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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない G11B 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない G11B 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない G11B 審判 全部無効 発明同一 無効としない G11B 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない G11B |
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管理番号 | 1092208 |
審判番号 | 無効2003-35053 |
総通号数 | 52 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-04-11 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2003-02-13 |
確定日 | 2004-01-05 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3315498号発明「光情報記録媒体、光情報記録媒体の記録層用組成物及び光情報記録媒体の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3315498号(平成5年11月29日出願、優先権主張 平成4年12月2日、平成5年4月28日)は、平成14年6月7日に特許権の設定登録がされた。 そして、請求人・チバ スペシャルティ ケミカルズ ホールディング インコーポレーテッドにより平成15年2月13日に本件の特許発明に対して無効の審判が請求され、被請求人・三井化学株式会社と山本化成株式会社により平成15年5月26日に答弁書が提出された。 2.本件特許発明 本件特許第3315498号の請求項1〜請求項16にかかる発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜請求項16に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 透明な基板上に、レーザー光により情報の書き込みが可能な有機色素からなる記録層、反射層、及び保護層がこの順に設けられた光情報記録媒体であって、該記録層中に、前記有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる熱分解促進剤からなるピット・エッジ制御剤を含有し、該熱分解促進剤が、メタロセン及びその誘導体から選択されることを特徴とする光情報記録媒体。」(以下、「本件発明1」という。) 「【請求項2】 熱分解促進剤が、前記有機色素の熱分解開始温度を25℃以上低下せしめるものである請求項1に記載の光情報記録媒体。」(以下、「本件発明2」という。) 「【請求項3】 メタロセン及びその誘導体が、フェロセン及びその誘導体である請求項1又は2に記載の光情報記録媒体。」(以下、「本件発明3」という。) 「【請求項4】 フェロセン及びフェロセン誘導体が、フェロセン、ベンゾイルフェロセン、1,1’-ジメチルフェロセン、n-ブチルフェロセン、シクロヘキセニルフェロセン及びビニルフェロセンの何れかである請求項3に記載の光情報記録媒体。」(以下、「本件発明4」という。) 「【請求項5】 記録色素がフタロシアニン化合物である請求項1乃至4のいずれかに記載の光情報記録媒体。」(以下、「本件発明5」という。) 「【請求項6】 フタロシアニン化合物がハロゲン化フタロシアニンである請求項5の光情報記録媒体。」(以下、「本件発明6」という。) 「【請求項7】 レーザー光により情報の書き込みが可能な有機色素と、該有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる熱分解促進剤からなるピット・エッジ制御剤を含んでなる光情報記録媒体の記録層用組成物であって、該熱分解促進剤が、メタロセン及びその誘導体から選択されることを特徴とする前記組成物。」(以下、「本件発明7」という。) 「【請求項8】 熱分解促進剤が、前記有機色素の熱分解開始温度を25℃以上低下せしめるものである請求項7に記載の組成物。」(以下、「本件発明8」という。) 「【請求項9】 メタロセン及びその誘導体が、フェロセン及びその誘導体である請求項7又は8に記載の組成物。」(以下、「本件発明9」という。) 「【請求項10】 フェロセン及びフェロセン誘導体が、フェロセン、ベンゾイルフェロセン、1,1’-ジメチルフェロセン、n-ブチルフェロセン、シクロヘキセニルフェロセン及びビニルフェロセンの何れかである請求項9に記載の組成物。」(以下、「本件発明10」という。) 「【請求項11】 記録色素がフタロシアニン化合物である請求項7乃至10のいずれかに記載の組成物。」(以下、「本件発明11」という。) 「【請求項12】 フタロシアニン化合物がハロゲン化フタロシアニンである請求項11の組成物。」(以下、「本件発明12」という。) 「【請求項13】 有機色素を含んでなる記録層が有機色素の成膜溶剤を用いる塗布法により成膜される光情報記録媒体の記録層用組成物であって、ピット・エッジ制御剤が前記成膜溶剤に可溶なものである請求項7乃至12のいずれか1項に記載の組成物。」(以下、「本件発明13」という。) 「【請求項14】 請求項7乃至13のいずれか1項に記載の組成物を溶媒に溶解してなる光情報記録媒体の記録層用組成物。」(以下、「本件発明14」という。) 「【請求項15】 請求項7乃至13のいずれか1項に記載の組成物を溶媒に溶解して塗布溶液を形成し、該得られた溶液を透明な基板上に塗布し、有機色素及びピット・エッジ制御剤を含んでなる記録層を形成する光情報記録媒体の製造方法。」(以下、「本件発明15」という。) 「【請求項16】 請求項14に記載の組成物を透明な基板上に塗布し、有機色素及びピット・エッジ制御剤を含んでなる記録層を形成する光情報記録媒体の製造方法。」(以下、「本件発明16」という。) 3.請求人の主張 これに対して請求人は、「特許第3315498号発明の明細書の請求項1〜16に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めて審判を請求し、以下の無効理由1〜無効理由3の無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証〜甲第11号証を提出している。 3-1.無効理由1(新規性及び/又は進歩性の欠如) (1)本件特許の請求項7,8,14に係る発明は、甲第1号証〜甲第4号証のいずれかに記載された発明であるか、あるいは、甲第1号証〜甲第4号証のいずれかに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるものである。 (2)本件特許の請求項9,11に係る発明は、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明と同一であるか、あるいは、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるものである。 (3)本件特許の請求項12に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるか、あるいは、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、この発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるものである。 (4)本件特許の請求項13,15,16に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるか、あるいは、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるものである。 (5)本件特許の請求項1〜6及び10に係る発明は、本件特許明細書に従来技術として記載された公知発明及び甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるものである。 (6)本件特許の請求項1〜16に係る発明は、甲第5号証に記載された発明又は甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるものである。 3-2.無効理由2(優先権の利益を享受できないことによる新規性の欠如) 本件特許の請求項1〜16に係る発明は、優先権の利益を享受することができず、かつ、甲第10号証に記載された発明と同一であり、これらの発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるものである。 3-3.無効理由3(明細書の記載不備) 本件特許の請求項1〜16は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項をのみを記載したとはいえず、特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないか、あるいは、前記請求項に係る発明は、発明の詳細な説明において当業者が容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないのであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるものである。 該明細書の記載不備は、概略次のような点である。 (3-1)請求項1,3,4,7,9,10(およびそれらを引用する項)におけるメタロセン(及び/またはフェロセン)の誘導体については、その意味が不明瞭であるか、発明の詳細な説明に当業者が実施可能なように記載されていない。 発明の詳細な説明において明確な定義が無く、また例示された置換基以外に何が含まれるのか不明瞭である。 (3-2)請求項1,2,7,8の「有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる熱分解促進剤」と「熱分解促進剤が、前記有機色素の熱分解開始温度を25℃以上低下せしめるものである」点は、その意味が不明瞭であるか、発明の詳細な説明に当業者が実施可能なように記載されていない。 (3-2-1)有機色素の熱分解開始温度を10℃以上(25℃以上)に低下せしめる性質が、熱分解促進剤の属性か否か不明瞭である。 一定量添加した場合に10℃以上に低下せしめる属性を有するのか?、または、徐々に添加していって10℃以上に低下せしめる量以上の量のその物質をいうのか? 例えば、本件実施例1で、フェロセン0.4gでフタロシアニン色素2.0gの熱分解開始温度が50℃低下しているところ、仮にフェロセン0.1gで5℃低下すると仮定すると、0.1gのフェロセンは熱分解促進剤か否かが不明瞭である。 (3-2-2)特許明細書段落【0040】に複数種色素の併用が記載されているが、有機色素が複数の場合に熱分解促進剤の範囲が不明瞭である。 色素A,Bの片方だけの開始温度の低下をいうのか、色素A,Bの両方とも低下することをいうのか、混合色素の開始温度の低下をいうのか。 (3-2-3)熱分解促進剤が有機色素でもある場合に熱分解促進剤の範囲が不明瞭である。 例えば、甲第11号証に、メタロセン置換アズレニウム塩化物が記録色素として記載されているところ、その色素のみのときに、熱分解開始温度の低下はどのように測定するのか、また、その色素と色素Aの記録用組成の場合に熱分解開始温度の低下はどのように測定するのか不明である。 (3-2-4)特許明細書段落【0048】に複数種の熱分解促進剤の併用が記載されているが、熱分解促進剤が複数の場合に熱分解促進剤の範囲が不明瞭である。 熱分解促進剤A,Bの両方の併用による低下を意味するのか、少なくとも片方の低下を意味するのか、混合物としての低下を意味するのか。 (3-3)請求項1〜16に係る発明は、本件特許発明の効果を奏しない発明を含んでいる。 (3-3-1)請求項1〜16に係る発明の目的は、良好な記録特性を有するCD-Rの提供である(特許明細書段落【0115】)が、その効果を奏しない発明が含まれている。 実施例3-2,3-3に準じた実験結果の提示(但し、用いた色素は三井化学製の市販フタロシアニン色素HR-250で、実施例3-1の色素と同じ構造であるが、置換Br数が1つ多い)により、その根拠を示す。 この実験結果により、メタロセン誘導体と有機色素の量比が1:1,5:1,13.3:1の場合に良好な記録特性が得られなかった。 実験結果によれば、ピットエッジ制御剤:有機色素の重量比が1:9〜1:4(すなわち0.11〜0.25:1)の間にある場合には、本件特許発明の効果を奏する有用なディスク(低いBLER並びに70ns以下のSp及びS1を有するディスク)が得られるが、重量比が1:1と13.3:1の場合には有用なディスクが得られなかった。0.11:1以下の場合は検討しなかったが、有用なディスクが得られないと推定される。 よって、ピットエッジ制御剤:有機色素の重量比が少なくとも1:1〜13.3:1の範囲の場合には有用なディスクが得られないのであるから、本件請求項1〜16は、実施不可能な部分を包含する。 実験結果の概略 略号BF0が(添加剤、色素、重量比、熱分解開始温度の順に、以下同じ)、ベンゾイルフェロセン0重量部、HR-250色素3重量部、重量比0:10(0:1)、343℃; 略号BF0.3が、ベンゾイルフェロセン0.3重量部、HR-250色素2.7重量部、重量比1:9(0.11:1)、280℃; 略号BF0.6が、ベンゾイルフェロセン0.6重量部、HR-250色素2.4重量部、重量比1:4(0.25:1)、256℃; 略号BF1.5が、ベンゾイルフェロセン1.5重量部、HR-250色素1.5重量部、重量比1:1、252℃; 略号BF2.5が、ベンゾイルフェロセン2.5重量部、HR-250色素0.5重量部、重量比5:1、258℃; 略号1,1DMF2.79が、1,1-ジメチルフェロセン2.79重量部、HR-250色素0.21重量部、重量比13.3:1、125℃ のものについて実験した。 ディスクをPulstec2の6mW(本件特許明細書の実施例3-2及び3-3と同じパワー)で初期設定により記録し、結果をCDCATSで読み取った。Sp及びS1値は、標準として5Bディスクデビエーションを用いて計算した。 スピンコーティングに関しては、BF0.3,BF0.6,BF1.5のスピンコーティングは可能であったが、BF1.5の試験ディスクは著しく低い光学密度及び高いグルーブ充填性を有し、BF2.5については約30秒のサイクルタイムを用いた時でさえ、120以上の光学密度(OPD)を得ることができなかった。 BF0.3,BF0.6,BF1.5のディスクはPulstecで記録できたが、BF2.5,1,1-DMF2.79のディスクは記録できなかった。 読み取り試験に関して(表1参照)、0.42以下の吸光度を有する記録ディスクは、CDCATS上で未記録として読まれた。すなわち、シグナルが検出されなかった(BF1.5)。 0.435以下の光学密度を有する記録ディスクは、ジッター及びデビエーションの記録に失敗した(BF1.5)。 吸光度0.57〜0.7を有するディスクは、許容可能なSp及びS1値を示した(BF0.3、BF0.6)。 もちろん、BF2.5及び1,1-DMF2.79のディスクは読み取り不可能であった。 実験結果及び本件明細書段落【0053】の有機色素とピット・エッジ制御剤の好ましい範囲を図示すると、以下の図1のようになる。 (3-3-2)請求項1,2等に記載の「有機色素の熱分解開始温度を10℃以下(25℃以下)に低下せしめる」熱分解促進剤の全てが本件発明の作用効果を奏するか明らかではない。 本件実施例では40℃以上低下させる例のみである。 実施例1で55℃低下させているが、仮に10℃低下させる熱分解促進剤を添加した場合には、熱分解開始温度は340℃となるところ、比較例2,3-1,3-2の295〜305℃に比べてかなり高いから、効果を奏するとは考え難い。 (3-3-3)有機色素自体の熱分解開始温度が規定されていないところ、種々の熱分解開始温度を有する有機色素の全てが効果を奏するか明らかでない。 本件発明において、熱分解促進剤からなる「ピット・エッジ制御剤」の作用は、「記録層のしきい値レベルに影響を与え変化させること」である。 350℃の熱分解開始温度を10℃低下させたもので340℃の熱分解開始温度を有しながら「記録層の記録しきい値レベルに影響を与え変化させること」ができ、一方、比較例3-2のように295℃の熱分解開始温度を10℃上昇せしめたもので305℃の熱分解開始温度を有するにもかかわらず、「記録層の記録しきい値レベルに影響を与え変化させること」ができないのは、前記作用から判断すれば矛盾する。 したがって、有機色素自体の熱分解開始温度の範囲を限定しなければ、本件特許発明において、その効果を達成するための「記録層の記録しきい値レベルに影響を与え変化させる」という作用効果を期待できない。 3-4.証拠方法 甲第1号証:特開昭63-209042号公報 甲第2号証:特開昭63-168393号公報 甲第3号証:特開平2-43396号公報 甲第4号証:特開平2-103190号公報 甲第5号証:特開平3-224792号公報 甲第6号証:特開平4-336282号公報 甲第7号証:Bull.Chem.Soc.Jpn.,55, 2753-2759(1982) 甲第8号証:特願平4-323433号明細書(本件優先権主張出願1) 甲第9号証:特願平5-102148号明細書(本件優先権主張出願2) 甲第10号証:特開平6-243506号公報 甲第11号証:特開昭61-179792号公報 (注:甲第11号証に関して、請求理由及び証拠方法には、特開平61-179792号公報と記載されているが、その公報は存在しないこと、及び添付された甲第11号証は特開昭61-179792号公報のコピーであり請求理由で引用している内容と合致する記載があること、被請求人は答弁書において請求理由を正しく理解して反論して更に特開昭61-179792号公報の一部箇所を引用していると認められること、からみて前記のような誤記であると認定した。) 4.被請求人の主張 一方、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。 各無効理由に対して、概略次のように被請求人は主張している。 4-1.無効理由1について 本件特許の出願審査過程において参酌された公知文献、本件特許審査継続中に第三者によって提出された情報提供並びに審判請求人の提示した証拠のいずれにも、色素の熱分解開始温度を色素本来の熱分解開始温度よりも低減させることにより、ピット形状、特にEFM変調方式により形成された最短ピットである3Tピットのピット形状が著しく改善され、その結果、デビエーション特性、ジッター特性が改善されるという作用効果を開示した公知文献は全く存在せず、本件特許発明の発明思想には十分な新規性、進歩性を有する。 4-2.無効理由2について 優先権の利益の享受を論じるまでもなく、本件特許出願時点での出願人と甲第10号証における出願人とが同一出願人であり、無効理由は存在しない。 4-3.無効理由3について 審判請求人の主張する矛盾は何ら存在しない。 被請求人は、答弁書(第8頁12〜23行,第9頁1〜7行)の7-3.本件特許発明の説明において、『「10℃以上低下せしめる」なる発明特定は、明細書の記載からも明らかなように、該熱分解促進剤の比活性と添加量(比)の2要素の積算された要素として理解される。ピットエッジ制御剤として用いる該熱分解促進剤の比活性なり添加量は、用いる記録層用有機色素の特性やそれを勘案した光情報記録媒体の光学設計により、適宜、当業者が判断して決定する設計事項であり、かかる比活性と添加量の2要素の積算された要素で発明を特定しても当業者がこれを解する上で何ら不都合は無い。特許権者は、さらに「該熱分解促進剤が、メタロセン及びその誘導体(以下、メタロセン類と称す)から選択される」との発明特定事項を入れることにより、該熱分解促進剤の選択範囲を明細書の記載内容に即して明確にした。これはもとより。メタロセン類の全てが本特許発明の熱分解促進剤であると規定しているわけではないことは、上記発明特定事項の構文解釈上論を待たない。 ・・(中略)・・・。 本件特許発明では、記録色素に対して、その色素の熱分解促進剤、特に熱分解開始温度を10℃以上下げることのできる熱分解促進剤を使用することにより、ピット形成時にレーザー光が照射された部分で起こる暴走的な反応に到らないようにしながら該色素を熱分解することができ、この結果、必要以上に照射部位が加熱されることを抑制し、記録層はもとより、基板界面或いは金属層界面が高温下に曝されることを抑制し、ピットエッジ形状に優れたピットが形成できるという極めて顕著な効果を奏するものである。』などと説明し、概略以下のように反論している。 (3-1)の点について メタロセン(及び/またはフェロセン)の誘導体は、熱分解促進剤の選択範囲を限定したものにすぎず、これらの中から使用する記録用有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる作用効果を奏するものを選択することを規定している。 「有機色素の熱分解促進剤としての比活性が小さくて多量に添加しなければ有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低減せしめることができないような材料であるならば、有機色素の熱分解開始温度の低減が達成できたとしても、SN比や変調度等を著しく低減させるものとなり、実用的ではないことは、当業者には明らかである。又、熱分解促進剤の選択にあたっては、添加するものが有機色素よりも極めて低温で分解や昇華などしてしまうようなものを選択しないことも当業者には当然である。」 したがって、「誘導体」の範囲を規定していないからと云って、不明瞭であるとはいえない。 (3-2)の点について 「選択した有機色素に対してその有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低減せしめる熱分解促進剤の添加を規定しており、その熱分解促進剤がメタロセン類から選択されることを要件としている。 つまり、このような熱分解促進効果が、選択した色素に対して選択したメタロセン類が有しているとすれば、それは本件特許発明で規定する熱分解促進剤であるといえる。」 「ある記録層用有機色素とメタロセン類とが化学的に結合した有機色素-メタロセン結合体(メタロセン置換有機色素)を合成した場合であっても、その基となった有機色素相当分子の熱分解開始温度に対する、基となったメタロセン類相当分子あるいは合成された有機色素-メタロセン結合体の添加効果をみることで、かかる有機色素-メタロセン結合体が、分子内または分子間で、本特許発明にいう記録用有機色素の熱分解促進効果を有しているか否かを確認することは可能である。 当業者であれば、このような本発明の様々な態様の一々までも網羅的に子細に説明しなくても、本特許明細書の記載から充分に理解できるものである。」 甲第11号証では、色素の耐熱性向上を揚げており、記載されたアズレニウム塩色素は、置換されていないアズレニウム塩色素と比較して熱分解開始温度が高くなることが予想されるから、そのような場合には、選択した色素に対してそのフェロセン誘導体は色素の熱分解促進剤ではない。 複数種選択して熱分解促進剤とするのであれば、その混合物をもって熱分解促進剤とするのである。 メタロセン誘導体の添加により、色素混合物の熱分解開始温度の低減が認められるとすれば、本特許発明の要件を満たすものとなる。 (3-3)の点について 有機色素とピットエッジ制御剤との混合比率は、有機色素の記録しきい値レベルの調整から最適化されるとした上で、適当な範囲、好ましい範囲を記載しているのであり、記載される数値範囲(注:混合比率の数値範囲の意味)に何らかの臨界的意義があるとは一言も記載も示唆もしていない。 「最適な量比を決定することは、単に設計事項であり、当業者が適宜なし得るものである。 しかしながら、熱分解促進剤の添加の結果、記録用色素が本来有している特性を著しく低下せしめ、実用に供し得ない光情報記録媒体を製造しても、何ら意味が無い。 その意味では、審判請求人の実験において、BF2.5や1,1DMF2.79は実用に供し得ない媒体を製造している。」 それにもまして、実験データの信憑性には疑わしい点が多々ある。 実験では同一記録パワーでのジッター、ブロックエラーレート等記録特性を議論しているが、総量を一定にして添加剤の添加量を振った場合、当然光吸収剤である色素の量が変わるため、記録感度が異なる。 光記録媒体の場合、最短ピット〜最長ピットすべてを最適バランスで記録(良好なJitter、BLER)するためには、アシンメトリ(Asymmetry、非対称性)=0%近傍で記録する必要がある。このことは、CD-Rの規格を規定している業界標準のオレンジブックにも記載されており、当業者であれば熟知している事項である。 審判請求人の提示している表1において、BF0.3、BF0.6におけるアシンメトリ(表中ではSYMで表示)は、ほぼ0%に近いが、BF1.5については0%からかなり離れた結果を示している。 もともと記録感度が異なるサンプルに、同一記録パワーで記録してもアシンメトリが異なるために、そのものの記録特性を単純に比較してもなんら意味がない。 又、BF1.5の場合に高いグルーブ充填性を有しているとしているが、PPminとPPmaxの値が、BF0.3やBF0.6と比べて高くなっている。ここで「PP」とはプツシュプルゲインを示すものと解され、測定器における左右の信号レベルの差を示すものである。通常、色素のグルーブ充填性が高くなると、PPレベルは低くなる。これを次頁の図(注:転記省略)で模式的に示す。すなわち、PPレベルは通常以下の式で算出される。 PP=|L1-L2|/Rtop つまり、測定器左側の信号レベルL1と右側の信号レベルL2の差の絶対値をRtop(記録後の反射率)で除した値がっPPレベルとして定義されるものである。通常は、グルーブ充填性が高くなるほど小さくなるはずであるから、BF1.5においてPPレベルが高くなっているのは、技術的に不合理である。 「記録しきい値の明確性を考慮すると、色素がある温度を境として急激に分解等の変化を起こす必要がある。したがって、記録色素個々に記録しきい値が存在し、本件特許発明では、熱分解促進剤の添加によりそれぞれ個々のしきい値レベルの低減を図っているのである。この結果、色素の暴走的な熱反応を抑制し不必要に加熱されるのが防止できる結果、ピット・エッジ形状に優れたピットが形成できるのである。一方、熱分解開始温度を高めるような添加剤を添加した場合には、記録しきい値も高くなる。 この結果、色素は更に過剰に加熱されることになり、分解時にはより過激な暴走的な熱反応となるため、ピットエッジの形状も劣悪となり、ジッター特性、デビエーション特性が添加剤を添加しない場合と比較して悪くなる。このように、色素の熱分解開始温度の絶対値の高低は、記録しきい値と何ら対応するものでなく、個々の色素のしき値を低下せしめることに本件発明の意義がある。」 5.甲各号証の記載事項 甲第1号証乃至甲第11号証には、それぞれ下記のような記載がある。 甲第1号証には、 (1-i)「(1)トラック溝を有する透明基板のトラック溝部上に光記録層を設け、該光記録層をフィルム被覆層で被覆し、さらにその上に固定化層を積層し、フィルム被覆層を光記録層に固定化してなることを特徴とする光学的情報記録担体」(請求項1参照)、 (1-ii)「本発明は、光学的に情報の記録・再生を行なう光学的情報記録媒体に関する。」(第1頁左下欄下から4行〜下から3行参照)こと、 (1-iii)「本発明の他の目的は、特に有機系色素を使用した密着封止型の光学的情報記録担体の記録コントラスト/の向上及び/又は記録感度の向上を計り、密着封止型の光学的情報記録担体に於いても中空構造型並みの記録特性を有する光学的情報記録担体を提供する事にある。」(第2頁左下欄下から2行〜同頁右下欄3行参照)こと、 (1-iv)「例えば、アントラキノン誘導体(特にインダスレン骨格を有する物)、・・・(中略)・・・等を挙げる事が出来る。 また、これらの色素に対し、これらの色素の励起種に対して消光剤となるものを混合した色素組成物でもよい。 例えば、消光剤は以下に挙げるもののうちより、色素と溶媒に対する相溶性を考慮して選択する。 添加量は、色素に対し、数重量%乃至50重量%が可能であるが、少ないと消光剤としての効果が余り見られず、また50重量%をこえて添加するとヒートモード記録材料の絶対量の低下から感度の減少が観測される。従って、色素に対して、10重量%乃至は30重量%が好ましい。特に感度の劣化を伴わず効果が高いものは、20重量%前後である。 かかる消光剤としては、各種金属キレート化合物、特にZn,Cu,Ni,Cr,Co,Mn,Pd,Zrを中心金属とする多座配位子、例えばN4,N2O3,・・・(中略)・・・の四座配位子の他、ビスシクロペンタジエニル配位子、シクロペンタジエニル-トロピリニウム配位子系、或は上記の組合せ等からなるものの他、各種の芳香属アミン類や・・・(中略)・・・等が挙げられる。」(第4頁左上欄5行〜同頁左下欄1行参照)こと、 (1-v)「実施例2 インジェクション成型法により、・・・・スピンコートして厚み200Aのシリカ膜から成る下引き層を形成した。 これに、下記に示す式(II)の色素及び消光剤としてN,N,N’,N’-テトラキス(p-ジノルマルブチルアミノフェニル)-p-フェニレンジイモニウム過塩素酸塩(式(III))を色素に対して20重量%添加した2重量%のジクロルエタン溶液をスピンコート法により塗布し、厚み900Aの光記録層を形成した。 この光記録層の上に、・・・・ポリエステルフィルム・・・を乗せ、更に、・・・トリアセテートフィルムを圧着し、常温でラミネートし、密着封止型の光ディスクを得た。 光ディスクの透明基板側から、830nmの半導体レーザー光を用いて、・・・記録を行なった所、コントラスト比0.75を得た。 光記録を施した光ディスクを60℃,90%(相対湿度)の条件下で1,000時間放置して保存加速実験を行ない、反射率のC/N値を測定した所、C/N値は51dBであった。 」(第7頁右上欄〜同頁右下欄参照)こと、が記載されている。 甲第2号証には、 (2-i)「本発明は、レーザ等による光学的書込み記録に適した光学情報記録媒体に関し、・・・」(第3頁左上欄17〜18行参照)こと、 (2-ii)「即ち、本発明は少なくとも、1つのピリリウム化合物と少なくとも1つの金属キレート化合物とを含有する記録層を有することを特徴とする光学情報記録媒体である。」(第4頁左上欄下から3行〜同頁右上欄1行参照)こと、 (2-iii)「前記一般式[I]で表される化合物の例 化合物No. 化合物例 ・・・(中略)・・・」(第10頁左上欄1行〜欄行参照)こと、 (2-iv)「上記記載した様な安定化剤として使用できるキレート化合物の具体例を以下に挙げる。 ・・・(中略)・・・ 10)ビスシクロペンタジエン系 11)ニトロソヒドロキシアミン ・・・(後略)。」(第20頁左上欄4行〜第23頁左下欄参照)、 (2-v)「このような金属キレート化合物は記録層を形成する記録材料全量に対し1〜60重量%程度、好ましくは5〜40重量%、さらに好ましくは10〜30重量%含有させることが望ましい。」(第23頁右下欄4〜8行参照)こと、 (2-vi)表1に、実施例4として、No.34のピリリウム化合物80wt%とNo.M-10-2のキレート化合物20wt%を用いた旨、実施例10としてNo.119のピリリウム化合物80wt%とNo.M-13-3のキレート化合物20wt%を用いた旨(第25頁左上欄参照)、 (2-vii)「塗工は、・・・、スピンナーコーティング法、・・・を用いて行なうことができる。」(第24頁左下欄4〜9行参照)こと、が記載されている。 甲第3号証には、 (3-i)「(1)マグネシウム、アルミニウムおよびバナジウムから選ばれた一種の金属のフタロシアニン化合物錯体を、水性媒体中でフェロセン誘導体よりなるミセル化剤にて可溶化し、得られるミセル溶液を電解して電極上に前記金属フタロシアニン化合物錯体の薄膜を形成することを特徴とする金属フタロシアニン化合物錯体薄膜の製造方法。」(請求項1参照)、 (3-ii)「[産業上の利用分野] 本発明は金属フタロシアニン化合物錯体薄膜の製造方法に関し、詳しくはマグネシウム、アルミニウムあるいはバナジウムからなる金属のフタロシアニン化合物錯体を素材として、特定のミセル化剤を用いると共に電気化学的手法を講じることにより、近赤外領域に吸収を有し、半導体レーザー用記憶媒体等に応用できる金属フタロシアニン化合物錯体の薄膜を効率よく製造する方法に関する。」(第1頁左下欄下から8行〜同頁右下欄2行参照)こと、 (3-iii)「実施例1 100mlの水に非イオン系ミセル化剤として で表される化合物(FPEG)を0.099gを溶かして濃度1mMとし、さらに支持塩としてLiBrを0.52g溶かして濃度0.1mMとした。 次いで、この溶液に過剰量(1.0g)のマグネシウムフタロシアニン(Pc-Mg)を添加し、10分間超音波処理した。その後、一昼夜攪拌し、さらにこの操作を繰り返した後、2000rpmで1時間遠心分離してミセル溶液を調製した。 この上澄液の可視吸収スペクトルを第1図(実線)に示す。このことからPc-Mgがミセル溶液に可溶化することが確認された。なお、上記Pc-Mgのエタノール溶液の可視吸収スペクトルを併せて第1図(破線)に示す。 続いて、上記ミセル溶液(Pc-Mgの飽和可溶化水溶液)を、ITOガラス透明電極上で参照電極(SCE)に対して+0.5V印加し、2時間電解処理を行った。 上記操作によりITOガラス透明電極上に生成した薄膜の可視吸収スペクトルを第2図(実線)に示す。 また、上澄液の可視吸収スペクトルを第2図(破線)(これは、第1図の実線と同じもの)に示す。 さらに、得られた薄膜の表面構造の走査型電子顕微鏡(SEM)写真[日本電子(株)製、JSM-T220使用]を第3図に示す。 実施例2 100mlの水に非イオン系ミセル化剤として上記実施例1と同じFPEGを0.198g溶かして、濃度2mMとし、さらに支持塩としてLiBrを0.52g溶かして濃度0.1mMとした。 次いで、この溶液に過剰量(1.0g)の塩素含有アルミニウムフタロシアニン(Pc-AlCl)を添加し、10分間超音波処理した。その後、一昼夜攪拌し、さらにこの操作を繰り返した後、2000rpmで1時間遠心分離してミセル溶液を調製した。 続いて、上記ミセル溶液(Pc-AlClの飽和可溶化水溶液)を、ITOガラス透明電極上で参照電極(SCE)に対して+0.5V印加し、2時間電解処理を行った。 上記操作によりITOガラス透明電極上に生成した薄膜の可視吸収スペクトルを第4図(実線)に示す。 また、上澄液の可視吸収スペクトルを第4図(破線)に示す。」(第5頁右上欄15行〜第6頁左上欄5行参照)こと、が記載されている。 甲第4号証には、 (4-i)「本発明は、光記録材料として、有機化合物薄膜を用いる光記録媒体の薄膜の形成方法に関するものである。」(第1頁左下欄下から4行〜下から2行参照)こと、 (4-ii)「以上の様な利点を有する、光メモリー用有機色素としては、インドレニン系シアニン色素、フタロシアニン色素、ナフタロシアニン色素等が有望視されて、一部実用化されている。」(第2頁左上欄1〜4行参照)こと、 (4-iii)「本発明では、光記録材料としての有機化合物(有機色素顔料等)の微粒子を、界面活性剤で取り込んでコロイド状態のミセル電解液とした後、このミセル電解液に、表面、あるいは基板全体に導電性を付与した光ディスク基板を浸漬し、光ディスク基板表面と通電用の電極との間に電圧をかけ、光ディスク基板表面上でミセル電解を行う事により、界面活性剤に取り囲まれている有機色素顔料等を基板表面に析出、薄膜化することを特徴とする。」(第2頁右上欄1〜10行参照)こと、 (4-iii)「[実施例] 第1図(a)〜(d)は、本発明の光記録媒体の実施例の手順と膜構成を説明するための断面図である。 光ディスク基板(1)は、射出成形により製造された厚み1.2mmのPC基板である。 この基板のグルーブ表面に導電性を付与するためITO(インジウム・スズ酸化物)膜(2)をスパッタリング法により600Åの厚みに形成する(内、外周はマスキングして、ITOが形成されない様にした)。 次にこの基板をインドレニン系シアニン色素の微粒子を界面活性剤で取り囲んでコロイド状態にしたミセル電解溶液中に浸漬し、陰極としてステンレス板との間に電圧をかけ、光ディスク基板表面でのミセル電解により1,500Å程度の厚みの有機色素膜(3)が形成される。 この様にして作られた光ディスク2枚を、スペーサ(4)をかいして張り合わせる事により両面光ディスク(d)として完成した物となる。 ミセル電解溶液は、界面活性剤としてフェロセニルPEG(同人化学製)を用いた。 液組成、電解条件は以下の様に行った。 (液組成) ・フェロセニルPEG;2mM ・LiBr(支持電解質);0.2M ・インドレニン系シアニン色素;7mM (電解条件) ・電解電位;0.9V ・電解時間;5mins ・電解温度;25℃ ・攪拌;強攪拌」(第2頁右上欄17行〜同頁右下欄7行参照)こと、が記載されている。 甲第5号証には、 (5-i)「(1)基板上に色素を含有する記録層を有し、この記録層上に密着して反射層を積層して構成され、記録光を前記記録層に照射してピット部を形成し、再生光により再生を行う光記録媒体であって、前記ピット部の前記基板と前記記録層の界面部には、記録層材質の分解物を含有し、かつ基板材質を実質的に含有しない層が存在していることを特徴とする光記録媒体。」(請求項1参照)、 (5-ii)「用いる光吸収性の色素としては、吸収極大が600〜900nm、好ましくは600〜800nm、より好ましくは650〜750nmであれば、他に特に制限はないが、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アントラキノン系・・・(中略)・・・等の1種ないし2種以上が好ましい。 ・・・(中略)・・・。 また、光吸収色素にクエンチャーを混合してもよい。 さらに、色素カチオンとクエンチャーアニオンとのイオン結合体を光吸収色素として用いてもよい。 クエンチャーとしては、アセチルアセトナート系、ビスジチオ-α-ジケトン系、ビスフェニルジチオール系などのビイジチオール系、チオカテコール系、サリチルアルデヒドオキシム系、チオビスフェノレート系の金属錯体が好ましい。」(第5頁右下欄15行〜第6頁左上欄16行参照)こと、 (5-iii)「なお、クエンチャーは、光吸収色素と別個に添加しても、結合体の形で添加してもよいが、光吸収色素の総計の1モルに対して1モル以下、特に0.05〜0.5モル程度添加することが好ましい。」(第6頁左下欄12〜16行参照)こと、 (5-iv)「実施例4 実施例3のサンプルNo.11において、色素を下記表5のように変更した。 用いた色素DIクエンチャーQ1は下記のとおりである。 ただし、色素層の設置には、ジアセトンアルコール溶液を用いた。 これらの770、780、790nmにおけるnおよびkを表5に示す。 表5に示される結果から、色素の混合により、770〜790nmにおいて、良好なnおよびkがえられることがわかる。 得られたサンプルに対し、実施例1と同様に780nmにて記録を行い、再生波長を770、780、790nmにかえて、再生を行った。 この結果、サンプルNo.31、32では、いずれの波長でも良好な記録再生を行なうことができた。 これらのサンプルでは、未記録部で70%以上の反射率が得られ、CD信号の11Tパルスの記録部の反射率は未記録部の反射率の40%以下であった。 また、これらのサンプルでは、信号記録部分の基板と記録層との界面に実施例1と同様にピットが形成されていた。 また、サンプルNo.33では、780、790nmでは再生を行うことができたが、770nmでは再生を行うことができなかった。 また、サンプルNo.34では記録ができなかった。 次に上記サンプルのそれぞれにおいて、グルーブ部での色素層の厚さを500Å未満としたサンプルおよび1500Åを越える厚さとしたサンプルを作製し、上記と同様な記録再生試験を行なった。 この結果、500Å未満および1500Åを越えるサンプルではグルーブ部反射が60%未満となり、再生に必要な十分な反射率およびピットが得られなかった。」(第18頁右下欄下から5行〜第20頁左上欄10行参照)こと、 (5-v)「そして、ピット形状が良好で、しかも高いS/N比が得られ、良好な記録・再生を行うことができる光記録媒体が実現する。」(第23頁左下欄6〜8行参照)こと、が記載されている。 甲第6号証には、 (6-i)「【請求項1】 基板上に記録層、反射層、および保護層がこの順に設けられた光記録媒体であって、 上記記録層が、上記記録層を形成する物質1gが熱分解するときに発生する気体成分量が1.0×10-2モル以下である物質よりなることを特徴とする光記録媒体。 【請求項2】 上記記録層がフタロシアニン色素を含有する請求項1記載の光記録媒体。」(請求項1,2参照)、 (6-ii)「【0008】 上記基板の材質としては、半導体レーザーの光を実質的に透過し、通常の光記録媒体に用いられる材料ならばいかなるものも使用できる。たとえば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アモルファスポリオレフィンなどの高分子材料、或いはガラスなどの無機材料等を利用できる。必要に応じて、これらの材料を射出成形によって、或いは2P法などによってプリグルーブを形成した基板とする。 本発明の記録層として用いることができる物質は、半導体レーザー光の波長域に吸収を有し、一定以上のエネルギーをもつレーザー光を吸収した際に熱分解し、このときに発生する気体成分量がその分解温度において記録層物質1gあたり1.0×10-2モル以下である物質であればいかなるものであってもよい。たとえば、以下のような半導体レーザー波長域に吸収を有する各種の有機色素のうち、上記の発生気体成分量の条件を満足するものを用いることができる。すなわち、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、シアニン系色素、スクワリリウム系色素、ピリリウム系色素、チオピリリウム系色素、アズレニウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、Ni,Crなどの金属塩系色素、インドフェノール系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、インダンスレン系色素、インジゴ系色素、チオインジゴ系色素、メロシアニン系色素、チアジン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、アゾ系色素などを挙げることができる。なかでも、フタロシアニン系色素はその高い耐光性・耐久性、ならびにその吸収波長域から特に好ましいものである。 これらの色素は単独で用いてもよいし、2種類以上の色素を混合して用いてもよい。また、必要に応じて紫外線吸収剤、一重項酸素クエンチャー、結合剤等の添加物質を加えることもできる。このような混合物より記録層を形成する場合は、この混合物1gが熱分解するときに発生する気体成分量が1.0×10-2モル以下であるようにすればよい。したがって、レーザー光を吸収する物質のみでは上記気体成分量の条件を満足しないものであっても、これに他の物質を添加することによって上記気体成分量の条件を満たすような記録層を形成させることも可能である。」(段落【0008】参照)こと、 (6-iii)「【0014】 【実施例】 以下本発明の実施例を示す。 [実施例1] フタロシアニン色素〔化1〕式(1) 1.6gをエチルシクロヘキサン50mlに溶解し、塗布溶液を調製した。この溶液をスパイラルグルーブ(トラックピッチ1.6μm、溝幅0.45μm、溝深さ0.13μm)付きの外径120mm、厚さ1.2mmのポリカーボネート製の射出成形基板上にスピンコートした後、60℃で12時間乾燥して記録層を形成した。このときの記録層膜厚は130nmであった。次に、この記録層上にAuを90nmスパッタし反射層を形成した。さらにこの反射層上に紫外線硬化樹脂SD-17(大日本インキ化学工業(株)製)をスピンコート後、紫外線を照射し硬化させ、厚さ4μmの保護層を形成した。 【0015】 【化1】 【0016】 また、暴走反応測定装置ARC(コロンビア サイエンティフィック インダストリーズ コーポレーション製)によって、この色素〔化1〕式(1) の熱分解時の発生ガス量を測定したところ、色素1gあたり2.2×10-3モルであった。 このようにして作製した光記録媒体に、光ディスク評価装置DDU-1000(パルステック工業製、レーザー波長781nm)およびCDエンコーダーDA-3531(KENWOOD(株)製)を用いて、線速度1.3m/s・記録レーザーパワー7mWで記録した。この記録媒体を市販のCDプレーヤーで再生したときのジッターをジッターメーターLJM-1851(LEADER社製)で測定したところ、ピット16ns、ランド20nsと十分低い値であった。」(段落【0014】〜【0016】参照)こと、 (6-iv)「【0019】 【発明の効果】 以上説明した通り、本発明によれば、良好な記録特性をもつ追記型CDを提供することが可能である。」(段落【0019】参照)こと、が記載されている。 甲第7号証には、 (7-i)「ZnPc is quenched by an oxidant, such as the ferrocenium ion, FeIII(CN)63-,CoIII(tpy)23+,BQ,1,4-naphthoquinone,TNF,TCBQ,and MV2+.」(第2754頁右欄下から5行〜下から2行参照)と記載されている。 甲第8号証〜甲第10号証に関しては、下記6-2.において検討しているように、その記載事項を検討する必要がないので、記載事項の摘示は省略する。 なお、それらの出願人に関する事実関係は、下記6-2.で説明する。 甲第11号証には、 (11-i)「(1)下記一般式[I]で表されるアズレニウム塩化合物を含有することを特徴とする光熱変換記録媒体。 一般式[I] [但し、一般式[I]において、R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は水素原子、ハロゲン原子又は1価の有機残基のいずれか一種、又はR1とR2、R2とR3、R3とR4、R4とR5、R5とR6およびR6とR7の組合せのうち、少なくとも1つの組合せで形成された置換または未置換の縮合環を表わす。Mはメタロセンを形成する金属元素を、nは0又は1の数を表わす、Z-はアニオン残基を表わす。]」(請求項1参照)、 (11-ii)「本発明は、レーザ等により光熱変換効果を利用して情報を高密度に記録し、これを再生する光熱変換記録媒体に関し、詳しくはレーザ等の可視および近赤外域の波長の光を効果的に吸収し、熱的エネルギーに変換し、高密度の記録および光学的再生が可能な光熱変換記録媒体に関するものである。」(第2頁右上欄7〜13行参照)こと、 (11-iii)「一般に有機化合物は吸収特性が長波長領域になるほど不安定で、わずかの温度上昇によって分解されやすいなどの問題を有している。」(第3頁左下欄下から2行〜同頁右下欄2行参照)こと、 (11-iv)「本発明の第3の目的は、前述の欠点を解消した熱的に安定な光熱変換記録媒体を提供することにある。」(第4頁左上欄5〜7行参照)こと、が記載されている。 6.当審の判断 6-1.無効理由1について 本件発明1の重要な特徴点は、「記録層中に、前記有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる熱分解促進剤からなるピット・エッジ制御剤を含有し、該熱分解促進剤が、メタロセン及びその誘導体から選択される」点であり、本件発明7の重要な特徴点は、「有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる熱分解促進剤からなるピット・エッジ制御剤を含んでなる光情報記録媒体の記録層用組成物であって、該熱分解促進剤が、メタロセン及びその誘導体から選択される」点にある。 要は、いずれの発明でも、記録層において、(イ)有機色素と熱分解促進剤であるメタロセン及びその誘導体が含有され、(ロ)有機色素の熱分解開始温度が本来の温度に比べて10℃以上低下している点、または同点を有する記録層用の組成物にあることが明らかであるので、先ず、この2点が各甲号証に記載されるか、乃至は容易に想い到る構成であるかを検討する。 上記5.の摘示事項から明らかなように、甲第1号証には、光ディスクの有機色素薄膜からなる光記録層に、Coなどの中心金属とするビスシクロペンタジエニル配位子(メタロセン類に相当)などを消光剤として添加することが記載され、甲第2号証には、光学情報記録媒体の記録層がピリリウム化合物(有機色素に相当する)とZrを中心金属とするビスシクロペンタジエン系金属キレート化合物(メタロセン類に相当)とを含有すること、及び実施例にその使用例が記載され、甲第3号証には、記録媒体等に応用できる金属フタロシアニン(有機色素に相当)薄膜の製造において、フェロセン誘導体からなるミセル溶液から製造すること、及びその製造実施例が記載され、甲第4号証には、光記録媒体のに用いる有機化合物薄膜を、有機色素とフェロセニルPEGのような界面活性剤からなるミセル溶液から製造すること、及びその製造実施例が記載され、甲第5号証には、記録層を形成する光吸収色素にアセチルアセトナート系等のクエンチャーを混合することが記載され、甲第6号証には、有機色素に一重項酸素クエンチャーを加えることが記載されていて、甲第7号証には、クエンチャーとしてフェロセニウムイオンなどが例示されている。 しかしながら、甲第1号証乃至甲第7号証のいずれにも、メタロセン(またはフェロセン)乃至はその誘導体、又は、消光剤、ミセル化剤、クエンチャーが、色素の熱分解開始温度を低下させることは記載も示唆もされていないし、自明なことでもない。 また、実施例として使用されているメタロセン(またはフェロセン)乃至はその誘導体が色素の熱分解開始温度を10℃低下させることを示す追試データも提示されていない。 更に、各甲号証において、メタロセン(またはフェロセン)乃至はその誘導体として例示され乃至は包含されるものの中から、色素の熱分解開始温度を10℃以上低下させるものを意図的に選択することは示唆されていないし、容易に選び出せる理由もない。 なお、審判請求人は、各甲号証のものと本件発明の構成が重複する蓋然性が高い旨主張しているが、少なくとも前記(ロ)有機色素の熱分解開始温度が本来の温度に比べて10℃以上低下している点が満たされていることが記載されていないし、追試データで疎明されていないのであるから、その蓋然性は単なる可能性に過ぎず、同一であるとまで判断することはできない。 そうであるから、少なくとも、「記録層中に、前記有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる熱分解促進剤からなるピット・エッジ制御剤を含有し、該熱分解促進剤が、メタロセン及びその誘導体から選択されること」(本件発明1)、乃至は「レーザー光により情報の書き込みが可能な有機色素と、該有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる熱分解促進剤からなるピット・エッジ制御剤を含んでなる光情報記録媒体の記録層用組成物であって、該熱分解促進剤が、メタロセン及びその誘導体から選択されることを特徴とする記録層用組成物」を光情報記録媒体の製造に用いること(本件発明7)は、甲第1号証乃至甲第7号証に記載されているということができないし、甲第1〜7号証記載の発明を組合せ勘案したとしても、当業者が容易に想い到るとはいえない。 よって、本件発明1及び本件発明7は、甲第1号証〜甲第7号証記載の発明と同一ではないし、また、甲第1号証〜甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものということができない。 次に、本件発明2〜6及び本件発明8〜16は、それぞれ本件発明1又は本件発明7の必須構成を更に限定したものであるか、または更に他の構成を追加したものであるから、前記と同様な理由により、甲第1号証乃至甲第7号証に記載されているということができないし、甲第1〜7号証記載の発明を組合せ勘案したとしても、当業者が容易に発明し得たということができない。 したがって、無効理由1に関する請求人の主張は、理由がないものであり採用できない。 6-2.無効理由2について 甲第10号証である特開平6-243506号公報[特願平5-326857号,平成5年12月24日出願、優先権主張 平成4年12月25日(特願平4-346333号)]の出願人は、出願時に三井東圧化学株式会社であり、その後平成10年1月31日付けで三井化学株式会社に名義変更されている。 更に、前記優先権主張の基礎出願(特願平4-346333号)の出願人も三井東圧化学株式会社であり、国内優先権主張に伴うみなし取下されるまで名義変更はなされていない。 これに対して、本件の出願日は平成5年11月29日(優先権主張 平成4年12月2日,平成5年4月28日)であるところ、出願時の出願人は三井東圧化学株式会社であって、権利の一部が譲渡されたことに伴い平成5年12月21日付けで山本化成株式会社に名義変更されて共同出願人となり、その後平成10年1月31日付けで三井東圧化学株式会社が三井化学株式会社に名義変更されている。 そして、本件出願の国内優先権主張の2件の基礎出願(甲第8号証と甲第9号証)の出願人はいずれも三井東圧化学株式会社である。 してみると、本件出願時点(平成5年11月29日)及びそれ以前において、本件出願並びに甲第10号証の出願の優先権主張の基礎出願(及び甲第10号証の出願、本件優先権主張の2件の基礎出願)の出願人は、いずれも三井東圧化学株式会社の一社のみであって同一人であるから、特許法第29条の2のただし書きの規定によって、本件出願並びに甲第10号証の出願のそれぞれの優先権主張の適否やそれらの発明が同一であるか否かを検討するまでもなく、同条の適用はできないことが明らかである。 なお、甲第10号証の出願は審査請求されずにみなし取下の扱いとなっているため、それぞれの特許請求の範囲に特定された発明の同一性の判断の検討を待つまでもなく、特許法第39条第1項の適用は同条第5項の規定によりなかったものとみなされる。 したがって、無効理由2に関する請求人の主張は、理由がないものであり採用できない。 6-3.無効理由3について (3-1)の点について 請求項1,3,4,7,9,10(およびそれらを引用する項)の記載のメタロセン(及び/またはフェロセン)の誘導体は、使用する記録用有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる作用効果を奏するものを、メタロセン(及び/またはフェロセン)乃至その誘導体の中から選択することを規定しているにすぎないものと理解するのが相当である。 メタロセン(及び/またはフェロセン)の誘導体の選択肢は無数にあるけれども、有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる作用効果を奏するものが選択できれば足り、誘導体の種類まで特定しなければならないとすべき理由もない。 また、選択肢としてメタロセン乃至はその誘導体に限定されているのであるから、不当に広い範囲で選択する必要があって過度の試行錯誤が要求されるとまでは言い切れない。 したがって、請求人の主張は理由がないものであり採用できない。 (3-2)の点について (3-2-1)の点について 請求項1,2,7,8(およびそれらを引用する項)の「有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる熱分解促進剤」と「熱分解促進剤が、前記有機色素の熱分解開始温度を25℃以上低下せしめるものである」点は、10℃以上(25℃以上)低下せしめることが熱分解促進剤の属性の如く理解できる可能性がないとは言い切れないが、発明の意図することからすれば、現象として熱分解開始温度を10℃以上低下させている状態が達成されていることが必要と認められるので、属性との理解はその発明の意図する状態を無視するものであり、むしろ、熱分解開始温度を10℃(25℃)以上低下させる量で熱分解促進剤が添加されている意味と理解するのが相当である。 たとえば、ある量を用いると有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる剤があっても、使用量が少なくて有機色素の熱分解開始温度を5℃しか低下できていな場合にまで発明があると解することは、妥当ではない。 そうであるから、審判請求人の(3-2-1)の不明瞭とする点はなく、明瞭といえる。 (3-2-2)と(3-2-4)の点について 上記のように熱分解促進剤の無い場合に比べて現に使用している状態で10℃以上の熱分解開始温度の低下があるか否かが判断されるわけであるから、有機色素が複数種併用される場合や、熱分解促進剤が複数種併用される場合でも、それぞれの併用(混合)状態で、熱分解促進剤を添加していない状態に比べて、熱分解開始温度が10℃以上低下しているか否かの判断で足りるものと認められる。 よって、複数種の色素および/または複数種の熱分解促進剤を用いる点に不明瞭な点があるとは認められない。 (3-2-3)の点について メタロセン置換アズレニウム(甲第11号証の一般式[I]の化合物)の如く、有機色素かつ熱分解促進剤と成り得る可能性があるメタロセン(誘導体)が一つの化学物質として存在する場合については、特許明細書において何ら説明されていないのであるから、技術的判断として有機色素と熱分解促進剤との2役を担わせることは開示も意図もされていないと解すべきと認める。 なお、被請求人は、結合させる前の有機色素の熱分解開始温度とメタロセン(誘導体)置換の有機色素の熱分解開始温度を対比するように主張しているけれども、色素と認識した時点で、色素と認識するメタロセン(誘導体)置換有機色素の熱分解解温度を基準とすべきであり、メタロセン(誘導体)を置換結合させる元の有機色素の熱分解開始温度を勘案すべき理由など無いから、その主張は根拠がない。 一方、他に有機色素乃至は熱分解促進剤が存在すれば、そのような場合まで除外する理由もなければ、前記の(3-2-2)と(3-2-4)点で判断したようにその併用状態で熱分解開始温度の低下を判断できることも明らかである。 よって、「有機色素の熱分解開始温度を10℃以上低下せしめる熱分解促進剤」と「熱分解促進剤が、前記有機色素の熱分解開始温度を25℃以上低下せしめるものである」点に関して、その意味が不明瞭であるとは認められないし、発明の詳細な説明に当業者が実施可能なように記載されていないとも認められない。 (3-3)の点について (3-3-1)の点について 請求理由に示された実験結果は、誰が(この技術分野に習熟した実験者であるのか)、いつ行ったものか全く記載がないから、信憑性に欠けるのでその実験結果は採用できない。 次に、仮にその点を不問に付し、かつ特許請求の範囲に特定された構成だけでは作用効果を奏し得ない場合が一部にあったとしても、実施例に適切な実例が示されていることも考慮すれば、それだけでは作用効果を奏するための発明の必須の構成が欠如しているとは直ちに言えない。 本件特許明細書段落【0053】には、色素とピット・エッジ制御剤の混合比率が広範囲に記載されてはいるけれども、同時に「有機色素の記録しきい値レベルの調整から最適化される」とされていて、また、ピット・エッジ制御剤が「あまり過大であると記録感度の大幅な後退や、添加物の凝集・結晶化などがみられ現実的でない。」とも記載されている。 同段落に記載された「色素100重量部に対してピット・エッジ制御剤が0.1重量部から1000重量部が適当であり」とされる範囲でも現実的でない範囲が有り得ると思量すべきであって、「ピツト・エッジ制御剤とは、主として最短ピット長の安定形成を、記録層の記録しきい値レベルに影響を与え変化させることから達成し、良好なピット・エッジ制御を可能にしうる添加剤として定義される。」(本件特許明細書段落【0027】)と説明されているように、機能的すぎるきらいはあるけれども、そのような良好なピット・エッジ制御ができないような場合まで発明は及ばないと理解される。 なお、ピット・エッジ制御とは、「ピット・エッジ間の距離が小さなデビエーション(ジッター)として、また規定の最短ピット長(またはランド長)から最長ピット長(またはランド長)まで線形性よく与えられていることとして定義される。これは見かけ上形成ピット形状の均一性が良好であること、そして形成されたピット・エッジ形状がピット中心に対して前後対称であり、基板、記録層、および/または反射層中に歪等を有さないことも意味する。」(本件特許明細書段落【0026】参照)と説明されている。 (3-3-2)と(3-3-3)の点について 熱分解促進剤の種類がナフテン酸鉄であってメタロセン誘導体ではないけれども、熱分解開始温度を25℃低下せしめた実例が出願当初の明細書に記載(当初明細書の実施例6で、特許明細書では削除されている。その実施例6では、比較例3-1の色素を用いその熱分解開始温度295℃が270℃に低下している。)されていたことを勘案すれば、熱分解解温度の低下の程度を25℃程度乃至は10℃程度に設定することに格別の支障は無い。 更に、熱分解開始温度の絶対値ではなく、熱暴走を抑えるために熱分解開始のいき値を下げる点に意味があるとされていることに鑑みれば、それに反する証拠の提示もない状況では、熱分解促進剤を混合しまたは混合しない色素の熱分解開始温度の絶対値で対比すべき必然性もないから、直ちにその作用効果を奏さないと否定することはできない。 また、そうであるから、色素の種類が特定されていないことが直ちに記載不備であるとは言い切れない。 よって、本件特許明細書の特許請求の範囲に、発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないとも、また、発明の詳細な説明には、本件発明を容易に実施できる程度に目的、構成及び効果が記載されていないともいえない。 したがって、無効理由3に関する請求人の主張は、理由がないものであり採用できない。 7.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件発明1乃至本件発明16についての特許を無効にすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-07-31 |
結審通知日 | 2003-08-05 |
審決日 | 2003-08-25 |
出願番号 | 特願平5-297922 |
審決分類 |
P
1
112・
161-
Y
(G11B)
P 1 112・ 113- Y (G11B) P 1 112・ 531- Y (G11B) P 1 112・ 534- Y (G11B) P 1 112・ 121- Y (G11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山田 洋一 |
特許庁審判長 |
麻野 耕一 |
特許庁審判官 |
川上 美秀 張谷 雅人 |
登録日 | 2002-06-07 |
登録番号 | 特許第3315498号(P3315498) |
発明の名称 | 光情報記録媒体、光情報記録媒体の記録層用組成物及び光情報記録媒体の製造方法 |
代理人 | 金田 暢之 |
代理人 | 石橋 政幸 |
代理人 | 金田 暢之 |
代理人 | 宮崎 昭夫 |
代理人 | 伊藤 克博 |
代理人 | 篠田 文雄 |
代理人 | 津国 肇 |
代理人 | 伊藤 克博 |
代理人 | 宮崎 昭夫 |
代理人 | 石橋 政幸 |