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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:83  B60R
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60R
管理番号 1081365
異議申立番号 異議2002-71338  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-01-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-05-22 
確定日 2003-04-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3235282号「産業車両のセーフティバー」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3235282号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 【一】手続の経緯
本件特許第3235282号は、平成5年6月21日に出願され、平成13年9月28日に設定登録されたものであり、その後、請求項1〜4(全請求項)に係る発明について、表記特許異議申立人から特許異議の申立てがあり、平成14年9月27日付けで取消理由の通知をしたところ、その指定期間内の平成14年12月9日付けで特許異議意見書及び明細書についての訂正請求書が提出されたものである。
【二】訂正の要旨
平成14年12月9日付け訂正請求は、願書に添付した明細書を上記訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであるところ、その要旨は、次の訂正事項a〜dのとおりである。
[訂正事項a]
特許請求の範囲に
「【請求項1】 車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する産業車両のセーフティバーであって,上記セーフティバーは,リヤピラーに沿って上下方向に取付けたスライドレールと,該スライドレール上を転動するローラを有する昇降部材と,該昇降部材から運転席に向けて突設された逆U字状のシートバーと,上記昇降部材を運転者の胴部又は胸部の高さに係止する係止具と,上記昇降部材を上方に押し上げる復元部材とを有していることを特徴とする産業車両のセーフティバー。
【請求項2】 請求項1において,上記復元部材は,外部操作によらず自動的に昇降部材を押し上げるよう付勢された自動復元部材であることを特徴とする産業車両のセーフティバー。
【請求項3】 請求項1又は請求項2において,操作レバー又は操作ペダルと連動し,上記係止具の係止状態を解除する解除部材を有することを特徴とする産業車両のセーフティバー。
【請求項4】 請求項3において,上記係止具は,昇降部材に取付けられたラチェットと,リヤピラーに回動自在に軸着されたラチェットポールとを有しており,該ラチェットポールは,上記ラチェットと噛合するつめ部と,ラチェットポールを回動させるための駆動片とを有しており,一方,上記解除装置は,解除操作のための操作レバーと,該操作レバーと上記駆動片との間に懸張された操作ワイヤとを有していることを特徴とする産業車両のセーフティバー。」とある記載を、
「 【請求項1】 車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する産業車両のセーフティバーであって,上記セーフティバーは,リヤピラーに沿って上下方向に取付けたスライドレールと,該スライドレール上を転動するローラを有する昇降部材と,該昇降部材から運転席に向けて突設された逆U字状のシートバーと,上記昇降部材を運転者の胴部又は胸部の高さに係止する係止具と,上記昇降部材を上方に押し上げる復元部材とを有し,該復元部材は,リヤピラーの外側部下方に立設され昇降部材と連結されて外部操作によらず自動的に昇降部材を押し上げるように付勢された自動復元ダンパーであることを特徴とする産業車両のセーフティバー。
【請求項2】 請求項1において,操作レバー又は操作ペダルと連動し,上記係止具の係止状態を解除する解除部材を有することを特徴とする産業車両のセーフティバー。
【請求項3】 請求項2において,上記係止具は,昇降部材に取付けられたラチェットと,リヤピラーに回動自在に軸着されたラチェットポールとを有しており,該ラチェットポールは,上記ラチェットと噛合するつめ部と,ラチェットポールを回動させるための駆動片とを有しており,一方,上記解除装置は,解除操作のための操作レバーと,該操作レバーと上記駆動片との間に懸張された操作ワイヤとを有していることを特徴とする産業車両のセーフティバー。」と訂正する。
[訂正事項b]
明細書の段落【0010】に
「【課題の解決手段】 本発明は,車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する産業車両のセーフティバーであって,上記セーフティバーは,リヤピラーに沿って上下方向に取付けたスライドレールと,該スライドレール上を転動するローラを有する昇降部材と,該昇降部材から運転席に向けて突設された逆U字状のシートバーと,上記昇降部材を運転者の胴部又は胸部の高さに係止する係止具と,上記昇降部材を上方に押し上げる復元部材とを有していることを特徴とする産業車両のセーフティバーにある。」とある記載を、
「【課題の解決手段】 本発明は,車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する産業車両のセーフティバーであって,上記セーフティバーは,リヤピラーに沿って上下方向に取付けたスライドレールと,該スライドレール上を転動するローラを有する昇降部材と,該昇降部材から運転席に向けて突設された逆U字状のシートバーと,上記昇降部材を運転者の胴部又は胸部の高さに係止する係止具と,上記昇降部材を上方に押し上げる復元部材とを有し,該復元部材は,リヤピラーの外側部下方に立設され昇降部材と連結されて外部操作によらず自動的に昇降部材を押し上げるよう付勢された自動復元ダンパーであることを特徴とする産業車両のセーフティバーにある。」と訂正する。
[訂正事項c]
明細書の段落【0013】に「復元部材は,昇降部材をスライドレールに沿って上方に押し上げることのできるものであり,シリンダ装置や,復元ダンパー,スプリングなどがある。復元部材は,手動操作のもの,外部信号により操作されるもの,スプリングや復元ダンパーのように一定方向に予め付勢されたものなどがある。」とある記載を、
「復元部材は,昇降部材をスライドレールに沿って上方に押し上げることのできるものであり,シリンダ装置や,復元ダンパーなどがある。復元部材は,手動操作のもの,外部信号により操作されるもの,復元ダンパーのように一定方向に予め付勢されたものなどがある。」と訂正する。
[訂正事項d]
明細書の段落【0015】に「なお,復元部材は,外部操作によらず自動的に昇降部材を押しあげるよう付勢された自動復元部材であることが好ましい。そうすれば,係止具の係止状態を解除すれば,復元部材を操作しなくとも昇降部材は自動的に復元するので操作が簡便である。また,復元部材を操作する機構や停止する機構が不要であるから,スプリングなど安価な部材によって構成することができる。」とある記載を、
「なお,復元部材は,外部操作によらず自動的に昇降部材を押しあげるよう付勢された自動復元部材であることが好ましい。そうすれば,係止具の係止状態を解除すれば,復元部材を操作しなくとも昇降部材は自動的に復元するので操作が簡便である。また,復元部材を操作する機構や停止する機構が不要であるから,安価な部材によって構成することができる。」と訂正する。
【三】訂正の許否判断
1.訂正の目的
(1)上記訂正事項aは、特許請求の範囲における請求項の数を減少し、併せて、請求項1において、復元部材を「リヤピラーの外側部下方に立設され昇降部材と連結されて外部操作によらず自動的に昇降部材を押し上げるように付勢された自動復元ダンパーである」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
(2)上記訂正事項b〜dは、訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴って、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載と整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
2.新規事項、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
願書に添付した明細書の段落【0024】に「上記復元部材17は,外部操作によらず自動的に昇降部材を押し上げるよう付勢された自動復元ダンパーである。また,図1に示す操作レバー31と連動し,係止具20の係止状態を解除する解除部材30(図2)を有している。」と、段落【0030】に「また,リヤピラー811,812の外側部下方には,復元部材17としての復元ダンパーが立設されており,そのロッド171は,上記のように,昇降部材13の長軸133の端部134と連結されている。復元ダンパーは,ロッド171を伸長させる方向に付勢力が付与されている。」との記載があり、【図1】、【図2】、【図4】に対応する構成も記載されているものと認められる。
以上のとおり、上記訂正事項a〜dは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
3.まとめ
したがって、上記訂正請求による明細書についての訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、認められるべきものである。
【四】本件特許発明
上記訂正請求による明細書の訂正が認められるから、本件特許の請求項1乃至3に係る発明は、訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】 車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する産業車両のセーフティバーであって,上記セーフティバーは,リヤピラーに沿って上下方向に取付けたスライドレールと,該スライドレール上を転動するローラを有する昇降部材と,該昇降部材から運転席に向けて突設された逆U字状のシートバーと,上記昇降部材を運転者の胴部又は胸部の高さに係止する係止具と,上記昇降部材を上方に押し上げる復元部材とを有し,該復元部材は,リヤピラーの外側部下方に立設され昇降部材と連結されて外部操作によらず自動的に昇降部材を押し上げるように付勢された自動復元ダンパーであることを特徴とする産業車両のセーフティバー。
【請求項2】 請求項1において,操作レバー又は操作ペダルと連動し,上記係止具の係止状態を解除する解除部材を有することを特徴とする産業車両のセーフティバー。
【請求項3】 請求項2において,上記係止具は,昇降部材に取付けられたラチェットと,リヤピラーに回動自在に軸着されたラチェットポールとを有しており,該ラチェットポールは,上記ラチェットと噛合するつめ部と,ラチェットポールを回動させるための駆動片とを有しており, 一方,上記解除装置は,解除操作のための操作レバーと,該操作レバーと上記駆動片との間に懸張された操作ワイヤとを有していることを特徴とする産業車両のセーフティバー。」
【五】特許異議申立てについて
1.引用例
前記平成14年9月27日付けで通知した取消理由において引用した刊行物「特開平4-217592号公報」(以下「刊行物1」という。)、「実願昭57-79236号(実開昭58-180751号)のマイクロフィルム」(以下「刊行物2」という。)、「特開平4-289332号公報」(以下「刊行物3」という。)、「特開平4-283143号公報」(以下「刊行物4」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されているものと認める。
(1)刊行物1
刊行物1には、「ピッキングフォークリフトの安全装置」に関して、
ア)「図1において、本発明が適用されるピッキングフォークリフト1は、先に説明した従来構成と同様に、マスト3に沿って上下動するリフトブラケット(図示しない)に固定された運転台2を有し、運転台2の下面からは2本のフォーク4が前方に延びている。また、運転台2の後側隅部にはヘッドガード9用のヘッドガードピラー10が垂設されている。」(段落[0009])
イ)「本実施例において、ヘッドガードピラー10は水平断面がコ字形となっており、以下で詳説するが、安全枠15の案内レールとしても機能する。」(段落[0010])
ウ)「このピッキングフォークリフト1には、運転者が運転台2から落下しないように安全枠15が設けられている。図2に明示するように、この安全枠15はコ字形であり、運転台2の外周にほぼ一致する形状である。」(段落[0011])
エ)「安全枠15の左右の自由端にはそれぞれ、垂直下方に延びる安全枠ピラー16が固定されている。安全枠ピラー16は、平均的な成人男子の腰部までの高さと同程度の長さとするのが好ましく、そのような場合、安全枠ピラー16の下端を運転台2に接触させた状態では、安全枠15が運転者の腰付近に位置することとなる(図1で実線で示す位置)。」(段落[0012])
オ)「各安全枠ピラー16の外側の面には、ピラー16とほぼ同じ長さの細長い案内プレート17が固着されており、その上部外面と下部外面に案内ローラ18が取り付けられている。この案内ローラ18は、図3に示すように、対応のヘッドガードピーラ10の内側の溝部内に転動可能に配置されている。従って、安全枠15の取っ手19を持ってこれを持ち上げると、案内ローラ18がヘッドガードピラー10の溝部内で案内され、安全枠15をヘッドガードピーラ10に沿ってヘッドガード9に隣接する位置(以下、この位置を「最上位置」と称する)まで円滑に上昇させることができる。」(段落[0013])
カ)「安全枠15の材質によっては軽量化を図ることができ、人力のみでこの安全枠15を容易に上下させることも可能であろうが、上下操作補助手段を設けておくのが好適である。図示実施例においては、この上下操作補助手段は、引張りばね20と、ワイヤ21とから主に構成されている。ワイヤ21は、その一端が安全枠ピラー16の下部のワイヤフック22に掛止され、ヘッドガードピーラ10間のプレート11の適宜位置に取り付けられたプーリ23に巻き掛けられ、他端が、プレート11の下部に固定された引張りばね20に接続されている。」(段落[0014])
キ)「この引張りばね20のばね力を安全枠15及び安全枠ピラー16等全体の重量に打ち勝つ大きさとすれば、安全枠15は自動的に上昇して、最上位置で保持されることになる。従って、安全枠15を通常使用位置で固定するためには、適当な固定手段が必要となる。図示実施例では、安全枠15の右側の自由端の内部にストッパピン24を突出可能に配設し、このストッパピン24を、ヘッドガードピーラ10間のプレート11の適宜位置に設けられた穴25に挿入することにより、安全枠15を固定できるようにしている。安全枠15の固定を解除する場合には、安全枠15のガイドスロット26を貫通して延びるストッパピン24の操作レバー27を引っ張り、ストッパピン24をプレート11の穴25から引き出せば良い。」(段落[0015])
ク)「本発明によれば、安全枠を上下動させることができるので、必要に応じて安全枠を上げることで、乗降や荷役作業等を容易に行うことができる。」(段落[0023])
等の記載が認められる。
そして、上記エ)の「安全枠ピラー16は、平均的な成人男子の腰部までの高さと同程度の長さとするのが好ましく、そのような場合、安全枠ピラー16の下端を運転台2に接触させた状態では、安全枠15が運転者の腰付近に位置することとなる」との記載、及び上記キ)の「安全枠15を通常使用位置で固定するためには、適当な固定手段が必要となる。……ストッパピン24を、ヘッドガードピーラ10間のプレート11の適宜位置に設けられた穴25に挿入することにより、安全枠15を固定できるようにしている。」との記載を参照すると、安全枠15の好ましい使用位置は運転者の腰付近であって、安全枠15は、通常の使用状態で、ストッパピン24をプレート11に設けられた穴25に挿入することにより、運転者の腰付近位置で固定されることが、示されているものと認められる。
したがって、併せて図面を参照すると、刊行物1には、
“運転者の運転台2からの落下を防止するピッキングフォークリフトの安全装置であって,上記安全装置は,ヘッドガードピーラ10に沿って上下方向に形成した案内レールと,該案内レール上を転動する案内ローラ18を有する安全枠ピラー16と,該安全枠ピラー16から運転台2に向けて突設された安全枠15と,上記安全枠15を運転者の腰部の高さに係止するストッパピン24及びプレート11の穴より構成される係止具と,上記安全枠ピラー16を上方に引き上げる引張りばね20とを有している産業車両の安全装置。”
が記載されているものと認める。
(2)刊行物2
上記刊行物2には、
ケ)「娯楽用乗物の車両に搭載する部材として個々の座席に設置した開放・閉止自在の乗客膝保持バーと、該膝保持バーの端部に一端が枢着した前・後進しうるシリンダーロッドと、該シリンダーロッドを摺動自在に貫装した作動・固定の調節自在な油圧シリンダーと、該シリンダーロッドの他端には一端を連結した索道管と、該索道管の他端に枢着したスプリング付きのラチェット爪と、該ラチェット爪に噛合しうるラチェットギヤーと、該ラチェットギヤーの軸に軸着された開放・閉止に回動自在の乗客肩保持アームとからなり、乗客を保持する際には乗客肩保持アームを閉止状態で所望位置にてラチェット爪をラチェットギヤーに噛合させて乗客膝保持バーを閉止させ上記シリンダーロッドを後退位置で油圧シリンダーを固定させて該アームとバーをロックするようにし、一方乗客の保持を開放する際には油圧シリンダーの固定を解除して開放自在に作動しうるようにしシリンダーロッドを前進させて乗客膝保持バーを開放しラチェットギヤーにて噛合したラチェット爪を外して乗客肩保持アームを開放自在に回動しうるようにしてロックを外すようにしたことを特徴とする娯楽用乗物の乗客保持装置。」(明細書第1頁第5行〜第2頁第9行)
の記載があり、また、第1、2図を参照すると、
コ)ラチェットギヤー18と噛合するラチェット爪16は、スプリング15及び索道管13が接続された腕片に連結されて、ピン17を中心に一体回動されるものである
ことが示されているものと認められる。
(3)刊行物3
上記刊行物3には、
サ)「以下、本発明を荷役車両における四輪駆動式小型ショベルローダに具体化した一実施例を図1〜図10に従って説明する。図1,図7は四輪駆動式小型ショベルローダにおける車両Hの運転席部1を示し、その運転席部1には作業者Sが座るシート2が設けられている。前記シート2の後側には支持片3により略L字状に屈曲形成された拘束手段としてのシートバー4が回動可能に支持されている。このシートバー4は実線にて示すように、前記作業者Sをある程度の裕度を持ってシート2に拘束する作用位置と、二点鎖線にて示すように作業者Sが運転席部1に対する乗降動作を妨げない待機位置との2位置間にて切換可能になっている。」(段落[0008])
シ)「又、前記シートバー4の基端部には車両Hに接続されたダンパー5のロッド5aが接続され、シートバー4が二点鎖線に示す待機位置に保持されるようになっている。」(段落[0009])
等の記載が認められる。
(4)刊行物4
刊行物4には、「産業車両の安全装置」に関して、
ス)「 図4は、前側に出入口を有するスキッドステアローダの全体を示す概略側面図である。同図において、1はボデーフレーム、2は乗員保護用としてのヘッドガード又はキャビン、3は運転席を示している。(段落[0008])
セ)「図1は、乗員保護装置の概略を示している。図示のように、キャビン2に配置される乗員保護用としてのシートバー21は、棒材により平面形状がほぼコ字形となるように形成されるとともに、その両端末部が運転席3の後方においてキャビン2に適宜ブラケット21aを介して回動自在に支持されており、乗員を運転席3に拘束する図示実線の乗員拘束位置と、乗員が離席し得るように解放する図示仮想線の乗員解放位置とへ変位可能とされている。」(段落[0013])
ソ)「また、この実施例では、図7に示すように、伸長方向に力を作用する少なくとも一本のガスダンパー32により常にシートバー21を乗員解放位置側と乗員拘束位置との両位置に付勢(保持)し得るように構成している。」(段落[0028])
等の記載が認められる。
2.対比・判断
2-1.本件請求項1に係る発明について
(1)本件請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、上記刊行物1に記載された発明における「ピッキングフォークリフト」、「安全装置」は、それぞれ「産業車両」、「セーフティーバー」ということができ、また、上記刊行物1に記載された発明の「ヘッドガードピーラ10」、「案内レール」、「案内ローラ18」、「安全枠ピラー16」、「ストッパピン24及びプレート11の穴より構成される係止具」、「引張りばね20」は、それぞれ本件請求項1に係る発明の「リヤピラー」、「スライドレール」、「ローラ」、「昇降部材」、「係止具」、「自動復元部材」に相当する。
そして、本件請求項1に係る発明の「運転席」と上記刊行物1に記載された発明の「運転台」はいずれも「運転者の運転位置」ということができ、本件請求項1に係る発明「シートバー」と上記刊行物1に記載された発明の「安全枠」は、運転者を安全に保護するものであるから、いずれも「運転者保護バー」ということができる。
したがって、両者は、
「産業車両のセーフティバーであって,上記セーフティバーは,リヤピラーに沿って上下方向に備えられたスライドレールと,該スライドレール上を転動するローラを有する昇降部材と,該昇降部材から運転者の運転位置に向けて突設された運転者保護バーと,上記昇降部材を運転者が安全に護られる高さに係止する係止具と,上記昇降部材を上方に押し上げる復元部材とを有し、該復元部材は、昇降部材と連結されて外部操作によらず自動的に昇降部材を押し上げるように付勢された自動復元部材である産業車両のセーフティバー」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点A]
本件請求項1に係る発明は、上記「セーフティバー」が、「車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する」もので、上記「運転者保護バー」が「運転席に向けて突設された逆U字状のシートバー」であって、前記「係止具」は「昇降部材を運転者の胴部又は胸部の高さに係止する」のに対して、上記刊行物1に記載された発明においては、セーフティバー(安全装置)は、ある範囲で「運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する」機能を備えるものの、「車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する」ものと限定されたものではなく、また、運転位置に「シート」が存在するものではないから、運転者保護バー(安全枠)は、「シートバー」とは称し難く、また、運転者の腰部高さに係止される点
[相違点B]
本件請求項1に係る発明は、スライドレールが、リヤピラーに沿って上下方向に「取付けた」ものであるのに対して、上記刊行物1に記載された発明においては、スライドレールが、リヤピラーに沿って上下方向に形成されたものである点
[相違点C]
上記自動復元部材が、本件特許の請求項1に係る発明では、「自動復元ダンパー」であって、「リヤピラーの外側部下方に立設され」ているのに対して、刊行物1に記載された発明では、「引張りばね20」であって、リヤピラーの外側部下方に立設されたものではない点
(2)そこで、上記各相違点について検討する。
(2-1)相違点Aについて
産業車両において、運転者の胴部又は胸部の高さで運転席に向けて突設された逆U字状のシートバーを有するセーフティバーを設け、車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する構成が採用されていることが、上記刊行物3,4に記載されているから、上記刊行物1に記載された発明を、上記刊行物3,4に記載の産業車両のセーフティバーとして採用することは、当業者が容易に想到し得ることであり、本件請求項1に係る発明の「上記『セーフティバー』が、『車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する』もので、上記『運転者保護バー』が『運転席に向けて突設された逆U字状のシートバー』であって、前記『係止具』は『昇降部材を運転者の胴部又は胸部の高さに係止する』ものである」点は、上記刊行物3,4に記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たとするのが相当である。
(2-2)相違点Bについて
スライドレールを、リヤピラーに「取付けた」ものとするか、リヤピラーに形成されたものとするかは、設計上の選択的事項にすぎず、リヤピラーに「取付けた」ものとすることが困難とはいえない。
(2-3)相違点Cについて
自動復元部材として「自動復元ダンパー」が存在することは、上記刊行物3,4にも記載されているし、本件特許の出願前に周知の事項とも認められる。また、自動復元部材を設けるに当たっては、昇降部材に回転モーメントが作用することなく円滑に昇降できるように、復元力の向きを昇降部材の移動の向きと一致させ、復元力の作用位置として昇降部材の支持点、即ちローラの軸を選択するのが、技術常識である。
このような本件特許の出願前の技術背景を考慮すれば、自動復元部材を自動復元ダンパーとしてリヤピラーに沿って立設する構成を採用することが困難とはいえず、「外側部下方」とすることもリヤピラー周辺の構成を考慮して当業者が適宜決定しうる程度の設計上の選択事項にすぎない。
(3)このように本件請求項1に係る発明の構成は当業者が容易に想到し得るものであり、作用効果も、上記刊行物1〜4及び上記周知の技術から予測し得る程度のものである。
したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2-2.本件請求項2に係る発明について
(1)本件請求項2に係る発明は、上記請求項1に係る発明の構成に加えて「操作レバー又は操作ペダルと連動し,上記係止具の係止状態を解除する解除部材を有する」点を構成に欠くことができない事項とするものである。
(2)そして、上記刊行物2に記載された「娯楽用乗物の乗客保持装置」を検討すると、このものにおいても、「乗客膝保持バー」を開放することに連動して、「乗客肩保持アーム」を閉止状態で係止するラチェット爪とラチェットギヤーとの噛合状態を解除させる構成を採用しており、前記「乗客膝保持バー」は乗客により操作される操作レバーの機能も有しているものと認められるので、上記刊行物2には、身体が車外にはみ出すのを防止する乗客肩保持アームを使用状態の高さに係止する係止具の係止状態を、操作レバーと連動して解除する解除部材を設けることが、記載されているものと認められる。
そして、上記刊行物2に記載された「娯楽用乗物の乗客保持装置」における「乗客肩保持アーム」は、刊行物1に記載された発明の「安全枠」と概ね同様に、搭乗者の身体が車外にはみ出すのを防止する機能をもつものと認められるから、上記刊行物2に記載された、上記乗客肩保持アームを使用状態の高さに係止する係止具の係止状態を操作レバーと連動して解除する解除部材を設ける構成を、刊行物1に記載された発明の「安全枠」に関して適用することが困難とはいえない。
したがって、本件請求項2に係る発明の「操作レバー又は操作ペダルと連動し,上記係止具の係止状態を解除する解除部材を有する」構成を採用することは、上記刊行物2に記載されたものに基づいて当業者が容易に想到し得たものとするのが相当である。
(3)このように本件請求項2に係る発明の構成は当業者が容易に想到し得るものであり、作用効果も、上記刊行物1〜4及び上記周知の技術から予測し得る程度のものである。
したがって、本件特許の請求項2に係る発明は、上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2-3.本件請求項3に係る発明
(1)本件請求項3に係る発明は、上記請求項2に係る発明の構成に加えて「上記係止具は,昇降部材に取付けられたラチェットと,リヤピラーに回動自在に軸着されたラチェットポールとを有しており,該ラチェットポールは,上記ラチェットと噛合するつめ部と,ラチェットポールを回動させるための駆動片とを有しており,一方,上記解除装置は,解除操作のための操作レバーと,該操作レバーと上記駆動片との間に懸張された操作ワイヤとを有している」点を構成に欠くことができない事項とするものである。
(2)前記「2-2.本件請求項2に係る発明について」に説示のとおり、上記刊行物2には、搭乗者の身体が車外にはみ出すのを防止する「乗客肩保持アーム」を使用状態の高さに係止する係止具の係止状態を、操作レバーと連動して解除する解除部材を設けることが、記載されているものと認められる。
そして、上記「係止具」が、ラチェットギヤーと該ギヤーに噛合するラチェット爪とを有し、ラチェット爪は上記コ)に摘示のとおり「乗客膝保持バー」の操作に連動する索道管13が接続された腕片と連結されているから、上記刊行物2には、係止具がラチェットとラチェットポールとを有しており、該ラチェットポールが,上記ラチェットと噛合するつめ部とラチェットポールを回動させるための駆動片とを有していて、係止具の解除装置が、解除操作のための操作レバーと該操作レバーと上記駆動片との間に懸張された操作ワイヤとを有している構成も記載されているものと認められる。
一方、ラチェットの形状を昇降部材の移動方向に沿う直線状とすることは、当業者が当然に採用すべき設計事項といえる。したがって、請求項3に係る発明の「上記係止具は,昇降部材に取付けられたラチェットと,リヤピラーに回動自在に軸着されたラチェットポールとを有しており,該ラチェットポールは,上記ラチェットと噛合するつめ部と,ラチェットポールを回動させるための駆動片とを有しており,一方,上記解除装置は,解除操作のための操作レバーと,該操作レバーと上記駆動片との間に懸張された操作ワイヤとを有している」構成を採用することは、上記刊行物2に記載されたものに基づいて当業者が容易に想到し得たものとするのが相当である。
(3)このように本件請求項3に係る発明の構成は当業者が容易に想到し得るものであり、作用効果も、上記刊行物1〜4及び上記周知の技術から予測し得る程度のものである。
したがって、本件特許の請求項3に係る発明は、上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
【六】むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1〜3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1〜3に係る発明についての特許は、拒絶の査定をされるべき特許出願についてされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
産業車両のセーフティバー
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する産業車両のセーフティバーであって,上記セーフティバーは,リヤピラーに沿って上下方向に取付けたスライドレールと,該スライドレール上を転動するローラを有する昇降部材と,該昇降部材から運転席に向けて突設された逆U字状のシートバーと,上記昇降部材を運転者の胴部又は胸部の高さに係止する係止具と,上記昇降部材を上方に押し上げる復元部材とを有し,該復元部材は,リヤピラーの外側部下方に立設され昇降部材と連結されて外部操作によらず自動的に昇降部材を押し上げるように付勢された自動復元ダンパーであることを特徴とする産業車両のセーフティバー。
【請求項2】 請求項1において,操作レバー又は操作ペダルと連動し,上記係止具の係止状態を解除する解除部材を有することを特徴とする産業車両のセーフティバー。
【請求項3】 請求項2において,上記係止具は,昇降部材に取付けられたラチェットと,リヤピラーに回動自在に軸着されたラチェットポールとを有しており,該ラチェットポールは,上記ラチェットと噛合するつめ部と,ラチェットポールを回動させるための駆動片とを有しており,一方,上記解除装置は,解除操作のための操作レバーと,該操作レバーと上記駆動片との間に懸張された操作ワイヤとを有していることを特徴とする産業車両のセーフティバー。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は,産業車両の転倒時等において運転者が車外に放り出されることのないようにするセーフティバーに関する。
【0002】
【従来技術】
荷役作業などを行う産業車両においては,万一車両が転倒した場合には,運転者が車外に放り出されないようにすることが安全対策上重要である。運転者が車外にはみ出したり,放出されたりすると車両の下敷きになるなどの恐れがあるからである。その対策の1つとして,運転席に着座した運転者の胴部又は胸部を剛性のある保護リング(シートバー)で囲んで運転者を保護する方法がある。
【0003】
即ち,図7に示すように,運転席後方の軸心911を中心に回動するシートバー91を設ける。そして,運転時には実線で示すようにシートバー91を下降させ,シートバー91は運転者の胴部を囲繞し,運転者が運転席から放り出されるようなことがないように保護する。
【0004】
図7において,符号92は,シートバー91を下降状態に保持する止め具である。シートバー91のフック912に設けた止め穴から止め具92の鉤形の頭部921を引き外せば,復元ダンパー93の復元力によりシートバー91は,鎖線で示す位置まで上昇する。
【0005】
復元ダンパー93のロッド931の頭部は,軸心911の一方に位置するシートバー91の短腕913の端部に枢着されている。短腕913が軸心911を中心に回動すると,シートバー91の長腕914は反対方向に回動する。
【0006】
同図において,符号94は,シートバー91を下降操作する操作ワイヤであり,運転席足下に設けたペダルの端部に連結されている。上記ペダルを踏むと,操作ワイヤ94が,シートベルト91の長腕914を引張り,シートバー91が下降する。下降したシートバー91は,前記のように,止め具92を用いて下降状態に保持される。
【0007】
【解決しようとする課題】
しかしながら,上記従来の運転者防護装置(セーフティバー)90には,次のような問題がある。即ち,第1は産業車両が運転されずシートバー91が上部位置(図7,鎖線位置)にあるとき,シートバー91が産業車両への乗降の妨げになることである。
【0008】
また,エンジンフードやバッテリフードの開閉時に,エンジンフードやバッテリフードがシートバー91の長腕914に衝突しないようにしなければならない。そのため,エンジンフードやバッテリフードの開放角度が制限されたり,構造上の制約が生じたりするということである。
【0009】
即ち,図7に示すように,エンジンフード95を回動軸951を中心に矢印のように開放すると,シートバー91に衝突する。本発明は,かかる従来の問題点に鑑みて,車両への乗降を妨げたり,エンジンフード等の開閉操作を妨げることのない産業車両のセーフティバーを提供しようとするものである。
【0010】
【課題の解決手段】
本発明は,車両の転倒時などにおいて,運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する産業車両のセーフティバーであって,上記セーフティバーは,リヤピラーに沿って上下方向に取付けたスライドレールと,該スライドレール上を転動するローラを有する昇降部材と,該昇降部材から運転席に向けて突設された逆U字状のシートバーと,上記昇降部材を運転者の胴部又は胸部の高さに係止する係止具と,上記昇降部材を上方に押し上げる復元部材とを有し,該復元部材は,リヤピラーの外側部下方に立設され昇降部材と連結されて外部操作によらず自動的に昇降部材を押し上げるように付勢された自動復元ダンパーであることを特徴とする産業車両のセーフティバーにある。
【0011】
本発明において,最も注目すべきことの第1点は,リヤピラーに沿って上下方向に走るスライドレールを設けてあり,昇降部材のローラが上記スライドレールに沿って転動し,昇降部材が昇降することである。上記スライドレールは,リヤピラー自体に一体的に形成してもよく,リヤピラーとは別の部材によって構成してもよい。
【0012】
最も注目すべきことの第2点は,上記昇降部材を運転者の胴部又は胸部高さに係止する係止具と,昇降部材を上方に押し上げる復元部材を設けたことである。係止具は,昇降部材をスライドレール上の所定の位置に固定することのできるものであり,鉤形のフックを用いたもの(図7参照),ラチェットを用いたもの(図5参照)など各種のものがある。
【0013】
復元部材は,昇降部材をスライドレールに沿って上方に押し上げることのできるものであり,シリンダ装置や,復元ダンパーなどがある。復元部材は,手動操作のもの,外部信号により操作されるもの,復元ダンパーのように一定方向に予め付勢されたものなどがある。
【0014】
そして,昇降部材には,運転席に向けて突設された逆U字状のシートバーを設けてある。シートバーの形状は,運転者の胴部又は胸部を囲繞するものであれば良く,厳密な意味でのU字形状を必要とするものではない。従って,角形,円形,馬蹄形などの形状を含むものである。
【0015】
なお,復元部材は,外部操作によらず自動的に昇降部材を押しあげるよう付勢された自動復元部材であることが好ましい。そうすれば,係止具の係止状態を解除すれば,復元部材を操作しなくとも昇降部材は自動的に復元するので操作が簡便である。また,復元部材を操作する機構や停止する機構が不要であるから,安価な部材によって構成することができる。
【0016】
なお,操作レバー又は操作ペダルと連動し,上記係止具の係止状態を解除する解除部材を設けることが好ましい。即ち,操作レバーを操継する一動作又は操作ペダルを踏み込む一動作により係止具の係止状態の解除ができるから,操作の利便性が大幅に向上するからである。
【0017】
更に,上記解除部材を上記自動復元部材と併用すれば,その利便性は一段と向上する。なぜならば,操作レバー又は操作ペダルを操作する一動作により,昇降部材は係止を解かれると共に元の位置に自動的に復元するからである。また,必ず人手による係止解除アクションを加えることにより係止を解除するから,例えば振動などによって偶発的に係止解除が発生することがない。
【0018】
上記の解除部材と係止具には,例えば,次のようなものがある。係止具は,昇降部材に取付けられたラチェットと,リヤピラーに回動自在に軸着されたラチェットポールとを有しており,該ラチェットポールには,上記ラチェットと噛合するつめ部と,ラチェットポールを回動させるための駆動片とを設ける。
【0019】
そして,解除部材には,解除操作のための操作レバーと,該操作レバーと上記駆動片との間に懸張された操作ワイヤとを設ける。このように構成すれば,操作レバーを操作して操作ワイヤにより上記駆動片を作動させ,ラチェットポールのつめ部をラチェットから引き外して,係止を解除することができる。
【0020】
【作用及び効果】
本発明にかかるセーフティバーの昇降部材は,スライドレールに沿ってローラを転動させ,上昇,下降することができる。セーフティバーを使用するときには,昇降部材を下降し,シートバーを運転者の胴部又は胸部の所定の高さとし,係止具により係止して,昇降部材(シートバー)を固定する。
【0021】
セーフティバーの使用を停止するときには,係止具の係止状態を解除し,復元部材により昇降部材を上昇させる。そしてシートバーを昇降部材と共に運転者の上方まで上昇させる。
本発明のセーフティバーは,従来のセーフティバーのように,シートバーを回動させるのではなく,平行状態で昇降させるから,シートバーを天井近くまで平行移動により水平状態のまま上昇させることができる。
【0022】
それ故,昇降部材は,天井(ヘッドガード)近くにおいて天井と平行状態に保持することができ,従来のセーフティバーにおけるシートバーのように回動によって傾斜することがない。そのため,運転者の昇降を妨げることがなく,またエンジンフードやバッテリカバーを開閉しても昇降部材と衝突することもない。上記のように,本発明によれば,車両への乗降を妨げたり,エンジンフード等の開閉操作を妨げることのない産業車両のセーフティバーを提供することができる。
【0023】
【実施例】実施例1
本発明の実施例にかかるセーフティバーについて図1〜図5を用いて説明する。本例は,図1に示すように,車両の転倒時などにおいて運転者の身体が車外にはみ出すのを防止する産業車両8のセーフティバー10である。セーフティバー10は,図4に示すようにリヤピラー811,812に沿って上下方向に取付けたスライドレール11と,スライドレール11上を転動するローラ14を有する昇降部材13と,図1に示すように昇降部材13から運転席82に向けて突設された逆U字状のシートバー15と,図2に示すように昇降部材13を運転者の胴部又は胸部の高さに係止する係止具20と,昇降部材13を上方に押し上げる復元部材17とを有している。
【0024】
上記復元部材17は,外部操作によらず自動的に昇降部材を押し上げるよう付勢された自動復元ダンパーである。また,図1に示す操作レバー31と連動し,係止具20の係止状態を解除する解除部材30(図2)を有している。
【0025】
係止具20は,図2に示すように,ラチェット21,リヤピラー811,812に回動自在に軸着されたラチェットポール22とを有する。ラチェットポール22は,ラチェット21と噛合するつめ部23と,ラチェットポール22を回動させるめたの駆動片24とを有する。一方,解除部材30は,解除操作のための操作レバー31(図1)と,該操作レバー31と上記駆動片24との間に懸張された操作ワイヤ32とを有している。
【0026】
以下それぞれについて詳説する。図3,図4に示すように運転席82の後方に位置する左右一対のリヤピラー811,812には,ローラ14が転動することのできるスライドレール11が形成されている。上記スライドレール11は,リヤピラー811,812の内側に即ち図4に示す右リヤピラー812では左側に,図1〜図3に示す左リヤピラー811では右側に,形成されている。
【0027】
昇降部材13は,図3に示すように,主アーム131と,ローラ14と,サブアーム132と,サブアーム132に取付けられた補助ローラ141と,後述する復元ダンパーのロッド171と連結された長軸133とを有している。
【0028】
ローラ14は,上記スライドレール11内に装着され,スライドレール11に沿って転動する。補助ローラ141は,リヤピラー811,812の前面813に当接し,主アーム131を水平位置に保持する。
【0029】
長軸133は,リヤピラー811,812を左右に貫通して,リヤピラーの外側に突出し,その端部134は,復元ダンパー171のロッドと連結されている。リヤピラー81の外側面814には,上記長軸133が昇降する細溝815(図2)が穿設されている。
【0030】
また,リヤピラー811,812の外側部下方には,復元部材17としての復元ダンパーが立設されており,そのロッド171は,上記のように,昇降部材13の長軸133の端部134と連結されている。復元ダンパーは,ロッド171を伸長させる方向に付勢力が付与されている。
【0031】
昇降部材13の主アーム131の前方には,図1に示すようにシートバー15が取付けられている。シートバー15は,左右の昇降部材13の間を連結するU字形の管状部材である。
【0032】
また,図2に示すように昇降部材13の長軸133の外側には,係止具20を構成するラチェット21が装着されている。該ラチェット21は,数個の爪を有しており,リヤピラー811,812の外側面814表面に位置している。また,リヤピラー811,812の外側面814の中程の高さには,係止具20を構成するラチェットポール22が取付けられている。
【0033】
ラチェットポール22は,図2に示すように,リヤピラー811,812の外側面814に設けられたポール軸221を中心に回動し,ラチェット21の爪と噛合う爪を有するつめ部23と,該つめ部23と直角方向に突設した駆動片24とを有する。
【0034】
また上記駆動片24の中ほどにある突部と,ポール軸221の斜め上方にある突軸251との間には,コイルスプリング25が取付けられている。該コイルスプリング25は,つめ部23がラチェット21と噛合する方向に,ラチェットポール22を回動させるよう付勢されている。
【0035】
また,駆動片24の端部は,後述する解除部材30の操作ワイヤ32に連結されている。また,図1に示すように,運転席82の前方下部には,操作ワイヤ32と連結された操作レバー31が取付けられている。
【0036】
操作ワイヤ32は,操作レバー31の端部からリヤピラー81の下部の屈折点321において略直角方向に屈折し,上記ラチェットポール22の駆動片24の先端部に連結さている。なお,上記屈折点321は,エンジンフードを開放する際の回転中心と同一点にあり,エンジンフードを開放しても,操作ワイヤ32が緩むことはない。そして,操作レバー31を操作すると,操作ワイヤ32は,図5に示すように,駆動片24を下方に引き下げる。
【0037】
その結果,ラチェットポール22は,時計まわりに回動し,ラチェット21とラチェットポール22の爪の噛合状態が解除される。また,操作レバー31を開放すれば,ラチェットポール22及び操作レバー31は,前記コイルスプリング25によって元の位置に復元する。
【0038】
次に,本例のセーフティバー10の作用効果について述べる。運転者が乗車しない通常時においては,セーフティバー10の昇降部材13は,復元ダンパーのロッド171に押し上げられて,ヘッドガード83(図1)下部まで上昇している。運転者が乗車し,シートバー15を引き寄せると昇降部材13のローラ14がスライドレール11を転動し,シートバー15と共に昇降部材13が下降する。
【0039】
そして,昇降部材が運転者の胸部位置まで下降すると,係止部20のラチェット21とラチェットポール22のつめ部23とが噛合し,昇降部材13の上昇をロックする。なお,ラチェット21には,数個の爪が設けてあり昇降部材13の係止位置は,若干調整することができる。
【0040】
復元ダンパーの上昇付勢力と係止具20の上記ロック作用により昇降部材13は,停止状態を保持する。運転が終了して,運転者が降車しようとする場合には,運転者85は操作レバー31を操作する。
【0041】
その結果,操作ワイヤ32によりラチェットポール22の駆動片24が引き下げられ,ラチェット21とラチェットポール22の噛合状態が解除される。そして,係止を解かれた昇降部材13は,復元部材17である復元ダンパーに駆動され,ヘッドガード83下方の通常位置に復元する。
【0042】
本例のセーフティバー10は,セーフティバー10を使用しない通常位置においては,ヘッドガード83の直下部までシートバー15を上昇させることができる。そして,シートバー15は傾斜せず水平状態に保持することができる。従って,通常位置にあるセーフティバー10は,運転者の乗降の邪魔になることもない。また,エンジンフード84やバッテリーフードを開放しても,セーフティバーと衝突するおそれが皆無である。
【0043】
また,セーフティバー10を降下させれば,ラチェット21により所定の位置に自動的に係止される。そして,操作レバー31を操作すればセーフティバー10は自動的に元位置に復元する。このように,セーフティバー10の操作は,極めて簡便である。上記のように,本例によれば,車両への乗降を妨げたり,エンジンフード等の開閉操作を妨げることがなく,且つ操作性にすぐれた産業車両のセーフティバーを提供することができる。
【0044】実施例2
本例は,図6に示すように実施例1においてスライドレール12をリヤピラー810と一体的に形成することなく,リヤピラー810の後方に取付けた例である。そうすればセーフティバー100全体を車体とは別部材によって構成することができ,既存の産業車両に後から取付けることができるから便利である。スライドレール12が別置きの部材である他,昇降部材13の主アーム131の長さが若干長くなる。その他については,実施例1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のセーフティバーの側面図。
【図2】実施例1の昇降部材の左リヤピラーにおける要部拡大正面図(図1のA部正面図)。
【図3】図2のB-B矢視線断面平面図。
【図4】実施例1における右リヤピラー部における昇降部材の正面図。
【図5】実施例1の係止具の動作説明図。
【図6】実施例2のセーフティバーの側面図。
【図7】従来のセーフティバーの側面図。
【符号の説明】
10...セーフティバー,
11...スライドレール,
13...昇降部材,
15...シートバー,
17...復元部材,
20...係止具,
30...解除部材,
81...リヤピラー,
82...運転席,
 
訂正の要旨 訂正の要旨
審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-03-11 
出願番号 特願平5-174908
審決分類 P 1 651・ 83- ZA (B60R)
P 1 651・ 121- ZA (B60R)
最終処分 取消  
前審関与審査官 大谷 謙仁  
特許庁審判長 蓑輪 安夫
特許庁審判官 尾崎 和寛
鈴木 久雄
登録日 2001-09-28 
登録番号 特許第3235282号(P3235282)
権利者 株式会社豊田自動織機
発明の名称 産業車両のセーフティバー  

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