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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載 無効としない B29C
審判 一部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない B29C
審判 一部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない B29C
審判 一部無効 2項進歩性 無効としない B29C
管理番号 1085824
審判番号 無効2000-35173  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-09-20 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-04-05 
確定日 2003-10-20 
事件の表示 上記当事者間の特許第2047192号「超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルム及びその製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成14年 9月25日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成14年(行ケ)第0562号平成15年 3月12日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2047192号に係る発明の出願の手続の経緯は、次のとおりである。
昭和58年 6月10日 原出願(特願昭57-102713号)
(出願公告(特公平4-16330号))
平成 5年 6月28日 本件分割出願(特願平5-157699号)
平成 7年 9月20日 出願公告(特公平7-85907号)
平成 8年 4月25日 設定登録
平成12年 4月 5日 無効審判請求
平成12年 5月18日 請求書副本送達
平成12年 7月17日付答弁書・訂正請求書(平成15年 8月 8日付けで訂正請求は取り下げられた。)
平成12年10月20日付答弁書副本・訂正請求書副本送付
平成13年 1月 4日 弁駁書(請求人)
平成13年 1月25日付無効理由通知(当審)36条
平成13年 1月31日付弁駁書副本送付
平成13年 4月 9日 意見書(被請求人)
平成13年 4月19日 上申書(被請求人)
平成13年 5月21日付審尋書(対被請求人)
平成13年 7月30日 審尋回答書(被請求人)
平成13年11月15日 上申書(被請求人)
平成14年 4月 4日 手続補正書(方式)指令(対被請求人)
平成14年 5月 1日 手続補正書(方式)(被請求人)
平成14年 9月25日「本件特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許を無効とする」との審決がなされた。
その後、東京高等裁判所に審決取消請求事件が提起され、その訴訟係属中の平成14年11月25日付けで訂正審判の請求がなされ、訂正2002-39248号事件として審理し、平成15年2月12日付けで訂正認容の審決がなされ、訂正認容の審決は確定し、その後、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成14年(行ケ)第562号、平成15年 3月12日判決言渡)があったものである。

2.本件特許発明
上記したように訂正審判の訂正認容の審決が確定したので、本件特許第2047192号の訂正後の特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下、「特許発明1」という。)の要旨は、平成14年11月25日付け審判請求書に添付された訂正明細書の記載からみて、訂正後の特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 少なくとも極限粘度[η]が5.0dl/g以上の超高分子量ポリオレフィンAで、且つ炭化水素系可塑剤Bを添加して一旦固化した後の縦方向の延伸倍率が4倍以上及び横方向の延伸倍率が4倍以上に二軸延伸したものであって、初期弾性率が6900kg/cm2以上で且つ破断強度が720kg/cm2以上(ただし、縦方向の延伸倍率が5倍以上、及び横方向の延伸倍率が5倍以上であって、初期弾性率が7300kg/cm2以上で且つ破断強度が910kg/cm2以上を除く)であることを特徴とする超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルム。 」

3.請求人の主張
これに対して、無効審判請求人(以下、「請求人」という)は、本件発明の特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、下記の甲第1号証ないし甲第5号証を証拠方法として提出し、
(1)訂正前の本件特許の特許請求の範囲第1項に記載された発明は、本件出願が適法な分割出願とはいえず、出願日の遡及は認められないため、分割出願に際し、基準明細書とした原出願の公開公報である甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明と実質的に同一であるか、
(2)甲第2号証乃至甲第5号証に記載された発明または事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるので、
特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定に違反するものであるから、本件訂正前の本件特許の特許請求の範囲第1項に記載された発明は、特許法第123条第1項第1号の規定により、無効とすべきである旨主張する。

甲第1号証:特開昭59-22742号公報(原出願の公開公報)
甲第2号証:欧州特許出願公開第0024810号明細書、および同訳文
甲第3号証:特開昭52-155221号公報(第4頁左下欄下段〜右下欄上段)
甲第4号証:「Colloid and Polymer Science」、第258巻、第7号(1980年発行)、第891〜894頁、および同訳文
甲第5号証:欧州特許出願公開第0024810号明細書に記載された例13に関する平成12年2月1日付け実験報告書(作成者:東燃化学株式会社 技術開発センター 河野公一、滝田耕太郎)

4.被請求人の主張
一方、被請求人は、請求人の無効理由(1)及び(2)は、いずれも根拠を欠くものであり、失当である。その理由として、答弁書、回答書及び上申書等に添付された下記の乙第1号証ないし乙第12号証を証拠方法として提出し、
(1)本件特許の出願は、特許法第44条の規定に基づく適法な分割出願であるから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するという請求人の無効理由(1)は根拠を欠くものであり、明らかに失当であり、また、
(2)本件特許発明1の超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルムは、甲第2号証に記載も示唆もされておらず、甲第2号証に記載された発明とは全く相違するものであり、かつ甲第5号証は、甲第2号証の「欧州特許出願明細書(以下、EP特許ともいう)の実施例13」の追試実験結果を記載した実験報告書とは言えないものであり、しかも、甲第2号証に、本件特許発明1とは無関係の甲第3号証や甲第4号証を組合わせても、本件特許発明を何ら予測し得るものではないから、本件出願前に頒布された甲第2ないし第4号証の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、旨主張する。

(答弁書提出時)
乙第1号証 : 特公平4-16330号公報(原出願公告公報)
乙第2号証 : 平成12年7月7日付け実験報告書(三井化学株式会社 高分子研究所フイルムグループ 主席研究員 八木和雄、主任研究員 橋本暁直)
乙第3号証 : 2000年7月12日付宣言書(写し)(英国ブリストル大学物理学部助教授 ピーター・ジョン・バーハム博士自署)

(意見書書提出時)
乙第4号証:2001年4月6日付け鑑定意見(作成者 九州大学大学院工学研究院長工学府長工学部長 工学博士 梶山千里、添付書類:化学総説No.8,P21-37(1975))
参考資料 :鑑定意見者(梶山千里)経歴等
乙第5号証:平成13年4月4日付実験報告書(三井化学株式会社 高分子研究所フィルムグループ 主席研究員 八木和雄、橋本暁直)
なお、平成13年4月19日付上申書により乙3,4号証と表示した証書の証拠番号を乙4,5号証とする訂正を上申しており、その上申の内容のとおり認定した。

(平成13年7月30日付回答書、平成13年11月15日付上申書提出時)
乙第6号証:『岩波 理化学辞典』1126頁(写し)
乙第7号証:『広辞苑』2300頁(写し)
乙第8号証:『プラスチック大辞典』314頁(写し)
乙第9号証:『化学大辞典』2270頁(写し)
乙第10号証:「通産省公報No.13504」、通商産業調査会、14頁、平成8年2月20日発行(写し)
乙第11号証:特許庁編「平成6年改正特許法等における審査及び審判の運用」、社団法人発明協会、目次及び29頁〜37頁、平成7年6月28日発行(写し)
乙第12号証:2001年11月1日付東京工業大学教授 工学博士奥井徳昌作成鑑定意見、(添付書類:「化学繊維の紡糸とフィルムの成形(II)157頁〜161頁、「高分子概論」195頁〜207頁、215〜220頁、参考資料:鑑定意見者(奥井徳昌)経歴)

5.証拠の記載事項
甲第2号証:
甲第2号証には、「高分子量結晶性重合体ゲルから溶剤を除去する方法及びそれから製造する成形品」に関するものであって、
ア.「微結晶形成能を示す一般的重合体はポリ(エチレン)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリ(ヒドロキシブチラート)-以下PHBという-を含む高分子量ポリ(エステル)、ポリ(アミド)、・・・である。」(訳文第4頁9〜13行)
イ.「重合体の分子量は、鎖長に沿って少なくとも3個の結合点をもつ重合体鎖をかなりの数許容する(これはゲル形成に必要な限界である)に十分な長さの鎖を提供するのに十分大きい分子量であるべきである。・・・例えばポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)及びポリ(テトラフルオロエチレン)などでは、分子量は何も問題ないほど十分に高い。こうして、上記物質は0.5×106又はそれより大きい平均分子量で一般に入手可能であり、・・・ポリ(アミド)例えばナイロン66又はポリエステル例えばポリ(エチレンテレフタレート)の品種は、繊維を調製し又は成形品に注入成形するために入手可能であるが、一般的に0.1×106より小さい平均分子量を有している。そして、形成されるゲルは実際に顆粒でありそして高分子量物質によるゲルよりもかなり劣る機械的不完全性があるので、本発明による成形品の製造に使用するにはかなり劣っている。」(第4頁18行〜第5頁6行)
ウ.「本明細書に開示の手順により結晶性重合体から形成したゲルは通常、溶剤が、重合体物質とゆるやかに結びついておりそして伸びたゲルから容易に抜き出されるものである。こうして、溶剤液体に懸濁されていたとしてもポリ(エチレン)ゲルは約2日間を越えて重合体とはじめから結びついていた溶剤の50%を排出する。このゲルの脱溶剤自由な特性はゲルに応力をかける処理によって成形品を製造するのに理想的に適したものにゲルをつくり上げる。こうして、ゲルを単純に相対する2表面間で押圧して溶剤を実質的に除去して重合体薄膜を残すことができる。他方、かなり激しさの少ない応力を用いて溶剤を排出可能である。ポリ(エチレン)ゲルから繊維を延伸するなどゲルの延伸で発生する内部応力は溶剤の実質的量を絞り出させるのに十分である。規則的変形処理では溶剤の一部だけを除去することが望ましい。というのは、繊維又は薄膜上の製品に別途加工するのに1部分残った溶剤は有益だからである。こうして、本質的に全ての溶剤を押圧で除去した薄膜はたぶん極僅かな量の溶剤の存在のために、室温で一軸延伸されてもとの長さの1000〜1500%の伸び率にすることが可能である。他方に於いて、この同じ薄膜(所望ならば真空炉での)は、室温で脆い。しかしながら例えば乾燥させて溶剤を全て除去した製品は、重合体の溶融温度に至る高温で容易に製造可能である。これらの処理が重合体は配向する段階を含んでいる場合には、物理特性に於いて、顕著な改良が結果し重合体の溶融処理又は単結晶沈殿処理のような別の形の重合体処理によって配向されたものよりも優れている。」(第9頁11行〜第10頁1行)
エ.「例13 `Hostalen´GUR(高分子量線状ポリエチレン)(3g)を還流してキシレン(400ml)に溶解した。高温溶液を20cm径ペトリ皿にたらした。(中略)冷却すると、最初は溶剤が占めていた容積の殆どをゲルが占めて形成した。上向きの皿においてゲルに対して孔あきスクリーンを押圧してゲルから溶剤を除去した後、引き続いて、空気中で8時間乾燥させた。得られた生成物は、いくらか繊維材料の存在を示す脆性の白色シートであって、50〜100μmの厚さを有した。赤外分析は、キシレンが存在しないことを示した。乾燥されたシートから正方板状サンプル(6cm×6cm)を切り出して120℃の温度で二軸延伸した。両方の方向に同時に3:1の倍率でサンプルを延伸した。サンプルの薄肉部は、高い延伸倍率の適用を妨げた。延伸フィルムは、透明であったが、未延伸シートの繊維質特性のために不均質であった。この方法で調製した8枚のフィルムの平均厚さは、8.35μmであり、しかも、平均弾性率は、2.4±0.6GN/m2であった。これらの数値は、溶融して調製した普通の線状高密度ポリエチレンフィルムに比べてかなり高いものであるが、もっと厚い原反シートを用いてもっと高い延伸倍率で延伸すると、さらに高い数値が得られると予想される。」(同訳文第19頁第16行〜第20頁第3行;欧州特許出願公開明細書)
と記載されている。

甲第3号証:
甲第3号証は、繊維状重合体結晶の連続製造方法及びその装置に関するもので、
オ.「本発明は、流動溶液中で種結晶を縦方向に成長させ、成長速度に等しい平均速度で、結晶性重合体の溶液から成長中の重合体フィラメントを取り出すことにより、結晶性重合体の溶液からフィラメント状重合体結晶を連続的に製造する方法に関する。」(第2頁上左欄16行〜同頁上右欄1行)
カ.「線状ポリエチレンをp-キシレンに溶解して0.5%溶液に調製した。このポリエチレン(商品名、ホスタレンGUR)の特性は、次の通りであった。
135℃でデカリン中の固有粘度:15dl/g(浸透法による)数平均分子量 Mn=10×10,000(135℃、α-クロロナフタレン中の光分散による)重量平均分子量 Mw=1.5×1,000,000ポリエチレン溶液を、耐酸化剤・・・で安定させ、すべての実験を純粋な窒素ふん囲気下で行なつた」(第4頁下左欄17行〜同頁下右欄7行)
と記載されている。

甲第4号証:
甲第4号証は、溶液からキャストされた高分子量ポリエチレンの超延伸に関するもので、
キ.「高分子物質の究極の機械的特性は、巨大分子の分子量、延伸及び整列に依存するということが長い間にわたり認識されてきた。・・・押出成型物を延伸することにより配向させることは、一見有利であるように思われる(1-3)。ポリマーの融点以下の温度では失敗している。これは、主にこれらの高分子量物質の高い粘性に起因するためであり、この結果、延伸されると、破断を起こす。・・・例えば、2重量%のデカリン溶液から紡糸することにより得られたポリエチレン繊維は、120℃の温度、・・・30倍の延伸倍率に容易に延伸することができた。・・・ポリエチレン繊維の溶融結晶化された物資は、同じ様な延伸条件下では、僅か5倍にしか延伸することができなかった(3,6,7)。」(訳文第1頁下から21〜下から8行)
ク.「数平均分子量が2×l05、重量平均分子量が1.5×106の高分子量ポリエチレンであるHostalen・GURが用いられた。緻密に詰められた粉末は、160℃で0.16mmのシートに圧縮成形された。これらのフィルムは、室温に冷却され固形化された。・・・上記と同じポリマーのフィルムは、同じポリエチレンを溶解する2重量%のデカリン(・・・)溶液からキャスティングすることによりフィルムを調製された。・・・ゲルから室温で溶媒を蒸発させると、厚さ0.14mmのポリエチレンフィルムが得られたが、そのフィルムは、依然として4重量%のデカリンを含有していた。・・・エタノールで抽出することにより除去した。」(訳文第2頁2〜15行)、
ケ.「溶液キャスト法で得られたフィルムは、延伸倍率の増加に伴って引張り強度、弾性率等の機械的特性が向上し、現在のところ、46倍までの高延伸倍率の達成が可能である旨(第893頁右欄第51行〜58行、同訳文第5頁第13行〜19行)、および溶液キャスト法で得られたフィルムを6倍に延伸した場合の引張り強度と弾性率は、それぞれ0.6GPaと13GPaであるのに対し、40倍に延伸した場合の引張り強度と弾性率は、それぞれ3.0GPaと108GPaである旨(第893頁右欄第51行〜56行、同訳文第5頁第13行〜16行、および第894頁上欄の表1、同訳文第6頁第1行〜7行)
と記載されている。

甲第5号証(以下、実験報告書1という):
甲第5号証は、甲第1号証(欧州特許出願公開第0024810号明細書)の例13に開示された高分子量線状ポリエチレン2軸延伸フィルムの初期弾性率と破断強度を測定することを目的として実施した実験の報告書であって、
コ.「(1)乾燥シートの調製 ▲1▼高分子量線状ポリエチレンとして、ヘキスト社(現、セラニーズ社)製のHostalen GUR4120(注)3grを、120℃にて還流してキシレン400mlに溶解した。・・・室温にて、48時間乾燥させた。得られた生成物は、脆性白色シートで、50〜100μmの厚さを有していた。この乾燥シート(脆性白色シート)中のキシレンの存在の有無を・・・結果、キシレンの存在が確認できなかった。(2)二軸延伸フィルムの調製 ・・・正方板状物(9.5cm×9.5cm)を切り出し、・・・同時に、3:1(3×3の延伸倍率(縦×横))の比率まで、供試体を延伸し、二軸延伸フィルムを得た。(3)二軸延伸フィルムの評価 初期弾性率っは、・・・10-4sec-1(0.006min-1)、ASTM D 882に準拠した0.1min-1、及び特公平4-16330号公報の第5頁に記載された実施例1と同様の0.25min-1の3通りの伸張速度にて求めた。また、破断強度は、・・・2通りの伸長速度にて求めた。評価回数(n数)は3とした。3枚のフィルムの平均厚さは、5.5μm・・・であった。・・・(注)・・・「欧州特許出願第0024810号の出願がなされた当時、Hostalen GURの標準銘柄はHostalen GUR412であり、Hostalen GURの物性や性能を検討している文献等で単にHostalen GURと引用されていたら、それはHostalen GUR412を指していると解釈できる。また、当時のHostalen GURにはいくつかの銘柄があるが、その中で最も極限粘度[η]が小さい銘柄はHostalen GUR412であって、その極限粘度[η]は約19dl/gである。・・・銘柄番号が3桁から4桁に変更されたが、・・・Hostalen GUR4120になった。・・・極限粘度[η]を実測ったところ、18.5dl/gであった。」(第2頁17行〜第4頁1行)
サ.「6.実験結果 初期弾性率は3通りの伸長速度にて求めたが、その結果の数値に大きな差異が認められなかったため、・・・例1と同様の10-4sec-1(0.006min-1)の伸長速度にて求めた値を表1に示した。また、破断強度は2通りの・・・大きな差異が認められなかったため、特公平4-16330号公報の第5頁に記載された実施例1と同様の0.25min-1の伸長速度にて求めた数値を表1に示した。・・・平均初期弾性率は、2.25×104kgf/cm2であり、・・・平均引張破断強度は、1,780kgf/cm2であった。」(第4頁2〜15行)
当審注:なお、丸囲み数字は、表記上の都合により、▲▼付き数字で表現した。

6.当審の判断
6-1.無効理由通知で指摘した特許法第36条違反について
当審で通知した無効理由通知の概要は、「本件特許明細書の発明の詳細な説明が、上記本件特許発明1を当業者が容易に実施できるように記載されているものとは認められない」というものであり、訂正の審判請求により本件特許発明1は炭化水素系可塑剤Bを添加して二軸延伸することを明確に規定しており、上記無効理由通知の理由は解消されたものと認められるので、無効理由通知で特許法第36条第3項の規定に違反していると指摘した点については理由がないものと認められる。

6-2.特許法第29条違反について
6-2-1.分割の適否
本件特許発明は、もとの出願が公告された後に、分割された出願に係る発明であるから、特許請求の範囲請求項1、請求項4に記載された本件特許発明1及び本件特許請求の範囲請求項4に記載された発明に係る出願の分割の適否について検討する。
(1)分割出願の発明が分割前の原出願に包含された二以上の発明のうちの一つであるか
分割前の原出願の明細書(特公平4-16330号公報参照)には、
ア.「【請求項1】 少なくとも極限粘度[η]が5.0dl/g以上の超高分子量ポリオレフインAで、且つ縦方向の延伸倍率が5倍以上及び横方向の延伸倍率が5倍以上にであって、初期弾性率が7300kg/cm2以上で且つ破断強度が910kg/cm2以上であることを特徴とする超高分子量ポリオレフイン二軸延伸フイルム。
【請求項4】少なくとも極限粘度[η]が5.0dl/g以上の超高分子量ポリオレフインAと、該超高分子量ポリオレフインの融点を越える沸点を有する炭化水素系可塑剤Bを含み、且つメルトフローレートが0.005ないし50g/minである混合物を押出し、前記超高分子量ポリオレフインの融点未満の延伸温度で、縦方向の延伸倍率が5倍以上及び横方向の延伸倍率が5倍以上に二軸延伸することを特徴とする、初期弾性率が7300kg/cm2以上で且つ破断強度が910kg/cm2以上である超高分子量ポリオレフイン二軸延伸フイルムの製造方法。」(特許請求の範囲第1、4項)
イ.「超高分子量ポリオレフィンに特定の炭化水素系可塑剤を混合することにより、二軸延伸フィルムが得られることが分かり、本発明に到達した。」(明細書第4頁12〜15行(公告公報第3欄36〜39行))
ウ.「本発明の方法に用いる超高分子量ポリオレフインAは、デカリン溶媒135℃における極限粘度[η]が5.0dl/g以上・・・後述の炭化水素系可塑剤Bを添加しても溶融粘度が高く押出成形性に劣る。かかる超高分子量ポリオレフインAは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、・・・重合することにより得られるポリオレフインの中で、はるかに分子量が高い範疇のものである。」(明細書第5頁8行〜第6頁2行(公告公報第4欄15〜29行))
エ.「押出されたフイルムを二軸延伸する際にはダイより押出された溶融状態のフイルムが冷却されて前記温度範囲内には入つた状態で行うか、一旦固化した後再度フイルムを前記温度範囲内に加熱して行うが、後者の方法が温度範囲の制御が容易であるので好ましい。」(第13頁15〜20行(公告公報第8欄5〜10行))
オ.「比較例1 実施例1で用いたブレンド物を、延伸倍率以外はすべて実施例1と同じ条件にして二軸延伸フイルム成形を行い、均一な厚さの二軸延伸フイルムを得た。得られた結果を第2表に示す。
表2 実験番号6 延伸倍率 縦×横 3×3 初期弾性率 kg/cm2 6500 破断強度 kg/cm2 660 延伸倍率 縦×横 4×4 初期弾性率 kg/cm2 6900 破断強度 kg/cm2 720 」(比較例1、表2)
が記載されている。
特許発明1及び本件特許請求の範囲請求項4に記載された発明の超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルム及びその製造方法について、炭化水素系可塑剤を添加して二軸延伸処理すること、延伸処理する倍率、延伸処理により得る初期弾性率、破断強度の物性値、すなわち炭化水素系可塑剤Bの添加、延伸倍率4×4、初期弾性率6900kg/cm2 、破断強度720kg/cm2 は、上記ア.〜エ.の記載からみて、分割前の原出願の明細書に記載されていると認められ、また、表1の延伸倍率を変化させた結果の初期弾性率、破断強度の各物性値から、延伸倍率を大きくするほどそれぞれの物性値が大きくなることは明らかであるので、延伸倍率、初期弾性率、破断強度の各特定された数値以上ということも、当初明細書の記載から記載されていたものと認められるから、本件分割出願の発明は、分割前の原出願の明細書に記載された発明である。

(2)分割出願の発明と分割後の原出願の発明との同一性について
特許発明1は、「少なくとも極限粘度[η]が5.0dl/g以上の超高分子量ポリオレフィンAで、且つ炭化水素系可塑剤Bを添加して一旦固化した後の縦方向の延伸倍率が4倍以上及び横方向の延伸倍率が4倍以上に二軸延伸したものであって、初期弾性率が6900kg/cm2以上で且つ破断強度が720kg/cm2以上(ただし、縦方向の延伸倍率が5倍以上、及び横方向の延伸倍率が5倍以上であって、初期弾性率が7300kg/cm2以上で且つ破断強度が910kg/cm2以上を除く)であることを特徴とする超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルム」であるのに対し、分割後の原出願の発明は、公告後の補正がなされ、「少なくとも極限粘度[η]が5.0dl/g以上の超高分子量ポリオレフィンAで、且つ縦方向の延伸倍率が5倍以上及び横方向の延伸倍率が5倍以上であって、初期弾性率が7300kg/cm2以上で且つ破断強度が910kg/cm2以上であることを特徴とする超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルム。」とされ、
また、特許発明2は、「少なくとも極限粘度[η]が5.0dl/g以上の超高分子量ポリオレフィンAと、該超高分子量ポリオレフィンの融点を越える沸点を有する炭化水素系可塑剤Bを含み、且つメルトフローレートが0.005ないし50g/minである混合物を押出し、一旦固化した後、前記超高分子量ポリオレフィンの融点未満の延伸温度で、縦方向の延伸倍率が4倍以上及び横方向の延伸倍率が4倍以上(ただし、縦方向の延伸倍率が5倍以上、及び横方向の延伸倍率が5倍以上であって、初期弾性率が7300kg/cm2以上で且つ破断強度が910kg/cm2以上を除く)に二軸延伸することを特徴とする、初期弾性率が6900kg/cm2以上で且つ破断強度が720kg/cm2以上である超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルムの製造方法。」であるのに対し、分割後の原出願の発明は、公告後の補正がなされ、「少なくとも極限粘度[η]が5.0dl/g以上の超高分子量ポリオレフィンAと、該超高分子量ポリオレフィンの融点を越える沸点を有する炭化水素系可塑剤Bを含み、且つメルトフローレートが0.005ないし50g/minである混合物を押出し、一旦固化した後、前記超高分子量ポリオレフィンの融点未満の延伸温度で、縦方向の延伸倍率が5倍以上及び横方向の延伸倍率が5倍以上に二軸延伸することを特徴とする、初期弾性率が7300kg/cm2以上で且つ破断強度が910kg/cm2以上である超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルムの製造方法。」とされた。特許発明1及び本件特許請求の範囲請求項4に記載された発明は、分割後の原出願の発明と同一となるのを避けるために、いわゆる「除くクレーム」形式で原出願の発明を除くように訂正されたものであるから、特許発明1及び本件特許請求の範囲請求項4に記載された発明と分割後の原出願の発明とは同一であるとはいえない。

(3)「分割の適否」のむすび
したがって、明細書に記載された発明は、適法な分割出願であり、特許法第44条第2項の規定により、原出願の出願日である昭和58年6月10日に出願したものと見なされる。

6-2-2.特許法第29条第1項第3号違反について
(2-1)甲第1号証に記載された発明について
上述のとおり、分割出願は適法なものであるので、本件特許出願は、本件分割出願に係る特許出願のもとの出願の時にしたものとみなされるから、甲第1号証に記載された発明は、本件出願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明とすることはできない。

(2-2)甲第2号証に記載された発明と同一かについて
本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明と対比すると、両者は、「高分子量ポリエチレンを原料とし、縦方向と横方向とに延伸してなる高分子量ポリエチレン二軸延伸フィルム」の点で一致し、下記の点で相違する。
相違点1:特許発明1は「少なくとも極限粘度[η]が5.0dl/g以上の超高分子量ポリエチレン」であるのに対し、甲第1号証に記載された発明では極限粘度について特に明記されておらず、高分子量ポリエチレンであるHostalenGURを使用することが記載されている点、
相違点2:特許発明1は「炭化水素系可塑剤Bを添加して縦方向の延伸倍率が4倍以上及び横方向の延伸倍率が4倍以上(ただし、縦方向の延伸倍率が5倍以上、及び横方向の延伸倍率が5倍以上であって、初期弾性率が7300kg/cm2以上で且つ破断強度が910kg/cm2以上を除く)(以下、延伸倍率4×4以上という)に二軸延伸したもの」であるのに対し、甲第2号証に記載された発明では溶液キャスト法によりシートを形成し、縦方向の延伸倍率が3倍及び横方向の延伸倍率が3倍(以下、延伸倍率3×3という)に二軸延伸したものである点、(当審注:下線部は当審が付記した)
相違点3:特許発明1は当該二軸延伸フィルムが「初期弾性率が6900kg/cm2以上で且つ破断強度が720kg/cm2以上である」と特定されているのに対し、甲第2号証に記載された発明では、弾性率が2.4±0.6GN/m2と特定するのみで、破断強度については特に規定していない点。
甲第2号証に記載された発明は、縦方向の延伸倍率が3倍及び横方向の延伸倍率が3倍に二軸延伸したものであって、縦方向の延伸倍率が4倍以上及び横方向の延伸倍率が4倍以上に二軸延伸したものについて記載されていない。
したがって、実験報告書1を参酌して、上記相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲第2号証に記載された発明とはいえない。
ところで、実験報告書1に記載されている実験内容は、試験サンプルの作成過程において、乾燥条件が異なり、脆性白色シートとの記載はあるが繊維材料の存在を示す記載も未延伸シートの繊維質特性のために不均質であった旨の記載もないものであり、また、乾燥されたシートから切り出すサンプルの大きさも、延伸フィルムの厚さも異なる。
そして、測定条件において、初期弾性率、破断強度を求める伸長速度について、甲第2号証の例13には明記されていないことから、それぞれ、甲第2号証の他の例の伸長速度と本件発明の実施例1の伸長速度を利用して測定している。
このように、甲第2号証が忠実な追試とは認められないから、実験報告書1に記載の甲第2号証に記載された例13の二軸延伸フィルムについて追試により求めたとする初期弾性率、破断強度は、甲第2号証に記載の発明の解釈においてこれらの値を参酌することはできない。

6-2-3.特許法第29条第2項違反について
特許発明1と甲第2号証に記載された発明と対比すると、上記6-2-2.(1)に記載したと同様の、一致点及び相違点1〜相違点3の相違が認められる。
上記相違点について、検討する。
相違点1について
甲第3号証(1977年出願)を提示してHostalenGURという商品名のポリエチレンの135℃でデカリン中の固有粘度は、15dl/gである旨が明記されており、また、甲第2号証実験報告書1の超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルムの原料樹脂として1979年当時の甲第1号証のHostalenGURが、本件特許発明1(1983年出願)の極限粘度を満足するものと解することができるので、両者は相違点1で実質的に差異があるとは認められない。
相違点2について
延伸倍率により延伸フィルムの初期弾性率、破断強度、及び延伸状態によるフィルムの状態が異なることは明らかであり、甲第2号証の延伸倍率3×3の二軸延伸フィルムは、延伸倍率4×4以上の二軸延伸フィルムとは相違するものであるから、本件特許発明1は甲第2号証に記載された発明とは認めることができないことは上述のとおりである。
ところで、甲第2号証の前記摘示記載エ.には「これらの数値は、溶融して調製した普通の線状高密度ポリエチレンフィルムに比べてかなり高いものであるが、もっと厚い原反シートを用いてもっと高い延伸倍率で延伸すると、さらに高い数値が得られると予想される。」と記載されているが、ここにいうさらに高い数値とは「弾性率」のことであることは明らかであり、甲第2号証に記載された発明において全く記載も示唆もされていない「破断強度」をも意味するものとは解することができない。
また、二軸延伸フィルムでは、縦横方向に延伸処理するため引張強度は増加するが破断強度は一般的に低下するもので、延伸倍率の増加と共に単純に増加するものとは認められず、甲第2号証に上記記載があるからといって、延伸倍率4×4以上の超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルムが得られるとの記載も示唆もないし、保証もない。
してみると、甲第2号証の上記摘示記載の延伸倍率3×3のものをもって、延伸倍率4×4以上のものが示唆されているとは認められないから、当業者が容易になし得たものとすることもできない。
相違点3について
甲第2号証の例13の追試として実験報告書1(甲第5号証)を提示しているが、延伸倍率が3×3の二軸延伸フィルムであって、本件特許発明1の二軸延伸フィルムとはこの点で既に相違している。
そして、上記相違点2で触れたように、本件特許発明1に特定されている破断強度の延伸倍率4×4以上のものが製造でき得るのか、実験的に証明できるにも係わらず、例13の延伸倍率3×3の二軸延伸フィルムのみの追試しか行わず、しかも、その追試は乾燥条件が異なり、脆性白色シートとの記載はあるが繊維材料の存在を示す記載も未延伸シートの繊維質特性のために不均質であった旨の記載もない未延伸シートであって、乾燥されたシートから切り出すサンプルの大きさも、延伸フィルムの厚さも異なるもので、さらに、初期弾性率、破断強度を求める伸長速度についても、甲第2号証の例13には明記されていないことから、それぞれ、甲第1号証の他の例の伸長速度と本件特許発明の実施例1の伸長速度を利用して測定しているなど、実験報告書1に記載の実験は、上記甲第2号証に記載された例13の二軸延伸フィルムの初期弾性率、破断強度を忠実な追試条件で測定しているものとは認められないので、甲第2号証の二軸延伸フィルムが上記相違点3の物性を示すことを証明するものとは認められない。
したがって、相違点3の点からも、本件特許発明1は甲第2号証に記載された発明から容易に発明することができたものということはできない。
そして、甲第4号証は溶液キャスト法で得られた高分子量ポリエチレンフィルムが超延伸できることが記載されているが、それは、本件特許発明1のような2軸延伸フイルムではなく、1軸延伸フィルムにおい本件特許発明1に特定されている弾性率のものが可能であることが記載されているにすぎない。

6-3.まとめ
以上のとおり、甲第1号証は、本件出願前に頒布された刊行物ではなく、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明とは認められないし、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明及び事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-06-25 
結審通知日 2002-06-28 
審決日 2002-09-25 
出願番号 特願平5-157699
審決分類 P 1 122・ 531- Y (B29C)
P 1 122・ 534- Y (B29C)
P 1 122・ 113- Y (B29C)
P 1 122・ 121- Y (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 久直松井 佳章  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 石井 克彦
高梨 操
登録日 1996-04-25 
登録番号 特許第2047192号(P2047192)
発明の名称 超高分子量ポリオレフィン二軸延伸フィルム及びその製造方法  
代理人 牧野 利秋  
代理人 竹田 稔  
復代理人 増井 忠弐  
代理人 江角 洋治  
代理人 辻河 哲▲や▼  
代理人 森崎 博之  
代理人 河備 健二  
代理人 鈴木 修  
代理人 小西 恵  
代理人 吉野 正己  
代理人 小田島 平吉  
復代理人 深井 俊至  

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