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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C21D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21D
管理番号 1089271
審判番号 不服2001-6126  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-04-19 
確定日 2003-12-25 
事件の表示 平成 7年特許願第 44143号「無方向性電磁鋼板の製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年 9月24日出願公開、特開平 8-246052]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年3月3日の出願であって、平成13年3月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成13年4月19日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成13年5月16日付けで手続補正がなされたが、審判請求時の補正によって補正された請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という)が特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、審判請求人にその旨の平成15年7月14日付け審尋を通知し期間を指定して回答書を提出する機会を与えたが、審判請求人からは何らの応答もなかった。
2.平成13年5月16日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成13年5月16日付けの手続補正を却下する。
[理由]
(1)手続補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の補正に関し、請求項1の「打ち抜きによる磁気特性の劣化が少ない無方向性電磁鋼板の製造方法」を「打ち抜きによる磁気特性の劣化が少ない中小型モータ用の無方向性電磁鋼板の製造方法」と補正するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。そして、補正後の請求項1は、次のとおりのものである。
「【請求項1】重量%で、C:0.010%以下、Si:0.4〜2.0%、Mn:0.25〜1.00%、P:0.1%以下、S:0.015〜0.035%、Al:0.005%以下で、残部は実質的にFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、加熱温度を1000〜1180℃とし、圧延仕上げ温度を850〜950℃とする熱間圧延をおこなった後、冷間圧延し、その後750℃以上のフェライト域で連続焼鈍することを特徴とする、打ち抜きによる磁気特性の劣化が少ない中小型モータ用の無方向性電磁鋼板の製造方法。」
そこで、本願補正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第3項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。
(2)引用刊行物
審尋において引用した引用例1(特公平5-82454号公報)、引用例2(特開平3-249130号公報)、引用例3(特開平6-41639号公報)及び引用例4(特開平6-287639号公報)には、それぞれ次の事項が記載されている。
(i)引用例1:特公平5-82454号公報
(1a)「この発明は、優れた軟磁性特性を有する上、打ち抜き性が極めて良好な低Si無方向性電磁鋼板をコスト安く製造する方法に関するものである。一般に、Si含有量が1.0%以下の低Si電磁鋼板は、Si含有量が低いために鉄損値は劣っているものの高い透磁率を示し、しかも安価なことから、家庭電機製品用モータや小型モータ等を中心にその需要量は非常に大きな値を示している。」(第1頁第2欄)
(1b)「本発明者等は、上述のような観点から、フルプロセス材としてもセミプロセス材としても十分に満足できる磁気特性と優れた打抜き性とを兼ね備えた、しかもコストの安い電磁鋼板を安定して製造すべく、数多くの実験・研究を繰り返した結果、従来の電磁鋼板の打抜き性向上法とは異なり、特にMnとSの含有量を相関させて特定の範囲に調整するとともに、P成分の積極的添加を行い、かつC及びAl含有量をも調整したケイ素鋼板熱延コイルを常法通りに冷間圧延し、その後再結晶温度以上に焼鈍すると、・・・介在物(MnS)の析出形態が制御されて鋼内に分布することとなり、・・・極めて優れた磁気特性も付与される、との知見を得るに至ったのである。」(第2頁第4欄)
(1c)「重量割合にて、C:0.010%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.25〜0.50%、P:0.035〜0.100%、S:0.015〜0.035%、Al:0.005%以下、残部:Fe及び不可避的不純物から成るとともに、Mn含有量とS含有量との比率が、式
Mn(%)/S(%)≧10
を満足する成分組成の熱延コイルを冷間圧延し、その後、再結晶温度以上でAc3点以下の温度域にて焼鈍することを特徴とする、打抜き性の良好な電磁鋼板の製造方法。」(第1頁特許請求の範囲第1項)
(1d)第5頁第1表には、試験番号「本15」として「C:0.005、Si:0.5、Mn:0.35、P:0.039、S:0.024、Al:<0.001、Fe+不純物:残、鋼板の再結晶温度:660℃、鋼板のAc3点:960℃、連続焼鈍条件:750℃」と記載されている。
(ii)引用例2:特開平3-249130号公報
(2a)「本発明は、無方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。」(第1頁右欄)
(2b)「以上の結果から、本発明においては連続鋳造後、スラブを鋼成分に応じて定まる所定の冷却速度以下で冷却することに加え、その際のスラブの冷却温度域を1000℃以上1100℃以下と規定する必要がある。」(第7頁右下欄)
(2c)「熱延条件:・・・このため巻取温度は650℃以上とする必要がある。仕上温度については、・・・巻取温度を確保する点から750℃以上とすることが望ましい。」(第8頁左上欄第20行乃至右上欄第12行)
(2d)第11頁第2-c表には、「鋼番C-1」に関し「スラブ冷却温度:1090℃、熱延条件仕上温度:870℃、焼鈍条件:870℃」という製造条件が記載されている。
(iii)引用例3:特開平6-41639号公報
(3a)「【請求項1】重量%で
C ≦0.01%、 Si+Al≦2.0%、
Mn≦1.5%、 P≦0.2%、
S ≦0.02%、 N≦0.005%、
残部が鉄および不可避的不純物からなるスラブを熱延するに際して、950〜1200℃でスラブ加熱し、その後、仕上タンデム圧延機の第1スタンド入口温度をAr3 +20℃以上にし、最終スタンド出口温度をAr3 〜Ar3 ?-50℃に制御して、次いで注水して巻取り、続いて脱スケール、冷間圧延、焼鈍をすることを特徴とする優れた磁束密度を有する無方向性電磁鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲)
(3b)「上記元素を含む溶鋼を連続鋳造してスラブを造り、スラブ加熱を実施するが加熱温度は950〜1200℃とする。この理由は、1200℃以上では硫化物や窒化物の固溶が起きて、熱延中に微細析出物が生じ、結晶粒成長を抑制して本発明の目的を達成できないからである。また、950℃以下では後述の仕上タンデム圧延機の第1のスタンド入口でオーステナイト相高温域の温度を確保するのが難しい。粗圧延を終えて、仕上タンデム圧延機の第1のスタンド入口の温度、すなわち仕上入口温度は重要で、Ar3 +20℃以上である必要がある。Ar3 +20℃未満では、オーステナイト相での結晶粒成長が少なすぎる。仕上圧延の途中、いずれかの仕上スタンド間でγ→α変態させる。仕上タンデム圧延の最終スタンド出口の温度、すなわち仕上出口温度も重要である。仕上出口温度は、Ar3 以下で且つAr3 -50℃までのフェライト相での高温側である必要がある。Ar3 -50℃を切る低温では、結晶粒成長を期待できない。」(段落【0009】)
(3c)「冷延後の仕上厚みは通常の0.2〜1.5mmとする。冷延後の再結晶焼鈍は、通常の600〜900℃の範囲で行う。」(段落【0013】)
(3d)第3頁表1の試料No.2には、「仕上入口温度:930℃、仕上出口温度:890℃」という熱延条件が記載されている。
(iv)引用例4:特開平6-287639号公報
(4a)「【請求項1】 重量%で、
C ≦0.0050%、 (Si+2Al)≦1.8%、
Mn:0.05〜1.5%、 P≦0.12%、
S ≦0.010%、 N≦0.003%
とし、残部Feおよび不可避的成分を含有するスラブを温度1000〜1200℃で加熱後、仕上温度を(Ar3 -10〜Ar3-80)℃に制御して、厚みを1.0〜2.0mmにした後、400〜700℃で巻取、酸洗、冷延、焼鈍の工程を順次行うことを特徴とする全周磁気特性の優れた無方向性電磁鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲)
(4b)「これらの成分組成を含有する溶鋼は通常の連続鋳造によりスラブとする。スラブ加熱の温度を請求項1では1000〜1200℃に制限する。低温でのスラブ加熱では熱延での圧下変形の抵抗が大きくなるので難しく、熱延の操業としては1000℃以上とする。また、高温スラブ加熱すると、鋼中の析出物が固溶して熱間圧延中に微細析出して結晶粒成長性が損なわれるため避けるべきである。このため、1200℃以下に制限する。」(段落【0011】)
(4c)「スラブ加熱の後は、粗圧延、仕上圧延、巻取と続くが、仕上圧延の最終仕上スタンドを鋼板が抜けた直後の鋼板温度、即ち、仕上温度と巻取温度が特に重要である。 仕上温度を請求項1では(Ar3 -10〜Ar3 -80)℃に制限する。仕上温度はフェライト相の上限Ar3 が、粒成長の面から理想である。しかし、仕上最終スタンドでα+γ→αの変態が生じると破断や形状不良となるので、安全を見て、仕上温度の下限を(Ar3 -10)℃とする。また、仕上温度が(Ar3-80)℃より低温では、結晶粒成長が不十分で狙いの製品磁束密度が得られない。仕上温度を請求項2では(Ar3 -10〜Ar3-150)℃に制限する。」(段落【0012】)
(4d)「熱延板は酸洗の後、通常の冷延を行う。次いで、焼鈍を通常の600〜1000℃で行って、絶縁皮膜を塗布・乾燥して製品となす。」(段落【0015】)
(4e)第5頁の表-2には、「実験No.5」として「スラブ加熱温度:1050℃、仕上温度:860℃」という熱延条件が記載されている。
(3)対比・判断
引用例1の(1b)には、フルプロセス材としてまたセミプロセス材としても十分に満足できる磁気特性が優れかつ打抜き性が良好な「無方向性電磁鋼板の製造方法」が記載され、この無方向性電磁鋼板が家庭電機製品用モータや小型モータ等に使用されることも引用例1の上記(1a)に記載されている。また、引用例1の上記(1c)には、その具体的な製造方法に関し、「重量割合にて、C:0.010%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.25〜0.50%、P:0.035〜0.100%、S:0.015〜0.035%、Al:0.005%以下、残部:Fe及び不可避的不純物から成るとともに、Mn含有量とS含有量との比率が、式
Mn(%)/S(%)≧10
を満足する成分組成の熱延コイルを冷間圧延し、その後、再結晶温度以上でAc3点以下の温度域にて焼鈍することを特徴とする、打抜き性の良好な電磁鋼板の製造方法。」と記載されているから、引用例1には、本願補正発明1の記載振りに則って整理すると、「重量%で、C:0.010%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.25〜0.50%、P:0.035〜0.100%、S:0.015〜0.035%、Al:0.005%以下、残部:Fe及び不可避的不純物から成るとともに、Mn含有量とS含有量との比率が、式
Mn(%)/S(%)≧10
を満足する成分組成の鋼スラブを熱間圧延して熱延コイルとしこの熱延コイルを冷間圧延し、その後再結晶温度以上でAc3点以下の温度域にて連続焼鈍することを特徴とする、磁気特性が優れ打ち抜き性の良好な家庭電機製品用モータや小型モータ用の無方向性電磁鋼板の製造方法」という発明(以下、「引用例1発明」という)が記載されていると云える。そして、引用例1の上記(1d)には、この引用例1発明の具体例として試験番号「本15」が「C:0.005、Si:0.5、Mn:0.35、P:0.039、S:0.024、Al:<0.001、Fe+不純物:残、鋼板の再結晶温度:660℃、鋼板のAc3点:960℃、連続焼鈍条件:750℃」であるとも記載されている。
そこで、本願補正発明1と引用例1発明とを対比すると、両者は、その鋼スラブの成分組成において「C:0.010%以下、Si:0.4〜1.0%、Mn:0.25〜0.50%、P:0.035〜0.100%、S:0.015〜0.035%、Al:0.005%以下、残部:Fe及び不可避的不純物からなる鋼スラブ」という点で一致し、連続焼鈍温度の点も、その具体例である「本15」の場合が「750℃」であるから、少なくとも「750℃」の点で一致していると云える。また、引用例1発明の「磁気特性が優れ打ち抜き性の良好な家庭電機製品用モータや小型モータ用」は、本願補正発明1の「打ち抜きによる磁気特性の劣化が少ない中小型モータ用」に相当すると云えるから、両者は、結局のところ、「重量%で、C:0.010%以下、Si:0.4〜1.0%、Mn:0.25〜0.50%、P:0.035〜0.100%、S:0.015〜0.035%、Al:0.005%以下、残部:Fe及び不可避的不純物からなる鋼スラブを熱間圧延した後、冷間圧延し、その後750℃のフェライト域で連続焼鈍することを特徴とする、打ち抜きによる磁気特性の劣化が少ない中小型モータ用の無方向性電磁鋼板の製造方法」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:本願補正発明1では、その熱間圧延の条件が「加熱温度を1000〜1180℃とし、圧延仕上げ温度を850〜950℃とする熱間圧延」というものであるのに対し、引用例1発明では、その熱間圧延の条件が明らかでない点
次に、この相違点について検討する。
本願補正発明1の上記熱間圧延条件は、本願明細書の段落【0025】乃至【0028】の記載によれば、結晶粒成長の十分な進行等を確保して良好な磁気特性を得るためのものであるところ、無方向性電磁鋼板の製造方法において、このような理由により、鋼スラブの加熱温度を1000〜1180℃の範囲とし、圧延仕上げ温度を850〜950℃の範囲とする熱間圧延は、上記引用例2乃至4に記載されているように既に周知の技術である。
してみると、本願補正発明1の上記相違点は、上記引用例2乃至4に記載された周知の技術に基づいて当業者が容易に想到することができたと云えるから、本願補正発明1は、上記引用例1に記載の発明と引用例2乃至4に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると云うべきである。
したがって、本願補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項で準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明についての審決
(1)本願発明
平成13年5月16日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成13年2月13日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下に示すとおりのものであるところ、平成13年5月16日付け手続補正書で補正された請求項1との相違点は、「打ち抜きによる磁気特性の劣化が少ない中小型モータ用の無方向性電磁鋼板の製造方法」が「打ち抜きによる磁気特性の劣化が少ない無方向性電磁鋼板の製造方法」であるという点、すなわち「中小型モータ用の」という用途が限定されていない点だけである。
「【請求項1】重量%で、C:0.010%以下、Si:0.4〜2.0%、Mn:0.25〜1.00%、P:0.1%以下、S:0.015〜0.035%、Al:0.005%以下で、残部は実質的にFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを、加熱温度を1000〜1180℃とし、圧延仕上げ温度を850〜950℃とする熱間圧延をおこなった後、冷間圧延し、その後750℃以上のフェライト域で連続焼鈍することを特徴とする、打ち抜きによる磁気特性の劣化が少ない無方向性電磁鋼板の製造方法。」
(2)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用例は、上記「2.(2)」に記載した引用例1及び引用例2であり、その記載事項も上記「2.(2)」に記載したとおりのものである。
(3)対比・判断
本願請求項1に係る発明は、上記2.で判断した本願補正発明1と「中小型モータ用の」という用途が限定されていない点で相違しているだけであるから、本願請求項1に係る発明も、上記「2.(3)」に記載したと同様の理由により、引用例1に記載された発明と引用例2さらには引用例3及び4にも記載されたような上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると云える。
4.むすび
したがって、本願は、その請求項1に係る発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-10-08 
結審通知日 2003-10-14 
審決日 2003-10-27 
出願番号 特願平7-44143
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C21D)
P 1 8・ 575- Z (C21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 武佐藤 陽一  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 平塚 義三
後藤 政博
発明の名称 無方向性電磁鋼板の製造方法  
代理人 杉岡 幹二  

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