ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 特29条の2 A61K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61K |
---|---|
管理番号 | 1086360 |
異議申立番号 | 異議1998-74837 |
総通号数 | 48 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-04-16 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-10-01 |
確定日 | 2003-09-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2736316号「しわ処理における塩素チャンネルと係わるレセプターのアゴニスト物質の使用」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2736316号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許2736316号に係る出願は、平成7年9月28日(パリ条約による優先権主張 1994年9月30日 フランス国)に特許出願され、平成10年1月9日にその特許の設定登録がなされ、その後、味の素株式会社から特許異議の申立がなされ、取消理由が通知され、その期間内である平成11年6月22日に明細書の訂正が請求され(その後、取り下げられた)、訂正拒絶理由が通知され、その後、取消理由が通知され、その期間内である平成12年11月16日に明細書の訂正が請求され(その後、取り下げられた)、訂正拒絶理由が通知され、更に取消理由が通知され、その期間内である平成15年7月8日に明細書の訂正が請求されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正事項 特許権者により請求された明細書の訂正事項は以下のとおりである。 ア、訂正事項a 特許明細書の特許請求の範囲に 「【請求項1】皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげるための、グリシンおよびγ-アミノ酪酸以外の、皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質を含有する局所用化粧品または皮膚用組成物。 【請求項2】しわを減少するための、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげるための、グリシンおよびγ-アミノ酪酸以外の、少なくとも1つの皮膚の求心神経経路の少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質を含有する局所用化粧品または皮膚用組成物。 【請求項3】前記アゴニスト物質が、セリン、夕ウリン、β-アラニン、N-(ベンジルオキシカルボニル)グリシン、イソグバシン、イソニペコチン酸、4,5,6,7-テトラヒドロイソキサゾロ[5,4-c]ピリド一3(2H)一オン、ベンゾジアゼピン類、ステロイド類、およびバルビツラート類からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。 【請求項4】注入可能な化粧品または皮膚用組成物調製における、または、該調製用の、しわを減少する目的での、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげるための皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質の組成物。 【請求項5】皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげるための、少なくとも1つの皮膚の求心神経経路の少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質を含有する注入可能な局所用化粧品または皮膚用組成物。 【請求項6】前記アゴニスト物質が、グリシン、セリン、タウリン、β-アラニン、N-(ベンジルオキシカルボニル)グリシン、γ-アミノ酪酸、イソグバシン、イソニペコチン酸、4,5,6,7一テトラヒドロイソキサゾロ[5,4-c]ピリド-3(2H)-オン、ベンゾジアゼピン類、ステロイド類、およびバルビツラート類からなる群から選択されることを特徴とする、請求項4または5に記載の組成物。 【請求項7】前記アゴニスト物質が、組成物の全重量に対して0.00001重量%から20重量%の範囲の量で、化粧品または皮膚用組成物に存在することを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項8】前記アゴニスト物質が、組成物の全重量に対して0.01重量%から10重量%の範囲の量で、化粧品または皮膚用組成物に存在することを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項9】前記組成物が、ヒドロキシ酸および/またはレチノイドをさらに含有することを特徴とする、請求頃1ないし8のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項10】前記ヒドロキシ酸が、直鎖、分岐、または環状で、飽和または不飽和であってもよい、α-ヒドロキシ酸類またはβ-ヒドロキシ酸類から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。 【請求項11】前記レチノイドが、レチノイン酸およびその誘導体またはレチノールおよびそのエステル類からなる群から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の組成物。 【請求項12】皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質を含有する組成物を、注入することからなる、ヒトのしわを減少する美容処理方法。」とあるのを 「【請求項1】しわを減少する目的での、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげるための、皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質を含有する局所用化粧品組成物であって、前記アゴニスト物質が、β-アラニン、N-(ベンジルオキシカルボニル)グリシン、イソグバシン、イソニペコチン酸、4,5,6,7-テトラヒドロイソキサゾロ[5、4-c]ピリド-3(2H)-オン、ニトラゼパム、ジアゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、アルファキサロン、バルビタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、及び、これらの塩から選択される、局所用化粧品組成物。 【請求項2】しわを減少する目的での、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげるための、皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質を含有する注入可能な皮膚の美容処理用組成物であって、前記アゴニスト物質が、β-アラニン、N-(ベンジルオキシカルボニル)グリシン、イソグバシン、イソニペコチン酸、4,5,6,7-テトラヒドロイソキサゾロ[5,4-c]ピリド-3(2H)-オン、ニトラゼパム、ジアゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、アルファキサロン、バルビタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、及び、これらの塩から選択される、美容処理用組成物。 【請求項3】前記アゴニスト物質が、組成物の全重量に対して0.00001重量%から20重量%の範囲の量で、組成物に存在することを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。 【請求項4】前記アゴニスト物質が、組成物の全重量に対して0.01重量%から10重量%の範囲の量で、組成物に存在することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項5】前記組成物が、ヒドロキシ酸および/またはレチノイドをさらに含有することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項6】前記ヒドロキシ酸が、直鎖、分岐、または環状で、飽和または不飽和であってもよい、α-ヒドロキシ酸類またはβ-ヒドロキシ酸類から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。 【請求項7】前記レチノイドが、レチノイン酸およびその誘導体またはレチノールおよびそのエステル類からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。」と訂正する。 イ、訂正事項b 特許明細書の段落【0012】に 「【0012】グリシン-ストリキニーネ感受性レセプターを活性化するための本発明において使用可能なアゴニスト物質としては、グリシン、セリン、夕ウリン、β-アラニン、N-(ベンジルオキシカルボニル)グリシン、または、(Z-グリシン)が挙げられる。 GABAAレセプターを活性化するための本発明において使用可能なアゴニスト物質としては、γ-アミノ酪酸(GABA)、イソグバシン(isoguvacine)、イソニペコチン酸(isonipecotic acid)、4,5,6,7-テトラヒドロイソキサゾロ[5,4-c]ピリド-3(2H)-オン(THIP)、ベンゾジアゼピン類、たとえば、ニトラゼパム(1,3-ジヒドロ-7-ニトロ-5-フェニル-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン)、ジアゼパム(7-クロロ-1,3-ジヒドロ-1-メチル-5-フェニル-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン)、フルニトラゼパム(5-(2-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロ-1-メチル-7-ニトロ-2H-1,4-ベンゾチアゼピン-2-オン)、またはオキサゼパム(7-クロロ-1,3-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-5-フェニル-2H-1,4Xテロイド類、たとえば、アルファキサロン(alfaxalone)(3-ヒドロキシプレグナン-11,20-ジオン)、または、バルビツラート類、たとえばバルビタール(5,5-ジエチルバルビツル酸)、ペントバルビタール(5-エチル-5-(1-メチルブチル)バルビツル酸)、またはフェノバルビタール(5-エチル-5-フェニルバルビツル酸)、およびこれらの塩が挙げられる。」とあるのを 「【0012】グリシン-ストリキニーネ感受性レセプターを活性化するための本発明において使用可能なアゴニスト物質としては、グリシン、セリン、タウリン、β-アラニン、N-(ベンジルオキシカルボニル)グリシン(Z-グリシン)が挙げられる。 GABAAレセプターを活性化するための本発明において使用可能なアゴニスト物質としては、γ-アミノ酪酸(GABA)、イソグバシン(isoguvacine)、イソニペコチン酸(isonipecotic acid )、4,5,6,7-テトラヒドロイソキサゾロ[5,4-c]ピリド-3(2H)-オン(THIP)、ベンゾジアゼピン類、たとえば、ニトラゼパム(1,3-ジヒドロ-7-ニトロ-5-フェニル-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン)、ジアゼパム(7-クロロ-1,3-ジヒドロ-1-メチル-5-フェニル-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン)、フルニトラゼパム(5-(2-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロ-1-メチル-7-ニトロ-2H-1,4-ベンゾチアゼピン-2-オン)、またはオキサゼパム(7-クロロ-1,3-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-5-フェニル-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン)、ステロイド類、たとえば、アルファキサロン(alfaxalone)(3-ヒドロキシプレグナン-11,20-ジオン)、または、バルビツラート類、たとえばバルビタール(5,5-ジエチルバルビツル酸)、ペントバルビタール(5-エチル-5-(1一メチルブチル)バルビツル酸)、またはフェノバルビタール(5-エチル-5一フェニルバルビツル酸)、およびこれらの塩が挙げられる。」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 ア、訂正事項aについて 上記訂正事項aは、特許明細書の請求項2,3,5,6及び12を削除すると共に、特許明細書の請求項1,4に記載されるアゴニスト物質を特許明細書の段落【0012】に記載されている具体的な化合物に減縮し、さらに特許明細書の請求項1に係る発明を「しわを減少する目的」で使用されるものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 また、訂正後の請求項1〜7に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 イ、訂正事項bについて 上記訂正事項bはZ-グリシンがN-(ベンジルオキシカルボニル)グリシンの別名であることを明らかにし、また、段落【0012】の「・・1,4Xテロイド類・・」なる記載をステロイドであることを明らかにする等のものであるから、誤記の訂正及び不明りょうな記載の釈明を目的とするものであり、いずれも特許明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、いずれも特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 (1)申立ての概要 特許異議申立人 味の素株式会社(以下、「申立人」という。)の申し立てた理由は概略以下のとおりである。 a.請求項1ないし10に係る本件発明は、甲第1号証ないし甲第4号証及び甲第6号証ないし甲第19号証に記載された発明であるから、当該発明は特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、したがって、上記各発明に係る特許はいずれも特許法第113条第1項第2号により取り消すべきものである。 b.請求項1ないし3及び請求項5ないし8に係る特許発明は、甲第5号証及び甲第20号証ないし甲第22号証に記載された発明であり、また出願人が同一でなく、発明者も同一でないから特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであり、したがって、上記各発明に係る特許はいずれも特許法第113条第1項第2号により取り消すべきものである。 c.請求項12に係る発明は、人間を手術または治療する方法に該当し、産業上利用することができる発明には該当しないから、特許法第29条柱書きに違反するものであり、特許を受けることができない。 d.請求項1〜11に係る特許は「皮膚を弛緩するおよび/または和らげる」、「しわを減少するための、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげる」ものであることを発明の構成要件としているが、それらがどのような状態であるのか認識することができないし、また、「皮膚を弛緩するおよび/または和らげる」、「しわを減少するための、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげる」か否かを判断または認識するための手段が出願明細書に開示されていないので容易に実施することができず、このため、請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第4項または第6項第1号または第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1項第4号により取り消すべきものである。 なお、申立人が提出した証拠は次のとおりである。 甲第1号証:特開昭51-46588号公報 甲第2号証:特開昭59-139308号公報 甲第3号証:特開昭60-244335号公報 甲第4号証:特開昭61-145109号公報 甲第5号証:特開平5-51314号公報 甲第6号証:特開昭62-215510号公報 甲第7号証:特開昭61-215319号公報 甲第8号証:特開昭61-251607号公報 甲第9号証:特開昭61-251608号公報 甲第10号証:特開昭61-289016号公報 甲第11号証:特開昭61-293903号公報 甲第12号証:特開昭61-293904号公報 甲第13号証:特開昭63-96106号公報 甲第14号証:特開昭64-47707号公報 甲第15号証:特開平1-175917号公報 甲第16号証:特開平1-216908号公報 甲第17号証:特開平3-123733号公報 甲第18号証:特開平3-200707号公報 甲第19号証:特開平4-124114号公報 甲第20号証:特開平5-339140号公報 甲第21号証:特開平7-277916号公報 甲第22号証:特開平7-316075号公報 なお、上記甲第1号証ないし甲第20号証は、取消理由通知で引用された刊行物1ないし刊行物20に、また、甲第21号証及び甲第22号証は、先願1及び2に対応する。 (2)訂正明細書の請求項1〜7に係る発明 本件特許明細書は上記訂正が認められるものであるから、その請求項1〜7に係る発明(以下、「本件発明1〜7」という)は、上記2.(1)ア、に記載したとおりのものである。 (3)甲第1号証ないし甲第22号証に記載の事項 a.甲第1号証には、L-セリン又はグリシンを含有する油中水型乳化組成物が記載されており(実施例1,3及び4)、又、これらの油中水型乳化組成物を用いた化粧料として、W/Oクリーム、W/Oファウンデーション、スチック状化粧料が挙げられている(公報第442頁処方例1〜3)。 b.甲第2号証の特許請求の範囲の請求項1には、可溶性エラスチン及び/又は可溶化エラスチンと、保湿成分及び/又は生理活性成分とを必須成分として含有することを特徴とする化粧料が、及び、請求項2には、保湿成分が、アミノ酸類・NMF成分類・ペプチド類・多糖類の一種又は二種以上の組み合わせからなるものであることが記載されている(公報第41頁右下欄第5行〜11行)。また、「アミノ酸類とは、セリン、グリシン(中略)等と、及びその誘導体を挙げることができる。」との(同第42頁右上欄第11〜14行)、及び「本発明に於ける化粧料は、(中略)、柔軟性化粧水・収斂性化粧水・洗浄用化粧水等の化粧水類、エモリエントクリーム・マッサージクリーム・クレンジングクリーム・メイクアップクリーム等のクリーム類、エモリエント乳液・モイスチュア乳液・ミルキイローション・ナリシング乳液・クレンジング乳液等の乳液類、ゼリー状パック・ペースト状パック・粉末状パック等のパック類、及び洗顔料類などが主なものとして挙げられる。」との(同第42頁右下欄第6〜15行)記載があり、さらに、「本発明の化粧料の作用効果につき、使用テストにより試験を行った。」こと、及び同化粧料の作用効果として「小じわが目立たなくなったという効果が、高い有効率をもって確認された。」ことが記載されている(同第43頁右下欄表1、同44頁左上欄表2、表3、同左上欄第4行〜右上欄第1行)。 c.甲第3号証には、DL-グリシンを4.0%、L-セリンを0.1%含有するエモリエント乳液が記載されている(公報第201頁左上欄 実施例14)。 d.甲第4号証には、タウリンを30.0%含有するクリーム、同5.0%含有する化粧水、及び同10%含有する石けんが記載されている(公報第102頁実施例1〜3)。 e.甲第5号証は、皮膚の小じわ等を防止する効果を有する皮膚化粧料に関するものであり(公報第2頁左欄10〜11行)、セリンを含有するスキンローションに小じわを防止する効果があること(同第4頁表3実施例5、同頁左欄第50行〜同5頁右欄第2行)、及び、セリンを含有するスキンクリームに小じわを防止する効果があることが記載されている(同第6頁表5実施例12、同頁左欄第4行〜6行)。 f.甲第6号証には、「アミノ酸、アミノ酸塩類、多糖硫酸及び単糖硫酸の塩類、オキシ酸、オキシ酸塩類の中から選ばれる1種又は2種以上を0.1%以上含有する水溶液」を含有することを構成要件とする乳化組成物が記載されており(公報特許請求の範囲、請求項1)、また、上記アミノ酸として、グリシン、セリン等が例示されている。(公報第58頁右下欄第19行〜同左下欄第2行) さらに、「本発明で用いられるオキシ酸及びオキシ酸塩類は皮膚収れん剤や保湿剤として化粧料や医薬品に用いられるものもあり皮膚に対して有効な働きを持つものが多い。」(公報第59頁左上欄12〜15行)との、及び「本発明で用いられるオキシ酸およびオキシ酸塩類としては、ヒドロキシ酢酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシイソ酪酸、リンゴ酸、タートロン酸、クエン酸、イソクエン酸、酒石酸およびそのナトリウム、カリウム、トリエタノールアミン塩等を例示することができる。」(同右上欄第1行〜第7行)との記載がある。 そして、L-セリン1.0%およびクエン酸ナトリウム0.5%を含有する化粧下地が記載されている(同第66頁右下覧〜同第67頁左上欄実施例21)。 g.甲第7号証には、セリンを0.005〜0.5%含有するサンスクリーンクリーム(公報第120頁右下欄〜同121頁、試験例1の表-2)、及び、セリンを0.2%含有するファンデーションが記載されている(同第123頁左上欄実施例4)。 h.甲第8号証には、グリシンを0.5%含有するパック化粧料(公報第67頁左上欄実施例1)、及び、セリンを10%含有するパック化粧料が記載されている(同頁右下欄実施例5)。 i.甲第9号証には、グリシンを0.5%含有するパック化粧料が記載されている(公報第71頁右上欄実施例1及び2)。 j.甲第10号証には、セリンを含有する細胞賦活組成物(公報第91頁下欄処方例-3)、及びエッセンスローションが記載されている(同第94頁下欄処方例-5)。 k.甲第11号証には、セリンを1.0%含有するハンドクリーム(公報174頁右上欄実施例2)及び乳液(同第17頁左上欄実施例11)、並びにグリシンを2.0%含有するヘアクリーム(同頁右上欄実施例12)及びマッサージクリーム(同頁右下欄実施例14)が記載されている。 l.甲第12号証には、セリンを1.0%含有する化粧下地(公報第30頁左上欄実施例5)、及び、セリンを2.0%含有する乳化ファンテーンョンが記載されている(同第31頁左下欄実施例8)。 m.甲第13号証には、セリンを3%含有するエモリエントローション(公報第32頁左下欄実施例2)、及び、グリシンを5%含有するファンデーションが記載されている(同第34頁右上欄実施例6)。 n.甲第14号証には、グリシンを1.0%含有する栄養クリーム(公報第36頁上欄実施例4)、及び、セリンを0.1%含有するファンデーションが記載されている(同頁実施例5)。 o.甲第15号証には、セリンを2.0%含有する乳液(公報第93頁左下欄実施例3)、3.0%含有するサンスクリーン(同頁右下欄実施例4)、及び、4.0%含有する乳化ファンデーションが記載されている(同第94頁左上欄実施例5)。 p.甲第16号証には、グリシンを0.05%、セリンを0.05%含有する化粧水が記載されている(公報第50頁実施例1)。 q.甲第17号証には、グリシンを0.03%含有する化粧水(公報第230頁左上欄実施例1)、及び、L-セリンを0.75%含有するクリームが記載されている(同頁実施例2)。 r.甲第18号証には、セリンを0.5%含有する化粧水が記載されている(公報第40〜41頁実施例2)。 s.甲第19号証には、グリシンを0.5%含有する栄養クリームが記載されている(公報第84頁左上欄実施例5) t.甲第20号証には、セリンを0.06〜4.0%含有するローション、及び、グリシンを1.0%含有するローションが記載されている(公報第4頁 実施例1〜4、比較例1)。 u.甲第21号証には、セリンを0.2%含有する化粧水が記載されている(公報第3頁〜4頁実施例5、第2表)。 v.甲第22号証には、グリシンを3%含有するクリーム(公報第5頁実施例7)、及び、セリンを3%含有するクリームが記載されている(同頁実施例8)。 (4)対比・判断 a.特許法第29条第1項第3号について 本件発明1及び2に係るアゴニスト物質は、訂正により、「β-アラニン、N-(ベンジルオキシカルボニル)グリシン、イソグバシン、イソニペコチン酸、4,5,6,7-テトラヒドロイソキサゾロ[5、4-c]ピリド-3(2H)-オン、ニトラゼパム、ジアゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、アルファキサロン、バルビタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、及び、これらの塩」から選択されるものに限定されたので、甲第1号証〜甲第3号証、甲第6号証〜甲第8号証、及び甲第10号証〜甲第18号証に記載の各種化粧料で使用されているセリン、甲第1号証〜甲第3号証、甲第6号証、甲第8号証、甲第9号証、甲第11号証、甲第14号証、及び甲第16号証〜甲第19号証に記載の各種化粧料で使用されているグリシン、並びに甲第4号証に記載の化粧料で使用されているタウリンは本件発明1及び2で使用されるアゴニストには含まれないものとなったから、本件発明1及び2は甲第1号証ないし甲第4号証及び甲第6号証ないし甲第19号証に記載された発明とはいえない。 次に、甲第5号証について、申立人は特許法29条の2の適用を主張しているが、同号証は本件優先日前に頒布された刊行物に係るものである。同号証の請求項1には、「培養ニンジンエキスとコレステロール誘導体とを配合する皮膚化粧料。」が、また請求項2にはアミノ酸を追加配合しうることが、及び、好ましいアミノ酸はL-セリン,L-スレオニンであることが(段落【0020】)、さらに、同化粧料は皮膚の小じわ、くすみを防止する効果を奏することが記載されており、また、実施例5には「培養ニンジンエキス、CHS(コレステロールサルフェート)ナトリウム塩・2水塩及びセリン」から成る皮膚化粧料が記載されている。 しかしながら、上記したとおり、セリン及びスレオニンは本件発明のアゴニストには含まれないものであるから、本件発明1及び2は甲第5号証に記載された発明とはいえない。 同様に、甲第20号証も本件優先日前に頒布された刊行物に係るものである。同号証の請求項1には「ムチンとアミノ酸とを含む皮膚化粧料。」が記載され、請求項2では、アミノ酸の具体例として「セリン、グリシン、アラニン、スレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、ハイドロオキシプロリン」が列記され、また、実施例1〜4では具体的にセリン及びグリシンが使用されている。 しかしながら、本件発明1及び2で使用されるアゴニストには、上記したアミノ酸、即ち、実施例で使用されているセリン、グリシン、及び、請求項2に列記されている各種アミノ酸は含まれないものである。(上記請求項2に記載のアラニンは通常のα-アミノプロピオン酸を意味するものと考えられ、本件発明のβ-アラニンとは異なるものである。)さらに、同号証に記載の皮膚化粧料は皮膚の保湿性に優れており、そのため、角質水分量の増加、肌の潤いの向上を図るものであるのに対して、本件発明は皮膚を弛緩させ、あるいは和らげることにより、しわを減少させることを目的とするものである。このため、本件発明1及び2は甲第20号証に記載された発明とはいえない。 そして、本件発明3ないし7は、本件発明1または2を引用する発明であり、また、本件発明のアゴニスト物質を使用するものではないから、甲第1号証ないし甲第20号証に記載された発明とはいえない。 b.特許法第29条の2について 先願1(特願平6-70541号、特開平7-277916号公報:甲第21号証)又は先願2(特願平6-136279号、特願平7-316075号公報:甲第22号証)には、セリン又はグリシンを含有する化粧品が記載されているが、これらの化合物は本件発明のアゴニスト物質には含まれないものとなったから、本件発明1及び2は先願1又は先願2の公開された願書に最初に添附された明細書又は図面に記載された発明とはいえない。また、本件発明1及び2を引用する本件発明3〜7も先願1及び先願2の公開された願書に最初に添附された明細書又は図面に記載された発明であるということはできない。 c.特許法第29条柱書きについて 請求項12は、訂正により削除されたので、最早、特許法第29条柱書きに違反するか否かを判断すべき請求項は存在しない。 d.特許法第36条第4項又は第6項について 申立人は、「皮膚を弛緩するおよび/または和らげる」、及び「しわを減少するための、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげる」の本件発明の構成要件は、それらがどのような状態であるのか認識することができないと主張している。 しかしながら、上記の「皮膚を弛緩するおよび/または和らげる」ことは、訂正により、「しわを減少する目的」でなされるものであることが明らかにされ、また、明細書の段落【0006】及び【0011】によれば、そのような作用・効果は収縮した筋肉組織を和らげることによりなし得るものであることが明らかである。さらに、かかる「しわを減少する」効果は、乾燥等の水分損失に起因するしわを保湿により減少させるとか、又は、皮膚細胞の再生を改善させるとかにより得られるものではないことも明らかにされている。(段落【0002】) このように、本件明細書には、「皮膚を弛緩するおよび/または和らげる」ということはしわを減少させることが目的であり、また、そのための手段も明らかにされているから、申立人の主張する、「皮膚を弛緩するおよび/または和らげる」等の状態がどのようなものであるかを認識できないということはできない。 また、申立人は、「皮膚を弛緩するおよび/または和らげる」かどうかを判断または認識する手段が明細書に記載されていないことを問題とするが、しわ等は、例えば、顔面等の体表面に現れるから視覚的に捉えることができることは明らかであり、単に判断する等のための手段の記載がないことをもって、明細書の記載が不備であるとまではいうことができない。 よって、明細書の記載に不備はないと認められる。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1ないし7に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 しわ処理における塩素チャンネルと係わるレセプターのアゴニスト物質の使用 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 しわを減少する目的での、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげるための、皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質を含有する局所用化粧品組成物であって、 前記アゴニスト物質が、β-アラニン、N-(ベンジルオキシカルボニル)グリシン、イソグバシン、イソニペコチン酸、4,5,6,7-テトラヒドロイソキサゾロ[5,4-c]ピリド-3(2H)-オン、ニトラゼパム、ジアゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、アルファキサロン、バルビタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、及び、これらの塩から選択される、局所用化粧品組成物。 【請求項2】 しわを減少する目的での、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげるための、皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質を含有する注入可能な皮膚の美容処理用組成物であって、 前記アゴニスト物質が、β-アラニン、N-(ベンジルオキシカルボニル)グリシン、イソグバシン、イソニペコチン酸、4,5,6,7-テトラヒドロイソキサゾロ[5,4-c]ピリド-3(2H)-オン、ニトラゼパム、ジアゼパム、フルニトラゼパム、オキサゼパム、アルファキサロン、バルビタール、ペントバルビタール、フェノバルビタール、及び、これらの塩から選択される、美容処理用組成物。 【請求項3】 前記アゴニスト物質が、組成物の全重量に対して0.00001重量%から20重量%の範囲の量で、組成物に存在することを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。 【請求項4】 前記アゴニスト物質が、組成物の全重量に対して0.01重量%から10重量%の範囲の量で、組成物に存在することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項5】 前記組成物が、ヒドロキシ酸および/またはレチノイドをさらに含有することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の組成物。 【請求項6】 前記ヒドロキシ酸が、直鎖、分岐、または環状で、飽和または不飽和であってもよい、α-ヒドロキシ酸類またはβ-ヒドロキシ酸類から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。 【請求項7】 前記レチノイドが、レチノイン酸およびその誘導体またはレチノールおよびそのエステル類からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、特に皮膚のしわ(wrinkles and fine lines)を処理する目的の、化粧品および/または皮膚用組成物における、塩素チャンネルと係わるレセプターのアゴニスト物質の使用、および、得られた化粧品および/または皮膚用組成物に関する。 【0002】 【従来の技術および発明が解決しようとする課題】 近年、女性のみならず実際には男性も、できる限り若く見られたいという傾向にあり、結果として、特にしわによる皮膚の老化の兆候を緩和することを望んでいる。この点から、宣伝およびファッション業界は、若い皮膚の特徴である輝いてしわのない皮膚を可能な限り長く保持するための製品を提供しているが、身体的な見かけが心理状態および/または精神的に効果を与えるので、ますます若さを保持できることになる。したがって、身体的にも精神的にも若く感じていることが重要である。 これまで、しわは、皮膚に作用する活性剤を含有する化粧品を用いて、たとえば、皮膚に水分を補給したり、または、皮膚細胞の再生を改善したり、このほか、皮下組織を形成するコラーゲンの合成を促進することによって、処理されてきた。しかしながら、これまで、皮膚に存在する筋肉成分を包含することにより、しわに作用することは知られていない。 【0003】 顔の広頸筋の筋肉は、顔面神経の運動神経求心活動の制御下にあり、さらに、皮下組織の小葉間隔壁がそのなかに横紋筋組織(panniculus carnosus)を成す繊維を含有することが知られてる。さらに、筋繊維芽細胞として知られている真皮の繊維芽細胞の系統群は、筋肉組織と同じような特徴を有する。 本出願会社は、ある病理学的状況および治療的状況において、全ての筋肉組織を制御する神経が顔のしわに関与することを、特に見い出した。したがって、神経インパルスの伝達が遮断されるおよび/または弱められる顔面神経への攻撃の際、顔面筋肉のマヒが神経支配域において観察される。顔面マヒは、しわの緩和や消失等の、特に臨床的徴候によって、反映されるものである。 【0004】 一方、本出願会社は、顔面筋肉の高収縮状態において、顔のしわが強調されることを見い出した。さらに、神経遮断薬によって引き起こされた副作用およびパーキンソン病の筋肉の高血圧状態においても、顔面のしわは強調されることが観察された。 さらに、本来痙攣治療用に使用されるボツリヌス毒素は、筋肉痙攣状態において(文献:A.Blitzer et al.,Arch.Otolaryngol.Head Neck Surg.,1993,119,pp.1018〜1022参照)、および、内部超繊毛性しわであるみけんのしわにおいて(文献:J.D.Carruters et al.,J.Dermatol.Surg.Oncol.,1992,18,pp.17〜21参照)効果を有する可能性があることが示されている。したがって、薬理学的作用によって、しわの神経成分に効果をあたえることが可能である。ボツリヌス毒素は、筋肉の緊張におけるアセチルコリンの作用をブロックすることによって、神経筋接合部のレベルに直接作用する。 【0005】 神経と筋肉との接合部は、神経筋接合部エンドプレートを形成し、該エンドプレートの前に運動ニューロンとして知られている求心神経ルートがある。さらに、各神経繊維の細胞膜は、多くのイオンチャンネル、特に塩素チャンネルを含有している。該チャンネルでは、相当する元素がイオン形態で通過可能であり、特に、塩素チャンネルの場合にはクロライドの形態で通過可能である。ニューロンレセプターは、該チャンネルと関係がある。塩素チャンネルに係わるニューロンレセプターは、特に、グリシン用レセプター(グリシン-ストリキニーネ感受性レセプター)であり、GABA用レセプター(GABAAレセプター)である。 さらに、中枢神経系において、中枢神経系のGABAAレセプターまたはグリシン-ストリキニーネ感受性レセプターに効果を有する種々の薬理学的薬剤によって、運動ニューロンの興奮性を減少させることが可能であることが知られている(文献:W.Sieghart,Trends in Pharmacological Science,December 1992,vol.131,pp.446〜450参照)。該レセプターの作用は、塩素チャンネルを開き、塩素イオンを導入する。その結果、神経繊維の細胞において塩素イオンが増加し、ニューロンの過分極が起こり、結果としてほとんど興奮性がなくなる。一方、神経筋接合部において、運動ニューロンの興奮性が減少することによって、筋肉繊維の刺激が薄らぎ、緩和されることになる。 【0006】 本出願会社は、多くの臨床試験の後、神経運動インパルスの直接制御下にある収縮した筋肉繊維が、しわの病因に本質的に係わっており、神経運動インパルスの抑制が、しわ類を和らげ、また、皮膚の小さい凹凸に”スムーズ”な効果を与えると結論づけることができた。さらに、皮膚組織は、これまで予想されていなかった、塩素チャンネルに係わるレセプターを含有していることも見い出した。したがって、該組織を和らげるために、該チャンネルに作用し、これによって、しわを減少させることが可能であることが見い出された。 これまで、末端皮膚神経系の神経繊維の塩素チャンネルとしわの関係は確立されていなかった上、チャンネルまたはチャンネルの近くにあるレセプターの活動による塩素チャンネルへの作用によってしわを処理することが可能であることは見い出されていなかった。塩素チャンネルのレセプターを活性化させて、クロライドを細胞に送り込むことの可能な物質は、アゴニスト物質として知られている。 【0007】 【課題を解決するための手段および発明の実施の形態】 したがって、本発明は、局所用化粧品または皮膚用組成物調製における、または、該調製用の、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげる(relaxing and/or slackening)ための、グリシンおよびγ-アミノ酪酸以外の、皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質の使用に関する。 本発明はまた、注入可能な化粧品または皮膚用組成物調製における、または、該調製用の、しわ(wrinkles and/or fine lines)を減少する目的での、皮膚組織を弛緩するおよび/または和わらげるための、皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質の使用に関する。 ここで、”注入可能な(injectable)”とは、本質的には、組織、特にしわに注入することを意味する。 【0008】 本発明はさらに、注入可能なまたは局所用化粧品または皮膚用組成物調製における、または、該調製用の、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげるための、少なくとも1つの皮膚の求心神経経路の少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質の使用に関する。 本発明はさらに、局所用化粧品または皮膚用組成物調製における、または、該調製用の、しわを減少する目的での、皮膚組織を弛緩するおよび/または和らげるための、グリシンおよびγ-アミノ酪酸以外の、少なくとも1つの皮膚の求心神経経路の少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質の使用に関する。 【0009】 本発明によるアゴニスト含有の組成物は、局所的に、または、皮下および/または皮膚内注射、および/または、”しわ内(intrawrinkle)”注入によって適用可能である。 本発明による他の主題は、皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質を含有する組成物を、注入することからなる、しわを減少する美容処理方法である。 【0010】 本発明はさらに、皮膚組織に存在する少なくとも1つの塩素チャンネルと係わる少なくとも1つのレセプターの少なくとも1つのアゴニスト物質を含有する組成物を、注入することからなる、しわを減少する美容処理方法に関する。 塩素チャンネルに係わる多くのレセプターが存在する。該レセプターは特に、グリシン-ストリキニーネ感受性レセプター類およびGABAAレセプター類に係わり、後者自体は、GABA部位、ベンゾジアゼピン部位、ステロイドタイプ部位、およびバルビツラート部位を有する多くのサブユニットを含有する。該レセプターまたは部位のアゴニストとして作用する全ての物質は、本発明による皮膚組織を和らげるために使用可能である。 【0011】 塩素チャンネルのレセプターのアゴニストとして認識させるべき物質としては、以下の2つの特徴に相当するものでなければならない: -塩素チャンネルに係わる少なくとも1つの種々のレセプターに選択的に結合可能であること; -収縮した筋肉組織を和らげる効果を示すこと。 塩素チャンネルに係わるレセプターに結合可能であるという、第1の特徴は、アンタゴニスト活性をアゴニスト活性と区別することができないが、レセプターとのポテンシャルアフィニティを定めることが可能である。 第2の特徴は、アゴニストを選択可能にすることである。研究中の物質のアゴニスト活性は、塩素チャンネルのアンタゴニスト物質により予め収縮した筋肉組織に与えられる弛緩効果によって、例証可能である。塩素チャンネルのアンタゴニスト物質として知られている物質は、特に以下の物質類:ビククリン(bicuculline)、ストリキニン、ターシャリー-ブチルビシクロホスホロチオナート、および、ピクロトキシンから選択されてもよい。 【0012】 グリシン-ストリキニーネ感受性レセプターを活性化するための本発明において使用可能なアゴニスト物質としては、グリシン、セリン、タウリン、β-アラニン、N-(ベンジルオキシカルボニル)グリシン(Z-グリシン)が挙げられる。 GABAAレセプターを活性化するための本発明において使用可能なアゴニスト物質としては、γ-アミノ酪酸(GABA)、イソグバシン(isoguvacine)、イソニペコチン酸(isonipecotic acid)、4,5,6,7-テトラヒドロイソキサゾロ[5,4-c]ピリド-3(2H)-オン(THIP)、ベンゾジアゼピン類、たとえば、ニトラゼパム(1,3-ジヒドロ-7-ニトロ-5-フェニル-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン)、ジアゼパム(7-クロロ-1,3-ジヒドロ-1-メチル-5-フェニル-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン)、フルニトラゼパム(5-(2-フルオロフェニル)-1,3-ジヒドロ-1-メチル-7-ニトロ-2H-1,4-ベンゾチアゼピン-2-オン)、またはオキサゼパム(7-クロロ-1,3-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-5-フェニル-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-2-オン)、ステロイド類、たとえば、アルファキサロン(alfaxalone)(3-ヒドロキシプレグナン-11,20-ジオン)、または、バルビツラート類、たとえばバルビタール(5,5-ジエチルバルビツル酸)、ペントバルビタール(5-エチル-5-(1-メチルブチル)バルビツル酸)、またはフェノバルビタール(5-エチル-5-フェニルバルビツル酸)、およびこれらの塩が挙げられる。 【0013】 グリシンおよびGABAを、皮膚の老化に対抗するための他の活性剤と組み合わせて使用することはしられているが、これまで、しわを処理する目的で皮膚組織を和らげる作用は見い出されていなかった。一般的に知られている作用は、エラスターゼ阻害と、コラーゲンに対する効果と、細胞再生である。 実際、皮膚の状態を改善する目的で保湿剤としてアミノ酸類を使用することが従来より知られている。特に、ペプチド混合物形態での、グリシン、タウリン、またはβ-アラニンな等のアミノ酸類の組み合わせが、皮膚の老化処理用化粧品組成物として使用されている。FR-A-2,546,164は、皮膚におけるエラスチン繊維の劣化を防止するリポペプチド類のエラスターゼ阻害特性を開示しており、該特性によって、リポペプチド類をしわ防止活性剤とするものである。さらに、US-A-5,198,465は、アミノ酸類がコラーゲンの合成における欠乏を防止し、これによって、皮膚の老化を防止可能とすることを開示している。 【0014】 さらに、JP-A-05043448は、GABAのおよびジイソプロピルアミンの組み合わせが、皮膚再生を促進し、皮膚の老化を防止することを開示している。 本発明の組成物によれば、塩素チャンネルに係わるレセプターのアゴニストは、好ましくは組成物の全重量に対して0.00001重量%から20重量%の範囲の量で、特に組成物の全重量に対して0.01重量%から10重量%の範囲の量で、使用することが好ましい。 本発明による組成物は、局所投与または注入投与用の薬剤学的投与形態で提供可能である。 【0015】 本発明による組成物の種々の成分の量は、通常当分野で使用されている量であり、薬剤学的形態に応じて定められる。 局所投与用としては、本発明の組成物は、皮膚と適合可能な媒体を含有する。該組成物は、イオンおよび/または非イオン脂質を含有する小胞分散体の形態で、または、エアゾール、マイクロエマルション、ゲル、またはクリーム状の水中油形または油中水形エマルション、ゲル、水溶液、アルコール溶液、または水/アルコール溶液、またはゲルの形態で、提供可能である。該薬剤学的投与形態は、常法にしたがって調製される。 【0016】 局所投与用組成物は、特に、フェース、ネック、ハンド、ボディ用化粧品または皮膚の保護、処理、またはケア組成物(たとえば、デイクリーム、ナイトクリーム、サンクリーム、またはオイルまたはボディミルク)、メークアップ組成物(たとえばファンデーションクリーム)または人工日焼け組成物を形成するものであってもよい。 本発明の組成物がエマルションの場合には、脂肪物質の含有率は、組成物の全重量に対して5重量%から80重量%、好ましくは5重量%から50重量%の範囲で含有される。エマルション形態での組成物において使用される乳化剤および脂肪物質は、化粧品または皮膚用組成物の分野で通常使用されているものから選択される。 【0017】 本発明において使用可能な脂肪物質としては、鉱油類(パラフィン)、植物油類(カライトバター液状留分)およびその水素化誘導体、動物油類、合成油類(パーヒドロスクアレン)、シリコーン油類(ジメチルポリシロキサン)、およびフッ素化油類が挙げられる。他の脂肪物質としては、脂肪アルコール類(セチルアルコールまたはステアリルアルコール)、脂肪酸類(ステアリン酸)およびワックス類が挙げられる。 乳化剤は、組成物の全重量に対して0.3重量%から30重量%、好ましくは0.5重量%から30重量%の範囲の割合で組成物に含有されてもよい。 【0018】 常法にしたがって、本発明の化粧品または皮膚用組成物はまた、対応する分野において通常使用される添加剤も含有可能であり、たとえば、親水性または親油性ゲル化剤類、防腐剤類、酸化防止剤類、溶媒類、香料類、充填剤類、遮蔽剤類、および、着色剤類を含有可能である。さらに、該組成物は、親水性または親油性活性剤を含有してもよい。該種々の添加剤または活性剤の量は、化粧品または皮膚用組成物の分野で通常使用されている量であり、たとえば、組成物の全重量に対して0.01重量%から20重量%である。該添加剤または活性剤は、その特性に応じて、脂肪相、水相、および/または脂質小胞体に導入可能である。 【0019】 本発明の組成物に含有可能な活性剤としては、しわ処理に効果を有する活性剤、特に角質溶解剤類が挙げられる。角質溶解剤とは、上皮の剥離性、皮膚壊死性、または洗浄特性を有する活性剤、または、角膜層を柔軟にすることの可能な活性剤を意味する。 本発明の組成物に含有可能なしわ処理効果を有するこれらの活性剤としては、ヒドロキシ酸類およびレチノイド類が挙げられる。 【0020】 ヒドロキシ酸類としては、たとえば、直鎖、分岐、または環状で、飽和または不飽和であってもよい、α-ヒドロキシ酸類またはβ-ヒドロキシ酸類が挙げられる。炭素鎖の水素原子はさらに、ハロゲン類、または、2から18の炭素数を有する、ハロゲン化した、アルキル、アシル、アシルオキシ、アルコキシカルボニル、またはアルコキシ基により置換されてもよい。 使用可能なヒドロキシ酸類は、特に、グリコール酸、乳酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、2-ヒドロキシアルカノイン酸、マンデル酸、およびサリチル酸、および、そのアシル誘導体、たとえば5-n-オクタノイルサリチル酸、5-n-ドデカノイルサリチル酸、5-n-デカノイルサリチル酸、5-n-オクチルサリチル酸、5-または4-n-ヘプチルオキシサリチル酸、または2-ヒドロキシ-3-メチル安息香酸、またはそのアルコキシ誘導体、たとえば、2-ヒドロキシ-3-メトキシ安息香酸である。 【0021】 レチノイド類は特に、レチノイン酸(全てトランスまたは13-シス)およびその誘導体、レチノール(ビタミンA)およびそのエステル、たとえばレチノール=パルミタート、レチノール=アセタート、レチノール=プロピオナート、およびその塩類であってもよい。 該活性剤類は、組成物の全重量に対して0.0001重量%から5重量%の範囲の濃度で特に使用可能である。 【0022】 本発明の組成物が注入投与用である場合には、注入投与に通常使用される付形剤を含有した溶液形態、たとえば等張塩化ナトリウム溶液の形態で提供可能である。 本発明に対する理解をより深めるために、以下に実施例で例解する。記載された量は、重量%である。 【0023】 【実施例】 実施例1:フェース用ケアローション Z-グリシン・・・・・・8% 酸化防止剤・・・・・・0.05% 防腐剤・・・・・・0.3% エタノール(溶媒)・・・・・・・8% 水・・・・・・合計100% 得られたローションは、繰り返し使用する間に(1ヵ月間、1日2回使用)しわに対して効果を有する。 【0024】 実施例2:フェース用ケアゲル Z-グリシン・・・・・・5% ヒドロキシプロピルセルロース(ハーキュレス社から販売されている”KlucelH”)(ゲル化剤)・・・・・・1% 防腐剤・・・・・・0.3% エタノール(溶媒)・・・・・・・15% 酸化防止剤・・・・・・0.05% 水・・・・・・合計100% 得られたゲルは、しわに対して効果を有する。1ヵ月間、1日朝晩使用可能である。 【0025】 実施例3:フェース用ケアクリーム(水中油形エマルション) フルニトラゼパム・・・・・・0.1% グリセリル=ステアラート(乳化剤)・・・・・・2% ポリソルバート(Polysorbate)(ICI社から販売されている”Tween60”)(乳化剤)・・・・・・1% ステアリン酸・・・・・・1.4% トリエタノールアミン(中性化剤)・・・・・・0.7% カーボメール(Carbomer)(グッドリッチ社から販売されている”Carbopol940”)・・・・・・0.4% カライトバター液体留分・・・・・・12% パーヒドロスクアレン・・・・・・・12% 防腐剤・・・・・・0.3% 香料・・・・・・0.5% 酸化防止剤・・・・・・0.05% 水・・・・・・合計100% しわに効果を有し、毎日適用可能な白色油性クリームが得られる。 【0026】 実施例4:フェース用ケアクリーム(水中油形エマルション) フルニトラゼパム・・・・・・0.2% グリセリル=モノ-およびジステアラート・・・・・・2% セチルアルコール・・・・・・1.5% セチルステアリルアルコール/オキシエチレン化セチルステアリルアルコール33EO・・・・・・7% ジメチルポリシロキサン・・・・・・1.5% 流動パラフィン・・・・・・17.5% 防腐剤・・・・・・0.3% 香料・・・・・・0.5% グリセロール・・・・・・12.5% 水・・・・・・合計100% |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2003-08-27 |
出願番号 | 特願平7-251587 |
審決分類 |
P
1
651・
16-
YA
(A61K)
P 1 651・ 536- YA (A61K) P 1 651・ 113- YA (A61K) P 1 651・ 537- YA (A61K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 冨士 美香 |
特許庁審判長 |
眞壽田 順啓 |
特許庁審判官 |
森田 ひとみ 横尾 俊一 |
登録日 | 1998-01-09 |
登録番号 | 特許第2736316号(P2736316) |
権利者 | ロレアル |
発明の名称 | しわ処理における塩素チャンネルと係わるレセプターのアゴニスト物質の使用 |
代理人 | 成瀬 重雄 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 成瀬 重雄 |
代理人 | 志賀 正武 |