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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1085800
審判番号 不服2001-1477  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-02-05 
確定日 2003-10-14 
事件の表示 平成 8年特許願第535777号「網膜血流及び視神経頭血流を加速するために眼へ局所投与する医薬組成物」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年11月28日国際公開、WO96/37203、平成11年 3月26日国内公表、特表平11-503462]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年5月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年5月22日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1の発明は、平成12年8月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲第1項に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)

「有効量のカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤及び薬学的に許容できる担体を含有する、網膜血流及び視神経頭血流を加速するために眼へ局所投与する医薬組成物。」

2.引用刊行物記載の発明
(1)引用刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された「国際公開第94/15582号パンフレット」(以下、「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1-1)「有効量のカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤と40〜60W/V%の無定型β-シクロデキストリンからなる局所眼科組成物であって、β-シクロデキストリンの当該量は局所投与したときのカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤のバイオアベイラビリティーを増加させるために有効なものである、局所眼科組成物。」(第27頁請求項20)
(1-2)「カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤がアセタゾラミド又はメタゾラミドである請求項20の組成物。」(第27頁請求項22)
(1-3)「本発明は、特に、高眼圧の治療に局所で有効な初めてのカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤に関する。・・・。これらの調合物が眼に局所適用されると、活性薬剤が角膜を介して房水中に入り毛様体上皮にあるカルボニックアンヒドラーゼを阻害する。この阻害の効果は、カルボニックアンヒドラーゼ依存性の房水産生を減少させることである。房水産生の阻害は、多くの型の緑内障及び高眼圧症において眼圧を低下させることが知られている。」(第6頁第16〜29行)

(2)引用刊行物2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された「Journal of Glaucoma, Vol.3, No.4, pp.275-279, 1994」(以下、「引用刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(2-1)「以前はMK-507として知られていた新しい局所投与型カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤であるドルゾラミドの眼内圧低下作用について、用量-応答関係を研究した。一期の開放隅角緑内障又は高眼圧の113人の患者について、二重盲検型、かつ、ランダム型で、複数の医療機関にまたがる研究を実施した。ドルゾラミド(0.2, 0.5, 1又は2%)は、14日間、一日3回投与された。ドルゾラミドはすべての濃度において、眼内圧を有意に低下させた。」(第275頁「要約」の項)
(2-2)「0.2, 0.5, 1又は2%のドルゾラミド1滴を、14日間、およそ8時間間隔で眼に投与した。」(第276頁「研究設計」の項)

(3)引用刊行物3
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された「Arch. Ophthalmol., Vol.111, pp.1343-1350, 1993」(以下、「引用刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
(3-1)「ドルゾラミドは、4週間にわたり、有意な眼内圧低下作用を示した。薬効は維持され、眼及び全身の安全パラメーターに臨床的に有意な変化はなかった。」(第1343頁「結論」の項)
(3-2)「29日間、8時間毎(午前8時、午後4時及び午前零時)に左右の眼に2%ドルゾラミド塩酸塩又はプラシーボの1滴を投与した。」(第1345頁「研究設計」の項)

(4)引用刊行物4
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された「Eye(1993) 7, pp.697-702」(以下、「引用刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。
(4-1)「網膜循環に関するカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤(アセタゾラミド)の効果を健常人10名について研究した。アセタゾラミドは500mgの用量で静脈内投与された。・・・。アセタゾラミド投与30分後及び60分後に網膜血流の有意な増加が認められた。・・・。アセタゾラミドによる網膜血流の増加は、急性緑内障や中央網膜動脈閉塞における視神経乳頭及び網膜の虚血症状の抑制に寄与する。」(第697頁「要約」の項)
(4-2)「アセタゾラミドはカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤である。アゼタゾラミドは眼圧を低下させるので、緑内障の治療のため眼科の臨床において、広く使用されている。」(第697頁「本文」左欄下から12〜9行)

(5)引用刊行物5
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された「Journal of Ocular pharmacology, Vol.9, No.1, pp.13-24, 1993」(以下、「引用刊行物5」という。)には、次の事項が記載されている。
(5-1)「眼圧の高いウサギにおける眼の血流について、抗緑内障薬の効果を体系的に研究した。予想どおり、ピロカルピン、クロニジン及びアセタゾラミドは、全て、網膜及び脈絡膜の血流を増加させることが判明した。」(第13頁「要約」の項)
(5-2)「現在、緑内障の治療にのために4系統の薬剤が臨床的に使用されている。(a)・・・・、・・・(d)アセタゾラミドのようなカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤の4系統である。網膜、脈絡膜、毛様体及び虹彩における血流に対するこれらの薬剤の効果を体系的に研究した。眼の血流を減少させるβ-アドレナリンブロッカーを除いて、他の全ての抗緑内障薬が眼の血流を増加させたことは興味深い。」(第13頁下から12〜4行)
(5-3)「アセタゾラミドを10mg/kg静注した際、30分後には網膜及び脈絡膜において血流が有意に増加し、60分後には全ての眼の組織において著しく血流が増加し、その後180分後まで続いた。(表4)」(第15頁「結果」の項)

3.対比・判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
ア.引用刊行物1について
本願発明と引用刊行物1に記載された発明(上記(1-1)参照。)を対比すると、引用刊行物1に記載された発明における無定型β-シクロデキストリンは本願発明における薬学的に許容できる担体に相当するから、両者は、「有効量のカルボニックアンヒドラーゼ阻害剤及び薬学的に許容できる担体を含有する、眼に局所投与する医薬組成物。」である点で一致し、
本願発明の医薬組成物は、網膜血流及び視神経頭血流を加速するために投与されるものであるのに対し、引用刊行物1に記載された発明の医薬組成物は、高眼圧の治療のために投与されるものである点で一応相違する。
しかるに、本願発明の医薬組成物は、網膜血流及び視神経頭血流を加速するために投与されるとされているが、その結果、眼圧の低下を期待(換言すれば、高眼圧の治療を期待。)しているものである(本願明細書第7頁第13〜14行)。他方、引用刊行物1に記載された発明の医薬組成物は、上記(1-3)のとおり、高眼圧の治療に用いられるものである。そうすると、両者は高眼圧の治療のために用いられるという使用態様において区別はできないので、上記相違点は単なる表現上の相違にすぎない。
したがって、本願発明は引用刊行物1に記載された発明である。

イ.引用刊行物2乃至3について
引用刊行物2乃至3には、それぞれ、上記(2-1)、(2-2)、(3-1)乃至(3-2)のとおり、眼に局所的に投与されるカルボニックアンヒドラ-ゼ阻害剤であるドルゾラミドについて記載されており、その眼内圧低下作用により、緑内障、高眼圧の治療に効果があることが記載されている。引用刊行物2乃至3には、カルボニックアンヒドラ-ゼ阻害剤が網膜血流及び視神経頭血流を加速することについての記載はないが、上記ア.に記載と同様の理由により、引用刊行物2乃至3に記載された発明の医薬組成物は、本願発明の医薬組成物と区別ができない。

(2)特許法第29条第2項について
上記3.(1)に記載したように、引用刊行物1乃至3には、網膜血流及び視神経頭血流を加速するためにカルボニックアンヒドラ-ゼ阻害剤を眼に局所投与する点については記載されていない。
しかるに、引用刊行物4乃至5には、静注されたカルボニックアンヒドラ-ゼ阻害剤は、カルボニックアンヒドラ-ゼを阻害することにより、網膜、脈絡膜をはじめとする全ての眼の組織の血流を増加させ、急性緑内障や中央網膜動脈閉塞における視神経乳頭及び網膜の虚血症状の抑制に寄与すること、すなわち、視神経乳頭血流及び網膜血流の増加に寄与すること、が記載されている。そして、引用刊行物4における視神経乳頭は本願発明における視神経頭に対応している。
他方、上記(1-3)のとおり、引用刊行物1に記載された発明の医薬組成物は、眼に局所投与され、カルボニックアンヒドラ-ゼを阻害することにより眼圧の低下という効果を奏するものであり、この点は、引用刊行物2乃至3に記載された医薬組成物も同様であると認められる。そうすると、眼に局所投与することによっても、カルボニックアンヒドラ-ゼを阻害する結果、網膜血流及び視神経頭血流が増加するであろうということに想到することに格別の技術的困難性があるとは認められない。
してみれば、網膜血流及び視神経頭血流を加速するためにカルボニックアンヒドラ-ゼ阻害剤を眼に局所投与してみるということは当業者の容易になし得るところである。

4.むすび
したがって、本願発明は、引用刊行物1乃至3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。または、本願発明は、引用刊行物1乃至5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-05-02 
結審通知日 2003-05-13 
審決日 2003-05-26 
出願番号 特願平8-535777
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 聖子  
特許庁審判長 眞壽田 順啓
特許庁審判官 大宅 郁治
小柳 正之
発明の名称 網膜血流及び視神経頭血流を加速するために眼へ局所投与する医薬組成物  
代理人 今村 正純  
代理人 塩澤 寿夫  
代理人 釜田 淳爾  

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