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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) A23L
管理番号 1092104
審判番号 無効2000-35501  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-11-19 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-09-19 
確定日 2004-02-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第2615314号の特許無効審判事件について、併合の審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2615314号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯及び本件発明
1-1 手続の経緯
本件特許第2615314号に係る発明についての出願は、平成1年3月14日に特許出願された特願平1-62648号の一部を平成4年6月12日に新たに特許出願したものであって、平成9年3月11日にその特許の設定登録がなされ、その後、平成12年8月25日付けで請求人 井村 覺より特許無効審判が請求され(無効審判2000ー35448号事件)、更に、平成12年9月19日付けで請求人 株式会社 佐竹製作所より特許無効審判が請求され(無効審判2000ー35501号事件)、平成13年3月29日に第1回口頭審理、平成13年9月19日に第2回口頭審理を行って両事件の争点整理をし、その後平成13年11月22日付けで無効理由通知がなされ、平成14年1月9日付けで意見書が提出されたものである。

1-2 本件特許に係る発明
本件特許第2615314号の請求項1及び2に係る発明は、特許明細書の記載の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる、米肌に亀裂がなく、米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された、平均含水率が約13%以上16%を超えないことを特徴とする洗い米。
【請求項2】 請求項1記載の洗い米を、気密性のある包装材を使用した包装用袋に入れ、当該米と包装用袋との間に、米粒群のみかけの体積が最も小さい状態を保持するに必要な空気のみを残し、余剰空気はすべて排除して密封することを特徴とする洗い米の包装方法。」
(以下、請求項1に記載された発明を「本件発明」、請求項2に記載された発明を「本件請求項2に係る発明」という。)

2.当事者の主張
2-1 請求人 井村 覺の主張(無効審判2000ー35448号事件)
請求人 井村 覺は、審判請求書において、下記の無効理由1〜4を挙げて、本件特許は無効にすべきものであると主張している。
(1)無効理由1
本件発明は、甲第1号証ないし甲第9号証に記載された公知事実及び本件特許出願時の周知事項に基づき当業者が容易に成し得た発明であり、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当する。
(2)無効理由2
(a)「吸水した水分が米粒の表層部にとどまっているうちに米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去されるまで米粒を洗浄する」工程と、(b)「洗浄時に吸水した水分が米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水する」工程についての本件明細書の記載は、すべて具体性を欠き、単なる希望的事項の開示に止まっている。
上記工程(a)、(b)の技術的内容の具体的な把握は当業者にとって困難であり、到底反復して実施することができず、技術的にみて未完成であることは明らかである。
本件発明は、発明として未完成であり産業上利用することができない発明であるから、本件発明の特許は、特許法第29条第1項柱書の規定に違反してなされたものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する。
(3)無効理由3
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載の「表層部」、「主に」及び「ほとんど」なる用語の意味が不明瞭であり、したがって、当該請求項1は「発明の構成に欠くことができない事項のすべてが記載されている」とは到底考えられず、本件発明の特許は、特許法第36条第4項第2号の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第4号(「第123条第3項」は誤記と認める)の規定に該当する。
(4)無効理由4
本件請求項1に係る記載は単なる願望または公知課題に過ぎず、明細書の発明の詳細な説明の欄にも具体的な製造方法が実施可能な程度に記載されておらず、本件明細書ならびに技術常識に基づいて出願当時の当業者が製造できない。したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の記載は、特許法第36条第3項に規定の要件を満たしておらず、本件発明の特許は、特許法第123条第1項第4号(「第123条第3項」は誤記と認める)の規定に該当する。

そして、上記主張を立証する証拠方法として、審判請求書と共に下記甲第1号証〜甲第28号証を提出し、さらに本件発明が未完成であり、当業者といえども特許明細書の記載に基づいて実施不可能であることを立証するために、検証(検甲第1号証ないし検甲第3号証)を申し立てている。
また、請求人は、上記主張事実を立証するために、平成13年4月27日付け上申書と共に下記資料1〜7を提出し、さらに平成13年4月27日付け検証申立書において、本件特許公報記載のように精白米が2%の吸水をなすと、遅くともその日のうちに亀裂が生じて請求項1に係る洗い米は製造不可能なことを立証するために、検証を申し立てている。
さらに、請求人は、平成13年9月11日付け口頭審理陳述要領書と共に下記資料8〜20を提出し、平成13年10月1日付け上申書と共に下記資料1補1〜資料1補4を提出し、平成13年11月26日付け上申書と共に下記資料A及び資料Bを提出している。

甲第1号証:特公昭51ー22063号公報
甲第2号証:特開昭57ー141257号公報
甲第3号証:特公昭59ー13895号公報
甲第4号証:特開昭63ー84642号公報
甲第5号証:特開昭63ー319057号公報
甲第6号証:特開昭61ー283359号公報
甲第7号証:特開昭57ー1448号公報
甲第8号証:特開昭63ー319056号公報
甲第9号証:特開昭61ー85155号公報
甲第10号証:特開平3ー154643号公報
甲第11号証:特開平5ー68896号公報
甲第12号証:特開平5ー207856号公報
甲第13号証:特開平10ー296100号公報
甲第14号証:雑賀技術研究所あて竹田特許事務所発信のFAX通信紙( 昭和63年6月16日付)
甲第15号証:雑賀技術研究所あて竹田特許事務所発行の請求書(昭和6 3年7月8日付)
甲第16号証:雑賀技術研究所が竹田特許事務所に依頼して準備した特許 明細書(水洗米及びその製造方法)
甲第17号証:雑賀技術研究所が竹田特許事務所に依頼して準備した特許 明細書(洗米装置)
甲第18号証:雑賀技術研究所が竹田特許事務所に依頼して準備した特許 明細書(水洗米の遠心脱水装置)
甲第19号証:雑賀技術研究所が竹田特許事務所に依頼して準備した特許 明細書(水洗米の遠心噴風脱水装置)
甲第20号証:平成4年(ワ)第458号事件(和歌山地裁)において株 式会社東洋精米機製作所が提出した準備書面(平成5年3 月17日)
甲第21号証:平成4年(ワ)第458号事件(和歌山地裁)において株 式会社東洋精米機製作所が提出した準備書面(平成6年2 月16日)
甲第22号証:覚書(雑賀技術研究所と東洋精米機間)
甲第23号証:平成4年(ワ)第458号事件(和歌山地裁)第20回口 頭弁論調書(雑賀慶二本人調書、平成7年7月19日)
甲第24号証:特開平2-242647号公報
甲第25号証:平成4年(ワ)第458号事件(和歌山地裁)第21回口 頭弁論調書(井村 覺本人調書、平成7年9月13日)
甲第26号証:平成4年(ワ)第458号事件(和歌山地裁)第22回口 頭弁論調書(井村 覺本人調書、平成7年11月15日)
甲第27号証:平成4年(ワ)第458号事件(和歌山地裁)判決
甲第28号証:公証人岩川清による確定日付第2903号(昭和63年7 月16日付けの東洋精米機製作所役員会で承認された計画 書)
検甲第1号証:本件特許公報記載の実施例1、2、3に係る洗い米(所在 地:和歌山県和歌山市黒田75番地の2 財団法人雑賀技 術研究所内、または和歌山県和歌山市黒田12番地 株式 会社 東洋精米機製作所内、または和歌山県和歌山市茶屋 の丁7番地の16 雑賀 慶二宅)
検甲第2号証:本件特許公報記載の実施例1および2に係る洗米機(所在 地:和歌山県和歌山市黒田75番地の2 財団法人雑賀技 術研究所内、または和歌山県和歌山市黒田12番地 株式 会社 東洋精米機製作所内、または和歌山県和歌山市茶屋 の丁7番地の16 雑賀 慶二宅)
検甲第3号証:本件特許公報記載の実施例1、2に係る除水装置(所在地 :和歌山県和歌山市黒田75番地の2 財団法人雑賀技術 研究所内、または和歌山県和歌山市黒田12番地 株式会 社 東洋精米機製作所内、または和歌山県和歌山市茶屋の 丁7番地の16 雑賀 慶二宅)
資料1:実公昭40ー11180号に係る洗米機による実験結果
資料2:洗米機の従来例
資料3:洗米機の従来例
資料4:洗米機の従来例
資料5:井村所有の特許に係る公告公報写し
資料6:平成4年(ワ)第458号(和歌山地裁)で被請求人らが提出し た甲第47号証写し、同じく被請求人らが特公平7-10632 1号に対する特許異議申立で提出した甲第4号証
資料7:特公平7-106321号に対する特許異議申立における異議決 定書写し
資料8〜20:請求人 井村 覺の実験結果に係る無洗米の容姿を示す写 真
資料1補1:再現連続式洗米機の全体断面図
資料1補2:撹拌部の拡大図
資料1補3:ケースの上面に形成された網状部の詳細図
資料1補4:ケースの下面に形成された網状部の詳細図
資料A:精白米の洗米試験に関する大阪市立工業研究所研究報告書(大工 研第1254号)
資料B:大阪地方裁判所 平成12年(ワ)第7559号 特許権に基づ く差止め等請求事件における第8回準備書面

2-2 被請求人の主張(請求人 井村 覺の主張に対する反論)
被請求人は、答弁書と共に下記の乙第1号証〜乙第22号証を提出して、請求人 井村 覺の主張する無効理由1〜4に対して、次のとおり反論している。
(1)無効理由1に対して
本件特許の「洗い米」は、甲第1号証〜甲第9号証に記載のものとは全く別異のものである。本件発明は、甲第1号証から甲第9号証に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることはできず、特許法第29条第2項の規定に違反していない。
(2)無効理由2に対して
明細書に細かく装置の構造まで書かなくとも、本件発明は反復実施可能であり発明は完成されているのである。それは、本件特許に対する無効審判事件の審決(乙第2号証)、及び異議決定(乙第15号証)、更には、本件特許の侵害事件の判決(乙第15号証)のいずれもが特許の成立を認定していることからも明らかである。
(3)無効理由3に対して
「表層部」とは米粒表面を含みこれに近い層を意味することは明確である。また、「主に」及び「ほとんど」も不明瞭ではなく、本件の請求項1の記載は、特許法第36条第4項第2号の規定を満たしているものである。
(4)無効理由4に対して
通風による除水装置は、単に公知といったものではなく、従来より当業者にとって極めて良く用いられた装置であって、発明の本質を開示すれば、それに伴って除水手段についてまで殊更詳しく開示しなくとも、当業者が容易に使用し実施しうるものである。
さらに、遠心脱水機との併用も当業界では古くからの周知技術である。
いずれにせよ、本件発明の除水は、周知の除水手段により達成できるものであり、本件特許明細書は当業者が容易に実施できる程度に記載されている。
さらに、被請求人は、上記主張事実を立証するために、平成13年4月27日付け上申書と共に下記乙第23号証〜乙第37号証の2を、平成13年7月30日付け上申書と共に下記乙第38号証をそれぞれ提出し、平成13年9月7日付け口頭審理陳述要領書と共に下記乙第39号証〜乙第43号証を提出し、平成13年10月19日付け上申書と共に下記乙第7号証の2、及び下記乙第44号証〜乙第60号証を提出し、平成14年1月9日付け意見書と共に下記乙第61号証〜乙第74号証を提出している。

乙第1号証:本件特許第2615314号掲載公報
乙第2号証:無効審判平成9年第13660号審決
乙第3号証:朝日新聞の記事
乙第4号証:食品製造工程図集
乙第5号証:特開昭61ー115858号公報
乙第6号証:実公昭46ー34708号公報
乙第7号証:実開昭61ー121946号公報
乙第8号証:特公昭35ー8642号公報
乙第9号証:特公昭63ー44013号公報
乙第10号証:特公昭62ー19899号公報
乙第11号証:特公昭49ー9191号公報
乙第12号証:特公昭47ー8970号公報
乙第13号証の1:特公平6ー51120号公報
乙第13号証の2:特公平6ー51120号の異議決定書
乙第14号証:大阪地裁平成9年(ワ)第9063号判決の抜粋
乙第15号証:平成9年異議第73747号の異議決定
乙第16号証:審査経過(パトリス:甲第11号証の拒絶査定)
乙第17号証:審査経過(パトリス:甲第12号証の拒絶査定)
乙第18号証の1:和歌山地裁判決(平成4年(ワ)第362号)
乙第18号証の2:大阪高裁判決(平成10年(ネ)第423号)
乙第18号証の3:最高裁判決(平成11年(オ)第225号)
乙第19号証の1:支払い督促状
乙第19号証の2:同上
乙第20号証:大阪高裁判決の抜粋(甲第27号証事件の控訴審判決)
乙第21号証:請求人文書
乙第22号証:東京高裁平11行ケ21号((株)佐竹製作所)の準備書 面(第5回)
乙第23号証:東高裁の平成13年4月10言渡平成11年(行ケ)第2 1号判決
乙第24号証:同上事件原告準備書面(第6回)1頁1行〜13頁22行
乙第25号証:同上事件原告準備書面(第3回)29頁17行〜30頁2 6行
乙第26号証:同上事件被告準備書面(第2回)42頁7行〜44頁12 行
乙第27号証:醸造用機器解説
乙第28号証:特公昭30ー1315号公報
乙第29号証:実公昭40ー11180号公報
乙第30号証:「世界大百科事典5」初版11刷、1968.5.20( 平凡社)346頁
乙第31号証:実公平1ー16515号公報
乙第32号証:特公昭27ー91号公報
乙第33号証:「増補 遠心分離」昭和60年1月5日(株)化学工業社 発行8頁
乙第34号証:「鑑定書」(弁理士 藤井忠司作成)添付の「イ号装置、 イ号方法及びイ号物件の説明書」(井村 覚氏の説明に基 づいて特定したもの)
乙第35号証:「無洗米」のパンフレット (株)クリキの発行(6頁「 無洗米の品質目標」の項を参照)
乙第36号証:大阪地方裁判所 平成9年(ワ)第9063号事件((株 )佐竹製作所「ロ号物件の説明」の項を参照)

乙第37号証の1:和歌山地裁 平成4年(ワ)第458号(不正競争防 止法に基づく差止請求事件)原告準備書面(第6回) (平成6年9月1日)
乙第37号証の2:同上 被告準備書面(第6回)(平成6年10月19 日)
乙第38号証:大阪高等裁判所(言渡:平成13年7月12日)平成12 年(ネ)第1016号判決
乙第39号証:特公平7-106321号公報(特許第2141449号 )
乙第40号証の1:クリキ無洗米装置により製造された無洗米の商品容器
乙第40号証の2:上記無洗米の写真
乙第41号証の1:サタケ、ジフライス設備により製造された無洗米の商 品容器
乙第41号証の2:上記無洗米の写真
乙第42号証:和歌山工業技術センターの試験分析等成績書
乙第43号証:井村本人の上申書に添付された無洗米の写真(被請求人 撮影)
乙第7号証の2:実開平61ー121946号公報明細書
乙第44号証:平成9年無効審判第13660号事件での平成10年10 月16付けの答弁書
乙第45号証の1:同上平成10年9月24日付けの実験報告について上 申書
乙第45号証の2:同上上申書での参考書面7(食品製造工程図表646 頁)
乙第46号証:平成9年無効審判第13660号事件での平成10年9月 18日付けの回答書
乙第47号証:特開昭64ー4257号公報(乙第46号証(平成10年 9月18日付け回答書)での乙第8号証)
乙第48号証:特開昭55-157335号公報(同上乙第19号証)
乙第49号証:実開昭51-105092号公報(同上乙第20号証)
乙第50号証:世界大百科事典3、初版第11刷、1968年5月20日 、平凡社、p.250(同上乙第9号証の2)
乙第51号証:商経アドバイス、昭和62年7月2日、(株)商経アドバ イス、第4頁、(株)米山穀機発明所広告(同上乙第10 号証)
乙第52号証:上新粉製造実証プラント見積仕様書、昭和63年1月12 日、株式会社躍進機械製作所食品機械事業部粉体機器事業 部(同上乙第11号証の1)
乙第53号証:和歌山地方裁判所平成4年(ワ)第459号事件における 平成7年10月18日の川合忠彰氏の本人調書(同上乙第 11号証の2)
乙第54号証:食糧振興 No.49’93年秋期号、社団法人全国食糧 振興会、p.4(同上乙第13号証)
乙第55号証:食糧振興 No.53’94年秋期号、社団法人全国食糧 振興会、p.13(同上乙第14号証)
乙第56号証:精米工業、No.142、平成5年9月、(社)日本精米 工業会、「ジフライス設備」、「きれいさん」の基礎試験 結果について、p.14、p18(同上乙第15号証)
乙第57号証:商経アドバイス、平成4年3月2日、(株)商経アドバイ ス、第3頁、(同上乙第16号証)
乙第58号証:米穀新聞、平成4年12月10日、(株)米穀新聞社、第 3頁(同上乙第17号証)
乙第59号証:特許第2788091号公報(同上乙第18号証)
乙第60号証:最高裁判所平成13年(行ヒ)第210号(平成11年( 行ケ)第21号)不受理決定
乙第61号証:精米基礎技術講習会テキスト(昭和61年11月)(表紙 、3頁)社団法人:日本精米工業会
乙第62号証:上告受理申立書(大阪高裁.言渡:平成13年7月12日 平成12年(ネ)第1016号事件)
乙第63号証:同上記録到着通知書
乙第64号証の1:同上訴訟手続中止の申立書(平成13年12月3日)
乙第64号証の2:同申立書に添付された請求人佐竹への無効理由通知書 (抜粋:1頁)
乙第65号証:同上不受理決定(平成13年12月20日)
乙第66号証:商経アドバイス(平成9年1月13日)
乙第67号証:本件発明の「洗い米」の洗滌の実験結果
乙第68号証:刊行物1についての実験結果
乙第69号証:刊行物等提出書(平成4年5月11日付)
乙第70号証:刊行物等提出書(平成4年3月24日付)
乙第71号証:刊行物等提出書(平成3年10月1日付)
乙第72号証:刊行物等提出書(平成3年10月24日付)
乙第73号証:平成9年審判第13660号事件の回答書(平成10年7 月24日付、表紙、20頁1行〜23頁19行、参考書面 5)
乙第74号証:大阪高裁平成12年(ネ)第1016号事件第4回準備書 面(抜粋:1〜20頁)

2-3 請求人 株式会社 佐竹製作所の主張(無効審判2000ー35501号事件)
請求人 株式会社 佐竹製作所は、審判請求書において、本件特許は特許法第123条第1項第2号及び第4号の規定により無効にすべきものであると主張し、その理由として次の無効理由1及び2を挙げている。
(1)無効理由1
糠による除糠工程で精白米を前処理したうえで、公知の高速の洗米・除水装置で仕上げ除糠をした精白米が本件発明の実体をなしているのである。しかし、本件発明には精白米に対する糠による除糠を窺知するに足りる構成部分が見当たらない。従って、本件特許は、本来の発明の本質をなすべき構成を開示することなくこれを欠落したまま登録されたものであり、特許法(昭和60年法律第41号)第36条第3項の規定、及び特許請求の範囲に発明の構成上不可欠の事項のすべてを記載していないものであって、同法同条第4項の規定にいずれも違背することは明らかである。
(2)無効理由2
本件発明は、甲第5号証〜甲第8号証に開示された技術事項を単純に組み合わせることによって当業者であれば容易に想到することができたものであり、また、本件請求項2に係る発明も、甲第5号証〜甲第9号証に基づいて当業者が容易に成し得たものであり、いずれも特許法第29条第2項に規定する特許要件を具有しないものであることは明らかである。
そして、上記主張を立証する証拠方法として、審判請求書と共に下記甲第1号証〜甲第9号証を提出している。
さらに、請求人は、上記主張事実を立証するために、平成13年2月2日付け上申書と共に下記甲第10号証〜甲第23号証を提出し、平成13年4月27日付け上申書と共に下記甲第24号証〜甲第39号証及び再添甲第1号証資料1、同資料4及び同資料7を提出し、さらに平成13年10月18日付け上申書と共に下記甲第40号証〜甲第55号証を提出している。

甲第1号証:被請求人提出に係る平成4年1月21日付「早期審査に関す る事情説明書」
甲第2号証:特許法概説、有斐閣、平成9年12月20日発行、422ー 424頁
甲第3号証:被請求人提出に係る平成4年6月12日付意見書
甲第4号証:科学大辞典、昭和60年、丸善発行、1046ー1047頁
甲第5号証:特開昭52ー43664号公報
甲第6号証:特公昭35ー15837号公報
甲第7号証:特公昭51ー22063号公報
甲第8号証:実開昭61-121946号公報
甲第9号証:特公昭55ー35302号公報
甲第10号証:平成12年(ワ)第7510号特許権侵害差止請求事件被 告準備書面(二)写
甲第11号証:平成4年(ワ)第458号不正競争防止法に基づく差止等 請求事件、同7年(ワ)第271号特許を受ける権利の確 認請求事件判決
甲第12号証:平成10年(ネ)第2799号、第2800号不正競争防 止法に基づく差止等請求、特許を受ける権利の確認請求各 控訴事件判決 写
甲第13号証:特開昭57ー141257号公報
甲第14号証:特開昭57ー1448号公報
甲第15号証:特開昭63ー84642号公報
甲第16号証:特開昭63ー319057号公報
甲第17号証:特開昭61ー283359号公報
甲第18号証:特開昭61ー85155号公報
甲第19号証:特公平7ー106321号公報
甲第20号証:特開平5ー207856号公報
甲第21号証:特開平3ー154643号公報
甲第22号証:特開平10ー296100号公報
甲第23号証:雑賀慶二氏本人尋問調書 写
甲第24号証:食品加工技術、第1巻第2号、昭和56年10月25日発 行、67-71頁
甲第25号証:特願昭43ー141300号出願明細書(写)
甲第26号証:特公平7ー106321号公報
甲第27号証:トーヨー「これが本物の無洗米です。」と題する書面
(平成4年10月29日確定日付)
甲第28号証:特許第2711644号公報
甲第29号証:パンフレット「『トーヨーの洗っているお米』だけの特長 」
甲第30号証:「コーヒージャーナル」通巻55号、29頁 写
甲第31号証:平成4年4月16日 商経アドバイス 写
甲第32号証:平成3年9月12日 朝日新聞 写
甲第33号証:平成3年9月23日 農村ニュース 写
甲第34号証:平成4年4月5日 産経新聞 写
甲第35号証:平成12年(ワ)第7510号特許権侵害差止請求事件被 告準備書面(第5回)写
甲第36号証:平成4年(ワ)第458号不正競争防止法に基づく差止等 請求事件平成6年2月16日付原告準備書面 写
甲第37号証:平成13年4月23日 (社)日本精米工業会「無洗化処 理精米に関する検討会の設置及び運営について(案)」1 〜4頁
甲第38号証:平成13年3月15日 消費生活新報 写
甲第39号証:平成13年3月22日 BG無洗米製造工程、及び米の精 (副産物)製造工程の内部視察のご案内(配布された平面略 図及び側面フロー略図含む)
甲第40号証:日本調理科学会編「調理科学」Vol.23,No.4( 平成2年11月)、95〜99頁(参考資料として)
甲第41号証:実公昭40ー11180号公報(参考資料として)
甲第42号証:実公平1ー16515号公報(参考資料として)
甲第43号証:実公昭45ー23588号公報(参考資料として)
甲第44号証:実公昭44ー26145号公報
甲第45号証:実公昭43ー26299号公報
甲第46号証:実公昭63ー27786号公報
甲第47号証:実公昭39ー11038号公報
甲第48号証:特公昭54ー13379号公報
甲第49号証:特公昭55ー5381号公報
甲第50号証:特公昭61ー10179号公報
甲第51号証:特開昭52ー24868号公報
甲第52号証:特公昭54ー13382号公報
甲第53号証:「農業機械学会北海道支部会報」第21号、1980年、 第67〜78頁
甲第54号証:「精米工業」第46号、昭和52年11月、「高性能精米 装置の概要」、第25〜28頁
甲第55号証:特開昭62ー11553号公報
再添甲第1号証資料1:平成3年7月6日 朝日新聞 一部写
再添甲第1号証資料4:平成3年9月21日 朝日新聞 一部写
再添甲第1号証資料7:商経アドバイス 一部写

2-4 被請求人の主張(請求人 株式会社 佐竹製作所の主張に対する反論)
被請求人は、答弁書と共に下記の乙第1号証〜乙第16号証を提出して、請求人 株式会社 佐竹製作所の主張する無効理由1及び2に対して、次のとおり反論している。
(1)無効理由1
本件発明の本質をなすべき構成を全て開示しており、特許法第36条第3項の規定を満たしており、また、精白米の洗滌前に除糠行程は発明の構成上不可欠の事項などではないから、同法同条第4項の規定に違背するものではない。
(2)無効理由2
本件発明は、甲第5号証、甲第6号証に甲第7号証または甲第8号証を組み合わせることはそれぞれが異なった意図でなされたものであって、決して単純に組み合わせることはできない。
しかも、仮に組み合わせたとしても、本件発明は当業者が容易になし得ないものであって、特許法第29条第2項に違反するものではない。
本件発明の進歩性は否定できないのであるから、請求項1を引用した従属請求である請求項2の発明も、甲第9号証の内容を検討するまでもなく、当業者が容易になし得ないものであって、特許法第29条第2項に違反するものではない。

さらに、被請求人は、上記主張事実を立証するために、平成13年2月28日付け上申書と共に下記乙第17号証〜乙第32号証を提出し、平成13年4月27日付け上申書と共に下記乙第34号証〜乙第37号証を提出し、平成13年7月30日付け上申書と共に下記乙第38号証を提出し、平成13年9月7日付け口頭審理陳述要領書と共に下記乙第39号証〜乙第41号証を提出し、平成13年10月19日付け上申書と共に下記乙第42号証〜乙第45号証を提出している。
また、当審の合議体から平成13年11月22日付けで通知した無効理由通知書の無効理由に対して、被請求人は、平成14年1月9日付け意見書と共に下記乙第46号証〜乙第58号証を提出している。

乙第1号証:特許第2615314号掲載公報
乙第2号証の1:特開平4ー229148号公報(特願平2-41200 0号)
乙第2号証の2:同拒絶理由通知書
乙第2号証の3:同拒絶査定
乙第2号証の4:同パトリス審査経過
乙第3号証:大阪地裁 平成9年(ワ)第9063号判決
乙第4号証:審判平9ー13660号の審決
乙第5号証:特公平4ー79703号公報(特願昭60ー241815号 明細書)
乙第6号証:特公平2ー22704号公報(特願昭61ー68205号明 細書)
乙第7号証:特公平2ー48302号公報(特願昭61ー235250号 明細書)
乙第8号証の1:特開平3ー154643号に対する「刊行物提出書」
乙第8号証の2:提出された刊行物 説明書「新製品 トーヨーの洗い米 (無洗米)」(平1.3.20)
乙第9号証:東京地裁 平成9年(ワ)第24064号準備書面(其の四 )(抜粋)
乙第10号証:特開昭53ー48866号公報
乙第11号証:食品設備実用総覧 産業調査会、昭56.7.5(89〜 90頁)
乙第12号証:特公昭33-10161号公報
乙第13号証:特公昭32-6764号公報
乙第14号証:特公昭36-8020号公報
乙第15号証:東京高裁 平11行ケ21号 準備書面(第5回) (抜 粋)
乙第16号証:大阪地裁 平成12年(ワ)第7510号 準備書面(第 3回)(抜粋)
乙第17号証:大阪地裁;平12年(ワ)7510号の原告準備書面(2 )
乙第18号証:特公昭30ー1315号公報
乙第19号証:実公昭40ー11180号公報
乙第20号証:実公平1-16515号公報
乙第21号証:平成9年異議第73747号公報 特許異議決定謄本
乙第22号証:東京高裁 平11行ケ21;準備書面(第6回)
乙第23号証の1:特開平3-10646号に対する「刊行物等提出書」
乙第23号証の2:提出された刊行物 説明書「新製品 トーヨーの洗い 米(無洗米)」
乙第23号証の3:特開平3-10646号に対する刊行物提出の通知書
乙第24号証:1991年(平成3年)7月6日付朝日新聞記事
乙第25号証:トーヨーの無洗米をとりあげたマスコミ一覧(平成3年)
乙第26号証:特公平27ー91号公報
乙第27号証:判決の認定事実対比表
乙第28号証:付着水量測定試験結果
乙第29号証:特開平3-10646号公報
乙第30号証:和歌山事件の覚書
乙第31号証:特公昭63ー2108号公報
乙第32号証:特開昭64ー85963号公報
乙第34号証:東高裁の平成13年4月10日言渡平成11年(行ケ)第 21号判決
乙第35号証:請求人の説明会での請求人発行のレジメ
乙第36号証:本件に係る雑誌の記事(経済レポート)
乙第37号証:請求人の広告(米穀新聞)
乙第38号証:大阪高裁 平成13年7月12日判決言渡平成12年(ネ )第1016号判決
乙第39号証:特開平5ー68897号公報
乙第40号証:大阪高裁事件において控訴人(請求人)より提出された第 四回控訴人準備書面
乙第41号証:同第六回控訴人準備書面
乙第42号証:特公昭62ー19899号公報
乙第43号証:特公昭49ー9191号公報
乙第44号証:特公昭47ー8970号公報
乙第45号証:最高裁平成13年(行ヒ)第210号(平成11年(行ケ )第21号)不受理決定
乙第46号証:精米基礎技術講習会テキスト(昭和61年11月)(表紙 、3頁)社団法人:日本精米工業会
乙第47号証:上告受理申立書(大阪高裁.言渡:平成13年7月12日 平成12年(ネ)第1016号事件)
乙第48号証:同上記録到着通知書
乙第49号証の1:同上訴訟手続中止の申立書(平成13年12月3日)
乙第49号証の2:同申立書に添付された請求人佐竹への無効理由通知書 (抜粋:1頁)
乙第50号証:同上不受理決定(平成13年12月20日)
乙第51号証:商経アドバイス(平成9年1月13日)
乙第52号証:本件発明の「洗い米」の洗滌の実験結果
乙第53号証:刊行物1についての実験結果
乙第54号証:刊行物等提出書(平成4年5月11日付)
乙第55号証:刊行物等提出書(平成4年3月24日付)
乙第56号証:刊行物等提出書(平成3年10月1日付)
乙第57号証:刊行物等提出書(平成3年10月24日付)
乙第58号証:平成9年審判第13660号事件の回答書(平成10年7 月24日付、表紙、20頁1行〜23頁19行、参考書面 5)

3.当審の平成13年11月22日付けで通知した無効理由の概要
3ー1 無効理由の概要
当審の合議体は、本件発明及び本件請求項2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明及び本件請求項2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、無効にすべきであるとして無効理由1〜3を通知したが、このうちの無効理由3の概要は次のとおりである。
「本件発明は、刊行物1(特開昭52ー43664号公報)に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項2に係る発明は、刊行物1(特開昭52ー43664号公報)、刊行物3(特公昭55ー35302号公報)、及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。」

3ー2 被請求人の反論
被請求人は、平成14年1月9日付け意見書において、当審の合議体が通知した無効理由1〜3のいずれによっても本件発明及び本件請求項2に係る発明の進歩性を否定することはできない旨反論している。
無効理由3に対する具体的反論については、後記「4.当審の判断」において取りあげる。

4.当審の判断
先ず、当審の合議体が通知した無効理由3について検討する。
なお、以下において、甲号証及び乙号証の表示については、特に指示がない限り、請求人 株式会社佐竹製作所の無効審判2000ー35501号事件において提出された甲、乙号証を指す。
また、被請求人の主張とそれに対する合議体の判断は、審決の煩雑さを避けるため、最後にまとめて記載するようにした。

4ー1 引用刊行物1及び3に記載の発明
当審の平成13年11月22日付けで通知した無効理由3に引用した刊行物1(特開昭52ー43664号公報)(甲第5号証参照)には、以下の(a)〜(g)に示す事項が記載されている。

(a)「玄米に対する歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米を多孔壁除糠精白筒精白室により更に精白して精白度を進行させる過程において、その白米中に水または塩水その他水溶液を添加し直ちに精米を行なうと同時に前記多孔壁部を通して急速に除糠除水を行ない前記精白室から排出することを特徴とする混水精米法。」(1頁左下欄特許請求の範囲)
(b)「本発明は精米法の改良に係るもので、従来の歩留94%以下の高精白度精白米の縦溝に鮮明に露出する残留糊粉層の完全除去と光沢のある美麗美味の白米を得ることを目的として開発されたものである。」(1頁左下欄17行〜右下欄1行)
(c)「本発明は94%以下の歩留率になつた高白度白米に対し、なるべく最終仕上歩留率に近い過程において混水し、通常米量に対し0.1〜3%の範囲で適量の加水を行ない白米粒の表面だけを湿潤して軟化し直ちに精白作用により精米すると糠を発生して含水糠となるので糠と水が同時に多孔壁部を通して精白室外に排除され、澱粉質の多い糠なので白米粒面に糠の附着が少なく除糠作用が容易となり、添加水分が米粒内質に吸収浸透されないように米粒内質を保護するとともに、…………」(1頁右下欄18行〜2頁左上欄8行)
(d)「本発明は添加水分を成るべく短時間に精白に利用し迅速に精白室外に糠と共に排除することを原則とするので、精白転子その他の通風作用を利用して、発生糠と添加水分の精白室外排除を促進して、米粒内質の水分変化を防止する効果が得られる。」(2頁左上欄12行〜17行)
(e)「本発明は米粒総量に対する水分添加率こそ0.1〜3%であるが、せいぜい20秒内外の短時間処理なので、米粒面は水でベタ付き換言すれば米粒表面の細胞に対しては100%に近い水分添加と見てよいのである。要するに、調湿とは逆に飽くまで内質に水分が及ばないようにし、表面だけを湿潤するのが立て前であって、表面皮層だけの軟質化を目的とするのである。これによつて米粒表面に固着している糊粉層も難なく剥離され米粒全面が均一な高白度の白米となり粒面が高密度の光沢平滑面に仕上がるのである。」(2頁右上欄6行〜17行)
(f)「従来は歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化するのが常識なので、白米に混水して精米するなどは夢想だにしなかつたものである。本発明は全く奇想天外ともいうべき処理法である。」(2頁左下欄18行〜右下欄1行)
(g)「前述したように本発明に用いる添加水分率については0.1〜3%の実施例を挙げたが、米質によつても限外の添加水分率があり得ることは云うまでもない。」(2頁右下欄17行〜20行)

同じく、当審の平成13年11月22日付けで通知した無効理由3に引用した刊行物3(特公昭55ー35302号公報)(甲第9号証参照)には、精白米等の穀類の袋詰に関し「穀類と共に滞留する空気などの気体の量が可及的に少ない状態で袋詰できるようにして、包装袋として気密性の袋を用いるようになし、もつて、袋内での蒸れや酸化を防止して食味を低下させずに長期保存できるようにした袋詰装置を提供せんとするものであって、その特徴とするところは、上端部が開口した包装袋に先ず穀類等を充填し、この穀類等が充填された状態で包装袋の上端開口部を一旦仮封し、穀類等が包装袋から抜け出せない状態とした上で、……………………………振動を加えて、包装袋内に於ける穀粒の密度を高め、これによつて生じた余剰気体を前記仮封した部分から排出させると共に、包装袋を扁平状に整形し、その後、振動を止めて、仮封した部分を完全に密封するようにしたことにある。」(第2欄30行〜第3欄13行)、及び「また内部穀粒の密度を高めるた為の振動押圧力は包装袋を略水平にした状態で加えるので、密度が可及的に高くなり、残留気体が非常に少ない状態で袋詰することができ、……………食味の低下を防止することができる。更に本発明装置ではこの余剰気体の追出しと同時に袋詰状態の整形を行うことができ、且つ、一旦整形された包装袋は袋内に於ける穀粒の密度が高くて、穀粒間の空隙が少ない為、袋内で穀粒の移動が困難で、形崩れを起こさないという利点があり」(第6欄5行〜17行)と記載されている。

4ー2 対比・判断
(本件発明について)
本件明細書の「従来の技術」の欄に「水で洗った後乾燥して得られる洗い米としては、従来例えば、精米した米を洗い、水切りをし自然乾燥または加熱乾燥したもの(特開昭57ー141257号公報)、精米した米を洗い、冷風または常温の送風により乾燥したもの(特開昭61-115858号公報)、白米を水洗、水切りしたのち、水分を15%〜16%に調整したもの(特公昭51-22063号公報)などが知られている。」(2頁3欄4行〜11行)と記載されていることからも明らかなように、精白米を除糠のために洗滌し、除水して得られる、米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された洗い米は、本件出願時当業者において周知のものであったと認める。

本件発明と上記周知の洗い米を対比すると、本件発明は、「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる、米肌に亀裂がなく、平均含水率が約13%以上16%を超えない洗い米」である点で、上記周知の洗い米と相違するものと認める。

上記相違点について検討する。
先ず、本件特許請求の範囲の請求項1の「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」における「米粒の表層部」の意味するところについて検討する。
「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」は、「洗滌時に」すなわち洗滌工程中「吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」であり、洗滌工程中の米粒の表層部を指すものと認められる。
本件発明は、洗滌の対象すなわち出発物質に中途精白米を用いる態様を含むものである(特許明細書に「更に「精白米」の意味であるが、完全精白米は勿論のこと、過剰精白米や中途精白米をも含めて指すのである。」(特許公報4頁8欄23行〜25行)と記載されている)が、中途精白米の洗滌工程においては、中途精白米は洗滌の進行につれて精白除糠され、その米粒表面は時々刻々変わっていくものと認められるが、請求項1の「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」は、このように時々刻々変わっていく米粒面にあって、そこに残留している糊粉層の残留状態あるいは澱粉層の露出状態が如何なる状態にあるかに関係なく、吸水した水分が主に米粒の表層部の部位にとどまることを特定しているものである。
したがって、請求項1の「米粒の表層部」は、中途精白米の洗滌工程中米粒表面に存在している糠層(糊粉層)を含むものと認められる。
そして、請求項1に記載の「米粒の表層部」は、特許明細書の記載からみて、吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を、米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき、この吸水が許容される米粒表層の部位であると認めることができる。

これに対して、刊行物1には、上記(a)〜(g)の記載からみて、歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に、米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して、精米(精白)を行うと同時に除糠除水を行う混水精米において、添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い、添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして、米肌に亀裂がない白米を製造することが記載されているものと認める。
(刊行物1には、「亀裂」という用語を用いて説明する記載はないが、「従来は歩留り94%以下の高白度白米に水分を添加すると忽ち水分を粒内質深く浸透して砕米化するのが常識なので、白米に混水して精米するなどは夢想だにしなかつたものである。」(2頁左下欄18行〜左下欄1行)と記載され、亀裂が原因で生ずる「砕米化」が避けられることが刊行物1に記載され、更に後記のとおり、湿式精米法において、添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている短時間のうちに精白除糠、除水を行えば、すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生、砕米化を防止できることが、本件特許の出願時当業者の技術常識であったことからすれば、添加水分が表面皮層にとどまっている20秒内外の短時間のうちに精白除糠、除水を行い、添加水分を米粒内質まで浸透させないようにすることで砕米化につながる亀裂発生を防止していることが刊行物1に開示されていることは、当業者であれば直ちに理解できることである。)

また、少量の水を添加する湿式精米法において、添加水分が米粒皮層あるいは米粒表面の薄層にとどまっている短時間のうちに精白除糠、除水を行えば、すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生、砕米化を防止できることは、本件特許の出願時当業者において広く知られていたものと認められる。
(必要なら、特公昭54ー13382号公報(甲第52号証)の「混水の米粒接触時間が長いと米粒内質に奥深く進入し精白完了後において空中に曝すと著しく亀裂を生じ砕米になる危険が伴うので米粒と水液の接触時間は超短時間であることが必須要件であり」(1頁2欄10行〜14行)及び「例えば玄米に対する歩留93%以下の白米中に0.5〜1.5%位の範囲で混水を施し、………白米表面の薄層を軟質化し、しかも白米は吸水性に富むから水液が白米粒に接触する時間、米粒の濡れる時間は糊粉層の剥離可能な軟質化の条件において、短い程亀裂に対しては安全率が大である。」(1頁2欄27行〜35行)、特開昭61ー283359号(甲第17号証)の「加湿精米機の特性は、精白室に供給される白米に適量の水分を添加して白米の極めて薄層の粒表面を湿潤軟質化し、精白転子と多孔壁通風除糠精白筒とによって白米粒面の薄層だけを剥離する……………」(2頁左上欄14行〜18行)及び「水分量が過剰なときは白米粒に水分が厚層に浸透し、しかもこの浸透量が極めて僅かでも適当な厚さの限界を超えると、直ちに米粒表皮に著しい亀裂を発生し、」(2頁右上欄4行〜8行)、特公昭55ー5381号(甲第49号証)の「添加水分が米粒内質に浸透し亀裂併発の欠陥を伴う」(1頁2欄17行〜18行)、「白米粒全面に亘つて均一かつ微粒子の露が付着し極めて薄層の湿潤が行える」(1頁2欄33行〜34行)、「米粒内質への水分の浸透を防ぎ、米質を損傷したり亀裂を生じない」(2頁3欄1行〜3行)、及び「添加水分をなるべく短時間に精白に利用し湿風か蒸気の含む熱により迅速に精白室外に糠とともに排除することを原則とするので……………米粒内質の水分変化を防止した糊粉層除去の光沢無洗米が得られる」(2頁3欄5行〜11行)、特公昭61ー10179号公報(甲第50号証)の「米粒面に添加する水分量と米粒面に吸湿する皮層の厚さが極めて微妙であって、その厚さは、その加湿時から精白の始まるまでの経過時間、すなわち予備時間によって定まるから、予備時間の精密な調節が必要である。この適切な標準時間は、通常10秒間以内であるが、この時間が長すぎると米粒に亀裂を生じ粒面が粗面化し」(1頁1欄21行〜28行)、「白米に加湿を施されて米粒皮膚に適度に浸透した状態で精白室4に供給されると、米粒縦溝部の糊粉層に残留する微粉までもが精白転子3の撹拌作用によつて完全に除去され」(2頁4欄11行〜15行)、「排米口18に排出する白米の粒面が粗面化している場合には、米粒皮層への加湿の浸透が厚過ぎるので、……………加湿して精白転子3の始端9に到達するまでの時間を短くして米粒皮層への加湿浸透厚さを調節する。」(2頁4欄27行〜33行)、及び「米粒全面均一に米粒皮層の適正厚さに加湿浸透して湿潤軟質化し」(2頁4欄41行〜42行)等の記載を参照されたい。)

そして、刊行物1における「表面皮層」及び上記周知事項における「白米皮層」及び「白米の表面薄層」は、「米粒内質」と対になる概念で表示されており、しかも、吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を、米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき、この吸水が許容される米粒の表層の部位を指すことから、本件発明における「米粒内部」(若しくは「深層部」)に対置して表示される本件請求項1に記載の「米粒の表層部」に相当する。

以上の点を踏まえると、すなわち、歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米に、米量に対して0.1〜3%の範囲で水を添加して、精米(精白)を行うと同時に除糠除水を行う混水精米において、添加水分が表面皮層(本件発明の「表層部」に相当する)にとどまっている20秒内外の短時間のうちに急速に除糠除水を行い、添加水分を米粒内質まで浸透させないようにして、米肌に亀裂がない白米を製造することが刊行物1に記載されていること、及び湿式精米法において、添加水分が米粒の表面皮層あるいは表面薄層(本件発明の「表層部」に相当する)にとどまっている短時間のうちに精白除糠、除水を行えば、すなわち水分と精白米との接触時間の短時間化で白米の亀裂発生、砕米化を防止できることが、本件特許の出願時当業者の技術常識であったことからすれば、その表面に糠層(糊粉層)が残存している中途精白米を加水量を増やして精白、除糠と除水をする場合、米粒の表面を覆い時間とともに内部に吸収される水分が米粒の表層部にとどまり米粒の内部に浸透するに至らないまでの短時間内に精白、除糠と除水を完了すれば、米肌に亀裂のない洗い米が得られることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

また、濡れた米を除水して、含水量が約13%以上16%を超えない範囲内の所定の含水量になるようにすることは、本件特許の出願時に当業者において周知であった(必要なら、特開昭57ー141257号公報(甲第13号証)、特公昭51ー22063号(甲第7号証)、実開昭61ー121946号のマイクロフイルム(甲第8号証)等参照。)ことから、洗い米の平均含水率を「約13%以上16%を超えない」ように除水することは、当業者が容易になし得ることである。

そして、本件発明の効果を検討しても、先に記載したとおり中途精白米を加水量を増やして精白、除糠と除水をする場合、吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっている短時間のうちに精白、除糠と除水を完了することにより、米肌に亀裂が発生することを防止できることは、刊行物1及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることであるから、本件発明の「米肌に亀裂がない」という効果は、当業者が容易に予測できる効果である。

<被請求人の主張とそれに対する判断>
被請求人は、平成14年1月9日付け意見書において、下記(1)〜(3)のとおり主張しているが、以下のとおり、これらの主張はいずれも採用することができない。

(1)「加湿精米では、亀裂を避けるために、米粒表面に残存する糠層(糊粉層)のみに吸水(湿潤)させ、米粒内質(澱粉層)に吸水させないことを技術的要件としているのであって、米粒内質(澱粉層)が表面に露出しているため米粒内質に吸水が不可避の本件発明の「洗滌」とは全く共通性はありません。むしろ、澱粉層に僅かでも吸水させると亀裂が発生するとの加湿精米の技術思想から、澱粉層(表層部)に吸水が不可避の本件発明が生まれる訳がありません。」(意見書49頁)と主張する。

被請求人は、「澱粉層(表層部)に吸水が不可避の本件発明………」と主張し、米粒の表層部は澱粉層のみからなる層であるとの主旨の主張をしているが、先に記載したとおり、本件請求項1に記載の「米粒の表層部」は、中途精白米の洗滌工程中米粒表面に存在している糠層(糊粉層)を含んでいることを考えると、上記主張は本件請求項1の記載に基づかない主張であり、被請求人の上記主張を採用することはできない。

また、被請求人は、刊行物1に記載の発明は加湿精米法であることを前提として、亀裂を避けるために、米粒表面に残存する糠層(糊粉層)のみに吸水(湿潤)させ、米粒内質(澱粉層)に吸水させないことを技術的要件としている加湿精米法と、米粒内質(澱粉層)が表面に露出しているため米粒内質に吸水が不可避の本件発明の「洗滌」とは全く共通性がないと主張するが、以下の理由により、採用することができない。

刊行物1で精米(精白)により発生し添加水分と共に排除される糠は、「澱粉質の多い糠」(2頁左上欄4行〜5行)であって米粒表面の糊粉層にとどまらず、澱粉層の一部にまで除糠が到達することは、刊行物1に記載されているところである。
これは、被請求人の提出した乙第46号証の図3、図4の米粒の断面を見れば明らかなように、米粒は、上下尖端や背腹部の端面の如く突出したり、縦溝、胚芽跡のように凹部、窪みを有しており、中途精白の段階では精白作用がこれらの様々な形状部分に均一にはたらくよりも先ず削られ易い突出した凸状部分や平坦部を主に精白することになり、縦溝や胚芽跡のような凹部には糊粉層が残存することになる。
刊行物1において精白除糠の対象とする精白米は、本件発明で言う中途精白米、すなわち完全精白米でも過剰精白米でもない「玄米に対する歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米」(特許請求の範囲第1項)であり、「なるべく最終仕上歩留率に近い過程において混水」(1頁右下欄19行〜20行)するのであるから、水が添加されるときの中途精白米の表面には、糊粉層もあれば澱粉層もあり、糊粉層と澱粉層とが混在する表面構造になっているものと認められる。
従って、刊行物1に記載の「表面皮層」には、表面に露出する澱粉層も含まれているのであり、このような中途精白米に0.1〜3%の範囲で水を添加したとき、添加水分は糊粉層と接触する(濡れる)だけでなく、表面に露出する澱粉層とも接触(濡れ)し、該澱粉層への吸水が避けられないことは明らかである。 また、糊粉層下面に接する澱粉層にあっても、吸水した糊粉層の水分が該澱粉層に到達し、この水分が該澱粉層へ浸透していくことも明らかである。
このような表面構造を有する米粒に加水することによっても「添加水分が米粒内質に吸収浸透されないように米粒内質を保護する」(2頁左欄上欄6〜7行)ために「せいぜい20秒内外の短時間処理」(2頁右上欄7〜8行)とし、米粒と添加水分との接触時間に制限を課すことでたとえ吸水が澱粉層の一部に及んでも亀裂防止を図るというのが刊行物1に示される技術思想であり、そのため米粒への吸水を「表面皮層」にとどめるものである。
そして、刊行物1の「表面皮層だけの軟質化」(2頁右上欄12〜13行)は、米粒表面に固着している糊粉層が難なく剥離されるように「米粒表面の細胞に対しては100%に近い水分添加」(2頁右上欄9〜10行)をなすことで、「添加水分が米粒内質に吸収浸透されないように米粒内質を保護する」(2頁左欄上欄6〜7行)」手段をなしているのであり、この手段が上記周知事項から明らかなように、米粒内質に水分を吸収浸透させない亀裂発生防止手段をも兼ねているのである。
刊行物1における「表面皮層」は、「米粒内質」と対になる概念で用いられており、吸水の結果生ずる米粒の亀裂発生を、米粒と水分との接触を短時間に抑えることで防止しようとするとき、この吸水が許容される米粒の表層の部位を指していることは明らかであり、本件発明における「米粒内部」(若しくは「深層部」)に対置して表示される「表層部」以外の何ものでもない。

本件発明は、中途精白米である7分搗き精白米(93%歩留)を洗滌する態様を含むものである(被請求人は、乙第58号証の参考書面5として、7分搗き精白米(93%歩留)であっても、普通精白米(90%歩留)や過精白米(87%歩留)と同様に洗米後には「表面を覆っていた肌ヌカがほとんど除去され、米肌が露出して無数の陥没部が見える」状態になることを示す拡大写真を提出している。)が、まさにかかる中途精白米こそが、刊行物1に記載の発明が出発物質としている「歩留率94%もしくはそれ以下の白米すなわち6分搗きもしくはそれ以上の精白度の白米」なのであり、出発物質となる中途精白米の歩留りの点で両者は異なるところはないのである。
本件発明と刊行物1に記載の発明とは、このような中途精白米に水を添加して、米粒と水との接触時間を極く短時間に抑えることで吸水を米粒表層部にとどめ米粒の亀裂発生を防止するという同一原理に基づく除糠除水の技術である点で共通しているのである。

(2)「周知例として挙げられている湿式精米法における亀裂発生防止の技術手段は、添加水分量のコントロールを要件とするものであり、精白時に余剰水が存在することを極力避けるというものであります。しかし、「洗滌」においては、余剰水の存在は不可欠であります。よって、周知例における湿式精米法に関する記載が、「洗滌」における亀裂発生防止を示唆するものではありません。」(45頁)と主張する。

上記主張を検討するにあたって、先ず本件発明の出願経過を見ると、本件特許に係わる出願は、親出願(特願平1-62648号)を平成4年6月12日付けで分割出願したものと認められるが、親の原明細書の特許請求の範囲には、「【請求項1】精白米を水洗し、かつ、含水率が16%以下に除水処理した乾燥洗い米。」「【請求項2】」精白米を、水中にて撹拌洗米する行程と、該水洗行程の直後に設けた除水行程とを具備し、該水洗行程及び除水行程を通過せしめた時の米粒の含水率が16%以下となるよう、短時間に水中洗米と除水を行うことを特徴とする乾燥洗い米の製造方法。」と記載され、その発明の詳細な説明には、水中洗米と除水については、短時間に行われることが明示されているが、「吸水した水分が主に表層部にとどまっている」、特に「表層部」といった表現は存在しなかった。
親出願においては、当初、短時間に水中洗米と除水を行うと規定していたものの、審査官より上記「短時間」では処理時間が明確に特定できないと指摘されて、時間概念による規定を断念して、その代わりに吸水部位を「表層部」と特定したことが看取される。
分割された本件発明における「吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに」という特定に関する位置付けも同様に理解すべきである。

そこで上記主張について検討するに、刊行物1には「添加水分をなるべく短時間に精白に利用し迅速に………排除することを原則とするので,………米粒内質の水分変化を防止する効果が得られる。」(2頁左上欄12行〜16行)及び「せいぜい20秒内外の短時間処理なので」と記載され、特公昭54ー13382号公報(甲第52号証)には「亀裂を生じ砕米になる危険が伴うので米粒と水液の接触時間は超短時間であることが必須要件であり」(1頁2欄12行〜14行)及び「水液が白米粒に接触する時間、米粒の濡れる時間は……………短い程亀裂に対しては安全率が大である」(1頁2欄32行〜35行)と記載され、特公昭55ー5381号(甲第49号証)には「添加水分をなるべく短時間に精白に利用し………迅速に精白室外に糠とともに排除することを原則とするので……………米粒内質の水分変化を防止した」(2頁3欄5行〜10行)と記載され、特公昭61ー10179号公報(甲第50号証)には、「米粒面に吸湿する皮層の厚さが極めて微妙であって、その厚さは、その加湿時から精白の始まるまでの経過時間、すなわち予備時間によって定まるから、………この適切な標準時間は、通常10秒間以内であるが、この時間が長すぎると米粒に亀裂を生じ」(1頁1欄22行〜27行)及び「白米の粒面が粗面化している場合には、米粒皮層への加湿の浸透が厚過ぎるので、……………時間を短くして米粒皮層への加湿浸透厚さを調節する。」(2頁4欄27行〜33行)と記載され、これらの記載から、米粒の亀裂発生防止に短時間の米粒ー水接触が決定的要因をなし、米粒と水との接触時間を極めて短くすることで米粒の亀裂発生を防止できるという技術思想を把握することができる。
そして、米量に添加する水量に違いがあっても、水分の米粒への浸透の度合いは、米粒と水液との接触時間の長短を通じて決まることは自明であることから、表面に糠層(糊粉層)が残存している中途精白米を加水量を増やして精白、除糠と除水をする場合にも上記技術思想が変わりなく適用できることは、当業者なら容易に想到し得ることである。
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(3)「従来とは桁違いの短時間で洗米するため、洗米機を高速回転させるのであります(この予想しがたい構成、作用こそ、十分に進歩性を有するものと思料いたします)」(39頁)と主張する。

極く短時間で洗米する必要があるとき、言い換えれば精白米と水との接触を極く短時間にする必要があるとき、その短い在槽時間内に必要な撹拌回数(充分な洗米効果)を得るために撹拌体の回転数を速くすることは当業者なら当然に試みることである。
さらに、湿式精米法において、精白転子(精白ロール)の回転速度を毎分600回転以上の高速にして精白除糠を行うことは、本件特許の出願時当業者において周知であった(特開昭62ー102837号、特開昭62-225253号、特開昭63ー88051号公報、無効2000ー35500号事件の「サタケ 高性能研米機」カタログ(甲第41号証)及び「サタケ クリーンライト」カタログ(甲第42号証)参照。)のであり、この点からしても、中途精白米を加水量を増やして精白、除糠するとき、撹拌体の回転速度を毎分600回転以上の高速にすることは、当業者であれば容易に想到し得ることであり、連続洗米機の撹拌体を高速回転させる点に格別の創意の存在を認めることはできない。

以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(請求項2に係る発明について)
本件請求項2に係る発明は、請求項1記載の洗い米の包装方法に関する発明であり、その包装方法を「洗い米を、気密性のある包装材を使用した包装用袋に入れ、当該米と包装用袋との間に、米粒群のみかけの体積が最も小さい状態を保持するに必要な空気のみを残し、余剰空気はすべて排除して密封する」と特定したものである。
しかしながら、刊行物3(特公昭55-35302号公報)には、包装袋に先ず精白米等の穀類を充填し、包装袋の上端開口部を一旦仮封し、穀類が包装袋から抜け出せない状態とした上で、振動を加えて、包装袋内に於ける穀粒の密度を高め、これによつて生じた余剰気体を前記仮封した部分から排出させると共に、包装袋を扁平状に整形し、その後、振動を止めて、仮封した部分を完全に密封することが記載されている。
刊行物3に記載の上記包装方法と請求項2に記載の包装方法とは、表現が異なるのみで、実質的に同一の包装方法である。
してみると、請求項1記載の洗い米に刊行物3に記載の包装方法を適用して、本件請求項2に記載のような構成にすることは、当業者が容易になし得ることである。
また、本件請求項2に係る発明は、格別の効果を奏するものではない。
したがって、本件請求項2に係る発明は、刊行物1、刊行物3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、無効審判請求(無効審判2000ー35448号)の無効理由1〜4、及び無効審判請求(無効審判2000ー35501号)の無効理由1及び2を検討するまでもなく、本件請求項1及び2に係る発明は、刊行物1、3に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-03-05 
結審通知日 2002-03-08 
審決日 2002-03-22 
出願番号 特願平4-179248
審決分類 P 1 122・ 121- Z (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植野 浩志  
特許庁審判長 田中 久直
特許庁審判官 眞壽田 順啓
徳廣 正道
登録日 1997-03-11 
登録番号 特許第2615314号(P2615314)
発明の名称 洗い米及びその包装方法  
代理人 牧野 利秋  
代理人 小原 英一  
代理人 清永 利亮  
代理人 柳野 隆生  
代理人 柳野 隆生  
代理人 清永 利亮  
代理人 増井 忠弐  
代理人 社本 一夫  
代理人 竹本 松司  
代理人 湯田 浩一  
代理人 大内 康一  
代理人 小原 英一  

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