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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
審判199935293 審決 特許
審判199721136 審決 特許
審判19984525 審決 特許
異議199773380 審決 特許
不服20024614 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) A61K
管理番号 1084219
審判番号 審判1999-35074  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-09-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-02-18 
確定日 2003-09-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第2766986号発明「動脈の血栓症的閉塞または塞栓症を阻止するための医薬組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2766986号の請求項1〜16に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2766986号の請求項1〜16に係る発明についての出願は優先権主張を伴う昭和63年11月17日(優先日 1987年11月17日 米国)の出願であって、平成10年4月10日に、その発明についての特許権の設定の登録がされたものである。

2.本件発明
本件特許に係る発明は、本件特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された次のとおりのものである。(以下、順次「本件第1発明」「本件第2発明」・・・といい、これら全発明を一括して本件発明ということがある。また、「蛋白質C」を「プロテインC」又は「PC」といい、「活性化された蛋白質C」を「APC」ということがある。)

【請求項1】
急性の動脈の血栓症的閉塞、塞栓症、または冠状動脈、大脳または末梢動脈における狭窄症、または導管移植における狭窄症の阻止、または動脈血小板沈降の阻止のための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、少なくとも95%の純度を有する活性化された蛋白質Cを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
製薬学的に受容可能なキャリヤ一を含むことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
一種の血栓溶解剤または複数の血栓溶解剤の組み合わせを含むことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
0.1〜1.6μg/m1の範囲の活性化蛋白質C血漿レベルを提供するのに充分な活性化された蛋白質Cを含むことを特徴とする請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記の活性化された蛋白質Cが、血漿誘導されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記の活性化された蛋白質Cが、組み換え技術によって製造されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
組織プラスミノ一ゲン活性化剤、ウロキナ一ゼ、プロウロキナ一ゼ、ストレプトキナ一ゼ、プラスミノ一ゲンのアシル化型、プラスミン、及びアシル化ストレプトキナーゼ-プラスミノ一ゲン複合体からなる群より選ばれた一種または複数の血栓溶解剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記の血栓溶解剤が組織プラスミノ一ゲン活性化剤で、前記組織プラスミノ一ゲン活性化剤が0.1〜0.4mg/kg-hrの投与量をもたらす量で含まれていることを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記の活性化された蛋白質Cが、
(a)免疫親和性カラムを用いて、蛋白質Cが含有する源泉から蛋白質Cを精製すること、及び
(b)固定トロンビンを用いて、精製された蛋白質Cを活性化することによって得られたものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記の蛋白質Cが、血漿から誘導されたもの、あるいは組み換え技術によって製造されたものであることを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記の蛋白質Cの源泉が、人間の血漿フラクションであることを特徴とする請求項9または10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記の蛋白質Cの源泉が、血漿プロトロンビン複合体濃縮物であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記の免疫親和性カラムが、これに結合した抗体を含み、前記抗体が蛋白質CのL鎖に結合していることを特徴とすることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
バイオレックス70での吸着または急速蛋白質液体クロマトグラフィーを用いて、前記の活性化された蛋白質Cから残存しているトロンビンが除去されることを特徴とする請求項9〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
一種の血栓溶解剤または複数の血栓溶解剤の組み合わせが、前記の活性化された蛋白質Cおよび前記キャリヤ一と混合されることを特徴とする請求項9〜14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記の血栓溶解剤が、組織プラスミノ一ゲン活性化剤、ウロキナ一ゼ、プロウロキナーゼ、ストレプトキナ-ゼ、プラスミノ一ゲンのアシル化型、プラスミン、及びアシル化ストレプトキナ一ゼ-プラスミノーゲン複合体からなる群より選ばれたものであることを特徴とする請求項15に記載の医薬組成物。

3.請求人の主張の概要
請求人は、「第2766986号の請求項1〜16に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由としてア〜ウを挙げ、本件発明は特許を受けることのできないものであるから、その特許は、特許法第123条第1項第2号及び第4号の規定により無効とされるべきであると主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。

ア、本件特許の出願手続において、願書に添付した明細書について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした平成7年11月16日の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面の要旨を変更するものであるから、本件特許出願は特許法第40条の規定により、上記手続補正書を提出した日とみなされる。そうすると本件特許の公開公報である甲第1号証は本件出願前に頒布された刊行物となり、本件特許の請求項1ないし3、請求項5ないし7、および請求項9ないし16に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができないものである。
また、本件特許の請求項4および8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

イ、本件特許は、各請求項の記載内容が技術的に明瞭でなく、特許請求の範囲の記載が同法第36条第4項第2号及び5項に規定する要件を満たしていない特許出願についてなされたものであり、また、本件特許は、明細書の記載が同法第36条第3項に規定する要件を満たしていない特許出願についてなされたものであるから、本件特許の請求項1ないし16に係る特許発明は特許を受けることができないものである。

ウ、本件特許発明の請求項1ないし16に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、および甲第3号証ないし甲第22号証に記載されたような周知の発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。



甲第1号証; 特開平1一238536号公報
甲第2号証; S.C.Emerick,et.al. ,The Pharmacology and Toxicology of Proteins,351‐367,1987
甲第3号証; S.C.Emerick,et al.,Blood 66(5)(Suppl l),Abstract 1282,1985
甲第4号証; EP公開0191606A2
甲第5号証; M.Verstraete, J.Cardiovasc,Pharmacol.,7,191‐205,1985
甲第6号証; 医療薬日本医薬品集第10版,日本医薬情報センタ一,1986年版,薬業時報社
甲第7号証; B.Kaiser,et al.,Thrombosis and Haemostasis,55(2),194‐196,1986
甲第8号証; 田辺達三他、臨床医薬,2,1645‐1655,1986
甲第9号証; 生駒英信他,血液と脈管,13(1),72‐77,1982
甲第10号証; F.Markwardt,et al.,Thromb.Haemostas.,47(3),226-229,1982
甲第11号証; B.S.Coller,et al.,Arteriosclerosis,7(5),456‐462,1987
甲第12号証; M.H.Horellou,et al.,British Medical Journal,289,10,1984
甲第13号証; E.N.Santander,et al,,Acta,Physiol.Lat.Am.,33,161‐164,1983
甲第14号証; S.R.Hanson,et al.,Thromb.Haemostasis,53,423‐427,1985
甲第15号証; K.Suzuki,et al.,The J.of Biol.Chem.,258(3),1914‐1920,1983
甲第16号証; J.W.Suttie,Thrombosis Research,44,129‐134,1986
甲第17号証; B.W.Grinnell,et al.,Bio/Technology,5,1189‐1192,1987
甲第18号証; Richard A.Marlar,et al.,Blood,59,1067‐1072,1982
甲第19号証; 特開昭60一34916号公報
甲第20号証; 特開昭61一134399号公報
甲第21号証; A.Hamsten,et al.,The New England J. of Medicine,313 (25),
1157‐1563,1985
甲第22号証; V.W.M.van Hinsbergh,et al.,Blood,65(2),444‐451,1985
甲第23号証; 英国国立図書館の回答書

4.被請求人の主張の概要
被請求人は、上記請求人の主張する無効の理由ア〜ウは、いずれも理由がない旨主張し、これを立証する証拠方法として、次の書証を提出している。なお、無効理由についての被請求人の具体的な主張は、下記の「当審の判断」において取り上げる。


乙第1号証;Harker,et.al.'Thrombos.Diathes.Haemorrh.'(Stuttg.)l974,31:188‐203
乙第2号証;Elsenberg,P.R.,et.al.,lnt.J.Cardiology 68(Suppl 1)(1999);S3‐S10
乙第3号証;Hladovec,J.Thrombosis Research 43:545‐551,1986
乙第4号証;J.Conard.,et.al.,Seminars in Thrombosis and Hemostasis Vol.12 NO.2,1986,7‐90
乙第5号証;Rodger L.Bick,Disorders of Hemostasis and Thrombosis,(1985),294‐321
乙第6号証;Rodger L.Bick,Disorders of Hemostasis and Thrombosis,(1985),1‐35
乙第7号証;Andrew I.Schafer,Molecular Mechanisms of Hypercoagulable States,(1997),1‐34

5.当審の判断

5-1 無効理由アについて
無効理由アは、本件特許の出願手続において、願書に添付した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした平成7年11月16日の補正における
(1)請求項4の活性化蛋白質Cの有効血漿レベルとしての0.1〜1.6μg/ml
(2)請求項8の組織プラスミノーゲン活性化剤の投与量に関する0.1〜0.4mg/kg-hr
なる数値限定のいずれもが、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、それぞれ当初明細書、当初図面という。)には全く開示がないものであるから、明細書の要旨を変更するものであるという前提で主張されている。そこでまず、この点につき検討する。

(1)活性化蛋白質Cの有効血漿レベルについて
活性化蛋白質Cの有効血漿レベルに関し、当初明細書には「0.24ないし1.6マイクログラム/mlの血漿水準でAPCがきわめて強力な抗血栓症剤である・・。」(甲第1号証第7頁右上欄)との記載がなされているが、下限値として0.1μg/mlの値の直接的記載はない。しかしながら、当初図面(第5図a)によればAPC投与後105分を経た時のAPC血漿レベルが0.1μg/mlのとき、その時点での全沈降血小板数の上昇は抑えられている(第5図c)という結果が示されており、これは作用が持続していることが確認された血漿レベルとして当該数値を採用する具体的裏付けとなるものである。したがって、この補正は当初明細書、図面に記載された範囲内のものである。
請求人は、第5図は0.1μg/mlの濃度で-定時間APCの血漿レベルを保った場合に血小板の沈降の阻止に有効であることを示すデータではないとするが、請求項4は「 0.1〜1.6μg/mlの範囲の活性化蛋白質Cの血漿レベルを提供するのに充分な活性化された蛋白質Cを含む・・・医薬組成物。」というものであって、医薬組成物中の活性化蛋白質Cの含有量の目安としてその組成物が与える活性化蛋白質Cの血漿レベルの値が特定されているのであって、0.1μg/mlの血漿レベルを維持し続けることによって血小板の沈降の阻止を行うことまでも意味するものではないから、かかる主張は理由がない。

(2)組織プラスミノーゲン活性化剤の投与量
APCと併用する組織プラスミノーゲン活性化剤の投与量に関し、当初明細書には「第8図は、同じ実験モデルでのt-PAでの若干の予備的な実験の結果を示す。1mgのt-PA・・・中程度の抗血栓作用を有した。」と記載され、第8図には、0.1mg/kg・hrのt-PA注入の場合も、0.4mg/kg・hrのt-PA注入の場合も、対照に比べて、沈降血小板数が低下することが示されている。また、第6,7図には、APC(2.1mg)及びt-PA(1.3mg)を組み合わせて投与した実験において、血小板沈降阻止の効果が確認されている。従って、予備実験で抗血栓作用の確認されたtーPAの1.0mg、4.0mgをそれぞれ上限下限とする範囲の投与量がAPCとの併用時にも血小板沈降を有効に阻止するであろうことは第6,7図の投与例から、当業者が十分に理解することができる。よって、第8図の予備実験におけるt-PA単独投与時の投与量をAPCとの併用時の投与量とする点は当初明細書、図面に記載された事項の範囲内のものである。

以上のとおりであるから、上記手続補正は明細書の要旨を変更するものとはいえない。
そうすると、甲第1号証は本件特許の出願日(優先日1987年11月17日)後に頒布されたものであるから、特許法第29条第1項3号の刊行物には該当しない。したがって、理由アにより本件特許を無効とすることはできない。

5-2 無効理由イについて
請求人は、本件特許請求の範囲及び明細書の記載に関し
(1)特許請求の範囲の請求項1の「少なくとも95%の純度を有する活性化された蛋白質C」なる文言の「95%の純度」が何を意味するのか不明瞭であり、また、少なくとも95%の純度を有する活性化された蛋白質Cに関する明細書の記載が不備である
(2)APCの血漿しベルを0.1〜1.6μg/mlと規定しているが、0.1μg/mlの濃度で一定時間APCの血漿しベルを保った場合に血小板の沈降阻止に有効であることを示すデータがない
の各点を指摘し理由イの根拠としているので以下検討する。

(1)について
「95%の純度を有する活性化された蛋白質C」の意味は、精製蛋白質中の活性化された蛋白質Cとして同定される蛋白質が少なくとも95%であることは文言上明らかであり、その残りが何であるか示されなければその意味するところが理解できないというものではない。したがって、 請求項1及びこれを引用する他の請求項の記載が技術的に明確でないとすることはできない。
また、本件特許公報の第3頁右欄第36行〜37行には
「精製したAPCはSDS-PAGE上に二つのバンドとして現れ、他の蛋白質による有意の汚染(≧約5%)は検出されなかった。若干の調合品においては、・・・痕跡量のトロンビンが・・分離された。」
と記載されている。
一般に、蛋白質CはSDS-PAGEでは還元剤の不存在化では約62000mol wtのシングルバンド、還元剤の存在下で分子量約40000mol wtと約22000mol wtの二つのバンドを形成することが知られており(甲第18号証第1068頁右下欄)、活性化後もそれぞれ元の蛋白質Cに対応するAPCとして同定可能であると解されるが、本件明細書の記載においても「APCは・・二つのバンドとして現れ・・」としているから、これは還元剤存在下でAPCのSDS-PAGEを行った結果と理解することができ、APCとして同定できる蛋白質以外のバンドが検出されないことが有意の汚染(≧約5%)がないとする根拠であることはその記載から明白である。また、他の汚染タンパク質として痕跡量トロンビンが存在する場合があることも記載されている。
請求人は、蛋白質Cをトロンビンで活性化することによりAPCに変換する際に生じる分子量上の変化は、1500程度に過ぎずSDS-PAGEではその解像度から考え、蛋白質CとAPCを区別することは困難であるとするが、上記のとおり、2つのバンドはAPCに対応するものであることが明確に記載されているのであって、蛋白質CとAPCの混合物と解すべき余地はなく、仮に活性化後のAPC中にわずかに蛋白質Cが存在したとしても、これを汚染蛋白質とすべき理由もない。
以上のとおり純度に関する本件明細書の記載は当業者が格別困難なく理解できる範囲のものであるから、請求人の主張は採用できない。

(2)APCの血漿レベル0.1μg/mlの場合のデータがない点について
上記5-1(1)で述べたとおり、請求項4は、医薬組成物中の活性化蛋白質Cの含有量の目安として活性化蛋白質Cの血漿レベルの値が記載されているのであるから、0.1μg/mlの血漿レベルを維持し続けることによって血小板の沈降の阻止に有効であることの効果の記載がなければ請求項4に記載された発明が容易に実施できないというものではない。

したがって、(1)(2)の点で本件特許は、明細書の記載が同法第36条第3項、4項及び5項に規定する要件を満たしていない特許出願についてなされたものであるとすることはできない。

5-3 無効理由ウについて

(1)本件第1発明について
請求人が提示した甲第23号証により本件特許の優先日前の1987年11月12日に頒布されたと認められる甲第2号証には、概略以下の事項が記載されている。

「活性化されたプロテインC(APC)は特殊な活性(Va、VIIIa因子の不活性化)をもつので魅力的な抗血栓塞栓剤となる可能性があることはインビトロの研究で予測されていたが、APCの大血管の血栓症における抗血栓性はインビボでは示されていない。この研究では、サルとアカゲザルに前もって形成した頸静脈血栓に対する放射性ラベルされたフィブリノーゲン(F)の付着を阻止するAPCの能力を調査した。高度に精製された血漿由来のヒト蛋白質Cをウサギのトロンボモジュリン‐ウシトロンビン(T)で活性化させた。・・・・・フィブリン溶解を阻止するためイヌには、はじめに、200mg/kg、実験期間中は200mg/kg/hのAMICARが投与された。・・・イヌの実験では、当初84、126、168μgAPC/kgの一時静注、続いて21、31.5、42μg/kg/hの2時間連続注入で投与された。・・APC注入により、APTTの延長は3一6秒であり、プロトロンビンタイムに変化はなく、血栓へのフィブリンの付着は対照に比べ大きく減少した。・・手術の傷からの出血は少なく、対照のイヌよりAPC処理されたものが多くはなかった。ヒトPC抗原LがELISAによる測定で、0.7一3.4μg/m1であった。・・・サルの実験では、組み換えヒトAPCは当初60μg/kgの一時投与、続いて15μg/kg/hの2時間連続注入で投与されAMICARは投与されなかった。・・イヌと同様サルの実験でも、APTTの延長はわずかで、プロトロンビンタイムの変化も過度の出血もAPC処理された動物には見られなかった。このように,APCはイヌやサルにおいて魅力的な抗血栓塞栓剤であり、手術中の出血増加を起こさないようである。」(要約部分参照)

したがって、甲第2号証においては、APCが頸静脈に形成された血栓へのフィブリンの付着を阻止することを確認した実験により、APCの静脈血栓症治療薬としての用途の具体的裏付けがなされているものである。

本件第1発明と、甲第2号証に記載された発明を対比すると、両者は活性化された蛋白質C(APC)を含む血栓治療に用いる医薬組成物である点で一致し、

a.前者では、医薬品の用途発明の構成要件としての用途が、急性の動脈の血栓症的閉塞、塞栓症、または冠状動脈、大脳または末梢動脈における狭窄症、または導管移植における狭窄症の阻止、または動脈血小板沈降の阻止(以下、動脈血栓症等の治療という。)であるのに対し、後者は具体的実験データにより裏付けられているのは静脈血栓症の治療の用途である点 b.前者では活性化された蛋白質C(APC)の純度が少なくとも95%であるのに対し、後者ではそのような限定がない点

で相違する。以下、各相違点につき検討する。

(相違点aについて)
甲第2号証には、APCの生理的意義及び抗血栓剤としての作用機作を概略、以下のように記述している

「最近数年間にわたり、いわゆる蛋白質Cー蛋白質Sートロンボモジュリンシステムは血液凝固の主要なダウンレギュレイテイングフォースであることがインビトロ実験で確立された。・・このシステムの鍵となるものはビタミンーK依存血漿チモーゲン(酵素前駆体)である蛋白質Cであり、活性状態のセリンプロテアーゼになったときに、血液凝固の主要な補助因子である凝固因子を不活化することによってトロンビン生成に大きく影響を与える。・・・
この報文において我々は、APCが有効な抗血栓剤であることを示唆する前臨床的薬学的データを示している。デイスカッションのセクションで我々は簡単に、なぜ活性化された蛋白質Cがある種のハイリスク患者におけるヘパリンの魅力的な代替物になる可能性があるのかその理論的理由をまとめた。」 (イントロダクション参照)

「ここで示された実験における抗血栓剤としてのAPCの有効性を理解するために、トロンビンの生成、フィブリンへのフィブリノーゲンの変換を起こす複雑な凝集反応における2つの重要なステップを理解することが必要である。第4図に示す2つの反応は、凝固因子XのXaへの変換、プロトロンビンのトロンビンへの変換である。2つの反応はいくつかの点で類似している。これらは液相では起こらず、血小板、白血球・・などの細胞表面で起こるインターフェイス現象である。・・・
APCが細胞表面で利用できるときに、凝固因子Xaとトロンビンの生成を効果的にシャツトダウンする。APCは必要時に生ずる抗凝固剤であり得る。トロンビンにはV及びVIII因子のVa及びVIIIa因子への変換が不可欠であり、Va、VIIIa因子はAPCにとって好ましい基質であるから、APCはトロンビンが生成される時、及びその場所に限りその作用を及ぼすであろう。このことは、すべての活性化されたセリンプロテアーゼを阻害するヘパリンとは対照的である。・・・
APCは血栓が生じている患者に対し少なくともへパリンと同様の効果を奏するばかりでなく、ヘパリンや経口抗凝固剤がもつ重篤な出血合併症を引き起こす可能性が少ないことを期待できるだろう。我々の考え及び医薬として蛋白質Cを発展させる戦略を理解するためには生理的にどのように蛋白質Cが活性化されるかを理解することが重要である。内皮細胞表面のレセプターであるトロンボモジュリンが重要である。・・・・・
トロンボモジュリン-トロンビンによる蛋白質Cの活性化の速度定数はトロンビンのみの場合の20000倍高い。…単純な解剖学的観察によれば、チモ一ゲンである蛋白質Cは、大血管の血栓症では無効な抗血栓剤ではないかと強く示唆されている。血管系の表面領域あるいはむしろ血漿量に対する表皮細胞表面の比を考慮すると、大血管の細胞表面、従ってトロンビンと複合体を作り蛋白質Cを活性化するトロンボモジュリンを利用する可能性は相対的に小さく、一方、マイクロ循環における表面領域、すなわち、体内の毛細血管の総和は、マクロ循環系の表面領域より少なくとも100,000倍以上大きい。従って、播種性血管内凝固のようなマイクロ循環系の血栓症では、蛋白質Cを活性化するのに十分な機会が理論的には存在する筈であり、チモ一ゲンは恐らくマイクロ循環系血栓症の治療に有用だと思われる。これに対し、大血管において進行性の血栓部位で利用可能なトロンボモジュリンは、十中八九蛋白質Cを活性化するには十分ではない。
これらの理由により、我々は、インビトロで予め活性化された蛋白質Cは、静脈血栓塞栓症や冠動脈閉塞、血栓性発作のような大血管の血栓症治療に好ましい処方であると結論づけた。」 (デイスカッション参照)

このように甲第2号証では、あらかじめ蛋白質Cが活性化されていれば接触する血管内皮表面の大きさに左右されることなくその作用を発揮することが期待でき、冠状動脈閉塞等の大血管にも適用可能との結論を導いている。したがって、すでにAPCの動脈血栓への適用は蛋白質C活性化の機序の点から理論的に説明されている。

更に、請求人が提示した甲第4号証は、遺伝子組換え法により血漿中の生理活性蛋白である蛋白質Cを製造する技術に関する文献であるが、APCの有用性に関連し以下の事項が記載されている。

「プロテインCは他のタンパク質と一緒になって、血栓症の誘因である、血液凝固(凝血)に対する最も重要なダウンレギュレーター(降下調整剤、down regulater)として作用すると思われる。換言すると、プロテインC酵素系は、抗凝血作用に関する主要な生理学的機構に係っている。プロテインCの生理学的重要性及び潜在的な治療上の重要性は、臨床上の所見から推察される。・・・先天性のホモ接合体プロテインC欠損症の場合には罹患した家族において、幼児期早期における急奔性紫斑病・・・による死亡がみられる。ヘテロ接合体性のプロテインC欠損症の場合には、罹患した人々は重篤な、再発性の血栓塞栓症に苦しむことになる。B型血友病又は第IX因子欠損症治療のための血漿濃縮物であって、不純物としてプロテインCを含んでいるものは、ヘテロ接合体性プロテインC欠損症に有効であると同時に、ホモ接合体性の血管内凝血を阻止し、治療するのにも有効であるということが臨床上、十分に確立されている。また、血栓塞栓症、あるいは、血栓塞栓症に至る前置的な病的状態・・・播種性血管内凝固、大けが、大手術を受けた状態・・・にもプロテインCレベルが低くなるということがわかっている。」
(甲第4号証第1〜2頁 )

「組換えにより生産されたプロテインCは深部静脈血栓症、肺動脈塞栓症、末梢動脈血栓症、心臓または末梢動脈で生じた塞栓、急性心筋梗塞症、・・・・の疾患状態を予防、並びに治療するのにも有用であろう。・・・・活性化されたプロテインCはヘパリンよりも選択性が高く、トロンビンが生成し、繊維素トロンビンが形成された時、およびその位置でしか活性を示さない。それ故、プロテインCは、深部静脈血栓症を防止するために予防的に用いたとき、ヘパリンよりも有効であり、しかも出血性合併症を引き起こし難いと思われる。・・・末梢動脈の塞栓の場合にも・・・ヘパリンの代わりに活性プロテインCを用いることができる。・・・・・確立された深部静脈トロンビンー肺動脈塞栓の治療に匹敵しうる用量の活性プロテインCを携帯用のポンプで連続注入する方法は、心臓性の塞栓の予防に、実質上有効である。・・・・・組換えにより生産された活性プロテインCは、インビボでの繊維素(フィブリン)溶解の促進能力を有しているので、急性心筋梗塞の治療に有効である。・・・組織プラスミノーゲン活性化剤による治療の開始時に、プロテインCを負荷容量として1〜10mg与え、以後・・・プロテインCを連続注入する。 」 (甲第4号証第32〜36頁)

上記甲第4号証によれば、蛋白質C(プロテインC)の抗凝血作用、及び蛋白質Cを含有する血漿濃縮物がヘテロ接合体性プロテインC欠損症に有効であると同時に、ホモ接合体性の血管内凝血を阻止するという臨床上の知見により、遺伝子組み換えで製造される蛋白質C並びにAPCが従来の血栓症治療薬であるヘパリンの代替薬として、静脈並びに動脈の血栓や塞栓の治療、予防に有用であるとしている。

甲第2,4号証において蛋白質CやAPCと対比されているヘパリンは、アンチトロンビンIIIの存在下でプロトロンビンからトロンビンへの変換やトロンビンの作用を阻害するのをはじめ、血液凝固機構の各種因子に作用して血液凝固を阻止すること、血小板凝集の抑制作用もあるとされ、静脈、動脈を含む血栓塞栓症に適用されることが周知(甲第6号証[適用][作用]の項参照)であるから、同様にトロンビン生成を阻止し血液凝固阻止作用を持つAPCについてもヘパリンと同じ、静脈、動脈の両方に対する適用の可能性を期待するのはきわめて自然であり、さらにAPCはヘパリンに比べ出血合併症の危険が少ないという利点は臨床上注目すべきものであり、実用化への意欲を誘うものといえ、甲第2号証ではそれを具体的に頸静脈血栓モデルの実験で確認したものであるから、動脈モデルでの確認もその延長線上にあるものと言うことができる。

このように、甲第2、4号証には、APCにつき、当業者が動脈での有効性を理論的に予測し、具体的に動脈血栓モデルによりその作用を確認する強い動機付けが存在するが、甲第14号証によれば、本件出願時には動脈血栓のモデルがすでに確立されていたのであるから、これを利用して動脈における抗凝固活性や血小板凝集阻止などの抗血栓作用を確認することは当業者にとって、格別困難を伴うものではない。

被請求人は、静脈血栓と動脈血栓とでは病理が全く相違し、静脈血栓において有効な薬剤が動脈でも有効であると推測することはできないと主張する。しかしながら、トロンビンの生成の阻止あるいはトロンビン自体を不活性化する作用(以下、抗トロンビン作用という。)のある薬剤については以下のように静脈血栓にも動脈血栓にも有効であることが予測可能であるといえる。
すなわち、静脈血栓形成には血流の遅滞化と凝固能の亢進が主として作用するのに対し、動脈においては血管内皮の損傷に始まる血小板の粘着、凝集反応が血栓形成の最も初期の過程であること(甲第5号証S191頁、甲第9号証第73頁左欄)、動脈血栓の本体が血小板とフィブリンであることはよく知られている。したがって、血液凝固(血液凝固の最終段階はフィブリノーゲンからフィブリンへの変換であるがこの反応にはトロンビンが必須である)はいずれの血栓においても必要である。
また、動脈血栓における血小板凝集物の成長にはトロンビンが関与すること、トロンビンは血小板の活性化に必要であり、ヘパリンや他の合成インヒビターはフィブリン形成のみならず血小板凝集をも妨げるであろうとされている(甲第5号証S192頁)。そうすると、トロンビンの生成阻害によりトロンビンによるフィブリノーゲンからのフィブリンの生成すなわち血液凝固が阻止され、同時にトロンビンによる血小板凝集物の成長も阻止されることとなり、結果的に静脈血栓や動脈血栓の発生や成長が阻害されることは当業者には容易に理解されることであって、抗トロンビン作用のある薬剤は両者に適用可能と考えるのが自然である。実際、抗トロンビン作用のあるヘパリンが両者に有効な薬剤として臨床使用されていることは前述のとおりである。

被請求人は、ヘパリンについては、動脈血栓症にではなく、うっ滞型静脈血栓症に対して治療上有効であること(乙第1号証)又、動脈血栓症におけるへパリンの治療効果については論争があること(乙第2号証)、ヘパリンのごく少量の投与量が静脈モデルで有効であったが、動脈血栓症モデルで何らかの抑制を示すためには、標準的な臨床投与量より高い投与量が必要であったこと(乙第3号証)、凝固因子の調節因子はまだ全部知られていないし、解明もされていない(乙第6号証)とし、静脈血栓症モデルの結果から動脈血栓症モデルの結果は予測できないとも主張するが、これらにより甲第6号証によるヘパリンの動脈血栓への臨床適用の事実は左右されるものではない。むしろ乙第6号証(図1-3)には、蛋白質CがトロンビンによりオートプロトロンビンIIA(F-Xaのインヒビター)に変化することや、血小板の活性化にトロンビンが関与すること、アンチトロンビンIII(ヘパリンコファクター)がF-Xaを不活性化することなど、上記の従来からの知見と合致する内容が明記されており、ヘパリンの作用やヘパリン代替物としてのAPCの可能性を疑わせる根拠とはなり得ない。

また、被請求人は、甲第2号証の記載が動脈血栓症の治療を想起させるものではないとして甲第16号証の、「外科手術の過程で、活性化された蛋白質C(APC)が、低用量へパリン療法に代わることができるかもしれないこと、および、手術後の時期に予防的に有用であるかもしれないことが示唆された。この理論的には魅力的な示唆を利用可能であることを実証するデ-タはほとんどないが、Lilly Research LaboratorlesのDr.N.Bangは、犬をモデルに用いた前臨床デ一タをいくつか提示している。」の記載をあげ、先行技術においては、Bang(甲第2、3号証の著者)の静脈動物モデルだけから、静脈血栓症の治療においてAPCを臨床使用することに懐疑的であったとも主張する。
しかしながら、甲第16号証には上記箇所に続いて「彼は手術の傷からの出血を起こすことなく頸静脈の停滞により生じた血栓へのフィブリノーゲンの付着防止にAPCが効果的であることを報告した。」との記載があり、被請求人の指摘する記載箇所が、Dr.N.Bangのイヌの実験が実証データに値しないという趣旨であると解することはできない。

被請求人は、乙第4、5号証、甲第11、12号証をあげ、圧倒的多数の蛋白質C欠乏患者において、蛋白質C欠乏は、動脈血栓症ではなく、静脈血栓症に付随していることを教示するとも主張するが、上記証拠は、蛋白質Cと静脈血栓症との臨床上の相関を示すものではあるが、蛋白質Cと動脈血栓症との関連を明確に否定するものではないし、蛋白質Cとは異なり血管内皮細胞表面での活性化を要しないAPCについて動脈血栓症の治療用途についての否定的教示を与えるものでもない。

そして、他のいずれの証拠を見ても、甲第2、4号証のAPCの動脈血栓症等の治療への適用可能性の教示に反して、動脈モデルでの実験を躊躇させるべき阻害要因は何ら見あたらない。

(相違点bについて)

生体成分を最終的にヒトに投与する薬剤とする場合、当業者としてはできるだけ純度の高いものを使用しようと考えるのは当然であり、甲第2号証(MATERIALS AND METHODSの項参照)でも精製の重要なステップはAffigel 10ビーズに固定されたCa++-依存性モノクローナル抗PC抗体を利用した免疫親和性クロマトグラフィーであるとされている。
蛋白を高度に精製するのにその蛋白に特異的なモノクロ一ナル抗体を用いた免疫親和性カラムを用いることは、本件特許出願当時、既に技術常識であるところ(甲第16,17、19,20号証)、甲第19号証(第3頁左下欄)には蛋白質CなどのビタミンK依存蛋白質をモノクロ一ナル抗体を用いた免疫親和性カラムで高純度に、すなわち不純物はほとんどなく、治療に用いることも更に精製することもできると記載されている。さらに甲第15号証には、免疫親和性カラムによらない純度95%蛋白質Cの精製法も報告されている。
したがって、医薬に使用しうる程度の純度の蛋白質C、少なくとも95%以上の純度の蛋白質Cはすでに従来の精製法で得られることが広く知られていたのであり、さらに蛋白質Cの活性化を処理後の分離が可能なトロンビンセファロースビーズ(甲第18号証、本件明細書でPCの活性化方法として引用されている)で行うことも公知であるから、少なくとも95%の純度の蛋白質Cをこのような活性化剤で処理し、必要に応じて適宜の精製工程を追加することにより「少なくとも95%の純度を有するAPC」を得るのは当業者が容易になしうる範囲のことである。

上記のとおり、a,bの相違点にはいずれも格別の困難性はなく、本件特許明細書の記載から見て、本件第1発明の効果にしても当業者の予測する範囲を越えるものではない。
したがって、本件第1発明は、甲第2、4号証及び甲第14〜20号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
本件第2〜16発明は、いずれも請求項1を直接的又は間接的に引用しており、甲第2号証との相違点a、b及びそれについての判断は上記の本件第1発明と重複するため、以下に記載する本件第2発明以下の判断においてはa、b以外の相違点に対する判断を追加的に記載するに留める。

(2)本件第2発明について
本件第2発明は、本件第1発明に製薬学的に受容可能なキャリヤ一を含むものであるが、医薬組成物において、かかる成分を含ませることは常套の手段であるから、本件第1発明と同様、甲第2、4号証及び甲第14〜20号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(3)本件第3発明について
本件第3発明は、本件第1発明の医薬組成物に一種の血栓溶解剤または複数の血栓溶解剤の組み合わせを含むものである。
当業界において、異なる作用機作で同種効果を奏する2つ以上の薬剤を併用し、単用による副作用等の緩和を図ることは当業者が一般的に試みることであるが、心筋梗塞治療には通常血栓溶解剤の1種であるt-PAが使用されているところ、甲第22号証ではAPCがt-PAインヒビタの産生を抑制することが、甲第21号証ではt-PAインヒビタの濃度と心筋梗塞との関係が報告されており、心筋梗塞においてAPCはt-PAの作用を高めることが理論的に期待される。甲第4号証においても「組換えにより生産された活性プロテインCは、インビボでの繊維素(フィブリン)溶解の促進能力を有しているので、急性心筋梗塞の治療に有効である。活性プロテインCを組織プラスミノーゲン賦活剤と一緒に、心筋梗塞の急性期に投与するとよい。」と併用を示唆している。
被請求人は、出願当時の技術水準では、血栓溶解剤が重大な血液学的副作用をもたらすことが知られており、この点を考慮すれば、当業者であれば、APCと、組織プラスミノ一ゲン活性化因子(t-PA)などの血栓溶解剤の両方を組み合わせれば、血栓溶解剤の副作用を軽減するよりは一層悪化させることになると結論付けられ、両者の組み合わせの処方は到底想到し得ないとするが、当業者は、むしろAPCの併用により、t-PAの用量を減じることができ、副作用の緩和が図れると考えるのが自然である。
そうすると、本件第3発明にしても、甲第2,4号証、甲第14〜22号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(4)本件第4発明について
本件第4発明は、本件第2または第3発明において特定範囲の活性化蛋白質C血漿レベルを提供するのに充分な活性化された蛋白質Cを含む医薬組成物であるが、医薬組成物中の有効成分の含有量を実験的に決定することは、当業者の通常行う範囲のことにすぎない。
よって、上記5-3(1)または(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(5)本件第5発明について
本件第5発明は、蛋白質Cが血漿誘導されたものであることを特定するものであるが、甲第2号証、甲第15号証、甲第18号証に見られるように、ヒト血漿中に蛋白質Cが存在することは周知であるから、蛋白質Cの源泉としてこれを選択することに何ら困難はない。よって、上記5-3(1)または(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(6)本件第6発明について
本件第6発明は、蛋白質Cが組み換え技術によって製造されたものであるが、甲第2〜4号証、甲第16及び17号証にもあるように、組み換え技術によって製造された蛋白質Cは当業者にとってすでに周知であり、蛋白質Cの源泉としてこれを選択することに何ら困難はない。
よって、上記5-3(1)または(3)に引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(7)本件第7発明について
本件第7発明は、組織プラスミノ一ゲン活性化剤、ウロキナ一ゼ、プロウロキナ一ゼ、ストレプトキナ一ゼ、プラスミノ一ゲンのアシル化型、プラスミン、及びアシル化ストレプトキナ一ゼ-プラスミノ一ゲン複合体からなる群より選ばれた一種または複数の血栓溶解剤を含むものである。
しかしながら、組織プラスミノ一ゲン活性化剤(t-PA)とAPCとを併用することが容易であることは上記5-3(3)においてすでに記載したとおりである。

(8)本件第8発明について
本件第8発明は、血栓溶解剤が組織プラスミノ一ゲン活性化剤であり、それが0.1〜0.4mg/kg-hrの投与量をもたらす量で含まれているものであるが、動脈血栓症等の治療に用いる組織プラスミノーゲン活性化剤の投与量を検討し、適切な量を設定することは、当業者が普通に行う範囲のことであるから、本件第8発明は、5-3(3)において引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(9)本件第9発明について
本件第9発明は、活性化された蛋白質Cが(a)免疫親和性カラムを用いて、蛋白質Cを含有する源泉から蛋白質Cを精製すること、及び(b)固定トロンビンを用いて、精製された蛋白質Cを活性化することによって得られたものである。
しかしながら、5-3(1)で記載したように、当業者はなるべく純度の高い活性化された蛋白質Cを用いたいと望むところ、甲第16、17号証、甲第19、20号証に示されるように、免疫親和性力ラムを用いて蛋白質Cを含有する源泉から蛋白質Cを精製することは、本出願の優先日当時にはすでに周知であるから、かかる精製法を採用するのに何ら困難はない。また、甲第17号証に示されるように、精製された蛋白質Cを活性化する手段として、固定トロンビンを採用する点にも何ら創意を要しない。
よって、5-3(1)または(3)に引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(10)本件第10発明について
本件第10発明は、本件第9発明における蛋白質Cが血漿から誘導されたもの、あるいは組み換え技術によって製造されたものである。しかしながら、いずれも本願出願時において蛋白質Cの源泉として広く知られていたものであるから、5-3(1)または(3)に引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(11)本件第11発明について
本件第11発明は、本件第9または第10発明において蛋白質Cの源泉が、人間の血漿フラクションであるものであるが、ヒトの血漿フラクション中に蛋白質Cが存在することは周知であるから、蛋白質Cの源泉として、人間の血漿フラクシヨンを用いることには何ら創意を要しない。
よって、5-3(1)または(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(12)本件第12発明について
本件第12発明は、蛋白質Cの源泉が、血漿プロトロンビン複合体濃縮物であるものである。しかしながら、蛋白質Cが血漿プロトロンビン複合体濃縮物中に存在することは周知であり、甲第18号証(p1068左欄)においても蛋白質Cの源泉として商業用IX因子濃縮物Proplex(これはヒト血漿由来のプロトロンビン複合体製剤である)が使用されている。
よって、本件第12発明も、5-3(1)または(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(13)本件第13発明について
本件第13発明は、免疫親和性カラムが、これに結合した抗体を含み、この抗体が蛋白質CのL鎖に結合していることを特徴とするものである。
しかし、甲第20号証(第6〜7頁参照)には、蛋白質CのL鎖を認識するカルシウム依存性の抗体を不溶性担体と結合させた吸着体を使用して蛋白質Cを分離することも記載されている。
よって、本件第13発明にしても5-3(1)または(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

被請求人は、甲第17号証と甲第20号証は、カルシウム存在下でのみヒト蛋白質Cを特異的に認識するモノクロ-ナル抗体に関するものであって、本件特許で用いられた抗体は、先行技術における抗体とは異なり、カルシウム依存的な抗体ではない旨主張するが、請求項13には「カルシウム依存的な抗体」を排除する旨の記載はないから、かかる主張は本件第13発明の構成に基づくものではない。

(14)本件第14発明について
本件第14発明は、バイオレックス70での吸着または急速蛋白質液体クロマトグラフィ一を用いて、活性化された蛋白質Cから残存しているトロンビンが除去されるものである。
しかしながら、トロンビンは凝固系の中心をなす酵素であって、抗凝固蛋白のAPCとは逆方向に作用するものであり、APCを医薬とする場合はそれを十分に除いておく必要性があることは当業者にとって自明のことである。そして、甲第18号証(第1068頁左欄第34〜37行)によれば、遊離のトロンビンでPCを活性化した後、試料中に残存するトロンビンをバイオレックス70レジンを用いて除去したことが記載されているのであるから、これにならってトロンビンを除去することは当業者が容易になし得ることである。
被請求人は甲第18号証(第1069頁の第1欄第1段落)には、活性化された蛋白質C産物では、トロンビン活性が検出されなかったとの記述がある旨主張するが、APCを医薬として用いる場合はわずかなトロンビンによる汚染も問題となるのであって、その用途に求められる精製度に応じ、バイオレックス70レジンでのトロンビン除去を付加することは当業者が適宜行うことである。
よって、上記理由及び5-3(1)または(3)で引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(15)本件第15発明について
本件第15発明は、一種の血栓溶解剤または複数の血栓溶解剤の組み合わせが、前記の活性化された蛋白質Cおよび前記キャリヤ一と混合されたものである。
しかしながら、5-3(3)で記載したように、t-PA、その他の血栓溶解剤とAPCとを併用する発明は当業者が容易になし得るものにすぎず、これに、さらに特定のキャリヤ-を加えることも常套の手段の付加にすぎない。
よって、5-3(3)において引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(16)本件第16発明について
本件第16発明は、本件第15発明の医薬組成物に含まれる血栓溶解剤が組織プラスミノ-ゲン活性化剤、ウロキナ一ゼ等からなる群より選ばれたものであるが、組織プラスミノ-ゲン活性化剤を選択することに進歩性がないことはすでに5-3(3)で述べた。
よって、本件第16発明にしても5-3(3)において引用した証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

(4)結び
上記の通り、本件発明は、甲第2、4号証に記載された発明、および甲第14ないし甲第22号証に記載された発明並びに当業界における周知事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、その特許は同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものとする。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-04-23 
結審通知日 2003-04-28 
審決日 2003-05-15 
出願番号 特願昭63-292222
審決分類 P 1 112・ 121- Z (A61K)
P 1 112・ 532- Z (A61K)
P 1 112・ 113- Z (A61K)
P 1 112・ 531- Z (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田村 聖子  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 深津 弘
竹林 則幸
登録日 1998-04-10 
登録番号 特許第2766986号(P2766986)
発明の名称 動脈の血栓症的閉塞または塞栓症を阻止するための医薬組成物  
代理人 鈴木 雅彦  
代理人 武石 靖彦  
代理人 村田 紀子  
代理人 ▲吉▼▲崎▼ 修司  
代理人 鈴木 雅彦  
代理人 前田 純博  
代理人 前田 純博  
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