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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1092965
審判番号 不服2002-1378  
総通号数 52 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-08-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-01-25 
確定日 2004-03-08 
事件の表示 平成 8年特許願第 37266号「走査光学装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 9年 8月15日出願公開、特開平 9-211352]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年1月31日に出願された特許出願であって、原審において、平成13年8月24日付で拒絶理由が通知され、これに対し、同年9月18日に手続補正がなされたところ、同年12月21日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成14年1月25日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものであって、その請求項に係る発明は、上記手続補正がなされた明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のものである。

「【請求項1】 独立して発光制御される複数の発光素子から発した光束を偏向器により同時に偏向し、結像光学系により走査対象面上に結像させることにより前記走査対象面上に一回の走査で複数の走査線を形成する走査光学装置において、前記複数の発光素子の発光中心波長の基準波長からの誤差をΔλ(単位nm)、解像度(単位dpi)をDとしたときに、以下の条件、
|Δλ|< 1.8×103/D
を満たすことにより、各発光素子の波長の誤差による倍率色収差の変動量を1ドット径の±30%以内とすることを特徴とする走査光学装置。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平7-258290号(特開平9-76562号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザビームにより画像を書き込む電子写真複写機、レーザビームプリンター等に適用される画像形成装置・・・に関するものである。」
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
・・・複数のレーザビームを同時に走査する場合、主走査方向および副走査方向における相互の位置合わせが非常に困難であるという問題を発生してしまう。半導体レーザの波長は原理的には半導体素材により一義的に決まるものであるが、組成分や結晶系のバラツキ等により僅かな波長の差を発生してしまう。このため、複数のレーザビームにより高精度の画像の書き込みを行なおうとする場合、この僅かな波長のバラツキが画像の書き込みに著しい悪影響を与えてしまう。
【0005】
即ち、複数のレーザビームを同一光学系を通して走査する場合、各種レンズを通過せしめて適正な露光走査を行なう必要がある。然しながら、波長が相違するとレンズを通過する速度が異なってくるため、複数のレーザビームを同様に露光走査すると到達時間が異なってくるため、主走査方向の露光走査の長さが異なり主走査方向の書き込み位置が異なってきて画像ズレを発生してしまう。更に、fθレンズの収差による各レーザビームの屈折率の相違によっても、この主走査方向のズレの現象は増幅されてしまう。この画像のズレは波長差1nm当たり4μmの画像上のズレとなって現れるため、互いに波長にバラツキのある複数のレーザビームを任意に組み合わせた場合、最大でレーザビームの波長の差が30nmにもなり、画像では120μmのズレとなってしまって、画像周縁部に凹凸が発生し、細線の再現性、画像濃度、階調再現性、および解像度等が劣り、高品質の画像を提供できなくなってしまう。
・・・・
【0007】
本発明者等が、画質上の観点からレーザビームの波長の差に関して検討した結果、一般に製作されたレーザビームの波長のバラツキは、30nmの範囲に及んでおり、実用上において高画質であると判定できる画像上のズレは、レーザビームの1ドット径以内のズレである。レーザビームの1ドット径としては、およそ50〜100μmが使用されるためレーザビームの波長の差が12nm以下であれば画像のズレは48μm以下となり、レーザビームの1ドット径である50μmよりも低い値とすることができ、高画質の画像を提供できる。
【0008】
従って、本発明は、複数のレーザビームを使用しても画像ズレを発生せず高画質な画像の書き込みが可能で、画像周縁部に凹凸がなく、細線の再現性、画像濃度、階調再現性、および解像度に優れた高画質の画像を再現できる画像形成装置・・・を提供することを目的とするものである。」
「【0020】
図2において、21A,21Bは画像信号に対応してオン・オフされる半導体レーザと半導体レーザから射出されるレーザビームを平行光に変換するコリメータレンズおよび半導体レーザの出力を監視し常に所定の値を維持するよう印加電流値を制御してその出力を一定に維持する自動出力制御器(APC)を一つにまとめたレーザユニット・・・である。
・・・
【0021】
レーザユニット21A,21Bから射出される2本のレーザビームはポリゴンミラー25によって反射され、fθレンズ26、シリンドリカルレンズ24A,24B、反射ミラー29A〜29Cを介して感光体ドラム31上を走査露光する。このとき、前記レーザビームは副走査方向に近接して並ぶスポット状に結像し、感光体ドラム31上に同時に2本の走査線を描くビーム書き込みが行なわれる。これにより走査線1本置きの画像信号をレーザユニット21A,21Bに同時に入力して1度に2本の走査線を描き、1組のレーザユニットを用いる装置の2倍のプリント速度で画像記録することができる。」
「【0022】
【実施例】
本発明においてはGa-As半導体レーザを使用し、発振波長が765〜795nmに分布する100個のGa-As半導体レーザのロットの中から選別し、表1に示すレーザAおよびレーザBの2個のGa-As半導体レーザを選定して組み合わせ、図2のスキャナを製造した。
【0023】
次に、文字画像および細線画像を原稿として画像形成を行ない、その画質を目視して評価し結果を表1に示した。




【0024】
【表1】
ビームの ビームの主 画 質
波長差 走査のズレ
本発明1 1nm 4μm ◎
本発明2 6nm 24μm ◎
本発明3 12nm 48μm ○
比較例1 14nm 56μm △
比較例2 18nm 72μm ×
比較例3 30nm 120μm ×
【0025】
なお、表1において、◎とは画像周縁部に凹凸がなく、細線の再現性、画像濃度、階調再現性、および解像度等に優れた高品質な画像が得られた非常に良好な場合、○とは画像周縁部に若干の凹凸を有するが、細線の再現性、画像濃度、階調再現性、および解像度等に優れた高品質な画像が得られた良好な場合、△とは画像周縁部に凹凸を有し、細線の再現性、階調再現性、および解像度に劣る場合、×とは画像周縁部に凹凸を有し、細線の再現性、画像濃度、階調再現性、および解像度が著しく劣る画像が得られた不良な場合を意味する。」
が記載されている。
そして、上記段落【0007】、【0022】〜【0025】及び【表1】を参酌すると、上記画像形成装置の実施例のうち、高品質な画像が得られた非常に良好な場合の一つ(上記【表1】の本発明1)が、「レーザビームの1ドット径が50μmであるとき、2本のレーザビームの波長差が1nmであり、それにより生ずるビームの主走査のズレが4μmである画像形成装置」であることは明らかである。

3.対比
そこで、本願発明と先願明細書に記載された発明とを比較すると、先願明細書に記載された発明の「レーザユニット21A,21B」は、画像信号に対応してオン・オフされる半導体レーザと半導体レーザの出力を監視し常に所定の値を維持するよう印加電流値を制御してその出力を一定に維持する自動出力制御器(APC)その他とを一つにまとめたものであり、半導体レーザ毎に独立して設けられているから、本願発明の「独立して発光制御される複数の発光素子」に相当し、同様に「レーザユニット21A,21Bから射出される2本のレーザビームはポリゴンミラー25によって反射され」は、「光束を偏向器により同時に偏向し」に、「fθレンズ26」は、「結像光学系」に、「感光体ドラム31上」は、「走査対象面」に、「感光体ドラム31上に同時に2本の走査線を描くビーム書き込みが行なわれる」は、「一回の走査で複数の走査線を形成する」に、「画像形成装置」は、「走査光学装置」に、それぞれ相当するから、
両者は、
「独立して発光制御される複数の発光素子から発した光束を偏向器により同時に偏向し、結像光学系により走査対象面上に結像させることにより前記走査対象面上に一回の走査で複数の走査線を形成する走査光学装置。」
である点で一致し、次の点で一応相違している。

[形式上の相違点]本願発明は、「複数の発光素子の発光中心波長の基準波長からの誤差をΔλ(単位nm)、解像度(単位dpi)をDとしたときに、以下の条件、
|Δλ|< 1.8×103/D
を満たすことにより、各発光素子の波長の誤差による倍率色収差の変動量を1ドット径の±30%以内とする走査光学装置」であるのに対して、先願明細書に記載されたものは、「レーザビームの1ドット径が50μmであるとき、複数の発光素子のビームの波長差が1nmであり、それによるビームの主走査のズレが4μmである走査光学装置」であるが、これが本願発明の上記条件を満たすものであるか、必ずしも明りょうとはいえない点。

4.判断
そこで、先願明細書に記載の「レーザビームの1ドット径が50μmであるとき、複数の発光素子のビームの波長差が1nmであり、それによるビームの主走査のズレが4μmである走査光学装置」が本願発明の以下の条件、
|Δλ|< 1.8×103/D・・・(1)
を満たすものであるか、以下に検討する。
なお、上記相違点における本願発明の「各発光素子の波長の誤差による倍率色収差の変動量を1ドット径の±30%以内とする」なる条件は、本願明細書の段落【0025】〜【0027】の記載によれば、上記(1)の条件を満足すれば自動的に満たされるものであることは明らかであるので、上記(1)の条件のみを以下に検討する。
先願明細書に記載のもののレーザビームの1ドット径50μmをdpiに換算すると、
25.4×103/50=508dpi (1インチ=25.4×103μmとする)
となり、これを上記(1)式のDに代入すると、
|Δλ|< 1.8×103/508≒3.54nm
となる。他方、先願明細書に記載のものの複数の発光素子のビームの波長差は1nmであるから、上記3.54nmよりも十分小さい値であり、本願発明の条件(1)を満たすことは明らかである。
なお、先願明細書に記載のものの複数の発光素子のビームの波長差は、本願発明の|Δλ|(複数の発光素子の発光中心波長の基準波長からの誤差)と、1対1に対応する値ではないが、通常、ビームの波長差は|Δλ|よりも大きい値を取ると考えるのが技術常識であるから、上記ビームの波長差で比較して条件(1)を満たしていれば、|Δλ|を採用しても条件(1)を満たしていると当然にいうことができる。

したがって、上記相違点は、実質的に先願明細書に記載されている事項であるから、両者は同一である。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-01-14 
結審通知日 2004-01-14 
審決日 2004-01-27 
出願番号 特願平8-37266
審決分類 P 1 8・ 161- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田部 元史  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 町田 光信
山下 崇
発明の名称 走査光学装置  
代理人 松岡 修平  

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