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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B43K
管理番号 1088171
異議申立番号 異議1999-72613  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-07-09 
確定日 2003-11-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第2854084号「筆記具被覆体」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2854084号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第2854084号の請求項1に係る発明は、平成2年4月10日に特許出願された特願平2-93079号に係る発明であり、平成10年11月20日にその特許権の設定登録がなされ、その後、平成11年7月9日に橋本修平より、平成11年8月2日にオート株式会社、ゼブラ株式会社、三菱鉛筆株式会社、株式会社トンボ鉛筆、ぺんてる株式会社、株式会社壽より、特許異議の申立てがなされた。その後、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成12年4月28日に訂正請求書(後日取下げ)及び意見書が提出され、訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成12年11月7日に手続補正書(訂正請求書)及び意見書が提出され、平成15年1月28日付けで訂正拒絶理由通知を兼用した再度の取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年4月8日に訂正請求書及び意見書が提出され、平成15年5月19日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成15年7月29日に意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否の判断
(独立特許要件の判断)
2-1.訂正明細書の請求項1に係る発明
平成15年4月8日付け訂正請求書に添付した訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「材質が10度以上で40度未満のショアーA硬度をもつ軟質弾性物質で、肉厚1〜4mmで内面が円筒形の筒形状をもち、筆記具に装着された状態で少なくとも把持部の外径が7〜15mmである筆記具用被覆体。」

2-2.引用刊行物記載の事項
訂正発明に対し、当審が平成15年5月19日付けで通知した訂正拒絶理由において引用した刊行物1(「勞働科學」,財団法人労働科学研究所,1990年1月10日,66巻,第1号,p.24-34(申立人オート株式会社外5名が平成12年6月2日に提出した上申書に添付した参考資料A))、刊行物2(実願昭53-24329号(実開昭54-128539号)のマイクロフィルム)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

i.刊行物1(「勞働科學」,財団法人労働科学研究所,1990年1月10日,66巻,第1号,p.24-34)
(1-a) 「ボールペン書字作業の負担の軽減を図るため,・・・負担の軽減効果について検討したので結果を報告する。
負担の軽減の方策としては,次のような仮説を考えて行った。ボールペン筆記作業での手指の力は,母指,人差指,中指でボールペンを滑らないように固定する力(以下,重田に従って握圧と言う)とペンの先端に加わる力(以下,筆圧と言う)により構成される。筆記用具で強い筆圧を発揮するためには,強い握圧を必要とする。この握圧を発揮するために,ペンを強く把持することが手指の負担の大きな要因であると考え,握圧を軽減する方策を考えた。筆圧に必要な握圧は,手指とボールペンの接触面積とボールペン把持部の摩擦係数によって決定されると考えられる。そのため,握り部分の接触面積を広く,摩擦係数の高いものに改良すれば握圧の低減に有効であろう。今回の研究では,接触面積を大きくするため把持部の径に着目して径と握圧の関連を検討した。」(25頁左欄15〜34行)
(1-b) 「そこで,市販の事務用,細字用のボールペンで把持部が円柱型のもの(以下,標準型と言う)と,これを硬質ゴムで被覆し握り部の径を太くした3種類の改良型ボールペンとの間で,書字作業時の筋電図による握圧の比較を行った。
II.調査対象および方法
A.調査対象および実験用ボールペン
-略-
硬質ゴム性で握り径を,14.3mm,13.8mm,10.5mmとした改良ボールペンとプラスチック性の握り径8.2mmの標準型ボールペンの4種類について実験した。握り径については,指標となるものが無いため,市販の筆記用具の径を測定し,幾つかの試作品を作成し,作業者が比較的書き易いとしたものから選択した。」(25頁左欄35行〜右欄9行)
(1-c) 「ボールペン書字作業時の握圧の低減対策を検討する場合,書字作業時の握圧・・の個人差も検討する必要があろう。今回の研究では,握圧の指標としてボールペンの把握形態を,・・・採用した。
これは,・・・握圧の分類は以下の方法によった。・・・握圧「普通」は人差指でDIP,およびPIP関節が軽度屈曲位のアーチ型をしているもの。握圧「やや強い」は,母指または人差指が曲がっているもの。握圧「強い」は,母指と人差指の側面で軸を支えているものとした。」(27頁右欄21〜30行、28頁左欄下から7〜5行)
上記(1-b)の記載における、握り径8.2mmの標準型ボールペンを硬質ゴムで被覆し、握り部の径を、14.3mm、13.8mm、10.5mmとした改良型ボールペンについて、 硬質ゴムの肉厚を計算すると、それぞれ、3.05mm、2.8mm、1.15mm となる。
また、上記(1-b)の記載において、硬質ゴムは、把持部が円柱型の標準型ボールペンに被覆されるものであるから内面が円筒形の筒形状であるといえるものである。
したがって、上記記載からみて、刊行物1には、
「材質が硬質ゴムで、肉厚3.05mm、2.8mm、1.15mmで内面が円筒形の筒形状をもち、ボールペンに被覆された状態で握り部の径が、それぞれ14.3mm、13.8mm、10.5mmである被覆体。」の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

ii.刊行物2(実願昭53-24329号(実開昭54-128539号)のマイクロフィルム)
(2-a) 「鉛筆、ボールペン等の軸(3)の先端(3′)附近に嵌め込んで固着する様に構成せられ、適度の長さを有し、適当な硬度のゴム又は弾性プラスチック等の素材から成る円筒体(1)・・・筒状体(1)の内壁には溝状の切込(1′)を設けて成る鉛筆ホルダー」(実用新案登録請求の範囲1〜10行)
(2-b) 「適宜の固さを有する弾性ゴム又はプラスチック製の筒状体(ホルダー)(1)の内腔の直径は鉛筆又はボールペンの直径よりやや小さめにする。」(2頁8〜11行)
(2-c) 「ホルダー(1)は適当な固さと弾力、柔軟性があるので、これを装着した鉛筆又はボールペンを長時間使用しても指に与える刺激を緩和し長時間の使用に耐えやすくする。」(3頁10〜13行)
上記記載及び図面の記載からみて、刊行物2には、
「素材が適当な硬度をもつ弾力、柔軟性があるゴム又は弾性プラスチック等で、内面が円筒形の筒形状をもつホルダー。」の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

2-3.対比・判断
2-3-1.対比
訂正発明と刊行物2記載の発明とを対比すると、
刊行物2記載の発明の「素材」、「弾力、柔軟性があるゴム又は弾性プラスチック等」、「ホルダー」は、それぞれ、訂正発明の「材質」、「軟質弾性物質」、「筆記具用被覆体」に相当するから、
両者は、「材質が軟質弾性物質で、内面が円筒形の筒形状をもつ筆記具用被覆体。」である点で一致するが、以下の点で相違する。
相違点1:訂正発明では、軟質弾性物質が「10度以上で40度未満のショアーA硬度をもつ」ものであるのに対して、刊行物2記載の発明では、硬度が特定されていない点。
相違点2:訂正発明では、「肉厚1〜4mm」であり、「筆記具に装着された状態で少なくとも把持部の外径が7〜15mmである」のに対して、刊行物2記載の発明では、肉厚、外径が特定されていない点。

2-3-2.判断
そこで上記相違点について検討する。
(相違点1について)
i.上記刊行物1には、ボールペン書字作業の負担の軽減の方策として、握圧を軽減する方策を考え、握り部分の手指との接触面積を広くすることが握圧の低減に有効であること((1-a)の記載参照。)が記載されている。
ここで、本件訂正明細書に記載された「把持力」と刊行物1記載の「握圧」の概念について検討すると、本件訂正明細書には、「特にボールペンによる書字作業では、・・・母指、人指指、中指でボールペンを滑らないように固定する把持力の発揮が必要となる。」(1頁19〜21行)と記載され、刊行物1には、「ボールペン筆記作業での手指の力は,母指,人差指,中指でボールペンを滑らないように固定する力(以下,重田に従って握圧と言う)」((1-a)の記載参照。)と記載されていることから、筆記作業時の「把持力」と「握圧」は、いずれも、「母指,人差指,中指でボールペンを滑らないように固定する力」を意味している。
そうすると、上記刊行物2には、ホルダーの素材である弾力、柔軟性があるゴム又は弾性プラスチック等を適当な硬度とすることにより、ホルダーを装着したボールペンを長時間使用しても指に与える刺激を緩和し長時間の使用に耐えやすくすること((2-a)、(2-c)の記載参照。)が記載され、硬度を低くするほど、ホルダーと手指との接触面積が広くなることは、当業者にとって自明な事項であるから、刊行物2記載の発明において、筆記作業にかかる負担を軽減するべく、筆記時の把持力(握圧)の低減のために、把持部の手指との接触面積を広くするような軟質弾性物質の硬度を設定しようとすることは、当業者であれば容易に着想し得ることである。
ii.そして、一般に、製品を設計する場合、その製品の使用者に合わせて設計するものであり、筆記具の使用者には、把持力(随意最大把持力)が非常に強い人もいれば非常に弱い人もいることは周知であり、軟質弾性物質の硬度の設定時に、特に把持力(随意最大把持力)が非常に弱い人を対象とすることは、当業者が適宜になし得る選択的事項にすぎない。
なお、平成15年7月29日付け意見書には、「「把持力」と「握圧」は全く異なった概念である。当業者が「把持力が非常に弱い人」と言う文章で「把持力」としているのは「随意最大把持力」のことである。つまみ力計を使用して、個人の意思で最大つまみ力を発揮させたときの値である。・・・すなわち、「把持力が非常に弱い人」は、高齢者やリュウマチなどの障害のために、随意最大把持力が低下し、極弱いつまみ力しか発揮できない人を意味している。」(2頁18〜24行)、及び、「随意最大把持力が10kgと極めて強くても、書字作業時の握圧が100gと極軽く握る人もあり、「握圧」と「把持力」は等価ではない。」(3頁5、6行)と記載されていることから、上記記載において、「把持力」を「随意最大把持力」の意味で用いた。
iii.本件訂正明細書の「第1表」では、「手指への密着性」が、硬度10,20,30度では「優」、硬度40,50度では「良」、硬度60度では「可」とされ、同明細書に、「この結果、第1表に示すようにショアーA硬度10度、20度、30度のものは、優れた手指への密着性を示した。以上のことから、把持力が非常に弱い人に対しては手指への密着が良好なショアーA硬度40度未満の被覆体が非常に有効であることが判明した。」と記載され、平成15年4月8日付け意見書には、上記「第1表」に示される「手指への密着性」について、「接触面積」を「手指への密着性」で表記したものであり、径8.2mmのボールペンに、外径13.00mm,肉厚2.4mmの軟質弾性物質の被覆体を装着した場合と、同じ外径と肉厚の硬質ゴムを被覆した場合とで、把持部での手指とペン軸の接触面積を比較して、接触面積の増加率が20%以上のものを「優」,10〜20%のものを「良」,10%未満のものを「可」とした旨(4頁14行〜5頁9行)記載されている。
「第1表」及びこれらの記載を参照すると、訂正発明において、硬度が30度を超え40度未満では、手指とペン軸の接触面積の増加率は20%以上なのか10〜20%なのか不明であり、また、肉厚1〜4mm、外径7〜15mmであっても、肉厚2.4mm、外径13.00mm以外の範囲では、手指とペン軸の接触面積の増加率は不明である。しかも、高齢者や手指障害者であっても、把持力(随意最大把持力)には個人差があるから、調査対象が変われば、上記「第1表」に示される「手指への密着性」についての評価は変わってくるものである。
iv.そうしてみると、上記相違点1に係る訂正発明の構成は、刊行物2記載の発明において、把持力(随意最大把持力)が非常に弱い人を対象として、筆記作業にかかる負担を軽減するべく、筆記時の把持力(握圧)の低減のために、把持部の手指との接触面積を広くするような軟質弾性物質の硬度を特に低い数値範囲に設定したものであって、当業者が容易に想到し得るものである。
(相違点2について)
刊行物1記載の発明は、肉厚3.05mm、2.8mm、1.15mmで、ボールペンに被覆された状態で握り部の径が、それぞれ14.3mm、13.8mm、10.5mmである被覆体の発明であり、その肉厚及び径の数値は、いずれも訂正発明の肉厚1〜4mm及び外径7〜15mmの数値範囲内のものであるから、上記相違点2に係る訂正発明の構成は、刊行物2記載の発明に刊行物1記載の発明を適用して、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、訂正発明によって奏せられる効果は、刊行物1、2記載の発明によって奏せられる効果及び上記刊行物1記載の事項から、予測可能なものである。

2-3-3.まとめ
したがって、訂正発明は、上記刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-4.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

3.特許異議の申立てについて
3-1.本件発明
上記「2.訂正の適否の判断」で述べたように、平成15年4月8日付け訂正請求書に係る訂正は認められないから、特許第2854084号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「材質が10度以上で40度未満のショアーA硬度をもつ軟質弾性物質で、肉厚1〜4mmの筒形状をもち、筆記具に装着された状態で少なくとも把持部の外径が7〜15mmである筆記具用被覆体。」

3-2.引用刊行物記載の事項
本件発明に対し、当審が平成15年1月28日付けで通知した取消理由に引用した刊行物は、上記平成15年5月19日付けで通知した訂正拒絶理由において引用したものと同じであるので、その記載内容については、上記「2.訂正の適否の判断」の「2-2.引用刊行物記載の事項」を参照されたい。

3-3.対比・判断
本件発明の構成は、訂正発明の構成から、「内面が円筒形の筒形状」という事項における「内面が円筒形の」という限定事項を省いたものである。
そうすると、本件発明の構成に上記限定事項を付加したものに相当する訂正発明が、上記「2-3.対比・判断 」に記載したとおり、上記刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、上記刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-10-03 
出願番号 特願平2-93079
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (B43K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 砂川 充  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 二宮 千久
白樫 泰子
登録日 1998-11-20 
登録番号 特許第2854084号(P2854084)
権利者 日新製鋼株式会社 宇土 明子
発明の名称 筆記具被覆体  
代理人 石橋 信雄  
代理人 小倉 亘  
代理人 石橋 信雄  
代理人 岡田 萬里  
代理人 小倉 亘  
代理人 石橋 信雄  
代理人 石橋 信雄  
代理人 石橋 信雄  
代理人 石橋 信雄  
代理人 岡田 萬里  

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