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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1089064
審判番号 不服2000-2648  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-05-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-02-28 
確定日 2003-12-08 
事件の表示 平成 9年特許願第322797号「動力車両の変速装置」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 5月15日出願公開、特開平10-122312]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成3年12月13日に特許出願した特願平3-330636号の一部を平成9年11月25日に新たな特許出願としたものであって、平成15年7月7日付けでした手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「主変速ギヤ機構29と副変速ギヤ機構31,32とリバースギヤ機構28を備え、前記主変速ギヤ機構29は油圧式多板クラッチで形成されて多段変速可能に構成され、前記副変速ギヤ機構31,32をシフトアップ操作すると主変速ギヤ機構29が何れのギヤ位置にあってもこのギヤ位置を第1速にシフトダウンされ、前記副変速ギヤ機構31,32をシフトダウン操作すると主変速ギヤ機構29が何れのギヤ位置にあってもこのギヤ位置を最高速にシフトアップされる制御手段41を設けたことを特徴とする動力車両の変速装置。」

2.刊行物に記載された発明等
これに対し、平成15年4月15日付けで通知された拒絶の理由に引用された特開平2-256957号公報(以下、「引用刊行物」という)には、無段階に変速自在な主変速装置と、複数段階に変速する有段式の副変速装置とを直列状態に接続した作業車の変速装置に関し、以下のような記載がある。

(1)「無段階に変速自在な主変速装置(2)と、複数段階に変速する有段式の副変速装置(8)とを直列状態に接続した作業車の変速装置であって、前記主変速装置(2)を自動的に操作する主変速用アクチュエータ(49)と、前記副変速装置(8)の切り換え操作を検出する副変速操作検出手段(S2)と、その副変速操作検出手段(S2)の情報に基づいて、前記副変速装置(8)が増速側に操作された場合には、車速の変化を減少させるように前記主変速用アクチュエータ(49)を自動的に減速側に作動させる制御手段(100)とが設けられている作業車の変速装置。」(特許請求の範囲第1項)

(2)「その目的は、副変速装置を増速側に変速しても車速が急に増速されないようにすることにある。」(第2ページ左上欄第2行〜第4行)

(3)「油圧式無段変速装置(以下の説明において主変速装置(2)と呼称する)の入力プーリ(3)に伝達され、その主変速装置(2)の出力軸(4)からの動力が、第1ギヤ(5)及び第2ギヤ(6)を介して第1伝動軸(7)に伝達され、その第1伝動軸(7)に伝達された動力が、有段式の副変速装置(8)に伝達されるようになっている。」(第2ページ左下欄第12行乃至第18行)

(4)「前記副変速装置(8)は、前記主変速装置(2)の出力を、低速(L)、中速(M)、高速(H)の三段階に切り換えられるように、油圧操作式に構成されている。」(第2ページ右下欄第4行〜第7行)

(5)「前記副変速装置(8)の出力を前記駆動軸(12L),(12R)に対して逆転させて伝動させるための油圧操作式の逆転クラッチ(15)とが設けられている。」(第2ページ右下欄第16行〜第19行)

(6)「前記逆転用クラッチ(15)が、前記中継軸(11)と前記第9ギヤ(34)との間の動力伝達を入り切り操作自在に設けられている。」(第4ページ左上欄第6行〜第8行)

(7)「第1図に示すように、前記主変速装置(2)を操作する主変速用レバー(48)の操作状態を検出するポテンショメータ利用の主変速検出用センサー(S1)と、前記副変速レバー(47)の操作状態を検出する副変速操作検出手段としての副変速検出用センサ(S2)と、それらセンサー(S1)、(S2)及び前記車速センサー(S0)の検出情報に基づいて、前記主変速装置(2)を操作する主変速用アクチュエータとしての主変速用モータ(49)の作動を制御する制御手段(100)を構成するマイクロコンピュータ利用の制御装置(50)とが設けられている。
尚、第1図中、(51)は前記主変速装置(2)に対する手動操作用の変速レバーであって、この変速レバー(51)による手動変速を前記主変速用モータ(49)による自動変速に優先して行えるようにするために、前記主変速用モータ(49)は摩擦式伝動機構(52)を介して前記主変速装置(2)に連係されている。
前記制御装置(50)の動作について説明すれば、前記副変速検出用センサー(S2)の検出情報に基づいて前記副変速装置(8)が増速側に操作されたことを検出した場合には、第2図に示すように、前記車速センサー(S0)の検出情報に基づいて車速が増速操作前の車速に維持されるように、前記主変速用モータ(49)を作動させて前記主変速装置(2)を自動的に減速させることになる。」(第4ページ右下欄第17行〜第5ページ右上欄第3行)

(8)「又、第2図中、仮想線で示すように、前記主変速装置(2)の減速量を、図中破線で示す主変速装置(2)を全く減速させない場合と、実線で示す車速が全く変わらないようにする場合との中間の状態で緩増速させるようにしたり、それら各変速パターンを切り換えられるようにしてもよい。」(第5ページ右上欄第15行〜左下欄第1行)

(9)「又、上記実施例では、副変速装置(8)の増速側への操作時のみ車速が変わらないようにした場合を例示したが、第5図に示すように、副変速装置(8)の減速操作時にも車速が変わらないように、主変速装置(2)を自動的に増速させるようにしてもよい。」(第5ページ左下欄第2行〜第7行)

これらの記載事項からみて、引用刊行物には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「主変速装置(2)と、変速ギヤ機構を備えた副変速装置(8)と、逆転用クラッチ(15)を備えたギヤ機構を備え、前記副変速装置(8)を増速側に操作すると車速が変わらないように前記主変速装置(2)が自動的に低速側に操作され、副変速装置(8)を減速側に操作すると車速が変わらないように主変速装置(2)が自動的に高速側に操作される制御手段を設けた作業車の変速装置」


3.対比及び検討
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「変速ギヤ機構を備えた副変速装置(8)」は本願発明の「副変速ギヤ機構」に相当し、以下同様に、「逆転用クラッチ(15)を備えたギヤ機構」は「リバースギヤ機構」に、「増速側に」及び「高速側に」は「シフトアップ」に、「減速側に」及び「低速側に」は「シフトダウン」に、「作業車」は「動力車両」に、それぞれ相当すると認められる。また、引用発明の「主変速装置(2)」も、本願発明の「主変速ギヤ機構29」も、ともに「主変速機構」であると認められる。よって、一致点及び相違点は、以下のようになる。

一致点
「主変速機構と副変速ギヤ機構とリバースギヤ機構を備え、前記副変速ギヤ機構をシフトアップ操作すると前記主変速機構が低速位置にシフトダウンされ、副変速ギヤ機構をシフトダウン操作すると主変速機構が高速位置にシフトアップされる制御手段を設けた動力車両の変速装置」

相違点1
主変速機構が、本願発明では「油圧式多板クラッチで形成されて多段変速可能に構成され」ている「ギヤ機構」であるのに対し、引用発明では、このような特定がない点。

相違点2
本願発明では、「副変速ギヤ機構をシフトアップ操作すると前記主変速機構が低速位置にシフトダウン」される際は、「主変速ギヤ機構29が何れのギヤ位置にあってもこのギヤ位置を第1速に」し、また「副変速ギヤ機構をシフトダウン操作すると主変速機構が高速位置にシフトアップ」される際は、「主変速ギヤ機構29が何れのギヤ位置にあってもこのギヤ位置を最高速に」することが特定されているが、引用発明では、このような特定をしていない点。

次に、相違点について検討する。

相違点1について
主変速装置を、油圧式多板クラッチで形成されて多段変速可能に構成される歯車式としたものは、従来周知(必要であれば、特開昭61-274154号公報、実願昭61-162510号(実開昭63-67337号)のマイクロフィルム、実願昭62-52898号(実開昭63-160439号)のマイクロフィルム等を参照されたい。)であり、これを引用発明の適用対象の主変速装置に採用することは、当業者が容易に成し得たことと認められる。

相違点2について
引用発明においても、副変速装置の変速操作に伴う主変速装置の自動変速において、主変速装置の自動変速は、車速を変えないような変速比とすべきことは、上記2.の摘記事項(7)の「副変速装置(8)が増速側に操作されたことを検出した場合には、第2図に示すように、前記車速センサー(S0)の検出情報に基づいて車速が増速操作前の車速に維持されるように、前記主変速用モータ(49)を作動させて前記主変速装置(2)を自動的に減速させることになる。」という記載、及び摘記事項(9)の「副変速装置(8)の減速操作時にも車速が変わらないように、主変速装置(2)を自動的に増速させる」という記載から明らかである。
してみると、主変速装置が段階的にしか変速比を取り得ない形式のものである場合にも、車速を最も変えないような変速段に変速すべきことは、当業者が容易に理解できることである。
そこで、主変速機が1〜4速の4段変速で、副変速機がLレンジ、Mレンジ、Hレンジの3段変速であるような変速機を想定してみると、この変速機を搭載した車両で達成できる変速段数は12(主副変速機の変速段数の積)であり、最も低車速で走行する際には主変速機を1速、副変速機をLレンジとした場合で、以下、2速Lレンジ、3速Lレンジ、4速Lレンジ、1速Mレンジ、2速Mレンジ、3速Mレンジ、4速Mレンジ、1速Hレンジ、2速Hレンジ、3速Hレンジ、4速Hレンジと変化させるほどに高車速で走行する車両が想定できる。
この12の変速段の組合せ順序を念頭に置けば、副変速機をHレンジからMレンジあるいはLレンジに操作した際や、MレンジからLレンジに操作した際、最も車速を変化させないためには、主変速機を4速とするべきであるし、副変速機をLレンジからMレンジあるいはHレンジに操作した際や、MレンジからHレンジに操作した際、最も車速を変化させないためには、主変速機を1速とするべきであることは、当業者であれば、容易に理解できることと認める。
このように、2つの多段変速機を直列につないで、一方の変速機の変速段を操作した際に、車速がなるべく変わらないよう、もう一方の変速機の変速段を変化させる場合、その変化させる先の変速段は、当業者が容易に設定できる事項である。
したがって、副変速ギヤ機構をシフトアップ操作した際に主変速ギヤ機構を第1速とし、副変速ギヤ機構をシフトダウン操作した際に主変速ギヤ機構を最高速とする程度のことは、当業者が容易に想到しえることである。

なお、請求人は、この点について、刊行物1には特定の位置に減速または増速する構成は、なんら記載されていない旨を主張している(意見書第3ページ第11行〜第4ページ第4行参照)。
しかしながら、上記のとおり、主変速装置が多段変速機である場合に車速を最も変えないような変速段に変更すべきことは当業者が容易に理解できることであり、副変速装置を操作した際に、車速がなるべく変わらないような主変速装置の変速段は、上記のように当業者が容易に設定できる事項である。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

4.まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願出願前に国内で頒布された刊行物1に記載された発明及び周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-08-26 
結審通知日 2003-09-16 
審決日 2003-09-29 
出願番号 特願平9-322797
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾  
特許庁審判長 前田 幸雄
特許庁審判官 内田 博之
秋月 均
発明の名称 動力車両の変速装置  

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