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審決分類 審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1084915
異議申立番号 異議2000-71888  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-05-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-05-08 
確定日 2003-09-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第2972274号「白癬ワクチン」の請求項1ないし9、12、13、16ないし34、36ないし38、41、42に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2972274号の請求項1ないし9、12ないし13、16ないし34、36ないし38、41ないし42に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2972274号発明は、平成2年4月21日(パリ条約による優先権主張1989年4月21日、米国)に特許出願され、平成11年8月27日にその特許権の設定登録がされたものである。その後、本件特許について、ベーリンガー インゲルハイム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングより特許異議申立がされ、当審より取消理由通知がされ、その指定期間内である平成13年4月13日に訂正請求(その後平成14年4月11日付けの訂正請求書取下書により取下がされた。)がされ、さらにその後、当審より審尋がされ、それに対して回答がされた。

2.本件発明
特許異議申立がされた請求項1〜9、12〜13、16〜34、36〜38及び41〜42に係る発明は、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】少なくとも1種の皮膚糸状菌に由来する抗原;および適当なキャリアを含有する白癬ワクチン。
【請求項2】前記皮膚糸状菌は下記皮膚糸状菌類より成る群から選ばれる、請求項1記載のワクチン。
エピダーモフィートン・フロクスム(Epidermophyton floccusum)
ミクロスポルム・オウズイニ(Microsporum audouini)
ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)
ミクロスポルム・ジストーツム(Microsporum distortum)
ミクロスポルム・エクイヌム(Microsporum equinum)
ミクロスポルム・ジプセウム(ジプスム)(Microsporum gypseum(gypsum))
ミクロスポルム・ナヌム(Microsporum nanum)
トリコフィートン・コンセントリクム(Trichophyton concentricum)
トリコフィートン・エクイヌム(Trichophyton equinum)
トリコフィートン・ガリネ(Trichophyton gallinae)
トリコフィートン・ジプスム(ジプセウム)(Trichophyton gypsum(gypseum))
トリコフィートン・メグニニ(Trichophyton megnini)
トリコフィートン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)
トリコフィートン・キンケアヌム(Trichophyton quinckeanum)
トリコフィートン・ルブルム(Trichophyton rubrum)
トリコフィートン・シェーンレイニ(Trichophyton schoenleini)
トリコフィートン・トンスランス(Trichophyton tonsurans)
トリコフィートン・ベルコスム(Trichophyton verrcosum)
トリコフィートン・ベルコスム・アルブム変種
(Trichophyton verrcosum var.album)
トリコフィートン・ベルコスム・ジスコイデス変種
(Trichophyton verrucosum var.discoides)
トリコフィートン・ベルコスム・オクラセウム変種
(Trichophyton verrucosum var.ochraceum)
トリコフィートン・ビオラセウム(Trichophyton violaceum)
【請求項3】前記皮膚糸状菌はミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)である、請求項2記載のワクチン。
【請求項4】前記抗原は複数の皮膚糸状菌類に由来するものである、請求項1記載のワクチン。
【請求項5】前記皮膚糸状菌類は下記皮膚糸状菌類より成る群から選ばれる、請求項4記載のワクチン。
エピダーモフィートン・フロクスム(Epidermophyton floccusum)
ミクロスポルム・オウズイニ(Microsporum audouini)
ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)
ミクロスポルム・ジストーツム(Microsporum distortum)
ミクロスポルム・エクイヌム(Microsporum equinum)
ミクロスポルム・ジプセウム(ジプスム)
(Microsporum gypseum(gypsum))
ミクロスポルム・ナヌム(Microsporum nanum)
トリコフィートン・コンセントリクム(Trichophyton concentricum)
トリコフィートン・エクイヌム(Trichophyton equinum)
トリコフィートン・ガリネ(Trichophyton gallinae)
トリコフィートン・ジプスム(ジプセウム)
(Trichophyton gypsum(gypseum))
トリコフィートン・メグニニ(Trichophyton megnini)
トリコフィートン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)
トリコフィートン・キンケアヌム(Trichophyton quinckeanum)
トリコフィートン・ルブルム(Trichophyton rubrum)
トリコフィートン・シェーンレイニ(Trichophyton schoenleini)
トリコフィートン・トンスランス(Trichophyton tonsurans)
トリコフィートン・ベルコスム(Trichophyton verrucosum)
トリコフィートン・ベルコスム・アルブム変種
(Trichophyton verrucosum var.album)
トリコフィートン・ベルコスム・ジスコイデス変種
(Trichophyton verrucosum var.discoides)
トリコフィートン・ベルコスム・オクラセウム変種
(Trichophyton verrucosum var.ochraceum)
トリコフィートン・ビオラセウム(Trichophyton violaceum)
【請求項6】前記皮膚糸状菌類はミクロスポルム・カニス、ミクロスポルム・ジプスム(Microsporum gypsum)およびトリコフィートン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)である、請求項5記載のワクチン。
【請求項7】前記適当なキャリアは水酸化アルミニウムゲルを含む、請求項1記載のワクチン。
【請求項8】前記適当なキャリアは等張溶液を含む、請求項1記載のワクチン。
【請求項9】前記適当なキャリアは乳酸添加リンゲル液を含む、請求項8記載のワクチン。
【請求項12】少なくとも1種の皮膚糸状菌に由来する抗原を含む抗原調製物をつくり;そして前記抗原調製物を適当なキャリアと組み合わせることから成る白癬ワクチンの製造方法。
【請求項13】前記抗原調製物は前記皮膚糸状菌の培養物をホモジナイズすることを含む手順によりつくられる、請求項12記載の方法。
【請求項16】前記手順は、ホモジナイゼーションの後に、前記培養物をフィルターを通して吸引することをさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項17】前記皮膚糸状菌は下記皮膚糸状菌類より成る群から選ばれる、請求項12記載の方法。
エピダーモフィートン・フロクスム(Epidermophyton floccusum)
ミクロスポルム・オウズイニ(Microsporum audouini)
ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)
ミクロスポルム・ジストーツム(Microsporum distortum)
ミクロスポルム・エクイヌム(Microsporum equinum)
ミクロスポルム・ジプセウム(ジプスム)(Microsporum gypseum(gypsum))
ミクロスポルム・ナヌム(Microsporum nanum)
トリコフィートン・コンセントリクム(Trichophyton concentricum)
トリコフィートン・エクイヌム(Trichophyton equinum)
トリコフィートン・ガリネ(Trichophyton gallinae)
トリコフィートン・ジプスム(ジプセウム)(Trichophyton gypsum(gypseum))
トリコフィートン・メグニニ(Trichophyton megnini)
トリコフィートン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)
トリコフィートン・キンケアヌム(Trichophyton quinckeanum)
トリコフィートン・ルブルム(Trichophyton rubrum)
トリコフィートン・シェーンレイニ(Trichophyton schoenleini)
トリコフィートン・トンスランス(Trichophyton tonsurans)
トリコフィートン・ベルコスム(Trichophyton verrucosum)
トリコフィートン・ベルコスム・アルブム変種
(Trichophyton verrucosum var.album)
トリコフィートン・ベルコスム・ジスコイデス変種
(Trichophyton verrucosum var.discoides)
トリコフィートン・ベルコスム・オクラセウム変種
(Trichophyton verrucosum var.ochraceum)
トリコフィートン・ビオラセウム(Trichophyton violaceum)
【請求項18】前記皮膚糸状菌はミクロスポルム・カニスである、請求項17記載の方法。
【請求項19】前記抗原は複数の皮膚糸状菌類に由来するものである、請求項12記載の方法。
【請求項20】前記皮膚糸状菌類は下記皮膚糸状菌類より成る群から選ばれる、請求項19記載の方法。
エピダーモフィートン・フロクスム(Epidermophyton floccusum)
ミクロスポルム・オウズイニ(Microsporum audouini)
ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)
ミクロスポルム・ジストーツム(Microsporum distortum)
ミクロスポルム・エクイヌム(Microsporum equinum)
ミクロスポルム・ジプセウム(ジプスム)(Microsporum gypseum(gypsum))
ミクロスポルム・ナヌム(Microsporum nanum)
トリコフィートン・コンセントリクム(Trichophyton concentricum)
トリコフィートン・エクイヌム(Trichophyton equinum)
トリコフィートン・ガリネ(Trichophyton gallinae)
トリコフィートン・ジプスム(ジプセウム)(Trichophyton gypsum(gypseum))
トリコフィートン・メグニニ(Trichophyton megnini)
トリコフィートン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)
トリコフィートン・キンケアヌム(Trichophyton quinckeanum)
トリコフィートン・ルブルム(Trichophyton rubrum)
トリコフィートン・シェーンレイニ(Trichophyton schoenleini)
トリコフィートン・トンスランス(Trichophyton tonsurans)
トリコフィートン・ベルコスム(Trichophyton verrucosum)
トリコフィートン・ベルコスム・アルブム変種
(Trichophyton verrucosum var.album)
トリコフィートン・ベルコスム・ジスコイデス変種
(Trichophyton verrucosum var.discoides)
トリコフィートン・ベルコスム・オクラセウム変種
(Trichophyton verrucosum var.ochraceum)
トリコフィートン・ビオラセウム(Trichophyton violaceum)
【請求項21】前記皮膚糸状菌類はミクロスポルム・カニス、ミクロスポルム・ジプスムおよびトリコフィートン・メンタグロフィテスである、請求項20記載の方法。
【請求項22】前記適当なキャリアは水酸化アルミニウムゲルを含む、請求項12記載の方法。
【請求項23】前記適当なキャリアは等張溶液を含む、請求項12記載の方法。
【請求項24】前記適当なキャリアは乳酸添加リンゲル液を含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】少なくとも1種の皮膚糸状菌の培養物を用意し;
前記培養物に、皮膚糸状菌を死滅させる作用物質を加え;
前記培養物をホモジナイズし;
前記培養物をフィルターを通して吸引し;
そして前記抗原調製物を適当なキャリアと組み合わせることから成る白癬ワクチンの製造方法。
【請求項26】少なくとも1種の皮膚糸状菌から分離した抗原;および適当なキャリアを含有する白癬ワクチンを人間以外の動物に投与することから成る、該動物の白癬の治療方法。
【請求項27】前記皮膚糸状菌は下記皮膚糸状菌類より成る群から選ばれる、請求項26記載の方法。
エピダーモフィートン・フロクスム(Epidermophyton floccusum)
ミクロスポルム・オウズイニ(Microsporum audouini)
ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)
ミクロスポルム・ジストーツム(Microsporum distortum)
ミクロスポルム・エクイヌム(Microsporum equinum)
ミクロスポルム・ジプセウム(ジプスム)(Microsporum gypseum(gypsum))
ミクロスポルム・ナヌム(Microsporum nanum)
トリコフィートン・コンセントリクム(Trichophyton concentricum)
トリコフィートン・エクイヌム(Trichophyton equinum)
トリコフィートン・ガリネ(Trichophyton gallinae)
トリコフィートン・ジプスム(ジプセウム)(Trichophyton gypsum(gypseum))
トリコフィートン・メグニニ(Trichophyton megnini)
トリコフィートン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)
トリコフィートン・キンケアヌム(Trichophyton quinckeanum)
トリコフィートン・ルブルム(Trichophyton rubrum)
トリコフィートン・シェーンレイニ(Trichophyton schoenleini)
トリコフィートン・トンスランス(Trichophyton tonsurans)
トリコフィートン・ベルコスム(Trichophyton verrucosum)
トリコフィートン・ベルコスム・アルブム変種
(Trichophyton verrucosum var.album)
トリコフィートン・ベルコスム・ジスコイデス変種
(Trichophyton verrucosum var.discoides)
トリコフィートン・ベルコスム・オクラセウム変種
(Trichophyton verrucosum var.ochraceum)
トリコフィートン・ビオラセウム(Trichophyton violaceum)
【請求項28】前記皮膚糸状菌はミクロスポルム・カニスである、請求項27記載の方法。
【請求項29】前記抗原は複数の皮膚糸状菌類から分離される、請求項26記載の方法。
【請求項30】前記皮膚糸状類は下記皮膚糸状菌類より成る群から選ばれる、請求項29記載の方法。
エピダーモフィートン・フロクスム(Epidermophyton floccusum)
ミクロスポルム・オウズイニ(Microsporum audouini)
ミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)
ミクロスポルム・ジストーツム(Microsporum distortum)
ミクロスポルム・エクイヌム(Microsporum equinum)
ミクロスポルム・ジプセウム(ジプスム)(Microsporum gypseum(gypsum))
ミクロスポルム・ナヌム(Microsporum nanum)
トリコフィートン・コンセントリクム(Trichophyton concentricum)
トリコフィートン・エクイヌム(Trichophyton equinum)
トリコフィートン・ガリネ(Trichophyton gallinae)
トリコフィートン・ジプスム(ジプセウム)(Trichophyton gypsum(gypseum))
トリコフィートン・メグニニ(Trichophyton megnini)
トリコフィートン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)
トリコフィートン・キンケアヌム(Trichophyton quinckeanum)
トリコフィートン・ルブルム(Trichophyton rubrum)
トリコフィートン・シェーンレイニ(Trichophyton schoenleini)
トリコフィートン・トンスランス(Trichophyton tonsurans)
トリコフィートン・ベルコスム(Trichophyton verrucosum)
トリコフィートン・ベルコスム・アルブム変種
(Trichophyton verrucosum var.album)
トリコフィートン・ベルコスム・ジスコイデス変種
(Trichophyton verrucosum var.discoides)
トリコフィートン・ベルコスム・オクラセウム変種
(Trichophyton verrucosum var.ochraceum)
トリコフィートン・ビオラセウム(Trichophyton violaceum)
【請求項31】前記皮膚糸状菌類はミクロスポルム・カニス、ミクロスポルム・ジプスムおよびトリコフィートン・メンタグロフィテスである、請求項30記載の方法。
【請求項32】前記適当なキャリアは水酸化アルミニウムゲルを含む、請求項26記載の方法。
【請求項33】前記適当なキャリアは等張溶液を含む、請求項26記載の方法。
【請求項34】前記適当なキャリアは乳酸添加リンゲル液を含む、請求項33記載の方法。
【請求項36】前記動物は妊娠している、請求項26記載の方法。
【請求項37】少なくとも1種の皮膚糸状菌に由来する抗原を含む抗原調製物をつくり;そして
前記抗原調製物を適当なキャリアと組み合わせる
ことを含む手順により製造された白癬ワクチンを人間以外の動物に投与することから成る、該動物の白癬の治療方法。
【請求項38】前記抗原調製物は前記皮膚糸状菌の培養物をホモジナイズすることを含む手順によりつくられる、請求項37記載の方法。
【請求項41】前記手順は、ホモジナイゼーションの後に、前記培養物をフィルターを通して吸引することをさらに含む、請求項38記載の方法。
【請求項42】前記動物は妊娠している、請求項37記載の方法。」

3.刊行物記載の発明
当審が取消理由理由通知において引用した本件優先権主張日前に頒布されたA. J. Chanis、学位論文「皮膚糸状菌抗原による動物の免疫化」の概要、1989年2月27日、Kovalenko-Research-Instituteモスクワ発行(=甲第1号証、以下、刊行物1という。)には、以下の事項が記載されている。(記載箇所は英語の翻訳文である甲第1号証の2による)
(ア)実験で使用した動物は192のモルモット、172のウサギ及び260のイヌであった。(4頁、材料及び方法の項の第2段落)
(イ)動物の感染及び免疫には、ミクロスポルム・カニス、ミクロスポルム・ジプセウム及びトリコフィートン・メンタグロフィテスを使用した。(4頁、材料と方法の項の第3段落)
(ウ)培養物から得られる菌類の病原性及び免疫原性を研究するために、ホモジネートを調製し、塩化ナトリウムの0.85%溶液で再懸濁し、かつ細胞の濃度をGoryaev chamber で決定した。次いで生きている細胞の量を逐次培養及び感染による試験で計算した。
大形及び小形分生子の懸濁液を得るために、ガーゼフィルター又はミリポアフィルター社で生産した5-10mlのフィルターで濾過して画分に分割した。(4頁最後の段落〜5頁最初の段落)
(エ)グルービー病に対するワクチン接種後の免疫性の発現におけるナトリウムヌクレイネート、ピロゲナール及び水酸化アルミニウムゲルの作用を、ウサギに対する実験で研究した。No.7849菌株(M.canis)から得られた1×108量の生きた小形分生子を種々の量の基剤と組み合わせて動物に2回皮下又は筋肉内注射した(表2)。・・・・従って、抗原に対する生体の免疫反応を強化するために、4mg/ml量のナトリウムヌクレイナート及び0.25、0.5及び1.0%の濃度の水酸化アルミニウムゲルを使用することにより、わずか2回の注射で強い免疫性を生じさせることが可能となった。(11頁の2.2.3ミクロスポルム・カニスの小形分生子から得られた抗原で動物を接種する場合における免疫刺激剤及びアジュバントの使用の項の第1段落〜13頁の第2段落)
(オ)モルモットの実験においては、ホルマリンで不活性化され、4mg量のナトリウムヌクレイナートと組み合わせた7849菌株のミクロスポルム・カニスが動物に強い免疫性を生じたことが分った。・・・・ミクロスポルム属の小形分生子から得られた二価の抗原(両方の型、それぞれ5×107細胞)並びにミクロスポルム属及びトリコフィートン属の小形分生子から得られた三価の抗原(5×107細胞のミクロスポルム・カニス+5×107細胞のミクロスポルム・ジプセウム+1×108細胞のトリコフィートン・メンタグロフィテス)で動物を接種した。上記のすべての細胞をホルマリンで不活性化した。抗原を1及び4mg/mlの量で、レバミゾールを16mg/mlの量で、水酸化アルミニウムゲルを0.25%濃度で動物に投与した。免疫化に使用したすべての抗原が免疫原性を有し、抗原を4mg/mlのナトリウムヌクレイナートと組み合わせた場合に接種したイヌに最も強い免疫原性生じたことが分った。・・・・結果を表5に示す。(17〜19頁第3段落:2.2.5不活化抗原による実験動物及びイヌの免疫化の項に関する記載)

4.対比・判断
(i)請求項1に係る発明について
上記摘示事項を整理すると、刊行物1には、モルモット、ウサギ及びイヌを実験動物(ア)とし、免疫原として、ミクロスポルム・カニス、ミクロスポルム・ジプセウム及びトリコフィートン・メンタグロフィテスを使用(イ)して、培養物から得られる菌類の病原性及び免疫原性を研究したことが記載され、その試験方法は、菌類の培養物のホモジネートを調整し、塩化ナトリウムの0.85%溶液で再懸濁して、また、大形及び小形分生子の懸濁液を得るためにフィルターで濾過して画分に分割して得、それを動物に接種したこと(ウ)、抗原に対する生体の免疫反応を強化するために、ナトリウムヌクレイナート及び水酸化アルミニウムゲルを使用することにより、強い免疫性を生じさせることが可能となったこと(エ)、すべての細胞がホルマリンで不活性化されたものである、ミクロスポルム属及びトリコフィートン属の小形分生子から得られた三価の抗原(5×107細胞のミクロスポルム・カニス+5×107細胞のミクロスポルム・ジプセウム+1×108細胞のトリコフィートン・メンタグロフィテス)を動物に接種し、この際、抗原を、レバミゾール、水酸化アルミニウムゲルとともに使用して免疫原性が生じ、また、抗原をナトリウムヌクレイナートと組み合わせてイヌ接種したところ最も強い免疫原性を生じたこと(オ)が記載されている。

請求項1に係る発明と刊行物1に記載ものを対比する。
後者のものにおいては、免疫原として使用したミクロスポルム・カニス、ミクロスポルム・ジプセウム及びトリコフィートン・メンタグロフィテスが皮膚糸状菌であること、及び菌類の培養物のホモジネートに抗原が含まれていることは技術常識であり、これらを塩化ナトリウム溶液で再懸濁したものを動物に接種して免疫原性を検討しているから、この再懸濁したものはワクチンに他ならない。そして上記塩化ナトリウム溶液がワクチンのキャリアであることは明らかである。
そうすると、両者は、皮膚糸状菌に由来する抗原、及び適当なキャリアを含有する白癬ワクチンであり、異なるところはない。
したがって、請求項1に係る発明は刊行物1に記載された発明である。

(ii)請求項2〜7に係る発明について
請求項2〜7に係る発明は、請求項1に係る発明を、皮膚糸状菌を特定、複数の菌類を用いること、キャリアを特定しているが、これらの事項はいずれも刊行物1(摘示事項(イ)〜(オ))に記載されている。
したがって、請求項2〜7に係る発明は、刊行物1に記載されたものである。

(iii)請求項12に係る発明について
請求項12に係る発明は白癬ワクチンの製造方法に関するものであるが、刊行物1には、菌類の培養物のホモジネートを調製し、塩化ナトリウムの0.85%溶液で再懸濁して、また、大形及び小形分生子の懸濁液を得るためにフィルターで濾過して画分に分割して得、それを動物に接種したことが記載されている。この記載における皮膚糸状菌の培養物のホモジネートは、皮膚糸状菌に由来する抗原を含む抗原調製物に相当し、これを塩化ナトリウム溶液に再懸濁することは抗原調製物をキャリアと組み合わせることに相当することは明らかであるから、請求項12に係る発明における製造方法と刊行物1に記載の製造方法とには異なるところはない。
したがって、請求項12に係る発明は刊行物1に記載されたものである。

(iv)請求項13及び16〜22に係る発明について
請求項13及び16〜22に係る発明は、請求項12に係る発明において、培養物をホモジナイズする工程あるいは、ホモジナイゼーションの後に、培養物をフィルターを通して吸引する工程を追加して処理手段を限定しているか、皮膚糸状菌又はワクチンのキャリアを限定しているものであるが、これらの事項はいずれも刊行物1(摘示事項(イ)〜(オ))に記載されている。
したがって、請求項13及び16〜22に係る発明は刊行物1に記載された発明である。

(v)請求項25に係る発明について
請求項25に係る発明におけるワクチンの製造方法は、請求項16に係る発明において培養物をホモジナイズする前に、皮膚糸状菌の培養物に皮膚糸状菌を死滅させる作用物質を加える工程を設けると限定したことを特徴とするものと認められる。
請求項25に係る発明と刊行物1に記載のものと対比すると、上記(iii)及び(iv)に述べたように、両者は、少なくとも1種の皮膚糸状菌の培養物を用意し、前記培養物をホモジナイズし、前記培養物をフィルターを通し吸引し;そして前記抗原調製物を適当なキャリアと組み合わせて白癬ワクチンを製造する方法で一致し、前者は、皮膚糸状菌の培養物に皮膚糸状菌を死滅させる作用物質を加える工程を培養物をホモジナイズする前に設けているの対して、後者は死滅させる作用物質(ホルマリン)を加えることは記載されているもののその時期が明確でない点が相違している。
しかし、ワクチンにおいて、病原体の培養物にホルマリンなどの作用物質を加え不活化し、その後ホモジナイズすることは周知の方法であるので、刊行物に記載のホルマリン不活化を周知の方法に限定することは当業者が容易に想到できるものと認められる。
したがって、請求項25に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(vi)請求項26に係る発明について
請求項26に係る発明は、請求項1に係る白癬ワクチンを人間以外の動物に投与する治療方法であるが、刊行物1にはモルモット、ウサギ及びイヌに対して実験を行なっているのであるから、これらの動物に対して白癬ワクチンで治療することが記載されている。
したがって、請求項26に係る発明は、刊行物1に記載された発明である。

(vii)請求項27〜32に係る発明について
請求項27〜32に係る発明は、請求項26に係る発明を、皮膚糸状菌又はワクチンのキャリアを限定するものであるが、これらの事項はいずれも刊行物1(摘示事項(イ)〜(オ))に記載されている。
したがって、請求項27〜32に係る発明は刊行物1に記載された発明である。

(viii)請求項37、38及び41に係る発明について
請求項37、38及び41はそれぞれ、請求項26に係る発明における治療方法において使用される白癬ワクチンを請求項12、請求項13又は請求項16にそれぞれ記載されている製造方法で限定したものと認められるが、上記(iii)(iv)及び(vi)に記載したように、上記白癬ワクチンの製造方法は刊行物1に記載されている。
したがって、請求項37、38及び41に係る発明は刊行物1に記載された発明である。

(iiiv)請求項1〜9、12〜13、16〜24、26〜34、36〜38及び41〜42に係る発明について
一般にワクチンは弱毒化した生ワクチンと、死滅化させた不活化ワクチンがあることからみて、死滅化が明記されていない上記各請求項に係る発明は、弱毒化した生ワクチンを包含するものである。
そして、一般に、ホルマリン等の化学薬品で病原体を死滅化させる不活化ワクチンの処理手段は当業者ならば容易に想定できるであろうが、弱毒化は病原体の性質を変えるもの、つまりもととは異なる病原体(例えば別の菌株)とするものであって、必ずしも成功できるものではない。一方、本願明細書には、弱毒化方法が全く記載されていないから、技術常識を参酌しても当業者はその方法を知り得ない。
したがって、本件特許明細書には、表記の各請求項に係る発明におけるワクチンが生ワクチンである場合について、当業者が容易に実施できる程度に記載されてるとは認められない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1〜7、12〜13、16〜22,25〜32、37〜38及び41に係る特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであり、また、上記のように本件請求項1〜9、12〜13、16〜24、26〜34、36〜38及び41〜42に係る発明に関して本件特許明細書の記載には不備があり、本件特許は特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論の通り決定する。
 
異議決定日 2003-05-14 
出願番号 特願平2-106305
審決分類 P 1 652・ 531- Z (A61K)
P 1 652・ 121- Z (A61K)
P 1 652・ 113- Z (A61K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 瀬下 浩一森井 隆信  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 松浦 新司
渕野 留香
登録日 1999-08-27 
登録番号 特許第2972274号(P2972274)
権利者 ジェファーソン・ラブズ・インコーポレーテッド
発明の名称 白癬ワクチン  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 大塚 文昭  
代理人 今城 俊夫  
代理人 小川 信夫  
代理人 中村 稔  
代理人 西島 孝喜  
代理人 富田 博行  
代理人 村社 厚夫  
代理人 竹内 英人  
代理人 社本 一夫  

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