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審決分類 審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正しない C08L
管理番号 1092627
審判番号 訂正2002-39147  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-03-19 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-06-27 
確定日 2004-02-26 
事件の表示 特許第3003837号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]請求の要旨
本件審判の請求の要旨は、特許第3003837号発明(平成6年9月7日特許出願、平成11年11月19日設定登録)の明細書を審判請求書に添付した明細書のとおりに訂正しようとするものである。
上記審判請求書に添付した明細書には、設定登録時の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】エチレンとブテン-1の共重合体であり、温度190℃、荷重21600gで測定したメルトインデックスが45g/10分以上、160g/10分以下である直鎖状低密度ポリエチレンと、シラン化合物、有機過酸化物及びシラノール縮合触媒からなることを特徴とする架橋性ポリエチレン組成物。
【請求項2】平均粒径が0.05mm〜2.0mmのグラニュー状直鎖状低密度ポリエチレンを用いたことを特徴とする請求項1記載の架橋性ポリエチレン組成物。
【請求項3】請求項1ないし、請求項2の架橋性ポリエチレン組成物の被覆層を具え、該被覆層が架橋されていることを特徴とする電線、ケーブル。」
を次のとおりに訂正することを含んでいる。
『【請求項1】エチレンとブテン-1の共重合体であり、温度190℃、荷重21600gで測定したメルトインデックスが45g/10分以上、160g/10分以下である直鎖状低密度ポリエチレンとシラン化合物と有機過酸化物とシラノール縮合触媒を成形用押出機に一括または別々に供給し、被覆層を成形した後、水分と接触させて架橋してなる被覆層を具えた電線またはケーブル。
【請求項2】直鎖状低密度ポリエチレンが、平均粒径が0.05mm〜20.mmのグラニュー状直鎖状ポリエチレンである請求項1記載の電線またはケーブル。』

[2]訂正の拒絶の理由及びそれに対する請求人の主張
平成14年8月23日付けで通知した訂正の拒絶の理由は、次のとおりである。
『訂正後における請求項1及び2に記載されている事項により特定される発明が下記刊行物1に記載された発明であると認められるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正は、特許法第126条第4項の規定に適合しない。

刊行物
1.特開昭54-132648号公報
2.特開平5-5972号公報
上記刊行物1、2の記載事項については、先の異議2000-72905号事件の異議の決定に記載した記載事項を参照して下さい。
訂正後の請求項1(以後、請求項1という。)について
請求項1の記載が、「エチレンとブテン-1の共重合体であり、温度190℃、荷重21600gで測定したメルトインデックスが45g/10分以上、160g/10分以下である直鎖状低密度ポリエチレンとシラン化合物と有機過酸化物とシラノール縮合触媒を成形用押出機に一括または別々に供給し、被覆層を成形した後、水分と接触させて架橋してなる被覆層を具えた電線またはケーブル。」と表現することにより、発明とされるものが、被覆層の製造方法を規定した上で(以下、「本件製法要件」という。)、被覆層を具えた電線またはケーブルという構造を規定しているものである。
請求項1に係る発明が、製造方法の発明ではなく、物の発明であることは上記請求項1の記載から明らかである。
請求項1に係る発明が、物の発明である以上、本件製法要件は、物の製造方法の発明の要件として規定されたものではなく、被覆層を具えた電線またはケーブルという物の構成を特定するために規定されたものという以上の意味は有しない。
当該製法要件については、発明の対象となる物の構成を特定するための要件として、どのような意味を有するかという観点から検討して、これを判断する必要があるものの、それ以上に、その製造方法自体としての新規性進歩性等を検討する必要はない。
訂正後の明細書の記載を検討しても、本件製法要件は、請求項1に係る発明の対象となる物の構成、すなわち「被覆層を具えた電線またはケーブル」を特定する上では、被覆層の原材料が限定された物性の直鎖状低密度ポリエチレンであること、及び、被覆層が水分と接触させて架橋してなる点以外には、何らの意味も有しない要件である。
刊行物1には、「1.中圧法又は低圧法によって製造されかつ密度が0.910ないし0.945g/cm3のエチレン-α-オレフィン共重合体(A)を10重量%以上含むポリオレフインを、遊離ラジカル生成化合物の存在下、140℃以上の温度で、シラン化合物と反応させ、次いでこのシラン変性ポリオレフィンをシラノール触媒の存在下、水と接触させることを特徴とするシラン変性架橋ポリオレフィンの製造方法。
2.ポリオレフィンとしてエチレン-α-オレフィン共重合体(A)が単独で用いられる特許請求の範囲第1項記載のシラン変性架橋ポリオレフィンの製造方法。
・・・
7.電線上に適用し、電力ケーブルを形成せしめる特許請求の範囲第1項記載のシラン変性架橋ポリオレフィンの製造方法。」(昭和56年3月16日発行の昭和55年12月3日付け手続き補正書、特許請求の範囲)と記載され、その上で、前記エチレン-α-オレフィン共重合体(A)として、ネオゼックス2015M(商品名、三井石油化学工業(株)製)を用いる実施例1が示されている(第5頁左上欄下から第6行〜同頁右上欄最終行)。
刊行物2には、L-LDPE樹脂(直鎖状低密度ポリエチレン樹脂の略記)としてエチレン-ブテン-1共重合体樹脂を挙げ、それがネオゼックスという商品名で市販されていることが記載されている(段落【0022】)。
一方、異議2000-72905号事件において、特許異議申立人が提出した小林勝興作製の実験報告書(甲第2号証)は、ネオゼックス2015Mのメルトインデックスの測定結果(試験温度190℃、試験荷重21.60kgf)を、62g/10分としている。
すなわち、上記実験報告書の記載から、ネオゼックス2015Mは、請求項1に規定された直鎖状低密度ポリエチレンに該当するものと認められる。
請求項1に係る発明と刊行物1の発明(特に、実施例1)とを物の構成という点で、対比する。
請求項1の「エチレンとブテン-1の共重合体であり、温度190℃、荷重21600gで測定したメルトインデックスが45g/10分以上、160g/10分以下である直鎖状低密度ポリエチレン」は、刊行物1の「ネオゼックス2015M」を包含するものであり、両者は一致する。
請求項1の「水分と接触させて架橋してなる」は、刊行物1の「シラン変性架橋」と一致する。
結局、上記刊行物1に記載の架橋処理後に得られたケーブルは、請求項1に規定された物の構造としての要件を全て満たすことになるから、請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であると認められる。
訂正後の請求項2(以後、請求項2という。)について
請求項2の規定は、請求項1を引用し、直鎖状低密度ポリエチレンが平均粒径が0.05mm〜2.0mmのグラニュー状直鎖状ポリエチレンと技術的に限定しているが、この限定要件は、「被覆層を具えた電線またはケーブル」の構成として特定する上では、訂正後の明細書の記載(詳細な説明)に何も反映されていない。すなわち、この限定要件は、物の構成として特定する上では、何らの意味も有しない要件である。
したがって、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明と何ら変わるところがなく、請求項2に係る発明は、上記請求項1に係る発明と同一の理由で、刊行物1に記載された発明であるものと判断せざるをえない。
なお、上記判断に当たっては、平成11年(行ケ)第437号 特許異議取消請求事件判決、平成13年(行ケ)第84号 審決取消請求事件判決(両判決は、共に、東京高等裁判所第6民事部、平成14年5月28日口頭弁論終結、平成14年6月11日判決言渡)を参考にした。』
訂正の拒絶の理由に対し、請求人は、次のとおり主張した。
『本件請求項1に係る発明は、「特定の直鎖状低密度ポリエチレン」と「特定の製造方法」とを選択的に組み合わせた点に特徴があり、特定の製造方法にのみ新規性進歩性を主張しているのではない。
特許庁の審査基準によっても、生産物をその製造方法によって特定する請求項は、特許を受けようとする発明を当業者が明確に把握することができる場合には許容されている。
本件発明の場合、「特定の製造方法」を採用した「被覆層を具えた電線またはケーブル」の物性が著しく相違していることは実施例に開示されている実験データから明らかである。
さらに、「特許の対象を当該製造方法に限定して解釈すべき事情が存在する場合には、特許の対象が当該製造方法に限定される場合があり得るというべきである。」とする判決がある〔平成13年2月27日付け、東京地方裁判所、平成12年(ワ)9657号判決〕。

[3]判断
請求人は、請求項1及び2にかかる発明について、「特定の製造方法」が物の構成を特定する旨主張しているが、本件発明の詳細な説明にはそのような説明はないから、この主張は採用しない。
また、請求項1に係る発明について、参考例1と実施例3を対比すると、「特定の製造方法」の採用による効果の差が一応認められるが、実施例3は本件発明の一部にすぎず、この対比では本件発明全体において、「特定の製造方法」が物の構成を特定しているものとすることができない。
請求人が提出した東京地方裁判所判決は、特許侵害事件における特許請求の範囲の解釈に対するものである。一方、本件は、特許請求の範囲(請求項)の訂正の可否にかかるものであるので、本件で参考となるものではない。
したがって、先に通知した理由のとおり請求項1及び2に係る発明は、刊行物1に記載された発明である。
なお、先に示した平成11年(行ケ)第437号 特許異議取消請求事件判決、平成13年(行ケ)第84号 審決取消請求事件判決は、最高裁判所判決〔平成14(行ツ)第205号、平成14(行ツ)第208号、平成14年10月25日〕により確定した。

[4]むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6号第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書きの規定に適合しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
審理終結日 2002-11-11 
結審通知日 2002-11-14 
審決日 2002-11-26 
出願番号 特願平6-240552
審決分類 P 1 41・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三谷 祥子  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 中島 次一
石井 あき子
登録日 1999-11-19 
登録番号 特許第3003837号(P3003837)
発明の名称 架橋性ポリエチレン組成物及び電線、ケーブル  
代理人 西川 繁明  

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