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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1087244
審判番号 不服2001-2630  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-05-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-02-22 
確定日 2003-11-13 
事件の表示 平成3年特許願第275753号「回転伝達装置」拒絶査定に対する審判事件[平成5年5月14日出願公開、特開平5-118359]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【一】本願発明
本願は、平成3年10月23日に出願されたものであって、その請求項1に係る発明は、平成12年9月1日付け、平成13年3月23日付け、平成15年8月1日付けの各手続補正によって補正された明細書、及び平成12年9月1日付け手続補正によって補正された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】 外輪とそれに嵌合する内方部材との間に、その外輪又は内方部材との相対回転によって係合子を外輪と内方部材の対向面間に係合させる保持器を組込み、その保持器と外輪又は内方部材とを回転方向すき間を介して共回り可能に連結し、上記保持器を所定の回転抵抗を発生させる差動手段を介して固定部材に連結し該保持器とそれが連結された外輪又は内方部材との間に回転差を生じさせ、上記外輪と内方部材との間に、その両者の結合と切り離しを行う結合手段を設け、この結合手段が、上記内方部材に係合された、外輪と内方部材に係合離脱する結合部材と、その結合部材を係合する方向に移動させる駆動部材と、上記結合部材を離脱する方向に付勢する弾性部材と、上記結合部材と上記駆動部材との間に設けられた滑り材とから成り、この滑り材を介して上記駆動部材と上記結合部材を結合する回転伝達装置。」

【二】引用例に記載された事項
これに対して、当審において平成15年5月30日付けで通知した拒絶の理由に引用した、本件出願前に頒布された刊行物である「実願平1-61618号(実開平3-334号)のマイクロフィルム」(以下、「刊行物1」という。)、「特開昭60-241532号公報」(以下、「刊行物2」という。)、「実願昭60-119761号(実開昭62-27829号)のマイクロフィルム」(以下、「刊行物3」という。)、「特開昭56-71629号公報」(以下、「刊行物4」という。)には、それぞれ以下の事項が記載されているものと認める。

(1)刊行物1
「クラッチ」に関して、
(ア)「外輪1の内径面は円筒面2とされ、その円筒面2の両端部に取付けた一対の軸受3によって第1軸4の両端部が回転自在に支持されている。第1軸4の外径面には、前記円筒面2とで楔形空間を形成するカム面5が形成されている。また、第1軸4の軸芯上には軸挿入孔6が設けられ、その軸挿入孔6内に第2軸7が挿入されて回転自在に支持されている。第2軸7には、軸挿入孔6内に位置する端部に半径方向に延びるピン8が設けられている。このピン8の両端部は軸挿入孔6の周壁に形成されたピン挿入孔9に遊嵌されて外輪1と第1軸4間に位置し、その両端部が保持器10に連結されている。」(明細書4頁19行〜5頁13行参照)
(イ)「保持器10には、上記カム面5と対向する位置にポケット11が設けられ、そのポケット11内にローラから成る係合子12が組込まれている。」(明細書5頁14〜16行参照)
(ウ)「前記第2軸7の先端面には、第1図および第2図に示すように、角軸18が形成され、一方第1軸4における軸挿入孔6の閉塞端には上記角軸18が遊嵌する角孔19が設けられ、その角孔19と角軸18との間に回転方向すきまAが形成されている。」(明細書6頁10〜15行参照)
(エ)「第1軸4および第2軸7の端部はハウジング21に取付けた軸受22で回転自在に支持されている。また、第2軸7には円板23が固定され、その円板23がスラスト軸受24によって回転自在に支持されていると共に、円板23と第1軸4の先端面間に組込んだ皿ばね25によって第2軸7に回転抵抗が付与されている。」(明細書7頁1〜7行参照)
(オ)「入力ギヤ26に回転トルクを伝達して第1軸4を回転すると、第2軸7にはスラスト軸受24の抵抗が付与されているため、その第2軸7にピン8で連結された保持器10が第1軸4に対して相対回転する。このため、弾性リング20が変形すると共に、係合子12が円筒面2およびカム面5に係合し、クラッチが成立する。このため、第1軸4の回転は、係合子12を介して外輪1に伝達され、外輪1が第1軸4と同方向に回転する。外輪1の回転が増し、その回転数が第1軸4の回転数より高くなると、係合子12は外輪1の円筒面2との接触より周方向に押されるため、係合子12が周方向に移動してクラッチが切れ、外輪1は第1軸4と遮断された状態で回転する。また、第1軸4の逆方向の回転についても上記と同様である。このため、この考案に係るクラッチは、単なる一方向のワンウェイクラッチと異なり、トランスミッション等の中にユニットして使用することができる。」(明細書7頁10行〜8頁9行参照)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、
“外輪1とそれに嵌合する第1軸4との間に、その第1軸4との相対回転によって係合子12を外輪1と第1軸4の対向面間に係合させる保持器10を組込み、その保持器10と第1軸4とを回転方向すきまAを介して共回り可能に連結し、上記保持器10を所定の回転抵抗を発生させるスラスト軸受24を介してハウジング21に連結し該保持器10とそれが連結された第1軸4との間に回転差を生じさせたクラッチ。”
が記載されているものと認める。

(2)刊行物2
「動力伝達装置」に関して、
(カ)「回転入力を受ける入力部材としてのケース1は車体側のハウジング3に軸受5を介して回転自在に設けられている。」(2頁右上欄12〜15行参照)
(キ)「前記ケース1の回転中心位置には、ケース1に対して回転自在に支持された第1、第2出力部材7,9が設けられている。左右の後輪軸は第1、第2出力部材7,9と一体的に構成されている。この第1、第2出力部材7,9と前記ケース1との間には、第1、第2遊動空隙部15,17が形成されている。……各第1遊動空隙部15にはローラ状の第1連結体23が遊嵌され、同様に各第2遊動空隙部17には第2連結体25が遊嵌されている。……第1、第2連結体23,25にはリング30が嵌合され、このリング30には、腕棒30aが突設されている。この腕棒30aの先端部は第1図、第4図に示すように、ケース1の側壁1aに設けた円弧状の長孔31を貫通して左右外方に突出されている。」(2頁右上欄19行〜右下欄5行参照)
(ク)「ケース1の両端部外周面にはブレーキ保持枠33が該ケース1と相対回転自在に嵌合されている。このブレーキ保持枠33の段部外周係合面33aには第5図に示すように、第1、第2抵抗手段としてのブレーキシュ35が該係合面33aに対し摺動自在に嵌め込まれている。……このブレーキシュ35の内面には係止凹部39が周方向に複数設けられており、この係止凹部39内には前記腕棒30aの先端部が嵌合係止されている。……ブレーキ保持枠33はハウジング3に回転不能に保持されている。」(2頁右下欄7行〜3頁左上欄6行参照)
(ケ)「リングギヤ(図示せず)を介してケース1が回転入力を受ける。そして、このケース1の回転に対して、第1、第2連結体23,25は腕棒30aに連係されたブレーキシュ35がブレーキ保持枠33の係合面33aから摩擦抵抗を受けて腕棒30aが第4図鎖線図示の位置から相対的に実線図示の位置となるように、ケース1と第1、第2連結体23,25とが相対回転する。従って、第1、第2連結体23,25は第1、第2遊動空隙部15,17を回転方向前後へ移動することにより第3図のようにケース1と第1、第2出力部材7,9との間に噛込まれて両者を連結する(第1図左半分、及び第3図の状態)。従って、ケース1への回転入力が、第1、第2連結体23,25、第1、第2出力部材7,9を介して図示しない左右車軸へ伝達される。」(3頁左上欄9行〜右上欄5行参照)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、
“ケース1とそれに嵌合する第1、第2出力部材7,9との間に、そのケース1との相対回転によって第1、第2連結体23,25をケース1と第1、第2出力部材7,9の対向面間に係合させるリング30を組込み、そのリング30とケース1とを回転方向すき間を介して共回り可能に連結し、上記リング30を所定の回転抵抗を発生させるブレーキシュ35、ブレーキ保持枠33からなるブレーキ手段を介してハウジング3に連結し該リング30とそれが連結されたケース1との間に回転差を生じさせた動力伝達装置。”
が記載されているものと認められる。

(3)刊行物3
「4輪駆動車」に関して、
(コ)「本考案は、前後輪の駆動系の途中に前進用と後進用の2種類のワンウエイクラッチを設けた旋回可能な4輪駆動車に関し、詳しくは、ワンウエイ4WDの前進および後進と、直結4WDの各走行レンジを得るものに関する。」(明細書1頁13〜17行参照)
(サ)「ワンウエイクラッチ装置30は、フロントドライブ軸14にスプラグ型の前進用と後進用のワンウエイクラッチ31,32が並んで設置され、これらのワンウエイクラッチ31,32のアウタレース側と中間軸24に一体的なハブ33との間に、自動切換装置34のスリーブ35が選択的に噛合うように設けられる。ここで前進用ワンウエイクラッチ31は、中間軸24の方が一方に速く回転する場合にフロントドライブ軸14と直結すべく係合し、このときフロントドライブ軸14が同方向に速く回転すると、係合を解いてそれを許容する。また後進用ワンウエイクラッチ32は、中間軸24の逆回転の場合に全く同様に作用する。」(明細書6頁11行〜7頁3行参照)
(シ)「直結装置40は、噛合いクラッチ41とその手動切換装置45から成り、噛合いクラッチ41は、フロントドライブ軸14に一体的なハブ42と、ドリブンギヤ25bに一体的なスプライン43をスリーブ44で噛合い係合するように構成される。手動切換装置45は、スリーブ44がロッド46dを介して負圧式アクチュエータ46のダイヤフラム46aに連結し、アクチュエータ46のスプリング46bを有する負圧室46cが、負圧通路38によりソレノイド弁47に連通する。ソレノイド弁47は、上記ソレノイド弁39と同様に動作するものであり、直結4WD切換スイッチ48が接続している。」(明細書7頁14行〜8頁5行参照)
(ス)「ここで、直結装置40を作用した直結4WDのレンジでは、前後輪を同一回転させる必要上、前後輪の終減速比を等しく設定してある。一方、ワンウエイ4WDでは、前輪側終減速比を上記直結4WDの場合に比べて僅か(例えば約1%)に大きく設定してあり、乾燥舗装路走行等ではワンウエイクラッチ31をフリーにするようになっている。」(明細書8頁6〜12行参照)
(セ)「旋回時に前輪の方が速く回転する場合は、ワンウエイクラッチ31が自動的にフリーになってブレーキング現象を回避する。」(明細書9頁14〜16行参照)
(ソ)「一方、上記ワンウエイ4WDの前進または後進時において、切換スイッチ48をオンすると、アクチュエータ46に負圧が導入されてロッド46dを前進することで、噛合いクラッチ41のスリーブ44はスプライン43に噛合って係合する。そこで前後輪は、噛合いクラッチ41により機械的に直結して直結4WDのレンジになり、雪道等で過大なスリップが生じにくくなり、4輪にエンジンブレーキが効くようになる。」(明細書10頁8〜16行参照)
等の記載があり、併せて図面を参照すると、
“フロントドライブ軸に前進用と後進用の2種類のワンウエイクラッチを設けた4輪駆動車において、旋回時に前輪の方が速く回転する場合には、ワンウエイクラッチ31が自動的にフリーになるようにしてブレーキング現象を回避すると共に、噛合いクラッチ41を設け、アクチュエータ46の負圧室46cに負圧を導入して前記噛合いクラッチ41のスリーブ44が前後輪の駆動系を機械的に直結するようにし、また、前記負圧室46cに負圧が導入されないとき前記アクチュエータ46のスプリング46bにより前記スリーブ44が前後輪の駆動系を切り離すように構成することによって、直結4WDのレンジとした場合には、雪道等で過大なスリップを生じにくくし、また、4輪にエンジンブレーキが効くようにした4輪駆動車。”
が記載されているものと認められる。

(4)刊行物4
「4輪駆動車用副変速機」に関し、
(タ)「(16)はワンウエイ・クラッチであり、後輪出力軸(2)の一端にスプライン嵌合されたアウターレース(17)と、前輪出力軸(4)の一端より突出したインナーレース(18)と、を有する。アウターレース(17)とインナーレース(18)の間にスプラグ(19)が介挿されている。これら、アウターレース(17)、インナーレース(18)、スプラグ(19)によりワンウエイ・クラッチ(16)が構成されている。(20)は直結手段であり、アウターレース(17)の外側に設けられたクラッチギヤ(21)と、前輪出力軸(4)のフランジ(22)にスプライン嵌合されてバネ(23)に附勢されるボール(24)により保持されているスリーブ(25)と、を有する。(26)はシフトロッド(14)の軸上摺動可能に配された円筒状のフォークであり、フォーク部(27)がスリーブ(25)の凹部(28)に挿入されている。」(2頁右上欄2〜16行参照)
(チ)「後輪出力軸(2)の回転はワンウエイ・クラッチ(16)のアウターレース(17)に伝達される。スリーブ(25)はクラッチギヤ(21)と嵌合していないので、アウターレース(17)の回転は、スプラグ(19)により、インナーレース(18)の回転がアウターレース(17)の回転よりも遅くなった時にのみインナーレース(18)に伝達される。したがって、高速変速時は、図外の前輪には前輪出力軸(2)((2)は(4)の誤記と思われる。)の回転が後輪出力軸(3)((3)は(2)の誤記と思われる。)の回転よりも遅くなった場合のみ駆動力が伝達されて4輪駆動となるが、それ以外の場合には駆動力は伝達されず、後輪のみの2輪駆動となる。低速変速の場合は……低速ギヤ(7)の回転は後輪出力軸(2)に伝達され図外の後輪を駆動し、また、ワンウエイ・クラッチ(16)のアウターレース(17)に伝達されて回転する。フォーク(26)は、……スリーブ(25)をクラッチギヤ(21)に嵌合し、爪部(31)とカラー(30)とが係合する位置に係止する。この結果、アウターレース(17)がスリーブ(25)を介してフランジ(22)に接続し、後輪出力軸(2)と前輪出力軸(4)が連結し、図外の前輪に駆動力が伝達される。したがって、低速変速時は、図外の前、後輪に駆動力が常時分配される4輪駆動となる。」(2頁左下欄17行〜3頁左上欄5行参照)等の記載があり、併せて図面を参照すると、
“途中にワンウエイ・クラッチ(16)を設けた前輪駆動系において、前記ワンウエイ・クラッチ(16)に直結手段(20)を有し、この直結手段(20)が、前記ワンウエイ・クラッチ(16)のインナーレース(18)と一体構成のフランジ(22)にスプライン嵌合され、アウターレース(17)の外側に設けられたクラッチギヤ(21)と係合又は離脱して、アウターレース(17)とインナーレース(18)との結合と切り離しを行うスリーブ(25)を設けたものであり、該スリーブ(25)が、その外周面に形成された凹部(28)に挿入されているフォーク部(27)によって駆動される構成”
が記載されているものと認められる。

【三】対比・判断
(1)本件出願の請求項1に係る発明は、「結合部材」を「上記内方部材に係合された、外輪と内方部材に係合離脱する結合部材」としているものであるが、これは、「結合部材」について、「内方部材に係合された」としたうえで、「外輪と内方部材に係合離脱する」としており、内方部材と「離脱する」こともあるとしている点で、不明瞭とも認められるが、そこで、明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すると、段落【0026】には、「上記結合リング28と外輪1の端面には、図4及び図6に示すように、両者の接近によって互いに噛み合う多数の係合歯31、32が形成されており、この係合歯31、32の噛み合いと、結合リング28に対するスプライン歯27の係合とによって、外輪1と内方部材2を一体に結合するようになっている。」との記載があり、結合リング28即ち結合部材が内方部材2のスプライン歯27に係合された状態で、結合部材の係合歯31と外輪1の係合歯32とが両者の接近によって互いに噛み合うこと、そのことによって、外輪1と内方部材2とを一体に結合することが記載されているから、請求項1に係る発明の「上記内方部材に係合された、外輪と内方部材に係合離脱する結合部材」との事項は、「上記内方部材に係合された、外輪と内方部材とを係合離脱する結合部材」の意味と解すべきものと認められる。そして、発明の詳細な説明及び図面を精査しても、内方部材と離脱する「結合部材」の記載は認められない。

(2)次に、本件出願の請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、上記刊行物1に記載された発明のクラッチも「回転伝達装置」であり、上記刊行物1に記載された発明の「外輪1」、「第1軸4」、「係合子12」、「保持器10」、「回転方向すきまA」、「スラスト軸受24」、「ハウジング21」が、それぞれ本件出願の請求項1に係る発明の「外輪」、「内方部材」、「係合子」、「保持器」、「回転方向すき間」、「差動手段」、「固定部材」に相当し、両者は、
「外輪とそれに嵌合する内方部材との間に、その内方部材との相対回転によって係合子を外輪と内方部材の対向面間に係合させる保持器を組込み、その保持器と内方部材とを回転方向すき間を介して共回り可能に連結し、上記保持器を所定の回転抵抗を発生させる差動手段を介して固定部材に連結し該保持器とそれが連結された内方部材との間に回転差を生じさせた回転伝達装置。」
である点で一致し、次の相違点A,Bで相違する。
[相違点A]
本件出願の請求項1に係る発明では、保持器は、「外輪又は内方部材」との相対回転によって係合子を外輪と内方部材の対向面間に係合させるものであって、「外輪又は内方部材」と回転方向すき間を介して共回り可能に連結され、「外輪又は内方部材」との間に回転差を生じるものであるのに対して、上記刊行物1に記載された発明では、保持器は、「内方部材」との相対回転によって係合子を外輪と内方部材の対向面間に係合させるものであって、「内方部材」と回転方向すき間を介して共回り可能に連結され、「内方部材」との間に回転差を生じるものである点
[相違点B]
本件出願の請求項1に係る発明は、「上記外輪と内方部材との間に、その両者の結合と切り離しを行う結合手段を設け、この結合手段が、上記内方部材に係合された、外輪と内方部材に係合離脱する結合部材と、その結合部材を係合する方向に移動させる駆動部材と、上記結合部材を離脱する方向に付勢する弾性部材と、上記結合部材と上記駆動部材との間に設けられた滑り材とから成り、この滑り材を介して上記駆動部材と上記結合部材を結合する」ものであるのに対して、上記刊行物1に記載された発明は、このような結合手段を設けたものでない点

(3)上記各相違点について検討する。
(3-1)相違点Aについて
本件出願の請求項1に係る発明と上記刊行物2に記載された発明とを対比すると、上記刊行物2に記載された発明の「動力伝達装置」も「回転伝達装置」であり、上記刊行物2に記載された発明の「ケース1」、「第1、第2出力部材7,9」、「第1、第2連結体23,25」、「リング30」、「ブレーキシュ35、ブレーキ保持枠33からなるブレーキ手段」、「ハウジング3」が、それぞれ本件出願の請求項1に係る発明の「外輪」、「内方部材」、「係合子」、「保持器」、「差動手段」、「固定部材」に相当し、両者は、
「外輪とそれに嵌合する内方部材との間に、その外輪との相対回転によって係合子を外輪と内方部材の対向面間に係合させる保持器を組込み、その保持器と外輪とを回転方向すき間を介して共回り可能に連結し、上記保持器を所定の回転抵抗を発生させる差動手段を介して固定部材に連結し該保持器とそれが連結された外輪との間に回転差を生じさせた回転伝達装置。」
である点で一致する。
すなわち、上記刊行物2には、回転伝達装置において、「保持器が、『外輪』との相対回転によって係合子を外輪と内方部材の対向面間に係合させるものであって、『外輪』と回転方向すき間を介して共回り可能に連結され、『外輪』との間に回転差を生じる」構成を採用することが記載されている。
したがって、相違点Aにおける本件出願の請求項1に係る発明の構成は、上記刊行物2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

(3-2)相違点Bについて
前説示のとおり、上記刊行物4に、インナーレース(18)と一体構成のフランジ(22)にスプライン嵌合され、アウターレース(17)の外側に設けられたクラッチギヤ(21)と係合又は離脱して、アウターレース(17)とインナーレース(18)との結合と切り離しを行うスリーブ(25)を設けた直結手段(20)を有するワンウエイ・クラッチ(16)が記載され、併せて、前記スリーブ(25)が、その外周面に形成された凹部(28)に挿入されているフォーク部(27)によって駆動されることも記載されており、この刊行物4に記載されたワンウエイ・クラッチも刊行物1に記載された発明と同じく回転伝達装置に係るものであるから、刊行物1に記載された発明に刊行物4に記載された直結手段(20)を設けることは当業者が容易に想到し得ることである。
そして、刊行物4に記載されたものにおける「直結手段(20)」、「スリーブ(25)」、「フォーク部(27)」はそれぞれ「結合手段」、「結合部材、「駆動部材」ということができるから、刊行物4に記載されたものにおける「インナーレース(18)」、「アウターレース(17)」と刊行物1に記載された発明の「内方部材」(「第1軸4」)、「外輪」(「外輪1」)をそれぞれ対応させ、「上記外輪と内方部材との間に、その両者の結合と切り離しを行う結合手段を設け、この結合手段が、上記内方部材に係合された、外輪と内方部材に係合離脱する結合部材と、その結合部材を係合する方向に移動させる駆動部材とから成り、上記駆動部材と上記結合部材を結合する」ことは、上記刊行物4に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。
上記駆動部材と上記結合部材との結合構造に関連して、上記刊行物4には、スリーブ(25)とその外周面の凹部(28)に挿入されたフォーク部(27)との間に滑り材を介在させることは記載されていないものの、前記スリーブ(25)とフォーク部(27)とは、スリーブ(25)の回転が停止しているときを除いて、相互に滑る状態で結合されているものであり、相互に滑る状態で結合される部分を滑り易く構成することは当業者の技術常識であるから、上記結合部材と上記駆動部材との間に滑り材を設け、この滑り材を介して上記駆動部材と上記結合部材を結合したことは、当業者の適宜採用し得る設計事項というべきものである。
また、上記刊行物3に、フロントドライブ軸にワンウエイクラッチを設けた4輪駆動車において、前記ワンウエイクラッチの前後間を機械的に結合し又は切り離す「噛合いクラッチ41」を設けた構成が記載されており、この記載と共に、前記「噛合いクラッチ41」の結合部材としての「スリーブ44」を離脱する方向に付勢する弾性部材として、結合する方向に移動させる駆動部材としての「負圧式アクチュエータ46のダイヤフラム46a」に対して「スプリング46b」を作用させた構成が記載されているものと認められるから、回転伝達装置の「結合手段」に「結合部材を離脱する方向に付勢する弾性部材」を備えることは、上記刊行物3に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

(4)このように、本件出願の請求項1に係る発明は、上記刊行物1〜4に記載された事項に基づいて当業者が容易にその構成を想到し得るものであり、その作用効果も、上記刊行物に記載された事項から予測し得る程度のものであって格別のものとはいえない。

【四】むすび
以上のとおりであるから、本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-09-12 
結審通知日 2003-09-16 
審決日 2003-09-29 
出願番号 特願平3-275753
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁木 浩長屋 陽二郎田々井 正吾川口 真一  
特許庁審判長 船越 巧子
特許庁審判官 常盤 務
前田 幸雄
発明の名称 回転伝達装置  
代理人 東尾 正博  
代理人 鎌田 文二  
代理人 鳥居 和久  

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