• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K
管理番号 1087592
審判番号 不服2000-14215  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-10-01 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-09-07 
確定日 2003-11-25 
事件の表示 平成 7年特許願第 84962号「移動農機の走行変速レバーの規制装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年10月 1日出願公開、特開平 8-253045]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要・本願発明1
本願は、平成7年3月15日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明は、平成12年6月12日(受付日)付け、平成12年10月10日(受付日)付け、平成13年4月9日(受付日)付け、平成13年7月26日(受付日)付け及び平成15年8月22日(受付日)付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
A.前進変速部(17a)が直線状に構成された主変速レバーガイド(17)に沿って揺動操作することにより走行速度変速用のHSTを低速域から高速域に無段階に変速する主変速レバー(19)と、
B.副変速レバーガイド(16)に沿って揺動操作することにより副変速ギヤを選択切り換えする副変速レバー(18)を夫々独立して設けた移動農機において、
C.上記主変速レバー(19)の揺動又は回動軌跡内に、主変速レバー(19)により移動農機の標準作業速度変速域の上限位置より高速側に変速操作を行う際に、機体(3)の走行速度が標準作業速度の上限速度であることをオペレータに認識せしめるように、直線状に構成された前進変速部(17a)の中途部位に主変速レバー(19)に対し押接して操作抵抗を付与する規制具(30)を設け、
D.主変速レバー(19)を標準作業速度変速域の上限位置より高速側へ揺動する時に必要な操作力に比較して、高速側から標準作業速度変速域の上限位置へ揺動する時に必要な操作力が小さくなるように主変速レバー(19)に付与する規制具(30)の操作抵抗を設定した移動農機の変速レバー規制装置。」

なお、符号A.〜D.は、請求人が提出した平成15年8月22日(受付日)付け意見書中で特許請求の範囲の請求項1を分説するために付与した符号に倣って付与した。

2.引用刊行物の記載事項
平成15年6月16日付けで当審が通知した拒絶理由通知書中で引用した、本願出願前に頒布された刊行物である刊行物1(特開平4-25666号公報)には、HST(液圧式無段変速装置)のように速度が連続的に変化する無段変速装置の操作部に関して、下記の事項ア〜ウが図面とともに記載されている。
ア;「[課題を解決するための手段]
そこで、上記課題を解決するために、本発明は次のような構成とした。
すなわち、本発明にかかる無段変速装置の操作部の構造は、レバー操作によって前進から後進へ連続的に速度変化させることのできる無段変速装置において、その速度調節範囲内に所定の境界速度を設定し、当該境界速度に対し低速側と高速側の区別を速度調節用レバーを操作する手の感覚で知覚させる境界速度知覚手段を設けたことを特徴としている。
[作用]
速度調節用レバーを操作する際に手の感覚で所定の境界速度より低速側であるか高速側であるかを知覚させる境界速度知覚手段が設けられているので、速度調節用レバーの位置を手で知覚することができ、速度調節に際し適確で迅速な対応を行なうことができる。例えば、境界速度より低速側を植付け等の作業に適した作業速、高速側を路上走行に適した路上走行速になるよう境界速度を設定しておけば、常にその場の状況に適した走行速度を容易に選択し維持できる。」(第1頁右下欄11行〜第2頁左上欄12行)

イ;「さらに、第4図および第5図はともに異なる例をあらわし、これら操作部28(D,E)は、境界速度の知覚手段として前述の抵抗部材(板ばね)を用いる方法とシフトラインを変更する方法が併用されている。すなわち、操作部28(D)は、中立Nの位置でシフトラインが変更されているとともに、前進Fの高速域と後進Bの全域にそれぞれ板ばね33,34が設けられている。したがって、速度調節レバー27の移動抵抗は植付速のとき小さく、路上走行速と後進のとき大きい。」(第3頁左上欄3行〜12行)

ウ;「[発明の効果]
以上に説明したように、本発明にかかる無段変速装置の操作部の構造は、任意に設定した境界速度を速度調節レバーを操作する手の感覚で知覚することができるので、速度調節に際し正確で迅速な対応を行なうことができるようになった。例えば、農作業用の走行車体に設けられている無段変速装置の操作部に本発明を採用すれば、境界速度を適当に設定しておくことにより、作業時には作業に適した作業速の範囲内で、路上走行時にはそれに適した路上走行速の範囲内で確実に走行することができる。」(第3頁右上欄4行〜15行)

同じく引用した、本願出願前に頒布された刊行物である刊行物2(特開平5-336813号公報)及び刊行物3(特開平6-2766号公報)には、主変速装置と独立して副変速装置を設けた移動農機が記載されている。

3.本願発明1についての対比・判断
刊行物1に記載された上記記載事項ア〜ウからみて、刊行物1に記載された発明の無段変速装置の操作部も無段変速装置にHSTを採用した農作業機(移動農機)に採用されるものであって、刊行物1に記載された発明の「操作部28(D)の前進F部分」、「操作部28(D)の直線状のガイド溝(第4図参照)」、「速度調節レバー27」、「前進Fの高速域に設けた板ばね33」、「作業速」及び「路上走行速」は、夫々、本願発明1の「前進変速部(17a)」、「(主)変速レバーガイド(17)」、「(主)変速レバー」、「規制具(30)」、「標準作業速度変速域(低速域)」及び「高速域」に機能的に相当するものであるから、本願発明1の用語を使用して本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「前進変速部が直線状に構成された(主)変速レバーガイドに沿って揺動操作することにより走行速度変速用のHSTを低速域から高速域に無段階に変速する(主)変速レバーを設けた移動農機において、上記(主)変速レバーの揺動又は回動軌跡内に、(主)変速レバーにより移動農機の標準作業速度変速域の上限位置より高速側に変速操作を行う際に、機体の走行速度が標準作業速度の上限速度であることをオペレータに認識せしめるように、直線状に構成された前進変速部の中途部位に(主)変速レバーに対し押接して操作抵抗を付与する規制具を設けた移動農機の変速レバー規制装置。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点1;本願発明1では、主変速レバーに加えて、副変速レバーガイドに沿って揺動操作することにより副変速ギヤを選択切り換えする副変速レバーを独立して設けたもの(分説した構成要件B.)であるのに対して、刊行物1に記載された発明では、本願発明1のように副変速レバーを設けることについては、不明である点。

相違点2;本願発明1では、前進変速部の中途部(標準作業速度変速域の上流側と引き続く高速域の部分)に規制具を設け、主変速レバーに付与する規制具の操作抵抗を主変速レバーを標準作業速度変速域の上限位置より高速側へ揺動する時に必要な操作力に比較して、高速側から標準作業速度変速域の上限位置へ揺動する時に必要な操作力が小さくなるように設定しているもの(分説した構成要件D.)であるのに対して、刊行物1に記載された発明では、板ばね33は、境界速度の知覚手段として低速側の上限位置より高速域全域に亘って設けられているものであって、本願発明1の上記構成要件D.のように速度調節レバーに操作抵抗を付与するようには構成されていない点。

上記相違点1,2について検討した結果は以下のとおりである。
【相違点1について】
上記刊行物2及び3にも記載されているように、移動農機において、主変速レバーと副変速レバーを夫々独立して設けることは、本願出願前当業者には知られた事項にすぎないものであるから、本願発明1のように副変速レバーを主変速レバーとは独立して設けることは、当業者が必要に応じて容易に想到することができる程度のものと認める。

【相違点2について】
刊行物1に記載された発明では、板ばね33は、前進Fの低速域の上限位置(高速域の開始位置)より高速域の全域(第4図のF4からF6部分)に亘って設けられるものであるが、板ばね33を設けることの技術的意義からみて、速度調節レバー27(主変速レバー)が前進Fの低速域から高速域にシフトされること(標準作業速度変速域の上限位置より高速側へ揺動する時)を操作者が手で知覚することができるように板ばね33はガイド溝内に突出するように設けられるものであって、刊行物1には板ばね33の具体的な形状については記載されていないものであるが、第4図の板ばね33の構造からもみてとれるように、枢支部(第3図の破線二重丸部分)から緩やかにガイド溝内に突出し、前進Fの低速域の上限位置(高速域の開始位置であるF4位置)で最大量突出し、引き続く低速側ではより傾斜を大きくすることによって速度調節レバー27が前進Fの低速域から高速域にシフトされる際に操作者が確実に高速域にシフトされたことを手で知覚できるように構成されているものである。
そうすると、刊行物1に記載された発明も、実質的に本願発明と同様に「主変速レバー(速度調節レバー27)に付与する規制具(板ばね33)の操作抵抗を主変速レバーを標準作業速度変速域の上限位置(高速域の開始位置)より高速側へ揺動する時に必要な操作力に比較して、高速側から標準作業速度変速域の上限位置へ揺動する時に必要な操作力が小さくなるように設定している」といえるものであり、例え、刊行物1に記載された発明の板ばね33が、同じ操作力となるように設定されるものであるとしても、板ばね33は第4図のF4位置(最大突出位置)よりも低速側の部分で速度調節レバー27に操作抵抗を付与することによって、速度調節レバー27がF4位置から高速側に操作される際に確実に操作者が手で知覚できるように構成されているものであって、板ばね33の枢支部からF4位置(最大突出位置)までは適宜な形状で連続するように形成されていれば十分なものであるから、本願発明1のように規制具の操作抵抗を標準作業速度変速域の上限位置(高速域の開始位置)より高速側へ揺動する時よりも高速側から標準作業速度変速域の上限位置へ揺動する時に必要な操作力が小さくなるように設定すること(板ばね33の傾斜を緩くすること)は、当業者であれば適宜採用することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。
また、規制具を設ける部位を本願発明1のように中途部(標準作業速度変速域の上流側と引き続く高速域の部分)とすることは、当業者であれば適宜採用することができる程度の設計的事項にすぎないものである。

さらに、本願発明1の効果について検討しても、刊行物1〜3に記載された事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

ところで、請求人は、上記平成15年8月22日(受付日)付け意見書中で概略、「本願発明1の構成要件D.については、刊行物1に記載された発明は備えていない。」旨主張している。
しかしながら、刊行物1に記載された発明の板ばね33は、本願発明1の規制具と同様に速度調節レバー27が前進Fの低速域の上限位置から高速域にシフトされる際に操作者が確実に高速域にシフトされたことを手で知覚できるように構成されているものであって、第4図からもみてとれるように低速域の上限位置(高速域の開始位置;F4位置)でガイド溝内に最も大きく突出するように構成されるものである。
そして、板ばね33は、速度調節レバー27が低速域の上端側から高速域にシフトされる際に操作者が確実に手で知覚できるように構成(第4図参照)されていれば、板ばね33の枢支点から低速域の上限位置(F4位置)までの部分は適宜な突出量で連続的に形成されていれば十分なものであるから、本願発明1のように高速側から標準作業速度変速域(低速域)の上限位置へ揺動する時に必要な操作力が小さくなるように規制具の操作抵抗を設定する(板ばね33の枢支点から最大突出部へ至るまでの傾斜を緩やかにする)程度のことは、当業者であれば適宜採用することができる程度のものであって、格別創意を要することでないことは、上記したとおりである。
また、本願発明1のように規制具の操作抵抗を設定したことによる作用効果も、変速レバーを操作したときの操作抵抗が同じの場合と比較して多少小さくなるだけのものであって格別のものではない。
したがって、請求人の上記意見書での主張は採用することはできない。

4.むすび
上記のとおり、請求項1に係る発明(本願発明1)は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-09-08 
結審通知日 2003-09-16 
審決日 2003-09-29 
出願番号 特願平7-84962
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁木 浩田々井 正吾川口 真一  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 常盤 務
前田 幸雄
発明の名称 移動農機の走行変速レバーの規制装置  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ