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審決分類 審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正する B22D
審判 訂正 2項進歩性 訂正する B22D
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B22D
管理番号 1090652
審判番号 訂正2003-39214  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-06-04 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2003-09-30 
確定日 2003-11-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3142216号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3142216号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3142216号の請求項1〜3に係る発明の出願は、平成6年11月11日に特許出願され、平成12年12月22日にその発明につき特許の設定登録がなされ、その後、特許異議の申立て(異議2001-72423号)がなされ、平成15年4月25日付で「訂正を認める。特許第3142216号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との取消決定がなされた。
本件請求人は、これを不服として東京高等裁判所に当該決定の取消しを求める訴(平成15年(行ケ)第259号)を提起し、現在同裁判所にて係属中であるところ、平成15年7月25日に訂正審判(訂正2003-39149号)を請求した。
その後、訂正拒絶理由通知がなされ、請求人は、先の訂正審判(訂正2003-39149号)を取下げ、再度、平成15年9月30日に本件訂正審判を請求したものである。

II.請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第3142216号の明細書を審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち、次の訂正事項a〜fのとおりに訂正することを求めるものである。
1.訂正事項a
請求項1中の「結晶生成温度が1130℃以上であることを特徴とする、鋼の連続鋳造用パウダー。」を、「結晶生成温度が1130℃以上であり、1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする中炭素鋼の連続鋳造用パウダー。」と訂正する。
2.訂正事項b
請求項2中の「結晶生成温度が1130℃以上であることを特徴とする、鋼の連続鋳造用パウダー。」を、「結晶生成温度が1130℃以上であり、1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする中炭素鋼の連続鋳造用パウダー。」と訂正する。
3.訂正事項c
請求項2中の「含有量が4〜25wt、」を、「含有量が4〜25wt%、」と訂正する。
4.訂正事項d
請求項3を削除する。
5.訂正事項e
発明の名称を、「中炭素鋼の連続鋳造用パウダー」と訂正する。
6.訂正事項f
明細書段落【0013】を、「(1)発明の第1の態様として、主成分がCaO、SiO2で、CaO/SiO2(wt%塩基度)が1.2〜1.6であって、MgO含有量が1.5wt%以下に配合した、結晶生成温度が1130℃以上であり、1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする、中炭素鋼の連続鋳造用パウダーを提供する。(2)発明の第2の態様として、下記の成分組成に配合した、結晶生成温度が1130℃以上であり、1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする中炭素鋼の連続鋳造用パウダーを提供する。(a)MgO含有量が1.5wt%以下、(b)氷晶石、NaF、蛍石、ソーダ灰、Li2Oの何れか1種以上の含有量が4〜25wt%、(c)カーボンブラック、鱗状黒鉛の何れか1種以上の含有量が1〜8wt%、(d)残部の主成分がCaO、SiO2で、CaO/SiO2(wt%塩基度)が1.2〜1.6である。」と訂正する。

III.当審の判断
1.特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の要件について
(1)上記訂正事項a、bは、請求項1、2において、連続鋳造用パウダーについて、その粘性値と用途を、「1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする中炭素鋼の」と更に限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。そして、これらの点は、明細書段落【0021】欄に「1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下であるモールドパウダーの場合、以下のような成分組成を選択する必要がある。」との記載、及び請求項3の「前記鋼が中炭素鋼であることを特徴とする、請求項1または2に記載の鋼の連続鋳造パウダー。」との記載によって裏付けられている。
また、「IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除く」ことは、先の特許異議の申立て(異議2001-72423号)で、特開平3-193248号公報に記載された発明であるとされた本件特許発明において、IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも1種または2種以上を含有する点を除くための訂正である。更に、「CaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く」ことは、先の訂正審判(訂正2003-39149号)で、特開平3-210950号公報に記載された発明であるとされた本件特許発明において、CaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除くための訂正である。
したがって、訂正事項a、bは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。又該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)上記訂正事項cは、請求項2において、(b)成分の含有量についての「wt」なる記載を、「wt%」と訂正するものである。これは、明らかな誤記を訂正するものであって、又該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)上記訂正事項dは、請求項1、2の訂正に基づき訂正後の請求項と整合するよう、請求項3を削除するものであって、又上記訂正事項eは、特許請求の範囲の訂正に基づき訂正後の請求項と整合するよう、発明の名称を訂正するものであって、更に上記訂正事項fは、特許請求の範囲の訂正に基づき訂正後の請求項と整合するよう、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであって、いずれも明りょうでない記載の釈明に該当し、又該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の要件を満たすものである。

2.特許法第126条第3項の要件(独立特許要件)について
(1)本件訂正明細書の請求項1、2に係る発明
本件訂正明細書の請求項1、2に係る発明 (以下、それぞれ「訂正発明1」、「訂正発明2」という。)は、審判請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】主成分がCaO、SiO2で、CaO/SiO2(wt%塩基度)が1.2〜1.6であって、MgO含有量が1.5wt%以下に配合した、結晶生成温度が1130℃以上であり、1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする中炭素鋼の連続鋳造用パウダー。
【請求項2】下記の成分組成に配合した、結晶生成温度が1130℃以上であり、1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする中炭素鋼の連続鋳造用パウダー。
(a)MgO含有量が1.5wt%以下、
(b)氷晶石、NaF、蛍石、ソーダ灰、Li2Oの何れか1種以上の含有量が4〜25wt%、
(c)カーボンブラック、鱗状黒鉛の何れか1種以上の含有量が1〜8wt%、
(d)残部の主成分がCaO、SiO2で、CaO/SiO2(wt%塩基度)が1.2〜1.6である。」

(2)引用刊行物に記載された発明
これに対して、先の特許異議の申立てにおいては、本件請求項1に係る発明は、本件の出願前に頒布された刊行物である特開平3-193248号公報(以下、「引用刊行物1」という。)に記載された発明であり、また、本件請求項2に係る発明は、引用刊行物1及び同じく特公平2-27063号公報(以下、「引用刊行物2」という。)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとされ、先の訂正審判(訂正2003-39149号)においては、本件請求項1、2に係る発明は、本件の出願前に頒布された刊行物である特開平3-210950号公報(以下、「引用刊行物3」という。)に記載された発明であるとされたものである。そして、それら各引用刊行物には、次の事項が記載されている。

(2-1)引用刊行物1(特開平3-193248号公報)
(2-1a)「(1)IIIA族およびIVA族の元素の酸化物の1種または2種以上を合計で0.01〜15重量%含有することを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドパウダー。
(2)IIIA族およびIVA族の元素の酸化物が、Sc2O3、Y2O3、Nd2O3、・・・およびCeO2のうちの1種以上であり、凝固温度が1100℃以上、1300℃における粘度が1ポアズ以下であることを特徴とする請求項(1)記載の連続鋳造用モールドパウダー。」(特許請求の範囲)
(2-1b)目的として、「本発明は、中炭素鋼を高速で鋳造してもブレークアウトなどの鋳造事故を起こすことなく鋳造でき、しかも表面性状の優れた鋳片を鋳造することが可能なモールドパウダーを提供することを目的とする。」(2頁右上欄6〜10行)
(2-1c)「本発明者は、パウダーの1成分としてIIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも1種添加することにより凝固点を上昇させ、かつ結晶化を促進することができることを知った。」(2頁右上欄下から2行〜左下欄2行)
(2-1d)「上記のIIIA族およびIVA族の元素の酸化物の少なくとも1種類を添加するベースとなるパウダーの組成は、例えば下記のような組成であるのが望ましい。CaO:20〜40%、Al2O3:0〜10%、SiO2:20〜40%、Na2O:0〜15%、(CaO/SiO2:1.6〜0.8)、MgO:0〜15%、F:0〜10%
このような組成範囲で、凝固温度が1100℃以上、1300℃における粘度が1ポアズ以下であるようなパウダーであれば、中炭素鋼の高速鋳造用として好適である。」(2頁右下欄1〜12行)
(2-1e)実施例には、従来のパウダーAをベースとしてSc2O3、Y2O3、・・・Nd2Oをそれぞれ3%添加したパウダーの物性値として、第3表には、結晶化温度1205〜1260℃、1300℃における粘度(poise)0.5、0.4であること、
第4表には、酸化物TiO2を1%添加したとき、結晶化温度1184℃、1300℃における粘度(poise)0.6、酸化物TiO2を3%添加したとき、結晶化温度1209℃、1300℃における粘度(poise)0.5、酸化物ZrO2を1%添加したとき、結晶化温度1201℃、1300℃における粘度(poise)0.6、酸化物ZrO2を3%添加したとき、結晶化温度1240℃、1300℃における粘度(poise)0.5であるパウダーが記載され、更に、これらのパウダーを用い中炭素鋼を連続鋳造したところ、第2、3図に示すとおり、鋳片の表面性状において割れ長さの和は酸化物の無添加に比べ少なかったこと(3頁右上欄1行〜4頁左上欄4行)が記載されている。

(2-2)引用刊行物2(特公平2-27063号公報)
(2-2a)「本発明のパウダ一は下に示すような基材原料、SiO2質原料、フラツクス原料及び炭素質原料より構成されている。
基材原料:合成珪酸カルシウム。
SiO2質原料:パーライト、フライアツシュ、珪砂、ガラス粉、珪藻土など。
フラツクス原料:ソーダ灰、Li2CO3 、NaF、Na3AlF6 、ホタル石、BaCO3 、MgCO3 、MgF2 、硼砂など。
炭素質原料:コークス粉、カーボンブラツク、天然黒鉛など。
また、パウダーは鋳造温度、鋳型サイズ、鋼種、鋳造温度などの鋳造条件に応じて軟化点、融点、粘度、表面張力、結晶化温度、溶融速度などの溶融特性を調整する必要がある。これらの特性はパウダーの化学組成によって支配されており、上述のような各原料を所定の化学組成になるように配合する必要がある。
本発明の鋼の連続鋳造用鋳型添加剤(パウダー)の化学組成は以下の通りである。CaO=20〜45重量%、SiO2=20〜50重量%、CaO/SiO2重量比=0.7〜1.5、Al2O3=0〜10重量%、Fe2O3=0.1〜2.0重量%、MgO=0〜10重量%、・・・
上述の化学組成をもつ本発明によるパウダーは合成珪酸カルシウム基材原料50重量%以上、SiO2質原料2〜30重量%、フラツクス原料3〜30重量%及び炭素質原料0.5〜8重量%を配合することにより構成することができる。」(3頁6欄3〜34行)
(2-2b)「フラツクス原料は溶融特性を調整するために3重量%以上を添加配合する必要があるが、過剰に添加すると溶融時の蒸発による組成変化があり、更に、溶鋼を鋳型内へ注入する浸漬ノズルを激しく損傷するために、添加配合量の上限は30重量%程度が好ましい。炭素質原料はパウダーの溶融速度を調整するために添加するが、添加配合量が0.5重量%未満では実質的に添加効果がなく、8重量%を越えると溶融速度が遅くなり過ぎるために好ましくない。」(4頁7欄3〜12行)
(2-2c)実施例欄記載の比較品8には、黄リンスラグ70重量%、ホタル石8重量%、フラツクス原料として、Na2CO312重量%、NaF6重量%、炭素質原料4重量%を配合し、化学組成として、CaO/SiO2重量比1.26、MgO0.2重量%含むパウダー組成は、軟化点1140℃、粘度(ポイズ、1300℃)1.1であること(5頁第3表)、が記載されている。

(2-3)引用刊行物3(特開平3-210950号公報)
(2-3a)「(1)中炭素鋼の連続鋳造用に使用するパウダーであって、Al、Ca-Al合金、Al-Mg合金およびAl-Ca-Mg合金からなる群から選ばれた発熱材を少なくとも1種を3〜20重量%含有し、凝固温度が1180℃以上であり、かつ1300℃における粘度が3.0ポワズ以下であることを特徴とする連続鋳造用パウダー。」(特許請求の範囲(1))
(2-3b)〔産業上の利用分野〕欄に、「本発明は、特に中炭素鋼(炭素含有量〔C〕=0.08〜0.20%程度)の連続鋳造時にスラブやビレット等の表面に発生する縦割れの防止に有効な連続鋳造用パウダー(モールドパウダー)に関する。」(1頁左下欄13〜17行)
(2-3c)実施例3には、組成(%)が、CaO:40.0、SiO2:30.0、MgO:0.0、CaO/SiO2(wt%塩基度)が1.33、CaAl合金からなる発熱材を3重量%含有し、物性として凝固温度1240℃、粘度(at 1300℃)1.0ポワズであるパウダーを、表1に示す組成の溶鋼を、鋳込速度1.3m/minで鋳込む際に添加して、縦割れ発生率および拘束性ブレークアウト発生率を調べたところいずれも低く、品質および操業性が向上していることが明らかとなったこと(3頁左上欄10〜右下欄11行)、が記載されている。

(3)対比・判断
(3-1)訂正発明1について
(3-1a)引用刊行物1に記載された発明との対比
引用刊行物1には、中炭素鋼を高速で鋳造してもブレークアウトを起こすことなく、しかも表面性状の優れた鋳片を鋳造することが可能なモールドパウダーを提供することを目的とする(上記摘記事項(2-1b))、IIIA族およびIVA族の元素の酸化物の1種または2種以上を合計で0.01〜15重量%含有し、凝固温度が1100℃以上、1300℃における粘度が1ポアズ以下である連続鋳造用モールドパウダー(上記摘記事項(2-1a))が記載されている。更に、上記のIIIA族およびIVA族の元素の酸化物の少なくとも1種類を添加するベースとなるパウダーの組成は、例えば、CaO:20〜40%、Al2O3:0〜10%、SiO2:20〜40%、Na2O:0〜15%、(CaO/SiO2:1.6〜0.8)、MgO:0〜15%、F:0〜10%の組成範囲で、凝固温度が1100℃以上、1300℃における粘度が1ポアズ以下であるようなパウダーであれば、中炭素鋼の高速鋳造用として好適であること(上記摘記事項(2-1d))が記載されている。
ここで、ベースとなるパウダーの組成として、MgOの含有量において、0から1.5wt%の範囲を排除する旨の記載は、引用刊行物1には存在しておらず、また、引用刊行物2記載のパウダーの化学組成においても、MgOの含有量は、0〜10重量%としており(上記摘記事項(2-2a))、この記載を参酌しても引用刊行物1において、MgOの含有量が0から1.5wt%の範囲は排除されていないものである。
そうすると、引用刊行物1には、「IIIA族およびIVA族の元素の酸化物の1種または2種以上を合計で0.01〜15重量%含有し、ベースとなるパウダーの組成は、CaO:20〜40%、Al2O3:0〜10%、SiO2:20〜40%、Na2O:0〜15%、(CaO/SiO2:1.6〜0.8)、MgO:0〜15%、F:0〜10%の組成範囲で、凝固温度が1100℃以上、1300℃における粘度が1ポアズ以下である中炭素鋼の連続鋳造用モールドパウダー」(以下、「引用刊行物1記載の発明」という。)が記載されていることになる。
そこで、訂正発明1と上記引用刊行物1記載の発明とを対比する。
上記引用刊行物1記載の発明での「凝固温度」は、訂正発明1の「結晶生成温度」に相当し、上記「1300℃における粘度が1.0ポアズ以下」は、訂正発明1の「1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下」に相当しているが、上記引用刊行物1記載の発明では、「IIIA族およびIVA族の元素の酸化物の1種または2種以上を含有」するのに対して、訂正発明1は、当該「IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き」と引用刊行物1記載の発明での上記構成を除外しており、両者は明らかに構成において相違する。
そして、訂正発明1は、IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種を添加することなく、モールドパウダーのCaO/SiO2(wt%塩基度)が1.2〜1.6であって、MgO含有量を1.5wt%以下に配合して、結晶生成温度を上げることによって、溶融性を阻害しない範囲で結晶化度の大きい連続鋳造用モールドパウダーを得ることができ、割れ感受性の大きい中炭素鋼においても割れ結果のない品質の優れたものを連続鋳造することができるという技術的意義を有するものである。
よって、訂正発明1は、引用刊行物1に記載された発明ではない。

(3-1b)引用刊行物3に記載された発明との対比
引用刊行物3に記載された実施例3には、中炭素鋼の連続鋳造用パウダーであって、CaO:40.0、SiO2:30.0、MgO:0.0、CaO/SiO2(wt%塩基度)が1.33、凝固温度1240℃、粘度(at 1300℃)1.0ポワズであるパウダーが記載されている。ここで、上記パウダーの「凝固温度」は、訂正発明1の「結晶生成温度」に相当し、上記パウダーの「粘度(at 1300℃)1.0ポワズ」は、訂正発明1の「1300℃における粘性値が0.1Pa・S」に相当している。
訂正発明1と引用刊行物3の実施例3に記載されたパウダーとを対比すると、引用刊行物3の実施例3に記載されたパウダーは、組成において「CaAl合金からなる発熱材を3重量%含有する」のに対して、訂正発明1は、当該「CaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く」と上記引用刊行物3の実施例3に記載されたパウダーでの構成を除外しており、両者は明らかに構成において相違する。
そして、訂正発明1は、CaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することなく、モールドパウダーのCaO/SiO2(wt%塩基度)が1.2〜1.6であって、MgO含有量を1.5wt%以下に配合して、結晶生成温度を上げることによって、溶融性を阻害しない範囲で結晶化度の大きい連続鋳造用モールドパウダーを得ることができ、割れ感受性の大きい中炭素鋼においても割れ結果のない品質の優れたものを連続鋳造することができるという技術的意義を有するものである。
よって、訂正発明1は、引用刊行物3に記載された発明ではない。

(3-2)訂正発明2について
訂正発明2は、訂正発明1のパウダー成分組成において、更に「(b)氷晶石、NaF、蛍石、ソーダ灰、Li2Oの何れか1種以上の含有量が4〜25wt%、
(c)カーボンブラック、鱗状黒鉛の何れか1種以上の含有量が1〜8wt%」であることを特定するものである。
ここで、連続鋳造用パウダーにおいて、上記(b)成分は、物性調整剤、上記(c)成分は、溶融粘度調整材として、上記引用刊行物2に示されている如く周知のことではあるが、上記(3-1a)で述べたとおり訂正発明1が、引用刊行物1に記載された発明ではない以上、訂正発明2は、引用刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、更に、上記(3-1b)で述べたとおり訂正発明1が、引用刊行物3の実施例3に記載された発明ではない以上、訂正発明2は、引用刊行物3の実施例3に記載されたパウダーであるとすることもできない。
よって、訂正発明2は、引用刊行物1、3に記載された発明ではなく、また、引用刊行物1、2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)また、本件訂正発明1、2を、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとすべき他の理由も発見できない。
したがって、訂正発明1、2は、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明ではない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求は、平成6年改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので訂正を認める。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
中炭素鋼の連続鋳造用パウダー
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 主成分がCaO、SiO2で、CaO/SiO2(wt%塩基度)が1.2〜1.6であって、MgO含有量が1.5wt%以下に配合した、結晶生成温度が1130℃以上であり、1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする中炭素鋼の連続鋳造用パウダー。
【請求項2】 下記の成分組成に配合した、結晶生成温度が1130℃以上であり、1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする中炭素鋼の連続鋳造用パウダー。
(a)MgO含有量が1.5wt%以下、
(b)氷晶石、NaF、蛍石、ソーダ灰、Li2Oの何れか1種以上の含有量が4〜25wt%、
(c)カーボンブラック、鱗状黒鉛の何れか1種以上の含有量が1〜8wt%、
(d)残部の主成分がCaO、SiO2で、CaO/SiO2(wt%塩基度)が1.2〜1.6である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鋼、特に中炭素鋼(炭素含有量0.08〜0.16wt%)の連続鋳造時に鋳型内の溶鋼に添加される連続鋳造用モールドパウダー(以下単にパウダーという)に関するものであり、連続鋳造作業を安定し、鋳片表面の品質が優れた鋳片を連続鋳造することができるパウダーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】鋼の連続鋳造において、パウダーは鋳型内の溶鋼面に添加され、溶鋼の酸化を防止し、湯面を保温し、また湯面に浮上してきた介在物を吸収する作用がある。また、鋼浴面で溶融したパウダーは鋳型と鋳片聞に流入してフィルム層を形成し、潤滑剤として作用し、更に抜熱の制御を行なっている。
【0003】
従来のパウダーを化学分析すると以下の様な成分組成になっている。
Si2O,CaO;20〜40wt%、Al2O3;1〜10wt%、Na;1〜30wt%、F;1〜20wt%、Li;0〜20wt%、MgO;2〜10wt%、ZrO2;0〜20wt%、B;0〜10wt%
【0004】
一方、鋼中炭素濃度が0.08〜0.16wt%の中炭素領域の鋼(以下、中炭素鋼という)の連続鋳造において、鋼が液相から固相に変化する際の凝固収縮率が大きく、そのため鋳片表面に割れ欠陥が発生し易く、高速鋳造が困難とされてきた。
【0005】
これに対し、材料とプロセス-第4巻、第4号(1991年、1247頁)は、前記中炭素鋼の割れ欠陥対策として鋳型と鋳片表面間の熱流束低下を低下させるため、塩基度(wt%CaO/SiO2)を1.2以上とし、結晶化時の体積収縮による接触抵抗の増大をはかり、また、ZrO2を3.0wt%以上添加することでパウダーフィルムを不透明化し、輻射伝熱の低減を行ない、清浄な鋳片の製造が可能であることを開示している(従来技術1)。
【0006】
また、品川技報第32号(1989年、147頁)は、前記中炭素鋼を鋳造する際、問題となる鋳片の縦割れを防止するため、モールド内の抜熱速度とパウダーの特性を調査し、溶融したパウダーの凝固過程における結晶化温度を高めることにより、モールド内抜熱を緩和し、縦割れ発生を減少させ得ることを見出したことを報告している。
【0007】
さらに、高塩基度パウダーほど結晶化温度が高くなる傾向があるとし、また、Na2O,F,Li2O,B2O3,BaO,MgO,Al2O3などの成分が、結晶化温度に影響しているため、パウダーの品質設定に当たっては、これらの成分組成に留意が必要であることが記載されている(従来技術2)。上記において結晶化とは溶融したパウダーが鋳型と鋳片表面の間に流入し、凝固する際に溶融体の一部がガラス相(過冷体)になるが、他の部分が結晶体として析出する現象である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】従来技術1では、塩基度を1.2以上に上げることにより、パウダー融体の結晶化度は大きくなるが、最近指向されている高速鋳造用パウダーのようにNa,F,Liなどの低融点化促進元素、低粘性化促進元素が共存すると結晶化度は低下し、高塩基度化のみの効果では表面欠陥を抑制する結晶化度は得られない。
【0009】
更に、従来技術1ではZrO2による結晶化促進効果を開示しているが、パウダーにZrO2を添加するとパウダーの融点が上昇し、溶鋼表面上のパウダー溶融層が薄くなる他、溶鋼面に浮上する非金属介在物の吸収能力が低下するため鋳片表面欠陥が発生する問題がある。
【0010】
また、従来技術2においても高塩基度化が有効であることを開示しているものの、他のフラックス成分の結晶化に及ぼす影響については定性的に論じているのみで、有効な結晶化促進元素について定量的には言及してはいない。
【0011】
本発明は、上述した問題を解決し、パウダーに本来の要求される迅速溶融、高潤滑特性を維持しつつ、溶融パウダーの高結晶化度を十分に達成することによって、鋳片表面の割れ欠陥のない高品位の製品を得ることができるパウダーを提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、各種実験・検討を重ねた結果、パウダー本来の要求される迅速溶融、高潤滑特性が維持される範囲において、連続鋳造用モールドパウダーの主成分であるCaO、SiO2の塩基度(wt%)CaO/SiO2を1.2〜1.6(wt%比)の範囲でMgOの含有量を1.5wt%以下とすることにより、従来の高塩基度パウダーよりも、パウダー融体の結晶化を促進することができ、これにより、清浄な表面品質の中炭素鋼の連続鋳造が可能となるとの知見を得て、以下の発明をするに至った。
【0013】
(1)発明の第1の態様として、主成分がCaO、SiO2で、CaO/SiO2(wt%塩基度)が1.2〜1.6であって、MgO含有量が1.5wt%以下に配合した、結晶生成温度が1130℃以上であり、1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする、中炭素鋼の連続鋳造用パウダーを提供する。
(2)発明の第2の態様として、下記の成分組成に配合した、結晶生成温度が1130℃以上であり、1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下である(IIIA族およびIVA族の元素の酸化物を少なくとも一種添加することを除き、またCaAl合金からなる発熱材を3重量%含有することを除く)ことを特徴とする中炭素鋼の連続鋳造用パウダーを提供する。
(a)MgO含有量が1.5wt%以下、
(b)氷晶石、NaF、蛍石、ソーダ灰、Li2Oの何れか1種以上の含有量が4〜25wt%、
(c)カーボンブラック、鱗状黒鉛の何れか1種以上の含有量が1〜8wt%、
(d)残部の主成分がCaO、SiO2で、CaO/SiO2(wt%塩基度)が1.2〜1.6である。
【0014】
【作用】一般的に連続鋳造用パウダーが形成する溶融体は、珪酸塩融体(溶融珪酸塩)であり、種々のイオン、錯イオンからなるイオン性融体である。スラグ中ではイオン性の高いアルカリ金属酸化物、及びアルカリ土類金属酸化物中の金属は、イオン化傾向が強く、他方、SiO2のように共有結合性が高いものは単純にイオン化しないで、SiO44-,Si2O76-等の錯イオンを形成する。
【0015】
後者はいわゆるガラス形成に大きく寄与する網目形成酸化物(Network Former、以下NWFという)であり、前者はCaOに代表されるようにSiO2の網目構造にOを与え、SiO2の分子間結合を切断して重合度を下げるので修飾酸化物(Network Modifyer、以下NWMという)として挙動する。この中で、Al2O3やFe2O3は、一般的にはNWFであるが、酸素ポテンシャルの高い溶融スラグ中ではNWMとなる。
【0016】
さらに、発明者等が注目したMgOはCaO/SiO2系融体中では、若干効果が小さいものの、NWMとして挙動し結晶化促進元素として評価されてきた。また、従来MgOはモールドパウダー製造原料の不純物として、必然的に1.7wt%程度以上パウダー中に含有されていた。
【0017】
一方、パウダーの結晶化の評価は、溶融パウダーの冷却過程でパウダーの融体から結晶が晶出する温度を示差熱分析法を用いて結晶化に伴う発熱ピークを測定することにより行う。この結晶生成温度が高いパウダーほど結晶化が進行しやすい。
【0018】
発明者等は、パウダーの成分元素の増減による結晶生成温度の制御方法について研究した結果、CaO/SiO2が1.2〜1.6の領域においてMgOが0〜10wt%の範囲(0wt%を含む)ではMgO成分量が少ないほど結晶生成温度が上昇するという新たな発見をした。
【0019】
すなわち、パウダー融体中のMgO量を低減することにより、結晶生成温度が上昇し、その結果、結晶生成を早めるだけでなく、比較的粘度の低い温度域での結晶成長も促進され、結晶化をいっそう促進させることができることを見いだした。
【0020】
さらに、MgOは融点が高く難融物質であるため、MgO量を減少させることでモールドパウダーの溶融性も向上させることになる。すなわち、MgO含有量の低減は結晶化作用を促進し、溶融性の向上を可能にする。
【0021】
数値限定について
発明者等は、中炭素鋼の良好な鋳造と清浄な鋳片をえるためにパウダー融体の結晶化について研究した結果、パウダー融体の結晶生成温度を1130℃以上にすることにより、鋳片の表面欠陥低減効果が大きくなることを知見した。1300℃における粘性値が0.1Pa・S以下であるモールドパウダーの場合、以下のような成分組成を選択する必要がある。
【0022】
主成分;本発明のパウダーの主成分はCaOとSiO2であり、これらを予め溶融したプリメルト材を用いる。その配合の割合は塩基度により定めることができる。塩基度は1.2未満では、パウダーの融点が低すぎて望ましくない。他方、塩基度が1.6を超えるとパウダーの融点が高すぎて望ましくない。
【0023】
MgO;MgOは1.5wt%を超えると、結晶生成温度が1130℃未満となり、前述の通り望ましくない。
【0024】
物性調整剤;氷晶石(人造氷晶石を含む)、NaF,蛍石、ソーダ灰,Li2O等の粉末を1種以上の合計が4〜25wt%が望ましい。この範囲より少なくても多くても溶鋼面におけるパウダーの溶解性が望ましくないからである。
【0025】
溶融速度調整材;カーボンブラックと鱗状黒鉛が望ましい。溶融速度調整材は溶鋼面に添加されたパウダーの溶融速度を調整する機能がある。カーボンブラックは0.5〜5wt%、鱗状黒鉛は0.5〜3wt%以下の配合が望ましい。具体的な配合量は鋳造条件に決定すればよい。より好ましくは、カーボンブラックが1.2〜2.0wt%、鱗状黒鉛が0.5〜1.5wt%がよい。
【0026】
【実施例】この発明を実施例により、比較例と対比しながら説明する。MgO含有量が極めて少ない珪石、石灰、蛍石、ガラス粉、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩と、MgOを実質的に含まないモールドパウダー組成となる工業用試薬とを電気炉において溶融し、急冷後粉砕し、調整したモールドパウダー主原料を製造した。
【0027】
この主原料に物性調整剤として人造氷晶石、NaF,蛍石、ソーダ灰,Li2O等の粉末を1種以上の合計が4〜25wt%を添加し、更に本発明の範囲内のMgO成分量にした供試体(以下、発明体という)1〜4を調整した。比較のためにMgO成分量が本発明の範囲外にあるパウダー供試体(以下、比較体という)1〜6を調整した。表1に発明体1〜4及び比較体1〜6のMgO量、塩基度(CaO/SiO2)、結晶生成温度を示す。
【0028】
上述した発明体1〜4及び比較体1〜6の各々を使用し、鋳造速度を1.6m/min、または1.8m/minとして割れ感受性の大きい中炭素鋼を連続鋳造したときの、鋼中炭素濃度、モールドパウダー消費量、鋳片の縦割れ発生指数を調べその結果を表2に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1及び表2から明らかなように、MgO量と塩基度(CaO/SiO2)が本発明の範囲内にある発明体1〜4は結晶生成温度がいずれも高く1130℃を超え、前記発明体1〜4を使用した鋳造結果においても縦割れ発生はなく、良好な表面の鋳片を製造でき、従来困難であった中炭素鋼の高速鋳造を容易に行うことができた。
【0032】
これに対し、塩基度(CaO/SiO2)が本発明の範囲内の1.2〜1.6にあるもののMgO量が本発明の範囲を超えている比較体1〜6は結晶生成温度が1125℃以下となり、縦割れ発生指数が高くなりMgO量が増すにつれてその傾向は著しい。
【0033】
【発明の効果】以上述べたように、この発明によれば溶融性を阻害しない範囲で結晶化度の大きい連続鋳造用モールドパウダーを得ることができて、割れ感受性の大きい中炭素鋼においても割れ結果のない品質の優れたものを連続鋳造することができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2003-11-07 
出願番号 特願平6-301686
審決分類 P 1 41・ 856- Y (B22D)
P 1 41・ 113- Y (B22D)
P 1 41・ 121- Y (B22D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 金 公彦  
特許庁審判長 城所 宏
特許庁審判官 影山 秀一
伊藤 明
三崎 仁
市川 裕司
登録日 2000-12-22 
登録番号 特許第3142216号(P3142216)
発明の名称 中炭素鋼の連続鋳造用パウダー  
代理人 石川 泰男  
代理人 石川 泰男  
代理人 石川 泰男  

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