分子膜43が基材表面と化学結合した状態で形成できた(図4(b))。
【0041】
【化12】

【0042】
そこで10wt%(CH3)2NC2H4OHのクロロホルム溶液に基材を浸漬し脱塩酸反応を生じさせた後、クロロホルムで洗浄すると、下記(化13)で表わせる単分子膜44が得られた(図4(c))。
【0043】
【化13】

【0044】
そこで、さらにハロゲン原子としてヨウ素を含むCH3Iを溶解させたクロロホルム溶液に浸漬し2時間還流すると、下記(化14)で示される4級アミノ基を表面に有するきわめて親水性の高い単分子膜45が得られた(図4(d))。
【0045】
【化14】

【0046】
また、この単分子膜は水に対する濡れ角度が50度のきわめて防曇効果の高いものであった。
【0047】
実施例5(-NO2基の導入)
まず、ガラス基材51を用意し(図5(a))、有機溶媒で洗浄した後、ブロモまたはヨード基及びクロロシリル基を含む物質を混合した非水系の溶媒、例えば、下記(化15)に示す化合物を用いた。
【0048】
【化15】

【0049】
前記化合物を2wt%程度の濃度で溶かした80wt%n-ヘキサデカン(トルエン、キシレン、ジシクロヘキシルでもよい)、12wt%四塩化炭素、8wt%クロロホルム溶液を調整し、前記ガラス基材表面51を5時間程度浸漬すると、基材表面には水酸基が多数含まれているので、ブロモ基を含む物質のSiCl基と前記水酸基52が反応し脱塩酸反応が生じ基材表面全体に亘り、下記(化6)に示す結合が生成され、ブロモ基を含む単分子膜53が基材表面と化学結合した状態で約25オングストローム(2.5nm)の膜厚で形成できた(図5(b))。
【0050】
【化16】

【0051】
次に、このガラス基材表面を5wt%AgNO3を含むアルカリ性水溶液中で80℃、2時間反応させると、下記(化17)で示される防曇性の単分子膜54(図5(c))が得られた。
【0052】
【化17】

【0053】
この単分子膜も水に対する濡れ角度は70度であり、空気中の水蒸気を吸着し、結露条件下でもガラス表面が曇ることはなかった。
【0054】
実施例6(-SO3H基の導入)
まず、眼鏡レンズ61を用意し(図6(a))、有機溶媒で洗浄した後、チオシアノ基(-SCN)及びクロロシリル基を含む物質を混合した非水系の溶媒、たとえば、NCS(CH2)10SiCl3を用い、2wt%程度の濃度で溶かした80wt%n-ヘキサデカン(トルエン、キシレン、ジシクロヘキシルでもよい)、12wt%四塩化炭素、8wt%クロロホルム溶液を調整し、前記レンズ基材表面61を5時間程度浸漬すると、基材表面には水酸基62が多数含まれているので、チオシアノ基及びクロロシリル基を含む物質のSiCl基と前記水酸基が反応し脱塩酸反応が生じ基材表面に亘り、下記(化18)に示す結合が生成され、チオシアノ基を含む単分子膜63がレンズ基材の表面と化学結合した状態で約25オングストローム(2.5nm)の膜厚で形成できた(図6(b))。
【0055】
【化18】

【0056】
次に、リチウムアルミニウムハイドライドの溶解したエーテル(10mg/ml)に基材を入れ、4時間反応させると、下記(化19)で示される防曇性の単分子膜64(図6(c))が得られた。
【0057】
【化19】

【0058】
次に、10wt%の過酸化水素水と10wt%の酢酸が容量比で1対5の混合溶液中に入れ、40℃から50℃の間で30分反応させると、下記(化20)で示される防曇効果の高い単分子膜65(図6(d)が得られた。
【0059】
【化20】

【0060】
さらに、ここでアルカリ金属やアルカリ土類金属の有機化合物、例えばNaOH(別のものとしてCa(OH)2でもよい)を2wt%程度溶解した水溶液にレンズ基材を浸漬すると、下記(化21)で表わされるきわめて防曇効果の大きな膜66が形成できた(図6(e))。
【0061】
【化21】

【0062】
なお、この膜の水に対する濡れ角度は、約45度であった。
【0063】
【発明の効果】
以上述べてきたように、本願発明によれば、防曇を目的とした親水性の官能基がガラスなどの基材表面に化学吸着された分子を介して化学結合で固定された基材を作製できる。従って、たとえ表面で結露が生じても、水滴は基材表面を濡らし表面全面に広がる。また、この膜は、化学結合で表面に固定されているため、傷ついたり剥離することもない。しかも、この単分子膜は、膜厚がナノメーターレベルであるため、基材の透明度を劣化させるおそれも無い。従って、基材の光学的性能を妨げることなく表面の曇を排除できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施例である鏡用ガラス表面に防曇性単分子薄膜を形成する工程を説明するために、ガラス表面を分子レベルまで拡大した工程断面図である。
【図2】 本発明の第2の実施例であるウインドガラス表面に防曇性単分子薄膜を形成する工程を説明するために、ガラス表面を分子レベルまで拡大した工程断面図である。
【図3】 本発明の第3の実施例であるウインドガラスに防曇性性単分子薄膜を形成する工程を説明するために、ガラス表面を分子レベルまで拡大した工程断面図である。
【図4】 本発明の第4の実施例であるプラスチック製レンズ表面に防曇性単分子薄膜を形成する工程を説明するために、レンズ表面を分子レベルまで拡大した工程断面図である。
【図5】 本発明の第5の実施例であるガラス表面に防曇性単分子薄膜を形成する工程を説明するために、ガラス表面を分子レベルまで拡大した工程断面図である。
【図6】本発明の第6の実施例である眼鏡レンズ表面に防曇性単分子薄膜を形成する工程を説明するために、レンズ表面を分子レベルまで拡大した工程断面図である。
【符号の説明】
11 鏡用ガラス
21,31,51 ガラス
41 プラスチックレンズ
61 眼鏡レンズ
12,22,32,42,52,62 水酸基
13,14,15,23,24,25,33,34,43,44,45,53,54,63,64,65,66 単分子膜
 
訂正の要旨 本件訂正請求書における訂正の内容は下記の訂正事項(a)〜(b)のとおりである。
(a)【請求項1】の全文(特許公報1頁1欄2〜9行)を、
「基材表面に単分子膜を設けた光学防曇基材であって、
前記単分子膜は、A-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基またはシロキサン基を含む官能基)を基材表面に化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませた分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合していることを特徴とする光学防曇基材。」(下線部は訂正部分、以下同)と訂正する。
(b)明細書の段落番号【0006】の全文(特許公報2頁3欄25〜33行)を、
「【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明の光学防曇基材は、基材表面に単分子膜を設けた光学防曇基材であって、
前記単分子膜は、A-(B)l-SiXqCl3-q(ただし、Aはブロモ基、ヨード基、シアノ基、チオシアノ基、クロロシリル基、またはエステル結合から選ばれる少なくとも一つの官能基、qは0または1または2、lは30以下の自然数、Bは直鎖状炭化水素基またはシロキサン基を含む官能基)を基材表面に化学結合させ、分子端末に親水性基を含ませた分子よりなり、基材の透明性を劣化させることなく前記直鎖状炭化水素基または直鎖状シロキサン基が並んだ状態で且つ前記親水性基が最表面に露出した状態でシロキサン結合を介して前記材料表面に化学結合していることを特徴とする。」と訂正する。
異議決定日 2003-03-06 
出願番号 特願平3-98906
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (G02B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 高橋 美実
特許庁審判官 矢沢 清純
國島 明弘
登録日 2002-02-01 
登録番号 特許第3273617号(P3273617)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 光学防曇基材  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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