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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C23C
審判 一部申し立て 2項進歩性  C23C
管理番号 1089778
異議申立番号 異議2003-70116  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-08-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-14 
確定日 2003-10-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3306404号「表面処理銅箔の製造方法及びその製造方法で得られた表面処理銅箔を用いた銅張積層板」の請求項1ないし4、7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 本件特許異議の申立てを却下する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3306404号の発明についての出願は、平成12年1月28日に特許出願され、平成14年5月10日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人より請求項1〜4、7に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年9月9日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
請求項1〜4を、以下のとおり訂正する。
「【請求項1】 銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものであるプリント配線板用銅箔の表面処理方法において、
防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、
電解クロメートメッキ後に銅箔表面を乾燥させ、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/1、クロム酸0.1〜2g/1含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、電解銅箔自体の温度が105℃〜180℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥するものである表面処理銅箔の製造方法。
【請求項2】 銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものであるプリント配線板用銅箔の表面処理方法において、
防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、
当該電解クロメートメッキを行った表面を乾燥させることなく、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/1、クロム酸0.1〜2g/1含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、その後に電解銅箔自体の温度が110℃〜200℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥させるものである表面処理銅箔の製造方法。
【請求項3】 銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものである電解銅箔の表面処理方法において、
粗化処理面の形成は、析離箔の表面に微細銅粒を析出させ、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキを行い、極微細銅粒を析出付着させ、
防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、
電解クロメートメッキ後に銅箔表面を乾燥させ、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/1、クロム酸0.1〜2g/1含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、電解銅箔自体の温度が105℃〜180℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥させるものである表面処理銅箔の製造方法。
【請求項4】 銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものである電解銅箔の表面処理方法において、
粗化処理面の形成は、析離箔の表面に微細銅粒を析出させ、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキを行い、極微細銅粒を析出付着させ、
防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、
当該電解クロメートメッキを行った表面を乾燥させることなく、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/1、クロム酸0.1〜2g/1含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、その後に電解銅箔自体の温度が110℃〜200℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥させるものである表面処理銅箔の製造方法。」
(2)訂正事項b
請求項5を削除し、また、請求項6の請求項番号を繰り上げ、請求項5とする。
(3)訂正事項c
請求項7の請求項番号を繰り上げ、請求項6とすると共に、「請求項1〜請求項6のいずれかに記載の」を、「請求項1〜請求項5のいずれかに記載の」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書段落【0001】を、「【発明の属する技術分野】本発明は、防錆処理を施した表面処理銅箔の製造方法及びこの製造方法で得られた表面処理銅箔を用いた銅張積層板に関する。」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書段落【0023】の「防錆処理は亜鉛又は亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、電解クロメートメッキ後に銅箔表面を乾燥させ、クロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、」を、「防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、電解クロメートメッキ後に銅箔表面を乾燥させ、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/1、クロム酸0.1〜2g/1含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、」と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書段落【0024】の「防錆処理は亜鉛又は亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、当該電解クロメートメッキを行った表面を乾燥させることなく、クロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、」を、「防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、当該電解クロメートメッキを行った表面を乾燥させることなく、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/1、クロム酸0.1〜2g/1含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、」と訂正する。
(7)訂正事項g
明細書段落【0026】の「防錆処理は亜鉛又は亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、電解クロメートメッキ後に銅箔表面を乾燥させ、クロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、」を、「防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、電解クロメートメッキ後に銅箔表面を乾燥させ、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/1、クロム酸0.1〜2g/1含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、」と訂正する。
(8)訂正事項h
明細書段落【0027】の「防錆処理は亜鉛又は亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、当該電解クロメートメッキを行った表面を乾燥させることなく、クロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、」を、「防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、当該電解クロメートメッキを行った表面を乾燥させることなく、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/1、クロム酸0.1〜2g/1含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、」と訂正する。
(9)訂正事項i
明細書段落【0036】の「請求項9に」を、「請求項5に」と訂正する。
(10)訂正事項j
明細書段落【0037】の「亜鉛合金には、亜鉛-銅、」を、「当初から銅を含む亜鉛合金には、亜鉛-銅、」と訂正する。
(11)訂正事項k
明細書段落【0038】の「以下、亜鉛合金メッキを」を、「以下、当初から銅を含む亜鉛合金メッキを」と訂正する。
(12)訂正事項l
明細書段落【0043】の「亜鉛又は亜鉛合金メッキの後に」を、「亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキの後に」と訂正する。
(13)訂正事項m
明細書段落【0044】の「クロムイオンを含有したシランカップリング剤の」を、「水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/1、クロム酸0.1〜2g/1含有したクロムイオンを含有したシランカップリング剤の」と訂正する。
(14)訂正事項n
明細書段落【0046】の「クロムイオンを含有したシランカップリング剤は、請求項5に記載したように、」を、「本件発明に言う「クロムイオンを含有したシランカップリング剤」は、」と訂正する。
(15)訂正事項o
明細書段落【0048】の「浴媒としての水に0.5〜10g/1溶解させて、」を、「浴媒としての水に0.5〜10g/1濃度となるように溶解させて、」と、又「クロム酸を用いて0.1〜2g/1の」を、「クロム酸濃度が0.1〜2g/1の」と訂正する。
(16)訂正事項p
明細書段落【0059】表3の下「使用銅箔」欄の「請求項1に記載の銅箔であって、請求項5に記載した」を、「請求項1に記載した」と訂正する。
(17)訂正事項q
明細書段落【0060】表4の下「使用銅箔」欄の「請求項1に記載の銅箔であって、請求項6に記載した」を、「請求項2に記載の」と訂正する。
(18)訂正事項r
明細書段落【0061】表5の下「使用銅箔」欄の「請求項2に記載の銅箔であって、請求項7に記載した」を、「請求項3に記載の」と訂正する。
(19)訂正事項s
明細書段落【0062】表6の下「使用銅箔」欄の「請求項2に記載の銅箔であって、請求項8に記載した」を、「請求項4に記載の」と訂正する。
(20)訂正事項t
明細書段落【0067】の「請求項7に記載したように、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の」を、「請求項6に記載したように、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の」と訂正する。
(21)訂正事項u
明細書段落【0088】の「表5に」を、「表7に」と訂正する。
なお、訂正事項i〜l、t、uは、上記訂正請求書の「(3)訂正の要旨」欄には、訂正事項として記載されていないが、訂正請求書添付の全文訂正明細書では訂正されているので、上記のとおり訂正事項として認定した。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)上記訂正事項aは、訂正前の請求項1〜4を、訂正前の請求項5の記載内容をそのまま取り込ませて、新たに請求項1〜4に変更すると共に、「亜鉛合金めっき」を「当初から銅を含む亜鉛合金めっき」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。又、「亜鉛合金めっき」を「当初から銅を含む亜鉛合金めっき」と限定する点は、明細書段落【0037】〜【0042】に、亜鉛合金めっきは、当初から銅を含む浴を用いての亜鉛・銅合金系めっきであることの記載によって裏付けられている。
上記訂正事項bは、請求項5を削除し、請求項6の請求項番号を繰り上げるもので、訂正事項cは、請求項7の請求項番号を繰り上げ、請求項6とすると共に、引用する請求項を「請求項1〜請求項5のいずれかに記載の」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
又該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)上記訂正事項d〜h、j〜tは、上記特許請求の範囲の訂正に基づき訂正後の請求項と整合するよう発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、又上記訂正事項i、uは、明らかな引用請求項番号の誤記、明らかな表番号の誤記を正す誤記の訂正に該当する。又該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立てについての判断
特許異議申立人は、甲第1号証(特開平7-231161号公報)を提出し、訂正前の請求項1〜4、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜4、7に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号、又は同条第2項の規定に違反して特許されたものであると主張する。
しかしながら、訂正前の請求項1〜4は、訂正前の請求項5の記載内容、即ち特許異議の申立てられていない訂正前の請求項5の構成をそのまま取込んで、更に構成を限定して新たな訂正後の請求項1〜4となったものであり、又訂正前の請求項7は、請求項番号が繰り上がり請求項6となり、更に訂正前の請求項1〜6を引用するものから、訂正後の請求項1〜5を引用するものとなり、実質的に特許異議の申立てられていない訂正前の請求項5、6を引用するものに訂正されたものである。
よって、訂正後の請求項1〜4、6は、特許異議の申立てられていない訂正前の請求項5、6を含んだものに実質的になったといえる。
そうすると、実質的に特許異議の申立ての対象が存在しないこととなるので、この特許異議の申立ては、不適法な申立てであって、その補正をすることができないものである。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本件特許異議の申立ては、特許法第120条の6第1項で準用する第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
表面処理銅箔の製造方法及びその製造方法で得られた表面処理銅箔を用いた銅張積層板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものであるプリント配線板用銅箔の表面処理方法において、
防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、
電解クロメートメッキ後に銅箔表面を乾燥させ、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/l、クロム酸0.1〜2g/l含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、電解銅箔自体の温度が105℃〜180℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥するものである表面処理銅箔の製造方法。
【請求項2】 銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものであるプリント配線板用銅箔の表面処理方法において、
防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、
当該電解クロメートメッキを行った表面を乾燥させることなく、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/l、クロム酸0.1〜2g/l含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、その後に電解銅箔自体の温度が110℃〜200℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥させるものである表面処理銅箔の製造方法。
【請求項3】 銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものである電解銅箔の表面処理方法において、
粗化処理面の形成は、析離箔の表面に微細銅粒を析出させ、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキを行い、極微細銅粒を析出付着させ、
防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、
電解クロメートメッキ後に銅箔表面を乾燥させ、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/l、クロム酸0.1〜2g/l含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、電解銅箔自体の温度が105℃〜180℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥させるものである表面処理銅箔の製造方法。
【請求項4】 銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものである電解銅箔の表面処理方法において、
粗化処理面の形成は、析離箔の表面に微細銅粒を析出させ、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキを行い、極微細銅粒を析出付着させ、
防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、
当該電解クロメートメッキを行った表面を乾燥させることなく、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/l、クロム酸0.1〜2g/l含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、その後に電解銅箔自体の温度が110℃〜200℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥させるものである表面処理銅箔の製造方法。
【請求項5】 極微細銅粒は、9-フェニルアクリジンを添加した銅電解液を用いて析出付着させるものである請求項3又は請求項4に記載の表面処理銅箔の製造方法。
【請求項6】 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の表面処理銅箔の製造方法で得られた表面処理銅箔を用いた銅張積層板。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、防錆処理を施した表面処理銅箔の製造方法及びこの製造方法で得られた表面処理銅箔を用いた銅張積層板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、表面処理銅箔は、広く電気、電子産業の分野で用いられるプリント配線板製造の基礎材料として用いられてきた。一般に、電解銅箔はガラス-エポキシ基材、フェノール基材、ポリイミド等の高分子絶縁基材と熱間プレス成形にて張り合わされ銅張積層板とし、プリント配線板製造に用いられる。
【0003】
このプリント配線板において、基本的な性能として、耐塩酸性、耐湿性及び耐熱性等が要求される。中でも、耐塩酸性は特に重要で、耐薬品性の一種であり、耐酸性と言い換えられる場合もある。従って、耐塩酸性の改良に関しては、銅箔の歴史上、常に改良、品質の向上が求められてきたものでもある。
【0004】
従来、耐塩酸性を考える上では、銅箔に施される防錆の種類を考慮して耐塩酸性の改良方法等を定めなければならず、防錆の種類に応じて、種々の耐塩酸性の改良に関する研究が行われてきた。
【0005】
例えば、耐熱性に優れると言われるが、耐塩酸性には欠如すると言われる銅-亜鉛の真鍮組成を防錆層に持つ銅箔に関しては、特開平4-41696に見られるような改良が施されている。
【0006】
また、銅-亜鉛-ニッケル合金防錆層を有する銅箔に関しては、特開平4-318997,特開平7-321458に耐塩酸性の改善に関する研究が開示されている。
【0007】
更に、特開平4-318997には、亜鉛-銅-錫合金メッキ層とクロメート層とを防錆層として形成した表面処理銅箔は、プリント配線板を製造した際の耐熱特性(通称、UL特性)、及び耐薬品性(特に、耐塩酸性)に優れたプリント配線板用銅箔として開示されている。
【0008】
ここで言う耐塩酸性の評価は、銅箔回路を形成したプリント配線板を、所定の濃度の塩酸溶液中に一定時間浸漬し、張り合わされた銅箔と基材との界面にどのくらい塩酸溶液が進入し浸食するかを定量評価するため、塩酸浸漬前と塩酸浸漬後との銅箔回路のそれぞれの引き剥がし強さを測定し、その引き剥がし強さの劣化率を換算し評価値とするものである。
【0009】
このプリント配線板用銅箔の耐塩酸性は、一般にプリント配線板に用いられる回路幅が微細となるほど、良好な品質が求められる。即ち、耐塩酸性劣化率が大きな値となるとプリント配線板の銅箔と基材との界面に溶液が進入しやすく、銅箔と基材との接合界面を浸食しやすいことになり、これは、プリント配線板の製造工程で様々の酸性溶液に晒される結果、銅箔回路が剥離する危険性が高くなることを意味するものである。
【0010】
近年の電子、電気機器の軽薄短小化の流れの中では、その内部に納められるプリント配線板にも軽薄短小化の要求が行われ、形成する銅箔回路の幅もより微細化するものになっている。従って、より良好な耐塩酸性がプリント配線板材料である銅箔には求められ続けてきた。
【0011】
上述の文献で開示された銅箔を、本件発明者等が試験的に製造し、1mm幅の銅箔回路を持って耐塩酸性試験を行ってみたが、確かに開示された内容と同様の結果が得られている。ただ、これらの出願がなされた時点において、耐塩酸性の評価は、1mm幅の銅箔回路を持って行われるのが一般的であり、当該明細書中に明確な記載が無く、はっきりとしたことは分からないが、1mm幅回路で評価したものと推測している。また、以下に述べる公開公報等に見られるように、基材と張り合わせる銅箔面をシランカップリング剤処理することで耐塩酸性を向上させる手法も試みられてきた。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述した公報に開示され試験的に製造した銅箔を用いて、0.2mm幅銅箔回路を形成し、耐塩酸性試験を行ってみると殆ど15%以上の劣化率となることが判明した。最近の銅箔の耐塩酸性試験では、0.2mm幅程度の銅箔回路を用いての評価でなければ、近年の銅箔回路の微細化に伴う製品の品質安定性を確保し得ないと言われてきた。例えば、1mm幅銅箔回路を用いて測定した耐塩酸性劣化率が3.0%程度のものであっても、0.2mm幅銅箔回路とすると10%を越える劣化率を示したり、場合によっては、20%以上の値を示す場合が生ずる場合もある。即ち、従来の1mm幅銅箔回路を用いる試験方法では、ファインピッチ用銅箔としての品質保証は、出来ないことになるのである。
【0013】
一方、シランカップリング剤に関しては、銅張積層板となった状態では、金属である銅箔の表面に形成した防錆層と有機材である各種基材との間にシランカップリング剤が位置することになるものである。ところが、銅箔に関するシランカップリング剤の使用方法等に関する研究は十分に行われてこなかった。従来より、いくつかのシランカップリング剤を用いた銅箔に関する出願も見受けられる。
【0014】
例えば、特公昭60-15654号、特公平2-19994号にも、銅箔表面に亜鉛又は亜鉛合金層を形成し、当該亜鉛又は亜鉛合金層の表面にクロメート層を形成し、そのクロメート層の上にシランカップリング層を形成した銅箔が開示されている。明細書の全体を参酌して判断するに、この出願において、特徴的なことは、クロメート層を形成した後に乾燥処理を行い、その後シランカップリング剤処理を行うというものである。ところが、本件発明者等は、ここに開示された方法で試験的に銅箔を作成しても、その銅箔は安定して期待通りの性能は示さず、ある特定の要因をコントロールしなければ、銅箔としての性能品質、特に耐塩酸性及び耐吸湿性にバラツキが大きくなることに気づいた。
【0015】
また、特公平2-17950号には、シランカップリング剤で処理した銅箔を用いて耐塩酸性の改良が可能なことが記載されている。ところが、耐湿性に関しては特に触れられていない。近年の、プリント配線板の形成回路の微細化、プリント配線板の多層化、半導体パッケージの分野で、耐湿性に劣る銅張積層板を用いた多層プリント配線板の層間剥離現象であるデラミネーション、半導体パッケージのプレッシャークッカー特性に問題が生じることが明らかにされ、大きな問題となっている。
【0016】
更に、本件発明者等は、表面処理銅箔が製造されてから、時々刻々とその耐塩酸性、耐湿性及び耐熱性という品質が変化していくことを見いだした。この変化を、簡単に説明すると、表面処理銅箔の製造直後の品質は、経時的に維持されるものではなく、時間経過と共に劣化していくのである。表面処理銅箔は、銅箔製造メーカーにおいて製造され、銅張積層板メーカーに納入され、銅張積層板の製造に供されるのである。通常、銅張積層板メーカーに納入された表面処理銅箔は、直ぐに銅張積層板メーカーで消費されるものでなく、原料在庫として一定期間保管されるのが常である。従って、現実に銅張積層板の製造に表面処理銅箔が用いられる時点での銅箔の性能は、製造直後に銅箔製造メーカーの出荷検査で測定した各種測定値と異なる測定値となっているものと考えられる。
【0017】
以上のことから、銅箔の亜鉛又は亜鉛合金層とその表面のクロメート層とからなる防錆層の上に、シランカップリング剤層を形成されることを考えれば、シランカップリング剤と防錆層との組み合わせ方、シランカップリング剤の吸着処理する際の防錆層の表面状態、及び乾燥条件等を考慮して、用いたシランカップリング剤の効果を最大限に引き出すための研究がなされていなかったものと考えられた。
【0018】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明に係る発明者等は鋭意研究の結果、亜鉛又は亜鉛合金防錆層と電解クロメート防錆層とを有する銅箔に用いるシランカップリング剤の効果を最大限に引き出すことにより、品質の経時的劣化を最小限に止め、0.2mm幅銅箔回路の耐塩酸性劣化率が安定して10%以下の値とすることのできる表面処理銅箔であって、同時に耐湿性及び耐熱性に優れたトータルバランスの良い銅箔を用いた銅張積層板の供給を目指したのである。そのためには、銅箔のカップリング剤処理する前の防錆層の状態が最も重要であり、加えてシランカップリング剤による処理のタイミング及びその後の乾燥条件を考慮することが重要であることが判明し、本件発明者等は以下の発明を行うに到ったのである。
【0019】
本件発明に係る製造方法の説明の理解を容易にするため、当該製造方法で得られる表面処理銅箔の説明を最初に行うこととする。本件発明に係る製造方法で得られる表面処理銅箔には2種類に大別できる。その一つは、「銅箔の表面に対する粗化処理と防錆処理とを行った表面処理銅箔であって、当該防錆処理は、銅箔表面に亜鉛又は亜鉛合金メッキ層を形成し、当該メッキ層の表面に電解クロメート層を形成し、当該電解クロメート層の上にクロムイオンを含有させたシランカップリング剤吸着層を形成し、電解銅箔自体の温度を105℃〜200℃の範囲とし2〜6秒間乾燥させることにより得られるプリント配線板用の表面処理銅箔」である。
【0020】
そして、二つめは、「銅箔の表面に粗化処理と防錆処理とを行った表面処理銅箔であって、当該粗化処理は、析離箔の表面に微細銅粒を析出させ、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキを行い、更に、極微細銅粒を析出付着させるものであり、当該防錆処理は、銅箔表面に亜鉛又は亜鉛合金メッキ層を形成し、当該メッキ層の表面に電解クロメート層を形成し、当該電解クロメート層の上にクロムイオンを含有させたシランカップリング剤吸着層を形成し、電解銅箔自体の温度が105℃〜200℃の範囲とし2〜6秒間乾燥させることにより得られるプリント配線板用の表面処理銅箔」である。
【0021】
この2つの表面処理銅箔の違いは、基材に張り付けた際のアンカーとなる微細銅粒の形状に違いを有するものであり、図1に示す通りである。図1(a)が前者の表面処理銅箔の模式断面構造を示すものである。バルク銅の表面にヤケメッキ条件で微細銅粒を形成し、その微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキを行ったものである。ここで言う被せメッキは、銅を均一メッキ条件で析出させるものである。これに対し、図1(b)に示す後者の表面処理銅箔の模式断面構造は、前者の表面処理銅箔の被せメッキの上に、更に、細かな極微細銅粒(当業者間では、「ヒゲメッキ」と称される場合がある。)を付着形成した点にある。この極微細銅粒の形成には、含砒銅メッキが一般的に用いられる。なお、図1では、防錆層及びシランカップリング剤吸着層の記載は省略している。
【0022】
後者の表面処理銅箔のように、粗化処理として、極微細銅粒を形成すると、表面形状としての微細な凹凸形状が付与され、有機材である基材との密着性をより高めることが可能となる。従って、前者の表面処理銅箔以上の基材との密着性の確保が可能となるのである。
【0023】
前者に記載の表面処理銅箔の製造方法としては、請求項1及び請求項2に記載した製造方法を採用することが望ましい。請求項1に記載の表面処理銅箔の製造方法は、銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものであるプリント配線板用銅箔の表面処理方法において、防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、電解クロメートメッキ後に銅箔表面を乾燥させ、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/l、クロム酸0.1〜2g/l含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、電解銅箔自体の温度が105℃〜180℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥することで表面処理銅箔を得るものである。
【0024】
請求項2に記載の表面処理銅箔の製造方法は、銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものであるプリント配線板用銅箔の表面処理方法において、防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、当該電解クロメートメッキを行った表面を乾燥させることなく、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/l、クロム酸0.1〜2g/l含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、その後に電解銅箔自体の温度が110℃〜200℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥することで表面処理銅箔を得るものである。
【0025】
この請求項1と請求項2とに記載の表面処理銅箔の製造方法の違いは、防錆処理として行う電解クロメートメッキの終了後の銅箔表面を乾燥させてクロムイオンを含有させたシランカップリング剤の吸着処理を行うか、乾燥させることなく当該吸着処理をおこなうかのちがいがある。以下で、データを示しつつ説明するが、請求項2の「乾燥させることなくクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ乾燥させる製造方法」で得られた表面処理銅箔の方が、耐塩酸性に関する品質としては安定しているのである。
【0026】
次に、前述した後者の表面処理銅箔の製造方法としては、請求項3及び請求項4に記載した製造方法を採用することが望ましい。請求項3に記載の製造方法は、銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものである電解銅箔の表面処理方法において、粗化処理面の形成は、析離箔の表面に微細銅粒を析出させ、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキを行い、極微細銅粒を析出付着させ、防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、電解クロメートメッキ後に銅箔表面を乾燥させ、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/l、クロム酸0.1〜2g/l含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、電解銅箔自体の温度が105℃〜180℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥することで表面処理銅箔を得るものである。
【0027】
そして、請求項4に記載の製造方法は、銅箔の表面に、粗化処理面を形成し、防錆処理を施し、粗化処理面にシランカップリング剤を吸着させ、乾燥するものである電解銅箔の表面処理方法において、粗化処理面の形成は、析離箔の表面に微細銅粒を析出させ、微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキを行い、極微細銅粒を析出付着させ、防錆処理は亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行い、続いて電解クロメートメッキを行うものであり、当該電解クロメートメッキを行った表面を乾燥させることなく、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/l、クロム酸0.1〜2g/l含有したクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ、その後に電解銅箔自体の温度が110℃〜200℃の範囲になる高温雰囲気内で2〜6秒間維持することで乾燥することで表面処理銅箔を得るものである。
【0028】
この請求項3と請求項4とに記載の表面処理銅箔の製造方法の違いは、防錆処理として行う電解クロメートメッキの終了後の銅箔表面を乾燥させてクロムイオンを含有させたシランカップリング剤の吸着処理を行うか、乾燥させることなく当該吸着処理をおこなうかの違いがある点において、請求項1と請求項2との関係と同様である。ところが、請求項1及び請求項2との根本的な違いは、請求項1及び請求項2の粗化処理面の形成が、微細銅粒を付着形成する工程及び微細銅粒の脱落防止のための被せメッキを行う工程とからなるのに対し、請求項3及び請求項4に記載の表面処理銅箔の製造方法では、前記被せメッキの工程の終了後に、更に極微細銅粒を析出付着させる工程が存在する点にある。以下で、データを示しつつ説明するが、極微細銅粒を形成した場合でも、「乾燥させることなくクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を吸着させ乾燥させる製造方法」で得られた表面処理銅箔の方が、耐塩酸性に関する品質としては、より安定しているのも上述と同様である。
【0029】
以下、請求項1〜請求項4に記載の製造方法について主に述べつつ、結果として得られる表面処理銅箔をも説明することとする。特に示さない限り、各工程等の条件等は共通する内容のものである。本件発明に係る表面処理銅箔は、ドラム形状をした回転陰極と、当該回転陰極の形状に沿って配置した鉛系陽極との間に銅電解液を流し、電解することで回転陰極の上に銅薄膜を形成し、これを剥ぎ取ることで得られるバルク銅層(箔)を用いて、粗化処理、防錆処理、クロムイオンを含有させたシランカップリング剤処理を表面処理として行い得られるものである。また、バルク銅層は、銅インゴットから、圧延法により箔状とした、いわゆる圧延銅箔として得ることも可能である。以上及び以下では、このバルク銅層(箔)のことを、単に「銅箔」と称する場合があり、説明をより分かり安くするよう、使い分けを行う場合がある。
【0030】
ここでは表面処理工程を順を追って説明する。本件発明に係る表面処理銅箔を得るためには、一般的に表面処理機と称する装置を用いる。ロール状に巻き取られたバルク銅箔を一方向から巻きだし、当該バルク銅箔が、適宜水洗処理槽を配した表面処理工程として、連続配置した酸洗処理槽、バルク銅層の表面に微細銅粒を形成する粗面化処理槽、真鍮防錆処理槽、電解クロメート防錆処理槽、シランカップリング剤吸着槽及び乾燥処理部のそれぞれを通過することにより、表面処理銅箔となるものである。
【0031】
具体的には、図2の表面処理機の模式断面図として示すように、巻き出されたバルク銅箔が、表面処理機内を蛇行走行しつつ、各槽内及び工程等を連続して通過する装置を用いるのであるが、それぞれの工程を分離したバッチ方法として行っても構わない。
【0032】
酸洗処理槽とは、バルク銅箔のいわゆる酸洗処理を行う工程であり、キャリア箔に付いた油脂成分を完全に除去する脱脂処理及び金属箔を用いた場合の表面酸化被膜除去を目的に行うものである。この酸洗処理槽にバルク銅箔を通過させることで、バルク銅箔の清浄化を図り、以下の工程での均一電着等を確保するのである。この酸洗処理には、塩酸系溶液、硫酸系溶液、硫酸-過酸化水素系溶液等種々の溶液を用いることが可能で、特に限定する必要性はない。そして、その溶液濃度や液温等に関しては、生産ラインの特質に応じて調整すれば足りるものである。
【0033】
酸洗処理が終了し、水洗槽を通過したバルク銅箔は、バルク銅箔の上に微細銅粒を析出付着させる工程に入る。ここで用いる銅電解溶液には、特に限定はないが、銅の微細粒を析出させなければならないため、ここでの電解条件はヤケメッキの条件が採用される。従って、一般的に微細銅粒を析出付着させる工程で用いる溶液濃度は、バルク銅箔を形成する場合に用いる溶液濃度に比べ、ヤケメッキ条件を作り出しやすいよう、低い濃度となっている。このヤケメッキ条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。例えば、硫酸銅系溶液を用いるのであれば、濃度が銅5〜20g/l、硫酸50〜200g/l、その他必要に応じた添加剤(α-ナフトキノリン、デキストリン、ニカワ、チオ尿素等)、液温15〜40℃、電流密度10〜50A/dm2の条件とする等である。
【0034】
微細銅粒の脱落を防止するための被せメッキ工程では、析出付着させた微細銅粒の脱落を防止するために、平滑メッキ条件で微細銅粒を被覆するように銅を均一析出させるための工程である。従って、微細銅粒を析出させる場合に比べ濃い濃度の銅電解液が用いられる。この平滑メッキ条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。例えば、硫酸銅系溶液を用いるのであれば、濃度が銅50〜80g/l、硫酸50〜150g/l、液温40〜50℃、電流密度10〜50A/dm2の条件とする等である。
【0035】
ここで、前述した後者の表面処理銅箔を製造するための請求項3及び請求項4に記載の製造方法の場合、極微細銅粒の形成が行われる この極微細銅粒の形成には、一般に砒素を含んだ銅電解液が用いられる。係る場合の電解条件の一例を挙げれば、硫酸銅系溶液であって、濃度が銅10g/l、硫酸100g/l、砒素1.5g/l、液温38℃、電流密度30A/dm2とする等である。
【0036】
しかしながら、近年の環境問題の盛り上がりより、人体に影響を与える可能性の高い有害元素を極力排除しようとする動きが高まっている。そこで、本件発明における微細銅粒の形成に関しては、請求項5に記載したように、砒素に代え、9-フェニルアクリジンを添加した銅電解液を用いることとした。9-フェニルアクリジンは、銅電解の場において、砒素の果たす役割と同様の役割を果たし、析出する微細銅粒の整粒効果と、均一電着を可能とするものである。9-フェニルアクリジンを添加した極微細銅粒を形成するための銅電解液としては、濃度が銅5〜10g/l、硫酸100〜120g/l、9-フェニルアクリジン50〜300mg/l、液温30〜40℃、電流密度20〜40A/dm2が極めて安定した電解操業を可能とすることの出来る範囲となる。
【0037】
次の防錆処理槽では、銅張積層板及びプリント配線板の製造過程で支障をきたすことの無いよう、電解銅箔層の表面が酸化腐食することを防止するための表面処理を行う工程である。本件発明に係る防錆処理は、亜鉛又は亜鉛合金組成のメッキと、電解クロメートメッキとを併用することで行っている。当初から銅を含む亜鉛合金には、亜鉛-銅、亜鉛-銅-ニッケル、亜鉛-銅-錫等を用いることが可能である。
【0038】
亜鉛メッキを行う場合の条件は、以下の通りである。亜鉛メッキ浴に特に限定はないが、硫酸亜鉛浴を用いる場合、亜鉛5〜30g/l、硫酸50〜150g/l、液温30〜60℃、電流密度10〜15A/dm2、電解時間3〜10秒の条件を採用する等である。以下、当初から銅を含む亜鉛合金メッキを行う場合の条件について説明する。
【0039】
例えば、亜鉛-銅の真鍮組成のメッキを行う場合は、ピロ燐酸系メッキ浴等を用いることが可能である。この浴を構成する溶液は、その長期安定性及び電流安定性に優れているからである。一例として、濃度が亜鉛2〜20g/l、銅1〜15g/l、ピロ燐酸カリウム70〜350g/l、液温30〜60℃、pH9〜10、電流密度3〜8A/dm2、電解時間5〜15秒の条件を採用するのである。
【0040】
例えば、亜鉛-銅-ニッケルの3元合金組成のメッキを行う場合は、ピロ燐酸系メッキ浴等を用いることが可能である。一例として、濃度が亜鉛2〜20g/l、銅1〜15g/l、ニッケル0.5〜5g/l、ピロ燐酸カリウム70〜350g/l、液温30〜60℃、pH9〜10、電流密度3〜8A/dm2、電解時間5〜15秒の条件を採用するのである。
【0041】
例えば、亜鉛-銅-錫の3元合金組成のメッキを行う場合は、ピロ燐酸系メッキ浴等を用いることが可能である。これらの浴を構成する溶液は、その長期安定性及び電流安定性に優れているからである。一例として、濃度が亜鉛2〜20g/l、銅1〜15g/l、錫0.5〜3g/l、ピロ燐酸カリウム70〜350g/l、液温30〜60℃、pH9〜10、電流密度3〜8A/dm2、電解時間5〜15秒の条件を採用するのである。
【0042】
ここで示した条件を用いることで、亜鉛-銅メッキ層は亜鉛70〜20重量%、銅30〜70重量%の組成範囲となり、亜鉛-銅-ニッケルの3元合金のメッキ層は亜鉛66.9〜20重量%、銅30〜70重量%、ニッケル0.1〜10重量%となり、亜鉛-銅-錫の3元合金のメッキ層は亜鉛66.9〜28重量%、銅30〜70重量%、錫ニッケル0.1〜2重量%の範囲の組成を持つこととなるのである。この組成領域の亜鉛合金メッキ層に対して、電解クロメート処理を施し、シランカップリング剤を吸着させ、以下に述べる乾燥条件で、乾燥させることが最も耐塩酸性を向上させるために効果的と判断できたためである。また、この範囲の亜鉛合金メッキは、銅箔表面に最も安定してメッキすることの出来る範囲のものであり、製品歩留まりを考慮しても理想的な範囲である。
【0043】
亜鉛又は当初から銅を含む亜鉛合金メッキの後に水洗して、電解クロメート層を形成するのである。このときの電解条件は、特に限定を有するものではないが、クロム酸3〜7g/l、液温30〜40℃、pH10〜12、電流密度5〜8A/dm2、電解時間5〜15秒の条件を採用するのが好ましい。電解銅箔の表面を均一に被覆するための範囲条件である。
【0044】
そして、請求項1に記載した表面処理銅箔の製造方法では、電解クロメート層を形成したバルク銅箔の表面を一旦乾燥させ、水を主溶媒とし、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/l、クロム酸0.1〜2g/l含有したクロムイオンを含有したシランカップリング剤の吸着処理を行うことになる。このときは、表面処理機内に、電解クロメート層を形成し、水洗した後に、一旦乾燥工程を設けることになる。これに対し、請求項2に記載の表面処理銅箔の製造方法では、電解クロメート層を形成し、水洗した後に、バルク銅箔の表面を乾燥させること無く、直ちにシランカップリング剤の吸着処理を行うのである。
【0045】
このときのクロムイオンを含有したシランカップリング剤の吸着方法は、浸漬法、シャワーリング法、噴霧法等、特に方法は限定されない。工程設計に合わせて、最も均一に銅箔とクロムイオンを含有したシランカップリング剤を含んだ溶液とを接触させ吸着させることのできる方法を任意に採用すれば良いのである。
【0046】
本件発明に言う「クロムイオンを含有したシランカップリング剤」は、水を主溶媒とし、シランカップリング剤としてオレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを0.5〜10g/l含有するものとし、クロムイオンの供給源にはクロム酸0.1〜2g/lをもちいるものであり、この条件を請求項1〜請求項4に記載の表面処理銅箔の製造方法に用いるのである。ここに列挙したシランカップリング剤は、銅箔の基材との接着面に使用しても、後のエッチング工程及びプリント配線板となった後の特性に悪影響を与えない事ことが重要となる。
【0047】
より具体的には、プリント配線板用にプリプレグのガラスクロスに用いられると同様のカップリング剤を中心にビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4-グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-3-(4-(3-アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることが可能である。
【0048】
これらのシランカップリング剤は、溶媒としての水に0.5〜10g/l濃度となるように溶解させて、室温レベルの温度で用いるものである。シランカップリング剤は、銅箔の防錆処理層上にあるOH基と縮合結合することにより、被膜を形成するものであり、いたずらに濃い濃度の溶液を用いても、その効果が著しく増大することはない。従って、本来は、工程の処理速度等に応じて決められるべきものである。但し、0.5g/lを下回る場合は、シランカップリング剤の吸着速度が遅く、一般的な商業ベースの採算に合わず、吸着も不均一なものとなる。また、10g/lを越える以上の濃度であっても、特に吸着速度が速くなることもなく、耐塩酸性等の性能品質を特に向上させるものでもなく、不経済となるからである。そして、このシランカップリング剤へのクロムイオンの添加は、クロム酸濃度が0.1〜2g/lの濃度となるように加えるのである。この添加量が0.1g/lより少ない場合は、クロム添加の効果が十分に現れず。2g/lを超える添加量を加えても本件発明に係る表面処理銅箔の性能を更に向上させることは出来ないからである。
【0049】
このクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を用いると、電解クロメート処理の終了後に銅箔表面を乾燥させた場合とそうでない場合とで、銅箔の耐塩酸性等の値がほぼ同等の値となり、シランカップリング剤を吸着させる前の銅箔表面の状態による影響を受けなくなるものと考えられるのである。これに対し、単にシランカップリング剤を吸着させようとすると、電解クロメート処理の終了後に銅箔表面を乾燥させない方が、シランカップリング剤の吸着がうまくでき、銅箔性能として見ても良好であるとの結果が得られている。表1にこの対比を示す。
【0050】
【表1】

【0051】
更に、このクロムイオンを含有させたシランカップリング剤を用いると、耐塩酸等の銅箔品質の経時劣化を抑制することが可能となるのである。この経時劣化について、クロムイオンを含まない単なるシランカップリング剤を用いた銅箔と比較して表2に示した。この表2から分かるように、単なるシランカップリング剤を用いた銅箔の経時劣化は、表面処理銅箔としての製造後7日頃から徐々に性能劣化が開始するのに対し、クロムイオンを含有させたシランカップリング剤を用いた銅箔は、製造後60日経過した時点まで性能劣化は少なく、その後徐々に劣化が進行していると判断できる。従って、クロムイオンを含有させたシランカップリング剤を用いた銅箔は、長期に渡って、製造直後の品質の維持が可能と判断できるのである。
【0052】
【表2】

【0053】
クロムイオンを含有したシランカップリング剤による処理が終了し、最後に行う乾燥は、単に水分を除去するだけでなく、吸着したシランカップリング剤と防錆処理層の表面にあるOH基との縮合反応を促進させ、縮合の結果生じる水分をも完全に蒸発させるものでなければならない。一方、この乾燥温度は、基材と接合する際に基材を構成する樹脂と結合するシランカップリング剤の官能基を破壊若しくは分解する温度を採用する事はできない。シランカップリング剤の基材樹脂との接着に関与する官能基が破壊若しくは分解すると、銅箔と基材との密着性が損なわれ、シランカップリング剤の吸着による効果を最大限に引き出すことができなくなるからである。
【0054】
特に銅箔は金属材であり、シランカップリング剤が一般的に用いられるガラス材、プラスチック等の有機材等に比べ、熱伝導速度が速く、表層に吸着したクロムイオンを含有したシランカップリング剤も、乾燥時の雰囲気温度、熱源からの輻射熱による影響を極めて強く受けやすくなる。従って、衝風方式のように、極めて短時間で、銅箔に吹き付ける風温より、銅箔自体の温度が高くなる場合は、特別の注意を払って乾燥条件を定めなければならない。
【0055】
従来は、乾燥炉内の雰囲気温度若しくは衝風温度のみを考慮した乾燥を行っていたが、本件発明では、一貫して、箔自体の温度のコントロールを目的とし、加熱炉内を2〜6秒の範囲で通過する程度の乾燥が望ましいものとしている。従って、乾燥方法は、電熱器を使用するものであっても、衝風法であっても、特に制限はない。箔自体の温度を所定の領域にコントロール出来ればよいのである。本件発明のように、乾燥時間及び乾燥温度に一定の幅を持たせたのは、表面処理銅箔の製造速度が異なる場合や、銅箔の厚さにより銅箔自体の温度の上昇速度等に僅かな相違が生じるためであり、この範囲内で、製品種別に応じた現実の操業条件を決定することになる。
【0056】
乾燥条件の中で、電解クロメート処理後の乾燥温度が、バルク銅箔を乾燥してクロムイオンを含有したシランカップリング剤で処理する場合と、バルク銅箔を乾燥処理することなくクロムイオンを含有したシランカップリング剤で処理する場合とで異なるものとしているのは、銅箔の粗化面側に形成したシランカップリング剤層の基材と接着する側の官能基が、破壊若しくは分解されることなく、銅箔表面に対するシランカップリング剤の固定が十分に行える温度領域が双方で異なるためである。
【0057】
即ち、請求項1及び請求項3に記載した製造方法のように、バルク銅箔を一旦乾燥させた状態でクロムイオンを含有したシランカップリング剤で処理して再度乾燥する場合には、乾燥工程での高温雰囲気内で供給される熱量の多くが、シランカップリング剤の電解クロメート層上での縮合反応に用いられることになる。これに対し、請求項2及び請求項4に記載の製造方法を持って製造する際には、電解クロメート層を形成した後、水洗が行われ、乾燥させることなくクロムイオンを含有したシランカップリング剤層を形成して、その後乾燥させるものである。従って、電解クロメート層を形成した後一旦乾燥させ、クロムイオンを含有したシランカップリング剤を塗布して乾燥させる手法に比べれば、乾燥時に余分な水が銅箔表面に残留していることになる。このため、乾燥時の銅箔温度は、雰囲気温度から伝達される熱量の内、水分の蒸発に用いられる熱量が大きくなるため、200℃程度まで雰囲気温度を高くしても、シランカップリング剤の官能基の破壊若しくは分解に繋がる余分な熱量が生じなくなるものと考えられる。このようにすることで、シランカップリング剤の基材と結合する側の官能基の破壊を、より確実に防止し、表面処理銅箔としての品質安定性を向上させることが出来るようになるのである。
【0058】
これを裏付けるものとして、乾燥時間は4秒で固定し、乾燥温度を変化させた際の本件発明に係る製造方法を用いて得られた35μm厚の表面処理銅箔を製造し、これらの銅箔を用いてFR-4銅張積層板を製造し、0.2mm幅回路を作成し、その引き剥がし強度の評価を行った結果を表3〜表6に示した。
【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
以上の表3〜表6に記載した内容に関し共通することは、常態の引き剥がし強度、半田後引き剥がし強度に関しては、いずれの試料にも大きな差異は見られない。ところが、耐塩酸性及び耐湿性に関しては、クリティカルに劣化率が変化する温度が存在し、適正な乾燥温度帯が確認できるのである。この適正温度領域において製造した表面処理銅箔は、従来にないほど極めて安定した耐塩酸性劣化率及び耐吸湿性劣化率を示すのである。耐塩酸性劣化率は、試験用回路を作成し、直ぐに測定した常態引き剥がし強さから、各表中に記載した塩酸処理後にどの程度の引き剥がし強度の劣化が生じているかを示すものであり、[耐塩酸性劣化率]= ([常態引き剥がし強さ]-[塩酸処理後の引き剥がし強さ])/[常態引き剥がし強さ]の計算式で算出したものである。耐湿性劣化率は、試験用回路を作成し、直ぐに測定した常態引き剥がし強さから、各表中に記載した吸湿処理後にどの程度の引き剥がし強度の劣化が生じているかを示すものであり、[耐湿性劣化率]= ([常態引き剥がし強さ]-[吸湿処理後の引き剥がし強さ])/[常態引き剥がし強さ]の計算式で算出したものである。従って、これらの劣化率が小さな値であるほど、表面処理銅箔としては、優れた性能品質を有すると言うことになる。
【0064】
また、表3と表4、表5と表6のそれぞれの比較から、電解クロメート処理後のバルク銅箔表面を乾燥させることなく、シランカップリング剤処理した表面処理銅箔でも、電解クロメート処理後のバルク銅箔表面を一旦乾燥させてシランカップリング剤処理した表面処理銅箔でも耐塩酸性及び耐湿性に大きな差異はなく、双方ともシランカップリング剤の効果を十分に引き出しているものと考えられる。
【0065】
この表3と表4、表5と表6のそれぞれの比較から、更に分かるのは、一旦乾燥させてシランカップリング剤処理を行う場合の適正な温度領域は、箔自体の乾燥温度(表中では箔温度と称している。)が、105℃〜180℃の範囲で、耐塩酸性及び耐湿性が良好になるということである。これに対し、乾燥させることなくシランカップリング剤処理を行う場合は、110℃〜200℃の範囲で良好な耐塩酸性及び耐湿性能を示しており、乾燥させた場合に比べ、やや高い温度範囲の設定が可能となる。それぞれの下限値を下回る箔温度では、シランカップリング剤が十分に銅箔表面に固定されていない状態が形成され、基材との密着性を損なうものとなり、それぞれの箔温度の上限値を超える温度とすると、シランカップリング剤の基材と結びつくこととなる官能基が破壊又は分解されることとなり、基材との密着性を損なう結果となり、耐塩酸性及び耐吸湿性の劣化率の値を悪くさせるものとなると考えられるのである。
【0066】
更に、表3と表5、表4と表6のそれぞれの比較から、粗化処理の際に、被せメッキの後に、極微細銅粒を付着形成した表面処理銅箔を用いる方が、耐塩酸性及び耐湿性に優れていることが分かる。これは、表面処理銅箔の粗化形状の持つアンカー効果が向上することで、基材との密着性が向上した結果と考えられる。
【0067】
以上のようにして本件発明に係る表面処理銅箔が製造され、上述の方法で製造された銅箔は、銅張積層板とした際に、極めて安定した耐塩酸性及び耐湿性を示すため、請求項6に記載したように、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の表面処理銅箔の製造方法で得られた表面処理銅箔を用いた銅張積層板は、その品質安定性が極めて向上し、エッチングプロセスにおいて高い信頼性を確保することが可能となる。
【0068】
ここでいう銅張積層板とは、片面基板、両面基板及び多層基板の全ての層構成の概念を含み、しかも基材材質は、リジット系の基板に限らず、いわゆるTAB、COB等の特殊基板をも包含するフレキシブル基板、ハイブリッド基板等の全てを含むものである。
【0069】
【発明の実施の形態】
以下、図1、図2及び図3を参照しつつ、本発明に係る表面処理銅箔1の製造方法及びその製造方法で製造した表面処理銅箔1を用いた銅張積層板を製造し、その評価結果を示すことにより、発明の実施の形態について説明する。ここではバルク銅箔2に電解銅箔を用いた場合を例に取り説明するものとする。
【0070】
第1実施形態: 本実施形態においては、表面処理機3を用いて、バルク銅箔2の表面処理を行った。バルク銅箔2は巻き取ったロール状態で用いた。そして、ここで用いた表面処理機3は、図2として示したものであり、巻き出されたバルク銅箔2が、表面処理機3内を蛇行走行するタイプのものである。ここでは、バルク銅箔2は、公称厚さ35μm厚のグレード3のプリント配線板用電解銅箔の製造に用いるものを使用した。以下、各種の槽を連続配置した順序に従って、製造条件等の説明を行う。なお、説明に当たり図2の表面処理箔の模式断面図を参照しつつ説明するものとする。
【0071】
巻き出された電解銅箔2は、最初に酸洗処理槽4に入る。酸洗処理槽4の内部には濃度150g/l、液温30℃の希硫酸溶液が満たされており、浸漬時間30秒として、バルク銅箔2に付いた油脂成分を除去すると共に、表面酸化被膜の除去を行い清浄化した。
【0072】
酸洗処理槽4を出たバルク銅箔2は、バルク銅箔2の表面に微細銅粒5を形成するため、粗化処理工程6に入ることになる。粗化処理工程6内で行う処理は、バルク銅箔2の片面に微細銅粒5を析出付着させる工程6Aと、この微細銅粒5の脱落を防止するための被せメッキ工程6Bとで構成されるものとした。このとき、バルク銅箔2自体は、カソードに分極され、電解処理される工程では、適宜アノード電極7が配置するものとした。例えば、バルク銅箔2の両面を粗化した両面処理銅箔を製造する場合は、バルク銅箔2両面に対してアノード電極7が配されることになる。の
【0073】
バルク銅箔2の上に微細銅粒5を析出付着させる工程6Aでは、硫酸銅溶液であって、濃度が100g/l硫酸、18g/l銅、液温25℃、電流密度10A/dm2のヤケメッキ条件で10秒間電解した。このとき、平板のアノード電極7を、微細銅粒5を形成するバルク銅箔2の面に対し、図2中に示すように平行配置した。
【0074】
微細銅粒5の脱落を防止するための被せメッキ工程6Bでは、硫酸銅溶液であって、濃度150g/l硫酸、65g/l銅、液温45℃、電流密度15A/dm2の平滑メッキ条件で20秒間電解し、被せメッキ層7を形成した。このとき、平板のアノード電極8は、微細銅粒5を付着形成したバルク銅箔2の面に対し、図2中に示すように平行配置した。基本的にアノード電極7にはステンレス板を用いている。
【0075】
亜鉛防錆処理槽9では、防錆元素として亜鉛による防錆処理を行った。ここでは、図2に示すようにアノード電極8を配し、亜鉛防錆処理槽9内の亜鉛の濃度バランスは、調整用にピロ燐酸亜鉛、ピロ燐酸銅、ピロ燐酸ニッケルを用いて維持するものとした。ここでの電解条件は、硫酸亜鉛浴を用い、亜鉛5〜30g/l、硫酸50〜150g/l、液温30〜60℃、電流密度10〜15A/dm2、電解時間3〜10秒の条件を採用した。
【0076】
電解クロメート防錆処理槽10では、亜鉛防錆処理槽9で形成した亜鉛防錆層の上に、電解でクロメート層を形成するのである。このときの電解条件は、クロム酸5.0g/l、pH 11.5、液温35℃、電流密度8A/dm2、電解時間5秒とした。アノード電極7は、図2中に示すように銅箔面に対して、平行となるよう配置した。
【0077】
防錆処理が完了すると水洗後、銅箔表面を乾燥させることなく、直ちにシランカップリング剤処理槽11で、粗化した面の防錆槽の上にクロムイオンを含有したシランカップリング剤の吸着を行った。このときの溶液組成は、イオン交換水を溶媒として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを5g/l、クロム酸を1g/lの濃度となるよう加えたものとした。そして、この溶液をシャワーリングにて銅箔表面に吹き付けることにより吸着処理した。
【0078】
シランカップリング剤処理が終了すると、最終的に電解銅箔2は、乾燥処理部12で電熱器13により箔温度が140℃となるよう雰囲気温度を調整し、加熱された炉内を4秒かけて通過し、水分をとばし、シランカップリング剤の縮合反応を促進し、完成した表面処理銅箔1としてロール状に巻き取った。以上の工程での電解銅箔の走行速度は、2.0m/minとし、各槽毎の工程間には、必要に応じて約15秒間の水洗可能な水洗槽14を適宜設けて洗浄し、前処理工程の溶液の持ち込みを防止している。
【0079】
この表面処理銅箔1を用い、基材となる150μm厚のFR-4のプリプレグ2枚とを用いて両面銅張積層板を製造し、表面処理銅箔1と基材との接合界面における引き剥がし強度を測定した。その測定点数は7点であり、その結果は表7に示している。
【0080】
第2実施形態: 本実施形態においては、表面処理機3を用いて、バルク銅箔2の表面処理を行った。バルク銅箔2は、巻き取ったロール状態で用いた。そして、ここで用いた表面処理機3は、図3として示したものであり、巻き出されたバルク銅箔2が、表面処理機3内を蛇行走行するタイプのものである。ここでは、バルク銅箔2は、公称厚さ35μm厚のグレード3のプリント配線板用電解銅箔の製造に用いるものを使用した。以下、各種の槽を連続配置した順序に従って、製造条件等の説明を行うにあたり、重複した説明となることをさけ、第1実施形態と異なる部分のみを説明する。なお、可能な限り第1実施形態と同様のものを指し示す場合は、共通の符号を図3で用いている。また、ここでは図1(b)の表面処理箔の模式断面図を参照しつつ説明するものとする。
【0081】
この第2実施形態の表面処理工程の流れは、第1実施形態のものと基本的には変わらない。異なるのは、粗化処理工程6が3段階に分かれている点である。即ち、微細銅粒4を付着形成する工程6A、被せメッキ工程6B、極微細銅粒15を付着形成する工程6Cとからなるのである。従って、第1実施形態の被せメッキ工程6Bと亜鉛防錆処理槽9との間に、極微細銅粒15を付着形成する工程6Cが入るのである。
【0082】
この極微細銅粒15を付着形成する工程6Cで用いる条件は、硫酸銅系溶液であって、濃度が銅10g/l、硫酸100g/l、9-フェニルアクリジン140mg/l、液温38℃、電流密度30A/dm2とした。その他の各槽及び工程内での条件等は第1実施形態と同様である。
【0083】
この表面処理銅箔1を用い、基材となる150μm厚のFR-4のプリプレグ2枚とを用いて両面銅張積層板を製造し、表面処理銅箔1と基材との接合界面における引き剥がし強度を測定した。その測定点数は7点であり、その結果は表7に、第1実施形態の結果と共に示している。
【0084】
【表7】

【0088】
この表7に示した評価結果から分かるように、第1実施形態及び第2実施形態で得られた表面処理銅箔14を用いて形成した銅箔回路は、0.2mm幅回路であっても耐塩酸性劣化率及び耐湿性劣化率ともに10%以下の値を達成することが出来ている。特に、耐塩酸性劣化率は5%以下の値と、極めて良好な結果が得られている。また、数10ロット以上の製品を第1実施形態及び第2実施形態と同様の方法で製造し、その耐塩酸性及び耐湿性のバラツキを調べたが、非常にバラツキの少ない安定したデータが得られている。このようなレベルの品質安定性を有する銅箔は従来のプリント配線板用銅箔には見受けられず、プリント配線板の品質を飛躍的に向上させることができるものとなる。
【0089】
【発明の効果】
本発明に係る表面処理銅箔を用いることで、エッチング工程におけるプリント配線板の銅箔回路部の基材への接着安定性を飛躍的に向上させることができ、プリント配線板の加工方法の選択幅を広げることができ、工程管理も非常に容易となるものと考えられる。そして、本件発明に係る表面処理銅箔の製造方法を用いることで、銅箔表面に吸着固定したシランカップリング剤の持つ能力を最大限に引き出すことで、耐塩酸性及び耐湿性に優れた表面処理銅箔を供給することが可能となるのである。更に、クロムイオンを含有したシランカップリング剤で処理した表面処理銅箔は、その銅箔としての品質の経時的劣化を長期間に渡り防止し、長期保存安定性を有するものとして、製品の長期保存化を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【図1】
表面処理銅箔の模式断面図。
【図2】
表面処理機の概略模式断面図。
【図3】
表面処理機の概略模式断面図。
【符号の説明】
1 表面処理銅箔
2 バルク銅層(箔)
3 表面処理機
4 酸洗処理槽
5 微細銅粒
6 粗化処理工程
7 アノード電極
8 被せメッキ層
9 亜鉛合金防錆処理槽
10 電解クロメート防錆処理槽
11 シランカップリング剤処理槽
12 乾燥処理部
13 電熱器
14 水洗槽
15 極微細銅粒
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-10-02 
出願番号 特願2000-20937(P2000-20937)
審決分類 P 1 652・ 121- XA (C23C)
P 1 652・ 113- XA (C23C)
最終処分 決定却下  
前審関与審査官 鈴木 正紀  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 市川 裕司
伊藤 明
登録日 2002-05-10 
登録番号 特許第3306404号(P3306404)
権利者 三井金属鉱業株式会社
発明の名称 表面処理銅箔の製造方法及びその製造方法で得られた表面処理銅箔を用いた銅張積層板  
代理人 吉村 勝博  
代理人 吉村 勝博  

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