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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) H05K
管理番号 1080501
審判番号 無効2001-35158  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-12-17 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-04-11 
確定日 2003-05-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2740768号発明「銅コーティング」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2740768号の請求項1〜23に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第一.手続の経緯
本件特許第2740768号(以下、「本件特許」という)は、1994(平成6)年12月12日付の英国(GB)出願を基礎とする優先権主張を伴った、平成7年12月12日付(翻訳文提出平成8年2月5日)の特許出願(特願平7-349398号)に係り、平成10年1月30日に設定登録された。
これに対して、本件全請求項(請求項の数23)に係る特許について、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めて、平成13年4月11日付で本件審判が請求されたが、この請求に対し、被請求人より、平成13年11月30日付で、願書に添付した明細書についての訂正請求がされると共に、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める趣旨の答弁がされ、この答弁及び訂正請求に対して、審判請求人より、平成14年3月20日付で、弁駁書が提出された。
その後、当審においてあらためて検討して、特許法第153条の規定に基づき、職権審理の結果発見した無効理由を、平成14年4月10日付で両当事者に通知したところ、被請求人より、平成14年10月17日付で意見書が提出されると共に、同日付で願書に添付した明細書についての訂正請求がされ、また、平成13年11月30日付けの訂正請求は取り下げられた。
なお、当審から通知した無効理由に対する請求人からの応答はない。

第二.訂正請求について
1.訂正の要旨
上記平成14年10月17日付訂正請求における訂正の要旨は、次のa〜fのとおりである。
a 願書に添付した明細書の特許請求の範囲における請求項1について、
「【請求項1】 金属表面を処理する方法であって、微細粗面化された、変換被覆した表面を形成するための接着促進段階に、0.1〜20重量%の過酸化水素、無機酸、有機腐食防止剤および界面活性剤を含む接着促進組成物に該金属表面を接触させることを含む方法。」という記載を、
「【請求項1】 金属表面を処理して微細粗面化された変換被覆した表面を形成する方法であって、該方法は、該金属表面を0.1〜20重量%の過酸化水素、無機酸、有機腐食防止剤および界面活性剤を含む接着促進組成物と接触させることを含み、ここで該接着促進組成物は該金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するものである、ことを特徴とする方法。」という記載に訂正する。
b 同じく請求項7について、
「【請求項7】 腐食防止剤が、接着促進組成物の総重量の少なくとも0.0001重量%、好ましくは少なくとも0.0005重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%で、20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%まで、最も好ましくは1重量%までの量で接着促進組成物中に存在する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。」という記載を、
「【請求項7】 腐食防止剤が、接着促進組成物の総重量に対し、0.5〜5重量%の量で接着促進組成物中に存在する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。」という記載に訂正する。
c 同じく請求項9について、
「【請求項9】 第四級アンモニウム界面活性剤が、好ましくは塩化イソデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムおよび塩化イソトリデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムから選ばれる、エトキシ化脂肪性アミンである請求項8記載の方法。」という記載を、
「【請求項9】 第四級アンモニウム界面活性剤がエトキシ化脂肪性アミン、好ましくは塩化イソデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムおよび塩化イソトリデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムから選ばれる、エトキシ化脂肪性アミンである請求項8記載の方法。」という記載に訂正する。
d 同じく請求項14について、
「【請求項14】 微細粗面化した変換被覆した表面に、続いて高分子材料を接着し、好ましくは接着促進段階と高分子材料を接着する段階との間に全く段階を置かないか、またはただ一回の洗浄および/もしくは乾燥段階を置く請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。」という記載を、
「【請求項14】 微細粗面化した変換被覆した表面に、続いて高分子材料を接着し、接着促進段階と高分子材料を接着する段階との間に全く段階を置かないか、またはただ一回の洗浄および/もしくは乾燥段階を置く請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。」という記載に訂正する。
e 同じく請求項17について、
「【請求項17】 0.1〜20.0重量%の過酸化水素、無機酸、0.5〜2.5重量%の有機腐食防止剤およびカチオン界面活性剤を含む接着促進組成物。」という記載を、
「【請求項17】 金属表面を処理する接着促進組成物であって、該組成物は、0.1〜20.0重量%の過酸化水素、無機酸、0.5〜2.5重量%の有機腐食防止剤、カチオン界面活性剤及び脱イオン水を含み、該組成物は該金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するものである、ことを特徴とする組成物。」という記載に訂正する。
f 同じく請求項20について、
「【請求項20】 腐食防止剤が、トリアゾール、テトラゾールおよび/またはイミダゾールを含む0.0005〜10重量%の範囲内の濃度で請求項17〜19のいずれかに記載の組成物。」という記載を、
「【請求項20】 腐食防止剤が、トリアゾール、テトラゾールおよび/またはイミダゾールを含む、請求項17〜19のいずれかに記載の組成物。」という記載に訂正する。

2.訂正請求の適否
(1)訂正の目的、新規事項の有無
上記a〜eの訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められ、また、上記fの訂正事項は、引用する他の請求項(請求項17)の記載との齟齬を解消しようとするもので、明りょうでない記載の釈明と共に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、上記の各訂正事項は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内において、訂正しようとするものと認められる。
(2)拡張、変更の有無
上記の各訂正事項の内容は、その訂正の趣旨からみて、願書に添付した明細書に記載されている発明の目的の範囲を逸脱するところはなく、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものとはいえない。
なお、訂正事項fでは、腐食防止剤含有量の規定が削除されているが、請求項20が請求項17を引用するものである以上、有機腐食防止剤の含有量に関して、「0.0005〜10重量%」から「0.5〜2.5重量%」に限定することになると解されるので、実質上、特許請求の範囲を拡張することにはならない。

3.訂正事項の適法性と訂正請求の認容
上記の検討から明らかなように、上記各訂正事項は、特許法第134条第2項第1、3号に掲げる事項を目的とするものであって、特許法第134条第5項で準用される、特許法第126条第2項及び同第3項の各規定に適合しているので上記訂正の請求は認容される。

第三.本件特許発明の認定
上記のとおり、訂正請求が認容されることによって、上記平成14年10月17日付の訂正請求書に添付された訂正明細書を願書に添付した明細書として、本件特許発明は、当該明細書における特許請求の範囲の請求項1〜23のそれぞれに記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】 金属表面を処理して微細粗面化された変換被覆した表面を形成する方法であって、該方法は、該金属表面を0.1〜20重量%の過酸化水素、無機酸、有機腐食防止剤および界面活性剤を含む接着促進組成物と接触させることを含み、ここで該接着促進組成物は該金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するものである、ことを特徴とする方法。
【請求項2】 金属が、銅または銅合金、好ましくは銅、より好ましくはドラム側面処理による銅箔である請求項1記載の方法。
【請求項3】 過酸化水素が、1.0〜4.0重量%の過酸化水素という濃度で接着促進組成物中に存在する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】 無機酸が、リン酸、硝酸、硫酸またはそれらの混合物、好ましくは硫酸である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】 組成物中の酸の濃度が、1〜50%、好ましくは9〜20%の範囲内にある請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】 腐食防止剤が、トリアゾール、テトラゾールおよび/またはイミダゾール、好ましくはトリアゾール、最も好ましくはベンゾトリアゾールである請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】 腐食防止剤が、接着促進組成物の総重量に対し、0.5〜5重量%の量で接着促進組成物中に存在する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】 界面活性剤が、カチオン界面活性剤、好ましくは第四級アンモニウム界面活性剤である請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】 第四級アンモニウム界面活性剤がエトキシ化脂肪性アミン、好ましくは塩化イソデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムおよび塩化イソトリデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムから選ばれる、エトキシ化脂肪性アミンである請求項8記載の方法。
【請求項10】 界面活性剤が、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%で、5重量%以下、好ましくは3重量%以下、最も好ましくは2.5重量%以下の量で組成物中に存在する請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】 金属表面を、いかなる前処理もなしに接着促進組成物に接触させる請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】 75℃まで、好ましくは15〜35℃の範囲、最も好ましくは20〜30℃の範囲の温度で実施される請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】 接触時間が、10秒〜10分の範囲、好ましくは30秒〜2分の範囲である請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】 微細粗面化した変換被覆した表面に、続いて高分子材料を接着し、接着促進段階と高分子材料を接着する段階との間に全く段階を置かないか、またはただ一回の洗浄および/もしくは乾燥段階を置く請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】 少なくとも1層の絶縁層および少なくとも1層の導電層を含む内層と、少なくとも1層の絶縁層を含む外層とを含む多層PCBを形成する方法であって、処理される金属表面が導電層である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】 接着促進段階の後、プレプレグ層を導電層に直接隣接して配置し、これら2層を接着段階で相互に接着して、多層PCBを形成する請求項15記載の方法。
【請求項17】 金属表面を処理する接着促進組成物であって、該組成物は、0.1〜20.0重量%の過酸化水素、無機酸、0.5〜2.5重量%の有機腐食防止剤、カチオン界面活性剤及び脱イオン水を含み、該組成物は該金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するものである、ことを特徴とする組成物。
【請求項18】 過酸化水素の濃度が1〜4重量%の範囲内である請求項17記載の組成物。
【請求項19】 界面活性剤が、第四級アンモニウム界面活性剤、好ましくはエトキシ化脂肪族アミン、より好ましくは、塩化イソデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムおよび塩化イソトリデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムから選ばれ、該界面活性剤が、少なくとも0.001重量%、好ましくは少なくとも0.005重量%、または0.01重量%を超える場合さえあり、5重量%以下、好ましくは3重量%以下、好ましくは2.5重量%以下の量で組成物中に存在する請求項17もしくは18記載の組成物。
【請求項20】 腐食防止剤が、トリアゾール、テトラゾールおよび/またはイミダゾールを含む、請求項17〜19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】 過酸化水素のための安定剤を含む請求項17〜20のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】 安定剤が、スルホン酸、アルコール、脂肪族アミンおよびそれらの塩、アルコキシアミン、脂肪族の酸アミン、ならびに脂肪族イミンから選ばれる請求項21記載の組成物。
【請求項23】 酸が硫酸である請求項21または22記載の組成物。

第四.当審で通知した無効理由について
1.当審において引用した刊行物とその記載事項の概要
平成14年4月10日付で、当審より両当事者に通知した無効理由で引用された、本件特許に係る優先日より前に頒布された刊行物と、その記載事項の概要は次のとおりである。
[引用刊行物]
第1引用例:特公昭58-17266号公報(甲第3号証のファミリー文献)
第2引用例:米国特許第4956035号明細書(甲第4号証)
第3引用例:特開昭63-219192号公報
第4引用例:特開平2-292032号公報
第5引用例:特開平4-349466号公報
第6引用例:特開平3-140483号公報
第7引用例:特開昭62-96303号公報(甲第1号証のファミリー文献)
(1)第1引用例の記載事項(a〜d)
記載事項a
「本発明は銅及び銅合金を、例えばハンダ付け、化学艶出しまたは電解艶出し、ラッカー塗装および電気メッキ等の処理を行う前にその表面から酸化物を除去して該表面を清浄にするための酸洗浄溶液に関するものである。」(第1頁第1欄第36行〜同第2欄第3行)
記載事項b
「置換トリアゾール、好ましくはベンゾトリアゾールおよび(または)・・・第三脂肪族アミンを添加することによって、有機錯化剤を含有する酸洗浄溶液中の過酸化水素の安定性をさらに向上させることができる。
上述の窒素化合物を用いると均一化効果が得られる。
本発明によると該溶液は硫酸または燐酸のような鉱酸を一種またはそれ以上と過酸化水素とクエン酸またはグルコン酸のようなオキシ酸とを、置換されたトリアゾールおよび(または)・・・第三アミンとを組み合わせたものを含有する。」(第1頁第2欄第28行〜第2頁第3欄第16行)
記載事項c
「例2
濃硫酸 50g/l
クエン酸 25g/l
過酸化水素35% 25g/l
例1の表面活性剤 0.5g/l
ベンゾトリアゾール 0.25g/l
操作条件:
温度 30℃
処理時間 2分」(第2頁第3欄第38行〜同第4欄第2行)
記載事項d
「(2)オキシ酸を濃度5〜100g/lのクエン酸にし、前記第1項に記載の溶液。
(3)過酸化水素2〜50g/lを含有する前記第1項に記載の溶液。
(4) ・・・脂肪族アミン0.01〜5g/lを含有する前記第1項に記載の溶液。
(5)ベンゾトリアゾール0.01〜5g/lを含有する前記第1項に記載の溶液。
(6)硫酸5〜12.5g/lを含有する前記第1項に記載の溶液。」(第3頁第6欄第11〜24行)
(2)第2引用例の記載事項(e〜g)
記載事項e
「エッチング成分、4級アンモニウムカチオン界面活性剤および可溶化用第2界面活性剤からなる組成物で処理することにより金属表面への有機化学材の接着性が向上する。」(第1頁右「アブストラクト」欄)
記載事項f
「本発明では、金属表面と有機化合物、特に、ポリマー又は樹脂、の間の接着性が4級アンモニウムカチオン界面活性剤を含有する温和なエッチング溶液でエッチングすることで高められる。意外にも有効量の4級アンモニウムカチオン界面活性剤を用いてエッチングすると、粗面よりむしろ平坦なつや出し面がもたらされる。従って、この技術は見える状態の金属表面に有機化合物を接合するのに特に有用である。」(第2欄第11〜20行)
記載事項g
「エッチング用組成物という用語は、金属表面と反応して微細なくぼみを形成しうる、一般的には水溶液である組成物をいう。その典型例はHCl、パーオキシ硫酸又はパーオキシ燐酸、又は硝酸中にFeCl3又はCuCl2をとかした溶液である。」(第2欄第42〜48行)
(3)第3及び第4引用例の記載事項(h)
第3引用例(第1頁左下欄第16行〜同右下欄第4行)には、金属と樹脂との接着力を高めるために、金属表面を「化学的にエッチングし粗化」する「アンカー効果」を利用する旨の記載があり、また、第4引用例(第2頁右上欄第11〜16行)には、「酸性水溶液により酸洗を行うため、鋼板表面の酸化物、異物等を除去し、清浄化された金属面を出し、さらに粒界をエッチングすることによりアンカー効果を生じ、その表面の凹凸が有効に作用して樹脂の鋼板に対する密着性が良くなる」という記載がある。
(4)第5及び第6引用例の記載事項(i)
第5引用例(第1頁左下欄第4〜6行、第2頁第1欄第31〜39行、第2欄第2〜4行)及び第6引用例(第2頁右下欄第9〜16行)には、銅配線や銅箔の表面を硫酸等の水溶液で処理して、当該表面上の酸化物を除去することを、「エッチング」、あるいは「ソフトエッチング」と称する旨が記載されている。
特に、第6引用例の上記指摘箇所には、「処理液中の硫酸と過酸化水素によるソフトエッチング作用によって、銅箔の表面の酸化物などの不純化合物や汚れなどを除去すると共に銅箔の表面に微細な粗面を形成させることができる」という記載がある。
(5)第7引用例の記載事項
第7引用例には、「過酸化水素溶液の安定化方法」に関し、スルホン酸、アルコール、アミンやイミンを用いることが従来から知られている旨の記載がある。(第2頁右上欄第1〜20行参照)

2.発明の対比
上記の第三.で認定した本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という)と、上記第1引用例の記載事項とを対比する。
第1引用例の上記の記載事項aは、「金属表面を処理」する方法について言及したものと解しうるし、同記載事項b〜dにおいて、当該処理のための「溶液」には、「硫酸または燐酸のような鉱酸」、「過酸化水素」、「ベンゾトリアゾール」、「表面活性剤」が含有されることが明示され、そのうちの、過酸化水素の含有量については、「2〜50g/l」とされており、本件発明1における過酸化水素含有量「0.1〜20重量%」とは、明らかに重複する範囲があると認められ、当該重複する範囲においては本件発明1と一致しているといえる。
そして、上記の「硫酸または燐酸のような鉱酸」が「無機酸」であることは明らかであるし、「ベンゾトリアゾール」は、本件請求項6で、有機「腐食防止剤」の「最も好まし」い例として挙げられているものである。
更に、「表面活性の強い物質は界面活性剤」であるとされるから(「岩波理化学辞典」第5版、1998年、岩波書店、「表面活性」の項参照)、上記の「表面活性剤」は「界面活性剤」とみることができる。
また、本件発明1でいう、「微細粗面化された変換被覆した表面」とは、「銅表面が溶解され、次いでこの溶解した銅が接着促進組成物中の有機腐食防止剤と反応して錯体を形成し、この錯体によって薄膜状に被覆された銅表面」をいうが(答弁書第3頁1〜4行)、第1引用例記載の表面処理用溶液に含有される「ベンゾトリアゾール」は、上記のとおり「有機腐食防止剤」であるから、第1引用例記載の表面処理用の溶液を「銅及び銅合金」の表面に作用させることによって、当該「銅及び銅合金」の表面には、たとえわずかな状態ではあるにしても、「微細粗面化された変換被覆した表面」が形成されるとみるのが相当である。(以上のように「微細粗面化された変換被覆した表面」が形成されるとみるべき根拠については、下記の4.(1)及び(3)も参照されたい。)
そうすると、第1引用例記載の表面処理用溶液は、「金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するもの」といえるし、したがって、同引用例には、実質上、「金属表面を処理して微細粗面化された変換被覆した表面を形成する方法」の開示があるものと認められる。
以上の対比関係から、本件発明1と第1引用例記載の発明との間の一致点及び相違点を次のとおりに認定する。
<一致点> 「金属表面を処理して微細粗面化された変換被覆した表面を形成する方法であって、該方法は、該金属表面を、[2〜50g/l]と[0.1〜20重量%]との重複する範囲の過酸化水素、無機酸、有機腐食防止剤および界面活性剤を含む組成物と接触させることを含み、ここで該組成物は該金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するものである、方法。」
<相違点> 金属表面を処理する組成物が、本件発明1は「接着促進」組成物であるのに対して、第1引用例には「接着促進」に関する明確な言及がない点。

3.相違点の検討
第1引用例における上記記載事項aで言及されている、銅や銅合金の「表面から酸化物を除去」する作用は、上記第2〜第6引用例の記載事項f〜iによれば、化学的なエッチング作用とみることができ、その作用によって、「粗面よりむしろ平坦なつや出し面がもたらされ」たり(f)、「銅箔の表面の酸化物などの不純化合物や汚れなどを除去する」と共に(i)、銅箔の表面に「微細なくぼみ」(g)や、「微細な粗面」(i)を形成させることができる」(第6引用例)ものと解される。そして、エッチング処理により粗化された金属表面が、合成樹脂などとの接着力を高める「アンカー効果」を備えていることは、上記第3及び第4引用例の記載事項hにも指摘されているように当業者において周知の技術事項である。
しかも、上記記載事項a中の「銅及び銅合金」に対する「ラッカー塗装」の前処理は、銅などの表面に、ラッカーが「接着」するのを促進するための工程とも解しうる。
そうすると、第1引用例に記載された金属表面を処理するための溶液を、「接着促進」のために用いることは当業者が容易に想到できる設計事項といえる。

4.作用効果について
(1)被請求人は、答弁書第10頁第11〜28行において、甲第3号証(第1引用例に対応するもの)の「例2」や「溶液4」に記載されている組成の溶液では、ベンゾトリアゾールの濃度が低いことやクエン酸を含有しているために、「金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面」が形成されることはない旨の主張をしている。
しかし、第1引用例記載では、「ベンゾトリアゾール0.01〜5g/lを含有する」という記載(記載事項d)があり、本件発明で、「特に望ましい結果」が「達成される」とする、「少なくとも0.1重量%」(【0031】参照)を越える量(「5g/l」は、約0.5重量%)とすることも示されているし、第1引用例記載の処理溶液では、「クエン酸の存在」によって「溶解した銅イオンと有機腐食防止剤の錯体形成」を「妨害」することがあるとしても、当該処理溶液を適用した金属表面に、「微細粗面化された変換被覆した表面」が全く形成されないと考えるのは合理的ではない。
なお、このような判断は、後述するように、被請求人が提出した乙第9号証の実験結果によっても裏付けられているといえる。
(2)被請求人は、第1引用例記載の組成物では、「微細粗面化された変換被覆した表面」を形成することができないとして(平成14年10月17日付審判事件意見書、第3頁第21行〜第6頁第14行参照)、そのことを示すための実験結果(乙第7ないし9号証)を提出しているが、上記意見書に添付された、乙第7ないし9号証の訳文によれば、当該各乙号証の趣旨は次のようなものである。
乙第7号証:プリント回路板の製造に使用される標準的な銅箔サンプルを用意して、本件発明に係る組成物と第1引用例に係る組成物のそれぞれについて、「室温で2分間浸漬」する実験を行ない、第3の銅箔サンプルは未処理とした。(各組成物の内容は、訳文第3頁に記載)
本件発明に係る組成物の溶媒には「脱イオン水を使用」し、第1引用例に係る組成物の溶媒には「通常の水道水を使用」した。
乙第8号証:上記実験で処理された、または未処理の銅箔サンプルの「各々の表面を走査型電子顕微鏡を用いて試験した」ところ、本件発明に係る組成物で処理した「PC7023サンプル」の表面のイメージは「微細粗面化された表面の記載及び説明とよく整合しているように思われる」が、「未処理サンプル」又は「例2サンプル」(第1引用例に係る組成物で処理したもの)の「イメージにおいては、そのような微細粗面化された表面の証拠は何もないように思われる。」
乙第9号証:上記の各サンプルを、「X線光電子分光法(XPS)」と、「オージェ電子分光計(AES)」を使用して試験した。
XPSについては、「窒素チャートは、未処理Cuではピークが観察されず、例2のサンプルでは小さなピークを、PC7023のサンプルでは大きなピークを示し」た。
AESについては、「例2サンプルのAESプロットのプロフィルは、非常に薄い有機被膜が例2サンプルの銅表面に認められることを示唆」しており、「PC7023サンプルは表面からかなりの深さまで、有機材料が存在していることを示唆している。」
(3)上記の乙第7〜9号証についての当審の見解は次のとおりである。
先ず、乙7号証についてみると、一方の組成物の溶媒に「脱イオン水を使用」し、他方の組成物の溶媒には「通常の水道水を使用」したというのであるから、そのように実験の前提条件が異なる以上、それぞれの組成物に対応する処理の結果に相違が生じたとしても、その相違が(溶媒を除いた)組成物の相違に起因するものとは一概にはいえない。しかも、「室温で2分間浸漬」という条件(温度及び時間)も、第1引用例の記載(記載事項c)に基づくものではあろうが、表面処理用溶液が、「金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するもの」であるか、当該能力を「全く有さない」ものであるかを調べる実験としては十分なものとはいえない。(処理温度や時間を変えた場合にどのようになるのかも実験すべきである。例えば、本件請求項12では、処理温度について「75℃まで」とされている。)
次に、乙第8号証では、(第1引用例に係る組成物で処理した)「例2サンプル」について、「微細粗面化された表面の証拠は何もないように思われる」としている。
しかし、第1引用例に係る組成物は、1リットルあたり50gの濃硫酸を含む「酸洗浄溶液」(記載事項a及びd参照)であって、この濃硫酸の単位容量(1リットル)あたりの含有量は、第3、第4、第6の各引用例に示されている量より少ないものではあるが、硫酸のような強酸を相当量含む組成物で処理したときには、金属表面は多少とも粗面化されるとするのが一般的な技術常識であって、第1引用例に係る組成物によっても、浸漬の時間や温度等、処理条件の如何によっては、必要な粗面化を行うことは十分可能と推測される。また、第1引用例には、「ベース金属を殆ど腐食せず」という記載(第2頁第3欄第20行)も存在するが、これはわずかな腐食が生じていることを示した記載とも解しうるから、第1引用例に係る組成物で処理した場合には、金属表面の「微細粗面化」が全く生じないとみるのは妥当ではない。
しかも、上述(相違点の検討)で指摘したように、第1引用例に係る組成物による処理は「化学的なエッチング作用」を期待するもので、当該作用に基づく処理の目的には、銅箔等の表面に、合成樹脂などとの接着力を高める「アンカー効果」を奏するに足りる「微細な粗面」を形成することも含まれると解すべきであるから、乙第8号証に係る実験で、第1引用例に係る組成物で処理したものでは粗面化の程度が不足する結果が示されるというのであれば、上記のような処理条件(浸漬の時間や温度等)の変更や、硫酸を増量する等により、アンカー効果を奏するに足りる微細な粗面を形成させることは当業者が当然想到するところというべきである。
更に、乙第9号証に示される結果は、XPSに関して「窒素チャートは、未処理Cuではピークが観察されず、例2のサンプルでは小さなピーク」を示し、AESに関して、「非常に薄い有機被膜が例2サンプルの銅表面に認められることを示唆している」というのであるから、「例2サンプルの銅表面」には、「窒素」を含む「非常に薄い有機被膜」の形成が認められることになる。
そして、上記「窒素」は有機腐食防止剤に由来するとみるべきである(クエン酸は窒素を含まない)から、第1引用例に係る組成物で処理した「例2サンプル」の銅箔表面に認められる「非常に薄い有機被膜」は、「微細粗面化された変換被覆した表面」(「銅表面が溶解され、次いでこの溶解した銅が」「有機腐食防止剤と反応して錯体を形成し、この錯体によって薄膜状に被覆された銅表面」)であるとみるのが合理的である。
(4)本件明細書(【0055】〜【0059】)の実施例9及び実施例10では、本件発明に係る表面処理を施したPCBについて、層間剥離やブリスタリング発生の試験をしているが、第1引用例記載の処理溶液による表面処理を施したPCBや、図2に示されるような従来の表面処理を施したPCBと比較した場合の、層間剥離やブリスタリング発生の結果に格別の相違があると認めるべき根拠は示されていない。

5.本件発明1(本件請求項1の発明)の発明容易性について
上記3.における検討のとおり、本件発明1と第1引用例記載の発明との相違点は、当業者が容易に想到できる設計事項といえるし、また、上記4.で検討したとおり、本件発明1の作用効果も格別のものとはいえないから、本件発明1は、第1引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとみるべきである。

6.請求項2以下の発明に対する判断
(1)請求項2〜6について
請求項2〜6で規定される事項は、いずれも、上記第1引用例に記載されている事項、あるいは本件明細書でも言及されている公知技術であって、請求項2〜6の発明も、本件発明1と同様に、第1引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)請求項7について
請求項7では、腐食防止剤が、接着促進組成物の総重量に対し、「0.5〜5重量%」存在することが規定されている。
上記の腐食防止剤の含有量に関して、第1引用例(記載事項d)では溶液1リットルあたりの最大量を5g(約0.5重量%)としているが、第1引用例と同様に、「過酸化水素と硫酸または硝酸を含む水溶液」に腐食防止剤である「アゾール類」を添加して、「銅および銅合金の化学研磨」用の溶液とする、特公昭53-32341号公報(甲第2号証参照)に記載されているものでは、溶液1リットルあたりのアゾール類の最大量を10g(約1重量%)とすることが示されている(同公報第1頁第2欄第27〜29行、第2頁第3欄第38〜43行)。また、有機腐食防止剤の含有量を増大させることによる優位性は第7引用例(第5頁左上欄最下行〜右上欄下から3行目参照)にも示唆がある。
そうすると、腐食防止剤の含有量を、接着促進組成物の総重量に対して0.5重量%を越える量とするのは想到不可能あるいは格別困難なこととはいえず、また、最大で5重量%にとどめることも同様であって、しかも、上述のように、本件明細書によれば、腐食防止剤は「少なくとも0.1重量%」が存在すれば、「特に望ましい結果」が「達成される」し、「好ましくは濃度は5%未満、または1%未満でさえある」というのであるから(【0031】参照)、「0.5〜5重量%」という数値限定が格別の技術的な意義をもつものとも認められない。
したがって、請求項7の発明も、本件発明1と同様に、第1引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(3)請求項8、9について
請求項8、9では、「界面活性剤」に関し、「カチオン界面活性剤」あるいは「エトキシ化脂肪性アミン」の「第四級アンモニウム界面活性剤」であることが規定されているが、上記のとおり第2引用例の記載事項e〜gにおいて、エッチング成分と共に「4級アンモニウムカチオン界面活性剤」を用いることにより、「金属表面への有機化学材の接着性が向上する」旨の記載があり、「第四級アンモニウム界面活性剤」の優位性は本件特許に係る優先日前に当該技術分野において既に指摘されているといえるし、エトキシ化脂肪性アミン(エトキシル化脂肪族アミン)は界面活性剤の素材として周知のもの(特開平2-17104号公報、特開昭50-51984号公報参照)であるから、そのような界面活性剤を、第1引用例に記載されているエッチング成分と共に用いることは通常想到されるところである。
そうすると、第1引用例記載の金属表面処理溶液に含有させる界面活性剤として、「カチオン界面活性剤」あるいはエトキシ化脂肪性アミンの「第四級アンモニウム界面活性剤」を採用することは格別困難とはいえない。
したがって、請求項8及び9の発明は、上記第1及び第2引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)請求項10〜14について
請求項10〜14で規定される事項は、いずれも、上記第1引用例に記載されている事項、あるいは常套的な技術事項であり、当該請求項の発明は、第1引用例記載の発明、またはこれに加えて、第2引用例等に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)請求項15、16について
エッチングによる金属表面の粗化技術を、プリント配線板(請求項15または16の「PCB」に相当するもの)の製造に利用することは、第6引用例にも開示されているように(第1頁左下欄第14〜16行参照)、通常行われており、上述3.のとおり、基本的には「エッチング作用」を利用したものといえる第1引用例記載の金属表面処理の手法を、多層PCBの形成に採用することは格別困難とはいえない。
したがって、請求項15および16の発明は、上記第1引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)請求項17について
既に、請求項1及び請求項7、8に関して指摘したように、第1引用例記載の金属表面処理溶液を「接着促進組成物」とすること、当該処理溶液における腐食防止剤の含有量を「0.5〜2.5重量%」とすると共に、「カチオン界面活性剤」を用いることは、いずれも当業者が容易に想到できる設計事項といえるし、処理溶液の溶媒に「脱イオン水」を使用することは、当該技術分野における常套の技術事項である。
したがって、請求項17の発明は、上記第1及び第2引用例、更に上記指摘の周知技術を示す文献(特公昭53-32341号公報)記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)請求項18以下の発明について
請求項18〜23で規定される事項は、いずれも、上記第1引用例または第2引用例に記載されている事項、あるいは既に指摘した文献(特公昭53-32341号公報、特開平2-17104号公報、特開昭50-51984号公報)や上記第7引用例で言及されているような周知技術であって、当該周知技術を採用することに格別の技術的意義は認められないから、請求項18〜23の発明は、上記第1及び第2引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第五.むすび
以上のとおりであるから、本件いずれの請求項に係る発明も、上記指摘の引用例等に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して受けたことになるから、本件無効審判の請求には、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する正当な理由があり、本件特許は無効とすべきものである。
また、本件審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定により、民事訴訟法第61条の規定を準用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
銅コーティング
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属表面を処理して微細粗面化された変換被覆した表面を形成する方法であって、該方法は、該金属表面を0.1〜20重量%の過酸化水素、無機酸、有機腐食防止剤および界面活性剤を含む接着促進組成物と接触させることを含み、ここで該接着促進組成物は該金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するものである、ことを特徴とする方法。
【請求項2】 金属が、銅または銅合金、好ましくは銅、より好ましくはドラム側面処理による銅箔である請求項1記載の方法。
【請求項3】 過酸化水素が、1.0〜4.0重量%の過酸化水素という濃度で接着促進組成物中に存在する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】 無機酸が、リン酸、硝酸、硫酸またはそれらの混合物、好ましくは硫酸である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】 組成物中の酸の濃度が、1〜50%、好ましくは9〜20%の範囲内にある請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】 腐食防止剤が、トリアゾール、テトラゾールおよび/またはイミダゾール、好ましくはトリアゾール、最も好ましくはベンゾトリアゾールである請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】 腐食防止剤が、接着促進組成物の総重量に対し、0.5〜5重量%の量で接着促進組成物中に存在する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】 界面活性剤が、カチオン界面活性剤、好ましくは第四級アンモニウム界面活性剤である請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】 第四級アンモニウム界面活性剤がエトキシ化脂肪性アミン、好ましくは塩化イソデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムおよび塩化イソトリデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムから選ばれる、エトキシ化脂肪性アミンである請求項8記載の方法。
【請求項10】 界面活性剤が、少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.5重量%で、5重量%以下、好ましくは3重量%以下、最も好ましくは2.5重量%以下の量で組成物中に存在する請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】 金属表面を、いかなる前処理もなしに接着促進組成物に接触させる請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】 75℃まで、好ましくは15〜35℃の範囲、最も好ましくは20〜30℃の範囲の温度で実施される請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】 接触時間が、10秒〜10分の範囲、好ましくは30秒〜2分の範囲である請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】 微細粗面化した変換被覆した表面に、続いて高分子材料を接着し、接着促進段階と高分子材料を接着する段階との間に全く段階を置かないか、またはただ一回の洗浄および/もしくは乾燥段階を置く請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】 少なくとも1層の絶縁層および少なくとも1層の導電層を含む内層と、少なくとも1層の絶縁層を含む外層とを含む多層PCBを形成する方法であって、処理される金属表面が導電層である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】 接着促進段階の後、プレプレグ層を導電層に直接隣接して配置し、これら2層を接着段階で相互に接着して、多層PCBを形成する請求項15記載の方法。
【請求項17】 金属表面を処理する接着促進組成物であって、該組成物は、0.1〜20.0重量%の過酸化水素、無機酸、0.5〜2.5重量%の有機腐食防止剤、カチオン界面活性剤および脱イオン水を含み、該組成物は該金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するものである、ことを特徴とする組成物。
【請求項18】 過酸化水素の濃度が1〜4重量%の範囲内である請求項17記載の組成物。
【請求項19】 界面活性剤が、第四級アンモニウム界面活性剤、好ましくはエトキシ化脂肪族アミン、より好ましくは、塩化イソデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムおよび塩化イソトリデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムから選ばれ、該界面活性剤が、少なくとも0.001重量%、好ましくは少なくとも0.005重量%、または0.01重量%を超える場合さえあり、5重量%以下、好ましくは3重量%以下、好ましくは2.5重量%以下の量で組成物中に存在する請求項17もしくは18記載の組成物。
【請求項20】 腐食防止剤が、トリアゾール、テトラゾールおよび/またはイミダゾールを含む、請求項17〜19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】 過酸化水素のための安定剤を含む請求項17〜20のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】 安定剤が、スルホン酸、アルコール、脂肪族アミンおよびそれらの塩、アルコキシアミン、脂肪族の酸アミン、ならびに脂肪族イミンから選ばれる請求項21記載の組成物。
【請求項23】 酸が硫酸である請求項21または22記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
プリント回路板(PCB)の製造の際は、第一の(多段階)段階で「裸板」を作製し、第二の(多段階)で、その板に様々な部品を取り付ける。本発明は、裸板を製造する第一段階に関し、そして多層板内の接着を改良するために、接着促進段階を与えることに関する。
【0002】
【従来の技術】
多層板は、少なくとも1層の絶縁層、および導電性回路の図形(パターン)を含む少なくとも1層の導電層を含む。したがって、導電層は、一般に、回路の図形の形態での不連続な下(サブ)層である。板は、導電性のパッドおよび/または通し穴を有してもよい。導電層の図形ならびに導電パッドおよび/または通し穴は、一般に、銅で形成される。絶縁層は、一般に、エポキシ系樹脂で結合されたファイバーグラスで形成される。
【0003】
一般に、裸板は、1層の内層および少なくとも1層の外層から形成される。PCB産業で用いられる、内層という表現は、一般に、少なくとも2層の(絶縁層および導電層を含む)、または、より一般的には、3層:すなわち中心の絶縁層、および両側の銅の導電層からなる複合材を指す。外層はプレプレグであってよく、単一の絶縁層であってよい。あるいは、外層は、絶縁層と導電層の双方を含んでもよい。
【0004】
PCBの製造の際は、外層の絶縁層が最も内側にあって、内層の導電層を接触させるように、少なくとも1層の外層を内層の導電層に接着する。
【0005】
好ましくは、少なくとも1層の内層および少なくとも2層の外層から多層板を形成し、外層の一方を内層の導電層のそれぞれに接着することになる。
【0006】
銅の導電層および絶縁層を互いに永久的に結合させようとする際に、充分に強力な結合を与えるのは困難であることが判明している。弱い結合が形成されるならば、構成部品を板に取り付ける第二の製造段階の間か、またはその後の使用の際に、板の層間剥離が生じることがある。特に、銅の表面は、大気に露出すると酸化して、その表面に変色した層を形成する傾向がある。この変色した層に絶縁層を直接接着するならば、結合は弱くなり、結果的に破損することになる。この問題を克服する多くの方法が提案されているが、最も一般的に用いられる方法は、変色した層を除去し、黒色または褐色酸化物として公知の、強力に接着する酸化銅の層を形成することである。
【0007】
接着の準備として、黒色または褐色酸化物の層を銅表面に形成するには、一般に、銅表面を、浄化段階、洗浄段階、苛性アルカリによる予備洗浄および酸化物加工段階に順次に付す。酸化物加工段階では、一般に、温度は50℃以上であり、酸化液との接触時間は5〜7分である。この接触時間、および比較的高い加工温度は、高いエネルギーの必要性、および必要とされる時間の長さが加工コストを上昇させるため、不都合である。加えて、望ましくないまでに多数の工程段階が存在する。
【0008】
しかしながら、黒色または褐色酸化物の層は、銅に充分に接着し、良好な表面粗さを有する表面も形成する結果、隣り合う絶縁層への接着が効果的になる。単純化され、好ましくは、そのような高温またはそのような長い加工時間も必要としない方法を用いて、銅との良好な接着、および良好な表面粗さを与える表面を形成して、隣り合う絶縁層(または他の有機皮膜の層)への接着を与えることは、望ましいと思われる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
酸性過酸化物の溶液の利用を伴う金属処理は、公知である。例えば、カナダ国特許第1,250,406号明細書では、金属の酸洗いまたはつや出しのための過酸化水素を含む溶液を用いて、鉄、銅もしくはそれらの合金のような金属を処理する。過酸化水素溶液は、一塊の固形安定剤と、それに加えて、場合により、ベンゾトリアゾールのような腐食防止剤、およびアニオンまたは非イオン界面活性剤とを用いて安定させる。
【0010】
過酸化水素の分解は問題であることから、それぞれ異なるタイプの安定剤系を含む、過酸化水素系の多くの組成物が開発されている。
【0011】
過酸化水素に基づく浄化またはつや出し組成物は、例えば、例えば金属ワイヤを浄化するための過酸化水素、硫酸およびアルコール安定剤を含む組成物を開示する米国特許第3,556,883号明細書に記載されている。その他の類似の浄化組成物は、米国特許第3,756,957号明細書に記載されていて、ここでは過酸化水素のための安定剤が、脂肪族アミンおよびそれらの塩、アルコキシアミン、脂肪族の酸アミンならびに脂肪族イミンからなる群から選ばれる。
【0012】
PCB産業で用いるのに、そのような組成物は公知であり、銅の回路図形を形成するエッチング段階:すなわち絶縁層に積層した1層の導電性の箔、一般的には銅箔を、望みの最終的な回路図形に対応する図形中に部分的に保護する段階に用いるべき腐食剤組成物として記載されている。次いで、箔をエッチング液に接触させ、箔の保護されていない部域を食刻して除去し、望みの回路図形を残す。エッチング工程では、過酸化水素系の組成物に接触させた金属箔を食刻して、完全に除去する。このタイプの腐食剤組成物および工程は、例えば米国特許第4,144,119号、第4,437,931号、第3,668,131号、第4,849,124号、第4,130,454号、第4,859,281号および第3,773,577号の明細書に記載されている。後二者の参照文献では、エッチング組成物はトリアゾールも含み、エッチング組成物によって達成される金属溶解の速度を高めている。
【0013】
英国特許第2,203,387号の明細書では、銅のエッチング工程は、食刻浴の再生段階とともに記載されている。銅で形成された導電層に追加の銅の増厚層を電気めっきする前に、PCBの銅表面を浄化するために、湿潤剤を包含する安定剤を含む過酸化水素のエッチング組成物が開示されている。電気めっき段階の後、フォトレジストまたはスクリーンレジストを施す。
【0014】
米国特許第4,051,057号の明細書(およびドイツ国公開特許第2,555,809号公報)では、金属、例えば銅の表面をつや出し/酸洗いするための光沢浸漬組成物が、硫酸、ヒドロキシ酸、例えばクエン酸、過酸化水素、トリアゾールおよび/または第三級脂肪性アミンを含む。最終製品には「孔食」があってはならない。界面活性剤の組込みは、表面からの酸化物のエッチング/除去の速度を高めるためと言われるが、ベンゾトリアゾールの組込みは、「平滑化効果」を改良するためと言われる。
【0015】
米国特許第3,948,703号の明細書では、過酸化水素、酸およびアゾール化合物を含有する化学的な銅のつや出し組成物が記載されている。この組成物は界面活性剤も含有してよく、実施例では、非イオン界面活性剤が用いられる。
【0016】
米国特許第4,956,035号の明細書では、金属表面に対する化学的なつや出し組成物が、エッチング組成物、例えば塩化第二鉄またはペルオキシ硫酸を、第四級アンモニウムのカチオン界面活性剤および二次界面活性剤とともに含む。
【0017】
英国特許第2,106,086号の明細書では、銅表面を食刻するか、化学的に研削するか、または光沢浸漬するために、過酸化水素/酸組成物が用いられる。この組成物はトリアゾール化合物を含有して、それらを重金属イオンによる分解に対して安定化している。
【0018】
特開平6-112646号の明細書では、銅表面を粗面化して、多層PCBの製造の際に積層品の接着を改良している。粗面化は二段階の工程によって実施するが、それぞれの工程では過酸化水素/硫酸組成物による処理を伴う。両組成物とも、腐食防止剤を含んではならない。
【0019】
特開平3-140481〜140484号の明細書では、積層の前に銅表面を過酸化水素/硫酸組成物で前処理して、粗面化表面を形成する。140484号の明細書では、組成物は、Mekki Co.が製造する添加物(CB-896)を含有するが、これは工程を促進し、ペルオキシドの分解を阻害すると言われる。
【0020】
米国特許第3,773,577号の明細書では、硫酸および過酸化水素に基づく銅腐食剤は、第一級または第三級アミンがその例である脂肪族アミンを含有する。アミンは界面活性ではない。特開平3-79778号の明細書では、硫酸および過酸化水素に基づく銅腐食剤は、アルコールまたはグリコールとともにトリアゾールおよび塩化物イオンを含有する。特開昭51-27819号の明細書では、過酸化水素および硫酸に基づく銅腐食剤は、テトラゾールおよび、場合により、第三級アミンまたはアルコールを含有する。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、過酸化水素含有水性組成物を銅表面に用いることは、微細に粗面化され、多層PCBの製造に要求されるような有機層との特に強力な結合を形成できるのに充分に良好な多孔性を有する、浄化された銅表面を形成することを驚異的にも見出した。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、金属表面を処理する方法であって、微細粗面化された、変換被覆した表面を形成するための接着促進段階に、0.1〜20重量%の過酸化水素、無機酸、有機腐食防止剤および界面活性剤を含む接着促進組成物に該表面の導電層を接触させることを含む方法が提供される。
【0023】
本発明の方法は、内層および外層を含み、内層は少なくとも1層の絶縁層および少なくとも1層の導電層を含み、外層は少なくとも1層の絶縁層を含む多層PCBを形成するのに特に役立ち、導電層が、本発明でその表面が処理される金属である。接着促進段階の後、高分子材料を内層の導電層に直接接着するのが好ましい。高分子材料は、外層の絶縁層であってもよく、または外層の絶縁層に直接接着するためのものであってもよい。
【0024】
本発明の方法は、通常はPCBの製造の際に、光結像可能樹脂、はんだマスク、接着剤または重合体性食刻レジストのような高分子材料がそれへの改良された接着を有する、粗面化された表面を与えるために用いてもよい。
【0025】
この方法は、金属が銅または銅合金である場合に特に好適である。以下は、銅表面への適用を参照することによって本方法を説明するが、他の金属にも用い得ることを理解しなければならない。本発明の方法は、従来の技術の方法におけるような、黒色または褐色の銅酸化物の層を形成する必要性を克服することから、特に好都合であることが見出されている。上記に説明したとおり、内層および/または外層(場合により、一面が導電層で被覆されている)は、一般的に銅または銅合金を含む。
【0026】
接着促進組成物は、過酸化水素、無機酸、好ましくはトリアゾール、テトラゾールおよびイミダゾールから選ばれる、1種類以上の有機腐食防止剤、ならびに界面活性剤、好ましくはカチオン界面活性剤を含む水性組成物である。
【0027】
接着促進組成物は、粗面化された、変換被覆した表面を形成することが見出されている。原子表面分析から、この皮膜は、銅と腐食防止剤との錯体を導電層上に含むと考えられる。この皮膜は、より大きな表面積を与えるため、隣り合う有機皮膜との良好な接着を形成できると考えられる。
【0028】
過酸化水素は、少なくとも0.01重量%の活性過酸化水素、好ましくは少なくとも1.0重量%の過酸化水素という濃度で接着促進組成物中に存在する。過酸化水素の濃度は、20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、最も好ましくは4重量%以下である。接着促進組成物中の過酸化水素の濃度が高過ぎるときは、導電層の粗面化表面の構造は、多少ともサンゴ状の構造を形成するが、これは、所望の粗面化効果より脆いため、より低濃度の過酸化水素を用いたときよりも弱い結合を形成する。過酸化水素の最も好適な濃度は、接着促進組成物の0.5〜4重量%である。
【0029】
接着促進組成物中の無機酸は、リン酸、硝酸、硫酸またはそれらの混合物によって与えられるのが好ましい。硫酸が特に好適である。組成物中の酸の濃度は、一般的には、組成物の少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも8重量%、最も好ましくは少なくとも9重量%である。一般に、組成物中の酸の濃度は、組成物全体の50重量%以下、好ましくは30重量%以下、最も好ましくは20重量%以下であると思われる。
【0030】
腐食防止剤は、普通、トリアゾール、テトラゾールおよびイミダゾールのうち1種類、または1種類以上の混合物から選ばれる。トリアゾールは特に好適であり、場合により置換された、ベンゾトリアゾールが最も好適である。適切な置換体は、例えば、炭素原子数1〜4のアルキルによる置換体である。
【0031】
腐食防止剤は、少なくとも0.0001重量%、好ましくは少なくとも0.0005重量%の量で接着促進組成物中に存在するのが好ましい。特に望ましい結果は、少なくとも0.1重量%の、より好ましくは0.5重量%を超え、ときには1重量%を超える濃度で達成される。一般に、腐食防止剤は、接着促進組成物の総重量の20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%未満の量で組成物中に存在すると思われる。5%を超えるような高い濃度は、加工時間の短縮を可能にできるために望ましい可能性がある。しかし、好ましくは、濃度は5%未満、または1%未満でさえある。
【0032】
界面活性剤は、好ましくは、カチオン界面活性剤、通常はアミン界面活性剤である。最も好ましくは、第四級アンモニウムの界面活性剤であり、1種類またはそれ以上のエトキシ化脂肪性アミンが好ましい。好ましくは、界面活性剤は、炭素原子数10〜40の界面活性剤、すなわち、少なくとも1個(好ましくは1個)の炭素原子数10〜20のアルキル基を含む界面活性剤である。適切な界面活性剤は、少なくとも1個、好ましくは2個のヒドロキシ低級アルキル基、すなわち炭素原子数1〜4のヒドロキシアルキル基、および1個、またはより好ましくない場合には2個の低級アルキル基、すなわち炭素原子数1〜4のアルキル基が窒素原子に結合している。特に好適な第四級アンモニウム界面活性剤は、塩化イソデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムおよび塩化イソトリデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムである。
【0033】
一般に、界面活性剤は、少なくとも0.001重量%、好ましくは少なくとも0.005重量%または0.01重量%の量でさえも該組成物中に存在すると思われる。一般に、界面活性剤は、5重量%以下、好ましくは3重量%以下、好ましくは2.5重量%以下の量で接着促進組成物中に存在すると思われる。界面活性剤の濃度を5%を超えて著しく増大させるならば、良好な接着促進を形成する微細粗面化表面は、均一性を欠く結果、良好な接着が導電層の表面全体には与えられないことがある。
【0034】
好ましくは、接着促進組成物中の界面活性剤の重量百分率は、該組成物中の腐食防止剤の重量百分率未満であると思われる。
【0035】
その他の任意の成分を該組成物中に組み込んでもよい。好適な追加成分は、過酸化水素のための安定剤を含む。適切な安定剤は、上記の特許中に記載されたものであってもよい。例としては、ジピコリン酸、ジグリコール酸およびチオジグリコール酸、エチレンジアミン四酢酸およびその誘導体、アミノポリカルボン酸のマグネシウム塩、ケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホスホン酸ナトリウムおよびスルホン酸ナトリウムがある。
【0036】
該組成物に安定剤を含ませるときは、安定剤は、接着促進組成物の0.001重量%または少なくとも0.005重量%の量でさえも存在するのが好ましい。一般的には、該組成物中には、5重量%以下、好ましくは1重量%以下で存在すると思われる。
【0037】
接着促進組成物は、好ましくは脱イオン水を用いて形成される水溶液中で、成分を混合することによって製造してよい。標準的な安全な実施によれば、希釈された形態で過酸化水素を組成物に加えることになる。接着促進組成物を形成する成分は、必要に応じて混合することになる。
【0038】
銅表面は、一般的にはいかなる前処理もなしに、接着促進組成物に接触させる。銅表面には、例えば、食刻レジストのストリッピングの直前の段階に用いられるレジストストリッピング組成物に変色防止剤を組み込むことによって、変色防止皮膜を予め与えておいてもよい。そのようなストリッパー中に用いられる変色防止剤は、例えばトリアゾールその他のコーティングである。そうであれば、組成物との接触の前に、銅表面をPC 7078またはPC 7087(Alpha Metals Limitedの商品名)のような酸性の予洗剤で予洗するのが望ましいことがある。好ましくは、接着促進組成物との接触の前に、銅表面は実質的に乾燥していると思われる。そのような洗浄段階とは別に、一般に、いかなる前処理段階を実施することも不要である。本発明の好適実施態様では、食刻レジストのストリッピング段階の直後に接着促進段階が続くか、または食刻レジストストリッピング段階と接着促進段階との間にただ一回の予洗段階が存在する。
【0039】
接着促進組成物との接触は、いかなる慣用手段、例えば、接着促進組成物の浴への浸漬もしくは吹付け、またはその他のいかなる接触手段によってもよい。接触は、連続工程の一部であってよい。
【0040】
一般的には、接着促進組成物との銅表面の接触は、75℃以下の温度においてであると思われるが、最も好ましくは、温度は50℃未満、例えば常温、例えば10〜35℃、通常は15℃より高く、最も好ましくは20〜30℃である。接触時間は、一般的には1秒以上、好ましくは5秒以上、頻繁には少なくとも10秒、最も好ましくは少なくとも30秒であると思われる。最長接触時間は10分までであってよいが、接触時間は5分以下であるのが好ましく、最も好ましくは2分以下である。約1分または1分未満の接触時間が特に好適である。そのような短い加工時間、すなわち2分未満の接触時間で、所望の結果を組成物が与え得ることは驚異的である。
【0041】
銅表面と接着促進組成物との接触時間が長過ぎるならば、溶解のために銅表面が食刻されることがあり、および/または微細粗面化表面を形成する微細な多孔性結晶質析出物以外の析出物が、導電性材料の表面に析出するであろうという危険性がある。
【0042】
この方法は、かなり減少した数の段階として黒色酸化銅の接着促進段階を置き換えるのに用い得ることから、特に好都合であることが判明している。形成される微細粗面化表面は、隣接する高分子皮膜、例えば、隣り合う絶縁層のエポキシ結合ファイバーグラス樹脂、またはレジスト材料との良好な接着を与える。本発明は、例えばPCT/GB94/02258に記載のような、結合性レジストと併用したときに特に役立つ。本発明は、処理される銅が、ドラム側面処理法で製造された箔であるときに特に役立つことも判明しているが、この工程は、片面または両面をこの方法で処理するが、好ましくは少なくともドラム側面を処理して、平滑なドラム側面に接着強化めっきを与え、もう一面は粗面とする。DSTFは、参照によって本明細書に包含される国際公開特許第9421097号公報に記載のとおりであってよく、そのため、本方法は、その明細書中で示唆された接着促進段階に追加して用いられる。したがって、箔は、そのドラム側面にのみ、好ましくは銅-亜鉛粒子からなる接着強化めっきを与えるにすぎない。箔は、平滑な表面に電着されていて、好ましくは、2.5〜500μmの範囲内の公称導電肉厚を有する。接着強化めっきで被覆されない粗い(またはつや消しの)側面は、10.2μm未満の粗さのR2値を有し、すなわち箔は低い特性の箔であるか、または5.1μmのR2値(すなわち非常に低い特性の箔)を有してよく、あるいは標準的な箔であって(すなわちいかなる粗さの値でも)よい。
【0043】
銅表面を接着促進組成物と接触させて微細粗面化表面を形成した後、一般に、プレプレグ層を銅表面に直接隣接して配置してよく、接着段階でプレプレグ層を銅表面に直接接着して、多層PCBを形成してよい。接着段階では一般に、熱を加えて接着反応を開始させる。接着段階では、機械的結合は、接着促進段階で与えられた微細粗面化表面への絶縁層の高分子材料の浸透による。プレプレグ層の代替策として、接着促進段階で製造される微細粗面化表面の上端に高分子材料を直接塗装するか、高分子フォトレジスト、スクリーンレジストであるはんだマスク、または接着性材料を直接塗装してもよい。
【0044】
上記のとおり、本発明は、微細食刻段階と、その後の、高分子層を銅に貼付するPCB製造段階との間に、アルカリ浸漬、酸化物および還元剤段階を包含する追加的な段階を必要とする多段階の微細食刻法の使用を回避する。接着促進段階に続いて洗浄段階を実施するのが望ましいこともあるが、水洗のみを実施するのが適切であることが多い。場合により、処理された表面を、その後乾燥する。本方法の好適実施態様によれば、その後、接着促進段階と高分子材料の接着との間に何らの中間段階もなしにか、またはただ一回の洗浄および/もしくは乾燥段階を伴って、微細粗面化表面に高分子材料を接着する。
【0045】
好ましくは、プレプレグ絶縁層は、微細粗面化表面に直接貼付してよく、接着段階では、少なくとも内層と外層とからなるPCBの多層積層品を形成することになるこれらの層をプレス内に置くことによって、圧力も加える。圧力を加える場合、それは、一般的には約0.7〜約2.8MPa(100〜400psi)、好ましくは約1.0〜約2.1MPa(150〜300psi)である。この接着段階の温度は、一般的には100℃、好ましくは120℃から200℃までである。接着段階は、一般的には5分〜3時間、最も普通には20分〜1時間のいかなる時間でも実施されるが、第一と第二の層の間に良好な接着を確保するのに充分な時間および圧力にわたり、充分に高い温度で実施される。この接着段階の際に、一般にエポキシ樹脂である絶縁層の高分子材料は、流動する傾向にあって、金属での導電図形が絶縁層の間に実質的に密封され、その後の水および空気の浸透が回避される。
【0046】
所望ならば、いくつかの層の積層を一段階で実施して多層板を形成するために、接着段階でいくつかの層を重ね合わせてもよい。理解されるように、本発明によれば、公知の方法にまさるかなり単純化された方法が提供され、銅またはその他の金属で形成される、良好な接着を有する導電性表面が得られる。
【0047】
本発明は、0.1〜20重量%の過酸化水素、無機酸、0.5〜2.5重量%の、好ましくはトリアゾール、テトラゾールおよび/またはイミダゾールを含む有機腐食防止剤、ならびにカチオン界面活性剤を含む接着促進組成物も包含する。特に好適な組成物では、該組成物は、上記のものから選ばれる、過酸化水素のための安定剤も含む。
【0048】
【実施例】
本発明の実施例を下記に示す:
【0049】
実施例1〜8
【0050】
表1に示した様々な重量百分率で成分を混合して水性組成物を形成することによって、接着促進組成物1〜8を製造した。
【0051】
図1は、接着促進処理なしで銅箔上に得られた表面のタイプを示す。図2は、上記に考察の化学洗浄剤を用いて得られた結果を示す。図3は、本発明に従って銅箔を処理した後に得られた結果を示す。
【0052】
標準的な銅箔は、平滑な表面の局所的形態を有する(図1)。過硫酸ナトリウムまたは塩化第二鉄に基づく化学的微細食刻洗浄剤の使用は、表面を化学的に修飾する。食刻性成分は表面を均一な様式では溶解せず、表面粗さを増大させる(図2)。本発明に記載された方法のメカニズムは全く異なる。この場合、銅は表面が溶解され、この銅が防止剤の成分と反応して表面に薄膜を形成する。この薄膜は、その反復的な構造から、結晶質の性質であると考えられる。薄膜の色は赤褐色であり、拡大下では特有の「ひび割れた泥」の外見を示すことが多い。高分子材料で得られる優れた接着のための主要点となるのは、この異例な表面の構造であると考えられる。材料は、表面の亀裂に流れ込んで、良好な下塗りを得ることができる。
【0053】
本発明に従って処理された銅箔の微細粗面化表面は、これらの結果から明らかである。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例9
【0056】
実施例1の溶液を用いて、銅で被覆したPCBの内層パネルを処理した。溶液は、約45℃で60秒の接触時間で用いた。パネルの半数をPolyclad DSTFoil(米国ニューハンプシャー州 West Franklin、Polyclad Laminates, Inc.の商標)中に被覆した。加工後、DSTFoilの試料は、標準的な銅箔で得られる色調よりはるかに暗い赤褐色の色彩を有するのが直ちに認められた。次いで、通常の手順に従って、4層のPCB内に内層をプレスした。PCBを仕上げ、次いで、業界の標準的な試験であるIPC-TM-650およびMIL-P-5511ODに従って、それぞれ「ピンクリング」および層間剥離について試験した。パネルはすべてこれらの試験に合格した。
【0057】
その後の試験では、標準的銅箔およびDSTFoil試料を実施例1の溶液で処理した。次いで、MIL-P-13949による剥離強さを試験する目的で、これらの箔をプレプレグ材料へと積層した。標準的な箔についての平均剥離試験値は、約98.3〜約116kg/m(5.5〜6.5lb/in)の範囲内であり、DSTFoilについての試験値は約116〜約134kg/m(6.5〜7.5lb/in)の範囲内であった。双方の箔はともに、一般的に許容されている約89.4〜約107kg/m(5〜6lb/in)の必要条件に等しいか、またはより良好な性能を示した(銅処理として慣用のアルカリ黒色酸化物法を用いて達成された)。
【0058】
実施例10
【0059】
はんだレジストを施す前に、代表的な単純片面PCBの試料を得た。1例は、機械的ブラシ掛け機を通過させ、もう1例は、実施例1の溶液で処理した。次いで、スクリーン印刷の手法を用いて、双方のPCBをUV硬化はんだレジスト(Alpha Metalsにより供給)で被覆した。はんだレジストをUV硬化させた後、ブラシ掛けしておいた試料を浸漬することによって、レジストの接着を試験し、はんだレジストの広汎なブリスタリングが示された。本発明で処理した試料は、PCB基板の熱分解が生じた、試験を終了した時点まで、ブリスタリングを全く示さなかった。
【0060】
その後の試験では、Dupont社からの光結像可能な乾燥薄膜のはんだマスクを用いて、上記を反復した。この場合も、接着の同様な改良が認められた。接着を強化するためにこの前処理を用いることは、結像後のはんだレジストの清浄な現像に干渉しないことも認められた。「レジスト拘束」として公知のこの問題は、他の接着促進法を用いた場合に存在してきた。
【図面の簡単な説明】
【図1】
接着促進処理なしで銅箔上に得られた表面の金属組織を示す顕微鏡写真。
【図2】
化学洗浄剤を用いて得られた表面の金属組織を示す顕微鏡写真。
【図3】
本発明に従って銅箔を処理した後に得られた表面の金属組織を示す顕微鏡写真。
 
訂正の要旨 a 願書に添付した明細書中の特許請求の範囲における請求項1について、
「【請求項1】 金属表面を処理する方法であって、微細粗面化された、変換被覆した表面を形成するための接着促進段階に、0.1〜20重量%の過酸化水素、無機酸、有機腐食防止剤および界面活性剤を含む接着促進組成物に該金属表面を接触させることを含む方法。」という記載を、
「【請求項1】 金属表面を処理して微細粗面化された変換被覆した表面を形成する方法であって、該方法は、該金属表面を0.1〜20重量%の過酸化水素、無機酸、有機腐食防止剤および界面活性剤を含む接着促進組成物と接触させることを含み、ここで該接着促進組成物は該金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するものである、ことを特徴とする方法。」という記載に訂正する。
b 同じく請求項7について、
「【請求項7】 腐食防止剤が、接着促進組成物の総重量の少なくとも0.0001重量%、好ましくは少なくとも0.0005重量%、より好ましくは少なくとも0.1重量%で、20重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%まで、最も好ましくは1重量%までの量で接着促進組成物中に存在する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。」という記載を、
「【請求項7】 腐食防止剤が、接着促進組成物の総重量に対し、0.5〜5重量%の量で接着促進組成物中に存在する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。」という記載に訂正する。
c 同じく請求項9について、
「【請求項9】 第四級アンモニウム界面活性剤が、好ましくは塩化イソデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムおよび塩化イソトリデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムから選ばれる、エトキシ化脂肪性アミンである請求項8記載の方法。」という記載を、
「【請求項9】 第四級アンモニウム界面活性剤がエトキシ化脂肪性アミン、好ましくは塩化イソデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムおよび塩化イソトリデシルオキシプロピルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムから選ばれる、エトキシ化脂肪性アミンである請求項8記載の方法。」という記載に訂正する。
d 同じく請求項14について、
「【請求項14】 微細粗面化した変換被覆した表面に、続いて高分子材料を接着し、好ましくは接着促進段階と高分子材料を接着する段階との間に全く段階を置かないか、またはただ一回の洗浄および/もしくは乾燥段階を置く請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。」という記載を、
「【請求項14】 微細粗面化した変換被覆した表面に、続いて高分子材料を接着し、接着促進段階と高分子材料を接着する段階との間に全く段階を置かないか、またはただ一回の洗浄および/もしくは乾燥段階を置く請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。」という記載に訂正する。
e 同じく請求項17について、
「【請求項17】 0.1〜20.0重量%の過酸化水素、無機酸、0.5〜2.5重量%の有機腐食防止剤およびカチオン界面活性剤を含む接着促進組成物。」という記載を、
「【請求項17】 金属表面を処理する接着促進組成物であって、該組成物は、0.1〜20.0重量%の過酸化水素、無機酸、0.5〜2.5重量%の有機腐食防止剤、カチオン界面活性剤及び脱イオン水を含み、該組成物は該金属表面に微細粗面化された変換被覆した表面を形成する能力を有するものである、ことを特徴とする組成物。」という記載に訂正する。
f 同じく請求項20について、
「【請求項20】 腐食防止剤が、トリアゾール、テトラゾールおよび/またはイミダゾールを含む0.0005〜10重量%の範囲内の濃度で請求項17〜19のいずれかに記載の組成物。」という記載を、
【請求項20】 腐食防止剤が、トリアゾール、テトラゾールおよび/またはイミダゾールを含む、請求項17〜19のいずれかに記載の組成物。」という記載に訂正する。
審理終結日 2002-12-20 
結審通知日 2002-12-26 
審決日 2003-01-08 
出願番号 特願平7-349398
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 喜納 稔  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 祖山 忠彦
蓑輪 安夫
登録日 1998-01-30 
登録番号 特許第2740768号(P2740768)
発明の名称 銅コーティング  
代理人 束田 幸四郎  
代理人 束田 幸四郎  
代理人 斉藤 武彦  
代理人 津国 肇  
代理人 篠田 文雄  
代理人 津国 肇  
代理人 篠田 文雄  

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