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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01G
管理番号 1088915
審判番号 不服2000-3485  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-10-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-03-13 
確定日 2003-12-17 
事件の表示 平成11年特許願第113944号「シメジ類の人工栽培方法」拒絶査定に対する審判事件[平成12年10月31日出願公開、特開2000-300065]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成11年4月21日に出願され、平成12年2月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成12年3月13日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされ同年4月12日付けで手続補正がなされたものである。

II.平成12年4月12日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成12年4月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容、補正後の本願発明
本件手続補正には、特許請求の範囲の請求項1を次のとおりに補正する補正事項が含まれている。
「【請求項1】 多数の栽培瓶を平皿状のコンテナ内に直立させて並べ、その各栽培瓶内に培養基を充填し、殺菌、種菌接種、菌糸培養,発茸生育させるシメジ類の人工栽培方法において、
胴部を細くし、胴部と開口部の大きさがあまり違わない有底筒状に近い胴長形状の栽培瓶を使用するとともに、前記コンテナには少なくとも底版に、通気性を確保するための上下に貫通した多数の開口部を有するものを使用し、前記種菌接種までの作業を、前記コンテナ内に密に栽培瓶を並べた状態で行い、菌糸培養に先立ち、前記コンテナを、その中央部分の栽培瓶を1〜複数本抜き取り、該抜き取り部が上下に連通する空洞となるように多段に積み上げた状態で培養室に収容し、一定期間の菌糸培養を行うことを特徴としてなるシメジ類の人工栽培方法。」
上記補正事項は、補正前の請求項1に係る発明における「コンテナを、その中央部分の栽培瓶を1〜複数本抜き取って多段に積み上げた状態」を「抜き取り部が上下に連通する空洞となる」ものに限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件手続補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開平4-94621号公報(以下、「刊行物1」という。)には、ホンシメジ等のきのこのビン栽培方法に関して、次のように記載されている。
「第3図はホンシメジの栽培工程を順を追って示すフローチャートである。
まず、最初にビン詰め作業室において、培地のビン詰めを行う(ステップ10)。培地の詰まった栽培ビンは殺菌室で殺菌し(ステップ11)、殺菌の終了した栽培ビンは放冷後、接種室において種菌を接種する(ステップ12)。接種後の栽培ビンは培養室で菌培養を行い、熟成させるとともに(ステップ13)、熟成後は菌掻室で菌掻きを行う(ステップ14)。そして、前段生育室に収容して芽出しを行う(ステップ15)。以上が、第一栽培工程となる。……
そして、第一栽培工程では第6図及び第7図に示す通常のコンテナ50を利用することにより、各栽培ビン2、2…の間隔を空けない状態で行う。」(3頁左上欄末行〜左下欄1行)。
また、第6,7図には、多数の栽培ビンを平皿状のコンテナ内に直立させて並べること、栽培ビンは、開口部が胴部より小さい胴長形状のものであることが記載されている。
これらの記載からみて、刊行物1には、
「多数の栽培ビンを平皿状のコンテナ内に直立させて並べ、その各栽培瓶内に培養基を充填し、殺菌、種菌接種、菌糸培養、発茸生育させるホンシメジ等の人工栽培方法において、開口部が胴部より小さい胴長形状の栽培ビンを使用し、菌糸培養までの作業を、前記コンテナ内に密に栽培瓶を並べた状態で行うホンシメジ等の人工栽培方法。」の発明が記載されていると認められる。
(2)同じく特開平9-98660号公報(以下、「刊行物2」という。)には、菌床椎茸栽培方法に関し、次のような記載がある。
「菌床の製造工程A、菌床をコンテナに収納し、そのコンテナをラックに棚積みして培養室内へ移動する配送工程B、培養室における培養工程Cを経る菌床椎茸栽培全工程において、前記配送工程Bにおける菌床(8)の籠コンテナ(3)内への収納配列が籠コンテナ(3)の中央縦方向に風洞(2)を形成すべく旋回状に並べると共にその籠コンテナ(3)の多段式ラック(1)への棚積みが、そのラック(1)の中央縦方向に通気口(1a)を形成すべく中央部を一ペース空け、前記ラック(1)をその通気口(1a)が培養室(4)の床面に形成した通気ピット(5)に縦横交差する位置に相互に間隔を置いて配設し、前記培養工程Cにおいて、室内空気の循環・換気を、培養室(4)天井部に備えた切替式給気ファン(6)と壁面に備えた排気用換気扇(7)により、前記通気ピット(5)と連通する通気口(1a)、前記風洞(2)の各煙突効果とラック(1)相互の間隔とで上下の循環とラック(1)周辺の循環を図り、特に前記床面の通気ピット(5)を経て円滑な空気の吸引あるいは排出による通風を確保し、換気時には室内の空気の横の流れを十分つくり出すことを特徴とする菌床椎茸栽培方法。」(請求項1)、
「従来方式による菌床のラックへの棚積みは、各棚へ順次詰め状態に載置され且つそのラックが培養室内にてシマ状に長く配列されるから、シマ相互間には通気空間が確保されているものの、肝心のコンテナ内の菌床に均一に空気の流れを作ることができない(そのためコンテナの配置換えの手間がかかる)難点があり、品質性、収穫の安定性、省力性に問題を残していた。なお通気空間(通路ともなる)を取ることも、収容効率を上げる妨げとなっていた。
……本発明は、従来のかかる実情に鑑みてなされたもので……培養室における温度、湿度、照明の制御はもとよりのこと、特に椎茸菌床の培養に重要な環境因子である炭酸ガス濃度、空気の流れ(換気系および循環系)を作り出し、これらにより優良品質及び安定収穫を確保しつつ、収容効率を高め且つ省力化を図り、延いては高い収益性と経営コストの削減をもたらす菌床椎茸栽培方法とその方法を実現するための装置を提案する。」(段落【0003】〜【0004】)、
「以上の動作、環境条件の設定により、培養室における温度、湿度の制御はもとよりのこと、特に椎茸菌床の培養に重要な環境因子である炭酸ガス濃度の設定、空気の流れ(換気系および循環系)を充分作り出し、これらにより順調な椎茸の発生を促し、優良品質及び安定収穫を確保しつつ、収容効率を高め且つ省力化を図り、延いては高い収益性と経営コストの削減をもたらす。」(段落【0010】)。

3.対比
補正発明と刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明の「栽培ビン」は補正発明の「栽培瓶」に相当し、「ホンシメジ」は「シメジ類」の一種であるから、両者は、
「多数の栽培瓶を平皿状のコンテナ内に直立させて並べ、その各栽培瓶内に培養基を充填し、殺菌、種菌接種、菌糸培養、発茸生育させるシメジ類の人工栽培方法において、
胴長形状の栽培瓶を使用するとともに、前記種菌接種までの作業を、前記コンテナ内に密に栽培瓶を並べた状態で行い、前記コンテナを培養室に収容し、一定期間の菌糸培養を行うシメジ類の人工栽培方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:栽培瓶が、補正発明は、胴部を細くし、胴部と開口部の大きさがあまり違わない有底筒状に近い胴長形状のものであるのに対し、刊行物1記載の発明は、開口部が胴部より小さい胴長形状のものである点。
相違点2:補正発明は、コンテナが、少なくとも底版に、通気性を確保するための上下に貫通した多数の開口部を有するものであり、菌糸培養に先立ち、コンテナを、その中央部分の栽培瓶を1〜複数本抜き取り、該抜き取り部が上下に連通する空洞となるように多段に積み上げた状態で培養室に収容し、一定期間の菌糸培養を行うのに対し、刊行物1記載の発明は、コンテナが開口部を有しておらず、菌糸培養は、コンテナ内に密に栽培瓶を並べた状態で行うものであって、しかも培養室でのコンテナの収容状態は不明である点。

4.判断
上記相違点について検討する。
相違点1について検討すると、シメジ類の栽培瓶として、胴部を細くし、胴部と開口部の大きさがあまり違わない有底筒状に近い胴長形状のものは、原査定で例示した特開平8-280248号公報、又は特開平8-280249号公報並びに特開平9-163859号公報に記載されているように本願出願前普通に用いられており、また特にこのような形状の栽培瓶を用いたことにより格別の作用効果は認められず、栽培瓶として、このような形状のものを用いた点は当業者が適宜採用しうる程度のことである。
相違点2について検討すると、シメジ類の菌糸培養の際に、通気することは、原査定で例示した実願昭58-54302号(実開昭59-159246号)のマイクロフィルム、特開平9-98661号公報に記載されているように周知の技術であり、栽培瓶を収納したコンテナを多段に積み上げた状態で培養室に収容し、通気しながら菌糸培養することも特開平9-98661号公報に従来技術として記載されているように(段落【0003】、【0004】参照)本願出願前周知である。
また、通気性を向上させるために、通気性のコンテナを用いることは、刊行物2に記載され、上記特開平8-280248号公報の段落【0021】にも「コンテナの底面部及び側面部には多数の孔等を設けてもよい」と記載されているように、従来から普通に行われていることであって、「少なくとも底版に、上下に貫通した多数の開口部を有するコンテナを用い、該コンテナを多段に積み上げた状態で培養室に収容し、通気しながら菌糸培養する」ことは、刊行物2記載の発明及び上記各周知技術に基づいて当業者が容易になしうることである。
そして、刊行物2には、培養室において、コンテナ内の菌床に均一に空気の流れを作るために、通気性のコンテナの中央部を空けて種菌を接種した菌床を配置し、中央部に上下方向に連通する空間(刊行物2においては「風洞」)が形成されるようにすることが記載されており、菌糸培養する際に、コンテナ内の菌床に均一に空気の流れを作るために、中央部分の栽培瓶を1〜複数本抜き取り、コンテナ中央に上下方向に連通する空間を形成することは、刊行物2記載の発明に基いて当業者が容易になしうることである。
また、補正発明の作用効果は、全体として、上記刊行物1、2に記載された発明及び上記各周知技術から予測できる程度のことであって格別顕著なものとはいえない。
したがって、補正発明は刊行物1、2に記載された発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.請求人の主張に対して
請求人は、平成12年5月17日付け手続補正書において、「培養中の栽培瓶は、菌糸の呼吸熱により発熱し、コンテナ内に胴部と開口部との径が殆ど違わない胴長形状の栽培瓶を密集させるとコンテナ中心部に向かって温度勾配が生じ、各栽培瓶に温度差が生じます。……本願発明では、これらのことを考慮し、中心部分の1〜数本の栽培瓶を抜き取り、発熱をする培地を分散させて各栽培瓶の培養環境を均一化させようとするものであり、その二次的効果として煙突効果による放熱及び換気効果が得られたものであります。」((2)c.(イ))、
「本願発明と引用文献2に記載された発明とを対比しますと、
本願発明がブナシメジ等のキノコ類を瓶栽培するものであるのに対し、引用文献2に記載のものは、椎茸の栽培に関するものであり、根本的にその栽培方法について異なるものであります。
また、コンテナ間に空洞を形成し、通気性を確保することは共通するところではありますが、本願発明では、菌糸培養時に胴長形状の栽培瓶を密集させることによって発生する各瓶間の温度差を無くし、各瓶に均一の培養条件を与え、100g程度のシメジを株分けすることなく同時に収穫できるようにすることを目的としているものであります。しかし、引用例2では、菌床は培養期間を通して動かすことなく空洞部分が形成されたまま一貫培養するものであり、栽培瓶を密集させる構成も記載されておらず、本願発明とは技術的思想が全く異なるものであります。」((2)c.(ロ))、
と主張しているが、シメジ類の栽培においても、椎茸の栽培においても、菌糸培養にともなって発生する熱を、通気等により除去し、培養環境を均一化しようとすることは共通の課題であり、刊行物2には、コンテナ内部の環境を均一化するために、その中央部に空間を形成することが記載されているのであって、この技術を、コンテナ内に栽培瓶を配置するシメジ類の栽培に適用することが格別困難であるとはいえない。
また、補正発明は、栽培瓶の大きさを何ら特定するものではなく、「100g程度のシメジを株分けすることなく同時に収穫できるようにする」との主張は、補正発明を特定する事項に基づかないものである。

6.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

III.本願発明について
1.本願発明
平成12年4月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成12年1月7日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 多数の栽培瓶を平皿状のコンテナ内に直立させて並べ、その各栽培瓶内に培養基を充填し、殺菌、種菌接種、菌糸培養,発茸生育させるシメジ類の人工栽培方法において、
胴部を細くし、胴部と開口部の大きさがあまり違わない有底筒状に近い胴長形状の栽培瓶を使用するとともに、前記コンテナには少なくとも底版に、通気性を確保するための上下に貫通した多数の開口部を有するものを使用し、前記種菌接種までの作業を、前記コンテナ内に密に栽培瓶を並べた状態で行い、菌糸培養に先立ち、前記コンテナを、その中央部分の栽培瓶を1〜複数本抜き取って上下に多段に積み上げた状態で培養室に収容し、一定期間の菌糸培養を行うことを特徴としてなるシメジ類の人工栽培方法。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例である刊行物1、2には、前記「II.2.」に記載したとおりの発明が記載されていると認める。

3.対比・判断
本願請求項1に係る発明は、前記II.で検討した本願補正発明から「コンテナを、その中央部分の栽培瓶を1〜複数本抜き取って多段に積み上げた状態」を限定する「抜き取り部が上下に連通する空洞となる」との事項を省いたものである。
そうすると、請求項1に係る発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する補正発明が、前記「II.4」に記載したとおり、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明も、同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-09-30 
結審通知日 2003-10-07 
審決日 2003-10-22 
出願番号 特願平11-113944
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 秋月 美紀子吉田 佳代子  
特許庁審判長 村山 隆
特許庁審判官 山口 由木
渡部 葉子
発明の名称 シメジ類の人工栽培方法  
代理人 田中 雅雄  

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