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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E02D
管理番号 1091442
異議申立番号 異議2001-71122  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-16 
確定日 2003-11-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3098346号「植物生育基盤造成方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3098346号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1.手続きの経緯
平成 4年12月 3日 出願(特願平4-350006号)
平成12年 8月11日 設定登録(特許第3098346号、請求項数2)
平成13年 4月16日 本件特許異議の申立て(異議申立人和田清淳)
平成13年 7月10日 取消理由通知
平成13年 9月25日 意見書及び訂正請求書(後日取り下げ)提出
平成15年 1月30日 審尋(異議申立人に対し)
平成15年 4月14日 回答書提出(異議申立人)
平成15年 6月 4日 取消理由通知
平成15年 8月 6日 意見書及び訂正請求書提出

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、次のとおりである。
a.特許請求の範囲を、以下のように訂正する。
「堆肥を主要構成成分とする吹き付け用植生基材であって、全固形物中の堆肥の混合割合が45容量%〜100容量%である吹き付け用植生基材に縮合系カチオン性有機高分子凝集剤を混練したスラリーをホースを介して圧送し、吹き出し口近傍にてアニオン性有機高分子凝集剤を添加した後に対象面へ吹き付けることを特徴とする植物生育基盤造成方法。
b.段落【0011】の記載を、以下のように訂正する。
「本発明の請求項1は、堆肥を主要構成成分とする吹き付け用植生基材であって、全固形物中の堆肥の混合割合が45容量%〜100容量%である吹き付け用植生基材に縮合系カチオン性有機高分子凝集剤を混練したスラリーをホースを介して圧送し、吹き出し口近傍にてアニオン性有機高分子凝集剤を添加した後に対象面へ吹き付けることを特徴とする植物生育基盤造成方法である。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項について検討すると、訂正事項aは、請求項2を削除すると共に、訂正前の請求項1に係る発明の「吹き付け用植生基材」を、「全固形物中の堆肥の混合割合が45容量%〜100容量%である」ものに限定し、「カチオン性有機高分子凝集剤」を、「縮合系」のものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項bは、訂正事項aにより訂正しようとする特許請求の範囲の記載に、特許明細書の記載を整合させる訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項a及びbは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合する。
よって、本件訂正請求のとおりの訂正を認める。

第3.特許異議申立についての判断
1.本件発明
上記第2に示したとおり、本件に係る訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明は、上記訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される上記第2.1.aに記載のとおりのものと認める。

2.刊行物に記載された事項
(1)本件出願前に頒布された、特開昭59-74908号公報(以下「刊行物1」という。異議申立人の提出した甲第1号証。)には、次のような記載がある。
「本発明は土壌の少ない岩盤裸地斜面や緑化困難地等に土壌を吹付け客土する客土種子吹付け工法に関する。」(1頁左下欄12〜14行)
「バーク堆肥やフアイバー等のスラリー状植生基材を圧力ポンプで圧送しながらそのパイプ中にポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアマイド等の凝集剤を混合して吹付けることも特公昭48-11604号公報で知られている」(1頁右下欄13〜17行)、
「本発明はこれら現状に鑑み、粘土を含有する土壌を極めて簡易に斜面に安定良く付着せしめて植生を図るようにした客土吹付け工法に関するもので、混練タンク内で粘土を含有した泥状客土材に無機凝集剤ノニオン性又はカチオン性凝集剤等の低凝集能凝集剤を混合攪拌した後、これをスラリーポンプで送液して送液ホース先端の吐出口から噴出せしめた直後に更に高凝集能を有するアニオン性高分子凝集剤を混合攪拌しながら吹付けることを要旨とするものである。」(2頁左上欄9行〜右上欄1行)、
「土壌に対する凝集性能は一般にアニオン性高分子凝集剤が最も優れているとされているが、土壌の凝集する土粒子の大きさによつて凝集性能が変化し、特に植生土壌として必要な粒子の小さな粘土の凝集が行われず、高性能のアニオン性高分子凝集剤でも複雑な構造を有する土壌の確実な凝集は困難であることが分つた。
そこで本発明者は先づ混練タンク内において泥状客土材に予め無機、アニオン性、カチオン性等の低性能凝集剤を混合して粘土等の微粒子同志を凝着させて粗大化してからこれを吐出後にアニオン性高分子凝集剤を混入攪拌して夫々の凝集性能の相乗効果を利用することにより植生に有効な粘土を含有する客土層を確実に形成するようにしたものである。
本発明方法を詳細に説明すると、混練タンク内で粘質、砂質、有機質を適度に含有した土壌を水と混練し、これに硫酸バンド、ポリ塩化アルミニューム、ポリビニールアルコール等の無機或は低高分子のカチオン性又はノニオン性の凝集剤を加えて種子、肥料、その他と共に混合してスラリーポンプの送液に適した流動性の良い泥状客土材を作成する。
一方ポリアクリルアミド加水分解物(加水分解率20〜35モル%)、ポリアクリルアミド-アクリル酸ソーダ共重合物(重合度20〜35%)等のアニオン性高分子凝集剤の0.2%水溶液を別のタンクで調合する。
次いで前記泥状客士材をスラリーポンプで送液ホースを介してその先端の吐出口より噴出せしめると同時にその直後に前記アニオン性高分子凝集剤をギヤポンプ等で圧送混合して両者を混合して傾斜地(法面)に吹付けると、泥状客士材は直ちに団粒疎水されて流動性ない土壌となつて3〜10cm程度の厚い客土層が吹付け形成されるものであり、泥状客士材に高性能凝集剤を混合に際しては泥状客土材の吐出口の先に凝集剤の貯留容器を設けて噴出する泥状客士材をこの貯留容器内を通過させて凝集剤を混合して吹付けるのが好適である。」(3頁左上欄6行〜左下欄11行)。
また、実施例には、吹き付け用植生基材として腐植土を主要構成成分としたものが記載されている(3頁右下欄)。
ここで「腐植土」とは、腐植質と粘土を構成成分とするものであるから、上記記載事項からみて、刊行物1には、
「腐植質と粘土を構成成分とする泥状客土材に無機或は低高分子のカチオン性又はノニオン性の凝集剤を混練したスラリーを送液ホースを介して送液し、吐出口より噴出せしめると同時にその直後にアニオン性有機高分子凝集剤を混合した後に傾斜地(法面)へ吹き付ける客土種子吹付け工法。」という発明が記載されているものと認められる。
(2)本件出願前に頒布された、特公昭48-11604号公報(以下、「刊行物2」」という。)には、次のような記載がある。
「スラリー状植生基材と凝集剤を圧力ポンプによって圧送するパイプ内において混合し、植生基材を法面に吹付け、該法面に植生層を形成させることを特徴とする植生工法。」(特許請求の範囲)、
「本発明は上記のように構成されているので圧送パイプが閉塞することがない。吹付用植生基材が粘着性を有するので一回の撒布で厚みのある植生層が形成され亀裂、剥離、脱落などの障害がない。植生層が厚いので冬季は保温力があり、夏季は乾燥を防止して水分保持力があるので、植生の発芽が良好であり確実に法面保護の目的を達成することができる。」(2頁3欄1〜5行、4欄1〜3行)。
また、2頁の表には、実施例が記載され、吹付基材及びその用量(m2当たり)として、次のものが記載されている。
1 植生種子 ケンタッキー31F外 15g
2 バーク堆肥 腐植に富む有機質肥料 100g
3 ベントナイト 粘土鉱物 60g
4 ウエストバコ 繊維材 3.5g
5 エスフイツクス 酢酸ビニール表面処理剤 5g
6 粒状化成肥料 三要素を含む肥料 10g
7 水 270cc
上記表の吹付基材の用量から、バーク堆肥の全固形物に対する重量割合を計算すると、全固形物は吹付基材の内の、符号1〜4、6のものであり、これらの重量合計は188.5gであるので、バーク堆肥の全固形物に対する重量割合=100/188.5=53重量%となる。そして、バーク堆肥は他の固形物より、相対的に嵩密度が小さいものであるので、混合重量割合が53%であれば、混合容量割合は53%以上であるといえる。
上記記載事項と計算結果からみて、刊行物2には、「バーク堆肥を主要構成成分とする吹き付け用植生基材であり、全固形物中のバーク堆肥の混合割合が53容量%以上であるものに凝集剤を混練したスラリーをパイプを介して圧送し、法面へ吹き付ける植生工法」の発明が記載されていると認められる。
(3)「新高分子文庫4 高分子凝集剤」株式会社高分子刊行会 1981年10月30日発行 26〜36頁(以下、「刊行物3」という。同参考資料1)には、次のような記載がある。
「高分子凝集剤は水に溶解あるいは水和しているある種のイオン性有機化合物,例えば染料(直接・酸性など),パルプ廃液(リグニンスルホン酸など),土壌中の有機物の腐植物質(フミン酸),たんぱく質などを沈でんさせることができる。これらは,陽イオン性高分子電解質の陽イオン性基と陰イオン性有機化合物との間の静電的な相互作用により水に難溶性塩を生成し,それが,フロックに生長したものと考えられる。」(28頁下から12〜7行)
(4)「凝集工学-基礎と応用-」日刊工業新聞社 昭和57年5月29日発行 275〜281頁(以下、「刊行物4」という。同参考資料2)には、次のような記載がある。
「粒子が攪拌によって接近しても,それ以上の接近を妨げるような斥力があれば,フロックをつくり得ないことになる.こうした結合阻害因子を除去する作用が凝結作用(coagulation)であり,その働きをする薬品が凝結剤である(第1章および第5章など参照).
結合阻害因子としては,粒子のもつ表面電荷親水層,粒子自体の電離があるが,表面電位の低下・親水層の破壊に反対電荷を与えればよいことは衆知の通りである.通常,硫酸アルミニウム,PAC,塩化第二鉄等の無機塩が使用されるが,縮合ポリアミンのような有機ポリマーも有効である.」(275頁17〜24行)、
「カチオン性高分子凝集剤の結合力は,水素結合力,分子間力以外に,電気的な電荷の中和作用,静電結合力が加増される.カチオン性高分子凝集剤が,主として用いられている下水汚泥や活性汚泥法の余剰汚泥等「生物分解を受けた汚泥」の凝集処理の場合,汚泥粒子表面は,微生物の分泌物である一種のタンパクによっておおわれており,それが有するアニオン性の解離基によって親水層が形成されている(第1および第7章など参照).
このような懸濁液に対し,(1)(原文は丸数字、以下同じ)アニオン,ノニオン系の凝集剤は,この親水層にはばまれて,高分子が粒子表面に接近できず,凝集反応を起こさせることはできないが,(2)分子内にカチオン性の解離基を持たせることによって,高分子束は親水層をつきやぶって,粒子表面との結合が可能となる.このような場合でも,分子量が大きいほど凝集力は大きくなるが,一般には,電気的な結合力が加増されるため,比較的低分子のものでも充分に対処できる場合が多い.カチオン性凝集剤の中には,電気的な中和作用に重点を置いて開発された,(1)縮合系の凝集剤(分子量数千〜数万)のものと,(2)フロックの形成能に重点を置いた重合系の高分子凝集剤(数十万〜数百万)に大別されるが,前者はエマルジョン破壊や除濁,除色といった「従来から硫酸バンドや塩化第二鉄が用いられていた凝集剤としての分野」に主として利用されている.」(281頁6〜22行)。
また、279頁の表12.1にはカチオン性高分子凝集剤として、ポリアルキレンポリアミン・エピクロルヒドリン系縮合物、アルキルアミン・エピクロルヒドリン縮合物、アニリンホルムアルデヒド縮合物、ジシアンジアミドホルムアルデヒド縮合物および尿素・ホルムアルデヒド縮合物が記載されている。

3.対比
本件請求項1に係る発明と、刊行物1記載の発明を対比すると、刊行物1記載の発明における「送液ホース」、「送液」、「混合」および「傾斜地(法面)」は、各々請求項1に係る発明における「ホース」、「圧送」、「添加」および「対象面」に相当し、刊行物1記載の発明における「吐出口より噴出せしめると同時にその直後に」および「客土種子吹付け工法」は、請求項1に係る発明における「吹き出し口近傍にて」および「植物生育基盤造成方法」に対応する。また、請求項1に係る発明における「堆肥」とは腐植に富む有機質肥料であるから、刊行物1記載の発明における「腐植質を構成成分とする泥状客土材」と請求項1に係る発明における「堆肥を主要構成成分とする吹付け用植生基材」とは、「腐植質を構成成分とする吹き付け用植生基材」である点で共通する。
したがって、両者は、「腐植質を構成成分とする吹き付け用植生基材に凝集剤を混練したスラリーをホースを介して圧送し、吹き出し口近傍にてアニオン性有機高分子凝集剤を添加した後に対象面へ吹き付ける植物生育基盤造成方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点1:請求項1に係る発明においては、吹き付け用植生基材が堆肥を主要構成成分としているものであり、堆肥の全固形物中の混合割合が45容量%〜100容量%であるのに対し、刊行物1記載の発明においてはこのようなものであるか不明な点。
相違点2:請求項1に係る発明においては、縮合系カチオン性有機高分子凝集剤を混練するのに対し、刊行物1記載の発明においては、凝集剤としてカチオン性有機高分子凝集剤を採用できることは記載されていものの、特に縮合系カチオン性有機高分子凝集剤を用いることは記載されていない点。

4.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
刊行物2における「バーク堆肥」は、「堆肥」の一種であるので、刊行物2には、堆肥を主要構成成分とする吹き付け用植生基材であって、堆肥の全固形物中の混合割合が53容量%以上である吹き付け用植生基材が示されており、刊行物1記載の発明の腐植質を構成成分とする吹き付け用植生基材として、刊行物2記載のものを使用することは、当業者であれば容易に想到しうることにすぎない。
(2)相違点2について
カチオン性有機高分子凝集剤には、重合系のもの及び縮合系のものがあり、このうち、縮合系カチオン性有機高分子凝集剤は、土壌中の腐植物質等に対する優れた凝集作用を有し、除色作用もあることは、刊行物3、4に記載されているように本件出願前周知である。
そして、刊行物1には、吹き付け用植生基材中に、アニオン性高分子凝集剤でも凝集が困難な成分が含まれている場合に、その成分を凝着させる凝集剤を混練することが示されているのであり、腐植質を多く含む堆肥を主要構成成分とする吹き付け用植生基材を吹き付ける際に、堆肥中の腐植物質の凝集性に優れた凝集剤を選択することは当然考慮すべきことであって、混練する凝集剤として、腐植物質等に対する優れた凝集作用を有する「縮合系カチオン性有機高分子凝集剤」を選択することは、上記刊行物3、4に記載の事項に基いて当業者が容易に想到しうることである。
また、縮合系カチオン性有機高分子凝集剤は、除色作用を奏するものであるから、縮合系カチオン性有機高分子凝集剤を堆肥を主要構成成分とする吹き付け用植生基材に混練した際に、凝集作用により着色物質が流れ出すことを防止するとともに、除色作用により降雨により流れ出す水分の着色が防止ができることも予測しうる程度のことであり、請求項1に係る発明の作用効果は、全体として、刊行物1ないし4記載の発明から予測できる程度のものであって、格別顕著であるとはいえない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1ないし4記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本件請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
植物生育基盤造成方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 堆肥を主要構成成分とする吹き付け用植生基材であって、全固形物中の堆肥の混合割合が45容量%〜100容量%である吹き付け用植生基材に縮合系カチオン性有機高分子凝集剤を混練したスラリーをホースを介して圧送し、吹き出し口近傍にてアニオン性有機高分子凝集剤を添加した後に対象面へ吹き付けることを特徴とする植物生育基盤造成方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は植物生育基盤造成方法に関するものであり、さらに詳しくは山を削り取られた植物の生育に適さない法面等の表層に、植物の生育に適した基盤を造成するための吹き付け工法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
山を切取り造成された法面は、表土が剥ぎ取られているため、一般に硬質でかつ土壌養分を含まず植物の生育に適さないところが多い。そこで、従来、この種の法面を緑化するために、黒土などの粘土分の多い自然土壌と水を混合したスラリーをポンプを用いて吹き付ける方法が用いられてきた。しかしこの方法では、吹き付け基盤の含水率が高いために、塑性変形が大きくダレを生じるために極めて薄い植物生育基盤の造成が行える程度のものであった。この点を改良するために、吹き付け基盤の素材その物を見直し、砂に粗大有機物を混合したもの、または粗大有機物を結合剤(粘結剤)とともにエアーを用いて吹き付ける方法が開発され、ポンプ方式を踏襲したものでは、自然土壌スラリーに団粒形成剤として高分子凝集剤を混合する方法が開発された。
【0003】
前者の場合、一般的には、自然土壌の粘土、肥料及び種子等を水によりスラリー化したものを吹き付けノズルから対象法面に吹き付けるようにしている。造成された植物生育基盤中の種子は、吹き付け時の水分とその後の雨水による水分を受けて生育するのみで、人為的なその後の散水養生は行われないのが通常である。このため、良好な植生を造成・維持するには高い保水性と根群の発育のためにを植物生育基盤として十分な厚さを確保することが必要不可欠なものとなる。
【0004】
植物生育基盤の保水能力、通気性の点からは、土壌が団粒状態であるのが適当とされており、ポンプ方式による場合、このような状態の植物生育基盤を造成する方法として、粘土分を主体とした自然土壌スラリー中に無機、または高分子凝集剤を添加し吹き付け、団粒状の植物生育基盤を造成することが知られている。
【0005】
すなわち、(1)特公昭48-11604号公報では、スラリー状の自然土壌と凝集剤とをパイプ内において混合して吹き付ける技術が、(2)特開昭59-74908号公報では、無機凝集剤をスラリー中に添加する一方で、これを吐出口から噴出させた直後において高分子凝集剤を添加する技術が、(3)特開昭60-241826号公報では、吐出口先端に取り付けられた攪拌筒においてスラリー、空気、ポリアクリルアミド加水分解物等の保水剤を混合攪拌させて噴出させる技術がそれぞれ開示されている。
【0006】
また、(4)特公昭63-277321号公報には、凝集剤と吸水性高分子凝集剤を吹出口付近で添加した泥状材を対象面へ吹き付ける技術が開示されている。(5)特開平4-194119号公報には、客土を含む泥状材をホースを介して圧送して対象面に吹き付ける際に、吹き出し口を出た泥状材が高分子凝集剤および発泡剤を含む技術が開示されている。
これらの吹き付け用土に用いる材料は、黒ボクやローム等の粘土を主成分とする自然土壌を主体とし、これにバーク堆肥やピートモス等の土壌改良材を少量混合したものであり、それを水と混合攪拌し、泥状にして用いることが従来の通例であった。
【0007】
しかしながら、凝集剤を加えた上記の従来方法によると、法面などへの吹き付けができ且つ法面への付着も良いが、粘土分が主材料のために吹き付け基盤の強度が弱く、吹き付け厚さが厚くなると自重により塑性変形を起こしてダレが生じ、急勾配法面では自立安定性が不良である。又、乾燥後の空隙バランスが不良で、空隙が多いため乾燥が激しく、植物の生育に適する良好な生育基盤を造成することは困難であった。
【0008】
吹き付け直後に塑性変形を起こし易い、凝集剤を添加する従来工法により造成された生育基盤の自立安定性を向上させるために短繊維を用いたホートク緑化工法(特公平4-33327号公報など)、連続長繊維を用いたテクソル・グリーン工法(特開平1-310019公報など)、ロービングショット工法(特開平4-120315号公報など)などが開示されている。
しかし、吹き付け直後は含水率が高く、最も塑性変形し易いので、自立安定性の向上を計りたいが、この時点において、上記繊維の補強効果は少なく、後の二者はむしろ、連続長繊維によって生育基盤が一体化した面となっているために、団粒反応にバラツキがあり強度の弱い場合は、連続長繊維によって、部分的な塑性変形(だれ)が連鎖的に拡大し、生育基盤全面が滑動するという欠点が認められた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
アニオン性高分子凝集剤を添加した吹き付け用土にノズル付近でアニオン性高分子凝集剤を混ぜて凝集・団粒化させて植物生育基盤を造成する方法などの、アニオン性高分子凝集剤を用いる従来法の場合には、吹き付け用土に含まれる微粒土分が少ないとうまく団粒化しないという問題や、吹き付け前の用土に対し吹き付け後の造成基盤のボリュームが少ないという問題、バーク堆肥等の粗大有機質を多く使用した吹き付け用植生基材で植物生育基盤を造成した後に雨が降ると、植生基材を通過した水は褐色に濁り、道路や河川などに流れ出し自然環境を侵すなどの問題等がある。
そこで従来、植物の生育に良好な基盤を造成するためには、吹き付け用土に含まれる微粒士分の管理を行ったり、微粒士分と粗大有機質分を程よく配合して安定した品質の吹き付け用土を供給したりするが、操作が煩雑になり、また各地の土質の違いによりこれらを実施するのが困難なことが多いという問題があった。
本発明の課題は、微粒土分の管理を行う必要がなく、法面を造成するために山を切り取った際の現場の土を使用しても、吹き付け工法により法面等などに吹き付けても水の流下と共に吹き付け物がだれず、乾燥後の収縮が少なく、厚さの厚い植物生育基盤を作ることができ、造成された植物生育基盤は、強度が大きく、空隙分布のバランスが良く、保水性、排水性、通気性、法面上での自立安定性などに優れる、植物の生育に適するものであって、かつ、植生基材を通過した施工時の水や雨水が褐色に濁って自然環境を侵すなどの問題等がない吹き付け工法による植物生育基盤の造成方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、カチオン性有機高分子凝集剤を添加した吹き付け用植生基材スラリーを用い、ノズル付近でアニオン性有機高分子凝集剤を混ぜて植物生育基盤を造成することによって、上記の課題を解決することができることを見い出し本発明を成すに到った。
【0011】
本発明の請求項1は、堆肥を主要構成成分とする吹き付け用植生基材であって、全固形物中の堆肥の混合割合が45容量%〜100容量%である吹き付け用植生基材に縮合系カチオン性有機高分子凝集剤を混練したスラリーをホースを介して圧送し、吹き出し口近傍にてアニオン性有機高分子凝集剤を添加した後に対象面へ吹き付けることを特徴とする植物生育基盤造成方法である。
【0012】
【作用】
カチオン性有機高分子凝集剤を、有機質土壌改良材(堆肥)を主要構成成分とし、作業現場の土などの客土、無機質土壌改良材、肥料、ファイバーなど、および水と混練して吹き付け用植生基材スラリーとすることにより、上記カチオン性有機高分子凝集剤は、有機質土壌改良材(堆肥)中のフミン質等と反応して着色成分の流出を防止すると共に、スラリー中の各成分を凝結して細かいフロックをつくり、後に添加されるアニオン性有機高分子凝集剤による凝集作用が効果的に発揮できる様に調質する作用がある。
本発明の方法により上記の問題のない植物の生育に良好な基盤を造成することができる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明の植物生育基盤造成方法を実施例により詳細に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り実施例によって限定されるものではない。
図1に本発明による吹き付け工法に用いる設備の例を示す。
吹き付けノズル1にスラリー調合槽2ならびにアニオン性有機高分子凝集剤溶液槽3からポンプ4、5を途中に有し資材を移送するホース6、7を接続する。
スラリー調合槽2には客土、無機質土壌改良材、有機質土壌改良材、肥料、ファイバー等を投入し、水に分散させてスラリー状とした後にカチオン性有機高分子凝集剤を添加混合してスラリーを調整する。
これをポンプ4によりホース6を介して吹き付けノズル1に導く。
本発明で用いる客土としては、黒土、赤土、泥土、砂質土等を用いることができ、また本発明においては土質の影響を受け難いために、シルト・粘土含有量の少ない山地の自然土壌であっても有利に使用することができる。
無機質土壌改良材としてはパーライト、バーミキュライト、ベントナイト等の鉱物質土壌改良材が用いられる。
【0014】
また有機質土壌改良材としてはバーク堆肥、ピートモス、コンポスト類等が用いられる。有機質土壌改良材は自然土壌に不足し易いフミン質の補給に有効であり、フミン質は土壌の保肥能力、保水能力、通気性等の土質物性面ばかりではなく、有用微生物を増殖させ、一般に地力と呼ばれる植物生育に有用な性質を土壌に付与する性質がある。
本発明においては土質改善効果の大きい有機質土壌改良材の配合割合の多い場合に卓効を発揮する。
【0015】
これらの成分と水を混合したスラリーに対して添加混合するカチオン性有機高分子凝集剤としては、エピクロルヒドリン・アミン縮合物あるいはホルマリン・アミン縮合物等の縮合系カチオン性高分子凝集剤、ポリエチレンイミン等の重縮合系カチオン性高分子凝集剤、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの塩または4級化物あるいはジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの塩または4級化物等のアクリル系カチオンモノマーの単独重合物あるいは共重合物等のアクリル系重合系カチオン性高分子凝集剤、ジアルキルジアリルアンモニウムクロライド重合物さらにはキトサン等の天然系カチオン性高分子凝集剤等を挙げることができる。
【0016】
これらのカチオン性高分子凝集剤はスラリーに対し、0.02〜0.5重量%添加混合される。望ましいカチオン性高分子凝集剤としてはカチオン度が1meq/g以上で、固有粘度が9dl/g以下であり、特に望ましくはカチオン度3meq/g以上で、固有粘度が3dl/g以下のカチオン性高分子凝集剤である。
【0017】
これらのカチオン性有機高分子凝集剤はスラリー調合槽に添加混合され、有機質土壌改良材中のフミン質等と反応して着色成分の流出を防止し、スラリー中の各種成分を凝結させることにより、後に添加するアニオン性高分子凝集剤による凝集作用が効果的に発揮できる様にスラリーを調質する。
この様に調質されたスラリーはポンプ4にて吸引されホース6を介して吹き付けノズル1に導かれる。
【0018】
他方アニオン性有機高分子凝集剤溶液槽3からポンプ5によりホース7を介して送られてきたアニオン性有機高分子凝集剤水溶液は吹き付けノズル1の近傍においてスラリーと合流混合されその吹出口から対象法面8に吹き付けられ、その表面状に空隙の多い植物生育基盤9が造成される。
【0019】
本発明に用いるアニオン性有機高分子凝集剤としては凝集力の強い高分子凝集剤が望ましく、アクリルアミド・アクリル酸塩共重合物、ポリアクリルアミド部分加水分解物、ポリアクリル酸ソーダ、アクリルアミド・アクリルアミド-2メチルプロパンスルホン酸塩共重合物、ポリアクリルアミドのスルホメチル化物等を挙げることができる。
これらアニオン性有機高分子凝集剤はスラリーに対し0.01〜0.5重量%添加混合される。
望ましいアニオン度は0.5meq/g以上で、固有粘度は10dl/g以上である。
【0020】
(実施例1)
スラリー調整槽において次の成分を混合しスラリーを調整した。
種子(イタリアンライグラス) 40容量部
化成肥料 80容量部
客土(地山の砂質土) 1000容量部
バーク堆肥 1000容量部
水 2000容量部
縮合系カチオン性高分子凝集剤 1容量部
上記植生基材スラリーをポンプにて20mのホース中を圧送し、吹出ノズルにおいてポリアクリルアミド部分加水分解物の0.2重量%水溶液をスラリーに対して10容量%添加し、傾斜角45°の露出岩盤面に吹き付けた。
水は速やかに抜けて適度な空隙が分布し、自立安定性に優れ、吹き付け後のボリュウムの減少が小さな、植物の生育に良好な基盤を造成することができた。
雨が降っても水は着色しなかった。
【0021】
(実施例2)
スラリー調整槽において次の成分を混合しスラリーを調整した。
種子(イタリアンライグラス) 40容量部
化成肥料 80容量部
バーク堆肥 2000容量部
水 2000容量部
縮合系カチオン性高分子凝集剤 10容量部
上記植生基材スラリーをポンプにて20mをホース圧送し吹出ノズル直前においてポリアクリルアミド部分加水分解物の0.2重量%水溶液をスラリーに対して10容量%添加し傾斜角45°の切り通し面に吹き付けた。
水は速やかに抜けて適度な空隙が分布し、自立安定性に優れ、吹き付け後のボリュウムの減少が小さな、植物の生育に良好な基盤を造成することができた。
雨が降っても水は着色しなかった。
【0022】
(比較例)
実施例1および実施例2における縮合系カチオン性高分子凝集剤に替えて同量ならびに10倍量のアニオン性高分子凝集剤または硫酸アルミニウムを添加混合したスラリーを調整し、各実施例と同様に対象法面へ吹き付けた。
吹き付けた植生基材は流れてしまい、基盤はできなかった。吹き付け段階で褐色の水がでてきた。
【0023】
【発明の効果】
本発明においてはカチオン性有機高分子凝集剤とアニオン性有機高分子凝集剤を併用することにより、アニオン性高分子凝集剤のみを用いる従来法の場合の諸問題を解決することができた。
本発明においては法面を造成するために山を切り取った際の現場の土を使用しても、植物の生育に良好な基盤を造成することができ、かつ、吹き付け用植生基材に含まれる微粒土分の管理などを行なう必要がなく、植生基材を通過した施工時の水や雨水が褐色に濁って自然環境を侵すなどの問題がない。
本発明の吹き付け工法により法面等などに吹き付けると水の流下と共に吹き付け物がだれず、乾燥後の収縮が少なく、厚さの厚い植物生育基盤を作ることができる。
本発明の方法により造成された植物の生育に適する植物生育基盤は、強度が大きく、空隙分布のバランスが良く、保水性、排水性、通気性、法面上での自立安定性などに優れており、その産業上の利用価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による植物生育基盤造成のための吹き付け工法に用いる設備の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
1 吹き付けノズル
2 スラリー調合槽
3 アニオン性有機高分子凝集剤溶液槽
4 ポンプ
5 ポンプ
6 ホース
7 ホース
8 法面
9 植物生育基盤
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-09-29 
出願番号 特願平4-350006
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (E02D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 鈴木 憲子  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 山口 由木
藤原 伸二
登録日 2000-08-11 
登録番号 特許第3098346号(P3098346)
権利者 ハイモ株式会社 ライト工業株式会社
発明の名称 植物生育基盤造成方法  
代理人 樋口 外治  
代理人 秋元 輝雄  
代理人 秋元 輝雄  
代理人 吉田 維夫  
代理人 鶴田 準一  
代理人 秋元 輝雄  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  

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