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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1091500
異議申立番号 異議2003-72287  
総通号数 51 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-09-12 
確定日 2004-01-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第3390695号「ビール中の微量日光臭成分である3-メチル-2-ブテン-1-チオールの微量分析法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3390695号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
特許第3390695号(平成11年5月19日出願、平成15年1月17日設定登録)の請求項1ないし2に係る発明は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)。
「【請求項1】 被検体であるビール中に不活性ガスを吹き込みビール中に含有されている微量揮発性成分をビールから追い出し、これを捕集剤で捕集したのち、捕集成分を、加熱脱着装置、キャピラリーガスクロマトカラムを通した後、質量分析器で検出するビール中の微量日光臭成分である3-メチル-2-ブテン-1-チオールの微量分析法において、
(1)前記捕集剤として、グラファイトカーボン10〜50重量%とポリ(2,6-ジフエニル-p-フェニレンオキサイド)90〜50重量%よりなる組成物を使用する、
(2)ビール中に不活性ガスを吹き込むときのビール温度を-5℃〜10℃とする、
のいずれか一方または両方の条件下で実施することを特徴とするビール中の微量日光臭成分である3-メチル-2-ブテン-1-チオールの微量分析法。
【請求項2】 検体中の3-メチル-2-ブテン-1-チオールの濃度が官能閾値濃度以下のものである請求項1記載のビール中の微量日光臭成分である3-メチル-2-ブテン-1-チオールの徴量分析法。」

2.申立ての理由の概要
特許申立人村山和人は、以下の甲号証刊行物を提出して、本件発明1および本件発明2は、甲第1号証〜甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定に該当し、本件発明1および本件発明2に係る特許は同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものであると主張している。
(1)甲第1号証: ASBC Journal,vol.51,No.2, p.70-74,1993
(2)甲第2号証: J.Inst.Brew.,Nov.-Dec., 1985,vol.91,p.364-369
(3)甲第3号証: Monatsschrift fur Brauwissenschaft, Heft 1/1983, p.13-17
(4)甲第4号証:「共立女子短期大学生活科学科紀要」第38号(1995)、p.131-136
(5)甲第5号証: 「液体クロマトグラフ ガスクロマトグラフ 環境分析 ジーエルサイエンス株式会社 総合カタログNo.27 」平成13年5月発行、p.47、p.509

3.甲号証刊行物の記載事項
(1)甲第1号証
「ビール中の3-メチル-2-ブテン-1-チオールの定量」と題する論文である甲第1号証には、
(1a)ビール中の日光臭の原因化合物である3-メチル-2-ブテン-1-チオールを、1ng/L以下のレベルで定量したことが記載され(第70頁左欄、要約の第1〜2行目)、
(1b)その方法は、40℃で90分間、600ml/分でビール中に高純度のヘリウムを吹き込み、ビールから追い出された該チオールと非チオール有機物をチオールトラップに通し、チオールをHg(II)シアナミド-含有ガラスウールに捕捉させ、次いでそのガラスウールからジクロロメタン相に抽出し、抽出相をシリンジに採取してガスクロマトグラフ装置に注入して、炎イオン化検出器(FID)、炎光光度検出器(FPD)、質量分析器(MS)、あるいは硫黄化学ルミネセンス検出器(SCD)で検出したことが記載され、使用したガスクロマトグラフ装置のカラムはキャピラリーカラムであったことが記載されている(第70頁左欄下から5行〜第72頁左欄19行、第70頁左欄の要約、第71頁左欄17行〜23行)。

(2)甲第2号証
「ビール中の硫黄系臭い物質の研究のための日常的調査手段の開発」と題する論文である甲第2号証には、
(2a)有機硫黄系揮発性物質の機器分析の項において、数多くの方法が揮発性のビール臭い成分の濃度、分離および評価のために考え出されてきたが、最近数年の傾向は、いわゆる追い出し/捕捉/脱着(PTD)システムの使用に向かっており、これは不活性ガスによって、ビールから揮発性物質を追い出し、コールドトラップまたは吸着剤を詰めたトラップに通し、適当な捕集期間後不活性ガス気流下で加熱することによりトラップから脱着させ、分析のためにガスクロマトグラフに送り込むことを含むものであることが記載され、揮発性物質は、中間コールドトラップで再捕集あるいはガスクロマトグラフカラム前端に“熱的に焦点合わせ”され、しばしば0℃未満まで冷却されること、そしてこの研究が、現存装置、Finnigan 1020 GC-MS装置を炎光光度検出器(FPD)および極低温GCオーブン冷却手段(-50℃程度のオーブン温度を与えることが可能)を取り付けるという最小限の改造で、硫黄揮発物質の分析に適したPTDシステムを開発することを目的とすることが記載され(第366頁左欄下から4行〜右欄17行)、
(2b)吸着剤として、硫黄揮発性物質をむしろよりよく回収するので、Tenax GCあるいはChromosorb 102よりも、Porapak Qを選択したことが記載され(第366頁左欄下から4行〜右欄17行)、
(2c)透明あるいは緑色のガラス瓶にパックされたビールは、日光または様々な人工光源からの光に曝されたとき、日光臭あるいは日向臭さとして表現される臭い物質を形成しやすくなり、PTD法が光過剰暴露により損なわれたビール中の3-メチル-2-ブテン-1-チオールの検出に用いられていたこと、そして、図3aに、地元スーパーマーケット購入時の緑色ガラス瓶入りの輸入ラガービールの分析から得られたFPDクロマトグラフの一部が、図3bに、日光をさらに1時間あてた後に生じた3-メチル-2-ブテン-1-チオール量の増加を示すクロマトグラフが示されていることが記載され(第367頁左欄31行〜右欄3行)、
(2d)具体的な分析条件等についての項に、30℃のウォーターバス中のフラスコに試料ビールを入れて、窒素ガスを吹き込んでビール揮発成分を追い出していることが記載されている(第367頁右欄下から10行〜第368頁左欄7行、第5図)。

(3)甲第3号証
「ppbレベルで麦芽汁及びビール中の揮発性硫黄化合物の定量」と題する論文である甲第3号証には、試料として、0℃のビール500mlを1mlの標準物質、メチル-エチル-スルフィド約1000ppb、消泡剤1滴とともに使用し、窒素ガスで追い出した揮発性成分を、Chromosorb 102を充填した吸着筒で捕捉した後、加熱脱着し、-65℃の前置カラム(コールドトラップ)で凝縮した後、検出器としてFPDを備えたガスクロマトグラフ装置で分析したことが記載されている(第15頁左欄第14行〜第15頁右欄下から第5行、特に第15頁右欄第4〜5行、12行)。

(4)甲第4号証
「低分子アルコール、アルデヒドおよびケトンに対するTenax-GR Tenax-TAおよびCarbotrap-Bの吸着特性について」と題する論文である甲第4号証には、食品の臭い物質の分析法であるパージアンドトラップ法等に用いられる捕集剤について記載されており、メタノール、エタノール、1-ブタノールその他を検出器としてFIDをつけたガスクロマトグラフ装置を用いて得た測定結果から、食品などの揮発性物質の分析においては、近年開発されたポーラスポリマーとカーボングラファイトを組み合わせたTenax-GR(ジーエルサイエンスから購入)が最も適する捕集剤といえることが記載されている(特に、第132頁左欄18〜右欄9行、第135頁左欄下から3〜2行)。

(5)甲第5号証
ジーエルサイエンス株式会社の総合カタログである甲第5号証には、「Tenax GR」が「Tenax TAに23%グラファイトカーボンを含浸させた混合充填剤」であり、「Tenax TA」は、「2,6-diphenly-p-phenylene oxide構造の耐熱性樹脂」であり、各種化合物の捕集剤として使用されることが示されている(第47頁、第509頁の「Tenax GR」及び「Tenax TA」の項)いるものの、その発行日は平成13年5月であり、本件特許出願後である。

4.本件発明と甲号証記載の発明との対比、検討
(1)本件発明1について
(イ)本件発明1と甲第1号証に記載された発明を対比すると、両者は、
(一致点)
「被検体であるビール中に不活性ガスを吹き込み、ビール中に含有されている微量揮発性成分をビールから追い出し、これを捕集剤で捕集したのち、捕集成分を捕集剤から分離し、キャピラリーガスクロマトカラムを通した後、質量分析器で検出するビール中の微量日光臭成分である3-メチル-2-ブテン-1-チオールの微量分析法。」
である点で一致するが、次の点で相違する。
(相違点1)
捕集成分の捕集剤からの分離が、本件発明1では、加熱脱着装置により分離するのに対し、甲第1号記載の発明では、捕集剤からジクロロメタン相へ抽出して分離する点。
(相違点2)
捕集剤および不活性ガスの吹き込み時の条件について、本件発明1では、(i)補集剤として、グラファイトカーボン10〜50重量%とポリ(2,6-ジフエニル-p-フェニレンオキサイド)90〜50重量%よりなる組成物を使用する、(ii)ビール中に不活性ガスを吹き込むときのビール温度を-5℃〜10℃とする、のいずれか一方または両方の条件下で実施するものであるのに対し、甲第1号証記載の発明では、(i’)捕集剤として、Hg(II)シアナミド-含有ガラスウールを使用し、かつ(ii’)ビール中に40℃で不活性ガスを吹き込むものである点。

(ロ)上記相違点について検討する。
ビール中の揮発性硫黄化合物を、加熱脱着装置を用いる、いわゆる追い出し/捕捉/脱着(PTD)システムでガスクロマトグラフ分析を行うことは、甲第2,3号証に記載されているが、それらのガスクロマトグラフカラムを通した後の検出手段は、いずれも炎光光度検出器(FPD)であって、質量分析器ではないし、使用される捕集剤も、Porapak QあるいはChromosorb 102であって、本件発明1の上記条件(i)の捕集剤と同じものであるとも認められない。
また、甲第3号証には、0℃のビールから不活性ガスを吹き込みにより揮発性硫黄化合物を追い出すことが記載されているものの、本件発明1の測定対象である3-メチル-2-ブテン-1-チオールを定量することについては、何ら記載されていない。
さらに、市販の物品については、同一商品名のものであっても、その具体的な成分組成等の物品内容が販売開始以来、常に一定で変わらないことということはいえないから、本件発明の特許出願後の商品カタログである甲第5号証の記載によれば、上記条件(i)の捕集剤に該当するものになる「Tenax-GR」を用いることが甲第4号証に記載されているとしても、甲第4号証自体には当該市販捕集剤の具体的成分組成まで記載されていない以上、甲第4号証に上記条件(i)の捕集剤を使用することが記載されているとは認められない。しかも、甲第4号証には、ビール中の3-メチル-2-ブテン-1-チオールの定量についても、キャピラリークロマトカラムを通した後、質量分析器で検出することも何ら記載されていない。
そして、本件発明1は、上記相違点1および2の構成を採用するパージ・アンド・トラップ法及びGC・MS分析法を用いて、本件特許明細書に記載のごとく、ng/Lレベルでビール中の微量日光臭成分である3-メチル-2-ブテン-1-チオールを定量可能とした徴量分析法である。
甲第1号証記載の分析法は、ng/Lレベルでビール中の微量日光臭成分である3-メチル-2-ブテン-1-チオールを定量するものであるが、そのキャピラリーガスクロマトカラムに通す前の処理は、上記条件(i)の捕集剤とは異なる特定の捕集剤での捕集と、加熱脱着とは全く異なる捕集成分の特定の溶媒抽出脱着処理を組み合わせた方法であるから、ビール中の3-メチル-2-ブテン-1-チオールの定量において、そのようなキャピラリーガスクロマトカラムに通す前の特定処理に換えて、上記相違点1および2の構成を採用することを何ら示唆、教示することのない甲第2〜4号証記載の発明を組み合わせてみても、ビール中の3-メチル-2-ブテン-1-チオールを定量するために、甲第1号証記載の発明において上記相違点1および2の構成を採用することが、当業者に容易になしえたものとはいえるものではない。
そうすると、本件発明1は、本件特許出願前に外国又は日本国において頒布された甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、検体中の3-メチル-2-ブテン-1-チオールの濃度が官能閾値濃度以下のものであることを特定して請求項1を引用する発明であるから、本件発明1について前述したのと同様に、本件特許出願前に外国又は日本国において頒布された甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものということはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし2に係る発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件の請求項1ないし2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-12-17 
出願番号 特願平11-139328
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 福島 浩司
矢沢 清純
登録日 2003-01-17 
登録番号 特許第3390695号(P3390695)
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 ビール中の微量日光臭成分である3-メチル-2-ブテン-1-チオールの微量分析法  
代理人 友松 英爾  
代理人 伴 正昭  

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