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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B21J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B21J
管理番号 1082969
審判番号 不服2001-12066  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-07-12 
確定日 2003-09-12 
事件の表示 平成 8年特許願第 28159号「冷間鍛造成形方法および傘歯車の冷間鍛造成形装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 9年 8月26日出願公開、特開平 9-220633]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年2月15日の出願であって、平成13年6月12日付けで拒絶査定の謄本が送達され、これに対し、同年7月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同13年8月9日付で手続補正がなされたものである。

第2 平成13年8月9日付の手続補正についての補正却下の決定
<補正却下の決定の結論>
平成13年8月9日付の手続補正を却下する。
<理由>
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「成形素材の表面に対して、ボンデ処理等による潤滑用化成皮膜処理を施した第一層目の潤滑皮膜と、前記第一層目の潤滑皮膜の上に、二硫化モリブデン等による固体潤滑皮膜を施した第二層目の潤滑皮膜が形成された成形素材を冷間鍛造成形するものにおいて、傘歯車の中間素材形状を有する上型および下型を用い、前記第二層目の固体潤滑皮膜の潤滑作用により、前記成形素材を据込み成形することで中間素材を成形し、次いで、傘歯車の歯形を形成する上型と歯形背面を形成する下型を用い、前記中間素材が前記据込み成形に伴う温度で時効硬化する前に、低温焼鈍および新たな潤滑用被膜処理を施すことなく、連続して、残存する前記第一層目の潤滑皮膜の潤滑作用により、前記中間素材を鍛造成形することで最終製品形状を形成することを特徴とする傘歯車の冷間鍛造成形方法。」
と補正された。
上記補正は、「低温焼鈍および新たな潤滑用被膜処理を施すことなく」および「残存する」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭53-102863号公報(以下「引用刊行物1」という。)、特公平4-24433号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されている。
(1)引用刊行物1
(イ)「本発明は、・・・1台の成形機で連続的に効率よく製造できるようにし、量産性を向上させ、高品質の製品を安価に製作できるようにすることにある。・・・棒状またはコイル状母材を、多段トランスファ冷間または温間成形機に供給して、この1台の成形機により、段階的に継続して加工することにより、所定形状のソケットレンチを成形するようにした点にある。」(第2頁左上欄第4行〜14行)
(ロ)「該母材1は、予め図外の前処理装置にて焼鈍加工ならびに潤滑処理等の前処理を行なう。これによって後の圧造成形を円滑に行なうことができる。」(第2頁左上欄第18行〜同頁右上欄第1行)
(ハ)「多段トランスファ冷間・・・成形機2には、切断用、整形据込み用、レンチ穴圧造用、角穴圧造用、窄孔用等の各ステーション・・・が一列に一定ピッチで配設され、・・・母材を順次次のステーションに送り込むトランスファ機構・・・が設けられている。」(第2頁右上欄第5行〜15行)
(ニ)「すなわち、整形据込み用ステーションS2において、整形据込み用ダイ41と同ポンチ42により、前記の如く切断された母材1の端面を矯正するように整形据込みする。」(第2頁左下欄第6行〜9行)
(ホ)「整形据込み後の母材1は、ノックアウト45によりダイ41から突き出され、図外のトランスファ機構によりレンチ穴圧造ステーション・・・に搬入され、ダイ51内に送入される。そして、このダイ51と断面菊状のレンチ穴圧造用ポンチ52にて・・・レンチ穴16を圧造成形する。」(第2頁右下欄第3行〜9行)
上記記載事項によると、引用刊行物1には、以下の発明(以下「引用刊行物1記載の発明」)が記載されていると認める。
母材の表面に潤滑処理等の前処理された母材を多段トランスファ冷間鍛造成形するものにおいて、成形工程の中間に焼鈍加工や潤滑処理等を行わずに、1台の成形機で連続的に効率よく製造できるようにした冷間鍛造成形方法。
(2)引用刊行物2
(ヘ)「鉄又はその合金を冷間加工する場合、・・・高加工度のものに対しては、リン酸亜鉛系処理液にてリン酸塩皮膜を生成させ、その上にナトリウム石鹸又は金属石鹸等の潤滑剤が施されていた。」(第1頁第2欄第9行目〜第2頁第3欄第3行)
(ト)「被処理金属をリン酸塩処理し、その表面にリン酸塩皮膜を形成させた後、水洗又は水洗しないで乾燥もしくは乾燥することなく潤滑処理を行う。潤滑処理としては、アルカリ石鹸水溶液による処理、金属石鹸含有液による処理、潤滑油処理、固体潤滑処理等による方法が挙げられる。・・・金属石鹸以外の固体潤滑剤の例として、2硫化モリブデン・・・がある。」(第3頁第6欄第7行〜第27行)
上記記載事項によると、引用刊行物2には、以下の発明(以下「引用刊行物2記載の発明」)が記載されていると認める。
素材を冷間加工する場合、高加工度のものに対しては、リン酸塩被膜を生成し、その上に2硫化モリブデン等の固体潤滑剤によって処理する冷間加工潤滑処理方法。

3 対比
本願補正発明と引用刊行物1記載の発明を対比すると、引用刊行物1記載の「母材」「潤滑処理」「ポンチおよびダイ」「整形据込み後の母材」「レンチ圧造用ポンチ52」「ダイ51」は、本願補正発明の「成形素材」「潤滑被膜」「中間素材形状を有する上型および下型」「中間素材」「上型」「下型」にそれぞれ相当するので、本願補正発明と引用刊行物1記載の発明とは以下の点で一致しているといえる。
「成形素材の表面に対して、潤滑被膜が形成された成形素材を冷間鍛造成形するものにおいて、中間素材形状を有する上型および下型を用い、前記成形素材を据込み成形することで中間素材を成形し、次いで、上型と下型を用い、低温焼鈍および新たな潤滑用被膜処理を施すことなく、連続して、前記中間素材を鍛造成形することで最終製品形状を形成することを特徴とする冷間鍛造成形方法。」、である点。
そして、本願発明と引用刊行物1記載の発明とは、以下の点で相違している。
<相違点1>
本願補正発明が、傘歯車の冷間鍛造成形方法において傘歯車の中間素材形状を有する上型や下型、傘歯車の歯形を形成する上型と歯形背面を形成する下型を備えているのに対して、引用刊行物1記載のものは、ソケットレンチの中間素材形状を有する上型や下型、レンチ穴圧造用上型および下型は備えているが、傘歯車を成形するものでない点。
<相違点2>
本願補正発明では、成形素材の表面に対して、ボンデ処理等による潤滑用化成皮膜処理を施した第一層目の潤滑皮膜と、前記第一層目の潤滑皮膜の上に、二硫化モリブデン等による固体潤滑皮膜を施した第二層目の潤滑皮膜が形成されるのに対して、引用刊行物1記載のものは潤滑処理は施されてはいるが、具体的な構成については不明である点。
<相違点3>
本願補正発明が、中間素材が据込み成形に伴う温度で時効硬化する前に中間素材を鍛造するのに対して、引用刊行物1記載のものはそのような構成を有するか否か明確でない点。
<相違点4>
本願補正発明が、残存する第一層目の潤滑皮膜の潤滑作用により、中間素材を鍛造成形するのに対して、引用刊行物1記載のものはそのような構成がない点。

4 判断
<相違点1>について
冷間鍛造成形方法で傘歯車を鍛造することは周知であるので、引用刊行物1記載の発明
の多段トランスファ冷間成形機を傘歯車の成形に用いることは当業者が容易に想到したことである。その際に、傘歯車の中間素材形状を有する上型や下型、傘歯車の歯形を形成する上型と歯形背面を形成する下型を備えることも当業者が容易に想到したことである。
<相違点2>について
素材を冷間加工する場合、高加工度のものに対しては、リン酸塩被膜を生成し、その上に2硫化モリブデン等の固体潤滑剤によって処理する冷間加工潤滑処理方法は、引用刊行物2に示されているように周知であって、引用刊行物1記載の発明において鍛造対象を傘歯車とする際に傘歯車の鍛造加工が高加工度のものであることを考慮して、潤滑処理として前記周知技術を採用することは、引用刊行物1および2に基づいて当業者が容易に想到したものである。
<相違点3>について
引用刊行物1記載のものも、上記(イ)(ロ)に記載されているように連続的に継続して加工し、据込み成形後に焼鈍加工を行っていないことから判断すると、当然の如く据込み成形に伴う温度で時効硬化する前に次の鍛造工程を行っているものと判断するのが自然である。
<相違点4>について
引用刊行物2に記載の潤滑処理も高加工度の冷間鍛造を行えるよう2層の潤滑皮膜で構成されており、この2層の潤滑皮膜を引用刊行物1記載の連続多段鍛造方法の素材に適用する場合、1回目が据込み加工であれば、2回目の鍛造加工時に1層目の潤滑皮膜が残るであろうこと(全部残っているとは言えないが)は容易に予測し得ることである。してみると、引用刊行物1の記載の連続多段鍛造方法を傘歯車の成形に採用する場合、2回目の鍛造加工で高加工度である傘歯車の歯形を形成するのであれば、歯形形成部分に1層目の潤滑皮膜が残るように構成することは、当業者であれば当然行う設計的事項である。
そして、本願補正発明の効果は、引用刊行物1乃至2に記載のものおよび周知技術が有する効果から予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。
したがって、本願補正発明は、引用刊行物1乃至引用刊行物2に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
平成13年8月9日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成12年11月10日付手続補正書で補正された明細書及び願書に添付された図面からみてその特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「成形素材の表面に対して、ボンデ処理等による潤滑用化成皮膜処理を施す第一層目の潤滑皮膜を形成する第1の工程と、前記第一層目の潤滑皮膜の上に、二硫化モリブデン等による固体潤滑皮膜を施した第二層目の潤滑皮膜を形成する第2の工程と、前記第二層目の潤滑皮膜の潤滑作用で、前記成形素材を据込み成形することで中間素材を成形する第3の工程と、傘歯車の歯形を形成する上型と歯形背面を形成する下型を用い、前記中間素材を前記据込み成形に伴う温度で時効硬化する以前に連続して、且つ、前記第一層目の潤滑皮膜の潤滑作用で、前記中間素材を鍛造成形することで最終製品形状を形成する第4の工程とを有することを特徴とする傘歯車の冷間鍛造成形方法。」

1 引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物1乃至2、および、その記載事項は、前記「第2の2」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明の構成要件を全て含んだものに相当する本願補正発明が、前記「第2の4」に記載したとおり、引用刊行物1乃至2および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物1乃至2および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1乃至2に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本願の請求項2係る発明について検討するまでもなく、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-07-01 
結審通知日 2003-07-08 
審決日 2003-07-23 
出願番号 特願平8-28159
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B21J)
P 1 8・ 121- Z (B21J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野村 亨  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 林 茂樹
鈴木 孝幸
発明の名称 冷間鍛造成形方法および傘歯車の冷間鍛造成形装置  
代理人 千葉 剛宏  
代理人 佐藤 辰彦  

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